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天の王朝
誰がケネディを殺したか4
▼壁
米国民や米マスメディアにとって、アメリカ国家、あるいはケネディ家は、神聖にして冒してはならない領域にそそり立つものだ。そのイメージを傷つけるような報道はいつも慎重で控え目な姿勢でいた。これこそが、ケネディ暗殺の真相解明を難しくしている壁なのだ。
しかし、911テロ後のアメリカ人の好戦的な反応や一方的な報道姿勢に見られるように、理想の国のイメージは既に壊れている。いつまでもイメージを守ろうとして、真相に迫らないのは、世界との溝を広げるだけで、明らかに間違っている。
ケネディ暗殺の背後にCIAの陰謀があったことは明白だ。その明白な事実から目をそらすことは、一時的にはその国の体裁を保つことになるかもしれないが、長い目でみれば、その国の信頼をおとしめる。国民やマスメディアが、真の歴史、真実の歴史を直視しなければ、自らが標榜している自由や正義を手に入れることもできない。
呪われたケネディ家というのは実は、米国民がケネディ家に神話を求めているからにほかならない。その神話の厚いベールを剥いだとき初めて、真相も明らかになるのだ。その意味で、ケネディ暗殺で問われているのは、実はその国民とマスメディアの姿勢といえるのだ。
(続く)
誰がケネディを殺したか48(最終回)
▼暗黒の時代から今へ
米国の首都・ワシントンDCの春は美しい。3月下旬ともなれば、ホワイトハウス北側にあるラファイエット広場では、ドッグウッド(ハナミズキ)が赤みがかったピンクの花を満開に咲かせ、市民がベンチや芝生の上で、しばしの憩いの時を過ごす。ジョンソンがスミスにケネディ暗殺の話を打ち明けたのも、ちょうどそのような、のどかな春の一日だったに違いない。
一般の国民はおろか、大統領すら知らないところで、その国の政府に仕えるはずの人間が、他国の首脳の殺人計画を実行に移したり、ついには、自国の大統領暗殺にまで手を貸したりしてしまう。そして、目的のためには手段を選ばす、無実の人間を罪に陥れ、口封じのためとあらば都合の悪くなった人間をどんどん消していく。これを恐怖、暗黒社会と言わずに何と言えばいいのか。
もちろんケネディだけが汚い仕事をせず潔白だったと言うつもりは毛頭ない。マフィアのボスと愛人を共有していたのは周知の事実(メモ44参照)だし、CIAのマフィアを利用したカストロ暗殺計画についてもロバート・ケネディから当然、聞いていたはずだ。
62年の議会選挙を有利に進めるため、キューバにミサイル基地があることを2年近く国民に知らせず、選挙前にミサイル危機を“演出”、自らヒーローを演じることで政治的勝利を手中にした疑いもある(メモ45参照)。それでも思うに、南部勢力や右翼の反対にもかかわらず市民権運動を強力に進め、政府による不正を極力排除しようとしたケネディは、暗黒の時代における一筋の光明だったのかもしれない。
暗黒の時代は、その後も続き、ヴェトナム戦争、ウォーターゲート事件という米国民にとっての苦難の道を経てようやく薄日が射してくる。しかし、暗黒時代は本当に終わったのだろうか。国民をウソの情報で操り、無実の人を陥れ、必要とあれば抹殺してしまうような、そんな時代は過去の話なのか。少なくとも、ケネディ暗殺事件が真に解決するまで、我々はまだ、果てしなく暗いトンネルから完全に抜け出せることはできないのだ。
(了)
(メモ44=ケネディの愛人)
1960年3月、ケネディが歌手フランク・シナトラの紹介で、離婚歴のある25歳の美人、ジュディス・キャンベル(後にジュディス・キャンベル・エクスナー)と出会ってから、愛人の関係になるまで、そう時間はかからなかった。ケネディが大統領になった後の61年から62年にかけて、キャンベルは頻繁にホワイトハウスに出入りしたり、ホワイトハウスのケネディに実に約70回も電話したりしている。この二人の関係はすぐに、フーバーFBI長官の知るところとなる。しかも、マフィアに対する電話の盗聴などから、キャンベルがケネディの愛人であるだけでなく、マフィアのギアンカーナやロセッリの愛人であることが分かる。マフィアと大統領の関係を懸念したフーバーは62年2月27日、ロバート・ケネディ司法長官に、キャンベルがマフィアとつながりがあることや、そのマフィアがCIAのカストロ暗殺計画に加わっていることをメモで知らせる。さらにフーバーは3月22日、ケネディとの昼食の席上、おそらくキャンベルとの関係を絶つよう忠告。ケネディはそれ以降、キャンベルとの密会をしていない。
(メモ45=キューバのミサイル基地建設をめぐる政府内の死闘)
ケネディ暗殺を調査した下院選別委員会の初代委員長を務めたトマス・ダウニングの報告書にも、キューバでミサイル基地が建設中であることを米政府は1960年から知っていたことが記されている。それによると、60年1月、英国の偵察機がキューバに奇妙な軍事施設が建設されつつあるのを発見、同年3月までにそれがミサイル基地であることを突き止める。同4月、英国政府は米政府にキューバのミサイル基地建設のことを報告。これを受けて米政府は諜報活動を開始、駐ハバナ米国大使館員も友人からミサイル基地建設の話を聞き込む。同9月、反カストロキューバ人の地下組織が、キューバのミサイル基地が米国も射程距離に入る中長距離ミサイル基地であると米政府に報告。これにより亡命キューバ人によるキューバ侵攻作戦が具体化する。61年4月にはキューバの反カストロ地下組織からミサイル基地が存在することの動かぬ証拠がCIAにもたらされ、ケネディ大統領にも報告。CIAはピッグス湾事件最中の極秘の作戦によりそれを確認する。
もしそうなら、ケネディは何故62年10月まで、そのことを秘密にしていたのか。その秘密を解くのが、ピッグス湾事件から約1週間後の4月24日にCIA局員、トレイシー・バーンズとCIA工作員、ロバート・マローとの間で交わされた会話だ。マロー自身が自著「ファースト・ハンド・ノレッジ」(S・P・Iブックス社、1992年)で一部始終を書いているので、ここでその要旨を紹介する。
マロー:大統領は、米国の目と鼻の先のキューバにミサイルがあることを知っておきながら、我々にキューバに侵攻するなと命令し、しかも、そのミサイル情報を秘密にしろと命じたのか。何故だ。
バーンズ:おそらくケネディは、このミサイル情報を将来の政治的武器として使いたいのだろう。できれば、この情報を政治的推進力のてこの力として応用できるまで、具体的にいえば、62年の議会選挙結果に影響を与えることができるまで、とっておきたいのだ。この種の策略は他の政権でもよく使われた。フランクリン・ルーズベルトがこの種の策略の天才だったのは、ロバート、お前も知っているだろう。
この会話の後、二人はチャールズ・キャベルCIA副長官とリチャード・ビッセル計画局次長にCIAのキャベルの部屋で会う。その席でマローは、リンドン・ジョンソン副大統領からキャベル副長官に宛てられたメモを見せられる。そのメモには、ケネディ大統領が極秘にロバート・マクナマラ国防長官に対し、どのような手段を使ってもいいからCIAの権力を骨抜きにし、最終的にはCIAに替わる新しい情報機関を設立するよう命じたことが書かれていた。さらに大統領のシークレットサービスの一人からCIAが手に入れた、ロバート・ケネディに宛てたケネディ大統領のメモには、CIAが大統領の命令に反してキューバペソ偽造計画を進めていることを憂慮した上で、キューバ政府にこのことを漏らしてみたらどうかと勧めていた。
マローはこれらのメモを見て、憤慨する。CIAの通貨偽造計画をキューバ政府に伝えるのは反逆的行為に値すると考えたからだ。これに対しキャベルは「外交戦略上、正当化されうることもある」とマローをなだめる。
さらにキャベルはマローに、弁護士のマーシャル・ディッグスの紹介で、午後にはロバート・ケネディと“事実上の亡命キューバ政府大統領”マリオ・ガルシア・コーリーの会談が予定されており、その場で、コーリーがキューバのミサイル基地の写真などの証拠をみせることや、もしその時の司法長官の反応が否定的だった場合は、コーリーがテレビに出て、ミサイル基地の存在をばらすことになっていることなどを伝えた。そして同時に、既に進展しているコーリーらによる通貨偽造計画を手伝うようマローに要請。マローは大統領の命令に反することを知りながらも、これを受諾する。
その日の午後、ケネディ司法長官とコーリーの会談が実現したが、司法長官はコーリーの話はデタラメだと激怒、キャベルにコーリーを捕まえるよう命令する。キャベルは命令に従うふりをして、マローと一緒にコーリーの逃亡を手助けする。こうして、CIAの支援を受けた、マローとコーリーの通貨偽造計画がスタートする。
このマローの話が真実だとすると、ピッグス湾事件の失敗で失われた信頼を回復すべくミサイル危機という国家危機すら政治的演出の道具にしようとするケネディと、国家安全保障の名目なら大統領の命令さえ無視し、同時にケネディの粛清を何とか逃れ、組織を死守しょうとするCIA強硬派の間で、食うか食われるかの死闘が演じられていたことになる。その長い暗闘の末、63年11月にケネディは暗殺されるのだ。
(了)
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