つむじやのlightful HAUS  *帰国後篇*

つむじやのlightful HAUS  *帰国後篇*

ばーちゃんローソク



今夜はおばあちゃんとピースローソクな夜を過ごした。

「キャンドルナイトしようか」
「え」
「キャンドルナイト」
「うんうん」
「電気消すよ~」
「はいはーい」

なんだか、きゅうに夜が、ぶあつくなったような気がした。

「きれいだねえ」
「きれいだねえ」
「ハワイに行ったことあるかい」
「うーん、小さいときに行ったらしいけど覚えてないなあ」
「おばあちゃんがね、友達とハワイに行ったとき、友達が娘にたっくさんローソク買っていったんだって」
「ふうん」
「娘さん、すっごくよろこんだって」

ハワイでどっさりローソクを買い込むおばあちゃんたちを想像してみる。
なんだかキュートだ。力をこめて強調するおばあちゃんの声が、すぐそば。

「デンマークではみんな食事のときロウソクをともすんだよ」
「なんでおばあちゃん知ってるの?」
「だって、みんなでお食事会したんだよ。おかあさん(私の母)が、せっかく素敵な料理たくさん作ったのに、うすぐらい中で見えやしない」
「え~そうなん?」
「でもね、なれてくるんだね。なれると人間って見えるもんだね」
「うん、そしたらね」
「そう、きれいなんだよね。電気よりずっと。」
「料理も、おいしく感じたりね」
「昔はみんなロウソクだったのにね」

むこうの部屋で、弟がパソコンに向かって、煌煌とした電気の部屋に座っているのが見えた。私の日常が、鏡のようにそこに映しだされているみたい。

ふと、めったにさわらないピアノに触りたくなった。
へたくそがなんだ。鍵盤が私を呼んだ。
夜だから少しだけ。夜だからちっちゃめに。ローソクがつぶやく。
はいはい。私はほほえんでつたない指先に集中する。

おばあちゃんに、デジカメの使い方を教えてあげたら
ローソクの前にかじりつくようにして、アングルを決めかねている。
しばらくスイッチに触らないと消えてしまうようになっていて、
何回も電源をいれなおす、おばあちゃんがかわいい

「あのね、一枚だけとってみたよ」

ぼんやりにじんだロウソクのあかりは、
おばあちゃんの今夜の一枚きりの写真。


「すてきな夜をありがとね」
「こちらこそ」
「こちらこそ」





Last updated 2005.06.19 22:14:40

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