お散歩 。。。 0
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にほんブログ村 さ~あ、やってきました、みなさんお待ちかね、初笑いの日。 それでは、今年もわろてんか!!! アレと聞いて優勝を頭に浮かべるのが18歳、 コレ?と応えるのが81歳。 選挙権がありながら投票に行かないのが18歳、 行きたくても体調不良で行けないのが81歳。 スキでキスをするのが18歳、 スキでキんスを盗られるのが81歳。 何を食べたいかと言うのが18歳、 何を食べたかと聞くのが81歳。 目をつむるとバラ色の夢が18歳、 目をつむるとあの世へ行くのが81歳。 いびきが煩いのが18歳、いびきは生存確認の81歳。 あいうえおが18歳、いろはにほへとが81歳。 寝スマが18歳、寝マスは81歳。 買いたいものがあるけど金がないのが18歳、 お金はあるけど買いたいものがないのが81歳。 18歳がクリスマスと言えば、クルマイスと聞こえるのが81歳。 カッサータが何であるかがわかるのが18歳、 何をカッタノサーと聞くのが81歳。 昨年度2023年の作品は・・・ 運転免許取り立てで怖いのが18歳、 運転免許を持っていても、もっと怖いのが81歳。 冬の皮下脂肪を気にする18歳、 夏の日下死亡が気になる81歳。 面白いものがないかとふらふら歩くのが18歳、 歩くだけでふらふらするのが81歳。 ベンツに乗りたい18歳、 ベンツうがこないのが81歳。 同じ台詞だとわかりながら言うのが18歳、 同じ台詞だと言わなければわからないのが81歳。 夜遊びで帰ってくるのが18歳、 夜の徘徊で帰されるのが81歳。 音漏れでうるさいのが18歳、 尿漏れでくさいのが81歳。 テントウムシのサンバが18歳、 転倒主の三婆が81歳。 最中をさいちゅうと読むのが18歳、 もなかと読めるのが81歳。 インスタはSNSが18歳 インスタはコーヒーなのが81歳 手をつなぐのは愛の証が18歳 転倒防止の為が81歳 さて、あなたの今年一押し( 身につまされた? )の作品は、どれですか? 一番多かった作品を、バカボン大将(大賞)としたいと思います。 受賞したからって、なんの意味もありませんが・・ 日本ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2024.01.03
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にほんブログ村 < 愛の流転 >第一部・第二部と、お楽しみ戴けましたでしょうか? 第一部は言ってみれば大人のラブストーリー。第二部は一部のヒロイン、 武田冴子( 旧姓 泉冴子 ) の子供たちの生きざまを、ワールドワイド のスケールで書き上げた、ハードボイルドタッチ。 冴子がモト夫武田伸治に、惨殺されてしまうところで、一部は終わりました。 その場に居合わせた梨華、日本に残された桃華、この幼い二人はその後 どうなるのだろうか?と、思われた読者も少なくなかったのでは・・・・ 泉梨華を国際的ピアニスト、そして武田桃華を外事警察員という形で、対立軸に しました。 自分は母に捨てられたとの桃華の誤解に基づく、梨華に対する憎悪が心の襞に からんで、二部の物語は進行していきます。 途中からトミーという男が登場し、彼の正体はなんやねん?と思われた方も。 しかしウイーンでのコンサート会場でトミーが感じた、梨華と共有した孤独感や 同じ揺りかごの中で育ったという懐かしさという表現で、作者は梨華との関係を 示唆しました。 梨華、桃華、そしてトミーが、それぞれ各章で点として描かれます。 トミーは黒田と冴子の子、すなわち梨華と桃華にとっては異父弟。その 三者の糸が、ワシントンでの大統領主催園遊会の場で、つながります。 しかし、トミーが梨華を、桃華もスワットの一員としてトーミー射殺という、 その異父姉弟間の悲劇。 なんとも救いようのない、エンデイングでは、あ~~~りませんか!!!! 五洋商事社長大門は、ニューヨーク支社長飛鷹にすべての罪をなすりつけ、 阿武総理の政治力を利用して今回の事件を、飛鷹個人の犯罪として闇に 葬ったわけです。 検察の正義も要は政治と金の前では無力であるという、現在の日本の状況と 酷似していませんか? 舞台がロンドン、ニューヨーク・ウイーン・ドバイ・イラク、ワシントンなどと 目まぐるしく変わりました。そこに多くの人物が登場しました。 作者としては、伏線を描き乍らそれが最終的には、世界同時多発テロと いう点に集約されるという、プロットを頭に描き乍ら物語を進めている わけです。意味もなくあちこちに、飛んでいるわけではおまへん。 第一部・第二部共に、ハッピーエンドにしなかった、そしてできません でした。 ハリウッド映画の大半がハッピーエンドであるのに対し、ヨーロッパの映画は 余韻を残すというか、視聴者の心に何か訴えるもので終わるものが多くみられ ます。皇子は、個人的に後者の方が好きで、その嗜好が創作小説にも現れたの かもしれませんね。 それと、この原作を書いたのは 2011・3・11、東日本大震災そして 福島原発事故を、郡山で経験した時なのです。あの時テレビから毎日流れる 映像は、この世のものとは思えないものでした。 また皇子自身、食料・飲料水不足など、日常生活維持に困難な状況に追い込まれて いました。ガソリンもなく通勤は出来ず、一方で時間はありあまるほど ありました。 かような精神的にいたたまれない状況下、この悲しみと怒りを何処にぶつけたら いいのかわからない中で、本作品を一気に書き上げたものでした。 2012年にブログで公開、そして2014年さらに補筆、画像・映像を添付して、 ヴァージョン・アップしました。 今読んでみても面白く、よ~~こんなものが書けたものだと、自分自身を褒めて あげたい。 次の作品を何か考えろといわれても、皇子はプロの作家ではないのでね・・・ あの当時のような小説創作意欲、そして想像力・創造力は残念ながら、 全くおまへん。 毎日のブログ更新でも、ヒ~~ヒ~~言っているのですから・・・ つ~~わけで、長らくのお付き合いに、感謝して・・・・ 終わりだよ~~~~!! みんな、あんがとね~~~~!!! ==ほんまに、おちまいのだ、ワン== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.08
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にほんブログ村 最終章 スペインマドリッド市内の列車爆破事件は、191人が死亡・2000人以上が負傷する 大惨事となった。主犯格のアンドレは未だ逃走中で、捕まっていない。 イラクでのアルカイダは、闇に乗じた急襲だったので、初めは有利に戦いを進めて いた。しかし、国連軍が戦闘ヘリ・アパッチを投入すると、形勢が逆転。三分の二 以上の兵を失って、この戦いが失敗に終わったことを、ビンラデインは知ら された。右腕のハッサンも、銃撃を受けて死亡。 そんな同時多発テロから、2ケ月が経とうとしているある日の事。 五洋商事大阪本社。 検察庁特別捜査部と国税局の、合同立ち入り査察が入った。外国為替及び外国 貿易法 ならびに 銃刀法違反、そして脱税の容疑である。 既に大門社長は、任意で取り調べ中であった。 マスコミからの取材に対し、今回一連の不祥事は飛鷹ニューヨーク支社長、個人の 判断でなされたもので、彼の越権行為ならびに職権乱用によるものである。 すなわち、大門及び五洋商事は、本件に一切関与しておらず、全く無実であると 弁護士を通じて発表した。 特捜も、予てから黒い噂があった五洋商事の内偵を、3年前から進めていた。 また、今回の同時多発テロに関し、アンドレと五洋商事の銃火器不法取引詳細に ついて、公安外事第三課及びアメリカCIA から、関係書類の提出を受けている。 検察としては、これらの証拠をもって、五洋商事並びに大門を組織がらみの 犯罪として、起訴から有罪判決へ持ち込めると誰もが確信していた。 ところが数日後、< 飛鷹個人の犯罪として、処理せよ >との指示が、検察庁 長官から関係各庁に出された。 裏で阿武総理の政治的圧力が、あったことは明らかである。 東京のサントリーホール。 泉梨華追悼コンサートが、小沢征爾指揮の下ニューヨークフィルによって、 しめやかに 執り行われた。 ニューヨークフィルの来日は、アメリカ全国民の哀悼の意として、ゴードン大統領 の働きかけで、実現したものであった。大統領の弔辞を、キャンベル駐日大使が 代読した。( 自由と正義を守るアメリカは、いかなるテロにも屈しないことを、ここに改めて 宣言する。そして、その自由と正義を守る者の一人として、テロの犠牲になった 泉梨華に対し、世界の総ての音楽愛好家と共に、アメリカ大統領並び国民は、 心より哀悼の意を表する。 ) との言葉で、締めくくられた。 花で飾られた壇上に、寂しげな笑みをたたえる、梨華のポートレートが、 掲げられている。 梨華がピアノを演奏するビデオ映像が流され、ショパンピアノ協奏曲第一番が、 エフゲニー・キーシンによって演奏された。 メランコリックで抒情的な曲もあって、会場からは多くのすすり泣きがもれた。 参列者の中に、札幌の叔母夫婦と共に喪服姿の桃華もいた。 血を分けた妹である梨華の死が現実のものとなり、姉妹としての愛をなぜ生前に、 分かち合えなかったのかと、初めて後悔の念に苛まれたのであった。 梨華の華やかな生きざまに、嫉妬し反発する気持ちをばねに、桃華は外事警察と いう男性社会において、これまで頑張ってこれたのだから。 でも、その対象の梨華がいまや、この世の中から消えてしまった。 また、権力の座にある悪が正義を葬るという、現実の深い闇を思い知らされ、 桃華にはやるせない思いしかなかった。これからは、何を心の支えとして、 生きていけばいいのかと・・・ そして、ライフルのスコープから垣間見たトーミーの顔が、澱のごとく桃華の 心の中に、 なぜか今でも残っている。 会場の外では、初冬の氷雨が降り頻る。 まるで我が子、梨華とトミーの死を嘆き悲しむ、冴子の涙のごとく・・・ == 完 == 日本ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.07
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にほんブログ村 第十五章 大門を飛行場まで送り届けると、飛鷹は社長の言葉を反芻していた。 梨華との関係が大門の耳に入っているとしたら、反飛鷹派のタレコミに違いない。 副社長の座を巡って欧州管轄の担当役員小林と、熾烈なマッチレースになって いたから・・銅取引をめぐる巨額の損失を、ロンドン支社が隠しているとの情報を 得ていたので、これを小林降ろしに使えばいいと考えた。 飛鷹は自宅に戻り、園遊会で演奏している梨華の、テレビ中継を見ていた。 ショパンのノクターンの中では、もの悲しい旋律が随所に散りばめられている、 むしろ第二十番の方が梨華のイメージに、相応しいのではないかと思いながら。 梨華が惨殺された映像が、飛鷹の目に飛び込んできた時には、何が起きたのか一瞬 わからなかった。 ( OH~~~ MY GOD! ) 悲鳴と共に、会場から脱出しようとして逃げ惑う人々の映像。 画面は現場からすぐスタジオに戻された。アナウンサーや同席している コメンテーターの、当惑と混乱の話が続いた。 そして再び現場の映像へと・・・ やがて、バクダットでビンラデインの国連軍基地への急襲、マドリードで通勤 電車内爆弾テロ勃発、というテロップが流れた。この時に、飛鷹は眼前でいま 起きた惨事が、世界規模同時多発テロ事件という、一連の流れの中の出来ごとで あると、知らされたのであった。 しかも、このテロ事件武器調達に、ここ数カ月五洋商事が深く、関与していた ことを。 営利目的の不法行為について、飛鷹はこれまで心の痛みを、全く感じ なかった。 しかし、自分が調達した武器によって、最愛の梨華を奪われるという因果応報に、 胸をかきむしられる悲しみと後悔に、襲われたのであった。 翌朝、ニューヨークタイムズの一面。 大統領暗殺未遂事件が、トップで大きく掲載され、この記事で総て占められて いた。 < ゴードン大統領暗殺未遂 世界同時多発テロ勃発 国際的ピアニスト 泉梨華 身代わりの死 > 悲劇のヒロインとして哀悼記事が、著名指揮者たちのコメントなどを添えて、 書かれていた。その中でも主幹論説委員の、下記の記事が秀逸である。 < もし大統領が暗殺されたら、それは米国の威厳を損なうことになるかも しれない。しかし、自由主義体制を根幹から崩壊させる事にはならない。 大統領など所詮カーニバルの射的場に飾られている人形。選挙で打ち落と されても、また新たな人形をそこに飾ればいいだけの話である。 むしろ、天才的ピアニスト、現代における音楽界の至宝、ともいうべき 泉梨華を失った方が、世界の人々に与えた衝撃は大きく悲しみも深い。 その意味でテロリストの目的は、残念ながら結果的に達成したと、言わざるを えないのではないか?!・・・・ > しかし、被害者梨華と加害者トミーが、異父姉弟である事、そしてトミーの銃撃に SWAT の一員として桃華も加わっていた事は、誰一人知るよしもない・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.06
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にほんブログ村 第十四章 バレット M82、長距離狙撃用ライフル。 2キロ先の人間を狙撃出来る、射的距離をもっている。 ゴードン大統領の側頭部に、照準は定められていた。しかし、演奏しながら体を 左右に揺らす梨華が、時折スコープを横切る。 トミーは、引きがねに指を添えたまま、その都度躊躇せざるを得ない。 ( 梨華、どけっ!! ) 視野に美しい横顔が、入ってくる度に、自動焦点が微調整を行う。 もう、時間がない。トミーは、腕時計を見た。 大統領の顔をスコープが捉えた瞬間、引きがねを引いた。 時をおなじくして、大統領官邸の屋上から放たれた、閃光が見えた。 トミーは、何が起きたのか、わからなかった。血しぶきと共に弾丸が、みずからの 体を貫通したのを感じた。その場にトミーは、崩れ落ちるように倒れた。 ショパンの夜想曲、第二番変ホ長調。 右手は装飾音で飾られた旋律を詠い、左手は同じリズムの旋律が繰り返される。 ノクターンを弾きながら、梨華はなぜか母冴子の事を想い出していた。 ( 梨華ちゃん・・・ママはロンドンにいる好きな人に、これから逢いにいくの。) そして機中での母の楽しそうな、美しく輝いていた顔を。 ( 黒さん、とうとう来ちゃったよ。それも、2・5人で・・ ) と、せりあがった腹をさしながら、嬉しそうに言った母のその言葉を。 やはり、母にとって愛した唯一の男は、黒田だったのかもしれない。 音楽を友として、これまで頑張ってきた梨華の人生。 いま心の中に潜む飛鷹への想いは、母の黒田への愛と同じものなのだろうか? 成就できなかった冴子の愛が、流転輪廻として生死の迷界を彷徨い、もしかしたら 梨華の魂に引き継がれているのかもしれなかった。 フォルテシモへ体をずらせた瞬間、弾丸が梨華の頭部を吹き飛ばした。 会場に悲鳴とどよめきが、一斉にあがった。 そして、弾丸が発射されたビル目がけ、銃口が一斉に火を吹いた。 ホワイトハウスの屋上に配備されていた、スワットから。 トミーに向けて引鉄をひいた中に、武田桃華もいた。 利華の脳漿が、風に舞う桜の花のごとく、周囲に飛散した。 大統領暗殺という、テロリストの企ては、穏やかな午後に儚く消えた。 そして、カテリーナと共に余生を過ごすという、トミーの夢も・・・ 梨華の命と共に・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.05
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にほんブログ村 第十三章 スペイン、マドリード。 朝靄がたなびくマヨール広場に、アンドレ・ニコライエフはひとり佇んでいた。 時計台の時刻を気にしながら。 既に、配下の者を通じ、郊外からマドリードに乗り入れる、通勤快速電車に、 時限爆弾を仕掛けていた。網棚に置かれたナップザックには、殺傷を高める為の 金属物とプラスチック爆弾が、起爆装置と共に入っている。 予定の時間が、刻々と迫っていた。 トミーが実行する暗殺計画も、併せて首尾よく運ぶことを、アンドレは改めて神に 祈った。思えば、今ではトミーを実の息子のように愛しており、なんとか彼だけは 無事に、帰還して欲しかった。 アメリカに発つ前、トミーは大事な話があると、アンドレに言った。 なんの事かと思えば、カテリーナという恋人が出来、結婚を考えていると 恥ずかしげにトミーは、打ち明けたのだった。 そういえば、ウイーンから戻ってきたトミーは、なぜかいつも生き生きとして いて、従来の暗い影から逃れたような、表情をよくみせていた。 死と隣り合わせの日々で家族をもつということは、現世に未練の種を残しかねず、 決して薦められることではない。でも、トミーの出生の秘密を考えれば、家族と 過ごす幸せというものを、味合わせてもいいのではないかと、アンドレは思い 直したのであった。 もちろん出生の秘密は、いまだトミーに話してはなかった。 不倫のトラブルで、身重の母親は元の夫に刺殺され、緊急帝王切開で辛うじて、 トミーだけが一命を得たという。日本から身元引受人がでなかっただけに、私生児 として孤児院に預けられ、幼少期はそこで過ごしたのであった。 しかし、物心がつく年頃に、トミーは孤児院を脱走し、アンドレの所に転がり 込んできたのだった。頭脳明晰なトミーが、アンドレから全ての事を学びとる のに、多くの時間は要しなかった。 当時、武装闘争によって、アイルランドを統治する単一国家を建国すべく、 アンドレは IRA 暫定派を統率していた、幹部の一人であった。 アンドレの下で実戦を重ねる事により、トミーが銃火器のエキスパートである 事は、衆目の一致するところである。 しかし、IRA 暫定派そのものが、2005年全面的な武装解除と平和的手段に 戦略を 転向させたことから、アンドレは孤立し、国際的テロ集団との関係を持つ ようになった。 今回の仕事を最後にし、闇の世界からトミーには足を洗わせよう。そして、 カテリーナと所帯を持たせ、マルタ島で果樹園を二人でやらせてみたらいいかも。 地中海性の温暖な気候も、最近神経痛で悩まされているアンドレには、合って いるかもしれなかった。 聞くところによると、あの狭いマルタ島には人口の倍以上、70万匹の猫がいる そうだ。猫好きのアンドレにとって、これも魅力であった。二人の間に生まれる 子供は、自分にとっては可愛い孫である。 孫をあやしながら、ロッキング・チェアーに座っている自分を想像し、アンドレは 微笑んだ。 広場にチャイムが鳴り響き、時計台がその時を告げた。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.04
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にほんブログ村 第十二章 ここはイラク。 戦闘準備は、すべて完了。オサマ・ビンラデインは、手元の時計を見た。 ワシントンでの計画と時を同じくして、バクダッドの国連軍基地を襲撃し、 フセイン元大統領を奪還する運びとなっていた。フセインの反米・反ユダヤ主義 と、アルカイダの思想は通じるところがあり、ビンラデインは親交を深めていた。 特に、1991年湾岸戦争が勃発し、イスラム教徒の聖地ともいうべき、メッカと マデイナを領有する母国サウデイアラビアが、アメリカ軍を常駐させた事に 対して、激しい憤怒をビンラデインはおぼえたのだった。 自由主義体制諸国は貧富の差が激しくなり、現体制に不満を持っている若者が 増えている。彼らをリクールトして洗脳することによって、国際的な義勇軍も育成 強化されてきた。 イラクを中核にし中東全体を支配下におくことで、究極はイスラム国の建国を ビンラデイン は頭に描いていたのだった。その宗主としてフセインを迎え入れる 為、この奪還作戦は成功させなければならない。 ナイターゴグールを着けた、部下達がじりじりと基地に迫る。 ( インシャラー !! ) とのビンラデインの掛け声と共に、ミサイルが一斉に基地へと発射された。 着弾と共に、花火のごとく真っ赤な炎が、闇を裂いた。歓声があがり、自動小銃を 乱射しながら、部下達が次々と基地へと突入。 ( 帝国主義、アメリカに鉄槌を!!吾々の勝利に、アラーの神の 御加護を !! ) ビンラデインは、漆黒の闇に向かって、吠えまくったのだった。 場面は変わって、アメリカ、ワシントンD・C。 トミーは、腕時計の針を見た。 セットしたスコープの中では、上流階級にしか許されぬ、光景が展開されていた。 着飾った紳士・淑女が、シャンペングラスをかかげながら、なごやかに談笑して いる。 トミーのこれまでの生涯とは、まったく無縁の世界・・・・ その日のパンを得る為盗みなどすることは、日常茶飯事の幼少期であった。 アンドレと逢って日々の糧に困ることはなくなったものの、血で血を争う武力闘争 に毎日明け暮れていた。 同じ人間でありながら、なぜかような特権階級が生まれるのか?!トミーは言い 知れぬ怒りを感じたのであった。 決行の時間まで、あと 5分。 口にくわえた、マルボーロを噛み締め、トミーは息を整え始める。再びスコープを 覗き、目標物に照準を合わせた時、トミーは驚いた。あの梨華が、優雅にピアノ 演奏しているではないか! どうして、梨華がここにいるのだ・・・ トーミーには、園遊会での決行時刻だけで、出席者などの詳細は知らされて いない。 赤いドレスの肩紐の側に、ほくろがある。トミーと、同じ位置に。ウイーン演奏会 での < 孤独と虚無感 >の共有、そしてほくろの位置など、梨華との言い知れぬ 因縁を感じたのだった。 でも、それがなんであるのかは、トミーにはわからない。 決行まで、あと1分・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.03
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にほんブログ村 第十一章 アメリカ、ワシントンDC。 1790年、議会と国事を執り行う場所として、アメリカ議会により創設された < 特別行政区 >である。アメリカの首都として、初代大統領に敬意を表し、 <ワシントン>と命名された。 梨華は、ホワイトハウスで開催される、秋の園遊会での奏者として招聘されて いた。 アメリカでの交響楽団との共演といえば、ニューヨーク、シカゴ、 サンフランシスコだったので、ワシントンを訪れるのは、今回初めてである。 その後、桃華から幾度となく電話があったが、梨華が出ることは一切なかった。 桃華の言った通り、五洋商事がテロリストの武器供給窓口で、飛鷹がその総責任者 だとしても、それは自分とは無関係なこと。梨華にとって飛鷹とは、逢えた時に 過ごした時間と想い出が、全てであったから。 もし、桃華の話が事実であるとしても、それは官憲が自らの力でその悪をあばき、 そして法によって彼を裁けばいい。所詮、人間の愛などうたかたなものであり、 この世に不変なものなど存在などしない。唯一あるとすれば、それは梨華が こよなく愛する、クラシック音楽だけなのだと。 White House 用途 大統領官邸 延床面積 5100 m² 階数 地上3階、地下1階 着工 1792年 竣工 1800年 園遊会当日は、秋晴れの爽やか天候に恵まれた。 ホワイトハウスは、大統領公邸の<レジデンス>、アメリカ政府の中枢である <ウェストウイング>、そしてファーストレデイーのオフイスである<イースト ウイング>で構成されている。 レジデンスとイーストウイングに囲まれた中庭を、<ジャクリーヌ・ケネデイー・ ガーデン>と称する。重要な法律の調印式が行われるが、園遊会もここで開催 された。 ゴードン大統領夫妻主催として、各国の在米大使・国内外の政財界要人が、招待 されている。 再来年の大統領選挙を前にし、支持率が低迷している現況を打破する為、ゴードン の人気とり施策の一つでもあった。特に、中間選挙で共和党が勝利を納め、民主党 のゴードンとしては議会対策に、頭を悩ます日々が続いていたので・・・ 梨華のピアノソロ演奏は、園遊会プログラムの最終に予定されており、今回の メインイヴェントである。参列者の誰もが、ゴードンより梨華に逢えることを、 期待していたのだった。 歓談の花が咲いている中に、五洋商事大門社長と飛鷹の姿があった。 二人は、今回欠席しているGE会長と商談が入っていることから、園遊会を中座 した。 ホワイトハウスを離れる車中で、大門がぼそっと呟いた。 ( ところで飛鷹君、次の取締役会で副社長に、君を推薦しようと考えておるんや。 でもいろいろと、いうやつもおってな・・・いろごとは、いいかげんに しとき!! ) ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.02
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にほんブログ村 第十章 ニューヨークは出張で幾度となく訪れたが、そこで生活する事はまた意味が違う。 桃華にとって、なにもかもが新鮮で毎日が楽しかった。 東京のような雑踏と喧騒に 包まれた街だけに、異邦人としての寂しさも感じられず、むしろ街の持つエネルギー に圧倒されていた。 週末になると、セントラルパークでジョギングした後で、遅い朝食をとるのが 習慣となっていた。何処を歩いても、公園の緑と周囲の建物が絵葉書のような、 美しさをもって見える。 園内には、動物園・スケートリンク・自然保護区・湖などがあって、一日居ても 飽きなかった。 桃華は射撃の腕をかわれ、SWAT の一員としての訓練を受けた。 SWAT ( SPECIAL WEAPONS AND TACTICS ) は特殊火器戦術部隊であり、 狙撃銃としてのライフルはレミントンM700、M24などのボルト・アクション が 主であった。SWATのメンバーは、警察官の頑強な男達で、桃華の2~3倍も ある体格をしている。 テロ行為がどうも近々、アメリカで行われる可能性があると。 日本の外事三課に問い合わせてみたが、彼等は情報を全く掴んでいない。 CIA内部では、日毎緊張感が高まっていた。 そんな時、 ( 桃華、相談があるのだが・・・ ) と、ブラウンに呼びだされた。 彼の話では、五洋商事のニューヨーク支社が、テロリスト向けの火器・銃器の 受け渡し窓口になっており、その支社長飛鷹の情婦が梨華であると。 ( 桃華は、確か梨華の姉さんですよね。シカゴ交響曲楽団との共演で、彼女は 今アメリカにいる。なんとか、彼女と接触して、この情報の物的証拠をとる ように、依頼してくれませんか? ) 今更との思いが先だったものの、これで武器ルートが潰せるとの、ブラウンの 説得が功を奏した。梨華の滞在している、フォーシズンホテルへと桃花は向った。 ロービーにいる、梨華はひと目でわかった。 ( あっ、おねえちゃん~ !! ) 梨華も桃華を見つけ、手を振って駆け寄ってきた。 しかし、桃華の心の中のわだかまりが、なぜか素直にその声に応えることが 出来ない。ぎこちなく挨拶を交わし、早速本題に入った。 桃華の話を静かに、最後まで聞いていた梨華は、 ( 私はずっと、おねえちゃんに逢いたいと思っていたのよ。でも叔母さんが、 逢わない方がいいと、いつも言っていた。そんなに自分が嫌われているのかと、 すごく悲しかったの。 だから、おねえちゃんが、逢いたいと電話してきた時、嬉しくてしょうが なかった・・・ でも、こんなことでしか、私に逢いにこないわけね。 ) ( こんなこと?! 何言っているよ、テロを根絶する為の、正義の戦い でしょう! ) ( 結論からいうね。はっきりお断りします。飛鷹が何をしてようが、関係 ないわ。彼が、私にとって大事な人だということ以外。その人を貶めるような ことに、なぜ私が手を貸せるわけ~?!) ( 何を、馬鹿なこと言って・・貴方は単に、飛鷹の愛人に過ぎない でしょうが!!) ( あのね・・最近、やっとママの気持ちがわかったの。自分の心のままに、 愛のままに生きるということは、この世の中では確かに難しいわ。でも、 それをなしとげたママは、すごいと思うの。 ) ( パパをあんな形に追いやって・・そして、私たちまで、バラバラにして。 そんな自分勝手な、母親なんて・・・・ ) ( 違うわね。ママはママの人生、私たちは私たちの人生。だから、どんな状況に おいても周囲に惑わされず、自分を貫いて生きていくことが、大事じゃないの かしら?! ) お役に立てなくてごめんねとの言葉でしめくくり、梨華はその場を立ち去った。 怒りと憎しみにたぎった桃華の視線を、背中に受けながら・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.12.01
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にほんブログ村 第九章 港区のとあるマンション。 日本での生活が営まれる処で、防音壁に囲まれたピアノの練習室を兼ね備えて いた。 ウイーンから戻った梨華は、次のコンサートにむけてチャイコフスキーの ピアノ協奏曲を、弾いている。ふと指をとめた梨華は窓辺をみやった。 ニューヨークの摩天楼に比しては寂しい限りだが、東京タワーの灯りがなぜか ほっこりと心に浸みた。そして、指は鍵盤をなぞり、このような メロデイーが・・・・ ピアノがすべてであった梨華の心に、忍び込んできたのは飛鷹への想いであった。 パーテイーで飲んだワインの酔いもあったのだろう。でも初めて抱かれた時、 これまでの男とは全くちがうものを感じた。 繊細な心遣いと裏腹に、熾烈なビジネス界で戦う、野性味溢れる男くささを・・・ 世界を駆け回って演奏を続ける梨華と、ニューヨークで多忙を極める飛鷹とが 逢えることは、それほど多くはない。逢えたその時を楽しむというドライな考え方 が、逢瀬を重ねるごとに離れていても飛鷹のことを、あれこれ思いをめぐらす ようになっていた。 結婚し家庭をもつことが自由な恋愛を束縛し、奈落への道につながる結末になる 事を、冴子の死 から梨華は教えられた。これまで多くの男達からプロポーズ されたが、梨華が首をたてに振ることは決してなかった。 でも、飛鷹からそうされたら・・・ いやいや、そんなことはありえるはずがない・・・ 今度は、シカゴ交響楽団との共演である。 アメリカの五大オーケストラの一つに数えられるが、1969年ショルテイが 音楽監督に就任して以来、世界的にも有名になり第 2 黄金時代を築き上げたと 言われている。 演目は梨華の希望通り、チャイコフスキーピアノ協奏曲第1番で、指揮は第10代 音楽監督のリカルド・ムーテイ。 この曲は、1874年チャイコフスキーが作曲し、モスクワ音楽院院長のニコライ・ ルービンシュタインに聴いてもらったところ、酷評を受けたピアノの弾き手に とっても難曲である。伝統的なスタイルとはかけ離れているが、随所に魅力的な 旋律や斬新な工夫が見られる。 マルタ・アルゲリッチの再来と、音楽界では言われている梨華には、この曲に 思い入れがあった。それは、1994年ベルリン・フィルと彼女が共演し、縦横無尽 自在に弾いたその奔放を極め絢爛たるテクニックに、感動を覚えたのであった。 アルゲリッチを超えるみずみずしいタッチの演奏が、はたして梨華に出来るか どうか、彼女自身の挑戦でもあったのだった。 8 時間以上ピアノに向かって疲れはてた梨華は、ふと外の空気を吸いたくなった。 路地裏に赤提灯の居酒屋がある。時々顔をだすので、亭主とは顔なじみである。 ( 梨華ちゃん、らっしゃ~~い!! ) 焼き鳥の香ばしい匂いとともに、威勢のよい声が梨華を迎えた。 居酒屋には相応しくないその容姿に、カウンターの酔客の目が一斉に注がれた。 でも、国際的なピアニスト武田梨華であることに、気づくものはいなかった。 ( いつも通りぬるめの燗で、お願いね・・・ ) ( あいよ!!! ) 店内には八代亜紀の舟唄が流れている。 (^^♪ お酒はぬるめの燗がいい~~~ 肴はあぶったイカでいい~~~ (^^♪ 女は無口な人がいい~~~~、か・・・・ 梨華はポツリとつぶやいた。 ニューヨークの居酒屋で一人演歌を聴きながら、飛鷹も望郷の念にかられている のだろうか・・ シカゴでの演奏会終了次第、飛鷹に逢いに行こう・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.30
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にほんブログ村 第八章 機内に流れる<美しく青きドナウ>の曲と共に、オーストリア航空機は駐機場へと ゆっくり進む。このワルツは、ヨハン・シュトラウス2世によって、1867年に作曲 された。オーストリアでは< 第二の国歌 >として、誰からも親しまれている ものである。 ヴィエナ空港(ウイーンのドイツ語読み)で BMWをレンタカーし、トミーは市内 中心部へと向かった。 養父アンドレ・ニコライエフ以外、心を許せる人間がいない彼にとって、同じ ように両親を亡くし、天涯孤独であるカテリーナと、関係が次第に深くなって いったのは、当然の流れであったのかもしれない。 クリスマス・マーケットで知り合ったその晩の抱擁が、若い二人の愛を確かな ものにしたのも、また事実であった。 カテリーナに、未だ絶頂感は訪れはしなかったが、朝がくるまでお互いを激しく 求め合った。窓辺から差し込む朝日の中で、トミーに体を預け寝息をたてる彼女 を見ていると、彼の乾ききった心に幸せと安らぎが、いつも訪れるのであった。 ウイーンの街中は、泉梨華とウイーンフィルの初共演の噂でもちきりである。 梨華の憂いをたたえた美しさ、そして長い黒髪を乱しての演奏が、東洋の神秘と して異国の人々を、恒に魅了したのだった。 また聴く者の胸をどきどきさせるルバートの妙、ため息のでるような ピアニッシモ、音色の無限の変化、その自由自在な演奏に対し、多くの音楽評論家 達が絶賛した。 カテリーナはクラシックに造詣が深く、ピアノ協奏曲の中でも慣例に反し、 第一楽章がピアノの独奏で始まる、ヴェートーベンの5番をこよなく愛していた。 カテリーナが是非行きたいというので、音楽に興味のないトミーも、しかたなく ついていく事とした。 ムジークフェアラインは、立錐の余地もないほどの盛況で、アバドの指揮に よって、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番が演奏された。 スタンデイング・オべーションで聴衆の拍手は鳴りやまず、梨華はカーテン コールに、幾度となく応じていた。音楽そのものは、トミーにはよくわからな かったが、自分と同質の< 孤独と虚無感 >を、梨華の姿に強く感じたので あった。そしてなぜか、同じゆりかごの中で、寝ていたような懐かしさと 共に・・・・ 演奏会の興奮覚めやらぬ人々に混じり、地下のレストランで二人は遅い夕食を とった。 ウインナーシュニチッエル、日本人の口にもあう牛肉のカツレツで、オーストリア の 代表的な料理である。トミーは料理を口に運びながら、今回の重要な任務に つきカテリーナに、話すべきか迷っていた。 最初の出逢いからして、トミーが危険な仕事に携わっている事を、カテリーナは 気づいていたが、自分からそれを尋ねることはなかった。 この任務が無事終わったら、カテリーナと結婚しょうと、トミーは決めていた。 素敵な音楽、おいしい食事、そして愛するトミーがそばにいることで、カテリーナ は幸せそのものであった。 食事が終わり、デザートとコーヒーが運ばれてきた。トミーは、ポケットから プレゼント の小箱を出すと、カテリーナに渡した。カテリーナが嬉しそうに箱を 開けると、星形のペンダントが入っている。 トミーはそのペンダントを、カテリーナの細い首にかけてやった。 揺れるローソクの炎で、夜空にちりばめられた星のように、それは輝きを ました・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.29
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にほんブログ村 第七章 中東はラマダーンに入っていた。 ラマダーンとは、イスラムヒジュラ歴の第9月で、この月間の日の出から日没 までは、断食(サウム)、すなわち飲食を絶たなければならない。 これは、イスラム教徒の宗教的な義務・試練として、いまでも慣習が踏襲されて いる。 勿論、完全絶食ではなく、日没から日の出までの間に、一日分の食事を とる次第。従って、ラマダーン期間中は、人々の昼間の活動は低下し、極端に 能率が悪くなる。 デユバイ港での、港湾荷役作業も、御多分に漏れず大幅に遅れていた。 今日入港予定の、パナマ国籍キングサミー号で、物は届けるとトミーから連絡が 入っていた。 ハッサンは、吸い掛けのマルボーロを海に投げ捨てると、税関へと向かった。 ( マッサラーマ! ) プレーボーイのピンナップを見ていた税関吏が、面倒くさそうに視線をあげた。 どうせ、通関時没収となった雑誌を横流して、小遣い稼ぎをしている小役人で ある。 ( キングサミット号で届いた、淡水化プラントメインテナンスキットの、 輸入許可書。 ) 豊満な乳房をさらすヌード写真の上に、100ドル紙幣をそっと置きながら、 書類をハッサンは渡した。税関吏は、当たり前のごとく、100ドル紙幣を ポケットにねじ込み、輸入許可のスタンプを書類上に捺印したのだった。なんとか 税関の目をごまかし、カラシニコフ 500丁を荷受出来た。 熱風と砂嵐の中、日産のピックアップトラックを、ハッサンは運転していた。 砂漠を分けて直線が、何処までも続く単調な道を。陽は高く昇り、戸外の温度は 既に、40度を越えている。 シリア経由での、携帯型ミサイルも含めて、かなりの数の武器調達が順調に 進んでいる。資金は、オサマ・ビンラデインから潤沢に出ており、後は武器の調達 ルート探しであった。 ウイーンで会った、トミーのルートは、約束の厳守と安全性からいって、最も 信頼できる筋と言えよう。それにしても、トミーという男はアジア系の人種の はずだか、いい尻をしていると思った。あの尻に、俺のものをぶちこみたいと 想像するだけで、ハッサンの股間は大きく膨れあがった。 ベドウィン達のラクダの隊列を追い抜き、ハッサンはさらにスピードを加速した。 クウエートを通過イラクに入境し、バクダッドまでは後120キロ。 手を繋ぎながら、街中を歩いている男達を見て、ハッサンは苦笑した。イスラム では、公式に4人まで妻を娶れるので、当然のことながら結婚対象としての 女性は、貧困層に絶対数が不足してしまう。 また、厳しいイスラム戒律で、飲酒・売春は禁じられており、若い男たちの欲望を 処理するところがない。だから中東では、男の同性愛が当たり前であった。 ナデイフの街を抜けると、ビンラデインが組織する武装集団のアジトが、やっと 見えてきた。 自動小銃を肩から提げ、多くの衛兵に守られた、赤茶けた洞窟が。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.28
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にほんブログ村 第六章 桃華は、特殊部隊( SPECIAL ASSAULT TEAM )の一員として、銃火器の 訓練を受けていた。警察にはテロ対策として、この特殊部隊・銃器対策部隊、 そして化学兵器に対する NBCテロ対応専門部隊を有している。 桃華は腹這いになり、標的のダミー人形の心臓に、照準を合わした。 戸外であるから、風を計算をする必要がある。なぜか、いつものように精神が 集中出来ない。 アバド指揮のもと、ウイーンフィルと梨華が初共演する事を、大々的にとりあげた 記事を読んだからだろうか? 国際的なピアニストとして、益々脚光を浴びる妹 梨華に、ジェラシー を感じたのかもしれない。 改めて呼吸を整え、標的を梨華の顔に置き換え、引鉄に指をかけると、ダミー 人形の心臓を見事に撃ち抜いた。 ( 武田、ナイス・シューテイング!! ) 他の外事警察員より命中率の高い桃華に、教官が相好を崩して声をかけた。 彼は射撃でオリンピック代表選手になった後、SAT で狙撃兵の指導にあたって いる。 大阪の五洋商事が、テログループの武器密輸取引に、関与している可能性が あると、内偵ではほぼ確実になっていた。しかし、警視庁の上層部は、五洋商事の 裏には阿武総理や政府閣僚がいることもあって、なかなか腰をあげない。 下手に動いて何かあれば、自分の首が飛ぶ事を怖れる、まさに官僚主義に毒されて いる考え方で、青島課長以下課員には不満が募っていた。 東京では、CIAとの合同会議が開催され、極東の総責任者であるブラウンも 米国から来ていた。CIA側の調査によると、五洋商事ニューヨーク支社が、 テロリストグループへの武器調達窓口であると発表がなされた。 日本企業の米国内における犯罪ということもあり、武田桃華の CIAへの期間 限定出向と、二ューヨーク への異動要請が、ブラウンからなされた。 ( また、なんで武田の指名なのか? あの美貌だから、三課では確かに掃き 溜めに鶴、という存在には違いないが・・) 参加者の笑いがおきた。 ( 武田が女としては、優秀なのは認める。しかし、三課にはまだまだ出来る 猛者が、大勢 いるというのに・・・・) 青島課長が質問した。( ははは・・・それは、女性蔑視の発言。CIAでは男性より優秀な女性が大勢 いますよ。 公安でも掴んでいるとは思いますが、武田と国際的ピアニスト梨華は 姉妹関係。武田の妹梨華は、五洋商事ニューヨーク支社長、飛鷹の情婦。 ここまで 話せば、頭のいい 青島さんだったら、吾々が何を狙っているかは、 わかるのではないですか? ) ブラウンの説明に対し、はたと膝をうった青島だが、 ( 確かに、その方法は考えられる。しかし、武田と梨華は現在絶縁状態で、 ロンドンの惨劇以降二人は全く接触していない。) ( ウフッ・・・そこが、また我々の狙いなのです。 ) 出席者満場一致で、桃華のニューヨーク異動が、決まったのだった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.27
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にほんブログ村 第五章 五洋商事、ニューヨーク支社。 支社長兼米国内の各支店統括として、飛鷹は多忙な日々をおくっていた。五洋商事 は、利益社会還元の一環として、クラシック音楽普及活動に尽力していた。 その流れの中で、泉梨華のスポンサー企業として、海外演奏に関しても、自社の ネットワークを通じ、数々の支援をこれまで行ってきた。 梨華とニューヨークフィルの共演が決まり、滞在中梨華の世話は飛鷹の仕事と なった。当地での留学経験もあり、梨華が五洋商事の手を煩わせる事は特にない。 強いて飛鷹の仕事と言えば、コンサート後の打ち上げパーテイー会場の手配で あった。 多くの取引先から演奏会のチケット依頼が早くからあり、各企業の割り当てを どうするか頭を悩ました。いかに梨華の人気が高いか、これでも飛鷹にもよく わかった。 パーテイー会場で、梨華と飛鷹は初めて逢った。黒目がちの瞳、肩までの ストレートロングヘアー、細見の体から発せられる憂いが、飛鷹のみならず 参列者男達の、すべての心を奪った。 質問された事に答えるだけで、梨華が自ら口を開くことは、決してない。 彼女の過去について、飛鷹は本社から事前に知らされていた。出生からこれまでの 辛い人生が、梨華のかかる性格を醸成したのだと思うと、飛鷹は不憫でなら なかった。 演奏会成功の労いの意味も兼ねて、支社長宅のコンドミニアムへ誘うと、梨華は 迷うことなく応諾した。住所と部屋番号を記したメモを梨華に渡し、飛鷹は会場を 後にして、再び支社へと戻った。 時計は夜10時をまわっているというのに、邦人社員の多くが、事務所にいまだ 残っている。 支社長室でメールを開けると、< 極秘 >と記されたメッセージが、届いて いた。 < カラシニコフ AK-47 500丁を至急調達し、向け地はアラブ首長国連邦 デユバイ > と、書かれていた。 表向き五洋商事は、機械プラント及び関連機器類の輸出入商社として登録して いるが、闇で武器・重火器・弾薬などを取り扱っている。この商売に関われる のは、支社長代行以上の人間だけで、一般社員には知らされていない。 勿論、違法行為の保険として、経済産業省・国土交通省などの関係閣僚には、 多大の献金をしており、本社の大門社長と阿武総理は刎頸の友であった。 発注元のコード番号 <BF/AN>から、アイルランドベルファーストの アンドレ・ニコライエフだとわかった。 彼の息子であるというトミーに、飛鷹は一度だけ会ったことがある。英語、 ドイツ語、アラビア語を駆使する、端正な顔立ちの男であったが、暗く沈んだ目と 頭の回転の早さが、飛鷹に底知れぬ恐怖感を、其の時に与えたのであった。 コンドミニアムに戻り暖炉に火を点すと、玄関のチャイムがなった。 パーテイ会場からそのまま来たのであろう、肌も露わなイブニングドレスに、 ストールを羽織って、梨華が立っていた。 部屋の中に招き入れると、梨華はゆっくりと居間の窓辺へと歩みを進めた。 ( さすがこれだけ高いと、摩天楼の夜景が素晴らしいのね!! ) 飛鷹の心の中の男が理性を失い、梨華の背後から抱きしめさせた。 唇を首筋に這わすと、かすかな溜息が窓ガラスに漏れた。振り向いた梨華から、 ドレスの肩紐が落ち、同じ赤色の下着に包まれた、白磁のような肢体が現れた。 飛鷹は梨華を抱き上げて、寝室へと移動したのであった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.26
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にほんブログ村 第四章 トミー・・・誰もが自分の事をそう呼ぶ。 名前は英語なのに、自分のアイデンティティが、どうしてもわからない。 自分の国籍は、いったいどこなのか? ウイーンのケルントナー通りを、 足早に行き過ぎながら、トミーはふと思った。 ロンドンの孤児院から脱走し、いまや闇の組織に身をおくトミーにとって、 父と母の記憶は全くない。養父アンドレ・ニコライエフと、過ごした日々だけが すべてであった。 アンドレが国際的テロリスト集団のリーダー的存在であることは、取り巻き連中の 言葉使いや態度からも、容易に推察出来た。 中東の犯罪組織であるアルカイダのハッサンと、ウイーンで接触せよとの指示を、 アンドレからトミーは受けていたのだ。 シュテファン寺院の尖塔が夕陽に赤く染まり、まるで燃えているようである。 トミーは指定された場所へと急いだ。ケルントナー通りから、一本外れた裏道に そのホイリゲ( ワインの居酒屋 )があった。 奥隅のテーブルに座り、タバコをくゆらしている男の顔を、ローソクの光りが 照らしている。頬の傷、漂う冷酷な雰囲気、闇の世界に生きる者の感として、 その男がハッサンとすぐにわかった。トミーは前に座ると、単刀直入に商談に 入った。 ( 何丁、必要なのだ? ) ( カラシニコフ AK-47 500丁。 ) ハッサンは、短く答えた。 ( いつまで? ) ( 来月末。支払いは、いつも通り。 ) そう言うと、ハッサンはワイングラスを 口に運んだ。 リング通りを過ぎ、ムジークフェライン(楽友会ホール)に出る。 ウイーンフィル活動の根拠地であり、コンサートの日程と共に掲示されている、 日本人女性の写真がトミーの目にとまった。 泉梨華 遂に、協演実現! 現代の妖精、音楽界の至宝 曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番< 皇帝 > 掲示内容を読んでいると、不審な三人の男の姿が遠巻きに、ガラスに映っている。 ホイリゲを出た時から、後をつけられていると、トミーは感じていたが、これで 確かなものになった。 トミーには、インターポール(国際刑事警察機構)の国際指名手配がかかって おり、これまで幾度となく危ない橋を渡ってきたのだった。 トミーは追手を撒くため、リンク添いの市庁舎前広場へと逃げ込んだ。 アルプスの山小屋を模した、賑やかな屋台がずらりと並んでいる。11月中旬から クリスマス市が、そこにはたっている事を知っていた。マーケットはホットワイン のカップを片手に、クリスマス・グッズを買い求める客で雑踏をきわめていた。 時折後ろを見ながら足早に急ぐトミーは、女性にぶつかった。 ( Verzeihung !!・・ ) 雪道に足をとられて転倒した彼女を、抱きかかえて立たせてみたが、どうも足首を 痛めたようである。 自宅のアパートが歩いて15分位の距離にあるという。 恥ずかしがる彼女を背負って、トミーはマーケットを離れた。 これがカテリーナとトミーの、運命的な出会いであった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.25
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にほんブログ村 第三章 武田桃華、警視庁公安部外事第三課巡査長。 いわゆる対国際テロ捜査を担っている、外事警察の職員である。 冴子が伸治と離婚するにあたり、家裁の調停は幼児の梨華には母親が必要であろう として、冴子が養育するとの裁決であった。しかし、当時小学生であった桃華は、 冴子自身が二人の内の梨華を選び、自分は母親から捨てられたのだと思い込んで いた。 伸治は桃華を引き取ったとはいえ、父親らしい愛情を桃華にそそぐことも なかった。そんな桃華の鬱積した気持ちが、梨華に対するいわれない憎悪を 抱かせた。自分はこんな不幸せなのに、母と一緒に暮らしている梨華を、絶対に 許せないと。 伸治が日本を離れるにあたって、桃華は冴子の両親に預けられた。 それからまもなくして、母の刺殺死と父が自害したことを知らされた。冴子の 両親は、ロンドンに残された幼い梨華も、出来るなら手元に引き取りたいと 考えた。 しかし、 桃華が頑強にこれに反対したのだった。梨華と一緒に生活するぐらい なら、死んだ方がましだと。そこで困った両親は、札幌の叔母夫婦に梨華の養育を 依頼した。 それ以来、 姉妹が顔を合わせることは、二度となかった。 母は家庭がありながら、道ならぬ恋に堕ちた。冴子のその自分勝手な恋愛が、 一つの家族を離散させ崩壊せしめた。 動物的な本能を理性で抑止しているのが、 人間の人間たる由縁ではないのか? しかし、母の不倫がもたらした一連の悲惨な結果が、人間の本性は己の欲望を 抑止出来ない悪なのだという、性悪説の人間観を桃華は持つようになっていった。 桃華のこのよう考えが、悪と恒に対峙する警察官という職業を選ばせた。 特に語学が堪能なこともあって、桃華は外事警察の仕事についた。 第二次大戦後、アメリカを盟主とする資本主義・自由主義陣営と、ソビエト連邦を 盟主とする共産主義・社会主義陣営の対立構造を、冷戦と称していた。しかし、 ベルリンの壁崩壊に象徴される東欧・ソヴィエト連邦の崩壊によって、冷戦は 終焉した。 その代わり、イスラム原理主義の国際テロリスト集団の出現によって、自由主義 陣営の諜報活動はテロ対策へと軸足を移していた。 日本の外事警察も米国CIAとの密接な連携が必要となり、桃華は幾度となく アメリカに出張し、CIAと情報交換を行っていた。 彼等の情報では、アルカイダの最近の動きがどうもおかしい。 日本でも現体制に不満を持つ若者達が、アルカイダに同調してかれらと共に行動を 起こす可能性があると。特に、日本の無防備な原子力発電所に対する破壊工作 計画があり、警戒体制を敷くようにとの警鐘が、CIAから鳴らされていた。 国際的な武装テロリストグループはいくつもあるが、武器を調達するための資金が 必要で、この捻出の為に麻薬取引や誘拐事件を、世界各地で連鎖的に引き起こして いる。 武器の供給国は中国とロシアが主で、この取引に日本のある商社がかんでいると、 これまでの情報を分析した結果、外事警察はそう判断していた。 ( お~い武田、れいのホシは動いたか? ) ( はい、課長。CIAの情報によれば、大量の武器調達計画の情報を察知した ので、ここ数ケ月以内に動くはずだと。) パソコンから目をあげて桃華は、青島課長にそう答えた。 ( やつらは、必ず何かを企んでいる。それはそれで、この組織を一挙に壊滅する 千載一遇のチャンス!! わかっているな!・・いてまえ~~!!の精神よ。 ) ( テロリストは、死をもって償えですね。。) ( 大きな声では言えぬが、皆殺しにしてもかまわん。いいか、殺られる前に 殺るんだ、 武田!!!あのようなテロリストに、憐憫の情などまったく 無用。 ) 何かというと、犯罪者にも人権があると主張する、本庁から派遣されてくる上役 とは違い、現場あがりの青島課長には、< 目には目を、歯には歯を >という、 強い信念があった。 桃華はそんな泥臭い、正義感のかたまりの彼が好きだった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.24
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にほんブログ村 第二章 ニューヨークのジュリアード学校に、梨華は推薦されて入学した。 1926年、音楽関係の専門大学校として設立され、その後舞踊部門、演劇部門が開設 されることに伴い、ジュリアード音楽院からその名称を変えていた。 五島みどり、中村紘子、ヨーヨーマ、チョン・ミョンファを初めとして、多くの 優れた演奏家を輩出している、音楽界では名門校である。 学内でも梨華の演奏の評価は高く、( 信じられないほどの感性、超絶技だけでなくつややかで、ロマンチックな 音楽性を持っている。) と、これからの音楽界を背負う逸材として、誰もが太鼓判を押したのだった。 ジュリアードを梨華は、首席で卒業。 バロックから現代音楽まで幅広くこなす梨華のことを、音楽界ではマルタ・ アルゲリッチの再来と称した。無口ではあるが気性が激しく、その点もアルゲリッチ とよく似ていた。 音楽的に納得出来ないフィルハーモニー楽団との演奏会では、勝手にキャンセル して帰国してしまうことがよくあった。また、マスコミ・メデアが大嫌いなこと でも有名で、 梨華の個人的な部分は謎として、世の中ではあまりよく知られて いない。 しかし、その才気溢れる演奏、そして人がうらやむほどの美しい容姿から、観客を 呼べる数少ないピアニストとして、各国の著名な交響楽団からひっきりなしに 声がかかった。 クラシック音楽離れが顕著な中で、梨華の出演する演奏会のチケットだけは、恒に 完売。世界のプロモーターとしても、梨華の演奏を入れたプログラムで、興行を 打ちたいと誰もが願っていたのだった。 札幌交響楽団のようなマイナー楽団との共演を今回応諾したのは、孤独な少女期の 心を癒してくれた街、札幌に対する梨華なりの、恩返しの気持ちに他ならなかった のだ。 尾高の指揮のずれに幾度となく、演奏を中止して引き上げたいと思った。しかし 母国での久々の演奏でもあり、養育してくれた叔母が会場にいることが、その 気持ちをなんとか押しとどめた、といっても過言ではない。 降り頻る雪が、梨華の後方に続く足跡を、次々と消していく。 母、冴子は父と離婚し、姉桃華でなく梨華を選択した。そして自分を連れて ロンドンまで黒田の後を追いかけていった理由が、梨華にはいまでも理解出来 なかった。 梨華自身、妻子ある飛鷹との関係を続けているが、自分があくまで独身である からこそ、その関係維持が可能と思えた。二人の子供を抱えながら、黒田との 恋に墜ちた母の気持ちを なぞるように、梨華はふと飛鷹のことを想い出していた。 たくましい飛鷹の胸に抱かれ、女としての喜びに浸るひととき、梨華はそれだけで よかった。 しかし、冴子には夫がいて、桃華と梨華という子供を抱えていた。 女としての 愛と、妻・母としての顔をどのように、使い分けていたのだろうか? 当時幼かった梨華には、やさしい母としての冴子の笑顔しか、どうしても 思い浮かばなかったのだが・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.23
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にほんブログ村 第一章 梨華は雪降る、大通り公園を歩いていた。 毎年2月初めになると、札幌では雪と氷の祭典が開催され、日本全国や海外から 200万人を越える、観光客が訪れる。 通りのあちこちに雪像が倒立し、街角の屋台からはとうもろこしを焼く香ばしい 匂いが、冷気の中に漂っていた。 梨華は今日の演奏会に、思いをはせていた。 札幌交響曲楽団との共演が、自分の納得のいくものにならなかった事を・・ 指揮者はベテランの尾高だというのに。 コンサートの演目として、梨華自身がショパンのピアノ協奏曲第一番を選んだ。 ショパンはその生涯において、ピアノ協奏曲は2作品しか残していない。 第一番は ショパンがウイーンへ向けて、旅立つ告別演奏会で彼自身が初演した。 ロマンチックな情念と創意に溢れる第二番と比較し、ワルシャワへの告別と 新たな飛翔が、その曲に込められていると言われている。 第一楽章はオーケストラの壮大な主題提示があり、そして満を持してピアノが 入る。 梨華が情感豊かに表現し、また大胆なテンポで演奏しようとするパートと、尾高の 指揮とのずれが恒に感じられた。 リハーサル段階ですでに尾高とは、曲の解釈に根本的な違いがあった。梨華は 詩的な第二楽章を、美しい春の月光に照らされた夜のような音楽と解釈した。 その曲想に基づく梨華の斬新的な演奏方法に対し、尾高はオーソドックスな 表現を主張した。 この微妙なずれは、演奏している者だけにしかわからない。 演奏終了後( ブラボー!!ブラボー!! )という称賛と、聴衆の スタンデイングオベイションによる拍手が、会場の隅々まで響き渡った。しかし、 梨華にとってそれらは、虚しい響きにしか聞こえなかった。 赤いネオンに彩られ降る雪が、20数年前のおぞましい記憶を、梨華に蘇らせた。 父が身重の母を殺害し、そしてその父も、その場で自殺したという。あの晩も ロンドンでは、今日のように激しい雪が降っていた。 冴子の叔母夫婦には子供がないこともあり、梨華は彼等に引き取られ、札幌で 育てられることになった。両親の衝撃的な死を、眼前で見せつけられた梨華は、 その精神的ショックから他者とのかかわり合いを一切拒み、無感情・寡黙という 自閉症のような、幼少期を過ごした。 人々との感情的な交流を避け、自分だけの世界に閉じこもり、そして時々被害 妄想に襲われる。 そんな孤独な梨華の心を、なんとかして開かせようと・・・・ ある時叔母は梨華をピアノ教室に通わせ、それ以来鍵盤と梨華の対話が始まった。 冴子の遺伝子を引き継いだのか、梨華のピアノに対する才能は、年と共に急速に 開花していった。 特に、楽譜から曲想を考え、そしてそれを独自の速さ、強さ、そして音色で 表現する感性が、常人とは全く違っていた。 高校生の時、ポーランドワルシャワで開催された、ショパン国際ピアノコンクール に応募し、史上最年少で梨華は優勝の栄誉を得た。同コンクールは、エリザベート 王妃国際音楽コンクール、チャイコフスキー国際コンクールと並び、世界三大 コンクールの一つで、国際的ピアニストへの登竜門である。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.22
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にほんブログ村 最終章 ドア・チャイムが鳴った。 ( ママ~~! おじさん、帰ってきたよ~~。 ) 冴子は苦笑した。梨華にとって黒田は、いまだ単なるおじさんであることを。 キッチンで夕餉の支度に忙しい冴子が、声をかけた。 ( ママはいま手を離せないから、お迎えしてくれる? ) 梨華が椅子から飛び降り、玄関口へとパタパタとかけていった。 ( パパ~~!! ) さっきはおじさんだったのにと、微笑みながらその方向を、冴子は振り返った。 ( かあさん、久しぶりだな・・・・) 血糊のついた長包丁を手にしながら、夫がたっていたのだった。 雪まみれのフードの中から、座った目が異様に光っている。返り血を浴びた コートが、 何が起きたのかを物語っていた。 < なぜ? なぜ?・・・夫がここに・・・ > 夫は刃を小脇に抱え、冴子の前に一歩進んだ。紅い雪が溶けた雫が、点々と 後を追いながら、フロアーに・・・ 冴子はお腹の子を庇うようにして、じりじりとさがる。 その距離が次第に狭まり、夫の狂気の目に自分の姿が映った瞬間、肩から胸に かけて鋭い痛みを感じた。 そして、 逃げようとする冴子の背後を、幾度となく刃が切りつける。( パパ、やめてえ~~~!! ) 梨華の悲鳴があがり、冴子の倒れる音がして、そしてやがて静寂が訪れた。 < どうして、こんなことに・・ 黒さ~~~ん、あ・い・・・・・ > 結局結ばれることなく、終わってしまったこの恋。 かすれゆく意識の中で冴子は、黒田と手を携えながら深い闇の奈落へと、 旅立っていった。 ( かあさん・・・おまえがすべて悪いのだ・・・ ) 伸治はそう呟くと、長包丁の切っ先を頸動脈につけた。そして自重をかけながら 一気にひいた。 崩れ落ちる伸治の手はテーブルの上を這い、転げ落ちたバースデーケーキが 吹きあがる鮮血の海の中へと・・・・ == 完 == 二週間にわたって連載しました、< 愛の流転 第一部 >にお付き合い 戴き、誠にありがとうございました。 冴子に感情移入し彼女の生き方を応援する方、他人の不幸は密の味として泥沼化を 期待する方、初めからかような不道徳な話はあかん!!として、冴子も黒田も 地獄に落ちろ・・と、読み進まれた方。 戴いたコメントから、人それぞれの読み方が伝わり、興味ぶかかったでした。 小説は、読者の想像の世界・・・だから、おもろい!!! < 愛と夢の彷徨い人 >は悠愛皇子が、想像の翼を広げて一気に 書き上げた、大人のラブストーリー。人妻の恋愛感情を、どのように表現したら いいのか迷うところもありましたが、皇子なりに冴子の一途な愛というものを、 描いてみました。 その愛の行き先を、どのようにしたらいいのか、ストリーの結末に随分と 悩みました。黒田と冴子の愛の世界だけに、とどまっていればそれはそれで いい。しかし不倫が深みにはまり、家族など周囲を巻き込むようになっては、 二人だけの問題にとどまらなくなってしまいます。 他人を不幸にしてまでの幸せってあるのだろうか?自分の持っている常識の壁を どうしても越えられず、かような悲惨なエンデイングとなってしまいました。 所詮、皇子は素人のストーリーテラーであり、その限界ということなのです。 みなさまから読後の御忌憚のない感想を、コメント欄にいただければ、 幸甚に存じあげます。 小泉前総理から、( 感動したあ~~!! )とのメッセージを戴いて ことが、続編第二部を書く契機となりました。 第二部は、残された冴子の娘達 梨華と桃華の生きざまを、壮大なスケールで書き上げた、バイオレンス・ ロマンス。第一部とはいささか趣を、変えております。 乞うご期待!! ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.17
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にほんブログ村 第十六章 黒田は、アカデミーの敷地内にある、大聖堂にいた。 14世紀後半のゴシック建築で、尖塔と高大な窓に特徴がある。 十字架の前で、老婆が頭をたれ熱心に、ひとり祈りを捧げている。午後の斜光が、 ステンドガラスを通して、彼女の横顔を照らしていた。刻み込まれた皺から、 此れまでの苦しみと悲しみが、うかがいしれた。 黒田は、ふと日本にいる妻、久美の事を思った。 冴子が向日葵の大輪なら、久美は月見草のごとく地味な女性だが、妻として何一つ 不満はなかった。特に、薄給時代の家計を切り盛りし、子供を育てあげてくれた 事に、黒田は感謝していた。 病弱な久美を東京に残したまま、黒田の単身赴任が長くなり、その中で冴子との、 運命的な出逢いであった。 冴子との恋愛関係は、言ってみればお互いの守るべき城があって、もしかしたら その上でこそ、バランスがとれていたのかもしれない。久美は、人を疑う事を 知らない性格から、冴子との仲について問われた事がなかった。 しかし、冴子が妊娠し、自分と同棲している現況を知れば、悲しみのあまり 精神に、異常をきたすことは、目にみえていた。 < 人を愛する気持ちに、なんぴとも竿はさせない >と論じる黒田にとって、 私生活における久美と冴子の問題を、どのように解決すべきなのか? 黒田は、その答えを見いだせぬまま、初めて苦しみ始めたのであった。 冴子への愛は、男として純粋なものであり、久美への夫婦愛も、これもまた真実 であったから・・・・・ 其の日は、朝から雪だった。 東北の冷たく重い雪に比べ、ミルコ・ゴッゾーリのワルツのように、軽く踊り ながら舞っている。 学会の下準備で、事のほか時間がとられ、黒田の帰宅は遅くなった。今日は、 冴子の誕生日である事を思い出し、黒田の歩みが自然と早くなった。 さきほどから、黒田の影のようについてくる、雪を踏みしめる音が気になる。 角を曲がり、黒田のアパートの灯りが見えたところで、駆けてきた足音が追い ついた。 振り返ると同時に、その影が黒田の胸に飛び込んできた。 心臓をえぐられるような痛みがが走り、黒田はその場に崩れるように倒れた。 白い薔薇の花束が、黒田の手から離れ、空中に舞い上がった。 飛び散る花びらを、黒田の鮮血が染め上げる。 白から赤へと、 そして深紅へと・・・・ 思えば、黒田の人生は、真実の愛を求めて、彷徨い続けてきたようなものだった。 文学を通し、そして己の実生活においても。晩年に冴子と出逢い、激しい恋に 堕ちた。 その愛と苦悩の日々は、神さまが黒田に回答を求めた、最後の命題であったの かもしれない。 雪がさらに降ってきたようだ。 部屋の灯りが、ゆるやかに遠ざかっていく。 涙でぼんやりと、滲みながら・・・・ ( 冴子、お誕生日おめでとう!! ) と、呟いた声が、白い息と共に、闇の中に消えた 。 黒田の体を・・・ 鮮血に染まった薔薇の花束を・・・ すべてを、ふりつむ雪が、覆い隠していった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.16
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にほんブログ村 第十五章 薄れゆく意識の中で、黒田は冴子の名を、幾度となく叫んでいた。 ( どうしたの? 黒さん。。) 黒田の顔を覗き込む、冴子の顔がぼんやりと浮かんでいる。 スピンしたジャガーは、側壁に激突し炎上した。燃え上がるの炎の中で、 血まみれの黒田になぜか冴子が、問いかけているのだ・・・・ アパートの階下から、部屋を見上げると、窓から灯りがこぼれている。 出勤時消し忘れたのか?怪訝に思って中に入ると、心臓が停まるほど、黒田は 驚愕した。 冴子と梨華がいる。 ( 黒さん・・とうとう、来ちゃった。しかも、2.5人だよ。 ) せりあがる、お腹を指しながら、冴子は恥ずかしげに言った。 思わず冴子を抱きしめ唇を重ねると、懐かしい向日葵の匂いがした。 ( ママの好きな人って、このおじさんね。) 久しぶりに華やぐ母の顔を見上げて、梨華が嬉しそうに言った。二人が別れ、 そして妊娠から離婚への話を聞き、またロンドンまで自分を追い掛けてきた 冴子を、黒田は心から愛しく思ったのだった。 ( 黒さん、夕飯まだなんでしょう?何か、つくるね。 ) 冷蔵庫を開けたが、ビールや飲料水しか入っておらず、単身のまずしい食生活が、 そこからうかがわれた。 最近不眠症の黒田は、昼夜が逆転することがよくある。夕餉の支度の音を子守唄 にして、うとうとと寝てしまった。高速道路での事故は、その夢の中の出来事で あったのだ。 冴子は、<幸せ>という言葉を、心から感じていた。 これまでは、愛し合い、そして別れて、日常の家庭生活に、それぞれが回帰する。 冴子が自宅で、黒田に想いを馳せる事が出来るのは、なぜか洗濯ものをたたんで いる時であった。家事と育児に忙殺される主婦にとって、自由に考えをめぐらす 時間というのは、おかしな事だがこのような時しかない。 でも今は愛する人が、いつも手の届くところにいる。黒田の事を一日中想って いても、構わない。朝、黒田を送りだし、家の中の仕事を終えると、有り余る 自由な時間があった。 天気のいい日には、梨華を連れ近くの公園に、散歩に出かけた。池の周囲の ベンチには、老人や冴子のように子供を連れた母親達が、冬のかすかな陽を おしむように座っていた。 ( ママ、ここにしない?! ) 近くのパン屋で買った、マフィンを頬張りながら、二人はベンチに腰掛けた。 お腹の子も順調に育っているようで、すでに男の子であることがわかっていた。 冴子と逢瀬を続けている時、黒田は家族の話をする事はなかった。 お互いが家庭をもっての密会だけに、この逢っている時だけ、愛し合っている瞬間 だけ、黒田の心と体は自分にあるのだと思うしかなかった。しかしたとえ刹那的で あるにせよ、愛されているとの想いが、冴子の心を満たしたのだった。 今はあの時と、基本的条件が違う。自分は離婚し、且黒田の子を身籠っている。 臨月を迎えて彼の妻の存在が、なぜかとても気になった。 この<幸せ>は、いつまで続くのだろうか?・・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.15
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にほんブログ村 第十四章 アカデミーは、鬱蒼とした森の中に在り、煉瓦造りの瀟洒な建物であった。 日本の大学とは比べものにならないほど敷地が広い。梨華と手をつなぎ冴子は 木立の中を歩みを進める。 事務局に着くと黒田は不在との事で、チェルシーの滞在先を教えてくれた。 チェルシーは、ロンドンの南西に位置し、メイファーに次ぐ高級住宅街。アガサ クリステイー、オスカーワイルドを初めとして、著名人が住んだ所である。 黒塗りのタクシーが、チエルシーに入ると、お伽の国の様な街並みが、次々と 目に飛び込んできた。黒田の住んでいるアパートといっても、その色彩や景観も 含めて、お城のような建物である。冴子も梨花も車窓から広がる風景に、ただただ 驚いて見ていた。 アパートの一階に管理人室があって、背中の曲がった老婆が出てきた。 黒田の妻であると言うと、彼女は疑いもせずに部屋の鍵を渡してくれた。 重いドアーを開けて中に入ると、廊下があって居間へと通じている。 ( あれっ~?? ママの写真が飾ってある。) 居間の奥にある暖炉の上には、冴子の見覚えのあるショットが、フレームの中に あった。 愛された悦びに満ち溢れ、柔らかな表情の・・・別れた後も、このように自分を 黒田は想っていてくれたのだと思うと、冴子に熱いものがこみあげてきたの だった。 黒田と小柄な女性のツーショットの写真が、冴子の目に飛び込んできた。 彼女が黒田の妻、久実なのか。スレンダーな、品のいい女性である。( ママ、どうしたの?? ) 梨華の声で、冴子は現実に戻された。 これから、どうなるのだろうか? 離婚して自由な身となった冴子とは違い、 黒田にはいまだ家庭がある。 自由とはいえ異国での出産、未婚の母、私生児など、考えれば考えるほど 気の重くなる、問題ばかりであった。 ただ、愛する黒田とひとときでも生活出来れば、総ての困難も受け入れられると 信じ、ここまで来てしまったのだから。 ( ママ、事故のニュースやっているよ。) との梨華の声で、冴子はテレビに視線を向けた。 冴子と離婚後武田伸治は、すさんだ生活をおくっていた。 冴子の浮気による離婚は会社の中でも噂になり、自分に対する憐憫と侮蔑の目が、 痛いほど突き刺さる。 桃華を看ながら働くということも、意外にも大きな負担となった。 桃華を引取ったとはいえ、子供が可愛いからではない。< 子供が一番、貴方は 二番以下 >と公言して憚らない、冴子の大切なものを奪い取るという、 あてつけにほかならなかった。 浮気の相手を探し出し、慰謝料請求の訴訟を起そうと考えた。しかし冴子は、 頑として名前を明かさなかった。冴子はもともと頑固なところがあり、一旦口に 出すと絶対に自分の主張を折り曲げない。これまでも幾度となくぶつかり、夫婦 喧嘩となっていた。 子供はもうどうでもいいから、なんとか相手を割り出し、このおとしまえを つけさせようと考えたのである。桃華を冴子に渡す交換条件なら、相手の名前を 暴露するはずと。 桃華を連れ、伸治は冴子に会うために、彼女の実家を久しぶりに訪れた。 しかしそこで聞きだした話は、驚愕の事実であった。 冴子は梨華と共に、ロンドンに発ったと。言葉を濁してはっきりと言わないが、 どうも浮気の相手の子供まで宿しているようだ。 離婚も冴え子が考えた、このようなシナリオの起点だったのか・・ このままで終わらせてなるものかと、伸治の怒りは心頭に発したのだった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.14
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にほんブログ村 第十三章 アカデミーでの仕事は、日本文学の紹介と翻訳であった。 川端康成がノーベル文学賞を受賞して以来、欧米では日本文学への関心が高まって いた。特に、欧州へ留学経験のある、夏目漱石や森鴎外が人気があったが、最近は 大江健三郎とか村上春樹が注目を浴びていた。 黒田は、イギリスのD・H・ロレンスの小説<チャタレー夫人の恋人>の研究に 没頭して いた。戦傷で半身不随になった貴族を夫にもつコンスタンスの、森番 メラーズとの不倫の恋の物語である。近松門左衛門の世界になぞらえ、女の情念と 不倫関係を、比較的に論じてみたかった。 新しい職場での仕事は、それなりに興味深い。 しかし、異国での生活と孤独感に苛まれていた黒田に、体調と精神の変調が 訪れていた。 夕暮れを迎えると、( わんばんこ!! )という冴子の声が聞こえるような 幻聴に囚われ、そして激しい頭痛に襲われたのであった。 特にひとり身で、週末を過ごす事は辛かった。若ければ各地を物見遊山で、観光 でもするのだろう。50歳を越えた黒田は、むしろ近くの公園を散歩し、草花に 触れた方が癒された。 季節は既に冬を迎え、よどんだ空の色が黒田の心をさらに、暗欝に塗りこめて いった。コートの襟を立て行きかう人々の中で、異邦人としての意識が日増しに、 閉塞感を与えていく。周囲からは理解しがたい、黒田の言動が最近は、目につく ようになってきた。 ツアー旅行団体客で、機内は満席。腹のせり出た冴子にとり、エコノミークラスの 狭い座席は、ひどく苦痛であった。見かねたキャビンアテンダントが、ビジネス クラスの空いている座席に、二人を特別に移動させてくれた。 梨華は、初めての飛行機旅行に、大はしゃぎである。騒ぐたびに、周囲のビジネス マンの顰蹙をかい、冴子は道中身の細る思いであった。 ヒースロー空港からは、リムジンに乗り換え、ロンドンの中心街へと向かう。 黒田は、はたして、何と言うだろうか? ( 黒さん、とうとう来ちゃったよ。) と、告げたら。それは、おしかけ女房のようで、よく考えてみればあまりにも 大胆な行動であった。 ( ママ~~~!。 見て、見て・・・・事故だよ!! ) 黒田はヒースロー空港に向けて、高速道路を走っていた。 ただ、車を無性に運転したいという、衝動にかられて。ジャガーのスピード メーターは、150KMを越え180KMを指していた。浮遊感が黒田をシートから 押し上げ、カーブを切るとそのまま外へ、もっていかれそうな気がする。 直線に入ると、さらにアクセルを踏み込み、200KMまで加速した。 途端に、車体がスピンした。 ( 黒さん、とうとう来ちゃったよ。) と、遠くで聞こえたような気がする。 冴子の明るい屈託のない声が、線香花火の如く一瞬の輝きを増し、ぽとりと 暗闇の中へ落ちて消えた。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.13
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にほんブログ村 第十二章 だんだんと遠ざかる眼下の景色を、黒田はぼんやりと機内の窓から眺めていた。 冴子は今頃、どうしているのだろうか?何故あの時、< 絶対に別れない! >と、 ひとこと言えなかったのだろうか? 許されぬ恋によって夫の責めにあい、一人で苦しみ悩んでいた冴子。 彼女をそこまで追い詰めた黒田の自責の念が、喉元まで出かかったその言葉を、 押し止めたのだった。 冴子のいない、異国でのこれからの人生を考えると、孤独感と虚無感に襲われた。 シートを 倒しながら目を閉じた時、 ( えへへへ・・・黒さん、ついてきちゃったよ。) と、後部座席から明るい声が聞こえた。冴子が笑いながら、手をふって通路に 立っている。 急降下する機体は、雲間を抜けると緑に囲まれた、ヒースロー空港に着陸した。 小雨に煙るロンドンは、肌寒く感じられる。スーツケースが出てくるのを待って いる旅客の中に、冴子の姿を黒田は追い求めた。 機内での冴子の声と姿は、やはり幻影だったのか? それとも、 ( やっぱ、黒さん・・悪いけど帰る。) と言って、日本にそのまま戻ってしまったのだろうか? 家族と母国を捨て、自分の後を追ってくるなど、所詮<小説の世界の出来ごと>と 納得させる自分が、黒田は悲しかった。 入国審査を終え、ロビーに出ると ( ARE YOU DR.KURODA ? ) と、ブロンドの女性が近づいてきた。 いちど亀裂の入った夫婦関係は、もはや修復不可能だった。 というより、冴子には修復する気持ちが失せていた。子供たちへの愛だけが なんとか冴子を支えている。 ある日、夫の背広のポケットの中をクリーニングに、出すために検めていると、 秋保温泉の領収書が出てきた。二名宿泊の明細書と共に。その日付は、東京で 展示会があるからとして、夫が一泊二日の出張で家をあけた日である。 夫の浮気が発覚しても、いまさら嫉妬心もわかなかった。むしろ、婚姻関係の 維持は、これ以上無意味であると、冴子は強く感じた。 生理が二ケ月ほど、冴子に訪れていない。 夫との性関係はもはやないので、もし妊娠の可能性があるとすれば、黒田との 最後の愛の結晶としか考えられない。 このことがパンドラの箱を開け、黒田への想いをまた激しく、再燃させたので あった。妊娠を夫に知られる前に、離婚を成立させなくては・・・ 黒田の子を身籠った事が確認され、冴子は離婚に向けて家裁の調停を急いだ。 離婚そのものには夫も同意していたが、二人の子供の親権を巡って、両者が一歩も 譲らなかった。 結局、桃華を夫が、梨華を冴子が養育する事で、決着をみた。 桃華を手放す事はとても辛かったが、愛する人の命が自分に宿り、梨華と共に これからの人生を生きる喜びの方が勝った。 子供を連れて実家に戻ると、両親は娘の不幸を嘆き悲しんだ。しかし、日が経つに つれ、娘と孫に囲まれた生活を、むしろ喜んでいるような節がみられた。 離婚によって、楔から解き離れた冴子は、お腹の子の成長と共に、黒田に逢い たいとの想いを、抑える事が出来なくなっていた。 冴子は梨華を連れて、ロンドンへと旅立つ。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.12
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にほんブログ村 第十一章 冴子から別離の宣言を、突然突きつけられた黒田は、茫然自失の まま街中を 彷徨い歩いていた。愛しているとの冴子の告白、そして正反対の別れの言葉。 ちぢに乱れた黒田の想いと足跡を、雪の舞いが次々と消していき、街灯がそれらを 悲しげに照らしている。 どれくらい歩いたのだろうか? 黒田は、研究室の前に立っていた。 暗く沈んだ気持ちを、引きずりながら中に入ると、千佳がまだ仕事をしていた。 ( どうしたんですか? 顔色が悪い。あっ、学長から話があると、さっき電話が ありましたよ。 ) 靴音だけが暗闇に響き渡る学内を、黒田は学長室へと向かう。 ( 黒田君、まあ~、座りたまえ。突然の話なのだが、英国のケンブリジ文学 アカデミーに、研究員として行ってもらいたい。 ) 客員教授でなく研究員の肩書では、学部長の黒田にとって左遷に等しい、人事 異動である。 ( えっ、また、なんでですか? 研究室はどうするのですか? ) ( 後の事は、心配せずともよい。雨宮千佳に任すから。 ) そうだったのか。千佳は、准教授への昇進を、黒田と学長に二股かけ、画策して いたのだ。准教授への推薦約束と別れの話をした後で、千佳が含み笑いをした 意味が、黒田はやっとわかったのだった。 女豹のような千佳の肢体に乗り、脂汗を流しながら腰を動かしている姿が、 目の前の学長の顔と重なった。 なかなか結論が出ないままに、時間だけがすぎてゆく。 同じ街で彼女が生活していると思うと、とても切なくてつらかった。流れゆく雲に 己の想いを乗せて、冴子に届けたいと幾度となく空を見上げた。 妻に電話をかけ話をしたところ、 ( 貴方の好きなようにすれば・・貴方が幸せなら、それで私も幸せなのだから。 ) と答えた。そして、 ( 体調がよくなったら、スコットランドに行ってみたい・・・ ) と。 黒田はロンドンへの転勤を、最終的に承諾したのだった。 冴子は子供たちを寝かしつけながら、黒田の事を考えていた。 なんで、こともあろうに、別れるなんて言ってしまったのだろうか? 心の内は 全く逆で、 ( 黒さん、冴子を絶対離さないでね。。) と、言いたかったのに・・・ 黒田と過ごした時間が、走馬灯のように浮かび、そして消えていった。 激しい愛のほとばしりの中に、女としての幸せを教えてくれた。心と体に刻み 込まれた想い出だけにすがる、これからの人生を考えると、総てが虚しく意味の ないものに思えた。 子供達の寝息を耳にしながら、冴子は溢れる涙を、抑える事が出来なかった。 黒田と別れて、生活は昔のような、日常性を取り戻した。朝、子供達を学校と 幼稚園に送り届け、あたふたと出社し、そしてまた夕方子供達を迎えに行くと いう。 しかし、口数も笑顔も少なくなり、冴子の心は死んでいた。黒田が英国に転勤 したと風の便りで聞き、これで逢う機会もないだろう・・ 想い出を心の宝石箱にしまい、そっと鍵をかけたのだった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.11
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にほんブログ村 第十章 その日以来夫婦間にまともな会話が消えた。 精神的にはまるで家庭内別居のような、冷え切った状態である。 最後まで黒田の名前を明かさず、付き合っていたのは出逢い系サイトで知り合った 男と、冴子は白状したのだった。でも決して貴方が咎めるような関係ではない けど、もうやめるとの結論でその場を、冴子は切り抜けた。 夫がそれを信じていないのは明らかだった。 休日出勤をすると背後に尾行を感じ、恒に夫から監視されているような気が する。 桃華と梨華の前ではさすがに二人とも、平常な夫婦関係を努めて保とうと していた。でも、険悪な二人の空気を察知してか、子供たちは親の顔色を見 ながら、いつも行動しているようであった。いままでのような明るさが消失し、 重苦しい澱んだ空気が家の中を支配していた。 携帯を取り上げられ、夫の実家に幽閉された状況での正月休暇。 冴子にとっては長く、そして辛いものとなった。舅も姑も夫から話を聞いたので あろう、その態度も冷たく必要以上の言葉はかけてこない。 このような状況で、家族関係を維持することは、精神的にもはや限界に達していた。 夫との離婚は、全く構わない。但し、子供達だけは、どうしても渡せない。冴子の 心がそう決めたのだった。 昨夜来の雨は、朝方から雪に変わっていた。 二か月ぶりに逢えた冴子の変貌ぶりに、黒田はわが目を疑った。目の下のくま、 こけた頬、虚ろな眼差し。総てが、いままでの冴子とは別人のようであった。事の 顛末を聞き、逢えなかった理由が、黒田にやっとわかったのだった。 久しぶりに結ばれた二人は、恋こがれる男と女以外のなにものでもなく、お互いを むさぼるように求め合った。いつものように、冴子の求めに応じて黒田が放ち、 二人は同時にはてた。 黒田の胸の鼓動に耳を預けながら、冴子が呟いた。 ( も~これで、終わりにしましょう・・・・) それは予め決めていた事でなく、冴子の口から思わず出た言葉であった。 ( なぜ? 旦那とよりを戻したいから? )( う~~ん、そんなんじゃない。黒さんが好きだから、別れた方がいいと 思うの。) ( 馬鹿な。好きだったら、何があっても、二人は別れるべきでは、ないじゃ ないか! ) ( それは、男の論理。好きであればこそ、愛していればこそ、別れなければ ならない恋も あるの。 ) 冴子の気持ちは黒田との別離へと、話の流れの中で次第に傾いていった。 心から別れを望んでいるのではない。あまりにもいろいろな事がありすぎて、 その全てから解放されたかったのかもしれない・・・・ ( 黒さんに逢えて、本当によかったと、思っているよ。私が心から愛したのは 黒さんだと、はっきり言えるの。だからお願い、それだけは わかって・・・・ ) 冴子の瞳から思わず、大粒の涙がこぼれた。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.10
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にほんブログ村 第九章 夫の追及は、執拗だった。 冴子のバックから業務日報を取り出し、何月何日は何処で何をしていたのだと、 問い詰めてきた。外勤者は、面談者・時間・内容を時系列的に記し、翌日の朝礼時 に提出の必要があるから、いつも日報を自宅に持ち帰り、記入していたので あった。 黒田と密会している時間については、曖昧な表記が多い。確かに、夫が指摘した ところは総て、黒田との情事に費やされた日々である。 ( いくら夫婦とはいえ、ひとの携帯やバックなど私物を、勝手に見て いいわけえ~ ~?! ) ( うるせえ~!! お前に、そんなことぬかす、権利があるのか!!) 冴子は初めの頃、夫の詰問に対し適当な返事をしていたが、途中で一々答える事が 馬鹿らしくなり、無言を押し通した。 ( なんだ。嘘の言い訳の次は、黙秘か。お前はな、俺の妻ということを忘れん なよ。 馬鹿にするのも、いい加減にしろ!!! ) ( 私が、何をしたというの? 母として、二人の子供の面倒をみ、妻として 家事の責任は、果たしているでしょう。だいたい、貴方の妻というけれども、 私は貴方の所有物ではないのよ。一人の人間として自由に生き、そして恋 だってしてどこが悪いというの!! ) ( なに~~!盗人猛々しく、よくそんな事が言えるな !いったい、相手の男は 誰なんだ・・・・ ) ( 。。。。。。。。 ) 激昂した夫は、冴子に飛びかかった。パジャマのボタンを引きちぎると、冴子を 押し倒し、乳房を鷲掴みにした。 ( やめてくださ~~い! いったい、何をするのですか~~!!) 冴子の悲鳴を聞きつけて、子供たちが二人の間に、割って入った。 ( お願~~い!!、ママをいじめるは、やめてえ~~~!!! ) 荒い呼吸の中で、 ( もう、いい。お前も覚悟の上で、浮気したのだろう。そんなふしだらな女に、 子供は絶対に渡さないからな。 ) と、夫は捨て台詞を残した。冴子の一番弱点をついた、言葉であった。 その年の暮から正月にかけては、9連休の長い休みとなった。 年が明けても冴子とは、連絡が一切とれない日々が続いた。 ( 電話もメールも、携帯に絶対にしないでください。理由は今は、言えない けれども・・・・ ) との、公衆電話からの短い連絡が年末にあった。黒田が話そうとした瞬間、 電話は 一方的にきられ、それが最後となった。 おもいあまって、会社に電話すると事務員が、 ( 武田はただいま、外出しております。何か、お言付けでも? ) と、恒に答える。冴子に何か異変が、起きた事は間違いない。そして明らかに、 自分との接触を避けている。 逢えなくなって、冴子が自分にとって、いかに大切な存在なのか、改めて気が つかされた。あの明るさが、沈みゆく己の魂を救い、成熟した肢体が、母の 胎内に回帰したごとく、精神の安らぎを、与えてくれていた事を。 千佳とは、単なる情欲の関係だが、冴子は黒田が忘れていた<愛>という言葉を、 心の中に呼び戻したのだった。 逢いたい・・・冴子に、どうしても逢いたい・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.09
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にほんブログ村 第八章 大学校内の道を、イチョウの落ち葉が、黄色に敷き詰めている。 東北の秋は短く、すぐ冬になってしまう。散り尽くしたイチョウの木々が、白い 綿帽子をつける日も間近い。 秋の陽射しは、研究室の奥まで覗きこみ、長い影を残している。 黒田は、読みかけの学術書を閉じた。 < 千佳との関係も、そろそろ清算すべき時かもしれない・・> 三十前独身の千佳の肉体は、若鮎のごとく勢いがあり、且年のわりに性愛に たけていた。 しかし、准教授に推挙しなければ、二人の関係を妻か学長に暴露 すると脅かされては、このまま放置しておくのはまずい。千佳との関係は冴子と 会う前に出来たものだが、その後もずるずるとここまできてしまった。 隣の机で書類の整理をしている千佳に、 ( 来年の教授会で、君を准教授に推挙したいと思っている。僕の後継者として、 この研究室をそろそろ託しても、いいかな・・・ ) ( あら・・どうして、来年なわけ。 ) ( 僕が、学部長に昇進したばかりだし。学部長の職権乱用で、准教授になれた と思われては、 君も本意ではなかろう。 ) ( そんなことは、ないわよ。権力なんて、使える内に使わねば。 ) ( それに、八代が知っていたことは、二人の関係が学内でもかなり噂に、 なっているのかもしれない。だから、僕との関係も、今日で終わりにして、 准教授への道を確実にした方が、君のためだと思うのよ。) ( へえ~~、ほとばりが、さめてからというわけね。学部長が我慢出来るなら、 私は別れても構わないけど・・・・) 千佳は、<うふっ>と、含み笑いをした。それが何を意味しているのか、黒田には わからなかった。 ここは、東京下町にある、小さなマンション。 ベッドに体を横たえながら、久実は仙台にいる夫黒田のことを想っていた。 教え子で優秀な男がいると父からの薦めで結婚し、早いもので二十数年が過ぎて いた。 三年前子宮ガンが発見され、卵巣への転移が見られた末期段階であったことから、 子宮卵巣を全摘出せざるをえなかった。それ以後他の部位への転移は認められ ないが、治癒の為闘病生活の日々を送っていた。 幸いなことに娘が成人しているので、身の廻りの世話はしてくれる。もともと病気 がちな久実であることもあり、黒田の仙台学院大学への転勤にも、彼女を帯同する ことはなかった。それを、妻の役目を果たせずに申し訳ないと、涙ながらに久実は 黒田に詫びたのだった。 黒田からは、3日に1回ぐらいの頻度で電話があり、病状を細かく聞いては 励まし言葉をくれた。今般学部長に昇進したとの報告もあったが、久実にとっては そんなことよりも、 単身生活での食生活で健康を害してしまう事の方が、心配 であった。 きちんと食事をしているの?との問いに対して、俺は近くのスーパー・コンビニの 弁当を食いまくり、ほとんど制覇したと電話口で笑っていた。 黒田からここしばらく連絡がないが、夫は元気でいるのだろうか? 窓から見える空には、いくつもの鰯雲がなたびき、秋から冬への景色に変わって いた。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.08
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にほんブログ村 第七章 仙台学院大は、江戸文学の研究で全国的にも有名で、各地から英才が集まって きている。 雨宮千佳もその一人で、十辺舎一九の東海道中膝栗毛を研究しており、黒田の助手 を務めていた。頭の切れる女性ではあったが上昇志向が強く、黒田と肉体関係を 続けているのは、打算からと思われる節がある。 ベッドの上に脱ぎ捨てられた、下着を身につけながら、千佳が言った。 ( ねえ~、私を准教授に推薦してくれるとの話は、いったいどうなったの? 黒田学部長様。 まさか、先生だけが、いい思いをするわけでは、ないわよ ねえ~~?! ) 急速に萎えて行く黒田のものを握りしめ、千佳は言葉を続けた。( それがね、学部長審議会の前日、八代に呼び出されたのよ。なんの為か、 わかるう~~?? 先生との関係を学内で暴露すれば、北柴国際大の准教授を 用意する、だってさ。 ) < 八代は、そのような卑劣な手段を、講じようとしていたのか・・・・ > ( ばかじゃないの。上司との不倫がばれた女に、どうして他の大学が今より 高いポストを、 用意するのよ!! ) 髪をとかしながら、鏡に向かってはき捨てるように言うと、千佳は黒田の方に 振り返った。 ( 娘のような歳の差の私の体を楽しんで、外では武田冴子との不倫を続ける。 ねえ~~・・ 学部長様、どうするつもり?女が泣き寝入りすると思ったら、 大きな間違いよ・・ ) 研究室にかかってくる冴子からの電話を盗み聞きし、黒田が人妻とただならぬ 関係にあることは、千佳にも容易に想像できたのだった。 苦虫を噛み潰したような夫の顔が、居間で冴子を待ち受けていた。 ( これは、一体なんなんだ?! ) 投げつけられた、レッドカラーの携帯電話。冴子の血の気が、一瞬引いた。 黒田からのメールを読まれたのだと。パスワードによる秘密保持の策もとらない まま、うかつにも充電をしたまま携帯を、放置しておいたのだった。 ( おまえが、誰かとメールを秘かにしているのは、わかっていた。 ) 次の言葉を捜して、間があった。 ( おまえを抱いても最近は、まったくやる気がないし、心ここにあらずとの反応 じゃないか。きっと、浮気をしているのではないかと、思っていたんだ。 やはり、 そうだったのだな。 ) 体調がすぐれないとか疲れている事を理由に、夫との夜の営みをなるべく避ける ようにしてきた。完全に拒否してしまえば、何かあるかと疑われるのはみえて いる。 だから已む得ず時には応じざるをえない。しかし、夫に抱かれても冴子の体は、 もはや燃える事はなかった。ただ早く終わればいいと・・・・ メールには、黒田の熱い想いが、毎回綴られていた。夫は、冴子の不実の確たる 証拠を、今や掴んだのだった。 夫婦関係が長くなると、< 好きだ >との言葉すら、夫からはかけてもらえ ない。そんな冴子にとって、< 愛している >との言葉で終わる、黒田の メールはとても嬉しかった。 だから、就寝前にそれを繰り返し読み、私も愛しているとの返信後、総てを消去 してから、眠りについたのだった。それがいま、命取りとなってしまった。 床に打ち捨てられた携帯電話が、プルプルとメールの着信を知らせている。 進退窮まった冴子の顔はこわばった。どうしよう・・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.07
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にほんブログ村 第六章 ( R12指定 ) 学部長昇任の報せが、メールで冴子の携帯電話に入った。 二人は逢瀬を重ね、いまでは精神的にも肉体的にも、お互いを必要とする仲に までなっていた。 冴子は営業の外務員であったことから、朝礼と夕方会社に在籍すればいい わけで、日中はいかようにも時間調整が可能であった。黒田が講義を持って いない日に、お互いの時間をやりくりして逢った。 久しぶりに逢った黒田の顔に、学部長選挙確執の疲労感が残っていた。 ( おめでとう。よかったわね。 ) 冴子の言葉を唇で塞ぐと、黒田は下着を剥ぎ取るように脱がした。 ( どうしたの? 荒々しくて。) 黒田のものが挿入されると、冴子は言葉とは裏腹に腰を自ら動かし始め、悦びの 声を放った。夫との夜の営みとは違い、冴子は欲望のおもむくままに振る舞い、 そして大きく声をあげて頂点を迎えたのであった。 荒い呼吸が定まらぬままに、冴子は黒田の厚い胸に体を預け、 ( 学部長になれて、嬉しい? ) と、尋ねた。 ( さあ~、それはどうかな。名誉欲を満たされたというより、反対するやつらを 潰したという、快感の方が大きいのかな。) ( それって、どういう意味 ? ) ( うん。冴子を独占していた旦那から、心も体も奪ったという、快感と同じかも しれない・・・・) そう、言いきる黒田の目は、暗く沈んでいた。 黒田に抱かれている間は、冴子の頭に子供も家庭もなかった。しかし、満たされた 体から女としての意識はやがて薄れ、現実がいつも心を重く支配していく。 鏡を見ながらルージュをひく冴子の顔は、女から母の顔に戻っていった。 子供たちをお迎えにいかなきゃ・・・・ 夫とは、社内結婚であった。というより、同棲している内に妊娠してしまい、 やむなく結婚に至ったという方が、正しいのかもしれない。だから、一生の伴侶 としてふさわしいかどうか、熟慮を経た上での選択ではなかった。 性格的に正反対の二人で、子供の教育方針などをめぐり、ことあるごとに ぶつかる。でも、夫として満たされない部分があっても、子供達のよき父親で あれば、それでこれまでは十分と思っていた。 湯船で下の娘、梨華の質問に冴子は答えていた。 ( ママのおっぱいだって、昔は大きかったのよ。でも、桃華や梨華ちゃんが、 ママのおっぱいいっぱい飲んだから、小さくなっちゃったの・・・ ) ( ママ、ごめんね。梨華が大きくなったら、牛乳買ってあげるね。それ、飲めば また大きくなるよね? ) 冴子は二人の娘に囲まれ、この子供たちを育てあげることが、なによりも自分の 生き甲斐であると、再認識した。 ( のぼせるから、そろそろでようか? ) と、梨華の可愛らしい頬を、指で突いた。 その時突然、風呂場のドアーが開き、( かあさん、話があるから、俺の部屋まで来てくれ。 ) と、不機嫌そうな夫の声が響いた。 冴子は、怪訝に思いながら、湯船を梨華と出たのであった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.06
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にほんブログ村 第五章 学部長選挙を前にした学会での論文発表準備に、流石の黒田も緊張していた。 近松門左衛門の浄瑠璃・歌舞伎脚本における、男女間の< 愛の不条理 >を、 宗教的な観点から検証するという、文学界において斬新な試みであった。 近松の作品は、義理人情の葛藤を題材に、人の美しさを描いたものが多い。黒田の 論点は、<不倫>の概念は一夫一妻制を基にした、西欧キリスト教からくるもので ある。 日本には、仏教・神道など古来からあるが、基本的に日本人は無宗教の民族で、 <不倫>という概念そのものが、日本では成立しない。すなわち、男女間の燃えた ぎる愛は、独身でも既婚者間であっても、誰も停めることが出来ず、咎めることも なんぴとたりといえども、出来ないとするものであった。 学会での黒田の発表は、予想通り保守的な文壇の重鎮から、<倫理観>を盾に 反論の集中砲火を浴びた。特に、黒田が籍をおく仙台学院大学に、影響力がある 中野理事の発言は、出席者の驚きを呼んだ。 黒田の私生活を公衆の面前で暴き、今回の論文骨子は、それを自己弁護するものに すぎないと、こきおろした。これは、明らかに、学部長選挙における、反黒田派の 意向を受けたものと思われた。 黒田と対立候補の八代を巡って、学部長選挙審議会は紛糾していた。 学会前までは、黒田有利というのが、学内での大方の見方であった。しかし学会で 中野理事が、黒田と助手雨宮千佳とのスキャンダルを流したことで、形勢は逆転して いた。( 学長、よろしいでしょうか? ) 黒田が発言の許可を得て起立した。( 雨宮千佳との話は、事実無根であります。しかし、かような根も葉もない噂が 出ていること自体、私の不徳の至りであり、深く反省し皆様にお詫び申し上げ ます。 ) と、黒田は、居並ぶ教授陣の前で、深々と頭を下げた。 ( しかし・・・八代教授にお聞きしますが、木村恵子という名に、覚えはあり ませんか? ) 教授会全員の視線が、八代に向けられた。 ( なんの事か、とんとわからぬが。 ) ( そうですか・・学部長候補まであがっている方が、その程度の記憶力では。 ) ( 黒田君、馬鹿もやすみやすみ言ったらどうなんだ~!! ) ( 明日の東都新聞朝刊を、読んだら思い出すかもしれませんな・・ ) 実は、二週間前、黒田の大学時代の友人から、八代の大学入試にかかわる収賄疑惑に ついて、問い合わせがあった。彼は、東都新聞の社会部記者であり、木村恵子の両親 から垂れこみがあった事を暴露した。 仙台学院大学合格工作を条件に、3百万円を八代教授に渡したが、結果は不合格と なったので、マスコミを通じてこの恨みを晴らしたいというのだ。八代は他受験者 に対しても、 同様な収賄行為をしており、その裏付けはとれてるとの話であった。 なるほど、これで合点がいく。今回の学部長選挙のため、八代はその金をばらまい たのだ。 < この話は、雨宮千佳とのスキャンダルを封殺するために、審議会当日に 使おう。> 同じ大学のスキャンダル故、友人のよしみで新聞発表は、しばらく抑えてくれる ように、 依頼しておいたのだった。 審議会の翌日東都新聞に、八代の収賄疑惑が大きく報道された。 そして、学部長選挙は黒田の思惑通り進み、彼の就任が最終的に決まったの だった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 にほんブログ村
2023.11.05
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にほんブログ村 第四章 ( R12指定 ) 黒田と過ごす時間が多くなると、鎖から解き放されたように、冴子は女としての 目覚めを覚えるようになっていった。 ( 黒さん、温泉に行きたいな・・ ) ある日、冴子が突然言い出した。 ホテルで逢って数時間愛し合うのが、関の山の二人の逢瀬。黒田も夜を共に過ご したいと、予てから願っていた事であった。 しかし、相手は人妻であればそれは叶わぬことと、半ばあきらめていたのだった。 会社の行事で旅行があるので、それを外泊する理由にすると、冴子は説明した。 当日約束の場所で冴子を拾うと、目的の温泉へと向かった。 どうせ泊まるなら想い出に残るところということで、日本秘湯の会のメンバーで 山峡にある温泉を選んだ。麓の温泉街を抜けると、一車線の山道となった。 冴子はいつも以上に明るく、楽しそうに車窓からの景色に見入っている。 ( 黒さん、クマに注意なんて、看板があるよ。本当に、クマッタもんだ・・ ) 黒田のおやじギャグに感化され、最近は冴子の方からこんな事を言うように なった。 山道を登りきると急に開け、そこに木造の旅館があった。 ニャ~アという猫の鳴き声が出迎え、ここの主人であろう男が出てきた。 ( よくいらっしゃいました。 ) 昔ながらの帳場があり、宿帳に名前を記入し終わると、部屋に案内された。 12畳の広間に、4畳半の離れがついている。季節が冬に向かっていることから、 炬燵が部屋の中心部に置いてあった。 浴衣に着替えた冴子は、また一段と艶やかさをまし輝いている。 ( 冴子の浴衣姿もいいなあ~~! ) ( 惚れ直した? こうやって、二人で浴衣なんて、本当の夫婦みたいね・・ ) ぎしぎしと時代がかった階段を下りていくと浴場があった。浴場といっても それほど大きくない木製の湯舟。 ( 黒さん、誰もいないから、いっしょに入ろう~?! ) 男湯、女湯とも書いてないことから、家族風呂か混浴なのかもしれない。 浴衣を脱ぎ捨て、二人で湯船につかると、お湯が一気に溢れ出した。 山峡の宿だけに、夕食は川魚や山菜が膳を飾っていた。 食事を済ませると、主人が早々と布団を引きに、部屋に入ってきた。 夜具が 2つ並べられた部屋は、黒田と冴子の愛の園である。 ( もっと近くにしようね・・ ) 冴子はそう言いながら、夜具を引き寄せて敷いた。 浴衣からはだけた冴子の裸身を抱きしめながら、黒田はこの時間がいつまでも 続くこと願った。冴子は冴子で、今日は家に戻らなくていいとの思いが、いつも より感情を高ぶらせ、激しく燃え上がったのだった。幾度となく頂点を、極め ながら・・・ 静寂の中でお互いを見つめた。 ( 黒さん、愛してる・・ ) ( 世界で1番 ? ) ( う~~ん・・・子供が1番、黒さん2番。 3時のおやつは、文明堂~~~ ) ( も~~、冴子ったら・・ ) 夜具から出された手を握りしめ、二人は知らない間に眠りについた。 このような時間がまたあるのだろうか?と、お互いに思いながら・・・ ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.04
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にほんブログ村 第三章 ( R12指定 ) エレベーターを降り右側に曲がると、608の部屋があった。( 今なら、まだ遅くはない。このまま戻れば・・・ ) との理性の声とは裏腹に、冴子の手はドアをノックしていた。 部屋に入ると、冴子は黒田に抱きしめられた。唇が重ねられ、舌が挿入されると、 冴子の全身を快感が、電流のごとく走った。 崩れ落ちそうになる冴子を抱え、黒田はブラウスのボタンをひとつずつ、はずしに かかった。( 待ってください・・・ ) 冴子は観念したように自ら衣服を脱ぎ、白磁のような肌を黒田の前にさらした。 そして、熟れきった肢体をシーツで覆い隠しながら、冴子はベッドに横たわった。 固く起立したものを、黒田が埋め込んだ時、ひときわ高い喜悦の声を発しながら、 冴子は 黒田にしがみついたのだった。冴子の中の<女の性>が、闇の中で怪しく うごめいた。 冴子の心は、混乱のきわみにあった。 夫との夜の営みに、これまで不満を感じたことはない。というより、こんなもの なのだと思っていた。 しかし、黒田に抱かれた時、夫とはまったく違う自分の体の反応に、驚いた。 そして、女としての深い悦びが、訪れたことに・・・・ 身支度を終えて、ホテルを出る頃には、冴子にいつもの妻として、母としての 顔が戻っていた。 郊外の新興住宅地に、小さいながらもマイホームがある。 ( なんで、こんなに遅いんだ!!) ( すいません。お客様と新規契約のことで、打ち合わせがあったので・・・・) 夫武田伸治は、読んでいた新聞から目をはなし、冴子を非難するように一瞥した。 冴子が働きに出ることを伸治は、良しとしていなかった。しかし、彼の薄給で 住宅ローンを返済し、二人の娘の教育費まで賄うことは無理なことから、渋々と 承知したのだった。 残業や客の接待で冴子が家に戻るのは 8時を過ぎる事が多い。 先に帰宅する伸治はこれを、いつも面白く思っていなかった。 ( ママ、遅くまで、ご苦労様でえ~~す! ) と、二人の子供たちの笑顔があった。 どんなに疲れていても、この笑顔がいつも冴子を、元気にしてくれた。 ( 夕飯は、ちゃんと食べたの? ) 台所の洗い場に積まれた食器を見ながら、 < 自分は今までいったい、何をやっていたのだろう・・・ > と、良心の呵責にさいなまれた。 しかし一方では、黒田の灼熱の棒によって誘われた、桃源郷の余韻と下半身の 火照りが、いまだおさまっていなかった。 女としての性に目覚め、愛を追い求める自分がいた事に気づき、冴子はこれから どうなるのかと、怖れを抱いたのだった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.03
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にほんブログ村 第二章 黒田からの誘いを受け、なぜいとも簡単に男と女の関係になったのか、いま 考えても 冴子にはよくわからなかった。もしかしたら、冴子の深層心理に、その ような女としての欲望が、もともと蠢いていたのかもしれない。 約束の場所に出向くと、洒落たバーのカウンターに、黒田が一人で座りながら、 グラスを傾けていた。( おばんです。遅くなってすいません。お待ちになりました? ) ( いや、僕もいま来たばかりですから。ここ、すぐわかりましたか? ) カウンターの灰皿に、タバコの吸い殻が数本あることから、黒田がかなり前から 来ていたことがわかる。 ( え~、うちの会社は行事があると、なにかとこのホテルを、利用しています から。) 何気ない会話から始まり、幅広い黒田の話題につられ、冴子の心は次第にはずんで きた。 洗練された黒田の受け答えは、中小企業で汗水流しながら働いている夫とは 違い、総てが冴子にとって新鮮であり、また興味がつきなかった。 芳醇な香りの赤ワインが冴子を酔わせ、いつもより饒舌にさせていた。 黒田は冴子の顔を見つめた。アルコールでほのかに上気し、自分の話に興味深げに 耳を傾けている。 研究室の助手千佳とは違う、成熟した女の色香を、冴子には感じる。 千佳と黒田は肉体関係にあった。しかし、それはお互いの性欲を満たすだけの、 単なる男女関係に過ぎない。少なくとも、黒田にとっては。 ( 冴子さんには、妻と母と女という、三つの顔がありますよね? ) 黒田の唐突な質問の意味が、冴子にはよくわからなかった。 ( つまりですね・・・日常生活の妻として、母としての顔。でも、それらに 隠されているけれど、冴子さん本来の女としての情念・・・愛や性がある はず。それを僕にくれませんか?? ) 黒田が真剣な顔つきで、冴子に問いかけた。 ( えっ!!それってもしかしたら、私をくどいてるの?? ) ( そうとられても、構いません。 ) 明らかに、冴子が動揺しているのが、目の動きでわかった。 ここで退くべきか、それともさらに攻めるべきか・・・ ( 既婚者が恋しては、いけないのですか? ) 黒田は追い打ちをかけるように、冴子に問いかけた。 結婚してからは特別な関係を、夫以外の男とこれまでもった事はなかった。でも それは、既婚者は恋をしてはいけないというより、心をときめかす相手に、遭遇 しなかっただけなのかもしれない。 営業所内で一番の美人と噂される冴子だけに、取引先の男性からの誘惑は日常 茶飯事のようにあった。しかしそれらは戯言として、いつも聞き流していた。 友達から黒田を紹介された時、やさしさの中に、毅然とした男の生き方を持って いる姿に、初対面の印象はよかった。冴子の対面する実業界ではなく、大学で 教鞭をとっていることも、興味をそそった。そうでなければ、こうやってわざわざ 逢いに、くることはない。 小一時間も、楽しく話した後だろうか、 ( それでは部屋で、待っているから。 ) と、< 608 >と書かれたコースターを、冴子の前に置きながら、黒田は 立ちあがった。 入り口で清算している、黒田の後ろ姿を目で追いながら、冴子の胸はなぜか 高鳴った。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.02
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にほんブログ村 文学青年であった皇子は、若い時に数々の詩や短編小説を、書き上げました。 2011・3・11 東日本大震災を郡山で被災し、会社にも行けずただ 自宅待機という時にも、 暇に任せて < 愛の流転 > という、短編小説を。 世間一般では許されぬ< 人妻の恋 >をとりあげ、その女性心理を切々と 書き上げたものでした。 数年前に公開した際、ブログ界に一大 センセーションを巻き起こし、鬼才 < 悠愛皇子 > の新たな妄想に、誰もが驚いたものでごじゃりまする。 その内容に感激したあるブロ友さんより、自らメガホフォンをとって映画化の、 企画提案もありました。しかし結局、資金難で本件は頓挫。 キャステイングなども 決まっていただけに、多くのブロトモさん達が残念に思ったものでした。 その後、< ヘルぺスの徘爺 >や< 腐乱だすの居ぬ >の 後継作として、カルピス名作劇場でテレビドラマ化の話もありました。 しかし、本作品の官能的な表現が、12歳以下には好ましからず、また80歳以上 には興奮のあまり脳梗塞を招来する危険ありとして、映倫の審査を通らず。 ブログ歴も長くなり、10年以上になりました。 その中でブロトモさんも入れ替わり、わてのお気に入りで< 幻の迷作 >とも 呼ばれている本作品を、今般再掲載することと致しました。 今や想像力も創造力も枯渇し、昨日の夜は何を食べたかも、思い出せない日々。 かような作品は、もう二度と書けませんので・・・ 毎日コメントをいただいている約40名のブロトモさんの内、3割の方が 当時からの長いお付き合い。あはっ・・これ読んだことがある!!と、 しゃ~ないこと言わないで、あの感動をいま一度味わって、くださいませませ。 第一章 新興住宅街の朝は、明けるのが早い。 4時ころになると、各家の門扉からそれぞれの一日が、スタートする。ジョギング ウエアーでの男、犬を引き連れた老夫婦などが、次々と現れる。新聞配達人と 挨拶を 交わしながら。 冴子は台所でいつものように、夫と子供二人の弁当を詰めていた。 最近キャラ弁というのが、流行っているようである。情報として冴子の耳には 入っていたものの、出勤前の慌ただしい時間で、そのような手の込んだものを 作る余裕も時間もなかった。 夫と子供達の世話に明け暮れていた冴子にとって、日々の穏やかに過ぎる時間が 総てであった 。 このような生活に冴子が、決して不満を感じていたわけでは ない。 しかし、黒田に出逢って以来、一人の女性としてこのままでいいのかと、思う ようになっていった。現状の生活以外に女としての幸せが、もしかしたら あるのではないか? 幼少の頃、冴子は雪深い会津に住んでいた。遥か彼方の飯豊山連峰の向こうに、 幸せのコウノトリがいるのよねと、母に尋ねたごとく。 冴子の生活の根幹を変えた、そんな黒田との衝撃的な出逢いであった。 窓辺から差し込む光に、黒田は庭の木々に目をやった。 陽射しは日毎に、柔らかさを増していく。北国の遅い春も、すぐ側まで来ている 事が、肌で感じられた。 来週の学会で、発表する論文に、黒田は筆を入れていた。象牙の塔という、社会 からは隔絶された世界で、黒田の論旨は恒に、世の中の一歩も二歩も先を行って いた。保守的な考えに凝り固まっている周囲から、理解を得られる事は なかなか難しかったが。 筆を止めて、黒田はふと冴子の事を想った。 黒目がちの瞳、形のいい唇、ストレートな長い髪、ウイットに富む会話、そして 冴子の魅力的な肢体。総てが、黒田の中の男を久しぶりに、呼び起こしたの だった。 短い会話を通じて、冴子が人妻である事はわかったが、それは黒田の欲望を 高めても、抑止する言葉にはならなかった。 パラパラとページをめくって、一陣の風が窓から書斎の奥へと、通り抜けて いった。 ==つづく== ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.11.01
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にほんブログ村 怪傑ゾロって、知っていますか? 怪傑ゾロ( 英: The Mark of Zorro )とは、1919年アメリカの作家 ジョンストン・マッカレーの冒険小説です。1920年には、ダグラス・フェア バンクス主演で映画化され、世界各国で人気を博しました。 その後、何度も映画化され、1998年と2005年にはアントニオ・バンデラス が、ゾロを演じる作品2作も公開され大ヒット。吾々の世代が見た怪傑ゾロは、 この映画ではないでしょうか。 スーパーマンと同じく、長年に渡って愛され続けている、大衆文化の ヒーローといえます。なおゾロ(Zorro)とは、インディオの守護獣である黒狐 を意味する、スペイン語なのです。 しかし怪傑ゾロとは、実は皇子の仮の姿であったことを、知っている方は多くは いません。というか、誰も知りません・・・ その話を解きあかす為には、皇子の誕生秘話まで遡らなければ、ならないのです。 皇子は、五摂家のひとつ三条家の三条実美と、当時祇園でちょ~売れっ子であった 舞姫、 まめ奴の間の< 落しだね >であったのです。いまや、口さがない ブロ友さんからは、< お歳だね >と嘲笑されておりますが・・・ 当時、太政大臣まで登りつめた実美は、腎臓病を患っておりました。 その為、< 塩分 >はまずい、この< 艶聞 >をよしとせず、皇子を 里子にだしたのでごじゃりまする。 メキシコの大地主の子、ドン・デイエゴとして・・・ 幼いころから、詩経六義を習得し < 神童 >と呼ばれた皇子は、その博識を 生かしてタコスを製造・販売しておりました。しかし、明石のタコを使って いないことから、( この、たこ!!す~~ ) と、消費者庁からクレームがつきました。 これではあかんと考えた皇子、ピケテイの経済学を学び、富裕層宅に押し入り 金品財宝を窃盗することを考えました。 富の再配分だす。 そして、盗んだ金はユニセフ経由で、メキシコの貧民のみならず、世界各地の 貧しい人々へ寄付されたのでした。 当時、イケメン皇子のマスクをした顔が、( なにせ、マスクをしている ので、イケメンかどうかは、定かではありませぬが )ニューズウィークや タイムの表紙を飾り、< 魂の救世主・現代の石川五右衛門 >と 称されました。 そこに、目をつけたスペイン政府とメキシコ政府は、皇子をなきものとしパナマの 隠し口座から、あしながおじさん貯金をかすめ取ろうしたので ありまする。 しかし、皇子は愛馬 ロシナンテにまたがり、従者サンチョ・パンサーと 共に、ピンク・パンサーの曲にのって、神出鬼没・変幻自在。 このときの活躍が、後に総合デイスカウント・ストアーとして有名になった、 < ドンキ・ホーテ >の名前の由来となったのです。 皇子は頻尿なことから、行く先々でズボンおろし、犬のマーキングごとき、 片足をあげ放尿をしたのだす。 その印は、朝日に燦々と輝く < Z > 。 ほのかに香り立つ匂いとフェロモンに魅かれ、メキシコのヒメコや邪馬台国の ヒミコなどから、< Z >は回春の印、青春の輝きとして、< 怪傑ゾロ > と呼ばれました。 しかしそんな皇子もよる年波にはかてず、名刀正宗も錆びつき、抜こうにも 抜けない。過去のイメージをたよりに慕ってくる、熟女達の熱い想いに応える 事が、悲しいかな出来なくなってしまいました。 人の気持ちは移り気なもの。かっての栄光の印 < Z >怪傑ゾロは、 いまや< 解決ゼロ >として人々から、蔑まれておりますのでごじゃり まする。 しょんぼりのしょんぼり。 ♪ ぼうや~、いいこだ~~、 ねんねしなあ~~ ♪ 日本昔話より、抜粋。 おちまい。。 ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.06.06
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にほんブログ村 なぞかけとは、A とかけましてBととく、その心はC とする、言葉遊び。 A と Bは一見どちらも関係がない言葉ですが、AとBの共通する部分Cをオチと します。 人形焼きメーカーのショウエイが、なぞかけコンテストとして、作品を 公募したことがありました。 お題は・・・・ 東京とかけて 〇〇 ととく、 そのこころは □□ でしょう 皇子も応募しましたがな・・ 東京とかけて どんぐりコロコロととく、 そのこころは 小池(おいけ)にはまって、 さあ~大変でしょう これまでは自公で思うままに運営された都政も、小池知事の出現によって さ~大変と、当時の時世を揶揄したもの。 もう一つが、 東京とかけて ド・レ・ミ・ファ・・・シ・ド ととく、 そのこころは ソ・ラ がない でしょう。 高村光太郎の智恵子抄の有名な、< 智恵子は東京に空が無いという > 一節にかけたわけです。 なんと、まあ~~格調の高い、掛詞ではあ~~りませんか!!! ところが、ところが・・・結果はあえなく、落選。 皇子のこれまでの知識を総動員し、渾身の力をこめて作った作品だけに、 この結果がどうしても納得が出来ません。 特に選ばれた最優秀作品が、しょぼかっただけに・・・ 怒りの皇子は・・ 人形焼きとかけて ガラケーととく そのこころは・・過去の遺物 いかん、いかん・・謙虚に結果を受け止めねば。 敗軍の将は兵を語らずという故事があります。戦いに敗れた将軍は、 兵法について語ってはいけないという意。いさぎよく負けを認めて、あれこれ弁解 してはならず、また、失敗した事柄について意見をしてはいけないという 意味です。 しかし、負けには必ずその理由があるのです。原因を分析し、次なる戦いに 備える事こそ肝要であって、その失敗が成功を産むわけ。従って、敗軍の将は 反省のもとに、冷静に兵を語らなければならないのです。 ん~~~~~~で、落選した原因を分析した結果、審査委員が聞いたこともない、 桂三輝( サンシャイン )という、外人の落語家だったんよ。 ぎゃ~じんさんは、どんぐりころころの童謡など知る由もなく、ましてや 高村光太郎の知恵子抄など、読んだことはないでしょう。 ガッテン、ガッテン!!! 日本ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.03.20
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にほんブログ村 さ~あ、やってきました、みなさんお待ちかねの、初笑いの日。 それでは、今年もわろてんか!!! 運転免許取り立てで怖いのが18歳、 運転免許を持っていても、もっと怖いのが81歳。 冬の皮下脂肪を気にする18歳、 夏の日下死亡が気になる81歳。 面白いものがないかとふらふら歩くのが18歳、 歩くだけでふらふらするのが81歳。 ベンツに乗りたい18歳、 ベンツうがこないのが81歳。 同じ台詞だとわかりながら言うのが18歳、 同じ台詞だと言わなければわからないのが81歳。 夜遊びで帰ってくるのが18歳、 夜の徘徊で帰されるのが81歳。 音漏れでうるさいのが18歳、 尿漏れでくさいのが81歳。 テントウムシのサンバが18歳、 転倒主の三婆が81歳。 最中をさいちゅうと読むのが18歳、 もなかと読めるのが81歳。 インスタはSNSが18歳 インスタはコーヒーなのが81歳 手をつなぐのは愛の証が18歳 転倒防止の為が81歳 さて、あなたの今年一押し( 身につまされた? )の作品は、どれですか? 一番多かった作品を、バカボン大将(大賞)としたいと思います。 受賞したからって、なんの意味もありませんが・・ 因みに、昨年度の作品は・・・ 優先席に座って譲らないのが18歳、 譲れと言えずに座れないのが81歳。 授業中に昼寝をするのが18歳、 食事中にコックリするのが81歳。 次の干支を言えるのが18歳、 え~~と、なんだってけ?と呟くのが81歳。 スリーサイズの体型が18歳、 ワンサイズが81歳。 ヴァレンタイン・デーに彼女からチョコが来るのが18歳、 誰からもこず自分で買いに行くのが81歳。 立って足元が見えるのが18歳、 腹しか見えないのが81歳。 これって特よね、決めようか?と18歳、 そうかその特養にすっぺと81歳。 骨折してすぐリハビリにはいるのが18歳、 そのまま寝たきりになるのが81歳。 歯を磨くのが18歳、 入れ歯を洗うのが81歳。 ファッションとしてのマスクが18歳、 化粧をしない顔を隠すマスクが81歳。 美人によろめく18歳、 そうでなくてもよろめく81歳。 疲労の象徴のいびきが18歳、 生存の確認のいびきが81歳。 愚痴をこぼすのが18歳、 ごはんをこぼすのが81歳。 食べたばかりなのにお腹がすくのが18歳、 お腹がいっぱいなのに食べていないと主張するのが81歳。 日本ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2023.01.03
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にほんブログ村 みなさんお待ちかね、年初の恒例行事、高齢行事。 それでは、今年もわろてんか?! 9時まで寝るのが18歳、9時までに寝るのが81歳。 涙もろいのが18歳、骨がもろい81歳。 鬼滅のヤイバが18歳、死滅がヤバイの81歳。 恋のフーガで道をはずすのが18歳、 入れ歯はずしフガフガなのが81歳。 秘密がもれたらあかんと18歳、 尿がもれたらいかんと81歳。 15秒あれば記憶出来るのが18歳、 15秒たてば忘れてしまうのが81歳。 映画のタイトルからこれ見たねと18歳、 総て見終ってもこれ見たかしら?と81歳。 忘れ物で廊下に立たされるのが18歳、 立つことそのものが忘れものとなった81歳。 前屈・後屈自由なのが18歳、 足の爪が切れなくなったのが81歳。 ヨシキ~、XJAPAN~!! と絶叫するのが18歳、 アシキ、バッテンジャパン!!と怒り狂うのが81歳。 年賀状がこなくて、 どうしたのかな?と心配するのが18歳、 到頭亡くなったかと思うのが81歳。 バースデー・ケーキに、 ロウソクを立てるのが18歳、 線香を立てるのが81歳。 押し売りが来て、玄関先で断るのが18歳、 家に上げ話し相手とするのが81歳。 朝、今日も元気だと18歳、今日も生きてると81歳。 マスクの種類にも気を使う18歳、 マスクの下の化粧にも気にしない81歳。 優先席でスマホに興じるのが18歳、 スマンホ~座らせてくれやと81歳 エトを直ぐ言えるのが18歳、 エ~トなんだっけ?と躊躇する81歳 いかがですか?わての作品・・ どうぞみなさまも、お正月で鈍った頭をふりしぼり、弊ブログコメント欄に 楽しいものを、カキコしておくんなまし。 初笑い・・ワッハハ、ウッシシと、みんなで盛り上がりませんか??? ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2022.01.05
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にほんブログ村 年初の恒例行事、高齢行事。 それでは、今年もわろてんか?! 優先席に座って譲らないのが18歳、譲れと言えずに座れないのが81歳。 授業中に昼寝をするのが18歳、食事中にコックリするのが81歳。 次の干支を言えるのが18歳、え~~と、なんだってけ?と呟くのが81歳。 スリーサイズの体型が18歳、ワンサイズが81歳。 ヴァレンタイン・デーに彼女からチョコが来るのが18歳、 誰からもこず自分で買いに行くのが81歳。 立って足元が見えるのが18歳、腹しか見えないのが81歳。 これって特よね、決めようか?と18歳、そうかその特養にすっぺと81歳。 骨折してすぐリハビリにはいるのが18歳、そのまま寝たきりになるのが81歳。 歯を磨くのが18歳、入れ歯を洗うのが81歳。 ファッションとしてのマスクが18歳、化粧をしない顔を隠すマスクが81歳。 美人によろめく18歳、そうでなくてもよろめく81歳。 疲労の象徴のいびきが18歳、生存の確認のいびきが81歳。 愚痴をこぼすのが18歳、ごはんをこぼすのが81歳。 食べたばかりなのにお腹がすくのが18歳、 お腹がいっぱいなのに食べていないと主張するのが81歳。 わろんてか2020、はこんなものでした・・・ お年玉もらうのを忘れるのが18歳、あげるのを忘れるのが81歳。 アクセルを踏み込むのが18歳、踏み間違えるのが81歳。 オツムがいいのが18歳、オムツがいいのが81歳。 踏ん張ると出るのが18歳、キレルのが81歳。 人混みの中でスマホ歩きをするのが18歳、すまん、ほ~とよろけるのが81歳。 目を閉じても覚醒するのが18歳、閉じたら二度と覚醒しないのが81歳。 アレ・ソレを指示代名詞として使いこなすのが18歳、 アレ・ソレしか使えないのが81歳。 具合が悪くなると病院に行くのが18歳、悪くなくても行くのが81歳。 行く年に思いをはせる18歳、なにも思いだせない81歳。 来る年に頑張るぞ!と18歳、生きているかな?と81歳。 それではみなさん、今年も楽しくワッハッハと・・◎◎歳の皇子。 ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2021.01.03
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にほんブログ村 昨年1月の弊記事で、18才と81才の違いを、取り上げました。=============== 道路を暴走するのが18才 逆走するのが81才 心がもろいのが18才 骨がもろいのが81才 恋に溺れるのが18才 風呂で溺れるのが81才 ドキドキが止まらないのが18才 動悸が止まらないのが81才 恋で胸を詰まらせるのが18才 餅で喉を詰まらせるのが81才 まだ何も知らないのが18才 もう何も覚えていないのが81才 偏差値が気になるのが18才 血糖値が気になるのが81才 自分探しをしているのが18才 みんなが自分を探しているのが81才 東京オリンピックに出たいと思うのが18才 東京オリンピックまで生きたいと 思うのが81才 「嵐」というと松本潤を思い出すのが18才 鞍馬天狗の嵐寛寿郎を思い出すのが 81才 社会に旅立つのが18才 あの世に旅立つのが81才 早く「二十歳」になりたいと思うのが18才 できれば「二十歳」に戻りたいと 思うのが81才 受験戦争を戦っているのが18才 アメリカと戦ったのを目撃したのが81才 どちらかといえば、どちらかといえばですよ、81歳に近い皇子も 作ってみました。 それではわろてんか 時間の経過を長く感じるのが18歳、もう1年経ったかと思うのが81歳。 まだ寝てたいと思うのが18歳、まだ生きていると起きるのが81歳。 山頂を目指すのが18歳、山頂から転げ落ちるのが81歳。 恋で胸が苦しいのが18歳、不整脈で胸が苦しくなるのが81歳。 フランス語をモレシャンから学ぶのが18歳、尿がモレシャンとなるのが81歳。 夢を夢見るのが18歳、夢にうなされるのが81歳。 興奮が輝きの18歳、興奮が命取りの81歳。 将来の夢は俳人が18歳、今の現実廃人が81歳。 誕生日ケーキを一息で消せるのが18歳、吹いたら立ちくらみするのが81歳。 犬をひっぱるのが18歳、犬に引っ張られるのが81歳 四季の移ろいの中にいる18歳、死期のうつろいの中にいる81歳。 朝帰りと言われるのが18歳、徘徊帰りと言われるのが81歳。 きばらないと出ないのが18歳、気張らずとも漏れてしまうのが81歳。 ウオーカーを読むのが18歳、ウオーカーに頼るのが81歳。 妖怪を描く18歳、要介と書かれた81歳。 華麗と称えられる18歳、加齢と診断される81歳。 何枚だと数える18歳、ナンマイダと唱える81歳。 明日への旅路を希望と捉える18歳、黄泉へと読み替える81歳。 買いたいものはあるけどお金がない18歳、 お金はあるけど買いたいものがない81歳。 冠婚の招待がくるのが18歳、葬祭だけになってしまったのが81歳。 ポケモンGOに興じるのが18歳、ぼけもんGOとなったのが81歳。================== 今年もいきますかあ~!!・・・ お年玉もらうのを忘れるのが18歳、あげるのを忘れるのが81歳。 アクセルを踏み込むのが18歳、踏み間違えるのが81歳。 オツムがいいのが18歳、オムツがいいのが81歳。 踏ん張ると出るのが18歳、キレルのが81歳。 人混みの中でスマホ歩きをするのが18歳、すまん、ほ~とよろけるのが81歳。 目を閉じても覚醒するのが18歳、閉じたら二度と覚醒しないのが81歳。 アレ・ソレを指示代名詞として使いこなすのが18歳、 アレ・ソレしか使えないのが81歳。 具合が悪くなると病院に行くのが18歳、悪くなくても行くのが81歳。 行く年に思いをはせる18歳、なにも思いだせない81歳。 来る年に頑張るぞ!と18歳、生きているかな?と81歳。 それでは、おあとがよろしいようで・・・ ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2020.01.05
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にほんブログ村 == 最終章 == 翌朝各紙の三面は、センセーショナルな見出しで、飾られた。 < 死を呼んだ、エリートサラリーマンの過激なプレー。。。> < 傷害致死か? 過失致死か? 深まる謎。。。 > < 銀行員、融資を餌に飽食のあげく。。。> テレビのワイド・ショーでも、各局がこの事件を取り上げ、面白おかしく報じて いた。 被害者は首を絞められること自身に、快楽を感じたものではない。性的感性が 人より非常に大きいことから、その行為を受けただけで性的に興奮している自分に 気づき、それが快楽になるのである。従って、その性的な欲求は果てしなく続き、 エスカレートしていくことから、これが死に至ったものではなかろうかと。 めぐみの性癖がマゾで、いく時に首を絞められると悦ぶと、明美は菅野に示唆 した。それは、めぐみと菅野がそのようなプレーに、いずれ走ると見ていたから であった。 直接手を下さなくても、明美の筋書き通りの殺人劇が、これで成就したのだった。 警察から事情聴取を明美も受けたものの、めぐみの日常の行動や菅野との交際 関係について、聞かれただけであった。めぐみの性癖について、明美が自ら述べる 必要も ない・・・・ この事件から数日後、ジョルジュをまた明美に任せたいと、京野より電話が あった。 ( 任せたいって??? 京野さん、なにとぼけたこと仰って・・・・ 自分がしたことを、想い出してごらんなさいよ!! ) 手切れ金 8千万円をもって京野との関係清算、そしてジョルジュの 無償譲渡を、 明美は京野に突きつけた。 ( それは・・・・ちょいと過剰な要求で、おまへんか?! ) ( 京野さん、私も京野組の株主なのよ。来月には、定例株主総会が開催予定 されてるし。 ) ( わてを恫喝するというわけか。おまえも、悪よの~~・・・・ ) 京野の女性関係や政界への裏金献金、そして使途不明金の事を、株主総会で追及 しても いいのね!、との明美の言葉に、京野はその条件を大筋で、のまざるを えなかったのだ。 ジョルジュは明美の手に戻ってきた。でも、これまでの自分の人生は、一体なん だったのだろうか? 自分の体を武器に、男たちを踏み台にして、己の夢を実現しようとしてきた。 純朴な青年からの求婚もあった。しかし、家庭で幸せな主婦に満足出来ないこと を、明美自身がよくわかっていた。 国分町のクラブのママという、華やかな世界でもっと素敵な夢が描けるのでは ないかと、水商売の道で生きることを求めてきたのであった。 しかし、男達との愛なきセックス、孤独から酒に溺れる夜。そして姉と慕い、全幅 の信頼を置いていた、めぐみの裏切り・・ 思い起こせば自分が経験してきたこと、 何もかもが虚しかった。 これからは何を夢見て、生きていけばいいのだろうか?? 昨夜来降り続けていた雪が、総てのものを白く覆い尽くしている。 コートの襟を立てながら、明美はとめどもなく歩いていた。 商店街から流れてくるジングルベルの曲は、今年も残すところわずかとなり、 また 新しい年がそこまで来ている事を、告げていた。 遠くから鈴の音が、聞こえてくる。 サンタさんの橇かしら? そして、二つの光輪が段々大きくなり、明美を包み込むように、暗闇の中へと 跳ねあげた。 == 完 == あとがき: 登場した人物、企業、団体は、すべてフィクションです。 真夏の夜の寝物語、東京エロチカ・サスペンス劇場、お楽しみ頂けた でしょうか? これにて、おちまいね・・・ ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.18
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にほんブログ村 == 第九章 == それにしても京野は、明美よりめぐみをなぜ愛人として、選んだのだろうか? 明美の方が若く、美貌においても、勝っているというのに・・・ 確かに、男は美しい花を求め、恒に飛びまわる蝶のようなもので、いったん その蜜を吸えば、また新しい花を渇望するものではあるが。 思い当たることといえば、 ( 男は、一般的に加虐趣味なのよね。ママだから、教えちゃうけど、私は性癖と してマゾなの。 だから、これでも結構もてるんだから・・・ ) と、めぐみが言っていたことであった。めぐみが、客と寝ていることは、明美も 知っていた。でも、それは彼女のプライベートな問題として、客同士のトラブルに 発展しないかぎり、明美は黙認してきた。 暴力的なセックスを京野も求める事がたびたびあった。明美は痛いのは厭だと して、そのたびに拒否してきた。京野が己のサドという性欲を満足させる為、 めぐみのマゾの性癖を選択したのだと、やっとわかったのだった。 ジョルジュの客の菅野と、めぐみはラブホテルにいた。 菅野は地元陸奥銀行の融資部長で、客の接待でジョルジュを使っているうちに、 めぐみと深い仲になっていた。ラグビー部で全日本選抜にも選ばれたことがある だけに、菅野の巨体は客の中でもずば抜けていた。 ( 菅野さん・・めぐみ、ね・・明美ママの後を継いで、お店をやることに なったの。 めぐみも新たなパトロンが必要なんだ。だから、資金的に応援して くれなあ~い? ) めぐみがその肉体と引き換えに、融資を引き出そうとしている・・・・ ( 最近、融資先の焦げ付きが多いんよ。それで、行内の審査基準が厳しくなって ね~。) ( あらあ~、そうなん。頭取も最近、ジョルジュに来ているみたいよ。だから、 菅野さんのこと話しちゃおうかな・・・) ベッドに横たわるめぐみが、狡猾な目で菅野を見上げた。 めぐみにマゾの気があると、菅野は以前からうすうす気がついていた。 この前、明美と電話で久し振りに話した時に、 ( これは、菅野さんだけに、話すけどもね・・) と聞いた事を、是非今日は試してみたかった。 めぐみに絶頂感が訪れようとした時、首に菅野は手をかけ絞め始めた。 ( いいよお~~~、もっと絞めてえ~~!! ) 明美の言った通りの、反応を示した。 快感に打ち震え腰を激しくふるめぐみを、菅野はさらに絞めあげた。 めぐみがエクスタシーに達すると同時に、菅野もこきざみな痙攣とともに、 はてたのだった。全体重をのせ覆いかぶさった、めぐみの肢体から今日は全く 反応がない。 いつもなら、( 菅野さん~~、重いよう~~!めぐみ、つぶれちゃう~~~!! ) と叫ぶのに。 荒い呼吸も聞こえない・・・・ 白目が天井を見上げ、口は開けたまま・・・・ 菅野は、一瞬何が起きたのか、わからなかった。 == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を、応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.17
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にほんブログ村 == 第八章 == 明美は混乱のきわめにあった。 国頼は京野の部下であり、その橋渡しをしたのが神戸????? 国頼、京野、神戸・・・ でもよく考えてみると、この三人が同一線上で繋がる。 京野組の意向を受けて、マンション用土地買収にあたった、第一不動産の神戸。 明美を巻き込んだ色仕掛けと神戸の恐喝で、最終的に自殺に追い込まれた国頼の 父。 その真実を知った国頼が、神戸に対して金銭と、京野組への就職斡旋を 強要したのだろう。 海千山千の神戸が相手の交渉であるから、すんなりといくはずがない。そこで国頼 の恫喝は、暴力的行為を伴った事は間違いない。国頼に抱かれた時、彼の背中に 龍の彫り物が、あった事を想い出した。 冷徹な言葉、そしてあの鋭い眼光は、裏街道人生を歩んできた、男のもので あった。 しかし、神戸が国頼に殺されている可能性が大きいと、京野が嘘を言ったのは どうして??? そして、国頼の報復として次は明美も、殺害されるかもしれないと。 ?????・・・・・・ あっ!!国頼に対しての明美の恐怖感を、京野はさらに増幅させるため、 意識的に脅かしの情報を流したのだった。 国頼はジョルジュの客として、京野の指示に従い明美に接触した。そして、第一不 動産時代の明美のヒミツをひもときながら、真綿で首を絞めるようにこれでもか これでもかと、精神的に追いつめていったのだった。 でも、どうしてもわからない。なんのためにそんな事を・・・・・ ( ねえ~、ママ・・・大阪弁って、人を小馬鹿にしたようで、感じが悪いと 思わない? 漫才であれば、それなりに面白いけど。日常会話で、アホ!木瓜なす!なんて、 言われるとね。 ) めぐみとの会話が、急に思いだされた。ジョルジュの客の中に、関西人はいない のに、何故めぐみが・・・・ え~~~~~~、まさか・・・嘘でしょう?!・・・ めぐみは、秘かに京野と通じていたのだ。愛人になる交換条件として、 ジョルジュのママの座を、京野に要求したのに違いない。 同じ店のちいままにやらせるから、お前は首だと明美に直接はいえない。 明美は京野の情婦として、政界工作などにも手を染め、京野組の闇の部分を 知っている。 困った京野は神戸に相談し、神戸は明美のヒミツを暴露した。そして、京野は 国頼を使って明美に、恐怖感を日々醸成していくことで、自分からジョルジュを 手放させるという、シナリオを描いたのだった。 6歳年上のめぐみにとって、国分町でママをはることは時間との戦いであり、 そのあせりがこのような卑劣な手段をとったのだ。すべてのシナリオを描いたのは 京野だろう。 彼に対する憎しみよりこの事件の発端となった、めぐみの裏切りのほうが 許す事 が出来なかった。 明美はめぐみを信頼し、姉のようにこれまで慕ってきた。そして、店の差配を 任してきただけに・・・・・ 明美の顔は、夜叉のごとく激しい怒りに、染まったのだった。 絶対にこのままでは、引き下がらないと・・・・ == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.16
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にほんブログ村 == 第七章 == 神戸は殺されたのに違いない、国頼の復讐が殺人を伴うものだと知らされ、明美の 背筋に冷たいものが走った。首に手をかけられたのは、次はお前を殺してやるとの 予告かもしれない。 京野に相談する為大阪まで行ったのに、結局は国頼に対する恐怖感を、増幅した だけであった。 ( 国頼には、きい~つけや!! )との話だけで、問題の解決に繋がるものは 何一つ、京野から得ることが出来なかったのである。 其の日の内に仙台に戻ると、自宅の固定電話に留守電のメッセージが、入って いた。 ( 京野に逢いに行ったのか。ご苦労なこった。なにか、わかったのかな? ウフフフ。。 ) どうして、自分が大阪に行き、京野に逢った事まで知っているのか? 生活の一部始終が、国頼によって監視されている!! それ以来明美の生活は、いいしれぬ不安と恐怖に、苛まれる日々となった。 街を歩けば、国頼がつけているのではないかと、恒に後ろを振り返った。自分の 部屋にいる時はいる時で、電話の呼び出し音がなれば、国頼からではないかと、 その音に怯えた。 窓を叩く風にさえ国頼の影を感じ、明美の精神は日増しに病んでいった。 朝起きても、寝不足の為に頭が重く、体もだるい。 開店前にいつも、めぐみから前日の売り上げを聞き、今日の女の子人繰りなどを 打ち合わせていたが、総てをめぐみに任せるようになってしまった。 食欲も失せ、顔色もすぐれない。北国生まれ特有の色白ではあったが、病的に 青味を増し誰が見ても、体調がすぐれないことがわかる。 国頼から逃げる為には、ともかく仙台を離れるしかない。 明美はジョルジュの経営権を、ちいままのめぐみに譲渡することを決め、総ての 手続きを終えた。 両親を幼い時に亡くし、天涯孤独な明美にとっては、故郷秋田にいまさら帰る 意味もなかったのだった。さりとて、仙台を去って、明美に何処へ行けという のか? こんな時やはり頼れる相手は、パトロンの京野しかいない。彼であれば、 大阪の繁華街例えば難波の何処かで、バーやスナックを開店させて、くれる かもしれない。 ともかく京野に逢ってみようと、電話も入れずに明美は大阪へと向かった。 仙台と違い、大阪の街は雑踏と人いきれで、溢れていた。繁華街を通り抜け、 瀟洒な家が軒並みを続けている住宅街へと。しかし、京野の家に近づくと、驚く 光景に遭遇した。 なんと、京野と国頼が談笑しながら、こちらへ歩いてくるのだ。 明美はあわてて、路地を曲がり身を隠し、二人をやり過ごした。 なんで、二人が知り合いなのか? よく考えてみれば、ジョルジュの住所や、明美の大阪行き、自宅の固定電話 番号など、国頼が一部始終を知っている事が、これまで腑に落ちなかった。 明美は、京野に逢わずそのまま踝を返し、仙台に戻らざるをえない。 自宅のマンションに着くと、着替えもせずに明美は机の中をかき廻し、古い 名刺ホルダーを探したのであった。 ( 第一不動産ですが・・・) 電話を入れると、明るい女の声が返ってきた。 ( すいません、神戸社長をお願いします。 ) ( 申し訳ございません。神戸は出張中で。。 ) 神戸はやはり、生きている。 ( 社長さんは、お元気なのですか? ) ( え~~、今日も業務上の連絡で、お話したばかりです。 ) ( つかぬ事をお聞きしますが、貴方、国頼さんという方知っている かしらあ~?? ) ( あ~~、京野組の国頼部長のことですかあ~~。) ( えっ・・・・・そう、そう。国頼部長はどうして、京野組に・・・) ( 神戸の話では、社長は国頼さんに借りがあるらしく、京野さんに頭を 下げて、京野組への就職を頼んだとか。 ) なんの屈託もなく、べらべらと話すこの女が、神戸の現在の情婦であると、 直感で明美はわかったのだった。 == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.15
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にほんブログ村 == 第六章 == 店がはねてマンションに戻ると、頃を見計らったよう夜2時に、必ず電話が なった。客の応対で疲れきった明美の体に、まとわりつくように。 受話器をとりあげると、何かを伝えるわけでもない、無言のメッセージ。そして、 一方的に切れる。ツー、ツーという音だけが、不気味に耳に残った。 明美はいたたまれずにその週末、仙台空港から大阪に向かっていた。 大阪にはパトロンの京野がいる。京野は一部上場ゼネコン、京野組の社長で あった。 京野組は秋田駅前再開発事業で、マンション建設などはば広く受注し、土地買収 の代行を第一不動産、神戸に委託していた。 その関係から、明美も京野と知り合う機会を得、いつしかパトロンを神戸から 京野へと乗り換えていた。というよりも、明美に興味をもった京野に対し、取引 がらみで神戸が明美を献上した、というのが真相であろう。 松林に囲まれた閑静な住宅街に、京野の大邸宅がある。 冠木門をくぐり抜けると、広大な敷地に飛び石が配置してある。 綺麗に刈り 込んだツツジの 喬木の山々に縁取られた、苔むしたその石を一つ一つ踏み締め ながら、明美は母屋へと歩みを進めた。 母屋から離れたところに、4畳半ほどの草庵風の茶室がある。 聚楽土の壁、閉めた障子に午後の陽が当たっていた。友禅の着流し姿で、京野は 笑顔で明美を迎えた。 ( ひさしぶりやないか。元気だったか? ) 点前をしながら、京野が尋ねた。 ( それが、京野さん・・・ ) 明美は事の一部始終を話したが、京野は驚く様子もなくただ黙って聞いていた。 ( その男は国頼という素性はあかした。でも、具体的な要求がなにもない・・ どう考えても、けったいな話やな。 ) そういうと京野は明美を抱き寄せ、膝の上に乗せた。 はだけた着物から、筋肉質の厚い胸元が現れた。60を過ぎている京野では あったが、若い時に建築現場で鍛えたその肉体は、いまだ若さを失っていない。 かすかに汗ばんだ体から、懐かしい父の匂いがふとした。 京野は、明美を膝の上で抱いたまま、 ( そう言えば、助けて欲しい・詳しいことはそちらにうかがって・・ と神戸から電話があってから、あいつと連絡がとれんのや。いまの明美の話と 合わせると、国頼に殺された可能性もあるな。 ) ( えっ~~~・・・・ ) ( 神戸はこれまで、悪行の限りを尽くしてきたから、殺されてもまあ~自業 自得というところはある。でも、国頼の復讐劇とくりゃあ、対岸の火事と いうわけにはいかんな。 神戸の次は、当然明美か俺ということか・・・・ ) 京野はフッとため息をつくと、そう呟いた。 どうだこのまま、ひと思いに死ぬか?と言いながら、首を絞められたあの感触が、 明美に鮮やかに蘇った。 == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.14
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にほんブログ村 == 第五章 == 薄れゆく意識の中で、自分の体を通り過ぎていった男達が、明美の脳裏に次々と 蘇ってきた。 神部に無理やり処女を奪われ、性的に女として< 調教 >されてきた。どうすれば、 男を喜ばせることが出来るのかと。明美はそれをもって、多くの男たちと交わって きた。 所詮男たちは、自分がステップアップする為の、いわば捨石。真の意味で心から 愛した男は、一人としていなかった。神戸にしても、犯されたという事実は別に して、むしろそれを逆手にとって<情婦>としての地位を、確たるものにしたに 過ぎない。 金銭的な援助や、社内での地位の確保は、肉体的提供の代償として決して、小さな ものではなかった。女一人でこの世を生き抜いていくには、仕方のない処世術 だったのだ。 時給換算 千円にも満たない給料では、生きていくだけで精一杯。明美が夢見た 華やかな生活は、望むべくもなかったから。 しかし、大阪在住のパトロンの援助で、ジョルジュのママとなってからは、金銭的 な目的で男を漁るという意識は失せていた。ジョルジュからあがる利益について は、彼と折半という約束ではあったが、情婦としての月々の御手当がそれ以外に あった。だから経済的にも申し分のない、生活基盤が出来上がっていた。 彼は、細かいことには口をださず、明美のやりたいようにやらせてくれた。 早くから両親を亡くした明美にとって、包み込むような彼の人間的な大きさに、 惹かれていたのも間違いなかった。その意味で、パトロン以上の存在かも しれない。 それが、なんでこんな男の手にかかって、殺されなければならないのか・・・ ( どうだこのまま、ひと思いに死ぬか? ) ( ・・・・・・・・) ( いくときに、こうやって首を絞めると、最高のエクスタシーが訪れるそうだ。 ためしに、やってみるか? ) ( く・・る・・し・・い・・・ ) 首にかけていた手を緩めると、不気味な笑いを残しながら、国頼はベッドを 離れた。 ホテルから逃げ出すように、明美は宮町のマンションに戻った。 南向きに面している明美の部屋は、こぼれるばかりの陽射しを受け、冬でも 日中は 暑いぐらいである。しかし、夜も更けた今の時間になると、冷気が支配し、 暗闇と孤独感が明美を迎えたのであった。 総ての部屋に灯りをつけ、クリーンヒーターに点火した後、疲れた体をダブル ベッドの上に、明美はそのまま投げ出した。 国頼の目的は、父親の死に対する、単なる復讐なのだろうか? 男は、国頼の息子だと正体を明らかにしただけで、具体的な金銭的要求などは ない。 では、何をもって償え、というのだろうか? 国頼とのこれまでの会話を反芻しながら、明美の気持ちは暗くそして深い奈落の 底へと、落ちていった。 まんじりともせず迎えた朝、静寂を破って電話が鳴り響いた。 ( よく、眠れたか? ) ( ・・・・・・ ) ( うふっ・・眠れるわけがねえ~よな。) 含み笑いと共に、くぐもった声が聞こえる。 ( さ~~て、この落とし前どうやって、つけてもらおうか・・? ) そう呟くと、国頼の電話は一方的に、切れたのであった。 == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.13
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にほんブログ村 == 第四章 == 店内に再び喧騒と賑わいが戻り、明美はそんな客達の間を、回遊して歩いた。 ( ママ、最近ゴルフはどうかねえ~~ ) みちのく電力の滝田部長が、明美の腰に手をやりながら、尋ねた。 ( それがねえ~、滝田さあ~ん。ゴルフもヨルフも、さっぱり ご無沙汰 なのよ。) ( ママみたい妖艶な体で、ヨルフが我慢出来るわけがないっしょ。 それとも、ファ~~~~~!!お客さ~~ん、OB ですう~~! ってか?! ) ( いえ、明美はオバンの OB でなくて、オジンでない OG ですう~~。) 滝田を取り巻いている連中が、一斉に声をあげて笑った。 店がはね、仙台プラザホテルに向かう、明美の足取りは重かった。 男の誘いを無視する事も出来る。でもそれでは、解決にはほど遠い。むしろ、 虎穴に入らざれば虎子を得ずで、相手の術にはまったふりをしよう・・・ しかし、前回のような期待感などなく、むしろ得体の知れない恐怖感が、明美の 心を 支配していた。 あの男は一体誰なのか? そして、いかなる目的で、私に近づいてきたのか? 他の男たちと同じように、明美の体が目的であれば、それはそれで手の打ち ようはある。いずれにしても、いまは相手の出方を見るしかない・・・ 着物をとかれ、明美の成熟した肢体が、灯りの中に浮かんだ。 三十を過ぎたとはいえ、乳房の張りと腰のくびれは、男の情欲をそそるには、 十分な魅力をもっている。 男に抱かれると、ここまでの心とは裏腹に、体が勝手に反応し始めた。 ( いやっ・・やめてえ~~・・・・ ) と叫びながらも、腰は快感を得ようと妖しく動き、そんな明美に早くもエクスタ シーが訪れようとしていた。 そんな明美を見下ろして、 ( おやじとも、こうやってやっていたのか?! ) と、男が冷たく言い放った。 ( ・・・・・・・・・・・ ) 滓のごとく心にひっかかっていた謎が、あのいまわしい記憶の蘇りと共に解け、 明美を驚愕させたのであった。 駅前再開発事業の中で、マンション用土地の購入交渉を、デベロッパー の代行 として、第一不動産の神戸があたっていた。多くの地権者が、売却に同意していく 流れにありながら、国頼夫妻だけが最後まで、頑として応じ なかったのである。 デベロッパーとの引き渡し期限もあり、神戸は国頼を色仕掛けで陥れる以外の方策 はないと思った。そして、神戸からその役割を、明美は命じられたのである。 父と孫のような年齢差に、神戸が期待するような男女関係が、はたして成立 するのか、明美は自信がなかった。しかし、国頼が元来女好きなこともあった のか、明美の手管をすれば意外にも簡単に、籠絡出来たのだった。 その情事の一部始終を撮った写真をねたに、暴力団を通じて恐喝 方々立ち退きを 迫った結果、国頼の自殺という結末を迎えたのであった。 この男が、あの国頼の息子だったのか・・・・ これまでの高揚した感情は、急速に萎えていった。 ( やっと、想い出してくれたようだな。神戸の女として、親父を色仕掛けで 陥落させ、挙句の果てに自殺に追い込んだ・・・・ ) ( 確かに、神戸の指示で、国頼さんとは寝たわ。でも、恨む相手が違うのでは ないの?! ) ( なるほど・・自分に、直接の責任はないというわけか。) 明美を見るその眼差しは暗く沈み、そして心の中を覗き込むように、 ( おまえは、自分の美貌と肉体を武器にして、いまの地位を築きあげたの だろう・・・・ そんなことがいつまでも、続くと思っているのか!!) 男は明美の首に手を廻し、ゆっくりと締め始めた。 ブログ村ランキング参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.12
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にほんブログ村 == 第三章 == 忘れかけていた過去を、一つ一つなぞるような男の質問に、明美は次第に いいしれぬ恐怖感にとらわれてきた。 この男は、自分の過去を総て知って、意図的に近づいてきたのだ。 ( あなたは、一体だれなの? そして、何の目的で・・・・・ ) ( そう先をいそがなくてもいい。いずれは、わかることだ。) 冷たく言い放つ男の目は、獲物捉えどのように料理しようかと考える、猛禽類 のようであった。 これまでの興奮も一挙に醒め、部屋から逃げるように出ようとした。 ( ところで、その老人が自殺したのは、知っているか? いや、自殺じゃないよな。いってみれば、神戸に殺されたのだから。 ) 追い打ちをかけるように、明美の背中に向かって男が叫んだ。 もしかしたら・・・ いや、そんなはずがない・・・ ホテルの前に待機していたタクシーに乗り込んだ明美は、宮町のマンションへと 向かった。明美の中に放たれた男の残滓が、不気味にまとわりつくよう、 ショーツを濡らし始めていたのだった。 其の日以来男が店に、再び現れることはなかった。 街は師走の風景に変わり、12月から光のページェントが始まっていた。 杜の都仙台の象徴は、定禅寺通りなどの欅の並木道。冬枯れして殺風景になった 姿を憂えた市民が、仙台七夕の天の川に例えたイルミネーションを飾ったこと から、光のページェントと呼ばれるようになった。 ジョルジュも忘年会などの客で、多忙を極めていた。 店が釣当台という一部上場企業のオフィス街に近いこともあり、取引先の接待場所 としてジョルジュは、よく使われていた。 その意味では、いい客層を掴んでおり、店の経営も比較的安定している。 明美より4歳年上のめぐみが、ちーままとして若い子たちを、うまく纏めて いた。常勤は明美とめぐみ、20歳代の女の子を5人アルバイトで起用し、週 2~3日勤務として、店には恒に4人がいるような、シフトを組んでいる。 彼女達は、学生や昼間働いている OL で、当日急に休みをとることも多く、人 繰りに苦労する毎日が 続いていた。 暮れも押し迫ったそんなある日のこと、常連客の一人と夕食を共にした後、 明美は店にその客と同伴出勤した。同伴出勤とは、クラブやバーのホステスが、 客と食事をしてそのあと一緒に、そのまま店にはいること。店によっては、 < 強制同伴日 >として、月に何回かその日を設けて、彼女たちに強要している ところもある。 店内は満席状態で賑わっており、カウンターに目をやると、あの男が座っている。 明美は、わざと男を無視し、側をすり抜けようとした。 ( ママ、お高くとまんじゃねえ~~ぞ!! ) 明美の腕を掴み、男が叫んだ。 店内の空気が一瞬凍りつき、総ての客の視線が二人に、注がれたのであった。 そこは、百戦錬磨のクラブのママである。 ( お客様、も~酔っていらっしゃるの? ) 掴まれた手をほどきながら、明美は男に微笑んだ。 ( この前と、同じホテルで待っている。 ) と小さく呟くと、何事もなかったように、男はグラスを傾けたのであった。 == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.11
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にほんブログ村 == 第二章 == カウンター越しに、明美を見つめる男の目は、もの悲しく暗く沈んでいた。 それは、冬ざれた日本海の波打ち際に捨ててきた過去を、突然明美に思い だせるがごとく。 ( あらあ~~、お客様は初めてですね。何処からいらしたんですか? ) ( 君がママか? ) と、ジャック・ダニエルのオンザロックを飲みほしながら、男は呟いた。 そして、 ( 店がはねた後、時間はとれるかな? ) 明美は、よくてよと即答した自分が、信じられなかった。 初対面の男の誘いに、いとも簡単にどうして、のってしまったのだろう?・・・ 自分がいつも相手にしている、サラリーマンとは異質な立ち振る舞い。そして、 同じ闇の世界でもがき苦しんでいる、救いようのない暗さ。 そんなものに抱かれたいとする、久し振りの情欲が、ふつふつと沸いてきたから かもしれなかった。 男は、仙台プラザホテル717と部屋番号の書かれたメモを、明美にそっと渡して、 立ち去った。 ジョルジュは通常午前1時が閉店なのだが、明美は常連客を追い出すようにして、 12時過ぎには店を後にすることが出来た。 10分ばかり歩いた処に、仙台プラザホテルがあった。さすがに、この時間繁華街を 外れると、人通りが少ない。ホテルのフロントの男と目を合わせぬようにして、 明美はエレベーターに乗りこんだ。 7階で降りると、717号室は通路の奥にある。ドアをノックすると、どうぞとの 乾いた声が中から答えた。 部屋に入るやいなや、男は無言で明美を抱きしめ、唇を重ねてきた。 形ばかりの抵抗は示したものの、明美の中の女が淫らにうごめいた。 かすかに煙草の匂いが残る舌が、明美の首筋を這いながら、男の手が乳房を まさぐる。 全身に快感の電流が走り抜け、明美はその場にもはや立っていられない。 もどかしく衣服を脱ぎ棄てた二人は、ベッドに倒れ込んだ。 明美の成熟した肢体が、ベッドサイドの灯りに照らされ、妖しく幾度となく 声を放った。 紅潮した明美の肢体は、うっすらと汗を浮かべ、静かに引いていく波の中で、 その余韻を楽しんでいた。 ( ママは、第一不動産で働いていたことは、なかったか? ) と、男は唐突に尋ねた。 水商売に足を染める前、明美は確かに第一不動産で、経理事務の仕事をしていた。 高校を卒業後知人の紹介で、地元の第一不動産に就職したのだった。 そこで社長の神戸に無理やり犯され、彼の愛人としての生活がその後数年続いた。 市内にマンションをあてがわれ、神戸は月数度訪ねてきては、泊まっていった。 でも、十年以上も前の話である。 ( それが、何か? ) ( 秋田駅前の再開発の話は、神戸から聞いた事がなかったか? ) 秋田新幹線開通を目当てに、秋田駅前の再開発事業が当時進行していた。駅前の 土地価格は高騰し、不動産バブルの様子を呈し、第一不動産の神戸は地権者との 立ち退き交渉や地上げなどに、確かに暗躍していたのだった。 ( 立ち退きを拒否していた、老夫婦がいたはずだが。。 ) マンション用地としての土地買収にあたり、立ち退きを頑として拒んでいた夫婦 が いて、神戸は暴力団を起用し嫌がらせを行っていると、寝物語で聞いたことが あった。 ( さあ~、そんなこと、覚えていないわ。 ) ( 覚えていない?! ざけんなよ!!! 神戸の女であったお前が、知らない はずがなかろうが! ) と、男は語気を荒げた。 == 続く == ブログ村ランキング、参加しています。 下の画像を応援クリックしてね。 ↓ にほんブログ村
2019.09.10
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