WILDハンター(仮)

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十三章「前世の隠れ里」



――「前世の隠れ里」――

 かの地には古の業を受け継ぐ一族が飛竜と共に暮らしている、と言われている。しかし何故それで「前世の」という言葉がついたのか。それは彼らの業の中に飛竜を人へ変える秘法があったからである。人の中で生きることを選んだ飛竜が自らを捨て去り新しく人へ変わる。今までの生を捨て新たな生を手に入れる場所。自分の前世をおく場所。ゆえに「前世の隠れ里」と呼ばれる。そしてその場所は一般には徹底的に秘匿されつづけ、ハンターズギルドとシュレイド王立学術院の一部の人間が知るのみである。しかし、空という誰も想像しなかった場所からは簡単に見つかってしまう。それも里にいたモノの案内であればなおさらのこと、ジャンボ村から旅立って間もないドブロク達はそこへ向かっていた。
「ほ~、ここがおまえの故郷か」
「グルァァ」
 感心してそう呟いたドブロクにソラスがうれしそうに返事をした。サウロはドブロクの腰につかまったまま固まっている。

――ヒュォォォ…ザザァァァァ…――

 そこは周りを深い密林と険しい山々に囲まれた中に輝く湖のそばにある小さな集落だった。辺鄙なところにある普通の集落のように見えたが、ぐるりと囲んでいる周りの山には無数の洞穴がある。それが何であるかドブロクは分からなかったが、ソラスが迷うことなく集落にほど近い洞穴に降りたときにそこが何であるかわかった。
「ここがお前の家か」
「これはすごいニャ…」
「グァァ」
 その洞穴の奥にはでかでかとソラスの名前が刻み込まれている。どうやら集落を囲む山々に点在している洞穴はすべて飛竜の巣になっているようだ。とりあえずここに荷物を置いて集落へ行こうとしていると、
「やぁソラス~♪おかえり~♪男になって帰ってきたか~い♪」
 茶色いショート髪で18歳くらいのポンチョみたいな衣装を着たやや小柄でスレンダーな女の子がテンション高めにはしゃぎながら洞穴に入ってきた。顔立ちも整っていて将来はまぁまぁの美人になりそうな感じだ。彼女はドブロクとサウロには目もくれずにソラスのもとへ駆け寄ると顎の先をうれしそうにこすりあわせている。ドブロクはそのしぐさを見て最初はこっちの挨拶かと思ったがどこかで似たような光景を見た気がしてなんとなく思い出そうとしばし宙を睨んでいたがやがてはっと気づいた。
(あれはレウスとレイアの愛情表現のひとつだ。ということはこの娘も)
 そこまで考えたところで少女がこちらに気づいて声をかけてきた。
「あれ?なんで人間がこんなとこにいるの?ここはソラスの家だよ?」
「ん?あぁ…俺たちは…」
「あ~~~!分かった!」
 ドブロクがソラスの仲間と言おうとした瞬間、少女はそう叫ぶとパッと身を翻し何やら拳法の型のような低い姿勢で構えをとり、
「あんたたち泥棒だね!その格好だとハンターってやつだろ!この子は今日帰ってきたばっかで盗るものなんてないんだからね!」
「ちょ…ちょっとまて!俺たちがどこをどうすれば泥棒になるんだ!?」
「そうニャ!おいらとだんにゃさんは…」
「グルァ!?」
 元々外部と半隔離状態になっているここに見知らぬ人間がいること自体は不審に思う必要があるだろうが、いきなり泥棒と決めつけられてドブロクとサウロとソラスは弁明しようとしたけれど、
「問答無用ッ!」
 先方の少女はどうやら思い込んだら止まらない性格のようだ。そう叫ぶと同時に地を蹴ってドブロクへものすごい勢いでとびかかっていった。そしてドブロクの目の前まで来た辺りで体のひねりを加えた強烈な右キックを彼の側頭部へ向けてふり薙いだ。
――ドンッ――
鈍い音が重く響いたがしかし、間一髪でドブロクは左手のハンターUアームの手甲でがっちりと防いでいる。その様子を見てドブロクの脇からいつの間にかソラスの方へ避難しているサウロはソラスに、
「ソラス…あの子はいつもああなのニャ?」
「グルゥ…」
 その問いにソラスは力なく頷いた。そのうなだれ具合から本人の誤解が解けるまで他人が何をいっても聞かない性分がうかがえてサウロもがっくりと肩を落とした。
「へッ…ずいぶん手荒い歓迎だな」
 そんな二人の様子を気にかけるでもなくドブロクは少女の足を払いのけてそうぼやいた。
「あたしの蹴りを防ぐなんてやるじゃない、里のもんでもほとんどいないのに」
 着地した少女はそう言い、軽く手をぶらつかせながらドブロクの方へ近づいていく。それを見てやれやれと肩をすくめながらドブロクは、
「スピードがあっても軽いのさ、女の子にしちゃ随分重かったがね」
 左手をひらひらと振りながらそう答えた。その答えを聞いて少女は
「ただの泥棒にしちゃいってくれるじゃないのさ」
「だから俺たちは~…」
 ようやく訂正する機会がきたかにみえたが、
「ぁ…!ハンターだからただの泥棒ってわけじゃないか」
「もう好きにしてくれ…」
 少女の自己完結の早さにドブロクはあきれて額に手を当てうなだれるしかなかった。
「とりあえずあんたをふんじばって長老のところへつれてってやるんだから!」
 気を取り直して少女は両手を握ると拳闘のように構えた。少女の口走った言葉を聞いてドブロクはひとつ提案をした
「わかったわかったお譲ちゃん、とりあえずその格闘技ごっこにはつきあってあげるから」
「ごっこですって!?」
「あぁごめんごめん、とにかくこれが終わったら俺を長老とやらのところへ連れて行ってくれないか?」
「ふんッ!そんなの決まってるじゃない!あんたはあたしに負けて長老のところへつれてかれて他の仲間の餌になるんだから!」
「かわいい顔してさらっと怖いこというねぇ」
 少女のどこまで本気か分からない言葉をやんわり受け流しつつドブロクは両腕のハンターUアームとハンターUレジストを外しはじめた。
「何してんのよ?」
少女はそれをいぶかしがって聞いた。
「相手が普通の服しか着てないのにこっちが鎧をつけてるのはフェアじゃないだろ?」
 ドブロクのその態度に少女は何故か意味深な笑みを浮かべている。防具を脱いで上半身インナー一丁になったドブロクに少女は、
「あたしを普通の人間と思わないことね、今度は本気でいくんだから」
 そうドスのきいた調子で喋ったがドブロクはひょうひょうとした様子で、
「そういう台詞は大抵負け惜しみでいうもんだぞ、お譲ちゃん」
「疾ッ!」
 ドブロクの言葉を聞いて逆上したのか少女はいきなりドブロクの懐へステップインし、みぞおちへ痛烈な左アッパーを叩き込んだかに見えたがドブロクはそれを左足を後ろに抜いて皮一枚のところで避け、間髪いれずに少女が放った右フックも同じように右足を後ろに抜いてかわした。少女の細腕のどこにそんな力があるのか空振りでも空気を切り裂いて拳を繰り出してくる。しかもたしかに先ほどの蹴りより数段速く、見ているしかないサウロとソラスも眼で追うのがやっとなほどだが、ドブロクはそれを軽々避けていいようにあしらっている。まともにガードしても骨が砕けるだろう拳撃を皮一枚で避け、あるいはうまくいなし続けている。はじめ、少女は相手が自分の速攻に追いつけず防戦一方なのだと思っていたが、いくら打ち込んでもかすりしかしないことで次第に気づき始めた。
(…遊ばれている)
 それにはっきりと気づいたのは相手が笑っていたからだが、ドブロクは久しぶりの喧嘩でついうれしくて顔がにやついてしまっただけで少女が弱いわけではない。事実防戦で手一杯の状態なのだ。
(ほんとにさっきのは本気だしてなかったんだな、だが…)
 ドブロクは顔を狙ってきた右フックに合わせて相手の肘へ軽く左手を添えて勢いを増して振りぬかせた。少女が勢い余ってバランスを崩しドブロクへ背中を向ける形で倒れこんできたところを素早く後ろ手に両手を掴み、
「はい、終了♪」
「くッ…離せ!バカ!この腐れ外道!」
「ひどい言われようだな」
「ソラス何してるの!こいつらはあんたの家に忍び込んだ挙句あんたの幼馴染を陵辱しようとしてるのにただ黙って見てるだけなんて!!」
 ドブロクに後ろ手にとられたことがよほどくやしいのか少女はやたらめったらに叫んでソラスの方を睨みつけている。
「だから俺たちは泥棒でもないしお譲ちゃんをいただこうとも思っとらんよ」
「里の外の人間の言葉なんて信用するもんか!あぁ…あたしは幼馴染に見捨てられてどこの馬の骨かも分からない男の慰み者にされるんだわ~~」
 あきれた調子ドブロクはそう言ったが少女は頑として聞かずさらにえらく誇大妄想を広げているようだ。
「やれやれ…ソラス、説明を頼む」
「グルァ…」
「ちょ!?あたしをソラスの前に連れてって何する気よ!ソラスぅ助けてよ…」
「グルァグルぅぅ」
「ぇ?この人たちは泥棒じゃない?」
「グァルゥ、グルルゥゥ…」
「自分が連れてきた仲間におまえが勘違いして勝手に襲い掛かってきたぁ!?」
「グアルゥ」
「そ…そんな…」
 ようやく自分の勘違いに気づいた少女はがっくりと肩を落としてへたりこんでしまった。ドブロクとサウロもようやく誤解が解けたとほっとしていたが、少女から今までと比にならないほどの重い空気が辺り一面を包んでいく。本能的にソラスがヤバイと分かったが体がいうことをきかない。どす黒いオーラを発しながらゆっくりと立ち上がった少女はソラスへゆっくりと歩み寄っていく。ソラスもドブロクたちと同じように金縛りにあったように体が震えて動けないようだ。ソラスの目の前まで来た少女は叫ぶでもなくぽつりと一言呟いた。が、それは叫びよりも禍々しい圧力に満ちていた。
「それ…はやく言いなさいよ」

――ゴガンッ…グォォォォン…ズズゥゥン…――

 直後に小石をハンマーで叩き割ったような音が響き、ソラスはゆっくりと断末魔の声をあげて地面に伏した。それを冷ややかに見つめる彼女の双眸は金色に輝き、まるで死神のようであった。それで彼女の気が晴れたのだろう。ドブロクたちの息苦しさが消え、少女が発していたどす黒いオーラもおさまっている。
(この子は怒らせちゃいけない…)
 そうドブロクとサウロは堅く誓いあっているところへ、
「あの~すいませんでした!」
 と、はじめのような感じで本当に申し訳なさそうに少女はドブロクたちにおじぎをしていた。ほんとにさっきのと同一人物かどうか疑いたくなる変わりっぷりだが、
「ま…まぁ、誤解が解けたようでなによりだ。それで長老のところへなんだけど…」
「あ~はいッ!客人であるなら丁重にご案内いたしますです!」
「よ…よろしく…ぁ…ソラスは…」
 手のひらを返したようにやわらかい対応に戸惑いながらも、ドブロクは倒れたままぴくりともしないソラスを心配そうに覗き込んだ。
「あ~大丈夫ですよ。ちょっとだけ手加減しましたから」
少女のあっけらかんとした返事に愛想笑いで返したものの、一応そばまでいってしゃがみこんでソラスの状態を確認したが、かろうじて呼吸をしているから大丈夫かなとドブロクは飛竜の生命力の強さを信じることにした。立ち上がりながらドブロクは思い出したように、
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はドブロク・ダクシュ。こっちは相棒のサウロだ」
「よろしくニャ♪きれいなお姉さん♪」
 そう自己紹介をしたがサウロはちゃっかり少女へゴマすりも忘れていない。それを聞いて気を良くしたのか少女はいい笑顔をうかべて、
「あたしの名前はレイテア!レイテア・ソーク!こちらこそよろしくサウロ!」
 そう言いレイテアは右手でサウロの頭をワシワシなでると洞穴の入り口へ駆け出していき振り返ってこう叫んだ。
「ようこそ!前世の隠れ里へ!」

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