たこ焼きとラフランス

宝珠山登山


二つに言うことは、単独は孤独。
三つには、精神の摩耗は体力の摩耗。
四つ目に、立ちあがる勇気。
五つ目にして、臆病は冷静なる判断力。
六に、勇猛と無謀の認識。
七にして言いきると、単独行は怖い。


今ここに語り明かそう。
あの日あの時あの場所で、僕に何が起き、そこで僕が何を考え何をし、どういう結末に至ったかを。





一週間前。
我が探検部はリバベンという大きな大会を迎えていた。
まぁ、探検部にとっては大きな大会とは言え、川の大会なので僕は基本的にノータッチ。昨年はサポーターとかしたけども、今回はそれをする気にもならず。というか、そういうのはこの先川で有望であろう下級生がすべきだと思ってたからね、川に行かぬ僕がやるメリットなどほぼないし。とにもかくにも、大会前の金曜日。日付にして5月29日である。吾妻連峰縦走がもともと構想としてあったが、いろいろな悪条件が重なったのと、もっと近くの危険の少ない山で単独行した方がいいんじゃないかなという思いもあり、近くの五頭連峰を縦走することに決めた。
宝珠山→菱ヶ岳→五頭山→松平山。
これで五頭の主稜線縦走。一日で行けて、アクセス的にもちょうど良い距離。標高も1000に満たず。

で、地形図を引っ張り出し、行動計画を立てる。計画完成。下山した後に駅まで10キロ歩くことになってるのが非常に面倒くさい。

で、暇つぶしに部室に行くと後輩数人と夕飯を食べに行くことになった。
そのうち一人の後輩は車もちで、大会にも参加しないという予定。
そこで僕は思いついた。
ルートを逆にして、車で登山口まで送ってもらえば、駅までそんなに車道を歩かなくて済むのではないかと。
車での送迎を頼む→断られる。
ですよねー。行きの電車確定。
後輩「今夜出発しないんですか」
俺「!!」

それいいねぇ。採用。思い立ったら吉日。
で、さっそく家に帰り荷物の準備。電車時間調べて出発した。



果たして、賽は投げられた。
2時間前に出発時間を決めて2時間後に出発する。そんな感じね。
まぁ、肝心の山でのルートは前々から決めてたから、事前準備の浅はかさの指摘は受けないと思う。というか移動手段を除けば、相当周到に計画したと思う。思ってた。


電車に乗って目的地近くの馬下駅到着。この駅の名前を「まぼろし駅」だと思ってた日が懐かしい。

時刻2200.電車内まばら。馬下駅周囲はまるで人気がない。



iroiro 206.jpg


というか、周囲が暗過ぎる上、案内板もなく(←当然)、しょうがないので地形図とコンパスを出して、進行方向を確認することにする。
真っ暗で人気のない道を歩く。とはいえ、民家があるのでまだ心に余裕がある。
しばらく行くと、阿賀野川にかかる馬下橋についた。
この橋、歩行者通路がない。
だから車道を歩かざるを得ない。
こんな時間帯に、こんな橋を徒歩で渡る私はどう見ても怪しい。
そんなことはどうでもいいが、横を通り抜けるトラックが恐ろしくてしょうがない。
そして風が強くて、橋げたの方に寄せられる。
川に落ちたら間違いなく死ぬなと、漆黒の水面を見つめ一人思う。

怖い怖い橋を抜けたら、街灯が全くない歩道。でも歩道があるだけマシ。
しばし歩くと、昨年の暮れに宝珠山を登った時に使った登山口についた。草水登山口。
だが、今回、同じ道を使うのはつまらないと思い、もっと先にある別の登山口から登ることにする。

歩き、歩き。細い道を抜け、人気のない道路にたどりつく。というか、今までもずっと人気はなかったのだが、この先の道はさらに人気がない。
民家なし、街灯なし。左右に広がるは林か田んぼ。
地形図によればこの道をずっと歩かねばならない。
前が見えないのでヘッドライトを取り出し、歩く。

先ほども言ったようにこの日は風が強い。強風注意報が出されるレベル。
これがどれほどに私の精神を摩耗させたか分かるだろうか。
風が引き起こす様々な音が、容赦なく私を攻め立てる。その都度私はびくりと体を震わせて周囲を警戒する。
高々とそびえる木々はザワザワと揺れ、不気味な音を奏でる。
それ以外に響くのは、私の足音と虫やカエルの鳴き声だけなのだが、そんな人気のない道を歩くと、自分の足音のほかにもう一人誰かの足音が聞こえてきたり、虫でもカエルでもない、なにかの音が聞こえてきたりする。
上を見上げると星空が広がっているが、渦巻く風がゴウゴウと唸り、私を威嚇する。
見知らぬ道、暗い夜道、一人の道。だけども正しい道。
僕は歩いた。

道が終点を迎える。
確かここら辺にキャンプ場がない。

・・・ ないぞ!!!!!!!
キャンプ場なんてどこにもないぞ!!!!!!!

広がるのは耕作放棄されて草ぼうぼうに生えた田と、文字がかすれて判読不能な看板。

私はもしや、地形図を読み間違えて、違う道をずっと歩いてきたのではないかと不安になり、さらに進み、現在地が正しいかどうか確かめることにした。ライトで地形図を照らし確信する。
今来た道の突き当たりを左に進めば、50メートルと行かぬうちに右に曲がる道路があるはずである。
私は歩いた。そして右に曲がる道がない。

ない!!!!!!! ないだと。

そんな馬鹿なことがあってたまるものか。

私は後悔した。というか、一人でびくびく歩いてる間、ずっと後悔し続けてるのだけども。なぜ、こんな夜中に暗く、不確かな道を歩んできたのだろうか。別に駅周辺で野宿でもし、早朝の明るい時間に発てばよかったではないか。そうすれば、道を間違え、わけのわからぬところで孤独に迷い歩くこともなかっただろうに。私は馬鹿だ。

なんて馬鹿なんだろうと思いながら来た道を戻ってたら、さっき見つけられなかった右に曲がる道が普通にあった。どうやらテンパッてて道路の存在に気付かなかったようだ。確かに私は馬鹿だ。

やや冷静さを取り戻す私。とりあえず、目的通りの場所にはいるらしく、現在地も正しく確認することができた。もっとも問題はまだ残る。宿泊予定のキャンプ場が見当たらない。最悪、そこらへんで寝転がればいいやとは思うが、どうにも気にくわない。
私はもう少し周囲を探索することにした。それでなければ、来た道をずっと引き返して、草水登山口でで泊ろうと。

近くに人間の明かりが見えたので行くことにした。
やや歩いて明かりにたどりついた。どうやらここは温泉らしい。宝珠温泉。
人口のぬくもりを享受し、脅え、縮みこんでいた僕の心がやや回復する。
たしかここら辺からも、地形図にはのってないが、登山道にアクセスできたはず。というか、そんなあいまいな記憶にたどって行動していいものだろうか。もはや知ってる道に引き返した方が賢明なのではないだろうかと、その場で自問自答したが、別に危険なことがあるわけでもないから、ここら辺から登山口を探すことにした。
あるいは、寝心地がよさそうなところがあればそこで泊ろうと。

探索してたら、温泉のすぐ近くに看板があった。キャンプ場の看板。
超分かりにくい看板。いい加減な看板。とりあえず、近くにキャンプ場があるのに間違いはないらしい。

それっぽい道を進むと、明らかな登り道で、山へ伸びていくような道路であることに気づいた。
山登っちゃダメだろという気持ちと、こんな木が鬱蒼と生えた薄気味悪い道は嫌だ!!という思いから私は引き返す。

というかもう面倒だから、このまま草水登山口まで歩こう。一時間くらいかかるし、またあの道を歩かなきゃいけないけども、ずっとここで神経すり減らすよりマシだ。それにもう寝たい。疲れた。

と思い、来た道を戻ってると、山の上に人工の光があることに気づいた。
私が先ほど引き返した道を登りきったあたりにである。

もしや、先ほどの道は確かにキャンプ場へ続く道なのかしら。
よし、先ほどの道を登ろう。怖いけども登ろう。それでだめなら今度こそ引き返せばいいじゃないか!!


そして、私はついにキャンプ場へ至った。
ようやくたどり着いた。

キャンプ場は人気がない。まぁ当たり前と言えば当たり前だが。

もう人工の光から離れるのが怖いので、電灯がある駐車場で一夜を明かすことにした。寝る準備を整え、私はようやく安堵のため息をついた。時間にして日付が変わった頃。私はようやく床についた。


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が、眠れない。
外の風がうるさくて全く眠れない。本当にうるさくて怖い。怖いのである。

びゅぅー・・ ぅぅ うう !! ぐぅ ぉぉ お お ぉぉ ぉ お お お お お お!!


大きな風が吹く度に私は目をさました。風以外の音、木がし鳴る音か、枯葉が鳴る音か、私には判断ができない。もしやすると俗にいうラップ音か。
恐怖は際限なく積もる。
私は思考を遮断する。
まどろみ、気づくと夜が明けていた。




目が覚めて周囲を見回したら、すぐそこでオッサンがふらふら歩いててとてもびっくりした。
極力おじさんを見ないようにして荷物をまとめる。

起きる際、携帯のアラームをかけておいたが、目が覚めてからも起きるのが面倒だからぼーっとしてた。
風があいも変わらず強くて億劫になる。
行こうかいかまいか。

というのも、僕は前夜の夜間移動ですっかり神経が擦り減らされ、ナーバスになり、心も体も疲れ果てていた。
もう何もしたくない。家に帰りたい。そんな気持ちが僕の心に満ち満ちていた。

あぁーめんどくさい。やってらんねぇよぉー。ちゃらんぽららーん。

そんな気持ち。

いっそ雨でも降らないか。そう思いもしたが、風はやたらめったに強いくせして空は青く晴れてると来たものだ。

これでなにもしないで下山というのは、本当の愚か者がすることだろう。得るものが何もない。いや、なくもないか。前夜泊には気をつけろとね。


まぁ結論から言いますと、登ることに決めた。計画より遅めに起きたけども、時間はたっぷりあるしね。

朝ごはんをどうしようかと考えた。

全く食欲がわかない。これは疲れよりも精神的なものであると僕は思う。気分が常にソワソワしてて疑心暗鬼にかられる。神経質の極み状態である。あのオッサンは実は極悪人なのではないかと考え始める。L5ですな。


さて、朝ごはん。
ご飯を炊くか、ラーメンをつくるか。

ご飯は全く食べる気にならず、そもそも炊くのが面倒臭い。
ラーメンなら食べられそうだし、すぐ作れると思ったが、あいにく、箸を持ってくるのを忘れた。意欲が根こそぎなくなった。

別に食べる気にならないんだったら、今食わなくてもいいだろう。少し進んで食いたくなってきたら作って食べればいい。モノが一番おいしいと感じるのは腹が減った時だ。
と1人ボソボソと考え、朝食はとらず、グミを数粒口に含み出発することにした。

撤収出発。さっきのオジサンは僕が寝てるところのすぐそこの藪でごそごそ動き回ってた。怪しい。怪しすぎるぞオジサン。僕も人のことは言えないが。
オジサンは山菜をとっていただけらしい。


さて、出発。
実のところ、登山口は昨晩のうちに見つけたのだ。キャンプ場の入り口に看板があった。
独りのんびり行く。

しばらくはキャンプ場の敷地らしく、それらしい道が続く。さびれた散歩道。キャンプ場全体がさびれてるからしょうがない。

ようやくにして登山道が始まる。特に特筆すべきこともない。

特筆すべきは私の心にある。

一人で誰もいない山に登るのはそれはそれは孤独なものだ。寂しいとかつまらないとか暇とかそういうことではない。
山とはこんなにも危険で怖くて人の近づくべきところではないのだということに気づかされるのだ。集団でハイキングみたいに山登ってもそれを感じることはできない。単独であっても周囲に人がいては感じることは難しいだろう。
ただ一人、山中に立って初めて山の異様な空気と未知に対する恐怖に気づかされるのである。
木々のざわめき、動物の鳴き声、それをきれいだと思うのが本来の人間なのではない。本来、それはとてもとても危険に満ちた恐ろしい知覚。火をもってしまった人間には気づけぬ真実の姿。
古来、山は神(西洋では悪魔)の住むところであり、決して人が近づくべきところではないとする考えがあったが、これはたしかに的を得ている。
山など、人が近づくべきところではない。

ってーことはつまりどういうことかというと、僕は物音一つ一つにおっかなびっくりしながら歩を進めたのである。
「ガサガサ」
「ビクッ!!!」
てな具合だね。

大げさな表現じゃないし、馬鹿にされるものじゃない。いたって正常な・・・そう、自然なことだと思う。だって怖いんだもの。
怖いものを怖いと認めないのは、危険を危険と感知することができないバカ者である。


なんかもうね・・・怖い怖い連呼してるだけで申し訳ない。だって本当に怖いんだもの。
臆病だと笑いたければ笑えばいいじゃないか。別に怖がりなことについて言い訳はしない。


さてさて、話を本筋を戻す。
精神疲労が蓄積、取り乱してるといっても過言ではない。もう僕の登山のペースは乱れまくりである。
ひたすら早く登る。ダーッと。そして突然疲れを感じて休む。休んだら立ち上がりたくない。だがいつまでもそうするわけにもいかず、勇気を振り絞り立ちあがる。ペースが乱れてると自分で分かっていながらも、ペースを落ち着けさせることもできず、むしろ本来のペースがどのくらいであったかもよく分からない。
とにかくがむしゃらに進んだ。

がむしゃらであると同時に、これを学びの機会と考える冷静な自分もいた。
周囲の地形をじっくりと観察し、地形図を丹念に読み込む。実際のところ、似たような尾根が左右に連続して連なっており、自分が今どの尾根との分岐地点にいるのかは判断しかねたが、少なくとも、要所において地形図と周囲の地形が一致している程度のことは分かった。こういうのを繰り返して、読図力が身に着くのであろう。

言い忘れていたが、登山靴は履いていない。ただの使い古したニューバのスニーカー。そして登山靴はザックに入り、2キログラムの重りになり下がっている。
それはなぜか?bekause靴下を忘れたから。
ためしに少しはいてみたが、足首がすぐにもかぶれてしまいそうだからやめた。

どれくらい歩いたか分からないが、いや、一応記録はとってあるから調べれば分かるが、記録を確認しないと分からないので分からないのだが、結局のところどれくらい歩いたか分からないのだが、見晴らしのいい岩場に到着した。
地形図で見るに、あとひとつのピークを越えたら山頂に着く。そんな位置。
だが、展望は非常に良い。岩の上に一人立ち四方を見渡す。新潟市街から角田山、弥彦山、遠くに米山、さらに遠くに見えるはなんの山か、頸城三山?わからん。海を見ると粟島に佐渡が見渡せる。佐渡に至っては大佐渡と小佐渡の別がつくほどにくっきりとうつっていた。今日の強い風が、空気中の余分なものを取り払ってくれたのか。何にしろ、景観が良いことは幸いなことだ。

そこからもうすぐであっさりと山頂についた。
さっきのピークもそうだが、風つええー!
岩陰に隠れないとやってられぬ。
山頂につく喜びはそんなにない。お疲れ様でした的なね。やったら冷めてるのね、僕。

でね、僕気づいたんですよ(^^)
さっきからやったらとハイドレーションの水の通りが悪いなぁって(笑)
そしてね、思いだしてきたんですよ(^^)
そういえば、朝来る時に水汲んでなかったなって(^^)
水の残量確認(^^)
500cc切ってる(^^;)

(笑)

下山することが一瞬で決まった。この先、水場ないしね。文句ない理由である。干からびたらシャレにならん。脱水なんてね。
自分に責任をもってこその正しい判断力。
いろいろ真っ当なこと言ってるが、水の汲み忘れなど大バカ者である。
馬鹿である。そう、ばか。ほんとうにばか。もうっねえー、バカ!!!もう、バカバカ!バーカ!!バカバカ!!カバ。

下りの道を行く私。
下山路は、昨年冬に通った草水登山道。
下山中にようやく人間と出会う。
突然の遭遇に僕は非常にビビる。

「ッッッぅおおうぅ!!!こんにちわ~♪」

開けた場所で風のない場所に出る。下山が決まり、人間とも出会い、知ってる道ということもあり、だいぶ落ち着きを取り戻してきた。すると腹が減ってきた。
ラーメンを食べることにする。
箸はそこらへんに落ちてた枯れ枝で代用。

めるしー。

かくことないので飛ばす。


下山。

登山口にあるドライブスルーにあったベンチで、ジュースを飲みつつしばらく休む。風が心地よく感じる。

あぁ、なんとさわやかな。
そして前夜から続いた緊張の糸はようやくにしてほどけるのであった。









後記。

反省点1・・・水!!忘れるな馬鹿!!
反省点2・・・細引きあって切るものなけりゃどうにもならないことに気づいた。
反省点3・・・もう夜に人気のない道歩かない。近場で野宿して朝早起きして移動する。朝の移動の方が精神的にも体力的にも負担が少ない。道迷いもないし。
反省点4・・・地形図は最新のものを用意。ルート書いてないとかぶっちゃけありえん。僕にそんな読図力はない。
反省点5・・・箸を忘れた結果、朝食を抜き、朝食を抜いた結果、水に気づかず。連ねると箸を忘れたから下山が早まった。些細なことが万事につながる。靴下忘れ→登山靴なし→足捻挫→遭難とかも大げさな話ではない。
反省点6・・・もっとメジャーな山に登ろうと思う。山で単独行と山で孤独は全く違う意味である。
反省点7・・・もうちょっと精神的にタフになろうか。あんまりだ。
反省点8・・・事前準備はしたつもりだが実際は足りなかったといえる。ぬかりなきよう。
反省点9・・・軽登山靴、50Lくらいのザックが欲しい。快適性の向上。今の35ザックは、絶妙なサイズでとってもお気に入りなんだけども、おさまりきらないところがあるのも事実。
反省点10・・・悔いが残る山行であった。




以上。宝珠山単独行のご報告。


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