
来日記念盤である。今回のメイン・プログラムにもなっている曲だし、しかも今年9月のオセチアでの学校占拠事件の最中の録音、ということであれば「今度こそ!」と思うではないか。私は今までもあちこちで書いてきたが、どうにもこの名高いゲルギエフの作る音楽が理解できないでいたので、今回「最後」のつもりで期待してみた。で、どうであったか?
結果は「期待」を裏切って「予想」通りであった・・・この音楽のどこに、CDの帯にあるような「限りなく深い悲しみに対峙する人の感情をどこまでも深く重く描ききって」いるのか?
逆に、(これまでのゲルギエフの他の録音と大差なく)曲は淡々と、曲の持つ厭世的な暗さを避けるように進行していく。第一楽章から第三楽章まで、本当にさっさと流れてしまうのだ。「待て待て、これはきっと終楽章で何か企んでいるに違いないぞ」と最後まで期待していると、そこもあっさり通り過ぎてしまうのだ・・・
もちろんWPOの音の良さは随所に感じられる。しかしこの演奏では、この「悲愴」という曲の持つ本当の凄みは伝わらないと思う。9月の演奏を11月に発売するというのも極めて異例の早さだ。PHILIPSが同コンビの来日に併せて、しかもあの9月の演奏会だったら話題になる、というので無理に発売したのだとしたら、あまりに賢しい真似だと思うのだが・・・皆さんはどう感じられただろうか。

ぼちぼち出てくるだろうと思っていたらやっぱり出た!クライーバーの世界初DVD化(ということは音源的にはもうすでに出ていたと言うことか?)のブラームス4番。
1996年10月21日、ミュンヘンでの録音で、オケはバイエルン州立管弦楽団。曲目は
・ベートーヴェン:コリオラン序曲
・モーツアルト:交響曲第33番
・ブラームス:交響曲第4番
という均整のとれたラインナップだ。
指揮台に現れたクライバーは、さすがに89年のニューイヤーコンサートの頃よりも老けた印象。髪の毛も少々薄くなっており、「ああ、年を取ったなあ」と思わせるが、コリオランの劇的な開始の棒さばきはその懸念を一瞬にして吹き飛ばす。
「待ってました!」とでも叫びたくなるような華麗で緩急自在な指揮はため息が出るほど。モーツアルトの33番はたっぷりと流麗な音楽を聴かせてくれる。
そしてブラームスの4番。劇的で構築力の強い演奏。第一楽章の出だしのふわっとした入り方から次第にオケの機能が全開になっていく箇所の振幅の幅が大きく、丹念な練習の後が伺える。第一楽章終結部の一糸乱れぬ盛り上がりも素晴らしい。
今回の演奏と、80年の録音と比較して目立つのは、かなり演奏がゆっくりになっていること。中間楽章はほとんど差異がないが、第一楽章で3分弱、終楽章でも3分遅い。今回の演奏の46分というのは他の指揮者と比べても平均的な演奏時間だが、80年の録音を聞き慣れているとおやっと思う箇所が随所にある。
特に最終楽章。緩急の付け方がとてつもなく大きいのは彼の最大の特徴だが、パッサカリアの主題の陰と陽の振り分け方、特に今回は陽の部分の美しさ、謳わせ方に思わず唸らせられた。
クライバーの指揮はモーツアルトに比べれば非常に細かくなっており、一音一音にいたるまで疎かにしない。やはりこれが「指揮」というものだろう。先日ウイーン交響楽団の平板なブラ1を聴いてもやもやしていた物が消し飛んだ気持ちだ。
最終楽章の12分間があっという間に過ぎていくが、この交響曲の偉大さをまざまざと見せつけられる名演となっていると思う。

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