第一幕 思い出に包まれて
第1場 序章
1人の男が、一冊の厚めのノートを持っている。
男 吉川圭介33歳(以降・圭介)
圭介 ノートを開き読み始める 間を飛ばすように読んでいたが、最後のページを開き手が止まる
圭介 時に人は哀しみを歩き気づく、遅かりしことを。夢の中を夢のようだと時を過ごし、赴こうとせずにただ待つのみで。ただ哀しくも気付かないのは、それが当たり前のように過ぎ行くからか。後悔の念すら抱かず、先の世に何か変化を与えることもなく、ただ当たり前に、ただ確実に。その恐ろしくも着実な流れの中、人は歩む。止まらぬ時の中をただ歩む。
この淀みない淀みの中、私も歩く。私も歩き、私は何を得るのだろう?何を見、何を信じ、そして何を与えるのだろう?そんな答えすら見つけられぬまま、今に至り、ここにいる。
目を閉じ、ただ耳を澄まし、今言えることは
ありがとう
圭介 涙をこらえノートを閉じる
暗転
第二場 再会
圭介 自分の部屋で横になりながら新聞を読んでいる。休日の午前中のありがちな風景である。そこへ玄関のチャイムの音
圭介 顔を上げるが、また新聞に目を戻し、聞こえなかったフリをする。そこへ再びチャイムの音
圭介 静かに新聞をたたみ、足音を立てぬよう玄関へと向かい魚眼レンズに目を当てようとすると、三度チャイムの音
圭介 諦めたように鍵を開け目をこすりながらドアを開ける
圭介 はい?
ドアの前には男が立っている。
男 達川守33歳(以降・守)
守 圭介の顔を見て嬉しそうに声をかける
守 よっ!
圭介 嬉しそうな守の顔を見て、言葉を合わせる
圭介 お、おう・・・。
守 久しぶりっ!
圭介 お、おう・・・
守 何年振りだ?大学以来だから・・・10年ぶりか。
守 そう言うと圭介の横をすり抜け、勝手に部屋の中に入り込み、部屋の中を見渡している
圭介 お、おう・・・
圭介 聞こえないくらいの声で呟く
圭介 顔は覚えてるんだよ、顔は。しっかりと。すっごく仲がよかったことも分かってるんだよ。ていうか、小中高大の6.3.3.4の16年一緒だったんだよ。あー名前がなあ・・・名前だけがなあ・・・なんで忘れるかなぁ・・・俺ってば。
守 貼ってあるアイドルのポスターを指差し
守 これ誰だ?
圭介 上の空で答える
圭介 お、おう・・・。
守 王!?これ?そうなの!?世界の王がカミングアウト!?え、でも女性が監督って問題ないか?ん?それは別にいいのか、制度的には・・・いつまでボケ続ければ良いのだろうか・・・。圭介!聞いてんのか!?
圭介 あ?ああ・・・。
守 まったくおまえという奴はいつもいつも人の話を半分で・・・そんな事で無事に生きていけてるんでしょうかねえ、斉藤さん。
守 ふと斉藤さんを呼んでみたものの首を傾げる
守 ・・・・・?斉藤さん?斉藤さんって誰だ?
圭介 何かを思い出したように
圭介 ああ!!
守 何だよ!驚かすなよ!
圭介 ぬぉあ!!
守 怖いよ!
圭介 うるさいなあ!静かにしろよ!
守 圭介の剣幕にたじろぐ
守 はい・・・すいません・・・。
場面変わって圭介の回想
大学構内
圭介 芝生に寝転がっている
守 圭介を見つけ近寄ってくる
守 やばいよ!
圭介 何が?
守 日本語が分からない。
圭介 は?
守 日本語が理解できないんだよ!
圭介 してるじゃん。
守 そういうことじゃなくて。
圭介 どういうこと?
守 もう!会話は想像力だよ!相手が何を言わんとしているのかを考えながら、人の話を聞けよ!
圭介 すまん。
守 さっき驚くべき事態が起こったんだよ。
圭介 何だよ。
守 あのな、それは仏文の時間に起こったのさ。
圭介 ああ。
守 私はいつものとおり席に着き、出欠をとられると斉藤さんの話を一言一句聞き逃すまいと彼を凝視しておりました。しばらくすると私は急にめまいに襲われ静かに暗闇の中へと落ちていきました。どのくらい時間が経ったのでしょう、完全に意識が戻ったときには、なんと斉藤さんは意味不明の言語を喋っていたのです。
圭介 ここまで話を聞いていたが、急に興味を失ったように
圭介 寝てたんだろ?
守 え?
圭介 居眠りだろ?
守 そんなことあるか!
圭介 だって、よだれついてるし。
守 口の周りを拭う
守 まさか・・・ホントだっ!でも斉藤さんの言語は・・・
圭介 フランス語だろ?
守 何故?
圭介 フランス文学だもん。
守 何が
圭介 仏文が。
守 嘘!
圭介 何だよ、今更・・・。
守 じゃあ、斉藤さんは・・・?
圭介 フランス文学の教授だろ?
守 そうだったのか・・・。
圭介 おまえ、本気で言ってるのか?
守 何を?
圭介 だから、日本語が理解できない!から始まった一連の会話をさ。
守 俺はいつだって本気だよ。
圭介 本当に?
守 俺はいつだって本気で冗談を言う。
圭介 まじめに聞いた俺が馬鹿だった・・・。
圭介 うなだれる
守 そんなに自分を卑下するなよ。
圭介 誰のせいだよ!誰の!!
守 それにお前は馬鹿じゃない。
圭介 あ、ありがとう。
守 ふざけた態度でボケを聞いてもらっても、こっちは何も面白くない。そういう意味合いにおいて圭介は、まじめに俺のボケを聞いてくれる。その一点においてのみ圭介は、馬鹿じゃない!
圭介 その一点以外においては?
守 そこは、俺は関与していないので知らん!
圭介 お前の人生はボケを中心に回ってんのかよ
守 ああ!
圭介 何故か虚しい・・・。
守 冗談はさておき・・・。
圭介 さておかれたし・・・。
守 最近まったく授業が理解できないんだけども。
圭介 だから寝てるからだろ?
守 あのな?何事にも原因があって結果があるんだよ。この場合寝てたってのが結果だよな?じゃあ原因は?
圭介 そりゃ眠いからだろ。
守 ・・・なるほど、そういう考え方もあるね。・・・分かった、ちょっと言い方を変えよう。眠くなったってのが結果だとすると原因は?
圭介 寝不足。
守 凄いね。即答。えっとな、物事には少なくとも2つ以上の視点が存在してるんだ。それが渾然一体となって一つの結末へと収束していくわけなんだが、ここまで述べられた君の視点というのは言わば俺を敵対化した客観から見ているんだよ。
圭介 そんなことないだろ。それに敵対化って時点で客観からは、ズれてる気がするが・・・。つまり何が言いたいんだ?
守 つまり!授業がつまらないから眠くなるの!
圭介 守のあまりの自信満々の言葉に2の句につまる
圭介 うっ・・・そ、そうくるか。なら、授業がつまらないのは内容が理解できないからというのが大きな要因だと思うのだが、この結果に対する原因は?
守 斉藤さんの授業が下手だから。
圭介 分かりやすい解答の模範だね。じゃあ斉藤さんの授業が下手なのは何故だ?
守 そんなの斉藤さんに聞いてくれよ。
圭介 まあ、そうだな。しかしな、こと仏文というこの科目においては小中高と続いてきた教育の範囲を明らかに超えているんだよ。
守 まあな。「私、リルケの詩が好き」っていう女子高生がいたとしても原文で読んでる奴はまず、いないだろうからねぇ。
圭介 そうなんだ。フランス語だからつい特別視をしがちだけど、たとえば中学に入るまで英語にまったく触れずに育った奴がいたとしよう。そいつが、最初の英語の時間に居眠りをしてしまったとする。
守 ああ。
圭介 最初の時間だから、まあアルファベットの説明から入るよ。誰でも知ってるのは分かっていてもな。
守 だろうな。
圭介 でもそいつは知らないんだ。奇跡的に、全く。そして不幸なことにそいつは居眠りをしてしまった。
守 かわいそうに・・・。
圭介 あとあと突っ込まれそうだから、先に言っておくけど、そいつにも事情はある。父親は病弱で母親は看病の為に満足に働くこともできない。だからそいつは朝4時に起きて新聞配達をやっているんだ。
守 なんて偉い奴なんだ・・・。
圭介 原因はともあれ結果的にそいつは最悪のタイミングで居眠りをしてしまった。当然ながらアルファベットなんてものは何度も繰り返し説明をしてもらえるものではない。それにより以降、英語の授業において登場してくるアルファベットとは彼にとって意味不明の記号、つまり俺たちにとってのサンスクリット文字やエジプトの絵文字、ラテン語とほぼ同義のものとなる。
守 それでそいつはどうなったんだ!?
圭介 え?
守 その後だよ。英語の授業についていけず、もちろんテストでは点数がとれない。しかしその不可思議な記号の前で我々日本人は恐ろしく無力だ。彼はその影響で他の教科においても点数が伸び悩み、さらには自分の置かれた家庭環境を恨み、非行へと走るようになる。
圭介 お~い。
守 彼はいつしか目の合う奴、合う奴に対し喧嘩を売り、周囲には誰も近づけなくなる。町では彼をロンリーウルフと呼び恐れた。そんな彼でも時折優しい表情を見せることがあった。それは・・・
圭介 それは・・・?
守 何の話だっけ?
圭介 あのさ、いつも言ってると思うけど、自分の世界に入り込みすぎ!
守 そんなこと無いだろ。
圭介 いやいや、君の想像力にはいつもいつも脱帽させられるよ。
守 そんなことないだろ。・・・で何の話だっけ?
圭介 だから、あれだよあれ・・・なんだっけ?
守 そしたら順番に思い出そう。えっと、まず・・・ロンリーウルフは喧嘩好きの少年だ。
圭介 おう、そうだった・・・。なぜ喧嘩好きになったのかというと。
守 成績が悪かったからだ。
圭介 なんで成績は上がらなかったんだ?
守 英語の最初の時間に寝てたからだ。
圭介 なんで寝てたんだ?
守 眠かったからだろ?
圭介 いや、なんで眠かったんだ?
守 そりゃ、授業がつまらなかったんだろ。
二人 お!?斉藤さん!!
回想シーン終了
回想前の現実に戻る
圭介 突然思い出したように
圭介 仏文の教授だ!
守 何が?
圭介 斉藤さん!
守 え?・・・おお、そうだそうだ。斉藤さんだ、斉藤さん・・・。
圭介 ・・・守?
圭介 ようやく名前を思い出しふと呟く
守 何だよ。
圭介 誤魔化す
圭介 いや、ただ呼んだだけ。
守 かしこまって
守 ・・・・・圭介君。
圭介 はい?
守 ちょっとそこに座ってくれるかな。
圭介 何故?
守 理由は、とりあえず何でもいいから。
圭介 ここでいいですか?
守 早く!
圭介、急いで座り胡坐をかく。
守 正座!
圭介 え?
守 せいざ!
圭介 は、はい・・・。
圭介、正座に座りなおす
守 えー俺たちは何年ぶりだ?こうして会うのは。
圭介 1、2、3、4・・・・もう10年近く経つかと・・・。
守 さっき、その話したの聞いてなかったろ。
圭介 聞いてたよ!
守 ま、いいけど・・・10年か・・。時の流れとは非情なものだな。
圭介 そうですか?
守 ああ・・・純情君だった圭介は、今では部屋にグラビアアイドルのポスターを貼っている・・・
圭介 それは、別に・・・
守 30を過ぎているというのにだ!
圭介 いいじゃん、別に・・・。
守 しかしな、どんなに時の流れが非情であったとしてもだ、必死に抗い決して譲ってはいけないものがこの世にはある。
圭介 はあ。
守 何だと思う?
圭介 ・・・・・さあ?
守 心だ。
圭介 ・・・こころ・・ですか?
守 ああ、君は、たとえどんなに時が流れたとしても忘れてはいけないものを、今の今まで忘れていたね。
圭介 忘れてた?何を。
守 ほう、心当たりがないと。
圭介 ええ。
守 この世の中には自首という制度があってね、誰からかに追及される前に自らがその罪を認めると罪が軽減されるというのがある。知ってるか?
圭介 ええ、噂にはかねがね。
守 そうか、知っていたか。じゃあもう一度聞こう。君は決して忘れてはいけないことを忘れていたね。
圭介 いえ。何も忘れていません。
守 まだとぼけるか!
圭介 この世の中には、司法取引っていうのがあるって事を知ってるか?
守 ・・・一応。
圭介 そうか、なら良かった。そう、以前こんな奴がいた。俺には2コ上の姉がいるんだが、あろうことか彼女にそいつは惚れ込んだ。
守 おい。
圭介 まあ、それだけなら良いのだが、そいつは俺の家に遊びに来るたび、まあとは言っても半分は姉貴に会いに来てたんだろうが。
守 おーい。
圭介 多分な、そいつは気づいてないと思うんだ。俺がトイレとかで部屋を離れるたびに姉貴の部屋に忍び込み、あんなことや、こんなことを・・・
守 慌てて圭介の言葉を制止する
守 ワーワーワーワーワーワーワーワーワーワー!!!俺の勘違いだった。お前は何も忘れてなんかいない!
圭介 だろ?
守 卑怯だよ。
圭介 戦略家と呼んでくれ。
守 絶対に呼ばねえ!それに日本じゃ司法取引なんてないじゃないか・・・。
圭介 静かに
圭介 ・・・悪かったよ。
守 ・・・・
圭介 でも守も悪いんだぞ。何も言わずに突然来るから。
守 すまん。
圭介 別にいいけど・・・・。
守 ・・・・
圭介 何も話しそうにない守を見て
圭介 あ、久しぶりついでに源五郎行かねえ?
守 源五郎ってもしかして、大学の時の圭介ん家の傍にあった呑み屋?
圭介 YES!
守 まだあるの?
圭介 さあ?
守 分からないのに行くのかよ!
圭介 あるかもしれないし無いかもしれない。そんな曖昧にあなたの人生任せてみませんか?
守 嫌だね。
圭介 ちょっと怒ったように
圭介 あったらどうするんだよ!
守 無かったらどうすんだよ!
圭介 そのときは無かったねって。
守 で?
圭介 別の呑み屋に行く。
守 結構遠いじゃん。近くでも良くない?
圭介 あったらどうするんだよ!
守 あったらあったでいいけど・・・。
圭介 あったはいいけど実は今日で店じまいとか考えてたらどうするんだよ!俺たちが行ってた時だって頼んでなくても料理は出てくるし、全部大盛りだし、そんなんで儲かってると思うか?絶対ぎりぎりでやってたはずなんだ。そんな店が長くもつかどうかわからないだろ?親父さんは休み無く働き、女将さんは切り詰めに切り詰め・・。それでもとうとう今日店をたたむことに・・・。足遠くなっていた常連が店に集まり、親父さんは涙ながらに言うのさ。「私は口下手で今の気持ちをうまく表現できません。聴いてください。マイウェイ。」
守 唄うの!?
圭介 歌い出す
圭介 ♪今~♪
守 日本語だし!
圭介 ♪私の~願い事が~♪
守 歌違うし!!
圭介 ♪叶うな~らば~翼が欲しい~♪
守 お~い!
圭介 ♪この大空に~♪
守 ショートカット!?
圭介 ♪翼を広げ飛んで行きた~い~よ~♪
2人 ♪哀しみのない自由な空へ 翼はためかせ~ 行きたい♪
圭介 行くぞ。
守 おう!・・・なんかうまくのせられた気が・・・。
圭介 立ち去る
守 圭介を追いかける
第3場 約束
圭介の回想
場所は源五郎にて
2人 飲みながら
圭介 で、仕事は決まったのか?
守 いや、まだ
圭介 大丈夫かよ。
守 やっぱり駄目か?
圭介 この時期に来て、まだ就職が決まらないって、かなり危険だろ。
守 そうだよな・・・。
圭介 どのくらい受けたんだ?
守 何を?
圭介 就活したんだろ?
守 いや、してない。
圭介 は?
守 1社も受けてない。て言うか就活自体をやってない。
圭介 なんで!?
守 なんでって言われてもなあ・・・。
圭介 理由くらいあるんだろ!?
守 あるって言えばあるんだろうけど、はっきりしてないって言うか・・・。
圭介 なんだそれ。
守 圭介は決まったのかよ。
圭介 当然というように
圭介 ああ。
守 何、何処?
圭介 出版社。
守 出版かあ・・。おまえは良いよなあ。やりたいことが決まってて。
圭介 守は無いのかよ。
守 あれば苦労してない。
圭介 それが就活してない理由なのか?
守 ・・・俺たちって今まで何してきた?
圭介 は?
守 今までさあ、なんとなく生きてきたんだよね。勉強しろって言われたら勉強して、サッカーやろうって言われたらサッカーやって、みんな大学行くって言うから大学行って・・・。自分から何かやりたいから何かしようって行動が無いんだよ。
圭介 だから?
守 だから、何の仕事をしたらいいのか分からないんだよ。
圭介 いや、そんなもんだろ。
守 そうなのか?
圭介 そうだよ。仕事とやりたいことが必ずしも一致する必要ってないんじゃないか?
守 え?
圭介 そりゃ、それが一致してるほうが良いんだろうけど、そうじゃなくたって仕事をしなけりゃ生きていけないんだから、とりあえず何でも。
守 なんだ?じゃあ俺が理想を追いすぎてるって言うのか?
圭介 そこまでは言わないけど、別にやりたくないことじゃなければやりたいことに変わる可能性もあるんじゃないのかってコトだよ。
守 やりたいことに変わる・・・。
圭介 だろ?現時点では何をやりたいのか分かっていない。ってことは何にでもまだ可能性は残されているわけだ。だったらうだうだ考えずにやってみて、違ったら辞めちゃえばいいんだよ。
守 そんなもんか・・・。
圭介 そんなもんだよ。
守 ところで圭介は、いつ頃から出版の仕事に就こうと思ってたんだ??
圭介 ・・・いつだろ??
守 気づいたらか?
圭介 ま、そうかな。というか本当は書くほうがやりたいんだけどね。
守 小説とかってこと?
圭介 そうね。
守 ん~それも面白そうだな・・・。
圭介 大変だけどね。
守 なるほどね・・・よし!決めた!
圭介 何を?
守 俺は本を出す!
圭介 何の?
守 それは未定!
圭介 あきれたように
圭介 大丈夫かね、この人。
守 大丈夫だ。人生は長い!
圭介 そりゃそうだろーけど・・・。
守 よし!飲むぞ!親父さーん!越野寒梅!こいつのおごりで!
圭介 待て!なんで俺のおごりなんだよ!
守 くよくよすんなよ。
圭介 してない、くよくよしてない全く。心情描写が変、ってかお前の話聞いてただけだぞ。
目の前にグラスが置かれる
守 いただきまーす!
圭介 飲むな!おい!
守 なんだ、お前は飲まないのか?遠慮深い奴だ。じゃあ俺が・・。
圭介 そういうことじゃない!
守 いただきまーす。
圭介 飲む!俺も飲む!!
守 おう!飲め飲め!
圭介 飲むさ!今日は飲むぞー。
守 おまえのおごりだけどな。
圭介 ん?
守 いや。
回想シーン終了
道端に佇む二人
2人 困惑している
圭介 ・・・ここだよな。
守 多分。
圭介 ここは?
守 駐車場。
圭介 だよな、どう見ても・・・屋台にでもなったのかな・・・。
守 ・・・
守、突然走り去る
圭介 おい、何処行くんだよ!
守 歩いてる人に声をかけている
しばらくして守 戻ってくる。
圭介 守が戻ってくるのを待って
圭介 で?
守 ・・・3年前、親父さんが亡くなったそうだ。
圭介 何で!?
守 病気らしいけど。
圭介 そっか・・・。
守 だから言ったじゃんか。
圭介 ・・・そうだな、悪かった。
守 どうすんだよ、こんなトコまで来て。
圭介 すまん。
守 ・・・ま、俺も本当に無くなってるとは思わなかったけど。
圭介 ・・・
守 落ち込んでいる圭介に気を遣うように
守 でもあれだ、今日分からなかったらこの事を知るのはもっと先になってただろうし。そう考えれば良かったのかもしれないな。
圭介 ・・・どっちが良かったんだろうな。
守 え?
圭介 源五郎が無くなってることを知らずにずっとここにあるだろうと信じ続けていつか又行きたいなって思いながら過ごすのと、もう2度と源五郎には行けないんだと認識させられるのと。
守 ・・・そりゃさ無くなったのは、悲しいけどそれを知らずに生きてくってのはさあ、嘘ではないけど嘘だよ。全部受け止めてこそ前に進めるってもんだよ。
圭介 そっか、そうだよな・・・。
圭介、そういい残すと走り去る
守 何処行くんだよ!
圭介 戻ってくる。
圭介 手にはビールを持っている
圭介 ほれ!
圭介 そう言うと守に缶ビールを投げる
守 ビールを受け取り
守 サンキュ。
圭介 ま、あれだな、俺たちにとっちゃここが源五郎であることに変わりはないんだし、目を瞑れば親父さんだって女将さんだって・・・な。
守 そうだ、場所が無くなったって、思い出が無くなるわけじゃない。
圭介 じゃあ源五郎に・・・
二人 乾杯!
二人、缶ビールを合わせる
圭介 で、どうした?
守 何が?別にどうもしないけど。
圭介 いやいや、そんなことないだろ。
守 何がだよ。
圭介 含みを持たせるように
圭介 守がさあ、わざわざ俺のトコに来るってのは・・・なあ?
守 別に・・・何もねえよ。
圭介 何もないのに来たのか?
守 あ、ああ・・・。
圭介 さっき言ったよなあ。知らないより、知って前に進むべきだって。
守 それとこれとは・・・
圭介 違うのか。違うって言うのか。なるほどな、もし後で本当は何かあったことが分かったらチョークスリーパーから腕拉ぎだからな。
守 それは痛いな。
圭介 当たり前だ、折るつもりでいくからな。
守 じゃあ折りはしないってことだよな。
圭介 でも折れちゃうかもしれない。
守 ハプニングでか!ハプニングで俺の腕は折られるかもしれないのか!?
圭介 だから、だったら話せばいいんだよ。
守 そうは言ってもなあ・・なんとなくこんなトコで話せるような感じでは・・・。
圭介 憤慨するように
圭介 君は源五郎跡地では不満なのか!?
守 まあ、不満といえば結構不満。
圭介 天を仰いで
圭介 天国の親父さん!こいつこんなこと言ってます!是非天罰を!え?・・・はい。ええ!?・・・まじっすか。
守 おまえ誰と話してるんだ?
圭介 うわ、それは危険な角度じゃないですか?確かに、確かに和名では原爆落としですけどね。
守 おーい、バックドロップについて誰と話してるんですか?
圭介 いや、親父さんがね。おまえにバックドロップをしろと。
守 え?
圭介 それもねえジャンボ鶴田が世界を獲ったときのような激しいのを一発頼むとさ。
守 2.23のNWAか?そんな馬鹿な・・・。
圭介 そう思うだろ?俺もそう思うんだけど・・・世の中にはやっぱり不思議なことってあるんだな・・・。
圭介そう言いながら守の後ろに回りバックドロップの体勢に入る
守 まあ、待て。ぜんぜん不満なんて無い!話す!話すから!
圭介 あ・・・
守 どうした?
圭介 親父さんの声が消えた・・・。
安堵のため息をつく守
守 良かった・・・。
圭介 ま、そうは言うものの立ち話もなんだから、とりあえず帰るか。酒もあるし。
守 今から戻るのか??
圭介 何だ?なんか問題でもあるのか?
守 いや、ここまで話題を振っておいてそれに触れずに、お前の家まで戻るのか?
圭介 戻るって言っても一瞬だから。
守 結構かかったじゃんか!
圭介 それはそれ。とりあえず、俺んちから源五郎までの距離感は出たからもういいよ。
守 どういうこと?
圭介 舞台からはける
それをあわてて守 追いかける
守 おい!待てよ!
圭介 すぐに戻ってくる
続けて守 戻ってくる
圭介 部屋にあがる
守 訳も分からず続けて部屋に上がる
圭介 ただいま。
守 早っ!早過ぎないか?
圭介 色々あるんだよ。
守 それにしたって・・。
圭介 目に見えてるものだけが真実とは限らない。
守 え?
圭介 目に見えるものだからって真実であるとは限らないし、見えないから嘘ってわけでもない。だから目に見たもの耳で聞いたことしか信じないなんていってはいかん!
守 言ってないし・・・。
圭介 人は見たいものしか見ないし、聞きたいことしか聞かないもんだ。
守 そうですね。
圭介 つまり。
守 つまり?
圭介 ここは俺ん家だってことだ。
守 はぁ・・・。
圭介 とにかく座れ。
守 ああ・・。
圭介 台所に移動する
圭介 台所から声をかける
圭介 で、今何してんの?
守 座っておりますが・・・。
圭介 そうじゃなくて、仕事だよ!
守 ああ、仕事か・・・。
圭介 俺が座れって言ったのに、座ってる相手に向って何やってるんだって言ったらかなり理不尽な奴だろ。
守 ま、そうだな。
圭介、グラスと酒を持って戻ってくる
圭介 何やってるんだよ。
守 仕事は・・・
圭介 仕事じゃねえよ!何、悠長に座ってるんだよ!
守 え、ええ~!!!!
圭介 拭け!テーブルを今すぐ!
守 はい、すいません・・・。
圭介 全く、何もしないで酒にありつけると思ったら大間違いだぞ!
守 筋は通ってる気がするのに・・・なんか嫌。
圭介 口を動かさずに手を動かす!俺が置けないだろ。
守 はい、今すぐに。
守 テーブルを拭く
圭介 ようやく酒をテーブルの上に置き注ぎながら話し始める
圭介 ちゃんと書く仕事には就けたのか
守 一応は・・・。
圭介 何だよ、歯切れが悪いなあ。
守 そんなことないよ、ちゃんと仕事してるよ。
圭介 そうか?
守 ああ。
圭介 なら、いいけど・・・で、何の仕事してるんだ?
守 ん~・・・
圭介 何だよ。
守 説明しにくい。
圭介 何で?
守 業務が多岐にわたっている為にそれを簡単に説明が出来ない。
圭介 別に簡単に説明しなくたっていいぞ。
守 いやでもほら口下手だから。
圭介 誰が?
守 俺が。
圭介 ん~君が仮に口下手なのだとすると口下手じゃない人ってどんな人だ?
守 何か誤解を招いているようなので、言っとくけど、俺は本当に口下手だぞ。説明下手というか・・。
圭介 軽く言う
圭介 ああ、そうだな。
守 何だ、その全く信用していないような軽い相槌は!!
圭介 だって心にもない相槌だもん。
守 いいか?そもそも相槌ってのは二人が一緒になって一つの釘を打っている様だぞ!二人がこう1.2.1.2のテンポで槌を打っているとだ、どっちかのテンポがおかしくなってきて二人同時に一つの釘をドンって打ったら丸い皿のような釘の頭がヘニャっと山型に折れ曲がって、そこの強度が低下して頭ごとポロって取れたらどうするんだよ!ある程度二人で打った後だから下手するともう全部打ち込まれてるんだぞ!頭がなくちゃ、くぎ抜き使っても、もう抜けないじゃないか!どうやって抜くんだよ!そうなったら!
圭介 何の話をしてるんだ?
守 1人、釘は1本って。2人とかでやっちゃ駄目。
圭介 あのさ、つっこみたいトコロは多々あるけれども、そもそも釘じゃなくて刀だろ?
守 あえてだよ。
圭介 あえての?
守 あえての。
圭介 あえての、な・・・確かに説明は下手かも。
守 はあ?何言ってくれてるんだよ。俺の説明が下手?そんな馬鹿な。
圭介 自分で言ったんだろ?
守 俺が?いつ?
圭介 今!今言ったじゃねえかよ!
守 今!?いいか?圭介。今ってのはほんの一瞬でしかないんだよ。例えばな・・・あ!今、あの人あくびした!
守 客席を指差して言う
圭介 え?何処、どいつ!?ここは部屋の中だけど誰だ!?そんな失礼な奴は!人が真剣に・・・
守 しかしそいつは既に何もなかったようなすまし顔。
圭介 何だと!
守 でも無理やりあくびを中断したから出てきてしまった涙を自然に拭こうとする為に目が疲れたフリをしてる。
圭介 そんなあからさまに!なんて奴だ・・・。
守 と言うように今は瞬間でしかないんだよ。次の瞬間には今は通り過ぎてどんどん過去になってゆく。
圭介 そっか・・。
守 だから、「今、いったじゃねえかよ!」ってのは有り得ない。何故ならその時、今言ってるのはおまえ自身だから。
圭介 ・・・ウン、なるほどな。言われてみたら確かにそうだ。じゃあ・・・さっき言ったじゃねえかよ!
守 圭介。
圭介 何だ?
守 今の俺の説明を聞いてもまだ俺が説明下手だって言うのか?
圭介 だから、自分で言ったんじゃんか!
守 じゃあお前は俺がネス湖にネッシーがいるって言ったら信じるのか?屈斜路湖にクッシーがいるって言ったら信じますか?俺が・・・
守 女性風に
守 あ、そこのお嬢さん!この化粧品は肌にとっても良いから使ってみない?、値段は3年で30万くらいだけど1ヶ月あたりだと利息を入れても1万ちょっとだから今とそんなに変わらないでしょ?
守 普通に戻る
守 とか言ったら、その化粧品を買いますか!?
圭介 買わないけど・・・てか化粧品なんて使ってないし。
守 使ってる使ってないが問題じゃない!え!?使ってないの?
圭介 ああ。
守 どうするんだよ。
圭介 何を?
守 だって今日収録だぞ。今は昔と違ってDVDだから永久保存だって言うのに!
圭介 はっ!忘れてた!
守 もう照明で表情が飛んじゃうじゃんかよ。
圭介 すまん・・・ちょっと寝坊したもんだから・・・。
守 すまんで済んだら・・・すまんってさ、済まないってコトだよな?
圭介 そうだろ。
守 それってすごい傲慢じゃないか?間違った当の本人が「済まねえよ!」って言ってるんだろ?逆ギレだよそれ。
圭介 ・・・守?
守 車でぶつけた奴がさあ、ぶつけられた奴に「何すんだよ!」って
圭介 守!
守 強ぇ~!言ってみて~!
圭介 守!!
守 ん?
圭介 仕事・・・うまく行ってないのか?
守 神妙に
守 ・・・いや、そう言う訳じゃないんだが・・・
圭介 らしくねえよ。言いにくいのは分かるけどさあ・・・。
守 ・・・ああ、そうだな。すま・・・俺が悪かった。
圭介 で、どうしたんだよ。
守 うん・・・いや順調だったんだよ。本当に。あれから色々あったけど本当に順調だった。最初はさ、普通に出版社に勤めて上がってきた原稿チェックして直してみたいなことばっかりで自分で書くことなんてぜんぜん出来なかったんだけど、だんだんと記事も任せてもらえるようになってきて、まあ、記事ったってどこそこのラーメンは旨いとか、今お勧めのデートスポットは・・・みたいなのばかりだったけど、俺の書いた記事見て読んだ人から感想が届いたりしたんだぞ。発行部数も少ない、こう言っちゃなんだけど、しょぼい雑誌だよ。それなのにさ。
圭介 凄いじゃないかよ。
守 でもな・・・会社がさあ・・・
圭介 どした?
守 潰れた。
圭介 え?
守 いや~、ほら俺って宵越しの銭は持たない主義じゃん?貯金とかも全く無くてさ。まあ、保険は下りてるんだけど、俺、基本給は安かったもんだから全然成り立たなくて・・・。
圭介 そっか・・・で?
守 え、いや・・だから、あの・・しばらくですね、俺をここに・・・
圭介 ああ、いいよ。別に。
守 ええ!まだ最後まで言ってないのに!
圭介 家賃払えないんだろ?いいよ、別に。落ち着くまでいれば。
守 すま・・・ありがとう。
圭介 いいって別に。幸い彼女がいるってわけでもないし。
守 いないの?
圭介 いないって。
守 ああ良かった、それだけが心配だったんだよ。
圭介 それだけなのか?他にもあるだろうがよ。俺が4畳半のアパートに住んでたらとか・・
守 それなら大丈夫。俺、場所取らないから。
圭介 実は俺も家がないとか・・・
守 心強い味方だ。
圭介 101匹のワンちゃんと暮らしてるとか・・・
守 それなら尚更、俺1人増えたところでどうってコトないだろ?
圭介 ま、そうだな。
守 ああ、そうだ。
圭介 守さあ、それならそうと早く言えよ!なんかもっと別のこと想像しちゃったじゃねえかよ!
守 別のことってなんだ?
圭介 例えば、借金があるから金を貸してくれとかさあ。
守 借金のほうが良くないか?
圭介 いや~貸せる額ならいいけど、俺だって貯金ないし・・。それか、実は病気でもう長くは生きられないとかさあ。
守 そんな馬鹿な。
圭介 そうなんだけどさあ。確かに守は殺しても死なないと思うけども、そういう想像を一杯しちゃったってコトだよ!
守 悪かったよ。・・・で、どのくらい彼女いないんだ?
圭介 いいじゃねえかよ。別に。
守 いいじゃねえかよ、教えてくれたって。
圭介 うるさいなあ、ずっとだよ。
守 だから、ずっとがどのくらいかを聞いてるんだよ。
圭介 ずっとはずっとだよ!これ以上聞くなら出て行ってもらう。
守 もう聞かない!興味ない!全くない!
圭介 ならいいが・・ま、今日はとことん飲もう!
守 俺はいいけど圭介、明日仕事じゃないのか?
圭介 俺?俺は今フリーだから。明日は午後から打ち合わせがあるだけで、あとは特に何もない・・・いや、ないわけではないけど、急ぎじゃない。
守 フリー!?なんだ!その悠々自適な響きは!
圭介 いや、そんな良いもんじゃないよ。仕事無いときは全くないし・・・80%以上が運だね。
守 そんなもんか?
圭介 ああ、俺は小説を書く時間が欲しいから、フリーをやってる様なもんだから。
守 やっぱり書くのか?
圭介 まあ、夢ですから。
守 夢か・・・いいな。
圭介 なんだよ、守にだってあるだろ?
守 そうだな・・・いや、特にないかな。普通に生きていければ。爺さんまで。
圭介 爺さんか・・・。そりゃ夢が叶ったのか分かるまで相当かかるな。
守 ちょっと考えて
守 ・・・だな。
第4場 淡恋
圭介着替えながら部屋に入ってくる。
守 あれ?今日は今から?
圭介 うん、打ち合わせ。
守 今回はどんな仕事?
圭介 医療現場の実情レポート。
守 固っ!
圭介 うん。がちがち。でも取材費も出るし、いい経験ですので。
守 ま、こういうときに取材しとかないと、個人でやろうと思っても難しいもんな。
圭介 そうそう。
圭介、窓から空を見上げる
圭介 降るかなあ?
守 雨?
圭介 うん。
守 天気予報では降らないって言ってたぞ!
圭介 でも空は・・・。
圭介 窓から空を見上げる
守 どれどれ・・・
守 圭介に合わせて空を見上げる
守 ・・・う~ん。
圭介 な?
守 確かに。
圭介 守ならどうする?
守 俺?俺は今日出掛けねえもん。
圭介 例えばだよ、例えば。
守 例えば?そうだなあ・・・俺だったら持って行かない。
圭介 本当か?
守 何故なら俺は、沖縄県民だから。
圭介 沖縄県民だとなんで傘をささないの?
守 温暖な気候のため濡れても寒くないから。
圭介 へーそうなんだ・・・沖縄??沖縄だっけ?生まれたの。
守 何故ならロンドンっ子だから。
圭介 ロンドン??
守 ロンドンは雨というか霧っぽいので常にレインコート。だから傘はささない。
圭介 ま、持って行かないってことだね。
守 おう。自分の勘よりそれを職業にしている人の言葉を信じる。
圭介 ま、それもそうだな・・・。
守 そんなこと悩んでて時間は大丈夫なのか?
圭介 ああ~そうだ、どうしよう・・・。
守 とりあえず持っていけばいいんじゃないの?
圭介 え?
守 降っても降らなくても傘があれば別に良くないか?
圭介 急に語気を強める
圭介 なんだと!?
守 なんだよ。怒るなよ。
圭介 お前、天才!
守 ま、まあ・・・。
圭介 でもなあ、降らなかったら荷物になるしなあ・・・。
守 もう好きにしてください。
場面変わって 会社前
打ち合わせが終わった圭介は出版社から出てくる。
雨が降っている。
圭介 あ~やっぱり降ってきちゃった?でしょ?そんな気はしてたんだよ、家出てくる時から嫌~な雲だったしさ。でもだよ?天気予報じゃ降水確率20%って言うからさ、信じてたのに。やっぱりそう簡単に人を信じちゃいけないね。でも最近断言系の予報って増えてきたよね。昔はさ、「全般的には晴れ。しかし、ところによりにわか雨が降るかもしれません・・・・。」降るの?振らないの!?どっち~??みたいな感じだったんだけどさ・・・最近は「朝のうち雨が残っているかもしれませんが、その後は晴れるので傘は持っていかなくて大丈夫です!」断言しちゃったよ、この人。強いよね、強気みたいなさ。それで例え雨が降ったとしても、「昨日はすいませんでした」って謝っちゃうんだろうね~・・・謝ったからってさあ・・・潔し!!!
急に雨が強くなってくる
圭介 うわっ強くなってきた!なんだ?俺に対する挑戦か?この雨の中帰れるものなら帰ってみろと言う・・・
圭介 鼻で笑って
圭介 しか~し!・・・傘持って来たもんねえ~俺って天才~俺って準備万端~俺って漁師、海の男~・・・・。
ふと気づくと傍らに空を見上げ途方にくれている女が立っている 北澤美咲(以後・美咲)
圭介は無視して行こうとするが、途中で引返してくる
圭介 傘を美咲に差し出す
圭介 どうぞ。
美咲 え?
圭介 どうぞ。
美咲 でも・・・。
圭介 あ、いいのいいの。俺ん家近いし。気象予報士に勝ったという優越感に浸るためだけに傘持ってきただけだから。
美咲 ・・・でも。
圭介 はい、どうぞ。
圭介 強引に傘を持たせて走っていってしまう
美咲 しばらく立っていたが、傘を差して歩き出す
シーン終了
圭介 家へ帰ってくる。
圭介 ただいま~
守 圭介の方をみると濡れている
守 おかえり~って何で濡れてんだよ!
圭介 いや~雨が降ってきちゃってさあ。
守 そりゃそうだろ、そんだけ濡れてて雨降ってなかったら・・・って違ぇ~よ!お前傘もってったじゃん!
圭介 ああ、持って行った。けれども今は無い。
守 失くしたのか?
圭介 いや。
守 盗まれたのか?
圭介 いや。
守 忘れてきたのか?
圭介 いや。
守 あ~ジャイアンに取られたのか。
圭介 いや、しずかちゃんに貸した。
守 しずかちゃん?大丈夫か?
圭介 いたって正常。
守 ・・・圭介君?
圭介 ん?
守 惚れた?
圭介 え?
守 惚れたのか~。
圭介 そんなことないって。
守 まだその惚れっぽさ、直ってなかったのか・・・。
圭介 惚れたなんて言ってないじゃないかよ!
守 いや、目がハートになってるし。
圭介 目を手で覆う 手を外すと目がハートになっている
圭介 嘘!マジ!取って!ハート取って!!
守 一目惚れが悪いとは言わないけど、よく懲りないな・・・。
圭介 懲りる?何で?
守 今までどんな目にあってきたか忘れちまったわけじゃないだろ?
圭介 そんなひどい目にあったか?俺!
守 は~~~
守 深く溜息をつく
場面変わって 街頭
圭介 歩いてくるとアンケート調査をしている女性に捕まる
女 ちょっと今お時間良いですか?
圭介 え?
女 簡単なアンケートにお答え頂きたいんですけど。
圭介 アンケート?
シーンに守 割り込む
守 はい!ここ!この時点で彼は彼女に惚れました!秒殺、いや瞬殺!
女 映画とかよく見ますか?
圭介 まあまあ。
女 月にどれくらい見ますか?
圭介 2本くらいかなあ。
女 2本と。今、キャンペーン中で6月までなんですけど、映画が安く見られるチケットがあるんですね。
圭介 ええ。
女 1冊10枚で1万円なんですが、これなら1本あたり¥1000なんです。お得ですよねぇ。
圭介 そうですね。
守 はい、彼はもう全く話は聞いてません!キーワードとなっている1本¥1000だけ聞いて答えてます!
女 月2本だとあと6ヶ月で12本は見る計算になるから・・・ちょっと中途半端なんで、お友達とかと一緒に見に行くって事で2冊でいいですか?
圭介 ぼーっとしている
圭介 はい。
女 じゃあ2万円になります!
圭介 これで。
女 ありがとうございました!
場面戻る
守 で、後でよく見てみたら、映画館が決まってて流行のラインナップは取り揃えてないトコだから結局1回も見に行かずに終わっちゃったじゃないかよ。
圭介 あ~あったね、そんなこと。
守 何もそこから学んでない・・・。
圭介 学んだよ。
守 何を?
圭介 俺ってあんまり映画を見ていなかった!
守 あきれたように
守 ああ、大事だね。自分を知るってことは。
圭介 でもさあ、守ならああいうときどうやって断るの?
守 俺?俺は断らないよ。ってか話を聞かないから。
圭介 どうやって?
守 しょうがねえなあ、見てろよ。
場面変わって街頭 守の想像
守 歩いていると、街頭アンケートをしている女性に捕まる
女 ちょっと今お時間良いですか?
守 いえ。
女 そんなにお時間取らせませんので。
守 全く無理です。
女 ですよね~お忙しそうですもんねえ。休みの日は映画とか見たりしますか?
守 見ません。全く見ません。
女 たまには息抜きも必要ですよ~。
守 全然大丈夫です。バリバリ働いてます。働く虫です。
女 今、安く映画を見られるチケットがあるんですよ~。デートとかにも便利ですよ。
守 彼女いません。
女 え~本当ですか~?でも大丈夫ですよ、半年近く使えますから。
守 デートで映画見に行かない。
女 え、じゃあ何処に行かれるんですか?
守 ホテル!
女 昼でも?
守 朝でも!
女 もう、この野獣さん。そんなビーストにちょうど良いのがありますよ。
守 え?
女 ホテルの割引チケット。
守 凄っ!そんなものまであるの?
女 ええ。いくつかチェーン展開しているところ限定ですけど、都内にも30ヵ所くらいあるので便利ですよ。
守 本当ですか!?買います!
女 1枚で30%OFFのチケットなので大体2000円くらい割引になるんですが、それが10枚で5000円!
守 買います!!
シーン終了
守 うまいね。あの人うまい!
圭介 結局、買ってんじゃん!
守 いや~あれはしょうがない。あれは彼女がうまい。
圭介 普通に会話してたじゃん。
守 あれだね、人の話はちゃんと聞きなさいと教えられて育ったせいか、無視ができない。
圭介 だったら、できるなんて言うなよ。
守 出来ると思ったんだからしょうがないだろ!
圭介 はいはい。
守 ・・・で、名前はなんていうの?
圭介 は?
守 その人だよ、傘を貸してあげた、しずかちゃん!
圭介 さあ?
守 なんだそれ?
圭介 聞いてないし。
守 聞けよ!
圭介 どうやって!?
守 お名前は?って。
圭介 お名前は?
シーン 傘~圭介の想像~
雨の降り出した出版社前
傘が無くて困ってる美咲
圭介 お名前は?
美咲 え!?
圭介 名前は?
美咲 あきらかに不審がっている
美咲 えっと・・・
圭介 教えてくれたら傘を貸してあげましょう。
美咲 え・・あ・・結構です!
圭介 ちょちょっと待って~!!
走り去る美咲
シーン終了
守 不審者だ!不審者がいる。
圭介 自分で言ったんじゃないかよ!
守 すまん、言った奴が間違ってた。
圭介 もういいよ、疲れた。寝る。
守 え?もう?待て待て。ちょっと俺のを見てからにしろ
シーン 傘~守の想像~
雨の降り出した出版社前
今度は守が登場する
守 いや~降ってきちゃいましたねえ。
美咲 そうですねー。
守 あれ?傘は?
美咲 天気予報では降らないって言ってたものだから・・。
守 ああ、そう言えば、言ってましたねえ、確かに。最初から予報じゃなくて予想ですって言ってくれれば全幅の信頼をあんな見ず知らずの他人に預けたりしないのにねえ。
美咲 本当ですよね。
守 ま、俺は持ってきたんですけどね。
美咲 あ、ずる~い。
守 ずるくない、かしこいの。とりあえず駅まで入ります?
美咲 え?いいんですか?
守 どうぞ、どうぞ。
美咲 ありがとうございます!
守 じゃ、行きますか。あ、そうそう、ちょっといいチケット買ってね、一緒に行く人探してたんだけどどう?
美咲 え?何のチケット?
守 さっき買ったチケットを取り出す
守 ジャジャ~ン!
美咲 ええ!?
町へと消える二人
シーン終了
守 どうだ!
圭介 はいはい、すごいすごい。で、名前は?
守 誰の?
圭介 しずかちゃんのだよ!
守 ちょっと待って、今思い出す。
圭介 名前・名前・な・ま・え。
守 ・・・すまん。聞いてないようだ。
圭介 部屋を出て行く
守 お~い。
圭介 顔をだす
圭介 使えない。
圭介引っ込む
守 ああ~!!!
うなだれる守
つづく