むかしむかし、たくさんのニワトリを飼っている貞蔵という人がいました。
ある夜の事、貞蔵さんの家で不思議な事がおこりました。
真夜中に一羽のニワトリが天井を見上げながらため息をつくと、突然たたましく鳴き出したのです。
「コケコッコーッ! コケコッコーッ!」
びっくりして飛び起きた貞蔵さんは、まっ青になりました。
「これは大変だ!」
このあたりでは夜にニワトリが鳴くと、良くない事がおこると信じられていたのです。
そして夜鳴きをしたニワトリは、川へ流してしまうというならわしがあったのです。
「可愛そうだが、仕方ない」
貞蔵さんはニワトリをわら袋につめて首だけを袋から出すと、川へと向かいました。
「すまねえな。成仏してくれよ」
貞蔵さんは川にニワトリを流すと、後ろを振り返らず走って家に帰りました。
捨てられたニワトリは川を流されていきましたが、途中で引っかかってしまい、そのまま夜を明かしたのでした。
さて、そのニワトリが引っかかった場所の近くに、虎吉という人が住んでいました。
虎吉さんは、その夜に不思議な夢を見ました。
その夢とは、誰かが虎吉さんの家の戸口を叩くので、
「誰かな?」
と、出てみると、そこには一羽のニワトリがいて、虎吉さんにこんな事を言ったのです。
「わたしは、土手町に住む貞蔵という者のニワトリです。
主人の家では、先祖の位牌がニワトリ小屋の上に転がっています。
このままにしていたら、先祖の罰があたって家は滅びてしまいます。
どうか早くわたしを連れて行って、主人にその事を伝えて下さい。
わたしは今、川の中にいます。
わら袋に入れられているので、どうする事も出来ません。
どうか、手を貸して下さい。
お願いします」
ニワトリはそう言うと、空高く飛んでいきました。
目が覚めた虎吉さんは、さっそく夢の中でニワトリが告げた川に行ってみました。
すると本当に、わら袋から首を出したニワトリがいたではありませんか。
「おお! 夢で見た通りじゃ」
虎吉さんは、すぐにニワトリを助けると、貞蔵さんの家を尋ねていきました。
そして夢の話をしたところ、貞蔵さんもビックリです。
二人はさっそくニワトリ小屋の天井の上を調べ、ほこりまみれで転がっているご先祖の位牌を発見しました。
「あっ、あった! 虎吉さん、ありましたよ」
貞蔵さんの家では、先祖の位牌を集めてお盆や正月におまつりしていたのですが、その中の一枚をネズミがニワトリ小屋の上に運んだのでしょう。
「ありがとうございます。これで家が滅びずにすみました」
貞蔵さんは虎吉さんに、たくさんのおお礼をしました。
そしてニワトリにも、心から礼を言いました。
「お前のおかげで助かったよ。これからは大切にするから、許しておくれ」
するとニワトリも、その言葉がわかったのか、
「コケコッコー!」
と、元気に鳴きました。
それからはお告げをしたニワトリは大事にされ、とても長生きをしたそうです。
お前たち高名なるすべての賢者よ、お前たちは、民衆と民衆の迷信に奉仕してきたし、真理には仕えなかった! そして、それゆえにこそ、人はお前たちに畏敬を払った。
ニーチェ
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