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Ecole Militaire, from Eiffel Tower, 1978
Photo by D70
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>前回


 翌日の午後十時近く、野牛組が用意した盗品のゴルフGTIを運転する片山は、旧中央市場に近いパリ下水道中央第三管理事務所に向った。野牛組の二人が乗ったルノー五(サンク)アルピーヌが先導する。




VolksWagen Golf GTI MK1






Renault 5 Alpine - L'Automobile avril 1976.









 片山は現ナマを入れたキャンバス・バッグや短機関銃や自動ライフルなどを、棚板(たないた)を外した狭いトランク・スペースに積み、其の上をキャンヴァス・シートで覆っていた。
 カヴァーを掛けたところで気休めにすぎないが、今のところは野牛組を信用しないことにはどうにもならぬ。裏切られた時は、たとえ体じゅうを銃弾で蜂(はち)の巣にされても逆襲するだけだ。
 第三管理事務所の裏門近くで片山たちはナイロン・ストッキングで覆面した。リーの作業服の左腕に黄色いリボンを捲く。




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 裏門の覗(のぞ)き窓が開き、続いて裏門自体が内側から開かれた。三十台ほどの車が見える構内には、武装した野牛組の男たち二十人ほどが待っていた。彼等も覆面姿で左腕に黄色いリボンを捲いていた。
「管理事務所の夜勤の連中は地下室に閉じこめてある。地中海銀行やジェラール海運ビルの近くには三百人の部下を待機させた。もうそろそろ、タンクローリーがやってくる時間だ」
 片山に近づいた男が囁(ささや)いた。副組長のアランの声だ。

 全長十メーター、高さ三・五メーター、幅二・七メーターほどの一万リッター積み中型十輪ローリーが五台と、全長六メーター、幅約二メーターの四千リッター積み小型ローリーが六台だ。大型となると三万リッター以上積めるが、地下道の中で小回りがきかない。
「ローリー・ストップの連中はみんな縛りあげやした。新しくあそこに入ってくるローリーの運ちゃんも、あそこに残った小隊がみんな縛りあげることになってます。勿論、ポリ公がやってきたらホールドアップさせるし、抵抗したらブッ殺してやりますぜ。もっとも、一人三千フランも摑(つか)ませてやったら、抵抗するポリはいないでしょうがね」
 タンクローリーを運転してきた男たちのリーダーがアランに報告した。
 地下の下水道につながる車輛搬入口は幅十メーター、高さは六メーターもあったから、大型タンクローリーでも十二分に余裕がある。




Youtube -
Paris Musée des Égouts (Sewers Museum) live!
by Travelsignposts Europe Travel Info
https://www.youtube.com/watch?v=Ag9wb_R49y0







 小型タンクローリー六台を先にし、次いで五台の中型ローリー、そのあとに片山のゴルフGTI、さらにそのあとに運転する者だけが乗った野牛組の乗用車十台が続き、一行はゆるい傾斜をくだって下水道本流の側道に降りた。銀行通りに向けてゆっくり走らせる。
 やがて、一行は目的地に着いた。
 小型タンクローリーは、地中海銀行とサイデール・ビルのあいだの横丁の下の下水道支流の側道に三台、サイデール・ビルとジェラール海運ビルとのあいだにやはり三台が配置された。
 中型ローリー五台は、目的の三つのビルにすぐ近い第下水道の側道に配置された。
 ブタンの液化ガス・ローリー車から降りた運転係りや助手が、仲間の乗用車に乗りこむ。
「プラスチック爆弾百キロと電気雷管と磁石付き次元爆発装置六個だ。俺たちが去ってから取付け作業をはじめてくれ。液化ガスは気違いじみて誘爆性が高いから、時限爆発装置は一個で充分とは思うが念のためだ。扱いかたは分っているな?」
 アランが言った。ワゴンのようにテール・ゲートを開くシムカ一三〇八から部下が降ろして運んできた手押し車を示す。




Simca-Chrysler 1308











「ああ、ヴェトナムやモザンビークで使ったことがある」
 片山は答えた。
「じゃあ、管理事務所で待っている」
 アランは軽く片山の背中を叩き、自分の車に乗りこんだ。野牛組の乗用車は、下水道支流の側道に尻を突っこんでターンし、次々に去っていった。
 一人残された片山は、近くの電灯のスウィッチを入れた。下水道の鈍い照明のなかで、覆面を脱ぐと、手押し車に積まれているプラスチック爆弾をチェックしはじめる。
 不安感に捕えられ、掌(てのひら)が汗をかいている。プラスチック爆弾や雷管や時限装置は本物なのだろうか? タンクローリーのタンクは実は空(から)っぽなのではなかろうか、と疑いはじめるとキリが無くなってくる。
 プラスチック爆弾はTNTやRDX等の爆薬とゴムを練りあわせたもので、プラスチックに外観が似ている。手ざわりはゴム粘土に似ていて、ゴム粘土のように引き千切ったり丸めたりしても、起爆装置をつけないかぎり爆発することは無い。
 ひと塊のプラスチック爆弾を引き千切り、片山は匂(にお)いを嗅(か)いだ。TNT爆薬の刺激臭がする。
 乾電池と時限タイマー付き起爆装置と、大砲の信管のように大きな電気雷管をチェックした片山は、自分のゴルフGTIに乗りこみ、車の尻(しり)を下水道支流に方向転換させておいた。
 手押し車のところに戻り、プラスチック爆弾を五十キロずつ二つの塊りに分ける。
 一つの塊りを、地中海銀行とサイデール・ビルのあいだの下水道支流に面して駐(と)められた一万リッター積み中型ローリーの液化ガス・タンクに貼(は)りつけた。
 もう一つの塊りを、サイデール・ビルと赤い軍団の本部があるジェラール海運ビルのあいだの下水道本流に面した中型ローリーのガス・タンクに貼りつける。
 時限撃発装置に雷管を嵌(は)めこんだ。はじめのプラスチック爆弾のあいだに三個の時限撃発装置を挿入(そうにゅう)した。液化ガス・タンクの鋼板が爆発装置の磁石に反応して吸いつける。
 あと三個の時限撃発装置を、もう一台のローリー車のプラスチック爆弾のあいだに挿入した。




Youtube -
C-4 Explosive Demolition Range by AiirSource Military
https://www.youtube.com/watch?v=S8kUT5-Km3w





RDX | TNT | C4 Explosion by Funker Tactical - Fight Training Videos
https://www.youtube.com/watch?v=OQakcH0PMW4








 腕時計を見ながら、一番目の時限爆発装置のタイマーをぴったり二十五分後に合わせ、安全ピンを抜き捨ててスウィッチを入れる。カチカチと音をたてて時限装置が働きはじめた。
 わずかずつタイマーの時間をずらせて、なるべく同時に撃発するように祈りながら、片山はあと五個の時限装置を作動させた。
 下水道の電灯を消し、GTIに跳び乗って発車させた。一キロほど離れてから一時停車させ、荷物スペースからM十六自動ライフルと、手榴弾(しゅりゅうだん)を吊(つ)ったM十六用弾倉帯を取出した。
 M十六に装填し、安全装置を掛けて助手席の床からシートにかけて斜めに立てかけ、弾倉帯を腰に捲いた。ナイロン・ストッキングで再び覆面する。
 再び車を走らせる。ヘッドライトは上向きにしていた。車窓は開いている。
 片山の小さな車が車輛搬入口から下水道の管理事務所に跳びだして急ブレーキを掛けると、アランたちが走り寄った。
「爆発はあと十九分五十秒後だ」
 右手を腰のG・Iコルトの銃把(じゅうは)の近くに遊ばせた片山は、腕時計に目を走らせながら叫んだ。
「了解。あとの連絡は例のところで。残金のことも忘れるなよ」
 アランが言った。例のところとは、ベルナール・ブリオールの屋敷のことだ。
「分ってる」
 片山は前輪を激しく空転させてゴルフGTIを再び発進させた。裏門の係りがあわててそれを開いた。
 背後では野牛組の連中がそれぞれが乗ってきた車に転(ころ)げこんでいる。
 片山を追うためでなく、爆破された銀行の現ナマを狙うためだ。無論、赤い軍団の本拠の連中と一戦を交えるためもある。
 片山は管理事務所を抜けると覆面を外し、セパストポール大通りからグラン・プールヴァールの大通りを通り、銀行通りの、地中海銀行やジェラール海運ビルなどと反対側に並ぶビルの一つの露地に車を駐めた。
 高層アパルトマンであるそのビルから、目標のうちで一番近いジェラール海運ビルまで三百メーターほど離れていた。M十六ライフルを摑(つか)んで、十階建ての高層アパルトマンの電動扉(とびら)を開き、非常階段を屋上に向けて駆け登る。
 番人(コンセルジュ)が追いかけてきたら気絶させる積りだ。もしパトカーを呼ばれたとしても、あと数分後に起る大爆発のショックで、警官は片山に興味を失うだろう。
 一気に屋上に駆け登った片山は、さすがに荒い息をついていた。爆発まであと三分だ。爆発の破片から目を保護するために、カリクローム・イエローの強化焼入れレンズがついたレイバン・シューティング・グラスを掛ける。屋上の鉄柵(てっさく)にもたれ、目的の三つの銀行のほうを見る。




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 爆発は一度に起った。時限装置のタイマーのタイミングが合ったというより、誘爆のせいであろう。
 予想以上の物凄(ものすご)い爆発力であった。もし路上であの十一台のタンクローリーが爆発したとすると、三百メーター以上離れた片山も、黒焦(くろこ)げの即死体となって吹っ飛ばされたことであろう。
 地中海銀行をはじめとする目標の三つのビルは、青白い炎に包まれながら十メーターも持ちあがったかのように見えた。大下水道の上の銀行通りが爆心から左右二百メーターずつにわったて消失した。炎の物凄い熱が片山にも伝わる。
 激しいショックと爆風が片山がいる高層アパルトマンを揺るがせ、片山は尻餅(しりもち)をつきそうになる。大地震のようだ。屋上に亀裂が走る。
 持ち上った三つのビルは、陥没して炎を吹きあげる銀行通りに向けて、崩れながら倒れこんだ。爆風で吹っ飛んだ歩道の石が、唸(うな)りをあげて飛んでくる。
 崩壊した建物は、目標の三つのビルだけではなかった。爆心近くのビルは少なくとも十五個は崩れ倒れ、そのうちの十二は銀行だ。さらに二十近い銀行が大破された。
 炎はすぐに消えたが、あまりにも目茶苦茶に破壊されたジェラール海運ビルで生き残っている赤い軍団の者はいないように見えた。
 片山は液化石油ガスの爆発力の強大さを計算しちがえた自分を罵(ののし)るが、ジェラール海運ビルの廃墟(はいきょ)に近寄って調べるために非常階段に走り寄る。
 非常階段を駆け降りると、すべてのガラスが割れてしまった窓から、住人たちの阿鼻叫喚(あびきょうかん)の騒ぎが聞えた。
 アパルトマンの前の通りも、今はセンター・ライン寄りが幅二メーターほど陥没していた。片山がゴルフGTIを駐(と)めた横丁にも亀裂が走っている。
 片山は大回りしてジェラール海運ビルの裏手のほうに車を走らせた。爆発に胆(きも)を冷やして車を車道のいたるところに捨てた連中が多いので、片山は歩道にしばしばGTIを乗り上げた。
 ジェラール海運ビルの廃墟百メーターほど背後で車から降り、ナイロン・ストッキングで覆面し、フル・オートにしたM十六ライフルを腰だめにして歩く。足許(あしもと)がしばしば崩れ落ちそうになる。余熱でサウナ風呂に入っているようだ。
 さまざまな銀行から略奪した現ナマを詰めた麻袋を背負って行き来している野牛組の連中は、片山が左腕につけている黄色いリボンを認めて発砲してこなかった。
 岩石の捨て場のようになったジェラール海運ビルの跡に片山は足を踏み入れる。死体の手足や胴が散らばっている。黒焦げになって縮んでしまった死体もあった。人間の形をした灰の塊りもある。
 呻(うめ)き声が聞え、ハッとした片山はM十六を振り向けた。
 呻き声は、高さ二メーター近くも石が積もった向い側から聞こえていた。片山は用心深く回りこむ。
 高さ一メーター半ほどの石壁の残骸(ざんがい)越しに覗(のぞ)いてみた片山は軽く身震いした。
 そこには、爆風で服を飛ばされたらしく全裸になった初老の肥満体の男が倒れていた。腸が肛門(こうもん)から一メーターほどはみ出し、額や体の右半分が焦げて炭化している。しかし男はまだ生きていた。両眼は潰(つぶ)れている。割礼を受けていた。
「救助隊員だ。しっかりしろ。あんたは誰(だれ)なんだ?」
 男の横に蹲(うずくま)った片山は尋ねた。
「ルシアン・ベルグマン・・・・・・助けてくれ・・・・・・地中海銀行の常務取締役だ・・・・・・」
 男は聞きとりにくい嗄(しわが)れ声をやっと漏らした。
 常務取締役のような重役が銀行で夜遅くまで残業した筈はないから、ジェラール海運ビルで爆発に会ったのであろう。だからルシアンは赤い軍団のトップ・クラスの一人にちがいない・・・・・・片山はニヤリとしたが声は重々しく、
「ダヴィド・ハイラルとコヨーテは、いまどこにいる?」
 と、尋ねた。
「・・・・・・どうして・・・・・・そんなことを・・・・・・知りたがる?」
「ジェラール海運ビルにいた同志は、あんたをのぞいて全滅した。俺はこれからすぐに、ボスにそのことを知らせないと」
 片山は言った。
 朦朧(もうろう)としているルシアンは、片山の言ったことを信じたようだ。
「ムッシュー・ハイラルはニューヨークにいる・・・・・・ニューヨーク支部にでなく・・・・・・廃墟同然となったサウス・ブロンクスの・・・・・・ボストン・ロードの・・・・・・クラトナ公園のすぐ近くの・・・・・・ジャクスン不動産ビルに・・・・・・電話は・・・・・・」
 ルシアンは代表番号をしゃべった。
「どうして、ニューヨーク支部にでなく、そんなところにいるんだ?」
「待ち伏せてるんだ・・・・・・赤い軍団に執拗(しつよう)な闘いを挑(いど)んでやがる国籍不明の混血の気違い野郎を・・・・・・奴が罠(わな)に跳びこんでくるのを・・・・・・サウス・ブロンクスなら、大砲をブッ放しても驚く者は少ない・・・・・・それに・・・・・・まわりのビルを爆破させたり放火させたりして、地主から安く買い叩くために・・・・・・ブロンクスを不法占拠しているプエルトリコ人を手なずけてある・・・・・・今はサウス・ブロンクスの土地の大半が・・・・・・赤い軍団のものだ・・・・・・苦しい・・・・・・早く助けてくれ・・・・・・まだ死にたくない・・・・・・早く・・・・・・」
 ルシアンは赤黒い血の塊りを吐いた。
「ダヴィド・ハイラルの・・・・・・赤い軍団の最終目的は何なんだ? 教えてくれ。俺はいつまでもツンボ桟敷に置かれたくない」
「知る必要はない・・・・・・それよりも、早く助けてくれ。君はほんとに味方なのか?」
「味方だ。じゃあ、せめて軍団のニューヨーク支部がどこにあるのかを教えてくれ。俺はそれさえも知らされてないんだ」
「五番街にある・・・・・・九十×丁目の・・・・・・コンチネンタル信託銀行・・・・・・」
「軍団がキャナダの奥地で中性子爆弾の開発を進めている狙いは?」
「そうか・・・・・・分った・・・・・・貴様、やっぱり騙(だま)したな!・・・・・・くたばりやがれ、スパイ野郎!・・・・・・中性子爆弾のことを知ってるところを見ると・・・・・・そうだ、貴様こそ軍団の最強の敵・・・・・・混血の気違い野郎だな?・・・・・・貴様の名前は割れている・・・・・・貴様がミラノで残した指紋から・・・・・・我々の軍団は警察に大勢の協力者を抱えてるんだ・・・・・・貴様はフランスから国外追放をくらった筈のケネス・マクドーガル・・・・・・またの名をケンイーチ、カタヤーマ・・・・・・買収してある刑事(デカ)を通じて、顔写真も手に入れた・・・・・・たかが女房子供を殺されたぐらいで・・・・・・怒りくるって・・・・・・地獄の戦いに突っ走るとは・・・・・・正真正銘の気違いだ・・・・・・だけど貴様の狂った脳はもうそろそろ粉々に吹っ飛ぶ・・・・・・貴様はニューヨークに着いた途端にくたばるんだ・・・・・・ざまあ見やがれ・・・・・・」
 ルシアンは右手で喉(のど)や胸を掻(か)きむしった。皮膚や焦げた肉がはがれる。
「どうして俺はニューヨークに着いた途端に死ぬんだ」
「空港でも・・・・・・待伏せ・・・・・・くたばれ!・・・・・・」
 そこまでしゃべると、血の塊りを喉につまらせたルシアンは死の痙攣(けいれん)をはじめた。腸がさらに、ずるずると押しだされる。
 片山は吐き気をこらえ、ルシアンに人工呼吸をはじめた。
 だが、すべての肋骨が折れているルシアンは、二度と息を吹き返さなかった。脈も止まったきりだ。
 ルシアンの肺から吸いだした血が顔を染め、悪魔のような形相になった片山は、よろめきながら立ち上がる。

 (つづく)





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Last updated  2021年12月12日 07時37分11秒


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