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モンゴル



すごいスケールだ。


多くの部族が争いを繰り返していた、12世紀モンゴル。ある部族の頭領を父に持つテムジンは、父の毒殺や異国での投獄など過酷な運命に直面しつつも勢力を拡大。後に統率者チンギス・ハーンとなる足掛かりをつかむ。


今年の米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされて話題になった、浅野忠信主演によるドイツ=ロシア=カザフスタン=モンゴルの合作映画。ロシアのセルゲイ・ボドロフ監督が、モンゴルの英雄チンギス・ハーンの前半生を壮大なスケールで描き出した大作である。

モンゴルに暮らす、一部族の頭領の息子として生まれたテムジン(後のチンギス・ハーン)は、父が毒殺されてから運命が暗転する。父の配下の裏切りによって家財を失い、その命も狙われる身となる。彼はジャムカという男と兄弟の杯を交わすが、成長して二人は敵対する間柄になってしまう。テムジンは一度ジャムカに敗れて奴隷に身を落とすが、やがて最愛の妻ボルテの助けによって再起し、再びジャムカ軍に立ち向かっていくというもの。

昨年日本でも、澤井信一郎監督がチンギス・ハーンの生涯を映し出した『蒼き狼 地果て海尽きるまで』が公開されたが、同じ人物を題材にしてこれほど描き方が違っているのも面白い。澤井監督の場合、自分が父の実子ではなく、自分の息子も他人の子供であることに苦悩するテムジンをクローズアップしていた。つまりは血脈のドラマだったわけだが、ここでのテムジンは子供たちの父親が誰であっても、妻ボルテの産んだ子ならば自分の子供として受け入れていく。その大陸的ともいえる人間的な度量の広さや、奴隷として何年も幽閉されながら、目の輝きを失わないテムジンの意志の強さなどがここでは強調され、そこに後の英雄像を予感させる魅力がある。この映画の段階では、ジャムカとの最終決戦に至るまで、まだテムジンは大軍を率いる力を持っていないのだが、どんな苦境でも心が折れない男の骨の太さが全編から感じられる。そういうテムジン像に説得力を持たせているのが、浅野忠信の飾らない演技と存在感だ。中国、モンゴルの俳優陣に交じりながら、一歩も引くことなく主演俳優の任を果たした彼は、賞賛に値するだろう。作品自体も広大なモンゴルのロケーションが活かされ、肉弾戦の迫力を伝えるアクションシーンも見応えは充分。ロシア映画界は最近、『ナイト・ウォッチ』シリーズの大ヒットなどで復調の兆しを見せていると聞くが、この作品もその新時代の力を感じさせる1本である。

セルゲイ・ボドロフ監督はチンギス・ハーンの全生涯を三部作として作る構想もあるとか。果たして浅野忠信が、この先もチンギス・ハーンを演じるのか。その期待も含めて楽しみな作品だ。


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