TRICK PARTY

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distance night 4



青年は名前をルシャマイツ・メル……、違う、ルシャマルト・メイツ……、あれ?違う?えーっと……

「ごめん、もう一回名前聞いていい?」

男はさっきからずっとそうであるように、面倒くさそうな目でこっちを一瞥すると、さらりと自分の名前を言った。

「ルシャマルク・メルステント・カイ・レルナント」

あたしをからかってるとしか思えない長さだ。

「ルシャマルク・メルナント・カイ・ルレテイト?」

「違えよ」

「あー!もう!覚えらんない!じゃあ縮めて『ルシャ』でいい?」

「好きにしろ」

こんな長い名前を名のるなんて信じられない。

てか!この国の人って個人の名前ってないんじゃなかったっけ!?絶っ対あたしをからかってるじゃん!

が、下手にそういうことを言うと、また白い目で見られるので黙っておいた。

「しかしまあ……」

あたしは周りを見回して言った。

あたりが雪の荒野だったのは歩き出して3分ぐらいまでのことで、今はちょっとした市場のようなところを歩いている。ぱっと見はこっちの世界にも、少し田舎ならあるようなところだ。

が、決定的に違うところが一つある。

それが……

「活気がない……」

普通の市場なら、客寄せのために各店が自分のお買い得商品などを叫んでいる。

だが、ここは『普通』じゃなかった。

市場なのに、声がない。みんな自分の店の中で黙って人を待っているだけだ。客においても、入って品物を買ってお金を払って帰るだけ。

店員と客の会話、一切なし。

「なんでこんなに静かなのよ?ここって市場でしょ?」

「何だって?」

「普通客の呼び込みとかしない?自分とこの商品宣伝しない?」

「ああ。その必要がないからな」

「なんで?売り上げ伸ばそうとか思ったら普通はやるよ?」

「売り上げを伸ばす必要もない」

「儲けようとか思わないんだ?」

「その必要がない」

「そっ」

なんかよくわかんないけど、とりあえず『その必要がない』そうだ。

と、珍しいことに(会って数分だけど、珍しいとわかる)、ルシャから口を開いた。

「俺たち、いや、ナンバー123118のような存在ははかなき雪と例えられる。雲からはなされ、空に離されたが最後、落ちて消えるだけの存在だ」

「?」

「だからこそ、人と関わる必要がない。しても無駄だ。いろんな意味でな」

「人恋しい、とかは?」

「そんな心境があると思うか?」

「人なら普通持ち合わせてる感情だと思うけど?」

「クェス。ナンバー123118のような存在は普通の人間と言えるのか?」

「違うの?」

「貴様は答える気があるのか?質問を質問で返すな」

「……」

いちいちムカつくなぁ……

「アンス。自分で確かめろ」

「なんだそりゃ」

ずっこけそうになる自分を押しとどめる。

「俺が言うべき事ではない」

「あっそ。もうなんでもいいわよ……!」

あたしは聞こえよがしにため息をついた。




いつの間にか空から雪が降ってきていた。もしかしたらここは永遠に雪降る国なのかもしれない。

が、それを目の前にいるここの住人に聞く気はなかった。あんな態度ではその気をなくすというものだ。

と、いうわけで並んで歩いているあたしたちの間にはさっきから言葉がなかった。あたしが沈黙に耐えられるタイプでよかったと心の中で思う。

しかし、あたしたちはどこへ向かっているのだろう?てかナストはどこにいるんだろう?捕らえられてるんだっけ?ってことは……牢獄?それ以前に建物なんかあるのか?

「ねえ、あたしたちってどこに向かってるの?」

と、聞いてから後悔した。またルシャが倦怠感あふれる視線でこっちを眺めたからだ。

「……と、ごめん」

なんで謝ってんだろ、あたし。

ルシャはあたしから目をそらして前を向きつつ、一応という感たっぷりで質問に答えた。

「ヘイナイトルス」

またこんなのだ!カタカナ並びの意味不明語!

「えーっとそれは一体……?」

「ま、簡単に言えば裁判所と牢の組み合わさったようなとこだ。いろんな意味でな」

「やっぱり牢獄かあ……」

何?ナストって犯罪でも犯しちゃったの?

捕らえられてるだの牢獄だの……。

「ナストって何しちゃったのよ?」

………

……

…無視。

あたしはまた深々とため息をついた。




今度は律儀に沈黙を守ること数十分。

いきなり視界にでかい建物が現れた。

それはもう町の中とはいえ、場違いにでかかった。東京タワーのとなりの富士山みたいなものだ。

そしてルシャがそこで止まったことで、あたしはそこがおそらく目的地なのだろうと悟った。

案の定彼は言う。

「到着」

「でーかっ!」

てっぺんを見ながら歩いたら寝てもいないのに寝違い症状を起こしそうだ。

「ここがヘルナイトイカ?」

……

……返事、なし。

「あのさあ、せめて無視はやめ……」

と、頭を前に向けて、ルシャがいないことに気付いた。

「あれ?」

当たりを見回す。

と、ルシャはもう扉の向こうに消えるところだった。

「もう!」

あたしは走って行って閉まりかけた扉に滑り込んだ。

「置いてかないでよ!」

「ん?付いてきてなかったのか?」

それすらも気付いてないし……!

「あーもういいわよ!」

「そうか」

あっさり前を向く。あたしは極力ルシャを見ないようにして、周りを確かめる事にした。

ここはルシャの言う「牢獄」なのだろう。が、見た目はそれっぽくなかった。牢獄といえばたいていは(あたしも本物は見たことないけど)牢がどこまでも連なって続いてるところだろう。が、ここは牢が連なっているイメージは全くない。いわば「個室牢獄」ってとこ?牢が一つ一つ別々だ。

しかもどの牢獄の中には“誰もいない”。

おっと、この理由を求める疑問を口に出すほどあたしは学習をしない猿ではない。ルシャがどういう人物か理解するのには、この十数分で十二分だ。ん?十数分で十二分?我ながら変な言い回し。

なんて事を考えてるうちに、ルシャは一つの部屋の前で止まっていた。中に向けて何かをつぶやくと同時に、ポケットから鍵を出して柵の扉を開けた。

「そら、感動の再会だ」

ルシャがあたしを手招く。

「ナスト……?」

あたしは駆けだしていた。それはもう無意識に。ナストを期待して顔を上げるのはこれで3回目だ。

物事の”3回目”を表す言葉は大きく分けて2つある。

「2度ある事は3度ある」と「3度目の正直」

そして今回は……

「おお!久しぶりだな!」

懐かしい笑顔があたしを向かえる。

「おっす、まなみん」

「ナスト……」

そう、今回は

“後者”だったんだ。



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