ぺんぺん草のごった煮。

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2011.05.21
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カテゴリ: カテゴリ未分類


・・・お唯とは…私の家に住み着いている女の幽霊のことである。

お唯は、とても楽しく愛嬌のある幽霊である。
しかし同時に恐ろしい幽霊でもあった。



彼女との出会いは、もう二年も経つであろう…。
とても、あの日々が懐かしく思えてくる。


ある日、私は友人と飲みにいった。
その日の夜、私はへべれけに酔ってしまった。
私は…いつ家に帰って来たかわからないほどの状態であった。

玄関に立った私は少し考え込んだ・・・

いつもは不均等に転がっている靴達が整然と並べられている。
そして油も塗られている・・・
私は、くびをひねり数分考え込んでしまっていた。

「まっ、いいっか。誰かしらぬがすまぬな」
私は独り言のつもりで呟いている…そして急いで仕事に向かう。
その私に家の門をこえた頃に聞こえてきた。
・・・・・かすかに。

「いいえ…行ってらっしゃいませ」
「お帰りを待っています」
うっすらと・・・花の香りが感じられた。




時代は昭和30年初頭・・・
戦後一番平和な時代だった・・・そんな頃。
人々の笑顔が純粋に輝いていた…そんな日々。



私は家の前に立ち、また考え込んだ。
私は…? 

この家で暮らしてきた…。?

しかし、目の前の家には明かりがつき台所からは湯気が立っている。
最近、縁故にしている女性はいないはずだ。まして食事の支度をするほどの女性などは。

ザック ザック ザック 門を過ぎ玄関の鍵を開けた。
ガッチャガッチャ ガラガラガラ・・・
私は初めて自分の家の玄関から中を覗き込んだ。

「おーい、誰かいるのかーー」
「おーーい、おーーい」
その瞬間、廊下の奥から真っ白な影が凄い勢いで私に向かってくる。
その廊下は真っ暗な闇なのに、白い影がうごめくのはわかった。
私は、冷や汗を流し腰が抜けた。
すると、その影は私の前で一度止まり台所へと移動していく。
まるで私を誘うがごとく。
下半身がへろへろな私は、這いつくばり移動するので精一杯だ。
そして、ようやく台所につく。
そこで私は二度目の腰を抜かした。
テーブルの上には食事が用意してあり。私の見た白い影は、美しい後ろ姿。そして味噌汁を温めていた・・・・

恐怖は増殖する。

私の体には鳥肌が、幾分かパンツが湿った様な。
私は、観念した。

そして、その白い影と夕食をとった。
私も今までは様々な女性と夕食をとり酒を酌み交わしたことはある。
しかし目の前のいる女性?・・・とは初めての経験だ。
この世の女性ではない・・・がこの世の女性であった。・・・はずだ。
失礼な事は出来ない。一応男子たる物・・・である。

彼女がみそ汁をついでくれた。
白い手が私の手と重なる。
・・・彼女は照れている・・・
幽霊も女性なのだ・・・
私は思った。日本男児は女性に恥かかしてはいけないと・・・

そのうち、少しづつ私たちはお互いを理解し始める事ができていく。
そう、真っ白の影であった彼女の顔の輪郭が見えてくる・・・
彼女の切れ長の目・・・
筋の通った鼻筋・・・控えめな唇。
面長な、顔立ち。
とても美しい。
美しすぎる。

私は、久しぶりに恋に落ちてしまった。  幽霊に。
女と男が恋に堕ちるきっかけに、たいした理由は必要がない。
それが、生きているか、死んでいるかなどはである。

その日を境に、私の人生は変わった。

彼女との散歩は真夜中・・・
彼女は私の背後から歩いてくる・・・
いや、飛んでくるのだ・・・
そして囁く・・・背後から。
これが、癖になる。
こまったものだ・・・最近そう感じている。

買い物は、堂々と二人ではいく事ができない。
私が大体のものを買い付け、彼女がいつもの囁きで助言する。
しかし、たまに彼女は大物の鯛などを持ち帰る。真っ暗な空を鯛が飛んでいく。
「今日は、鯛か。鮪は明日にするか」
喧嘩したら負けると知っているので、私は理由は聞かない事にしている。

休み日、私は前日の夜から友人を呼びドンチャン騒ぎをしている・・・
すると、いつのまにか友人の一人一人が青い顔しながら帰っていく・・・
ここらへんは生きてる嫁さんも幽霊の嫁さんも変わりはない。
私は日々学習をさせてもらっている。嫁は、怖い。

唯、夜の営みは現実とは違っていた・・・
寝床に横になる私に、彼女は空中遊泳するように近づいてくる。
最初に手と手が触れ合う。重なりあう。
すると彼女の体が肌色に変わっていくのだ。
髪の毛は深紅の黒・・・初めて見た。
彼女の紅・・・
そして、すべてが生きているがごとく、肌は 紅く、まるで生きている様な・・・
体が触れる重なる・・・微電流がお互いの体に共有していく。快楽も・・・
決して肉体的な物でなく、すべてが共有され互いにその時間を守ろうとする。
結束・・・不思議な感覚である。

翌日、朝食のとき目を合わした彼女は照れていた。
いつもの白い影が・・・何となく、桃色だった。


7日ほどは特に何事も無く日々は過ぎていく。
変わった事と言えば私と彼女の呼吸であろうか・・・
彼女は素晴らしい、私の考え行動の先を読み空中を飛ぶ。

ある日、会社に向かっている私に彼女の香りが漂ってくる。
「どうした、何かあったのか?」
最近、彼女は静かに反応するようになっていた。
「忘れ物ですよ」
と、耳元に彼女の声が届いたと思ったら書類が空から降ってくる。
「ありゃー。ま、とりあえずありがとな」
と私はつぶやく。
その後、私は書類を拾いまくり周囲の人々からの好奇の視線を浴びてしまう。
そんな私を彼女は高い空の上より眺めているのだ。
空の一部分が白かったり、桃色だったり、青かったり、黄色かったり・・・変化している。
もちろん私にしか見えないはずだからいいものを。
・・・そんな私を彼女は楽しんでいるようだ・・・
そんな私を。

でも、そんな彼女が私には愛おしくてしょうがない。
「また、夜な」
そうつぶやくと彼女は風にのって帰っていく。
夏の青嵐のなかをまっすぐに。

そんな、穏やかな日々をひとつの事件が闇を感じさせた。

私は仕事が終わり電車に乗り帰途にいる。すると。
「きゃーー」
車内に悲鳴がはしる。
女学生の一人が私にを指差して・・・
「死神だ、この人死神だーーーー」
騒ぎだし泣き出す。

周囲も騒ぎだし、私への視線が強く感じてくる。
私は、いてもたってもいられなくなり次の駅で降りた。
ホームのベンチに座り今遭った事を思い出す。
あの女学生が騒ぎだす一瞬前に、私は彼女の事を思いだしていた。
お唯の事を・・・
その瞬間、彼女の香りがして女学生が騒ぎだしたのである。
私は、考えた・・・

何・・・
彼女は、死神か?
まさか。
そんなはずは無い。
まさかな・・・


そして、ようやく私は自宅に近い駅に着いた。
彼女は、駅に着いた私を待っていた。

「お帰りなさい」

「おっう、ただいま」

彼女は一瞬で私の体に取り巻く。
まるで霧のように。

たまに恐ろしい形相で私たちを見つめている人々がいる。
きっと見えているのだろう。
私は、そのような人に特に念入りに頭を下げる。
すると彼女は小さな巻き風を送る。
びっくりしたように相手は逃げていく、二度・三度と私達に視線を捧ぎながら。

「いつまで・・・この町に住めるのかな・・・」

私が嫌みを言うとさらに強い巻き風をおくってくる。

「ふふふーーー」
彼女は含み笑いと共におくってくる。
そんな彼女は黄色に変化する。
私は慌てて彼女と帰宅していく。
日々の私たちの楽しい日課だ。

そして・・・こんな日限って彼女は求めてくる。
彼女は女になる。
幽霊も人間も、なにも違いは無い。
相手を求めるという欲望がどれだけ強いのか。
彼女は、その気持ちで表せ方が一変する。
髪、肌、唇、乳首、すべて生きていたままの姿に戻っていく・・・
私は彼女のその姿にすべて打ち負かされてしまう。
子供のように彼女を求めてしまう。
心に広がる・・・広がっていく。
彼女の痛み、悲しみ、憎しみまでも・・・
そして私たちはひとつになっていく。
妥協も、あきらめも、悲しみも・・・
しかし最後に私達に存在しているもの。
それが私たちを繋ぎ止めていた・・・それが、必要だった。
相変わらず彼女は桃色だった。
私は益々愛おしくなっていく。


ある日、私はなぜか仕事にいくきになれずに布団に微睡んでいると。
強烈な風が吹き私は目覚めた・・・瞬間。

「だめよ、日々を大切にして」
彼女がつぶやいた。


最近、彼女はご機嫌な日々が続いているみたいだ。
「ふふふ~~ふふ~~~ふふふん」
よく台所から鼻歌が聞こえてくるのだ・・・
幽霊も鼻歌を歌う物なのか・・・
私は又ひとつ勉強になった。

幽霊女心と言うものを。

そもそも、幽霊とは何なのだ?
私は休日の午後考えてしまった。
もとは人、だったが・・・今どう見ても人に感じられる。そして、女・・・いじらしく、可愛く、美しい・・・
彼女は女性そのものだ。

唯、やきもち焼きで風を自在に操る。
下手に喧嘩などしてみれば家中に台風が抜けた様な。
私は一回だけその経験をした事がある。
だから二度と彼女を怒らす事はしまい。
肝に銘じた・・・


「ふふふ~~ふふ~~~ふふふん」
今日の彼女は特別機嫌が良い。
こんな夜は、何かある。
「貴方・・・」
・・・きた・・・
「ねえ、貴方・・・」
「私、動物園いきたい」

「動物園か・・・そうか・・・」
「今度の休みにでもいくか」

台所に風が舞う。
「私、うれしい・・・」

私の好物の冷や奴がほこりまみれになってしまった。




そして、ある日・・・初夏の午后。
「きゃーーー貴方、お猿・お猿」
「きゃっきゃ・きゃっきゃ、言っているわ」
「きゃーーー貴方、おしりが真っ赤よ、お顔も紅いわ」


いつにもなく彼女は騒ぎ、猿山に大きな風をたなびかしている。
そして私の背後から芋のかけらを投げている。
廻りの子供達は不思議そうに私を見ている。
私は苦笑いをするしか無い。
そして私は思う。
今夜は私に・・・風は舞う事は無いと。





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Last updated  2011.05.21 19:51:04 コメントを書く


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