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肝臓がん治療最前線
2008年3月7日
肝臓がんは、抗がん剤が効きにくいといわれるが、外科手術に加えラジオ波や肝動脈塞栓(そくせん)治療など方法はある。今回は、医療現場への普及とともに見直されている「超選択的TAE(肝動脈塞栓療法)」を紹介する。 (進藤昭)
肝臓には門脈と動脈が網の目のように巡っている。正常な肝細胞と違い、肝がんは主に動脈だけから栄養を得ている。ここに着目して動脈から細いカテーテルをがんの間近に送り込み薬剤を噴射、同時にがんにつながる動脈に栓をして、血流を止め“兵糧攻め”で壊死(えし)させるのがTAEの原理だ。
一九七〇年代に技術開発され、現在は日本の技術が世界をリードする。超選択的TAEは二〇〇〇年ごろから普及し始めた。がんのある狭い区域を目指し血管を選んでいくことからこの名が付いた。的確に行えば最新技術に劣らない効果と長所を併せ持っており、終末緩和医療とみなされがちだったTAEの有効性を再認識させている。
最新の超選択的TAEでは、太ももの付け根の動脈にカテーテルを挿入。親カテーテルの中を通る直径〇・六六ミリの子カテーテルの中には、さらに細いガイドワイヤが収まる。ワイヤ、カテーテルの順に送り込み、旧来のTAEでは不可能とされたがん細胞の直近まで挿入できる。
到達点で抗がん剤を混ぜた薬剤を噴射し、スポンジ状物質を出して塞栓し、カテーテルを引き抜く。この間、二、三時間。最新治療法として普及してきたラジオ波治療(RFA)、エタノール注入療法(PEIT)などと比べて痛みが格段に少なく、正常な細胞を侵すリスクが低いので肝臓にかかる負担も小さく、肝不全が起こりにくい。
一週間後にがんの死滅が確認され、体調が回復すれば、十日で退院できる。入院中の治療が一回なら健康保険の本人三割負担で、費用は入院費を含め約二十万円だ。
神奈川県鎌倉市の大船中央病院は八年前に消化器肝臓病センターを開設し、肝臓がん治療を強化した。同療法の治療数は年間二百例前後で、中規模病院としては全国でもトップクラス。
高塚健太郎同センター医長(43)は「カテーテルと画像診断装置が進歩して、がんの間近で正確に治療できるようになった。肝機能が危険なレベルまで低下するか、血管が荒れて使えなくならない限り何回でも治療できる。超選択的TAEは肝臓の負担が小さいので、再発を繰り返す肝硬変段階の患者にも対応できる」と語る。
同病院に通う神奈川県在住の会社員男性(57)は肝硬変が末期段階に達したC型肝炎患者で、一昨年秋、肝臓がんが四カ所同時に再発した。昨年十一月までに計四回、超選択的TAEを受け、がんは消えた。「生きているのが不思議です」と言う。
肝炎治療に詳しい与芝真彰・昭和大医学部教授は「TAEは門脈からも栄養を得ている一部のがん細胞を残してしまう結果、再発しやすいという欠点がある。しかし、肝機能が相当悪くてもやれるという面があり、技術的に改良されていけばもう少し見直されてもいい」と話す。
肝臓がんの最新治療(下) 根治療法で肝機能も回復
2008年3月21日
ドナー(提供者)の肝臓の一部を切除し、レシピエント(移植を受ける患者)の肝臓を摘出して移植する-。生体肝移植は、肝臓の一部を切除しても再生して機能と大きさを回復する特徴を生かした根治療法だ。
神奈川県逗子市の不動産業伊東寛さん(59)は二〇〇五年、東京大医学部付属病院(東京都文京区)で移植を受けた。ドナーは二男の励(れい)さん(26)だった。
C型肝炎から肝硬変を経て四十三歳のときにがんになった。手術を受けたが、十年余りで再発。その後も治療を続けたが、肝機能が衰えてむくみや腹水も出始めた。
「治療しても一-二年。助かるには肝移植しかない」。こう告げられたのは〇四年。同年から肝臓がん治療の生体肝移植に健康保険が適用された。伊東さんは同保険による生体肝移植の適用条件(がんの大きさが五センチ以下の単発または三センチ以下が三個以内)に該当していた。「周りに大変な思いをさせていいのか」と悩んだが、励さんは迷わなかった。「国内で生体肝移植が始まったときから、父親に肝臓を提供する覚悟だった」。半年がかりで体重を約十五キロ落とし、脂肪肝を改善した。
当日は伊東さんの手術から始まった。周辺に転移がないことを確認してから隣室で励さんの肝臓の右葉を切除し、伊東さんの肝臓を摘出して移植した。手術時間は約二十時間(励さんは約八時間)だった。一カ月半後に退院した。
術後一年間は免疫抑制剤などの副作用(発熱や味覚異常など)に苦しんだが、健康体を取り戻した。励さんは手術後九日で退院し、その約一カ月後に社会復帰した。治療費は健康保険の三割負担で約四百六十万円。このうち高額療養費として約二百四十万円、民間生命保険から約百六十万円の給付を受け、実際の自己負担は約六十万円だった。
国内で生体肝移植が始まったのは一九八九年。外科医らでつくる日本肝移植研究会によると実施件数は年々増加し、二〇〇五年は五百六十二件、累計は約三千八百件になった。脳死からの肝移植の累計三十三件を大きく上回る。同病院では〇七年までに約四百件を実施し、このうち約八十件が肝がんだった。肝胆膵(すい)外科の国土典宏教授は「がんの発生場所を取り去り、肝機能も回復できる」と語る。
治療成績は同病院の場合、五年生存率が75%、五年以内の再発率が11%。ただ、成功しても、多くは免疫抑制剤を一生服用し、感染症にかかりやすい傾向がある。またC型肝炎が原因の場合、肝臓を入れ替えてもウイルスが血液中に残って再発するケースがあり、B型肝炎などが原因の場合に比べ生存率は少し下がるという。
同病院で移植を受けられるのは六十五歳以下。ドナーは自発的な意志のある二十-六十五歳で、三親等以内の血縁か配偶者。血液型や持病の有無など移植には条件がある。国土教授は「高齢者は受けられないが、一定の基準を満たしていれば移植も選択肢になる。主治医に相談してみて」と助言する。名古屋大、京都大の付属病院などでも行われている。
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