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TwiN 第3章
しかし、その扉の枠、つまり石造りの壁との境目が緑色よりずっと鮮明な白色で輝き、静かにその光の領域が増えていく事で、真に扉であるのだと判明した。振動も騒音も無く、扉は不自然な程スムーズに動く。そして驚くべき事に、扉は横にスライドするかと思いきや、そのまま後ろに下がってゆく。
扉は徐々に遠ざかる。光りが包んでいる為か、その大きさが縮んでいるように錯覚する。扉は5メートル程下がった所で見えなくなった。扉の内側は確かに回廊に比べれば目を塞ぎたくなるほどに眩しい。しかし、段々と慣れた今、さほどきつい光りが出ている訳でもなかった。
そして異変は起きた。扉は眩しくて見えなくなったのではない。紛れも無く、その場所から消えていたのだ。どうやって消えたのか、それどころかどういう原理で扉が動いたのか理解できないまま、部屋は姿を現した。
そこは部屋というよりも、幾らか開けた広間だった。天井はドーム状になっていて、地面から1番遠い所では、とてもじゃないが手も届かない高さだが入口の辺りは屈まなければ通れない程だ。さっきまであった扉と全く同質の物が颯矢たち三人の居る入口と反対側に存在した。
開かれた入口、消えた扉、対岸の出口、ドーム状の天井、その光景を瞳に写していたのは闘犬一匹だけであった。そこにいる人間は三人、二人が入口の前で背を向け、残りの一人と向き合っていた。二人の内の一人、神凪颯矢は深海を思わせる頭髪と、常闇を写す瞳を持ち、首からは銀色に光る懐中時計を下げていて、その蓋には装飾が施してある。
左腕に腕時計、右腕にはリングをはめている。靴は若干厚底。ジーンズを履き、西洋の文字を綴ったシャツを着ている。背中には小さめのバックパック。歳は二十歳前…十代後半頃だろう。彼の表情には多少の緊張が張り付いている。
「奇遇だな。ジョージ」
颯矢は充分な含みを加えて、対峙する一人に言った。表情や間の取り方から見て、含ませたのは皮肉かもしれない。ジョージと呼ばれた男もそれに応じるように言葉を紡ぐ。
「奇遇? 奇遇……か。私がここに居る事を偶然と思いたいのなら、構わん。好きにするがいい。しかし、この世に偶然や必然といったモノの薄っぺらさは見る人間によってひっくり返るのだ。私にとっては貴様とここで会ったのは必然だ。毎度の事ながらな。
そして、私が見た光景が現実になるのも、また必然なのだよ。」
城の入口の方から現れ、その手に松明を持った男は淡々と話す。どうやらこの松明が扉を開ける為の鍵だったようだ。彼の能力を疎むように言った颯矢の皮肉は、理解される事すらなかった。
颯矢の同伴者、安田司郎は突然現れた颯矢と顔見知り…以上の関係らしいその男を見上げた。広間からの光が差し込んでくる今なら、彼の髪が自前であることがわかる。貴賓すら漂う深い緑。深緑は少なからず神秘的な印象を受けるが、それ以上に近寄りがたい気質…というか気位みたいなものがある。服はどうにも高価に見える材質で、紫やら緑やらを基調にしたデザインで司郎の国やこの国の物とは違う民族的な衣装だった。マントのような上着、ズボン、肌着その全てが独立しておらず、一繋ぎになっているそして腰には両刃が備わっていそうな剣の柄だけが覗いていた。歳は30代後半だが髪色のせいか、実際よりも若く見える。
「先回りしてハイエナみたいに掻っ攫うのが常套手段のあんたにしては随分と遅い到着だな? 未来は読めても矢の嵐をかい潜る勇気は無かったか?」
皮肉が通用しなかったのにめげず再チャレンジするが、既に雰囲気的には颯矢の劣勢である。
「フン。物は言いようだな? 己の力不足を棚に上げて、他人を蔑むなど、愚の骨頂だ。それに今回は貴様のてこずっている姿が見え、あまりにも不敏なので、助けてやろうと思ってな。何度も取ったり掛けたりして傷のある松明に目が行かないのは素人もいいとこだな? 点火機関が内蔵されているから、嫌でも目につくサイズなんだがな?」
ジョージはあっさりと捩伏せる。
「うるさいな…気付いていたさ! 必要なかっただけだ! 一々、謎解きするのは面倒なんだよ! それに、トラップを見る事なく回避するなんて面白くないだろ。戦わずして逃げるみたいでさ。正々堂々と突破するからかっこいいんだよ」
颯矢も必死で抵抗するが、もはや負け犬の遠吠えに等しい。
「突破出来てなかったじゃないですか。松明も指摘したのに無視するし」
こんな口論が毎回、繰り広げられている気配がして、早期終結の為に司郎は強い方に加勢した。実際、振り回された恨みも少しはあったと自己認識してはいる。
「これから人類の科学の結晶で突破。いや、爆破しようと思ってたんだよ!」
「そんなもんを地下で使ったら生き埋めになりますよ!」
「その辺は上手く調節を……」
司郎が、どこまでも行き当たりばったりで楽観思考の颯矢に呆れていると、彼に興味を持ったのかジョージがじっと司郎を見つめていた。
「小僧、名は何と申す?」
「……貴方の国では自分から名乗る習慣が無いようですね? それとも、先に名乗る身分では無い…とかですか?」
「面白い。この小僧は貴様なんぞより余程見所があるな。颯矢。
我が名は、セント・クライズ・ファークアード・ジョージ5世。名は何と申す?」
「安田司郎です。何者なんですか?貴方は?」
「そうさなー没落貴族ってとこかな」
颯矢は面白くないというオーラをフルに出しながら茶々を入れる。
「貴様は黙っていろ。私は大陸に数ある小国の一つの貴族だ。今は野望の為、最古にして最も貴重な聖杯を探している。小僧は見所がある。一緒に来んか?」
「随分と節操の無いヘッドハンティングだな?」
颯矢を無視して二人は会話を続ける。
「生憎、僕は未だ労働初日ですんで、いきなり転職する気には……」
「そうか……しかし、直ぐに気も変わるだろう。上司……いや同僚がこんな男ではな。」
もはや自棄になったように颯矢は、がに股で「無視して突入~」した。
「ま…待て! 貴様、不用心だぞ!」
「トラップなんて望むとこ~」
忠告も右の耳から左の耳である。颯矢はスタスタと二人を置いて中に入る。がに股で。司郎も一応、上司の後に続こうとする。
しかし、「待て!」とジョージが呼び止めた。
「……? 向こう側に出口が見えてますよ?」
司郎の顔に困惑の色が浮かぶ。
「あたかも誘い込むようにな」
ジョージは諭すように指摘する。
「考え過ぎなんじゃないですか? 松明を持ってなきゃ、矢は越えられないし、扉も開かない。そこまでしといて開いた扉に罠を張るとは……」
司郎は一向に信用しない。
「町民も此処に来ているんだ。恐らく松明の光が鍵だということは皆が知っている。町民が盗みに入れば対応出来ない」
ジョージはあくまで冷静に言う。
「確かに、一理ありますけど。だったら他に道があるとでも?」
司郎は気になった事を率直に表に出す。
「さぁな? 分からん。壁に繋ぎ目も無いし、造りから言ったら、横道もなさそうだ。しかし、向こう側の扉の開け方も分からないのに入れば……」
そしてジョージは言葉を濁す。
「閉じ込められるかも?」
「そういった場合、内側に鍵があることはまず無い」
「進まなきゃ何にも持って帰れませんよ?」
「進みたいのなら好きにしろ。私はもう少しここを探る。」
「嫌ですよ。その松明で開いたのにそれが無かったら、本当に閉じ込められるかも知れないじゃないですか」
「何と言われようが、まだそこに入る気にはならんな」
「……僕だって入りたくありませんよ。この城にも入る気無かったんですから。でも、貴方は……ジョージさんは欲しい物があるんでしょう? それにさっきの話の流れから言うと、予知者<プレコグ>ですよね? 手に入る確信があったんじゃないんですか?」
「あったんじゃない。あるんだ。しかし、己の能力を過信し無謀に転じれば、確実に命を落とす。……例外もいるがな」
「閉じ込められる未来は見えないんですか?」
「生憎、万能ではない」
「どちらにせよ、僕は入りますよ。きっと中からこじ開けりゃ良い! ってあの人は言うだろうし」
「…………」
「良かろう。たまには能力を過信するのも悪くないだろう」
深い沈黙の後、ジョージも決断する。
「あの人が扉を爆破しない内に行きます。っ来い! リオン」
勝手に名前を付けられた闘犬の目線の先には、扉をガンガンと蹴る颯矢の姿があった。
「……相変わらずだな」
最後に松明の熱で若干頬がほてったジョージがその空間に足を踏み入れた。そして音も無く扉が現れ、振り向くと岩戸の如く閉ざされた退路がそこにあった。
「……ッ!」
ガンっ!
ジョージは力の限り、扉を一度だけ蹴った。結果は言うまでもなく、『反対側』と同じだった。颯矢が蹴り続ける音が室内にコダマし、ジョージは怒りに震えた。ジョージの内に猛る炎とは対称的にその手に持つ松明は何の前触れも無く、胸に抱く希望と共に静かにしかし確実に消えた。司郎は冷静に深呼吸し、伸びをした後言う。
「駄目かもしれない」
司郎は静かに部屋の中央まで進み、天井と内壁に描かれていた壮絶な絵に感嘆し息を呑んだ。それは名だたる芸術家が描いた物かどうか司郎には判断出来はしなかったが、巨大な城の一室…それも閉鎖空間に閉じ込められている事すら忘れる程の出来で、彼が生まれてから見た中で最も魅入ったモノであるのは確かだった。
おそらくは奉られている神……
あらゆる物を喰らい、太陽をも飲み込まんとする八つ首の竜。いわゆる、空想上の生き物ではあるが、その絵は竜が実際に生きていた。あるいは今、世界に存在していると錯覚させるほどのモノだった。
司郎は胸が苦しくなり、大きく息を吸う。そして気付く、自分が閉ざされた内にいるという事実に。ずっと眺めていたい気持ちを堪え、周囲を見渡すと、前門を蹴りまくる颯矢と後門に八つ当たるジョージが目に入った。前途多難な現状に嫌気がさし、司郎は思わず、弱音を零す。
「駄目かもしれない」
しかし、司郎は気を取り直して、状況判断に努める。この部屋までの回廊は一本道で他には考えられない……颯矢が蹴りまくってる扉の先に目当てのトレジャーが在るはず、なのは良いがこのままでは餓死かそれより早くに酸欠で死ぬかもしれない。この部屋がトラップであることは恐らく間違いない。
入って来た扉は奇妙な開き方で音もなく部屋の反対側に滑り壁面に納まり、室内に入った後、振り返ると開いた扉が再び入口にあった。扉を開けるには何らかの動作か鍵が要るだろう。入る為の鍵は松明だった。その明かりを扉にかざすことで道は開けたが、室内に入った瞬間にその灯は消えた。出る為の鍵は別にあるのかも知れない。けれど絵が一面にあるだけで物は何一つとしてない。前に進むどころか戻る道すら断たれてしまった。
これが現状だ。あまり良いとは言えない。どちらにせよ、扉を蹴るのは無意味らしい。司郎は自身の置かれている状況を把握し、歩を進めた。進行方向に扉は無く、司郎は円形の部屋の側面、つまり唯の絵の描かれた壁に向かって歩いていた。絵にこの部屋の鍵があるとは思っていなかったが、とりあえず開かない扉を蹴るよりも、他の抜け道を探ってみようと思っていた。都合よくこちらには人間の何倍も強力な嗅覚を持った犬も居ることだし、人の通った臭いを追えば、抜け道は案外簡単に見付かる筈だ。それが在るのだとすればの話だが。
もし本当に、ここが単なる神を崇める祈りの場で盗賊を捕える牢獄ならば、結果は絶望的であるかもしれない。とにもかくにも、司郎は壁面に辿り着いた。そこは描かれている竜の頭の一つが煌々と輝いている太陽をひと呑みにしようと口を開けている場所だった。その余りの迫力に司郎は再び息を呑む。そして、とりあえず壁面に触れてみた。思っていた以上に壁面は柔らかく、少しだけ手が壁に減り込み、吸い付くような多少の刺激。
そして……
何故かは分からないが、脈が早くなり、息が荒くなる。体中の力が抜けていくような感覚を受け、立っていることが出来ず、後ろにストンと尻餅を付いた。倒れたときに壁から引っ張られるような力を全く受けなかった。だからその拍子に手は壁から離れた。と勘違いした。
しかし、壁の触れていた部分は奇妙に伸び、水飴の様に手に張り付いたままだった。それを見た瞬間、司郎は言い知れぬ恐怖で悲鳴を上げた。
「うぁぁぁっ!!」
手に付いたままの壁面は生命のようにうねり、じわじわと手との接地面を増やしていく。同時に部屋全体が軟化したかのように波打ち、躍動した。司郎と部屋の異変に気付いたジョージと颯矢は同時に振り向き、駆け出す。颯矢の方が若干早く到着するも、刀の柄に手をかけたジョージの、「どいていろ!」という一言で、壁に触れる間合いから慌てて一歩下がる。
ジョージが適当な位置に入ると左足は地を蹴り、右足の踏み込みと同時に鞘から抜き放たれた刀身が姿を表した。鋭利な切っ先と鈍い光りが颯矢の前髪を掠めた時には司郎の手は壁から離れていた。壁側の切断面は、蜥蜴の尾のように左右に揺れると諦めたように壁の中へ戻り何事も無いようにそこに絵が浮かぶ。
「うぁ、気持ちわる」
その光景を見た颯矢は反射的に言う。切り離されたことでその動きが収まるかに思えた司郎の手に付いていた部分は、しかし逆に身軽になったとでも言うように、あっという間にその身体を伸ばし司郎の手を侵食していく。
「あ! がぁぁうぁぁ!」
その侵食が激痛を伴っている事を表すかのように司郎は苦痛の声を上げる。ゲル状になったそれは手首を飲み込み、肘を越え、肩に達しようとしていた。このまま侵食が続けば、痛みでショック死するか体を全て飲み込まれてどうなるか分からない。口と鼻を塞がれ生きていられるとも思えないが……それをいち早く察し、ジョージは刀を構えて言う。
「腕を出せ、そいつごと切り落とすしか無い!」
司郎は涙を零しながらその瞳で刀を上段に構えるジョージを見上げる。その目は冷徹という事を体言したように冷ややかだ。
しかし、この痛みから逃れる為、命を長らえる為、司郎は下唇を血が出そうな程噛み、腕を水平に挙げた。
「賢明だ」
ジョージは構えている刀を振り下ろす前に、一言発した。実際、彼にかかれば斬られた事すら分からぬ程あっさりと痛みごと腕を落としてくれるだろう。刀に体重を乗せ、振り抜く前にジョージは躊躇した。それが他人の腕を切り落とすことに躊躇われたので無いことは直ぐに分かった。冷徹な目は司郎ではなく、その後ろの人間によって揺るがされていた。
「………」
一瞬、悪寒を覚える程の殺気が背後から突き刺さり司郎は息を呑み、身をすくめる。颯矢は司郎の腕を掴む。その位置は侵食されていないギリギリの部分。そしてジョージの刃が通るはずだった所に他ならなかった。
「!? ……馬鹿者!」
その無謀な行いにジョージは驚嘆し罵倒する。司郎の手に取り付いていたそれは、新たな獲物を見つけたと言わんばかりに蠢き、颯矢の指先を包み侵食する。それは先に進むに連れて、速度を増していく。活動のエネルギーをその皮膚から奪いつつ行動しているように。
「助手の腕を簡単に落とさせる訳にはいかねぇ!」
颯矢は鋭い視線と口調でジョージに向かって言い放つ。颯矢の指先にも激痛が這っている筈だが、それを微塵も感じさせる様子は無い。このまま二人とも得体の知れないモノに覆われてしまうかと思われたとき、ソレに変化が起きた。水を得た魚の如く活性化、侵食していたソレは途端に動きが悪くなり、ついには止まった。そして末端、最初に触れていた司郎の指先辺りから色が抜けていき、もはや水分しかないのか色の抜けた部分からポタポタと流れ出していく。
氷漬けになっていた手の氷が溶けるような、麻痺しつつも正常な感覚が司郎の指先に戻ってくる。痛みが消えていき、指や肘が動かせるようになると司郎は颯矢に掴まれている事を改めて知った。ソレは司郎の指先から溶けだし、司郎の手…肘…颯矢の指先…手首の腕輪…二の腕が順に姿を見せ、その辺りで、全て液体と化し流れ落ち、床に水溜まりが一つだけ出来上がった。ゆっくりと颯矢は司郎から手を離し、ふっと息を吐いた。
司郎には実際、何が何やらさっぱりだった。突如壁に襲われ、訳も分からない内に助かったのだ。
「一体何なんだ?」
しかし、言葉にしたのはジョージが先だった。
「トラップだろ? ……質の悪いな」
颯矢はジョージの意図した問いとは異なる回答を答える。そして続けた。
「触れた者を取って食おうとするなんてホントに気色悪いな。部屋が段々小さくなるトラップよりはマシだけど……」
「そんなことは聞いてない! 何故ソレが急に止まった!?」
ジョージは呆れを通り越して、少なからず怒りをあらわにして颯矢の言葉を遮る。
司郎も実際には何故助かったのかという部分が一番知りたかった。
「知らねーよ。あんたに斬らせないように手を出しただけでどうにかしようとした訳じゃ無いし、どうにかなるとも思ってなかった。……ただトラップの効果が切れた。それだけの事だろ?」
「ふざけるな! それだけだと? あんなに不自然な効果があるか! 活性化したかと思った矢先に……」
「あー、もぅうるさいなー。良いじゃないか! 助かったんだから、あんたは力で未来が見えるからって物事を決め付けて早合点すんのが多いんだよ! むやみやたらに人に刀向けんなっつの」
今度は颯矢がジョージの言葉を遮る。彼も少なからず怒りを抱いているようだ。
「ふん。言いたくないのなら、それでもいいがな」
「まだ言うか!」
「止めてくださいよ。助かったんだからいいじゃないですか。それよりここから出る方法を考えないと」
「……」
「……」
颯矢とジョージは互いに睨み合ったまま沈黙していたが、ジョージが踵を返し一応の停戦体勢になった。
「私は始めからその方法を模索していたがね!」
「人がしてないみたいに言うなよな!」
「なら何か分かったことでもあるというのか?」
「……っっ!」
颯矢は痛い所を突かれ黙り込むしかない。そして辛うじての反撃を口にする
「そういうあんたはどうなんだよ?」
「貴様と一緒にされては困るな。この建物自体もそうだが、特にこの部屋は何もしていないのに倦怠感や疲労感が蓄積される構造になっているようだ。鈍感な貴様は気付かぬようだがな?」
ジョージは皮肉を込めつつ続ける。
「その上、触れることで生命力を根こそぎにされる作り。いや取って喰われそうだったと言った方が正確か。この松明も微弱ではあるが持ち主の生命力を奪って灯るようだ。」
「あ! だから部屋に入ったら消えたのか!」
司郎が得心したように言う。
「確かに部屋のマナが希薄なのは分かるが、だったらどうだってんだ? 脱出方法が分からなきゃ意味ねーだろ?」
颯矢は不機嫌そうに不満を漏らす。
「マナ? って何ですか?」
不意に会話に出て来た単語に司郎が首を傾げる。
「話の腰を折るなよ。マナってのは俗に言う魔力とか生命力とか氣とかいう胡散臭いものだよ。説明終わり! んで脱出方はあんのか?」
彼は気分の浮き沈みや感情の起伏が激しい完全な気分屋らしい。
「おそらくは無い。今の所な」
「どういう事さ?」
絶望などを全く浮かべず、颯矢はただ不機嫌そうに問い質した。
「少しは頭を使ったらどうなんだ? この部屋の構造、使用目的、私たちの追っている宝、全て合点がいく」
「……成る程ね。月に一度の参拝に精力を奪う部屋か。こりゃ本物の可能性大だな」
颯矢は少し上機嫌になって言う。話に取り残されている司郎は不安そうな顔を浮かべ、彼等を見上げている。
「けど、だとすると出させない構造になっているって事か。道理で侵入は案外簡単だった訳だ」
トラップを回避する方法は簡単だったが、それを使っていない颯矢の発言に司郎は顔をしかめた。
「ま…脱出方はジョージに任すから。無理なときはBOMB! ってことで。ふー、ひとやすみィぃ!?」
ジョージが異議を唱えようとした矢先、颯矢は素っ頓狂な声を出す。うっかり絵の描かれた壁面にもたれ掛かったのだ。
「……」
あまりの不注意な行動に司郎とジョージは絶句した。
しかし、変化は無い。
そう思い、颯矢は壁を押して離れようと力を入れた瞬間に重力を下ではなく背後に感じた。地球と同等の引力がかかり、つい先刻と同じように軟化した壁面が颯矢の全身を一気に飲み込んだ。室内には絶句した二人が立ち尽くし、部屋は再度躍動する。
そして…つっかえ棒を失ったかのように部屋は徐々に縮小していった。
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