Horse Rainbow 16


Horse Rainbow Vol.16 
「Forever Jun-ichiro~岡潤一郎物語 Ⅲ~
桑園での奇跡、仁川での成長、淀での約束」



今年の2月に紹介した Horse Rainbow 09
(あれから10年 あの日止まった時計が また動き出す)
また、5月に紹介した Horse Rainbow 11
(いつか見た夢、いつも願っていた願い、そして。。。)
今回は、その続編になります。
ついに、この続編も3作目に突入しました。


5月に行われた優駿牝馬(GⅠ)。
結局、スティルインラブが快勝し、2冠達成。
ヤマカツリリーは4着善戦。
オースミハルカは10着に敗れました。
まずは、そのときのコメントを掲載しましょう。

ヤマカツリリー 安藤勝己騎手
道中は折り合いがついてリズム良く走れました。
ただ、上がりが速過ぎてこの馬にはつらかった。
我慢強い馬だけどスパッと切れる脚がないからね。
掲示板には載れると思ったけど、これが精一杯でした。

オースミハルカ 川島信二騎手
うるさいのはいつもですから。
折り合って追走できましたし、一瞬はピューッと伸びかけたんですけどね。
少し距離が長かったのかも知れません。
でもこれだけ折り合ってレースができたのは収穫です。
2000mあたりが一番合っていそうですね。

安藤勝己騎手・川島信二騎手。2人が共通して言っていた事。
それは、「2000mがベスト」だということです。
(ヤマカツリリーのベストというコメントについては、
Horse Rainbow 11 内で掲載しています。)
そして、人馬共に成長の夏を迎えます。


まずは、オースミハルカ。
8月17日 札幌競馬場 クイーンS(GⅢ)
GⅢながらも、最強牝馬と言われているファインモーション・テイエムオーシャンが出走。
ちなみに、このレースには、ヤマカツリリーも出走していました。
オースミハルカは6枠6番。ヤマカツリリーは4枠4番。
そう、岡騎手の故郷でもある札幌競馬場で、オースミハルカは奇跡を見せます。

レースは逃げ馬不在のスローペース必至の展開。
川島信二騎手は、思い切って先頭でレースを進めます。
ヤマカツリリーは好位の3番手を追走。
ファインモーションは内の5番手。
それをマークするようにテイエムオーシャン。
こんな感じで、札幌の短い直線を迎えます。

実況「オースミハルカが粘る粘る!
ファインモーションが1完歩ずつ差を詰める!
更に外からテイエムオーシャンも飛んでくる。
オースミハルカがまだ粘る!
2頭が並んだー!しかし、わずかにオースミハルカが優勢か?」

確かに斤量差(ファインMと6kg、Tオーシャンとは7kg)はあっただろう。
単騎逃げという展開利もあっただろう。
とはいえ、最強牝馬の2頭を負かしての大金星。
テレビのインタビューで、川島信二騎手はものすごく喜んでいたのが印象的でした。

川島信二騎手「いやぁ。勝ってまいましたね。」

今年、4ヶ月間も勝てないという大スランプを経験しました。
また、落馬で1ヶ月以上レースに乗れないという経験もしました。
しかし、今年の2月の小倉大賞典に続く、重賞2勝目。
ここから、川島騎手は勝ちまくりました。
夏の札幌2開催で、9勝という勢い。
やはり、札幌競馬場には岡騎手の後押しを感じます。

クイーンSのレース後のコメントです。

オースミハルカ 川島信二騎手
スタートが決まりましたし、誰もくる気配がなかったので行かせました。
以前のようにムキになることもなかったですし、本当にうまく息を入れながら走ってましたよ。
体もフックラしてましたし、春に比べると落ち着きが出て大人になりましたね。それが一番の勝因でしょう。

ヤマカツリリー(9着) 安藤勝己騎手
折り合い云々より、今日はイライラしてテンションが上がっていた。
久々で馬が舞い上がってしまったみたいだね。
返し馬の時からこれは行ってしまうなぁという感じだったから。
まあ、これを使って落ち着きが出てくれば変わってくるはずだからね。


そのクイーンSから1ヵ月後。
9月21日 阪神競馬場 ローズS(GⅡ)
2冠牝馬スティルインラブ、春の雪辱に燃えるアドマイヤグルーヴ、
夏の上がり馬ベストアルバム。
秋華賞トライアルということも手伝い、相当なメンバーが揃いました。
そこには、ヤマカツリリーが出走。
ローズSは、母親リンデンリリーが初重賞制覇を飾った重賞でもあります。
そこで、ヤマカツリリーは見せ場タップリのレースをします。

スタート直後、ジワっとハナに立つヤマカツリリー。
2コーナーを回る頃には、2番手エルダンジュとの差はおよそ8馬身。
見た目には派手な大逃げになりました。
1000m通過が61秒。競馬場がどよめきだします。
「まずいぞ、これ、ペースが遅いぞ。」

その差は、6馬身までに詰まりましたが、4コーナーを回っても独走状態。
ん?ひょっとして???と思わせました。

実況「ヤマカツリリーが逃げる!
真ん中からアドマイグルーヴ。外スティルインラヴは伸びない、現在5番手。
大外からベストアルバム。
アドマイヤグルーヴが交わしたー。1着アドマイヤグルーヴ。
ヤマカツリリーは2着。」

やはり、武豊騎はうまいです。内でジッと我慢をさせていたアドマイヤグルーヴが急襲。
ヤマカツリリーは、見せ場タップリの2着に破れました。

ヤマカツリリー 安藤勝己騎手
イレ込みの激しかったクイーンSに比べ、今日は落ち着きがあった。
逆らわず行かせる形になったけど、ペース自体はそれほど速くなかったと思うし、最後もよく我慢してくれたけどね。
勝ち馬には切れる脚でいっぺんに交わされてしまったので……。

今回は、さすがに脱帽といった感じですね。


桑園(札幌競馬場)で、オースミハルカが見せた奇跡。
仁川(阪神競馬場)で、ヤマカツリリーが見せた成長。
全ては、淀(京都競馬場)にある約束のため。。。


そういえば、10月17日付のデイリースポーツ。
こんな記事が掲載されました。

「20歳川島 ハルカで先輩超え」
充実一途の馬、メキメキと力をつけている騎手。
3年目の川島信二騎手が、秋華賞で夏を越え大きく成長したオースミハルカでG1初制覇を目指す。
7番人気のクイーンSでファインモーションを打ち負かした意外性を再び発揮だ。

前走のクイーンS、川島はオースミハルカでファインモーションを封じ込め、鮮やかな逃げ切り勝ち。
展開の利は確かにあったが、人馬ともの上昇度のなせる業でもあった。
大一番に向け先週、今週とビシバシ追い切りをこなし
「春から馬がだいぶ強くなっている。仕上がりは前走以上と言っていいですよ」と川島、さわやかだ。

師匠である安藤師の川島への期待も厚い。
師の胸の中では、以前、安藤きゅう舎に所属して奮戦していた岡潤一郎騎手の姿がだぶる。
88年にデビューし、いきなり44勝を挙げ新人賞。
91年にはリンデンリリーでエリザベス女王杯を制し、ターフに若き新風を送り込んだ。
だが93年、レース中の不幸な事故で、これからという命を亡くした。

「川島がデビューしたころに岡のステッキを渡した。岡はデビュー当時から頑張っていたからね。
でも、あと2年ぐらいしたら川島は岡を上回るんじゃないか」と、愛弟子の成長ぶりに目を細める。
「あんまりおだてちゃダメだけどね(笑)。馬も大物食いなら、川島にも、武豊やアンカツをやっつけてもらおう」
と、岡騎手の分までをと、思いを注ぐ。

デビュー3年目。G1騎乗はこれが3回目だが、当の本人は落ち着き払ってゲートインを待つ。強心臓だ。
「成長力で頑張ります」と、ハツラツと言った。
弱冠20歳、川島ハルカが果敢に行く。


10月19日は、京都競馬場で秋華賞が行われます。

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<10月20日更新>
昨日19日、京都競馬場で秋華賞が行われました。
よしきはその日、東京競馬場で朝から競馬観戦。
のんびりと馬券を買っては外し、買っては当て。
そんなのを繰り返していた気がします。


ちなみに、競馬予想のページには、こんなレース予想を書いていました。

さぁ、やってきました。3歳牝馬の最後の冠争奪戦。頭数は18頭。
今年も、夏を越え、最後の同期牝馬の咲き乱れ。
どの華が一番咲き誇りますかね?

今年最大の注目は、2冠牝馬スティルインラブ(8枠17番)です。
前走のローズS(GⅡ)は、+22kgの馬体増が応えた雰囲気ですね。
レース振りも、ちょいと不安を感じました。
今回、まず馬体がスッキリと見せる事。これが3冠への最初の関門です。
そして、出遅れない事。この2つが最重要課題です。
ただ、ローズSを1番人気で敗退、そして、秋華賞に出てきた場合。
連に絡まないという、ヤなデータがあります。
あえて、ここは切り捨ててみたいですね。

続いては、3冠全てで1番人気になりそうなアドマイヤグルーヴ(5枠10番)。
前走のローズSは、出遅れながらも内で我慢し、差し切って1着。
春の不安を消し去ったかのように見えました。
ただ、この馬、よく見てみましょう。
この馬、阪神の芝2000mに良績が集中しています。
しかも、桜花賞・優駿牝馬。負けていますね。
これは、大歓声に馬がイレ込んでの出遅れが原因。
今回、またもスタートが大観衆の前です。
京都2000mは、出遅れるとまず勝てません。
武豊騎手の手腕のみにかかっていますが。。。この馬も切りたいですね。

夏の上がり馬といえば、ローズS3着のベストアルバム(8枠16番)ですね。
怖がりな面が残ってる馬にとって、外枠は有利ですね。
ただ、この馬。。。大歓声に弱そうな雰囲気がします。
しかも、騎手を乗せると暴れる傾向があるみたいです。
レース前にスタミナを使い切る可能性、多分にありそうです。
正直言って穴人気して凡走するパターンかな。。。

関東のトライアル 紫苑S(OP)を勝ち上がってきたのは、レンドフェリーチェ(4枠8番)。
ただ、このレース。紫苑Sからの直行組は、明らかに相性が悪いです。
全くと言っていいほど走りません。
マーメイドS(GⅢ)の4着も、展開利がありながら、古馬に完敗。
ここは消しが妥当でしょう。。。

というわけで、前置きで有力馬をバッサバッサと切ってみました。
ここまでは、あくまで前置きです。
本題はここからです。

12年前。秋深まる京都競馬場。
菊花賞の余韻が残る3歳女王の決定戦。
そこで、待ちわびた新星が、京都競馬場に一瞬の光をもたらしました。
その人馬は、リンデンリリーと岡潤一郎騎手。

実は、このレースの直後、こんなエピソードがあります。
最近の競馬では、GⅠを勝つと、ウイニングランをするのが通例。
でも、この馬はウイニングランをしていないのです。
そう、レース後、岡潤一郎騎手は下馬。
実は、リンデンリリーは右前脚浅屈腱不全断裂を発症。
予後不良でもおかしくはなかったんですが、何とか繁殖牝馬としての道を残しました。

その「リンデンリリーの子供」が、京都のGⅠに帰ってきました。
そう、ヤマカツリリー(7枠14番)です。
昨年の阪神JF(GⅠ)で、人気薄ながらも2着好走。
ここから、主戦の安藤勝己騎手との出会いが始まりました。
その後、桜花賞トライアル フィリーズレビュー(GⅡ)を快勝。
桜花賞・優駿牝馬では4着好走。
夏のクイーンS(GⅢ)こそ崩れましたが、前走のローズSは復活の2着。
しかも、鞍上は名手安藤勝己騎手です。何か考えているはずです。
前走、大逃げしたように見せて実はスローだったように。
仁川で復活の兆しを見せた1輪のユリは、またもこの京都で華を咲かせようとしています。
そう、母親リンデンリリーが咲き誇った京都で。

そして、岡潤一郎騎手。
インタビューの時に真の笑顔を見せられなかった岡騎手。
結局、GⅠのインタビューで笑顔を見せることは出来ませんでした。
そう、リンデンリリーでGⅠを勝ってから、わずか1年2ヶ月。
新馬戦に騎乗した岡騎手は、騎乗馬オギジーニアスの故障により落馬。
その際、後続馬と接触し、帰らぬ人となってしまいました。

「いつかは岡騎手の気持ちを持った騎手が帰ってくる。」
そう信じてから10年。ようやく、その騎手が京都のGⅠの舞台に立ちます。
川島信二騎手とオースミハルカ(2枠3番)です。
春のクラシック2冠は6着・10着と振るいませんでした。
でも、この馬が変わったと思えたのは、前走のクイーンSです。
スタート直後に先頭に立ったオースミハルカ。
絶妙のペースで札幌の芝を走り、快勝しました。
その相手が、各世代の最強牝馬といわれた、ファインモーションとテイエムオーシャン。
確かに斤量差はあったかもしれない。展開利もあっただろう。
それでも、一線級の牝馬相手に逃げ切るのは、至難の業だと思います。
そのクイーンSから2ヶ月。オースミハルカは休養十分で出走します。
仕上がりは前走以上という安藤調教師。
多分、一番気合が入ってるのは、安藤調教師のはず。
その気持ちを、川島騎手もわかっています。
若干20歳の3年目の騎手かもしれない。まだ平場減量も取れていないのも事実。
しかし、今回乗るのは、武豊騎手を一番脅かす存在と言われていた、岡騎手の生まれ変わりだと。
偉大な先輩騎手が残した、唯一のGⅠ勝利の舞台、京都競馬場。
その舞台に初めて立つ後輩騎手。
川島騎手とオースミハルカ。
偉大なる先輩の前で、どういう騎乗を見せるのか。大注目です。

◎オースミハルカ
○ヤマカツリリー
(3連複) 3-14総流し
(馬 複) 3-14
(ワイド) 3-14


そんなこんなで、午後3時40分。
京都競馬場からGⅠのファンファーレが聞こえてきました。
秋華賞の発走です。
ゲートインが順調に行われていました。
そして、最後にタイムウィルテル(8枠18番)が入ろうとした時。
1つの事件が起こりました。

「あー、内で1頭ゲートを飛び出しています。。。オースミハルカですか?」

思わず、「あ。。。」と叫んでしまったよしき。
そんなこと、正直言って想定していませんでした。
この時、「これで、今年の秋華賞は終わったかな。。。」と思っていました。

そんなこんなでオースミハルカはもう一度ゲートインし直し。
順調に枠入りして、最後にタイムウィルテルもゲートイン。
いよいよ、秋華賞のスタートです。

いつもは出遅れるはずのアドマイヤグルーヴが出遅れていない。
ゲートを飛び出したオースミハルカもスタートは順調。
ヤマカツリリーは外から好スタート。

そんなこんなで2コーナー。
ヤマカツリリーは外の4番手をがっちりキープ。
オースミハルカは8~9番手くらいの内にいました。
3コーナーで、オースミハルカの川島騎手の手が動き出します。
「やっぱりな。。。」と思っていました。
ヤマカツリリーは外からうまく乗っている状況。
4コーナーでミルフィオリが少し不利を受けた模様。
その頃には、ヤマカツリリーも絶好位まで上がっていきます。
更に外を見れば。。。2冠馬スティルインラブがいました。

最後の直線。
マイネサマンサが逃げ粘ります。
やはり、長谷川浩大騎手が「強い馬ですよ。」と言っただけのことはあります。
外からヤマカツリリーはジワジワと伸びていく状況。
内を見ると。。。オースミハルカが最内をすくおうとしているのが見えました。
その時、自然とこの言葉が出ていました。


「ジュンペー、伸びろ!」


普通なら、「川島、伸びろ!」というはず。
でも、無意識に言葉が出てきたのは、「ジュンペー、伸びろ!」の言葉でした。

結局、スティルインラブが3冠達成のゴール。
2着は外から伸びてきたアドマイヤグルーヴ。
ヤマカツリリーは大善戦の3着。
オースミハルカは、内の6番手で入線していました。


インパクトがないといわれ続けながらも、3着に頑張ったヤマカツリリー。
ゲートを飛び出すというハプニングもありながら、6着に頑張ったオースミハルカ。
ホントに、頑張ったと思います。


その時の、東京競馬場の光景。
スティルインラブの3冠達成の瞬間、どこからともなく拍手が聞こえました。
その拍手は、知らない間に東京競馬場にいた全ての人の拍手になっていました。
まるで、クラシックのコンサートが終わった瞬間のような。
シーンとした場内の中で、拍手の音だけがずっと聞こえてきました。
もちろん、よしきもその拍手の中に入っていました。


レースが終わって3分後。よしきは考え事をしていました。
あの時、何であの言葉が出てきたのか。。。
最後の200mの間、ずっと「ジュンペー、伸びろ!」と言い続けていたのか。。。
その本当の答えは、いつかはわかるんじゃないか?そう思っています。


思えば、毎年のように北海道には出かけています。
でも、岡騎手が今も眠っている様似。
そこには、5年前に1度だけしか行った事がありません。
1人で新千歳への飛行機に乗り。1人でレンタカーを借り。
のんびりと音楽を聴きながら、車を走らせ。。。
門別を通り過ぎ、静内を通り過ぎ、三石を通り過ぎ。荻伏・浦河も通り過ぎ。
他の車たちは、ドンドン牧場へ途中下車していきました。
でも、よしきは、その間の牧場には、目もくれずに。
のんびり車を運転して様似へ。
多分、よしきの中では、もう1度あの場所へ行きたがってるんだろう。
そう思っています。
5年前は、同じ時期に牧場めぐりの誘いを受けていました。
でも、それを断って、1人で行ったのを覚えています。
あの場所だけは、ワイワイガヤガヤで行きたくなかったんですよね。
静かに行って、静かに向かいあって、目を閉じる。
そんな祈りの気持ちで車を走らせていたこと、覚えています。

そういえば、北海道はもう、冬の便りが聞こえてきてます。
さすがに、冬のシーズンにレンタカーを借りて、ってのは無理でしょう。
行くとしたら、来年かな、そう思っています。
「ジュンペー、ありがとう。」の意味もこめて。


11月16日、京都競馬場で、エリザベス女王杯が行われます。
願わなきゃ、夢は絶対に叶えられない。
信じなきゃ、希望は絶対に現実にならない。
思わなきゃ、喜びは絶対に沸いてこない。
淀での約束の切符は、もう一度心の中で暖めていよう。そう思います。


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