五行とは、木火土金水(もくかどきんすい)という、天と地から人にもたらされる作用を概念化した五つの要素の総称である。五行という名称は、「五氣流行」つまり「五つの気が流れ行(めぐ)る」がその語源で、五行の「行」は、行列の「行」でも、「行く」とか「行なう」といった意味でもない。五つの順次めぐる要素があって、人は五行の「気」を受け、そして、五行のめぐりの中で生活していると考えたのである。 古代ギリシアの哲学者アリストテレスの言う四元素説に似ているようではあるが、殷墟から発掘された甲骨文字の研究によると、五行は、四季によって方向が変化する風に気候をつかさどる神霊が宿っているという信仰が元となっており、東西南北に中央を加えて五つの神を祀り、四季の巡りを順調にしようとしたことに由来する、と言われており、その意図するところはまったく異なっている。 ちなみに、五行に関する最古の記述を見ることのできる「書経」が初めて英訳された際、五行という単語は、The five Eelmentsと訳されていたが、その訳者 J.Legge氏が後に、The five essentials to human lifeと訂正したという経緯があるという(狩野直喜著「中國哲学史」岩波書店)ちょっと興味深い話なのでここに紹介しておく。 また、木と聞くと、ほとんどの方は樹木を連想することと思うし、それはごく自然のことであると言える。しかし、五行において木の意味することは、樹木そのものではないことを理解しておかなければならない。五行は、四季と日周の循環が人に与える作用・特質を極限まで抽象化し、五つに分類した概念であるから、木に樹木の意味合いは含まれているが、そのものではないのである。このことは火、土、金、水においても同様である。 次は、『書経』の「洪範篇(こうはんへん)」に見ることができる、五行に関する最古の記述から一部引用した一節である。 〈五行は、一にいわく水、二にいわく火、三にいわく木、四にいわく金、五にいわく土。水は潤下といい、火は炎上といい、木は曲直といい、金は従革といい、土はここに稼稽(かしょく)する。〉右の、潤下、炎上、曲直、従革、稼稽は、五行それぞれの特性を象徴的に言い表わした言葉である。潤下とは、水が高いところから低いところへと流れ、窪みにしたがって下っていくことであり炎上とは、光輝を揚げ、盛夏にあり、気が極まり上ることであり、曲直とは、地にある木に、曲がったり真っ直ぐとなったりしないものはないことを表わしており、従革とは、革があらたまるの意で、規範に従いあらたまり、形があらたまって器をなすこと。器をなすとは役に立つものになることを意味する。稼稽とは、種をまくことを稼と言い、収穫することを稽と言い、作物が土を貫き、成長することから言われていることである。 「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より