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国分寺で太宰を読む会
「散華」 3
「雪の夜の話」というのが、同じ「ろまん灯籠」の中にある。
その話は・・・・
若い女性が 妊娠中の兄嫁に食べさせようとスルメをもらってくるが落としてしまって捜しに行ってもない。
その中に、駄目な小説家の兄さんが出てくる。
その兄さんが教えてくれた話に、デンマークの水夫の話がある。難破した水夫の網膜の中に、美しい一家の団欒の絵あった。
目玉に最後の景色が映った。水夫が難破してしがみついたところに、灯台守の一家がつつましく夕食の団欒をしていた風景があった。しがみついて助けをもとめていた水夫だが、その団欒を壊さないようにして自分は波にさらわれてしまった。
小説家は言って、それを医者は信じて二人で水夫のからだを弔った。
一家の団欒を壊さないがために犠牲にしていった死があった。
この中で小説家が空想で作ったこの話を、太宰は気に入って、何回もいろんなところで使っている。
たとえば、「一つの約束」というエッセイとか(どこにな発表されたかはわからない)19年ごろ、青森県の某紙に発表されたというが、わからない。
その「一つの約束」にもある。
窓枠から団欒をのぞいて、波にさらわれたという話がある。誰も見ていない
だけど、作家はその話に そこに真実がある。
その真実は、並みの真実よりも、もっと確かに貴いのだ。
「惜別」という仙台に留学していた魯迅の話がある。
国策の文学団体が小説を募集して、それは「大東亜の為」に書けということだった。
独立神話に応募して書いて、それが認められてば、当時としては色々な点で有利だったのかも。
しかし、この「惜別」は、魯迅の研究家には非常に評判が悪い。
それは、その太宰の小説というのは、正確にそのまま書こうとはしなかったからだ。
しかし、力のある作家というのは、いつもそういうことがあるのではないだろうか?
たとえば、三島由紀夫が「金閣寺」を書くときにも、最後の金閣は、まったくの三島の世界だった。三島美学だ。
「惜別」の後半に近いところに、魯迅である周さんに会って話すところがある。
周さんが、文学論を書いて、それを日本語で書いているところ、こう言っている。
「文章というのは、国の現実的な有効性には無用なのである。・・・・」(割愛)
「しかし、なん役にも立たないが、それが人の為になる。それが文章の力なのである。・・・・」
文章「無用の用」は、それ力あらん。
文学は実は、「無用の用」だからこそ役にたつのだ。
周さんは、後に即興のたとえ話でもういうことをいった。
その時に、水夫の話をした。
彼は、一人で、誰にもしられずに死んだのです。
そのように、誰もしらない事実だって、この世にはあるのです。
太宰が魯迅に言わせている。
想像力で、現実以上の真実を書く、それが作家の仕事なのである。
ただ、それはどうなのか?甘いところがある。
「一つの約束」ではどうなのか?
玉砕した三田君、純粋の献身=高貴な死として書かれている。
少し、散華から遠ざかる。
ここで、私の研究の佐藤春夫を出してみる。
彼は太宰の師匠といえるだろう。
太宰が「晩年」を出したときに、太宰を「自分と芸術上の同族である。」と言っている。大家が若者に対して言うこととしては、これはは大したほめ言葉である。
佐藤春夫は大正時代「世外人」を説いた人である。
覚悟においては同じなのだ。
戦争中、自分は文学で邁進する。
太宰の意図とは?新体制に組み込まれてゆくことを拒否した。しかし、佐藤は、そこのところは怪しくなっていったのだ。
戦争が終わって、漢文学に傾倒していた佐藤が「新中国には文化がない。」と言い始めて、旧友だった中国の作家達と絶交した。
そんなことを知りつつ、ある日、ある放送原稿を見ることがあったが、その一つに東山千恵子の読んだ佐藤の原稿があった。
中身は、昔、仲たがいした中国の友人に呼びかけた原稿だった。
それが、悲劇だったのだが、その彼は戦争で殺されていた。そこで、佐藤の戦後の悲劇に辿り着くという現実があった。その頃の声を代弁したという言い訳もできるし、それは、時代にまきこまれたということなのかもしれない。
太宰は、世俗の価値観の外にあったのかもしれない。
三田君の死を「純粋の死」=「素晴らしい」とある。しかし、本当に素晴らしいと思ったのか?それは納得しかねるところがある。
丁寧に読むと、あんまり断定的でないところがある。
三田君の詩をあまり、認めなかったが、山岸さんが良いといったところから、それを認めたり。
結局は、本当には認めていないのかもしれない。
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