昨年末のフルトヴェングラー没後50周年を記念してまたまた各種追悼盤が発売されたが、これはフルヴェン初のSACD(スーパーオーディオCD)として発売されたシリーズの一枚。亡くなって50年が経つ指揮者の演奏がSACDになるのはこれが初めてではないだろうか。今まで何度も彼の「運命」の凄さを語ってきたが、このディスクの購入を機会にもう一度触れておきたい。
5番の「運命」は、多くのファンからフルヴェン最高の名演と評されてきた1943年の録音。評論家の丸山真男氏は 『これこそフルトヴェングラーの五つある「第五」のレコードの最上のものであり、しかも「第五」の演奏として群を抜いている。息の詰まるような緊張が、ここでは冒頭の三音符から最後の和音まで一貫して流れている』
と絶賛しているが、とにかく最初から最後まで恐ろしいほどの緊張感に貫かれた演奏である。
SACD化され、音質は更に鮮明になった。冒頭「運命の動機」のなんという重さ。「重厚」などというような形容詞では語り尽くせぬ、深い深い地響きのごとき開始。第一楽章はナチスとの闘争に明け暮れるフルヴェン自身と、世界中を相手に勝利の見込みのない戦争を遂行するドイツ国民の苦悩そのものだ。
その出口のない苦悩はしかし、終楽章の終結部、強烈なアッチェレランドで曲が結ばれるとき、最後の勝利を信じる者達の歓喜の思いとなって爆発する。この演奏に比べたら、残念ながらカラヤンの演奏などは何も語っていないに等しいだろう。
モノラル=音が貧しい、と思わないでいただきたい。クラシック音楽は決して音質で聴く物ではない。その録音に込められた魂を聴こうとするとき、音質など問題ではないからだ。ましてやこのSACD化によって、音は瑞々しく迫力を持って迫ってくる。どなたにも是非聴いていただきたい、不滅の名演である。