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2006年02月26日
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カテゴリ: きまぐれ連載


商店街の路地裏にある小さな「家具屋」

店の外には1匹の猫

店の中には、不思議な空気をまとった青年(=店長)

・・・そんなお話・・・


* * * * * * * * * * * * *


いつもの路地に足を踏み入れると、ちょうど店から2人連れの女性客が出てくるのが見えた。
楽しそうに談笑しながら歩く彼女たちと古着屋の手前ですれ違って、店のドアの前に立った瞬間、店内からガラガラガシャンと何かが蹴っ倒されたような音が響き、窓ガラス越しに店長が宙を飛んでいる姿が見えた・・・様な気がした。
窓の下で昼寝をしていたいつもの猫が物音で目を覚まし、迷惑そうなそぶりでそろりそろりと立ち去っていく。
私は心の中でゆっくり10数えてからドアを開けた。

店の入り口のすぐ横に置かれた引き出しの前で、店長がものすごい勢いで引き出しの中身を出しては床や背の低い棚の上に並べている。近くにある引き出しを次から次へと勢いよくあけて、中身を出していく。必死の形相だ。
状況はすぐに理解できた。さっきすれ違った二人連れが、引き出しの中身を好き勝手に入れ替えて行ったのだ。

彼女たちが引き出しの中身を次々と取り出しては、面白半分に違う引き出しへと移し替えている間、その様子を店の奥にあるカウンターの中の定位置から、彼はずっと見ていたのだろう。彼女たちが立ち去ったと同時に電光石火でカウンターを乗り越えて、乱された引き出しの中身の復旧作業を始めたのだ。作業に没頭するあまり、すぐ傍に立っている私にも全く気づいていない。

なぜ、そっと中を見るだけで満足できないんだろう・・・。
すれ違いざまに聞いた彼女たちの笑い声が耳の奥によみがえった。


と、突然店長は私に気付いて、勢い良くこちらを振り仰いだ。そこに人がいることなど思いもよらなかったのだろう、心底びっくりした様子で大きく目を見開き、口は半開きだ。その驚きようにこちらまでびっくりして思わず固まってしまう。長いのか短いのか分からない沈黙のあと、店長はやっとのことで半開きの唇を動かした。

「い・・・・・・・・・・、

らっしゃい、ま・・・・・せ」

私はかばんを床に置くと、店長の作業を手伝い始めた。もう常連といって良いほどこの店に通っているので、どの引き出しに何が入っているのか結構覚えてしまっている。自分の近くにあった引き出しのひとつに、床や棚の上に散らばっているものたちを、思い出せる限り正確に戻していく。店長は無言のまま小さく頭を下げると、自分は別の引き出しに取り掛かった。

私たちはしばらく無言で作業を続けた。その引き出しにあってはならないものを外に出して、あるべきものを床や棚の上から探し出しては元の位置に戻す。店長の横顔はまだ気の毒なほどに張り詰めたままで、何か一言でも言葉を掛けたなら、その空気の振動で粉々に砕けてしまいそうな気がした。

どれくらいの時間が経ったろう。店内に散らばった引き出しの中身も随分と片付いてきた。私はいくつめかの引き出しを完成させようとしていた。何か足りないものがあるはずだがそれを思い出せずにいると、店長の右手がすっと伸びてきた。青いガラス玉を3個握っている。長い指をそっと開いて、店長はそのガラス玉を私の目の前の引き出しに滑り込ませた。そしてまた黙って自分の引き出しの方へ向き直った。

隅っこに青いガラス玉が3個、無造作に置かれているその引き出しを、私は「好きだな」と思った。

彼の店で、彼が作り上げたものに、なぜ手をつけようとするのだろう。見ているだけで十分なのにな・・・。ましてや自分の思い通りに変えることなど、何の意味も持たないのにな・・・。
そんなことを思いながら店長の方を見ると、店長は手を止めて作業中の引き出しの中をじっと見つめている。

「どうしたの?」とたずねると店長は「んーー」と小さく唸ってから言った。

「これ、結構おもしろいかもしれない。」



「うん、確かに、こういうのも面白いかも。」
私が答えると、店長は
「・・・だよね。じゃあここ、このままにしておこう。」
そう言って、しまいかけていた物たちを抱えたまま、引き出しの中を眺めて
「あはは・・・・・・おもしれぇ~」と小さくつぶやいた。


「大丈夫・・・」私がつぶやいた声は彼には届かなかったろう。
「君なら大丈夫」と言いたかったけれど、その言葉は胸の奥に落としこんだ。
大丈夫・・・乱されて壊れそうになっても、あなたにそれを受け入れて楽しむことすら出来てしまう強さがあるなら、大丈夫だと・・・。
それを彼に伝えてあげたいのか、自分に言い聞かせたいのか、もう、はっきりとは分からなかったけれど。





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Last updated  2006年02月27日 15時46分17秒
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