WILDハンター(仮)

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十九章「黒嵐」



 ザックとドブロクたちは世間を騒がす大物賞金首のことなど気にもかけずに悠々と空の旅を続けていた。彼らはゆっくりとポッケ村からあてもなく南へむかっている。
「あそこの村長さんはできた人でしたにゃー」
 ドブロクの腰につかまったままのサウロがポッケ村の村長を思い出してしみじみともらした。ハンペンも、
「飛竜がきても驚かなかったってのは珍しい村長だったね」
 と感心した口調でうなずいた。
「まぁ奇特な人ってのはどこかにいるもんだろ」
 ザックはすました調子で返したが、ドブロクはひとり憂鬱そうな面持ちであった。
「そうだなぁ…」
 上の空でそう相槌をうつと行く手をうつろげに眺めている。そんなドブロクを心配してサウロが声をかけた。
「んにゃ?ご主人ひょっとしてあのはにゃしを気にしてるんですかニャ?」
 実はポッケ村滞在中にドブロクは村長から自分のことを尋ねてきたギルドナイトの話を聞かされていたのだ。村長がいっていた相手の容姿からそれが誰かドブロクは考える必要もなかったのだが。そんなことを思い出しながらサウロに気のない返事を返した。
「まぁな……、ん?」
 ドブロクが何気なく東の方へ顔をむけてみると何か黒い大きなものが動いているのが見えた。見間違いかと思ったが目をこらしてよく見てみるとたしかに動いている。
(この近くにラオシャンロンがいるなんて情報は聞かなかったが)
 ドブロクの様子を見てザックとサウロも東の密林の方へ視線をおくった。
「何かいるな」
 ザックがそう言い腰のポーチから双眼鏡を取り出そうとしたが、それよりも先にサウロが東にいるものの姿をしっかりと捉えていた。
「にゃんか黒くてでっかいヤツニャ!!」
「それくらいこっちもわかってる…」
 そう叫んだサウロにドブロクがやや脱力気味に答えると、サウロが全身の毛を逆立たせて絶叫した。
「にゃ~~~!!!大変ニャ!あのでかいヤツ、ジャンボ村に向かってるのニャ!」
「なにぃッ!?本当か!?」
「間違いないニャ!」
「くっ…ちょっと寄り道だなこりゃ…すまんがソラス、ハンペンちょっと降りてくれ」
 ドブロクの言葉で手近な丘へ2匹は降りていった。降りるとドブロクはソラスにつけていた食料品なんかの皮袋をすべて取り外して弾薬のバックパックだけを残した。
「おいおい、あんたどうするつもりだよ」
 ハンペンの背中に乗ったままザックが尋ねた。ドブロクはデルフ=ダオラの調子を確かめながら答えた。
「どうするもこうするも当然あいつの進路を変える」
「そんなことたった一人でできるわけないだろ!?」
「おいらもそう思うね」
 その答えにザックとハンペンが呆れたように言葉を返した…が、
「まぁできるかどうかはわからないがソラスも一緒だし大丈夫だろう」
 ドブロクはソラスの目を見て頷いてみせた。ソラスもそれに応じて頷いた。カートリッジの確認も終わりドブロクはさっとソラスの背中にとびのる。風で体が冷えないように外套をしっかり身につけた。
「それじゃあザック。サウロと食料品を頼んだ。日暮れには戻ってくる」
 ザックに頼みごとをすませるとドブロクはソラスに目で合図をした。
「だ…だんにゃさん!」
「じゃあなサウロ。晩飯の用意しっかり頼んだぜ」
 サウロのよびかけにドブロクが軽い口調で返した瞬間ドブロクを乗せたソラスが一気に上空へまいあがると東の方へものすごいスピードで飛び去っていった。
「ふ~ん…白銀(しろがね)の銃士、銅(あかがね)の竜に乗りていく。いざ人々を救うために…ってとこかな」
「だんにゃさん…」
 自分の言葉に満足げなザックをよそにサウロは心配そうに小さくなっていくソラスを見ていた。

―― 一方その頃セクメーア砂漠とテロス密林へつなぐ街道――

――ドドドドドドド……――

――その途中にある小さな宿場――

 突然の地響きに宿屋の客は全員起きて窓や出入り口から外の様子をうかがっている。どうやら地響きは砂漠側からくるようだ。全員が何気なくそっちを向いていると遠くに巨大な土煙がみえてきた。それとともに地響きもだんだん激しくなってくる。さらに宿場の全員がようく目をこらして見ていると土煙の中に輪郭がぼんやりと見えてきた。二本の角に翼、そして大きな背中の甲殻。
「で…ディアブロスだあああ!!!」
 誰かがそう叫ぶと同時にディアブロスの背中からドスのきいた女の声が響いてきた。
「オラオラァアアア!!道にでてると轢き殺されるぞおおおお!!命が惜しかったらどけどけええええええ!!!!フォウルグ興産のお通りじゃあああああ!!!!!!」
 その声を聞いた瞬間宿場の人々は一斉に家の中へ逃げ込んだ。そして誰もいなくなった道をディノがものすごい地響きをたてながら駆け抜けていった。宿場を抜けると背中に乗っているリータは後ろに乗っているカイヅとサイツに声をかけた。
「宿場があるたんびにこれやんなくちゃダメなの?」
「えぇ、私たちが移動の手段に飛竜を使ってるっていうだけでもギルドから危険視されてるのにそのせいでトラブルが起こったら間違いなくお尋ね者の仲間入りですよ」
「もうすでにかけていると俺は思うんだがな…」
 カイヅの言葉に珍しくサイツがまともなツッコミをしているのを聞いてリータは思わずニタリと嫌味な笑みをうかべてしまった。それを見てカイヅは若干ばつが悪そうだったが、
「まぁとりあえずは急ぎましょう。例の大物が待っていますよ」
「しっかし本当にテロス密林の南東部に例の賞金首を見つけたのか?どうにも信じられんのだが…」
 そのカイヅの言葉にサイツがいぶかしげに尋ねる。なにしろ彼らは2度ほど古い情報だと知らずに騙されて高い情報料をふんだくられていたのだ。ちなみにその一度目はリータが、二度目はサイツが探してきたものである。
「私はあなたたちと違ってそこらへんに抜かりはありません」
 カイヅは自信たっぷりにそう答えた。たしかに情報収集はこの中ではカイヅが一番優れている。さらに前回、前々回リータとサイツはガセネタをつかまされた失敗があるのでバツが悪そうに顔をそらして前を向いて座りなおした。そうしている間にもディノは着実に最高額賞金首の元へと爆走し続けていた。

――その頃テロス密林奥地――

「くっそぉ!まだ見つからないかッ」
 ダクシュは必死に角笛を吹いている者を探しだそうと密林を走り回っていたが依然見つからずに焦っていた。木の上を枝から枝へ跳び移りながら辺りの気配に気を配っているがアカムの威圧感と動くたびに起こる振動でどこにいるかまったく見当もつけられないでいた。アカムトルムはこの間も前進を続けジャンボ村まで目と鼻の先まで迫っていた。ダクシュは焦って辺りを見回すがそれでも見つけられず諦めてうつむいてしまった。その数瞬後、
「グオオオオオオンッ」
 雷鳴のような咆哮が弾け、はっと顔をあげるとダクシュの真上を真紅の影がアカムトルムへと向かって疾駆していった。その姿をおって振り返ったダクシュは驚いた。
「あれは…リオレウス!?」
「いくぞソラス!」
 ドブロクがそう叫ぶとソラスは目の前に迫った黒い龍に向かってすれ違いざまにブレスを3発みまった。
「どうだ!?」
 ドブロクは振り返って相手の状態を確認したが着弾の煙がはれると無傷の龍の姿がうかびあがった。それを見るとドブロクはデルフ=ダオラにLv1拡散弾を装填して撃鉄をおこした。
「ソラス!もう一回だ!今度は横から!」
「グオオオオ!!」
 ソラスは旋回して黒い龍の横につくとその横っ腹にむかってドブロクは照準を合わせ引鉄を引いた。立て続けに3発。多少ずれはしたものの全て着弾しさらに同じ場所にソラスのブレスも3発当たった。凄まじい熱風と振動がおこり大地がゆれる。アカムもこの攻撃にはたまらず体をのけぞらせてもだえた。そして再び元の体勢に戻るとアカムは今まで感じたことのない感情がわきあがっていた。それは人間の感情に例えれば“怒り”であろう。その感情はそのままアカムの体を赤熱化させた。
「ソラス離れろ!」
 ドブロクの言葉にソラスはアカムトルムと十分な間合いをとり向かい合った。対峙したアカムの風貌は今までのそれと一線をかくすものだった。甲殻の隙間は赤く発光し全身から出る高熱で周りの樹木から煙があがっている。
(山みたいなヤツだと思っていたが…)
 拡散弾のリロードをしながらドブロクは今目の前にいるアカムを見て久しぶりに冷や汗をかいている。
(まるで火山だな)
「ソラス!上からもう2~3発叩き込んだら逃げに入るぞ」
 リロードを済ませソラスにそう言うとドブロクはデルフの銃口を下に向けた。と同時にアカムがソラスに向かって突進してきた。地崩れのような勢いでせまるアカムはソラスを丸呑みにしようとその巨大な口をあけた。それはまるで洞窟の入り口のようでその中には真っ赤な溶岩にもみえる舌がのたうっている。アカムに呑み込まれる前にソラスは翼をはためかせ一気に上へとぬけた。やや斜め上からドブロクはまた3発の拡散弾を背中に着弾させた。爆発の衝撃でアカムの背中の棘がいくつか折れて周りに落ちた。すると落ちた棘の放つ熱でまた煙があがった。
「ふふふ…まさかこんな簡単にいくとはね」
 この様子を木々のあいだから見ていたマリクは相変わらず人好きのする笑顔でいたが、今はその笑顔に黒いものがみえる。
「さてとこうなったら僕も本来の仕事をしないといけないな」
手に持っていた笛を腰にしまうと彼は踵を返して密林の中へ姿を消した。
「うっし!こんなもんでいいだろう」
 痛みにのたうっているアカムを見てドブロクはデルフを折りたたんで腰のフックにかけた。あとは人のいなそうな方向へこいつをひっぱっていくだけだ、とドブロクが気をゆるめた直後。アカムが白煙をあげながらゆっくりと振り返りソラスをじっと見ると前足を地面に突き刺すようにしっかりと踏みしめた。そしてソラスによく狙いを定めると大きく息を吸い込んで吼えた。ただそれだけだがアカムの巨体から放たれた空気の渦は塵や砂を巻き込み、まるで黒い竜巻のようにソラスへ襲い掛かった。
「っな!?」
 アカムの咆哮を聞き振り返ったドブロクが目にしたのはうねりながらこちらをくいつくそうとする巨大な黒い蟲か蛇のようなものだった。それにソラスも気づき急降下したがあまりにも空気の流れが強すぎてその中に巻き込まれてしまった。渦の中で必死にドブロクはソラスの背中に両手でしがみついていたが、つかまっていた甲殻が欠けてドブロクとソラスは別々に弾き飛ばされてしまった。ドブロクは渦から弾き出される直前に赤い甲殻と鱗が剥げ落ちていくソラスの姿が見えたがなす術もなく吹き飛ばされた。ふたりを弾き飛ばしたあとも黒い竜巻は勢いが衰えることはなくフラヒヤ山脈の南端の峰を削りとってようやく消えた。

――その頃フォウルグ興産一行――

 ジャンボ村で姐さんから詳しい方向を聞き再びディノの背中に乗って出発しようとしたときに先ほどのアカムの咆哮がここまで轟いてきた。ディノは思わず後ずさりをしてしまったが、それは他の3人も同じだった。
「なぁ…ひょっとしなくても…今のがそうだよな」
サイツがためいきまじりに呟く。それにカイヅが重々しくうなずく。
「今回は今までで一番の大仕事かもしれませんね」
 リータだけは不安の中にもなにやらうれしそうな表情を浮かべていた。
「へへへ、こいつは楽しめそうだね。いくよ!」
 そう喝をいれるとディノの背甲を叩いてゴーサインを出した。気乗りがしないディノはおずおずと進み始めたが、リータの怒号が響き渡った。
「ディノ!またアレをやるぞッ!!さっさといけぇいッ!」
 今度は思いっきり背甲を叩くと、ディノはなかばやけになって走りだした。

――数十分後アカムトルムの進路上だった盆地――

「ふぅ、こんなもんかギルドの」
「そうですね。あとは姿が見えたら角笛と閃光玉でここに誘導して…ん?」
 対アカム用の罠を仕掛け終えたDDたちとフィアが話していると、ジャンボ村の方から土煙をもうもうとあげて何かがこっちへ向かってくるのがみえた。
「あれ何なん?」
 モンがそういって背伸びして目をこらして見ていると、突然すっとんきょうな声で叫んだ。
「でぃ…ディアブロスが人を背中に乗せて走ってんで!?」
「何をお前は馬鹿なことを…。」

――……ドドドドドドドドドッ――

「おらおらぁ!どかないと怪我するぞぉぉおおおお!!!!」

――ドドドドドド……――

「なんだ…ありゃあ…。」
 しばし呆然と一同は走り去っていくディアブロスの後姿を見送っていた。
「あいつらは!?」
 通り過ぎた直後にリータが後ろの二人に鋭い語調で聞いた。
「多分賞金目当てか、さっき代表さんに聞いた人たちだと思いますよ!」
 カイヅがすぐさま答える。
「まぁいいんじゃないか?あっちはあっち、こっちはこっちだ。」
それにサイツが軽く相槌を打つ。
「ふふふ~どっちにしてもあたしらが賞金を頂くことに変わりはないぜ~!」
 リータは二人の言葉をほぼ全部無視して笑顔で得物をさすっている。その様子にサイツがボソッと一言、
「取らぬ狸のなんとや…ごふぅ!?」
 言い終わらぬうちにリータの裏拳ツッコミが的確にかつ恐ろしい速さで炸裂したのであった。その頃、アカムトルムは邪魔なやつを片付けたことで気を落ち着かせていた。それと同時に腹が減ったのだろう。自分を満たす食料のにおいを嗅ぎつけ再びジャンボ村の方へと進行を開始した。


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