パズル


僕は部屋に一人。
いや、最近一人の女の子が部屋にいる。
いつも居るような気がする。
彼女は「ゆり」とか「さゆり」とかって名前のような気がした。
今更名前を聞き直すのも可哀想な気がしたから、聞いてない。
でもきっと、僕らには名前なんてどうでもいいこと。
なんとなく一緒にいれれば良いかなって。

彼女はやせてて、少し青白い顔をした、傷ついた女の子。
最近ありふれた子って感じがした。

彼女は時々いなくなる。
別に行き先は言わないし、僕も聞かない。
こんな言い方は悪いかもしれないけど、昔飼ってた猫みたいに
自由に部屋を出入りしてる。そんな感じ。

僕が買い物に街へ出たとき、彼女が女友達と歩いてるのを見た。
でも、声は掛けなかった。
ずっとニコニコ友達と話してる彼女が、いつも部屋にいる彼女には
見えなかった。

でも、部屋でも時々彼女は笑う。
笑ってると思う。
そんな彼女の笑ってる横顔が少し好きだ。

僕達は寂しさを埋めるために一緒にいる・・・と思う。
彼女はどうだろう。聞いたことはないし、聞く気もない。


ある日彼女が出かけた。
なんだか声がいつもと違った。
今考えると違った気がする。

彼女はそれから、3日たっても帰ってこない。
なんとなく嫌で、携帯にも掛けない。
取らないのが不安で。取って嫌な言葉を言うのが不安で。

身の置き場がなくなって、僕は街で彼女を見かけた辺りをうろついた。
何がしたいんだろう?

部屋に帰ると、電話に留守電のランプ。
再生すると、彼女の声。
「さゆりです。手紙読んでくれた?今から答えを出して、今日中には帰ります。
心配させてたらごめんなさい。」

僕は部屋を探した。
机の上に彼女が時々読んでた本。その下に手紙が。

内容は大体こんな感じ。
実はさゆりには彼氏がいる。でも、一緒にいても寂しさが消えない。
だから、いつか僕との関係に居場所を見つけはじめた。
でも、半端な関係のままいられないから、彼氏との関係を終わらせて、
また帰ってくる。


結局その日も彼女は帰らなかった。

2日後、テレビで彼女の名前と彼女の写真。

彼女は殺害された。
多分、この犯人がその彼氏だろう。

僕はテレビを見つめて声も出さずに泣いた。

彼女の笑った横顔を思い出した。
もう見れない横顔。

僕は心に穴が空いている。
もうふさがることの無い穴。

ありふれた子なんていない。
僕は彼女が好きだった。
認めるのが怖かっただけ。
僕は「さゆり」が好きだった。

「さゆり」にしか塞げなかった穴。
もう誰にも塞げない穴。
心に穴が空いている。




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