新米おんな社長の奮闘記(古米になりつつある)

新米おんな社長の奮闘記(古米になりつつある)

「高校生日記編」



 夕暮れ時、ユミカは部活の後片付けをしながら、校庭に目をやった。サッカー部が練習最後の掛け声とともに、バラバラと解散していった。「マサノブ・・・」白い体育着が真っ黒になっている様子が、遠くからでもよくわかる。ユミカは、手早く絵の具やら絵筆やらを片付けて階段を駆け降りた。

 「じゃあなー」サッカー部のメンバーが着替えて部室から出てくる様子を、ユミカはぽわんと眺めていたが、マサノブの姿が見えた途端、一直線に駆け寄った。「いよっ」ユミカが、どん、と身体ごとマサノブにぶつかっていく。「あっちーぜ、おめー」「夏だもん、とーぜん」「そーかい、そーかいわかったよ、でも練習で汗ばんばんかいてるから、くっせーよ、オレ」「わかってるよ、もうプンプンにおってる」 でも、実はユミカは、そんな汗っくさーい彼も、また男らしくてイイなんて思っているのだ。「はい」と手をだすユミカに、マサノブが体育着を渡す。「すまんなー、今日もキョーレツな汚れだぜ」「うわっ、ホントだ。洗濯のした、って気になるね。」「でも、このニオイがたまんねーだろー」「ウンウン、たまんないねー、きゃー」こんな話題で笑い合えるなんて、自分は平和で幸せ者だと、ユミカはつくづくそう思う。

 路地をいくつも曲がっているうちに、だんだん同じ方向に歩く人の数が減っていく。「ごめんな」マサノブが言った。「なに?」「いや、いつも洗濯してもらっててさ。悪いなーと思って。」ユミカは、にっこり笑いかけてからマサノブの少し前を歩きながら言った。「いいよ、どうせついでだから。」「ついでって・・」マサノブの少し怒ったような声をさえぎるようにして、ユミカが続けた。「うちの家族、自分のものは自分で洗濯することになってるんだ。私も、下着とかブラウスとか毎日替えるものは自分で洗うから。」と言って、マサノブに背を向けた。「下着・・・」マサノブはユミカの背中にくっきりと浮き出た下着のラインを見ながらつぶやき、自分の体育着とユミカの下着が一緒に洗濯機の中でまわっている様子を思い浮かべた。そしていつのまにか、体育着と下着を、自分自身とユミカに置き換えて想像している自分がいた。「どうしたの?」立ち止まっているマサノブに、ユミカが振り返った。ユミカが近づく。「どうしたの?」ユミカの開襟シャツがマサノブの目に入った、と同時に、マサノブは力づくでユミカの肩を引き寄せていた。

 “ヤッタ”一瞬でユミカの頭に星が飛んだ。“待ってたヨ、この日を!さっき学校をでる前に歯磨きしたし、さらさらパウダーシートで腕も拭いたし、ブラウスの襟から手をいれて胸だって拭いちゃったもんね。”マサノブが、ユミカの頭を自分の胸にぎゅっと押し付けた。「マサノブ・・・」苦しいよ、とユミカが言おうとした瞬間、マサノブは自分の身体を離して言った。「オレの体育着の汗のニオイと、オレの身体自体のニオイって、同じか?オレって、そんなにクサイか?おい、ユミカ、ちょっとニオイかいでくれよー、なー、その体育着のニオイさー、それってオレのニオイかよー。」ユミカは怒って体育着をマサノブの顔になげつけた。「自分でかいで確認してみろー!」ユミカは、怒ってずんずん歩いていく。“なによ、いい感じだったのに!自分の体臭の確認にアタシを使うなって、まったく”自分の前を歩いているユミカを見てマサノブは思った。“やっべー、うかつに先に進むところだった。今日は部活のあと、歯は磨いたけど、口臭を消すうがいをしてないし、フリスクも口に入れてないし・・・もう少し段取りをきちんとしないとなー。不潔なオトコは嫌われるっていうしなー”マサノブはそう反省しながら言った。「おーい、ユミカ、体育着―!」
                             END

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