リュミエール通信

リュミエール通信

2008年01月12日
XML
カテゴリ: 映画

さて、問題である。

次の数字は、『椿三十郎』の上演時間である。森田芳光監督・織田裕二主演の完全リメイク版『椿三十郎』の上映時間を、(1)、(2)から選択せよ。

(1) 98分  (2) 119分

まともな感性の持ち主なら、(1)と答えるだろうし、実は、(2)が正解だと知れば、首を傾げたくなるだろう。

時代が緩やかに流れた、『ALWAYS・三丁目の夕日』の時代に製作された、黒澤明監督三船敏郎主演の『椿三十郎』が、凄まじいスピードで滑走する超高度消費社会の現代で製作された森田芳光監督・織田裕二主演の完全リメイク版より、短いとは考えにくいからだ。

まったく同じ脚本で撮ったにもかかわらず、21分も長いという事実が意味するところは何か?
「ぴあ」を閉じ、いやな予感に駆られながら、場内を見渡すと、いくら平日の昼間とはいえ、都心の決して小さくはない映画館で、こんなにお客が疎らで大丈夫なんだろうか?などと映画関係者でもないのに、余計な心配が頭をもたげてしまう。

ところで、森田芳光監督・織田裕二主演の『椿三十郎』は、面白かったのか?
残念ながらというべきか、予想通りというべきか、危惧したとおりの陰惨な出来ばえなのだ。
端的にいって、長すぎるのである。
失敗の原因は、その一点に尽きている。

前稿のリュミエール通信『椿三十郎』でも述べたが、黒澤明、小国英雄、菊島隆三の三人の名脚本家が凝縮させた98分の脚本は、完璧なまでに研ぎ澄まされており、無駄なセリフも、説明的なセリフも一切ない。だからこそ、森田監督も脚本には手をふれなかったのだろう。

演技においても、三船敏郎以下、9人の役者がテンポよくセリフを吐き、快調なリズムを生み出しているのに対し、森田版のそれは、何を意図してのことかは分からぬが、役者がセリフを吐くたびに、意味の無いタメと間が生じ、黒沢版には息づいていた躍動感を奪ってしまうのだ。

おまけに、間延びして締りのない説明的な演技(今どきこんな古臭い演技も珍しい)を、細かなカット割りでさらに説明するので、映画からテンポとリズムが削がれ、その結果、笑いも燃焼せず、活劇性をも殺してしまう。

誤解しないで欲しいのだが、織田裕二をはじめとした若い俳優たちの演技を批判しているわけではない。むしろ彼らは被害者だ。
ひとえに、森田芳光監督の時代錯誤的な演出に欠陥があるのだ。
蜷川幸雄氏でも、唐十郎氏でも、野田秀樹氏でもいいが、舞台の演出家だったら、不自然な、台詞のタメと間を詰め、若い俳優たちの魅力を引き出せたに違いない。

やたらニヤニヤしている織田裕二以下9人の俳優たちのスローテンポな演技は、『椿三十郎』のもうひとつの魅力、つまり、城代家老の奥方と娘が醸し出す何とも云えぬほのぼのとした笑いまで消し去ってしまう。

黒澤明監督・三船敏郎主演のテンポの良い『椿三十郎』には存在していた、入江たか子と団令子の悠長な可笑しさが、まどろっこしいだけで、緩急を欠いたリメイク版では、まるで機能しないのだ。

この映画の見所のひとつといわれている殺陣も、長回しのキャメラで撮ったのならともかく、編集でみせているだけだから醍醐味も無い。

それにしても、製作総指揮の角川春樹氏は何をしていたのだろうか?
何故、森田芳光監督に撮らせたのだろうか?

最後に。
森田芳光監督・織田裕二主演『椿三十郎』は、観るべきか?
黒澤明監督・三船敏郎主演『椿三十郎』を観たことがない人なら、観るべきだとだけ云っておこう。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008年01月12日 07時14分40秒
コメント(8) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:『椿三十郎』批評(01/12)  
金比羅系  さん
119分という長さは、最近の映画には多いような。
119分になるように調節して映画をつくってるのだろうか、という感じがします。
映画館にお客が少なかったというのは・・面白くない、とみんなに見抜かれてしまったからでしょうか。
次に同種のリメイク作をつくるときは、監督さんはこの映画の敗因を把握してからやって欲しいですね。 (2008年01月12日 14時06分18秒)

Re[1]:『椿三十郎』批評(01/12)  
金比羅系さん
>119分という長さは、最近の映画には多いような。
>119分になるように調節して映画をつくってるのだろうか、という感じがします。

テレビ局が製作に関わるようになってから、その傾向が強くなりました。
たぶん、テレビ局側の思惑(放送枠やスポンサー=CMとの絡みなど)がはたらいているのでしょうね。
それともうひとつ。
映像的な面なのですが、テレビ局が製作に関わる弊害として、テレビの画面に映る陰影しか撮らないという事です。
『ペイルライダー』をご覧になったからお分かりだと思うのですが、テレビ(DVD)で観ると、室内のシーンの闇の陰影が、映らず、黒く潰れてしまっていたのにお気づきかと思います。映画館のスクリーンならそんなことはありません。闇は闇として存在します。
結果、明るい照明が多くなるという訳です。

森田・織田コンビの『椿三十郎』ですが、黒沢版を見ていない人たちには好評のようです。
やはり、オリジナルにそれだけの力があるということでしょう。
ただ、「何であんなに、台詞のテンポが遅いのかな?
黒澤版の役者達の演技を真似しているからかな?」という声もよく耳にします。
実際は、三船敏郎以下、若侍たちの台詞は、メリハリが利いて速いのですけどね(笑)。 (2008年01月13日 08時53分48秒)

はじめまして。  
片桐早希  さん
こんにちは。
初めてコメントさせてもらいます。

私も映画大大好き人間で、時間があれば映画を観てたのしんでいます。
今今までの映画批評を読ませてもらい、的確な批評に思わず、そうそう、私もそう思っていたのだ、と
つぶやいています。

今までの中で「シェルタリング・スカイ」が心に残りました。この映画は初めて観たときわけがわからなかったのですが、二回目に観たとき何ともいえない淋しさを感じました。

また寄らせてもらいます。
よろしくお願いします。 (2008年01月13日 11時07分01秒)

こちらこそ、よろしくお願いいたします!  
片桐早希さん

わざわざ、コメントを残していただき本当にありがとうぞざいます<(_ _)>。うれしいです。

『シェルタリング・スカイ』・・・。

まさしく、愛の砂漠ですよね。寂寥感がたまりませんでした。

この雰囲気は、アメリカ映画には出せないですよね。

いつでも遊びに来てください。
僕も遊びに行かせてもらいます。
(2008年01月13日 12時02分27秒)

はじめまして  
足跡から来ました。
森田監督も角川さんもピークを過ぎた昭和の
人ですので、大監督の作品をリメイクしたら
劣化しますわな。
この作品をみて思うのはやっぱり
黒澤さんと三船さんは凄いんだ。
センスも先見性も
以上です。 (2008年01月14日 01時44分44秒)

コメント、ありがとうございます。  
ポールシフトさん

>この作品をみて思うのはやっぱり
>黒澤さんと三船さんは凄いんだ。
>センスも先見性も

確かに、モノクロ時代の黒澤は凄いですね。

三船敏郎も、当時は、大根役者の代名詞みたいに評されていましたが、今観ると、うまいんですよね。

よかったら、またおこしください。


(2008年01月14日 04時04分36秒)

残念ですが、  
ヨ!大統領  さん
突然の訪問失礼します。
黒澤作品を小学生頃かな?観ましたが、今も鮮烈に覚えています。

今回は試写を含めて2度見ましたが(単に正月映画観るものが無く暇?かな)残念ですよ!
一言で言って、軽すぎます。

キャスティングを含め、織田さんだけではなく、台詞や殺陣などやっぱりテレビの役者と言う感じです。
出演作品をセーブすべきだし、何よりも映画をあまりにも軽く観ていて残念です。
森田さんも黒澤作品を撮る??テ感じです。
森田さんてそんなに優秀とは思っていないですし。

亡くなった三船さん他渥美さんや高倉さん吉永さん心底を見習ってほしいですよね。

娯楽だけではない映画の良さを本当に理解してほしいですよ!
勝手な事を書き失礼しました。 (2008年01月14日 05時49分39秒)

コメント、 ありがとうございます  
ヨ!大統領さん
>突然の訪問失礼します。
>黒澤作品を小学生頃かな?観ましたが、今も鮮烈に覚えています。
>今回は試写を含めて2度見ましたが(単に正月映画観るものが無く暇?かな)残念ですよ!
>一言で言って、軽すぎます。
>キャスティングを含め、織田さんだけではなく、台詞や殺陣などやっぱりテレビの役者と言う感じです。
>出演作品をセーブすべきだし、何よりも映画をあまりにも軽く観ていて残念です。
>森田さんも黒澤作品を撮る??テ感じです。
>森田さんてそんなに優秀とは思っていないですし。
>
>亡くなった三船さん他渥美さんや高倉さん吉永さん心底を見習ってほしいですよね。
>
>娯楽だけではない映画の良さを本当に理解してほしいですよ!

いやあ、まったく仰るとおりです!
演技、存在感、比べものになりません。

テレビの画面には、ほどよく調和するテレビ的な「顔」はあっても、スクリーンに魅力的に収まる映画的な「顔」が不在なんですよね。

しかし、映画会社がテレビ局と共同製作をしなければ映画を製作できない現状を考えると、不幸な状況は続きそうです。

森田監督も、松田優作と組んでいた頃は、それなりに才能があるかな?と思ったりもしていましたが、今回の『椿三十郎』で、才能の枯渇を完全に露呈してしまいましたね。

今後も、気軽にコメントして頂ければ嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




(2008年01月14日 06時32分30秒)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

プロフィール

マックスモナムール

マックスモナムール

カレンダー

カテゴリ

カテゴリ未分類

(1)

映画

(73)

お酒

(0)

読書

(0)

その他

(0)

TVドラマ

(2)

コメント新着

ペット総合サイト @ アクセス記録ソフト 無料 楽天 アクセス記録ソフト! http:/…
ペット総合サイト @ アクセス記録ソフト 無料 楽天 アクセス記録ソフト! http:/…
ペット総合サイト @ アクセス記録ソフト 無料 楽天 アクセス記録ソフト! http:/…
マックスモナムール @ こちらこそ、お久しぶりです 金比羅系さん コメントありがとうござい…
金比羅系 @ Re:『海の上のピアニスト』 批評(05/31) お久しぶりです。 この監督の作品は『ニ…

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: