私の沼

私の沼

天井



         天井







         夢を見て泣いた
         ひさしぶりだった

         わたしはダブルベッドに
         ひとり横たわり
         天井を眺めていた
         なんのへんてつもない
         マンションの天井を

         せめて天井が下がってきて
         押し潰してくれたのなら良かった
         それならばただの悪夢だ
         でもそうじゃなくて
         わたしは
         ダブルベッドに
         ひとり横たわり
         天井を眺めている
         ただそれだけなのだ

         頭の方を窓際に向けたベッド位置は
         確かふたりで決めたのだった
         出窓に花を飾っていた
         それは彼がお土産に買ってきたラベンダーだった
         わたしが水をあげるので
         ラベンダーだけは枯れずに
         ずっと

         窓の外は廊下になっており
         コツコツと誰かが歩く音が響き
         近くを流れる川の音も
         微かに聞こえた

         わたしは起き上がれない
         どうしても起き上がれない
         目に見えない何か
         目に見えない
         なんだろう
         一体なんなのだろう
         この胸の上に乗って
         そう大きくもないわたしの体を
         押さえつけるなにか
         なにか

         ほんとに追い詰められたときは
         涙なんて出ない
         泣くことなんてできない

         目を開いていても
         なにも見えない
         ただ
         天井が
         天井が




         目を覚まし
         あたりを見回し
         ああ、違う、違う、違う、と
         安心し
         そしてやっと

         わたしは泣いた

         安心して
         泣くことができるのは
         とても幸せなことだ

         とても












(詩のメルマガ「ちりつも」にて、詩人いとう氏が批評をしてくださいました。ありがとうございました。)













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