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天の王朝
カストロが愛した女スパイ6
▼証言の矛盾
議長はさらにロレンツの陳述書に書いてあったことについて質問し、追い打ちをかけた。
「あなたが帰ることになって、だれがあなたを空港に送るかで話し合ったのですか?」
「私は当然、フランクが私を空港へ送ってくれると思っていました」
「ここにあるあなたの陳述書では、こう書かれています。"私が立ち去ろうとしていると、エドゥアルド・H・ハントが車でやって来て、だれが私を空港まで送るかで議論がありました。フランクとボッシュが私を乗せていき、エドゥアルドはモーテルで待っていました“――。そういうことがなかったと言うのですか?」
ロレンツは白を切った。「私は車の中にいて、もう出発する準備ができていました。多分、エドゥアルドだったと思います。ほかの人たちもいました。私は彼らとは話をしませ
んでした」
ロレンツにはこう答えるのがやっとだった。議長は陳述書の内容と今のロレンツの証言の間に矛盾を感じながらも、あえて追及せずに話題を変えることにした。
「少し話題を変えましょう。この時点ではこれが私の最後の質問です。あなたはこれが武器庫襲撃だと思っていたのですね?」
「はい」
「あなたは何度かの武器庫襲撃では、フランクと一緒に仕事をした」
「はい」
「でも何故、CIAとつながりのあるフランク・スタージスが銃を入手するために武器庫に押し入らなければならないのですか?」
「分かりません。私たちには、いつも釈然としないことがありました。私も同じ質問をフランクにしましたが、何故だかは理解できませんでした」
「あなたたちは武器庫に侵入し、盗んだのですね、銃と・・・」
「ライフルもです」
「そして、その後、そうした銃をだれに運んだのですか、キューバやフロリダの反カストロの部隊ですか?」
「マイアミです」
「ダラスでスタージスらのグループと別れたのは、私にはよく理解できなかったのですが、あなたがそうしたかったからですか、それとも・・・」
「私がそうしたかったからです。それに娘のことが気になりましたし、私が場違いの人間であるとも感じていました」
「スタージスもあなたに立ち去るよう言ったのですか?」
「いいえ。彼はただ、"お前はここを出ていけ。お前にはここにいて欲しくない"とだ
け言いました。
私はこう言いました。"いいわ。いつも通りね。あなたはまったく役に立たないわ。アレックスを探すわ"」
「それでは、彼はあなたが立ち去ることに異議を唱えなかったのですね?」
「唱えませんでした。お互いの意見が一致したのです」
「すると、彼はあなたに旅の目的、何故あなたがそこに行くのかという理由を知らせる
こと無しに、はるばるフロリダからダラスまであなたを連れてきたのですか?」
「そうです」
「それでダラスに着いたら今度はあなたに立ち去るよう言った?」
「はい」
「あなたは、あなたが何故そのダラス行きにかかわって、ダラスに行ったのか、その理由を理解したことがあったのですか?」
「私は彼が私を利用することはないと思っていたし、利用されたくもありませんでした。私は本当に、将軍の弁護士の件とアレックスを探し出す件で彼と話をしたかっただけなの
です。旅の初めのある時点では、アレックスがダラスで待っているのではないかとの印象
を持ったほどです」
「ありがとう。おや失礼。フィシアンさん」
議長はフィシアンが手を挙げているのを見つけ、彼に質問をするよう促した。
▼フィシアンの質問1
「ありがとう、議長」
そう言ってフィシアンのロレンツに対する質問が始まった。
「あなたたちがフロリダからダラスに向かい、あなたが今回の仕事がいつもより長距離で様子が違うと受け止めたとき、武器庫に盗みに入るだけなのに、何故こんな遠くまで来るのかと不思議に思い始めましたか?」
「はい。私はフランクにたずねました。そうしたらフランクは、州境の警察や、入国管理局、関税局、沿岸警備隊が私たちへの取り締まりを厳しくし始めたからだと説明していました。マイアミやジョージアでは取り締まりが厳しすぎるので、遠くへ行かねばならないのだと言っていました」
「ダラスでの武器庫襲撃のためだと思った旅では、あなたはダラス市という名前をよく覚えているのに、ドッド議員の質問の答えでは、襲撃した武器庫がどの市にあるのか、どこにあったのか、覚えていないということですか?」
「そうではありません。襲撃した武器庫の場合は、大抵は夜でしたから、覚えていないのです」
「では何故、ダラスだけこんなにも鮮明に覚えているのか、答えていただけますか?」
「何故ですって? 今度はダラスの話ですか?」
ロレンツは先のドッドの質問で武器庫襲撃の話にはうんざりしていたので、苛立たしく言い放った。
「はい」とフィシアンは少し申し訳なさそうにうなずいた。
「それは、フランクに聞くべき質問です」
「そうではありません。私はあなたに何故、ダラスのことだけそんなに鮮明に覚えているのか、と聞いているのです。あなたの陳述書には、ダラスへようこそという標識を見たり、ダラスを去ったり、都市の境界を見たりとか、そんなにも詳しく覚えているのに、ほかの武器庫襲撃の話になると、急に記憶がぼやけてしまうのは、おかしいと思いませんか?」
ロレンツは今度はフィシアンの質問の意味をちゃんと理解し、こう答えた。
「ダラスに行くのは、武器庫襲撃ではないことが分かったからです」
確かにその通りだった。計画の緻密さからいっても、その場に立ちこめた一種異様な雰囲気からいっても、単なる武器庫襲撃でないことはダラスに着いた時点でロレンツにも分かっていた。だが、何なのかはスタージスやほかの仲間も一切答えなかった。その場の雰囲気から、だれかを殺すのは分かっていた。しかも大きな仕事だ。
フィシアンが聞いた。「ケネディ大統領がダラスに行く予定だったことは知っていまし
たか?」
「いいえ」
「ボッシュの家で開かれた会合で、大統領の名前が一度でも言及されたことはあったのですか?」
「はい。だけど、当時はだれもが、ケネディを憎んでいました。みんなケネディのことを悪く言ったり、軽蔑したりしていました。それでも私は、彼らが本気でワシントンにいる人間の悪口を言っているとは思えませんでした。何故なら、ワシントンにいる政府の人間から、私たちは命令を受けていたのです。特に資金が欠乏しているときとか、訓練に関しては。ピッグズ湾事件もそうでした」
こうしたロレンツの理解は無理からぬことだった。まさか、CIAの人間が自分の国の
大統領を殺そうとするとは、だれも想像だにしなかったに違いない。
▼フィシアンの質問2
フィシアンが質問した。「みんなが当時、ケネディを憎んでいたというのは、つまり、彼らはよく、ケネディを撃ってやるとか、殺してやるとか話していたということですね?」
「そうです。そういう風に言っていました」
「みんなというのは、だれのことを言っているのですか?」
「反カストロのキューバ人です。キューバ人のみんな、それに一部のアメリカ人も」
「これまで出てきた人物に限って話をしましょう」
「フランク・フィオリーニは大変激しく嫌っていました。ジェリー・パトリックやディアス・ランツも」
「オズワルドはケネディについて何か言っていませんでしたか?」
「はい、彼も同意見でした」
ロレンツは、ケネディ大統領が六二年十一月にマイアミに寄った際、亡命キューバ人たちが口々にケネディをののしり「いつかピッグズ湾事件の恨みを晴らすため、やつをやってやる」と言っていたのを思い出していた。
フィシアンが続けた。「すると、その旅をしたグループのメンバー全員がケネディらを嫌いだった。八人全員が敵対するようなことを言っていたのですね?」
「七人です。私は言っていませんから」
「ほかの七人・・・。こうしたののしりの言葉は、あなたが六一年に訓練を受けていた
ときに聞いた言葉と違うものでしたか?」
「違いました。でも私はその理由を感じ取りました。何故なら私の娘の父親はボビー・ケネディ(司法長官)によって本国送還されたため、みんな私もケネディ家を憎んでいる
と思っていたからです。しかし、実際は、私はケネディを非難したりしませんでした。本
国送還したのは国務省だったからです。しかも正当な理由があった。本国送還は単に私を
惨めな気分にしただけです。私はお金を失いました。弁護士のデービッドが三十万ドルの信託基金を取ってしまった。私の復讐心はデービッドに向けられたものあり、ケネディに
向けられたものではありませんでした」
「ボビー(ロバート)・ケネディに対しては、何ら憤りを感じなかったのですか?」
「ボビーに関しては感じませんでした。むしろ政府がやったという感じでした。政治的
な交渉事だという感じでした。私は・・・」
「ボビー・ケネディと将軍の関係について話してもらえませんか?」
「ボビーは将軍について、米国は今後いかなる独裁者にとっても安住の地とはならない
とする前例にしたかったのだと思います。でなければ、取引が行われたのです。デービッド本人が私に、マルコス・ペレス・ヒメネス将軍の後、権力の座に着いたロミュロ・ベタンコートとの間で、将軍を本国送還処分するという政治的取引が成立したと説明しました。将軍には国庫から数百万ドルを盗んだ容疑と四件の殺人容疑がかけられていました。私はデービッドが将軍に忠実ではないことに気づきました。彼自身もそう言っていましたから。それに私自身も本国送還の件では利用されました。私は本国送還を妨害するため将軍を訴えるよう言われました」
ヒメネスの本国送還は、当然といえば当然のことであった。ロレンツの証言からは、それを巧みに利用した“悪徳弁護士”デービッドの存在が浮かび上がってくる。
▼憤慨
「あなたがそのように、将軍と一緒にいたいという強い感情や望みを持っていたのなら、何故本国送還を妨害したのは間違いだったと、あなたの書いた証言書で言っているのですか?」
「それは国務省の代理人であるアービング・ジャフが、私の父親認知訴訟を取り下げるよう要求したからです。彼は"私が本国送還を妨害している"と言いました。そのとき、私はいいでしょうと言いましたが、デービッドがそれから二、三週間のうちに私のお金や家といったすべてを取り上げてしまったので、訴訟を取り下げませんでした。アービング・ジャフは、私が信託基金の条項に違反したからだと言いました。これに対し私は"デービッドが私の信託基金を元に戻せば、訴訟を取り下げる"と条件を出しました。そのとき私は信託基金を取り戻せると保証してもらったのですが、実際は取り戻せませんでした」
「だれがあなたの信託基金を取り戻せると保証したのですか?」
「国務省、ボビー・ケネディの配下の人間です」
「それに?」と、フィシアンは答えを促した。
「アービング・ジャフです」
「あなたは、ボビー・ケネディに対しては怒りの気持ちを持っていなかったと証言して
いますね?」
「どうしてボビー・ケネディを非難する必要があるのですか?」
「ボビー・ケネディと国務省が、あなたが証言したように、父親の親権訴訟を取り下げれば、三十万ドルの信託基金を取り戻してやろうと言い、だけれども信託基金が取り戻せなかったのであるならば・・・。それにあなたはお金の問題で非常に困っていたと証言しているわけですから・・・」
「いいえ、違います。お金だけの問題ではありません。生きるか死ぬかの問題だったのです。あなたは全く分かっていません。デービッドは私に死んで欲しかったのです」
「それは理解しています。私はただ、何故ボビー・ケネディ上院議員に対して、あなたが憤りを感じなかったのかを理解するのに戸惑っているだけです」
「それは私が当時、政府の命令に刃向かうつもりがなかったからです。そんなことは私の性分に合わないと感じていました」
「だけど彼らは、あなたが訴訟を取り下げれば、信託基金を取り戻すと・・・」
「あなたは分かっていません。ボビー・ケネディが私のお金を取り上げたのではないのです。デービッド・ウォルターズが取り上げ、それをいまだに持っているのです」
「それは理解していますが、私はあなたが言ったことについて聞いているのです。あなたはボビー・ケネディに憤慨したり、怒ったりしなかったと言ったと思うのですが」
「違います」と答えながら、ロレンツはまるで自分が魔女狩りの裁判にかけられているようだと思った。
「憤慨したと言ったのですか?」
「そんなことは言いませんでした。約束をしたのは国務省の弁護士とか、司法省の弁護士であるアービング・ジャフです。正確には彼がだれを代表しているのか知りません。国務省と思いました」
「彼は司法長官の下で働いていたのではありませんか?」
「はい」
「司法長官とはだれですか?」
「ボビー・ケネディです。だけどどうして私がボビー・ケネディを憎まなければならないのですか?」
▼休憩
「私が知りたいのは、彼らがあなたを裏切ったときの気持ちです。もし彼らがあなたに、三十万ドルの信託基金を取り戻せると約束・・・」
「彼らはデービッドと話をしましたが、デービッドは彼らにウソをついたのです。私の議論はデービッドのことであって、ボビー・ケネディの部下のことではありません」
「それでは、デービッドが信託基金を元に戻すと約束したのですか?」
「そうです。だけどそうなりませんでした。私はお金のことなど特に気にしていたわけではありません。稼ごうと思えばまた稼げますから。問題は、デービッドが車でつけ回した挙げ句、私をひき殺そうとしたり、人を雇って私を殺そうとしたり、殺人事件の証拠隠滅工作をしたり、ウソをついたり、そうした諸々の悪行をしたりする権利は彼にはないということです」
「議長、これで私の質問を終わります」
フィシアンの質問が終わった。
トリプレットが議長に提案した。「議長。ここで委員会スタッフの顧問弁護士であるジェームズ・マクドナルドに質問の機会を譲りたいと思います」
これに対しクリーガーは議長に五分間の休憩を求め、了承された。
午前十一時四十分、小委員会は休憩に入った。
89
▼決意と不安
下院暗殺調査特別委員会のジョン・F・ケネディ暗殺に関する小委員会で証言するように求めた召還状がロレンツに届いたのは、1978年5月1日だった。召喚状は、免責を与える代わりに証言を強制する命令書であった。
召喚状が届いたときロレンツは、逃げ出したい気持ちになった。危険はいつも身の回りにあった。殺してやるという脅迫は日常茶飯事だった。実際、CIAのカストロ暗殺計画にかかわったマフィアは、明らかに口封じのために殺されていた。
シカゴのモモ・サルバトーレ・ジアンカーナは1975年、上院の委員会がカストロ暗殺計画での役割について事情を聴こうとした矢先、自宅の地下室で殺された。後頭部に一発、そして、口封じだということがわかるように、口の周りに計6発の銃弾を浴びていた。
同じくマフィア関係者のジョン・ロゼリは、上院の委員会で一回目の証言をした後の1976年7月、殺された。マイアミ沖に浮いていたドラム缶の中で足を切断された死体の状態で見つかったのだ。ロゼリは二回目の証言をする予定になっていた。
CIAと関係しマフィアによる殺しを請け負っていたとみられるチャールズ・ニコレッティも1977年3月、シカゴのショッピングセンター駐車場で後ろから撃たれ、殺された。その48時間前には、ダラスでオズワルドと交友があったジョージ・ド・モーレンスチャイルドが“自殺体”で発見された。議会調査団に証言する直前であった。
ロレンツは、自分が何に直面しているのか、十分に理解していた。ロレンツもまた、“彼ら”と同じ世界に住んでいたのだ。だが、もう証言するしかなかった。自分で撒いた種は自分で刈り取らねばならない。
任務についているときは、自分のしていることを他人に話してはならないと教えられていた。それは国家の安全のためであると言われた。ロレンツが属していたオペレーション40は、CIAがお墨付きを与えた暗殺集団であった。ロレンツは直接、手を下さなかったが、一人以上の人間が殺されていたことにロレンツも気づいていた。盗みにしろ、殺しにしろ、法律など一切関係のない暮らしが“保証”されていた。
こうした非合法活動は、国家によって認知されていた。議会は巨額の金が何の説明もなく秘密情報活動に使われることを容認してきた。CIAの予算には、国益という大義名分を実行するための聖域があったのだ。
ロレンツはそうしたCIAの暗部を、知っていることを洗いざらい話すつもりでいた。しかし、委員会や世間の人々はそうした現実を受け入れることができるのだろうか。喋りすぎると、自分も消されることになるのだろうか。休憩の間も、ロレンツの頭の中では、決意と不安がまぜこぜになっていた。
▼再開
休憩の後、小委員会は午前十一時五十八分に再開された。
議長の了解を得て、今度はマクドナルドが質問を始めた。
「ロレンツさん。あなたは午前中、マイアミの弁護士、デービッド・ウォルターズの話をしてきました」
「はい、そうです」とロレンツは答えた。
マクドナルドは、ヒメネス将軍の弁護士で、ロレンツの子供のための信託基金を横取りしたという人物に特に興味があるらしかった。
「デービッド・ウォルターズとその仲間があなたのことを追いかけていたと?」
「はい」
「それに、あなたの子供のために創設された信託基金約三十万ドルを、彼があなたから取り上げたと証言しましたね?」
「はい」
「彼がお金を持っていたのなら、何故あなたを殺そうとするのですか?」
「私は彼に対し法的措置をとり始めましたから」
「どのような法的措置ですか?」
「私の信託基金を取り戻すためのです。彼はフロリダ州の弁護士、リチャード・ガースタインと組んで、フランク・ラッソという男を雇いました」
「ガースタインはデード郡の地方弁護士ですね?」
「はい」
「すみません。ウォルターズが地方弁護士を雇ったのですか?」
「いいえ。ウォルターズがその地方弁護士と一緒になってフランク・ラッソを雇ったのです。フランク・ラッソはレンタカーのシボレーに乗って、私をひき殺そうとしたのです」
「そのフロリダ州の地方弁護士はどうして、あなたとあなたの弁護士の民事訴訟に首を突っ込む必要があったのですか?」
「私が車にはねられた後、ナンバー・プレートをチェックしたのです。マイアミビーチの警察が調べたところ、リチャード・ガースタインの事務所までたどり着きました」
「車からですって?」
「車からです。ラッソはガースタインに雇われていたのです」
「あなたをはねた車ですか?」
「はい」
「あなたはひどくけがをしたのですか?」
「そんなにひどくありませんでした。娘は頭にけがを負いました」
「どこでその事故があったのですか?」
「私が隠れていたマイアミのモーテルの裏です」
「駐車場で、ですか?」
「はい、駐車場で、です」
▼悪徳弁護士1
(前回までのあらすじ)
ケネディ暗殺事件やカストロ暗殺未遂事件の関係者が次々と消される中、自分の命を危険にさらして小委員会で証言するロレンツ。しかしロレンツの証言は、CIAが暗殺事件の背後で糸を操っていたという衝撃的な内容であった。にわかには信じられない小委員会のメンバーは、ロレンツが真実を語っているかどうかを確かめるために、ロレンツ証言の矛盾点を詰めていく。ロレンツは委員らを納得させることができるのか。
「そのとき、あなたも車に乗っていたのですか?」
「いいえ。私は腕に赤ん坊を抱え、歩いていました。そこへ、その車が近付いてきたのです」
「これが、あなたが先程言ったところの、デービッド・ウォルターズがあなたをひき殺そうとしたという事件のことですか?」
「はい」
「その車は、その地方弁護士によって雇われた男が運転していたのですか?」
「はい。彼とデービッド・ウォルターズはマイアミ警察によって事情聴取されました」
「ロレンツさん、話があちこちに飛んでいます。デービッド・ウォルターズがあなたをひき殺そうとしたと言ったのではないのですか?」
「いいえ。デービッドが人を使って私をひき殺そうとしたのです。彼はまた、入国管理局に告げ口し・・・」
「ちょっと待って下さい。デービッド・ウォルターズがリチャード・ガースタインのところに行き、ガースタインの部下に車であなたをひき殺させようとしたと言っているのですか?」
「はい」
「その地方弁護士の部下の車で?」
「はい」
「マイアミのどこで起きたのですか?」
「正確な地名は覚えていません。見つけだすことはできますけど」
「町中のどの辺ですか?マイアミビーチですか?」
「はい」
「何時ごろでしたか?」
「夜でした。夜も早い頃です」
「モーテルの裏で何をしていたのですか?」
「入り口のところでした。部屋の入り口は裏にあったのです。赤ん坊と一緒でした」
「駐車場で何をしていたんですか? どこに行っていたのですか?」
「私はモーテルのプールのある辺りから部屋に戻るところだったのです。そのとき、車がずっと近付いて来たのです」
「どのくらいのスピードで近付いて来たのですか?」
「正確には分かりません。大きな駐車場で、車はかなり早かったです」
「どれくらいのけがをしたのですか?どんなけがを被ったのですか?」
「お尻をすりむいた程度です。だけど、私の娘は、私の手から放り出され、歩道に頭をぶつけ、頭から出血しました」
「だれかこの事件で処罰を受けましたか?」
「フランク・ラッソが警察に調べられました。デービッド・ウォルターズもです」
「ウォルターズはどうして調べられたのです?」
「彼は関係者であり、私を脅していたからです。ウォルターズは、私にマイアミから出ていけ、出ていかないと無理にでも追い出すぞと脅していたのです」
▼悪徳弁護士2
「彼があなたのお金を取り上げたと証言しましたね?」
「はい」
「もしそうだとしたら、ウォルターズにはどんな利益があったのですか?もう金を手に入れたのだから、何故あなたをマイアミから追い出そうとする必要があるのですか?」
「私は彼に対し信託基金を取り戻す訴訟を起こすと告げたからです。彼は私の娘の名付け親であり、信託基金の被信託者なのに、こんなことをしたのです」
「彼はあなたの娘の名付け親なのですか?」
「はい」
「今あなたは、重大な申し立てをしているのですよ」
「何を申し立てているか、よく知っています」
「あなたはデービッド・ウォルターズがマイアミで尊敬されている弁護士だということを知っていますか?」
「尊敬されているですって?」
ロレンツは耳を疑った。ウォルターズが尊敬に値する人間などということは到底受け入れられなかった。ウォルターズは信託基金を盗んだ上に、その金のためにロレンツを殺そうとした人物なのだ。マクドナルドは何という戯言を言っているのだろうか。
「尊敬されています」とマクドナルドは再度きっぱりと言った。
「だれに尊敬されているのですか?」とロレンツは皮肉を込めて聞き返した。
マクドナルドは、クリーガーがロレンツに何事かささやこうとしているのを見つけ、「弁護人、私は証人に聞いているのであって、あなたにではない」と諫めた。
ロレンツが「デービッド・ウォルターズが何で・・・」とウォルターズを非難しようとしたところ、マクドナルドが証言をさえぎって、こう付け加えた。「彼が尊敬されている弁護士で地域の名士であるということを知らないんですか?」
ロレンツはマクドナルドのコメントにあきれ返った。「素晴らしい。彼は何て素敵なんでしょう。彼がどうやってそんな尊敬を勝ち取ったか不思議だわ」
「デービッド・ウォルターズが過去十五年以上もの間、地域の教会に奉仕する積極的なメンバーであると知って驚きましたか?」
マクドナルドの根拠はあまりにも子供じみていた。教会の奉仕活動を十五年やっている人間ならだれでも信頼できる人間だという幼稚な考えに、ロレンツは到底、賛同できなかった。ウォルターズのキリスト教的地域奉仕者としての顔は、表の顔に過ぎない。ロレンツにとってウォルターズは金の亡者以外の何者でもなかった。そんな人間が現在、カトリック教の総本山で大使になっているということも新聞で知っていた。それが現実なら世の中は狂っている。金のために人殺しさえやりかねない人間が、世界中の多くの人が神聖視している国に米国の代表として大使をしているのだから。何という皮肉だろう。おそらく金を持っている"名士"が人格とは関係なく大使になるのがアメリカのシステムなのだ。ロレンツはそんな世の中にうんざりして言った。「いいえ。もうたくさんだわ。彼が今、バチカンにいるということも聞いています」
マクドナルドは勝ち誇っていた。「彼は今、バチカン市国駐在の米国大使です」
「私が保護されているときにそれを読みました」
「つまりあなたが言っていることは、ロレンツさん、重大な申し立てをしているということです」
マクドナルドは依然として幼稚な観念に固執したいらしかった。
ロレンツは言い切った。「私は死ぬまで、今まで言ったことを変えるつもりはないわ」
マクドナルドは言った。「いいでしょう。ありがとう」
▼オズワルド問題
マクドナルドは質問を続けた。「ロレンツさん。あなたはリー・ハーヴィー・オズワルドと名乗る男に会ったと述べましたね?」
「はい」
「五回ぐらい会ったと?」
「不規則に、そのくらい」
「私が数えたところでは、三回――。最初はマイアミの隠れ家で、二回目はオーランド・ボッシュの家で・・・」
「それから訓練所です」
「もう一度言ってもらえますか?」
「訓練所です」
「訓練所と、それにダラスへの旅行の時ですね」
「はい」
「いいでしょう。それでは最初に会ったときの話をして下さい。あなたは、あなたが言うところのマイアミの隠れ家で彼に会ったのですね?」
「はい」
「マイアミの一体どこにその家はあったのですか?」
「南西部だと思います。白い家で、だれかから借りていたのだと思います」
「当時、あなたはどこに住んでいたのですか?」
「(キューバの)反乱分子の一人として、リバーサイドホテルに住んでいました」
「失礼、もう一度言って下さい」
「リバーサイドホテルは、わたしたち反カストロ分子の泊まり場所でした。反乱分子たちは、後にピッグズ湾事件にかり出されたのです」
「マイアミ川のどのへんですか?」
「マイアミ川のそばです」
「分かりました」
「マイアミの町中の近くです」
「隠れ家は南西部だと言いましたね?」
「はい」
「南西部では、おおざっぱすぎますね。もうちょっと具体的にどこか言えませんか?」
「正確には分かりません。ズカス氏が運転して回ったときに、私は彼にその隠れ家がどこだか指し示したことはありますが。彼はマイアミの関税・入国審査局の人間です」
「そのとき隠れ家がどこにあるか指し示すことができたわけですか?」
「はい」
「あなたたちがその家を探し回った理由は何ですか?」
「彼も知りたがったからです」
「だれが知りたがったんですって?」
「そのスティーブ・ズカス氏です」
「我々も興味を持っています。何故あなたたちはその家に行こうと思ったのですか?」
「彼と行って、住所を確かめようとしたのです。そこが・・・」
「そうじゃなくてですね」と、マクドナルドはロレンツが自分の質問と異なる答えをしようとしたので遮った。
それでもロレンツは続けた。「そこが最初にオズィーに会った場所だからです」
「何故あなたは六〇年代の初めに、その家に行って、会ったのですか?」
「質問の意味が分かりませんが」
困惑したロレンツを見かねたクリーガーが口を挟んだ。「マクドナルド委員、多分あなたはこういう風に聞きたいのでは・・・」
マクドナルドはクリーガーを遮った。「私が質問をしているのです」
クリーガーがやけになって反論した。「あなたの質問がはっきりしないので、証人は理解できないでいるのです。あなたのことを助けてあげようとしているのに、その必要がないならそれもいいでしょう」
▼オズワルド問題2
マクドナルドはクリーガーが引き下がったのを確認して質問を続けた。
「ではこう質問しましょう。最初にその隠れ家に行ったとき、それはいつだったのですか?何年ですか?」
「私はそこにいました。私たちは銃を磨いたり、ビラをつくったりしていました。そのとき、オズィーが階段から現れました。フランクもいました。だけどよく分かりません」
「日付を確認しましょう。何年何月だったか覚えていますか?」
「六〇年か、六一年。分かりません。キューバでの仕事とキューバから離れた仕事の後でした」
ロレンツは依然として混乱していた。オズワルドに最初に会ったのはいつだったのか。ロレンツは記憶をたどった。確かにオズワルドには会ったのだ。でもいつだったか。ロレンツが隠れ家にいたのは六〇年、六一年、それに六三年。ロレンツには六〇年か、六一年のような気がしてならなかった。
マクドナルドがさらに確認するために聞いた。
「ピッグズ湾事件の後ですか?」
ロレンツは一瞬考え「いいえ、前です」と答えた。ロレンツは思い出せる限り正直に答えた。
マクドナルドは以外に思い、聞き返した。「ピッグズ湾事件の前?」
「はい。ピッグズ湾事件の後、私は外れましたから。私は将軍と一緒でした」
「いいでしょう。ということは、六一年四月以前の話をしているわけですね?」
「はい」
「六〇年でしたか?」
「そうは思いません。六一年の初めだと思います。その後、将軍と関係を持つようになったのです」
「いいでしょう。それでは六〇年の初めにあなたはマイアミ南西部にある隠れ家に行った」
「はい」
「そこに着いたとき、正確に何が起こりましたか?」
「私は銃の手入れをし、彼らはビラを折り畳み、ひもで結わえていました。ハバナ上空からそのビラをまく予定だったのです。そのとき、オズィー(オズワルド)が玄関の階段のところに現れたのです」
「当時、彼がだれだか知っていたのですか?」
「いいえ、知りませんでした。私は"一体全体、彼は何者なの?"と聞きました。フランクは、"やつはおれたちの仲間になるんだ"と言っていました」
「あなたはどういう風に紹介されたのですか?」
「私の名前であるところのイローナと」
「彼はどういう風に紹介されたのですか?」
「リーです」
「その後、どういう名前で呼ばれていましたか?」
「リー・ハーヴィー。後にリー・ハーヴィー・オズワルドです。私はオズィーと呼んでいました」
▼オズワルド問題3
「最初に彼に会ったとき、なんという名前で紹介されたのですか?」
「リー・オズワルドです。それからオズィーと呼びました。
私はフランクにたずねました。"何故彼なの?彼が私たちといる理由は何なの?"
フランクは"彼は、自分の目的に奉仕するためにここにいるのだ。彼は我々の一員だ。彼は中枢部の一人だ"と言っていました」
「自分の目的に奉仕する?」
「自分の目的に奉仕するためです。言い忘れましたが、私は、彼(オズワルド)が私に話したくないのだと思いました」
「将来の彼の目的に奉仕するということですか?」
「殺し屋として」
「スタージスはいつそんなことを言ったのですか?」
「隠れ家でです」
「それは分かっています」
「私たちは、私たちのグループへの新入りはだれでも気が付くのです。理由もなく私たちのグループに入ってくることはありません」
「オズワルドとは何か話をしましたか?」
「いいえ。ただ、どこから来たかとかは聞きました」
「彼はどこから来たと言ったのですか?」
「何て言ったかは覚えていません。別に気にもしていなかったし。彼はメンバーでした。私たちの一員でした。私は彼がくつろげるよう努力するよう命令されました」
「彼がどこから来たと言ったか思い出せませんか?」
「ジョージアとか、アトランタとか、ニューオリンズとかだったと思いますが、覚えていません。私は彼に"あなたはライフルを持てるほど頑丈じゃないみたいね"とは言いましたけど」
「ちょっと待って下さい。あなたが最初に隠れ家で会ったときに、そういう風に言ったのですか?」
「はい。私は彼に"訓練を受けるの?"と聞きました。彼は、彼が任務中であると言っていました」
「こうした会話は、あなたが最初に彼に会ったときにしたのですか?」
「はい。私たちは皆、彼に質問を浴びせかけました。私たちは座って、銃の手入れをしたり、ビラを折ったりしていました。そういうことです」
「どんな種類のビラを折っていたのですか?」
「反カストロのビラです。フィデルのことを共産主義者と呼び、キューバにいるキューバ人にフィデルに反抗するよう呼び掛けたものです」
ビラはピッグズ湾事件の前、キューバ国内にいる反カストロ勢力を結集させようとしてキューバ上空から撒かれたものだった。ビラは500枚で1束となり、紐で縛られていた。その紐をしっかり握ったままビラの束を落とすと、一枚一枚のビラが風に乗って雪のようにひらひらと舞っていく仕組みになっていた。
ロレンツもこのビラ折りを手伝った。だがロレンツは、当時洗脳されつつあったとはいえ、カストロのことを憎んではいなかった。誰にも見られていないときは、ビラの裏に思いつくかぎりのイタズラ書きをした、と自伝に書いている。その文言は、表のビラの内容とは正反対の「フィデル、愛しているわ」「マリタより愛を込めて」「こんなこと信じないで」といった内容だったという。
▼オズワルド問題4
「あなたはオズワルドに話しかけたのですか? 彼はそうした会話に参加しましたか?」
「彼はビラの一枚を取り上げて読み、笑いました」
「笑ったのですか?」
「笑いました」
「その隠れ家にいる人にとっては、通常の反応だったのですか?」
「彼はそれが気に入っていたようでした。彼はフィデルをいつも共産主義者と呼んでいるようでした」
「ということは、彼はビラの中に、何かユーモアを感じたということですか?」
「はい。私にはそう見えました」
「彼は何と言ったのですか?」
「何も。彼はただビラを読んでいました。特に変わったことは言っていません」
「そのビラの中に、一般的に笑いを誘うようなことが書かれてあったのですか?」
「いいえ」
「ではオズワルドは何で笑ったのですか?」
「ただ彼は笑ったのです」
「反カストロになることは、彼にとっても非常におかしいことではなかったのでしょう?」
「おかしいことではありませんでした。彼らは、キューバ国内のキューバ人にフィデルに対して反乱を起こして欲しかったのです」
「では何故、オズワルドは笑っていたのですか?」
「笑っていなかったのかもしれません。ハッ、ハッという感じで、大きく笑ってみせたのです。どっちともとれる笑いでした。私は"あなたは反カストロ活動に参加しているの?"と聞きました。すると彼は、"そうだ。参加している。俺は飛行機を操縦するんだ"と言っていました。だけど本当は、それは、ヘミングやアレックス、それにフランクの仕事でした」
「オズワルドは何かあなたに、彼個人の生活の話をしましたか?」
「いいえ」
「彼が結婚していたのは知っていましたか?」
「いいえ」
「彼には子供がいることは知っていましたか?」
「いいえ。だれも個人的な話はしないのが常でした。私個人の話はしましたが、それはフィデルとの個人的なつき合いがあったから話題になっただけです。みんなそのことを知っていましたが、それについて話そうとしませんでした。ただ、私のことをドイツ人と呼んでいました」
▼オズワルド問題5
「次にそのオズワルドと名乗る男を見たのはいつでしたか?」
「訓練所です」
「訓練所?」
「はい」
「訓練所とはどこですか?」
「エバーグレーズの訓練所です」
「エバーグレーズ」
「そうです」
「マイアミの西ですか?」
「南西です。そして小島の中です」
「あなたがその訓練場にいたとき、確か偶然けがをしたと言っていましたね?」
「はい」
本当は偶然ではなかった。カストロ暗殺に失敗したロレンツを殺そうとした可能性が強かった。
「大きなけがでしたか?」
「首に銃弾を受けて傷を負いました」
「入院しなければならなかったのですか?」
「いいえ。マイアミに車で運ばれただけです。フランクが運転しました。その日のうちにマイアミに運ばれました。オーランド・ボッシュは医者でしたから、彼が治療をしたのです」
「首のどの辺りですか?」
「後ろです」
「今でも傷跡がありますか?」
ロレンツは「はい」と言って髪の毛を少し上げて皆に見せる振りをした。ロレンツはさらに続けた。「そのとき、彼が彼の家で私の世話をみてくれました。私は外れたのです。私はリバーサイドホテルに戻り、そこで回復。その後、航空会社に就職したのです」
「もう一度、そのビラの話に戻りましょう。そのビラの目的は何だったのですか?」
「つまり、その頃までには、キューバを脱出して来られる人も日増しに少なくなってきていたのです。その結果、キューバ国内で七月二十六日の革命運動に対抗するキューバ人も減ってきていたのです」
「そのビラはキューバではどう受け止められていたのですか?」
「プロパガンダです」
「キューバで実際に配られたのですか?」
「キューバ上空で飛行機からばらまかれたのです」
「オーケー。あなたは先に、そのオズワルドという男が外国語を話したと言いましたね」 「チェコ語だと思いますが、よく分かりません。彼は外国語が話せると言っていました。彼はほら吹きでしたから。少なくともスペイン語を話せないのは知っています」
「彼はスペイン語を話せなかった?」
「話せませんでした」
「どうして分かるんですか?」
「少しはスペイン語を話しますが、流ちょうには話せません。アクセントがひどいですから。私はドイツ語とスペイン語を話せると言いましたが」
「それでは話せないというのは・・・」
「流ちょうには話せないということです。彼はスペイン語を理解することはできました」
「理解はできたんですか?」
「はい」
「彼がスペイン語を読んだり、書いたりすることができたか、分かりますか?」
「はい。というのもビラの一方は英語で書かれていましたが、反対側はスペイン語で書かれていましたから」
「何故、スペイン語圏で配られるビラに、二カ国語が書かれたんですか?」
「フランクに聞いて下さい。彼がビラを印刷したんですから、それにアレックスも。実際、アレックスがキューバ中にビラをまき散らしたんです」
「エバーグレーズの訓練場では、どの程度までオズワルドと話をしたのですか?」
「特にほかには。私も話しかけたくなかったし。命令だけを待っていました。彼もそこにいただけです」
「彼は何をしていたんですか?」
「訓練です。壕を掘ったり、テントを張ったり、物資を運んだり」
「物資を運んだりしたのですか」とマクドナルドはもう一度ロレンツの言ったことを確認するため、ロレンツが言ったことを繰り返した。
▼オズワルド問題6
今度はフィシアンが質問を求めた。「ちょっと質問をしてもいいですか?」
マクドナルドは「どうぞ」と言って、質問をフィシアンに譲った。
フィシアンはロレンツに聞いた。「その訓練を実施したのはいつでしたか?」
「いつと言いますと?」
「六〇年ですか?」
「六〇年から、私が撃たれて外された六一年初めにかけてです」
「ということは、あなたがエバーグレーズの訓練と言っているのは、ピッグズ湾事件の前の時点ということでいいのですか?」
「そうです」
「それにカストロが政権を取った後ということですね?」
「はい」
「それでは、全体から言って、基本的に六〇年であるということでいいですか?」
「はい」
「それでひょっとすると、六一年の一月とか二月かもしれないと?」
「そうです」
ロレンツはもう一度記憶をたどってみたが、やはり六一年にオズワルドに会ったのだと
信じていた。
フィシアンは「ありがとう」と言って質問を打ち切った。
マクドナルドが質問を再開した。「最初にオズワルドに会ったのはどこでしたかな?」
「隠れ家です」
「そうでしたね。では二回目に会ったのは?」
「訓練場です。少なくともそこで彼を見ました」
「最初に隠れ家で会ってから、二度目に訓練場で会うまで、どれだけ時間が経過していたのですか?」
「一カ月か、二カ月です。分かりません。そんなに経っていなかったかも」
「訓練場で彼に会ったときはピッグズ湾事件の前でしたか?」
「はい」
「オズワルドとは、あなたはオズィーと呼んでいたそうですが、あまり話をしなかったということですね?」
「しませんでした」
「三度目はどこで会ったのですか?」
「おそらく、隠れ家か、ボッシュの家、あるいは、フランクと車で物資を運びに行くときの車内です」
「何年のことを言っているのですか?」
「六〇年か、六一年初めです」
「ピッグズ湾事件の前ですか?」
「はい」
「つまるところ三回ぐらい会ったわけですね」
「はい。四回か、三回」
「いいでしょう。それからオーランド・ボッシュの家で会ったこともある」
「それで四回です」
「それが何年になるのですか?」
「ずいぶんと間があります。というのも、その間、私は将軍と一緒でしたし、赤ん坊も育てていましたから。それにいつもそのグループと一緒だったというわけでもなかったのです。それは六三年のことでした」
▼オズワルド問題7
「ということは、六一年から六三年の間、彼には全く会わなかったんですか?」
「その間、私はあまり人に会わなかったのです。将軍と一緒でしたから。ただ、何回かフランクとアレックスが私に会いに来ました。だれも一度は自分たちの仲間だった人間をそう簡単には忘れることはできません」
「オズワルドのことを言っているのですか?」
「そうです」
「別の言い方をすれば、彼はそのグループになくてはならない人物だったというわけですか?」
「はい。彼は秘密や計画、それに私たちが討議した諸々のことを知っていましたから」
「そのグループには全部で何人いたのですか?」
「四十人で発足しましたが、何人かは去っていきました」
「その中で、オズワルドはグループになくてはならない存在だったというのですか?」
「はい」
マクドナルドは質問の焦点をボッシュの家での密談に移した。「では、グループの密談について話して下さい。あなたはオーランド・ボッシュの家に行きましたね。その家はどこにあるのですか?」
「それは小さな家でした。スティーブ・ズカスと一緒に車で立ち寄ろうとしたもう一つの場所でもあります。私は彼のために家の図解を書きました。家全体の図解です」
「どの辺ですか?」
「正確には分かりません。マイアミの南西部だと思うんですけど。私は家を描くことはできますが、正確な住所は分かりません。私はその家がどういう外観だったかは覚えています」
「マイアミの家はみな、似たり寄ったりですよ。我々が興味のあるのは、その家がどこにあるのかです」
「似ていると言っても、家具やそこに住んでいる人は違いますから」
「確か、あなたはデービッド・ウォルターズとの問題で、その家に行ったのだと証言しましたね」
「助けが必要だったのです。デービッドの嫌がらせがあったので、あの反乱グループに駆け戻ったのです。その通りです」
「いわば、あなたは命を狙われていたと?」
「私と娘の命です」
「デービッド・ウォルターズのせいで?」
「はい。だからあのグループに舞い戻ったのです」
「その反カストログループに?」
「はい。彼らはマイアミにいましたから」
「身体的な危害から守ってもらうために?」
「彼らは多分そうすることもできたでしょう。だけど、私はそう望んだわけではなかった。ただ、場所を転々と移動しながら、いつかは家に戻ろうと思っていました」
▼オズワルド問題8
「すると、あなたは二年間そのグループとはつき合いがなかったということですね? そして、あなたは、ウォルターズとあなたの間の私的な問題を手助けしてもらうため、その家に行った。あなたの先の証言によると、あなたは家の中に入り、ある意味で地図が広げられた討議の場に参加、彼らがダラスについて話しているのを聞くこともできた、ということですか?」
「フランクはまず、本国送還について話をしました。彼は、その前に何度か私と会って、デード郡の刑務所から将軍を脱獄させる方策を探ったこともあるんです。私は彼を信頼し、彼も私を信頼していたと思います。だって、将軍を脱獄させようとしてくれたんですから。彼はデービッドとの問題について、個人的に相談に乗ってくれていました。しかし、そのとき、彼はダラス行きの仕事に取り組まなければならなくなったのです。私は彼について
その家に行きました。彼は後で話をしようと私に告げました」
「地図などを使った話があるからということですか?」
「はい」
「それで彼らが話していた都市というのがダラスだったのですか?」
「はい。しかし、私には何かおかしなところがあるとは気づきませんでした。特に気にしませんでしたし・・・」
「あなたは確か、武器庫襲撃の際、おとりとして使われたと言いましたね?」
「はい」
「どういう意味ですか?」
「おとりというのは・・・。ある時、私は約五台の車に乗り込んだ約三十五人の仲間を救ったことがあります。車には武器が積み込まれ、フロリダ半島の小島にそれらを運んでいるところでした。編隊を組むようにして車で移動している途中、警察が、武器を大量に積み込んだ私たちの車を呼び止めたのです。私は言い訳などして時間を稼ぎ、警察官を浜辺に釘付けにしました。私の言い逃れと警官へのウソのお陰で、入国管理局や税関の人間に私たちのグループが捕まらずにすんだのです。私の役目はグループ内で大変な評判になりました」
「いつのことですか?」
「そういったことは年中ありました。六〇年は、私たちは一カ所にとどまらず、移動ばかりしていましたから。銃を運搬していたのです」
ここで議長が口を挟んだ。下院議会の開会を告げるベルがなったのだ。「委員、申し訳ないが、二度目のベルがなったので、投票に行かねばなりません。今、十二時十五分ですので、いかがでしょうか、二時まで休憩ということで。その後、そう時間は取らずに、終わらせることができると思います」
各委員が賛同したのを受けて議長は休憩を宣言した。
小委員会は十二時十二分、休憩に入った。
(続く)
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