忘れかけていた過去を、一つ一つなぞるような男の質問に、明美は
次第に
いいしれぬ恐怖感に
とらわれてきた。
この男は、自分の過去を総て知って、意図的に近づいてきたのだ。
( あなたは、一体だれなの? そして、何の目的で・・・・・ )
( そう先をいそがなくてもいい。いずれは、わかることだ。)
冷たく言い放つ男の目は、獲物捉えどのように
料理しようかと考える、
猛禽類
の
ようであった。
これまでの興奮も一挙に醒め、
部屋から逃げる
ように出ようとした。
( ところで、その老人が自殺したのは、知っているか?
いや、自殺じゃないよな。いってみれば、神戸に殺されたのだから。
)
追い打ちをかけるように、明美の背中に向かって男が叫んだ。
もしかしたら・・・ いや、そんなはずがない・・・
ホテルの前に待機していたタクシーに乗り込んだ明美は、宮町の
マンションへと
向かった。明美の中に放たれた男の残滓が、不気味にまとわりつくよう、
ショーツを
濡らし始めていたのだった。
其の日以来男が店に、再び現れることはなかった。
街は師走の風景に変わり、12月から光のページェントが始まっていた。
杜の都仙台の象徴は、定禅寺通りなどの欅の並木道。冬枯れして殺風景になった
姿を
憂えた市民が、仙台七夕の天の川に例えたイルミネーションを飾ったこと
から、光の
ページェントと呼ばれるようになった。
ジョルジュも忘年会などの客で、多忙を極めていた。
店が釣当台という一部上場企業のオフィス街に近いこともあり、取引先の
接待場所
としてジョルジュは、よく使われていた。
その意味では、いい客層を掴んでおり、店の経営も比較的安定している。
明美より4歳年上のめぐみが、ちーままとして若い子たちを、うまく
纏めて
いた。常勤は明美とめぐみ、20歳代の女の子を5人アルバイトで起用し、
週
2~3日
勤務として、店には恒に4人がいるような、シフトを組んでいる。
彼女達は、学生や
昼間働いている OL で、当日急に休みをとることも多く、
人
繰りに苦労する毎日が
続いていた。
暮れも押し迫ったそんなある日のこと、常連客の一人と夕食を共にした後、
明美は
店にその客と同伴出勤した。同伴出勤とは、クラブやバーのホステスが、
客と
食事をしてそのあと一緒に、そのまま店にはいること。店によっては、
< 強制同伴日 >
として、月に何回かその日を設けて、彼女たちに強要している
ところもある。
店内は満席状態で賑わっており、カウンターに目をやると、あの男が
座っている。
明美は、わざと男を無視し、側をすり抜けようとした。
( ママ、お高くとまんじゃねえ~~ぞ!! )
明美の腕を掴み、男が叫んだ。
店内の空気が一瞬凍りつき、総ての客の視線が二人に、注がれたので
あった。
そこは、百戦錬磨のクラブのママである。
( お客様、も~酔っていらっしゃるの? )
掴まれた手をほどきながら、明美は男に微笑んだ。
( この前と、同じホテルで待っている。 )
と小さく呟くと、何事もなかったように、男はグラスを傾けたのであった。
== 続く ==
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