おんな鮎釣り師のホームページ

⑪野良犬のクロ・・・死の淵から這い上がっ


彼との電話では、あまりにも辛そうな声だったため最低限の事しか聞き取る事ができませんでした。
もちろんクロがいる動物病院に、私の存在は伝わっていません。
彼の名前をまた聞きそびれたので、動物病院に電話をした時は不審者扱いで苦労しました。
やっと助けたクロを訳のわからない人に引き渡すなんて、とてもできないという気持ちがヒシヒシと伝わってきました。


必死の説明でやっとわかったくれた看護婦さんは、先生に電話を取り次いでくれました。
淡々と話す先生の言葉はあまりにも衝撃的で、びっくりの連続でした。

真夏日のある日、一人の女の子が「先生、助けてあげて!」と病院に飛び込んできたそうです。
話しを聞くと、道路で犬が死にそうになっているとの事。
先生が駆けつけ溝の中で、ぐったりしているクロを保護。
病院に連れ帰り治療をしたのです。
衰弱したクロは日射病にかかっていました。
真っ黒な体に照りつける太陽。
野良犬に戻ってしまってエサをくれる人もなく、お腹も空き体力も消耗していたのでしょう。
水を飲むところも見つける事ができなかったのでしょうか。
クロは、どうしてそんな町の中にいたのでしょう。

先生の懸命な治療と、可愛い看護婦さんたちの愛情でクロは死の世界から復帰しました。
健康を取り戻したクロを検査してみると、妊娠してることが判明。
あらら、こんな非常時でも、やる事はやってたのね。

元気になったクロをいつまでも入院させておくわけにもいきません。
人間に慣れている犬なので、もしかしたら飼い主が探しているかも知れないと思った先生は、知り合いの新聞記者に相談したそうです。
もし飼い主が現れなかったら、自分が飼おうと思ったそうです。

クロの記事が新聞に載りました。
それを見た病院関係者が、うわごとのようにクロを呼んでいた彼の犬じゃないかと思いました。
連絡をもらった先生は病院まで彼を訪ね、写真を見せました。

そしてお腹に子供がいることを伝え、もし困るようであれば手術をしておきますと言うと彼は「産ませてやって欲しい」と言ったそうです。
彼もクロもあの大事故で助かった命、そこから生まれた新しい命を殺す事なんてとてもできなかったのでしょう。
何も聞かなくても、痛いほどその気持ちはわかりました。

そして昨日、仔犬が五匹生まれました・・・と。


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