たこ焼きとラフランス

エカチェリーナ





僕の近所に住むエカチェリーナ

僕は彼女の二階の窓に向かって
「エカチェリーナ、いるかい」
って言ったんだ。そしたらエカチェリーナは窓から体を乗り出して手を振った。
僕は笑った。そしたらエカチェリーナも笑ってくれた。

僕はどこに行こうかと迷ったんだけどやっぱりあそこに決めた。
僕が小学校の頃に見つけた、誰もいない公園。
その公園は少し高い丘の上にあって、少し遠くには電車が1時間に一度くらい走っているんだ。公園から下を見下ろすと、沈む夕日と暮れ行く町並みがいっぱいに広がる。
公園の真ん中には大きな木がある。名前は分からないけど僕よりずっと長く生きているその木は、僕達のことを優しく見守ってくれているみたいで触れると心が温かくなるんだ。

僕はエカチェリーナと一緒にその公園に言った。お互い何も言わずにブランコに座った。僕は何を話せばいいのか分からなくて、取りあえずブランコを漕いでた。そしてらエカチェリーナも僕の真似をしてブランコを漕ぎ出した。僕はエカチェリーナに負けないようにもっと力を入れて漕いだ。するとエカチェリーナはもっと強く漕いだ。僕達はいつの間にか笑っていた。

ブランコを漕ぐのに疲れて僕は近くのベンチに座った。エカチェリーナも僕の方に歩み寄ってくる。少し息を弾ませながらエカチェリーナはベンチに座っている僕のことをじっと見てきた。真っ白な肌に紅潮したピンクの頬。
「座って休んだら?」
僕が言うと、エカチェリーナは地面を向いてうつむいた。僕はどうすればいいのか分からなかった。
秋の夕方、冷たい風が吹いた。夕日は西に落ち、町は赤く染まる。
ふいに、エカチェリーナの手が僕の肩に触れた。僕は驚いて彼女を見上げた。彼女はとても恥ずかしそうな、それでいて、とても可憐な笑みを浮かべていた。
「エカチェリーナ・・・?」
その時になってようやく僕は気付いた。エカチェリーナはブランコなんかで顔を赤くしたんじゃないんだって事を。
「エカチェリーナ、ごめん。その、俺なにも・・・気付けなくて。エカチェリーナの気持ち」
エカチェリーナは今度は満面の笑みを浮かべて僕の背中に肩をまわした。
そのときの彼女の笑顔は僕が今まで見たどの女の人よりも輝いていた。
僕達は何も言わずにただ抱き合った。ずっと、ずっと。

辺りが暗くなった頃、ようやく僕達はお互いを放した。
「エカチェリーナ、好きだ」
僕は精一杯の心を込めてそう言った。
だけど彼女はもっと心を込めて
「さようなら」
と言ったんだ。

次の日に僕は知った。彼女のたった一人の母が病気で死んだことを。そして彼女がもう僕の手の届かない遠くへと行ってしまったことを。
僕は知ってしまった。彼女のあの輝いた微笑を、彼女のやわらかいぬくもりを。

僕はあの公園に行った。そこに行けばエカチェリーナに会える気がした。でも、あの公園はやはり誰もいなくて、誰もいないブランコと誰もいないベンチがただそこにはあった。

その日以来、僕は毎日そこでエカチェリーナを待った。またあの微笑を見たくて、あのぬくもりがほしくて。
公園の木は冬が来ると雪をかぶった。春が来るとたくさんの虫達が、夏になると緑色の葉っぱが。
そうして一年が過ぎた。その日も僕はベンチに座ってエカチェリーナを待っていた。来るはずもない人を待っていた。それでも、会いたくて。ただ会いたかった。

ふいに、誰かの足音が聞こえた。僕ははっとなって後ろを振り向いた。

夕日で赤く染まった木が風に吹かれてゆれている。ベンチの上にはひとひらの落ち葉が秋の終わりを告げていた。




あとがき

作成時間30分。臭い。きな粉の匂いが漂ってきそうだ。
女帝エカチェリーナ。あぁ麗しい。何をやった人かは知らない。名前が好き。
このきな臭いお話は10行程度の下らない笑い話にして終わるつもりだったが、主人公の名前を大好きなエカチェリーナにした上に、妙に公園に行きたい気分になったから公園を描いたら、収拾がつかなくなったから、もうベタなお話にしてしまえという。
結果できあがったのがこれ。やはり臭い。こんな話あるわけないよと。僕の理想のエカチェリーナを美化。
この公園は実在。
主人公の少年のモデルは空気。どうでもいいんだ。エカチェリーナのモデルはロシアの大草原に立っている少女。曖昧。
そもそもエカチェリーナってロシアじゃ一般的な名前らしい。でもこの名前好きなんだよ。生まれ変わったらエカチェリーナという名前の人と知り合いになりたいくらい。

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