独り言祭り

独り言祭り

息子のまなざし

息子のまなざし
息子のまなざし
静かであるが人の心の奥底に触れる「力強い」映画である。

この映画の主人公、オリヴィエという中年男性は、職業訓練所で少年たちに大工の仕事を教えている。教官というよりは親方に近い感じ。口数はとても少なく、少年達に厳しく教える職人の厳しさを持ち合わせている。

訓練所の生徒達は、少年犯罪を犯し更生中の少年達。ある日、そこにフランソワという16歳くらいの少年が入所してくる。

オリヴィエはこの少年のことがひどく気になる。仕事を教えるだけでなく、授業のあと尾行して、鍵を盗んで家に入るというような暴挙にも出てしまう。

なぜ、ここまでこの少年のことを気にするのか。やがて、観客は知らされていく。オリヴィエの息子はこの少年に殺されたということを。衝撃的な事実であるが、この映画の中では、そのことを仰々しく描きはしない。

このような事実を知らされたあとも、相変わらずの日常が続いていく。オリヴィエは少年に仕事を黙々と教えていく。言葉は非常に少ないが、逆にそれが、「息子を殺された父親」と「犯人」の関係の間に深い緊張感を与えている。

息子を殺された父親はこの少年をどうするか。もちろん憎い、殺してやりたい。その感情を抑えてはいるものの、ある日、とうとう二人きりになったときにそのリミットははずれる。

「息子を殺したのはお前だ。」

律儀な職人として親方を尊敬していた少年はこの事実に驚愕する。父親は森へと逃げる少年を追う。倒れたところを馬乗りになって首をしめようとする。

だが、殺せない。どうしても。

被害者の復讐権が声高に叫ばれている昨今であるが、普通の人間が人殺しなど、簡単に出来るはずもない。ましてや、この少年は自分の息子と同い年くらいの非力な少年なのである。

ラストを書いてしまうのは気がひけてしまうが、あえて書く。決して「感動的」なラストではない。父親は仕事に戻り、また淡々と仕事を続ける。少年もいつのまにか仕事場に戻り、その仕事を手伝う。ここでも会話は一切ない。

復讐という異常な感情が消え去り、元の親方と弟子との関係に戻っている。「罪と罰」とか「人を許すことの大切さ」といった大きな言葉を使うことなく、息子を殺された父親と、あやまちを犯したが、再生を誓う少年の姿がそこには描かれている。

あなたはこの世で一番憎い相手を赦すことが出来ますか?

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