ライフキャリア総研★主筆の部屋

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2004年03月06日
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 先日、20代前半の若い人たちと居酒屋でおしゃべりしていたとき、なぜ、私がライターを志したかという原点(というと大げさだけれども)を思い出した。

 単純な憧れだった。

 最初の出会いは高校生のころだったと思う。アメリカ映画でタイプライターが出てくるシーンを見ると、なんだか胸がざわざわした。

 ウォーターゲート事件を描いた「大統領の陰謀」では、新聞記者コンビを演じたダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードが情熱的に叩いていた。

「ジュリア」では劇作家リリアン・ヘルマンを演じたジェーン・フォンダが、魔物にとりつかれたような鬼気迫る表情で、くわえ煙草して叩いていた。思うように書けなくてヒステリーを起こし、窓からタイプライターを放り出すシーンは、最高にカッコ良かった!

「ハメット」では、ハードボイルド小説の巨人、ダシール・ハメットを演じたフレデリック・フォレストが、陰鬱な表情で、しかし、これをしなければ自分は生きていけないというように、やはり何かに魅入られたかのように背中を丸めてタイプライターと一体になっていた。

「ソフィーの選択」では、作家志望の若者ピーター・マクニコルが、ユダヤ人強制収容所帰りで頭のイカレたケビン・クラインに「お前はフォークナーやキラ星のような大作家たちの系譜に続く、選ばれし者だ」とそそのかされ、自分の可能性を信じてひたすらタイプライターに向かう。

 ケビン・クラインがライトアップされた吊り橋によじのぼり、未来の大作家を祝福して夜空にシャンペン・グラスを掲げるシーンの、なんと美しかったこと!ブルックリン橋の上空をだんだん上がっていく空撮のカメラからのパノラマ……

 新聞記者でも劇作家でも小説家でもなんでもいいから、とにかく私は「タイプライターをカッコよく叩く人」になりたかったのだ。



 タイプライターの練習に使ったのは、サイデンステッカーが英訳した「源氏物語」だった。

 そう、私をそそのかしてくれる頭のイカれた人物は存在しなかったが、自分的には勝手に紫式部から続く女流作家の系譜の末端につく日のことを夢見ていたのだった。

 手動式タイプライターだなんて、もはや博物館の展示物かもしれない。ああ、あの指の感触が懐かしい。端っこまできたときの「チン!」という音。そして、最後の行まで打ち終わった紙を引き抜くときの、「ジジジー」という音! 自在に操れたとき、至福の喜びを与えてくれる道具だ。

 私の指は円錐形をしていて先が細いので、小指などはキーとキーの間の狭いすき間によく挟まったものだった。パソコンのキーボードをローマ字入力で打っている人はご存知だと思うが、“a”や“s”といったよく使われる文字が小指の位置にあるので、小指ちゃんは大活躍なのだ。

 夢がかなって、私は毎日のようにキーボードを打って文章を書く人になった。キータッチのスピードは電光石火!もちろん、ブラインド・タッチだ。結構、カッコいいと自惚れている。

 でも、パソコンのキーをカッコよく叩ける人なんて、いまどき珍しくもなんともない。私の夢は陳腐化してしまった。

 その先の壮大な夢に、手を伸ばし続けなくては。





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最終更新日  2004年03月06日 15時18分34秒


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