リチャード・チェイニー と リズ・チェイニー の親子は11月に予定されているアメリカ大統領選挙でカマラ・ハリスに投票すると発言した。この親子はネオコンの中核グループの一員であり、ネオコンに担がれていたジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務め、ネオコンの政策を実現しようとしているハリスを支援するわけで、不思議ではない。
ハリスは2004年1月から11年1月までサンフランシスコ第27地区検事を、また11年1月から17年1月までカリフォルニア州司法長官を務めているが、 州司法長官だった当時、ハリスは冤罪の可能性が高いと言われているケビン・クーパーという死刑囚のDNA鑑定を求める訴えを退けている 。
ハリスは自分自身を「進歩派」と称しているが、決して進歩的な検察官ではなく、社会的強者には優しく、弱者には厳しかったと指摘されている。だからこそ副大統領になれ、大統領候補に選ばれたと言えるだろう。
州司法長官時代のカマラは人びとを刑務所へ入れることに熱心で、不登校の子どもの親も刑務所へ送り込んでいたほか、安い労働力を確保するため、保釈金を引き上げて仮出所を拘束し続けたと伝えられている。
それに対し、社会的に強い立場の人には寛容で、例えば支払いが滞っている自宅所有者を正当な手続きを経ずに追い出し、その家を競売にかけ、起訴が相当だとされたワンウエストに対する法手続きをハリスのオフィスは拒否している。
支配者たちが隠している秘密を明らかにする手助けをしていたウィキリークスに対してもハリスは厳しい姿勢を見せ、この団体を支持しないと語っている 。
ディック・チェイニーが表舞台に登場したのはジェラルド・フォード政権の時。リチャード・ニクソンがウォーターゲート事件で1974年8月に辞任、副大統領からフォードは昇格したのだ。
この政権ではデタント派が粛清されたが、特に注目されたのは国防長官とCIA長官の交代。国防長官は1975年11月にジェームズ・シュレシンジャーからドナルド・ラムズフェルドへ、またCIA長官はウィリアム・コルビーからジョージ・H・W・ブッシュへ交代している。コルビーは議会でCIAの秘密工作について証言、支配層を激怒させていた。
この粛正を主導したのはラムズフェルド大統領首席補佐官とリチャード・チェイニー大統領副補佐官だが、その背後にはポール・ニッツェやアルバート・ウールステッターを中心とするグループが存在した。この人脈は後にネオコンと呼ばれるようになる。
チェイニーはジョージ・H・W・ブッシュ政権で国防長官を務めたが、その下でポール・ウォルフォウィッツ国防次官が中心になり、DPG(国防計画指針)という形で世界征服計画を作成している。いわゆるウォルフォウィッツ・ドクトリンだ。旧ソ連圏を制圧するだけでなく、ドイツや日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に組み入れ、新たなライバルの出現を防ぐと謳っている。その後、政権がかわってもこのドクトリンは維持されてきた。
2001年1月にジョージ・W・ブッシュが大統領に就任、チェイニーは副大統領になった。この政権では事実上、チェイニーが大統領だったとも言われている。
その年の9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃され、人びとがショックを受けている間にアメリカ政府は侵略戦争を本格化させたのだが、イラクへの侵略戦争で早くも挫折する。しかもロシアが再独立、ウォルフォウィッツ・ドクトリンの前提が崩れたのだが、ネオコンは計画を修正しなかった。
ブッシュ・ジュニア政権はアメリカ軍を侵略戦争に投入したが、彼らが信じていたほどアメリカ軍は強くない。思い通りに進まず、次のバラク・オバマ政権は戦術を「チェンジ」した。1970年代にズビグネフ・ブレジンスキーはサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を利用して傭兵の仕組みを作ったが、ブレジンスキーの弟子だということもあり、オバマはその戦術を採用した。つまり、アル・カイダを使ったのだ。
アル・カイダはCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストだとイギリスの外務大臣を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは2005年7月に書いている 。アラビア語でアル・カイダはベースを意味し、データベースの訳語としても使われる。2014年にはダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が生み出されたが、これも同じだ。
アメリカはロシアに対してウクライナを、パレスチナではユダヤ教シオニストを傭兵として使っている。明治維新以降、東アジアでは日本がアングロ・サクソンの傭兵としての役割を果たしてきた。チェイニーを含むネオコンはハリスを操り、傭兵を使ってウォルフォウィッツ・ドクトリンを進めるつもりだろう。ドナルド・トランプもこのドクトリンから逃れられないと思うのだが、チェイニー親子の発言を聞くと、トランプでは不安なのだろうと思える。
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【 Sakurai’s Substack 】