天空乃舞

2005/02/10
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カテゴリ: 人生
昨夜、実家に着いた時は既に夜になっていたので、あっという間に両親の寝る時間が来た。昔から、いわゆる「太陽と共に起き。。」という我が家である。とくに、もう年寄りだから仕方ない。

私が実家に来る楽しみの一つにテレビがある。
自分の今、住んでいる部屋には、というか他のハウスメイトもテレビがない。
というわけで、何が一番面白いかといえば、コマーシャル。

ドラマはストーリーの前後関係がわからないので、ついていけないのだが、コマーシャルは面白い。全てが珍しくて仕方ない。何が面白いのかはうまく説明できないけど、テレビのない生活をしている人なら(そんな人がいれば、だけど)、テレビって面白いですよね?!
めったに実家には来ないので、毎回、全てが新しいのです。私にとっては。

そんなわけで、両親が寝た後も音を小さくして、少しだけテレビを見せてもらいました。
「この子は、よっぽどテレビが珍しいんだね~。ブッシュマンみたいだね~」と言いながら、床に就いたのはどっちだと思いますか?

父です。ここ、笑うとこです。


(完全に覚醒しているわけではない場合も多くて、完全に目を覚ました後では
自分では覚えていないのに、半覚醒の状態の間にキチンと人と辻褄の通った会話を
誰かとしていたりもする)自然に4-5時間で目が覚めます。
おかげで朝方の出勤は得意だったし、夜勤の仮眠とかでも2-3時間眠れれば、恩の字でした。

ただ、実家が今のようになってからは、実家に行く楽しみの二つ目は、寝ること。
夜9時間くらい寝て、更に昼寝もします。
一泊しかしないので、炊事家事の手伝いと、テレビ以外は、ほとんど寝ます。ひたすら。



今回、私が目覚めた時には午前9時になっており、父は仕事へ行った後だったが、朝6時頃、父が出がけに「昼飯に帰ったら、父ちゃんの歌の時間だけはSkyにテレビ見せちゃだめだぞ。昼は父ちゃんの歌の時間なんだ」と言っているのだけはちゃんと聞こえていた。

父は近所で仕事をしているので、昼食は家に毎日食べに来る。
そのついでに、迷いに迷って昨年の夏、とうとう購入したカラオケをやるのだ。

DVD、CD、カセット2つが使えて、スピーカーもでかいので、かなり立派。
父は質素に育ったので、絶対に贅沢をしないし、高い買い物はめったに、というか、絶対しない。けど、父は歌が大好きなのだ。それは、知っていた。しかし。。。。。

それは。。。。ヤバイだろう。。。。それが、私の直感だった。
そんな機械を父が使いこなせるはずがない。だいたい、テレビに接続できるはずがない。
電話で嬉しそうに「買ったんだ」と話を聞いたとき、そしてその声に「設置しに来てほしい」という気配を感じた時、関わりたくない、と思った。


そして、それには絶対に際限がない。そして、もし、自分に使えない機械だと分った時、
父はきっと、その大切な大切な、高価な宝物を怪力で叩き壊してしまうだろう。
それが見たくない。父の悲しみを。かわいそうだとは思ったけど、とにかく私は関わりたくなかった。

ところが、である。
父は一人で完璧に使いこなしていた。ランダム演奏、リピート、なんでもござれ。
音程まで上げ下げしていた。「どう?」かなんか、私に見せながら。。。
私としては、はっきりいって「どう」でもいい。父が楽しいのなら。
もう本当に「どう」でもいい。素晴らしい。やってくれ、やってくれ、
サイコー楽しそうじゃないか。こんなにも。。。そうだ。。。
そうだった。父は「好きなこと」には絶対に、食い下がるのだ。
今回どうやったんだかは、知らないが。。。そばで見なくて良かった。
それだけは言える。疲れるもの。。。



私が9時過ぎに目覚めた時、母は朝食後の一休みをしていた。
若い頃から、単調な作業や、慣れたことをする時は、いつでも目を閉じたままでいる癖のある母は、年をとってからその傾向がますます強くなって、体は横たえていなくても、目を閉じたままなので、起きてるんだか、寝てるんだか、わからないことが多くなった。

我が家の前は公園なので、3階にある我が家はとても日当たりがいい。
真っ白な明るい光で一杯のベランダの窓ガラスの手前で、座ってタンスに寄りかかったままで、目を閉じている母の彫の深い顔を見て、私には思うところがあった。

前にもどこかで書いたが、私は思ったことは「思った」時には口に出ているほうである。

私: 「もうすぐ、死ぬね」

母: 「え?おかか?」

やはり母は寝ているわけではなかった。

母: 「うん。死ぬよ。いつ頃だと思う?」

私: 「わかんないけど、もうすぐ死ぬなぁと思った」

母: 「うん。あたりまえだよ。みんな死ぬよ」

私: 「ビクトル・ユゴー展、見に行った時にね、ユゴーが死んだ時の写真があったの。
ベッドに横になっててね、死んでんの。
死んだ人間の顔写真撮る奴も、まぁ、どうかと思うんだけどさ、
“やりきって”死んだ人間は、こういう顔で死ぬんだなと思った。
あの人の人生、ろくなことなかったじゃん?けど、戦い抜いたじゃん?
戦い切って。すっきりした、綺麗な顔だったよ。荘厳でね。
とにかく綺麗なの。すごかった。」

母: 「おかかも、ユゴーみたいな顔で死にたいな」

私: 「ブヒッ(笑) それは、、、その、、、どうかな、、」

母: 「え~(あからさまに不服)、おかかの成仏は、お前の責任だよ。
おかか、もう、お前育てたもん。あとはお前の責任だよ」

私: (絶句)

これが、私の母の特徴です。
抜け目のない婆さんだ。。。この人を見ていると、自分が子供を産む事を想像すると、思わず産道が縮みあがるような(あら、この表現、ぴったりね)プレッシャーを感じる。
いつか自分の子供にこんなプレッシャーを与えるくらいなら(笑)、だまって独りでコト切れた方がいいかな~、なんて。
だって私は、この人に似ているのだもの。

私が目を覚まして、話を始めたので、むっくりと立ち上がった、ハンプティダンプティにそっくりな体型の母の足元を見て、フラッシュバックがあった。
それはKちゃん(過去の日記“Kちゃん”参照)との会話。
同じことを、昔つきあっていた人に言われたこともあった。


K: 「姐さんて、パッと見、近寄り難いくらい隙がないのに、よくみると靴下いつも裏返しだよね~。(ニヤニヤ)」

ちなみに、実際は生地が“裏返し”というのではなく、靴下のカカトが、なぜか、足の甲の方に来てしまうのだ。いつも。特に冬物は絶対。


母の靴下がそうなっていた。
ルーツは、ここか。。。本人、気にしていない様子。。。

この、ふてぶてしい、「向かうところ敵なし」の母は、思えば、いつでも常に報われたことのない「母」だった。少女時代から。

祖母が結核で早死にし、5人弟妹の面倒を見、母以外は皆、祖父似でスラリとした
眉目秀麗の秀才ばかり。ハンプティダンプティは母だけで、まるで女中さんだった。
器用な方ではないので、女中さんとしても、家族にあてにはされていなかった。
家事だって結局、他の妹達のほうが、成長した後は上手かったのだ。
結婚した後は、父が事故に遭ってからは、結局、妻でも母親みたいなものだったし、
私の母になってからは、あの父と結婚したという点で同じ女性として私に尊敬されなかったし、離婚しない理由が「お前のため」と言った時点で、同情もされなくなった。



あなたの願いが翼となって
大空に舞来る日まで
達者にと 祈る”



この人を、ビクトル・ユゴーの顔で死なせるには。。。。

私はずっと、「お母さんは、お前の味方だからね」が口癖で、本気でそう思っているらしかった母の大いなる勘違いが本気で嫌だったけど、今は、それを踏まえた上で、この人は、この上なく精一杯生きたのだとわかる。

あの父を夫に持って、更に、こんな私を育てて、まだ命があるだけでも、奇跡としか言いようがない。
まだ何か為すべき事、見るべきことがあるから生きているのだろう。
この人は、報われるべきだ。この人は本当に頑張った。
この人を、ビクトル・ユゴーの顔で死なせるには。。。。

私が井戸を掘る人なのか、水を汲んで運ぶ人なのか、水を飲む人なのか、種を撒く人なのか、耕す人なのか、害虫を駆除する人なのか、収穫する人なのかは、最後まで生きて見なければわからない。

この人達を、ビクトル・ユゴーの顔で死なせるには。。。。

それは、今、私にとって負のプレッシャーではない。
私を羽ばたかせる強い強い追い風である。
飛び立てば、遠くまで見える。過去も、未来も。


掃除や洗濯を終えたところで、父が意気揚々と帰ってきた。
天童まさみ(?そんな人いたかな?そんな感じの人です)やら、フランク永井やら、鶴田浩二(ああ、もう、字がわかんない)やら。。。。父は声はいい。非常に。ただ、発音が、微妙なので、私は途中途中で大爆笑。

母が、あんた、そんなに笑ったら、お父さん可哀想だよ、という。
いいの。楽しいんだから。
父は、今日は、なんだか伴奏がうるさいな、とか言いながら、ほらね、全然メゲてない。嬉しいんだよね。

父が民族の歌を歌った。父の民族の歌は、なんというか、愛(かな)しい。
母が大声を出して泣き出した。綺麗な歌だよね~ウォ~ン(泣)と言って。
父はまた、母ちゃんはこの歌、歌うといつも泣くの。うるさいの。と言う。
愉快な夫婦である。
一緒に歌ってあげたら、おまえは大学の勉強も知っていて、歌も何でも知っててすごいねぇ、と父が言う。それから、最近覚えた“新しい”歌だよ、と言って、「シクラメンのかほり」を歌いだした。「シクラメンのかほり」は、全然新しくないだろうが。。。と思いながら。。。

我ながら恐るべし、父がカラオケやってる足元で眠りに落ちていった。眠りに落ちながら、「Skyはいつまで、うちにいるの?」と言う父の声が聞こえた。「この子は今日、帰るでしょ」と母が答える。「父ちゃんが帰ってくるまで、いる?」と父。「どうだかね~」と母。私はどうしようかな~と思っていた。

目が覚めて、父が帰ってくる前、母と二人でいろいろ話をした。
この人は、トボケるのが巧いが、実はかなりのキレものである。
トボケさせないために、(私たちは非常に似ているので、手の内はわかっている)要所要所でツメながら、私は真剣に話をした。今までのこと、今のこと、これからのこと。母は、途中で一度泣いた。

この人は、もう精一杯やった。あとは私が、喜んで引き受ける。
それは、この人の望む生き方ではないかも知れないが、私は私のやり方で、絶対に、後悔はさせない。

予定より1時間早く父が帰ってきた。
何んだか目をシバシバしてると思ったら、眉毛と、まつ毛か、からまって、目に刺さっていた。

父は多毛人である。眉毛は太く、ちょい昔、村山総理大臣ていたよね?そんな名前の。。ああいう眉毛の真っ黒。そしてまつ毛は、やはり太く濃く、ビューラー要らずの、くっきりカール。だから、目の周りで、まつ毛と眉毛かからまって、(そんな生物いるのかよ?って感じだけど、うちの父はそうなんです)大変なことに。。。

鋏で切ってあげたら、父ちゃん鼻毛は自分で切るんだけどね、と。
そんなこと、聞いてないっつうの。

母は、おかかの足の爪も切って、という、お腹の肉が邪魔で、自分で切れないので、普段は父が切っている。
夫婦というのはよくできてるもんだね。

さあ、潮時だ。

卒業式か、入学式が、どっちかには必ず行きたいと二人は言っていた。
どっちでもいいし、どうでもいい。
私はとにかく勉強する。
そして必ず答えを出す。





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Last updated  2005/02/14 03:52:47 PM
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