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暮れに評判になっていた加藤陽子の「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)を読んだ。1年あまりで初版17刷にも及んでいる。今年読んだ本でこれほど知見を得た本はなかった。この本は、日本の近現代史を考える、として湘南の栄光学園の高校生を相手にして5日間の講義をまとめたものであるが、日清戦争から始まって第二次大戦の集結までをざっと語っている。あまりにも早足であるが、きちっと最近の研究や数字データもふまえて論点を外さずに、日本の国内政治と世界政治の重要事実をおさえて間然とするところがない。内外の文献や個人の手紙や郷土の資料まで広く調べていて、その勉強量は並のものではない。東大の歴史的な伝統をふまえてこのような良心的な学者が復活したことは実に嬉しいかぎりである。私が知見を得た点をいくつか述べると、「戦争は異なった憲法、つまり政治原理をもった国の間で起こる、戦争の真の敵は相手国の異なった統治原理である」。つまり民主主義国と全体主義国の間で起こる。アメリカが日本に戦勝して最初にやったことが日本の憲法を変えたことの理由がこれでわかる。 もう一つは日本が中国を侵略して以来太平洋戦争まで膨大な戦費をどうしてまかなったかについてきちんとデータをあげてふれている。しかし、満州事変、日中戦争から太平洋戦争の間の戦費をどうしてまかなったかについては、日本の学者で綿密な研究をした人はいないが、この本で石原かん爾の最終戦論で以戦養戦(戦争をしながら相手国の資源を奪って戦争を継続する)論をあげている。さらに日本と戦った中国は日本に勝つにはアメリカとソ連を戦争に引き入れる以外にないとしてそれまではどんなに負け続けても、国土の3分の1が占領されても、3年間は中国1国で戦い続ける以外にないと決意した胡適という人がいて、その通りになったこと、また日本の真珠湾攻撃をどうして事前に予感していたアメリカが防備を怠っていたかについては、アメリカ国民の覚醒を促すためにルーズベルトがわざとそうしたという説がかなり牢固であったが、この本では真珠湾の水深は12メートルで、空から水雷を落とす技術がまずければ水雷はほとんど海底に突き刺さってしまう、日本の海軍にはそういう技術はないだろうとアメリカが多寡をくくっていた。しかし実は日本の海軍は鹿児島の猛訓練でその技術の枠をこえて正確に命中させた。これでわざと説を見事にはねのけている。最後に、日本がどうして生産力では及びもつかないアメリカに戦いを挑んだかについての説明では、日本という国は戦争の持久力がないからもともと持久戦は無理だから短期決戦以外にないという発想で動いた。これで北進説から南進説に何度もぶれた理由がわかる。最後の感想、この題名そのものが結論を表している。日清、日露のときは戦争反対論があったが、満州事変、日中戦争、太平洋戦争には国民の反対はみられなかった、としている。軍閥にだまされて戦争に巻き込まれたというようなことはないんだよ、ということを婉曲に指摘しているのだ。 これだけの濃い内容をよく高校生が聞いたこと、また講義の仕方が面白くこれなら退屈しなかっただろうということ、高校生の質問や回答がなかなか的に近づいていて優秀なことに感心した。歴史家というものは、時代のイデオロギーや政治性から独立して膨大な資料を広く取り込み、純粋で良心的な態度で歴史に接することが俗論の跋扈をゆるさない決め手になるのだろうと思う。
2010/12/31
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この秋に北京を旅行してきた弟が驚いて話してくれた。なにせ北京の一流ホテルで中国人の若い男女が自分たち以上のメニュウを食べて談笑している。月給2万円が平均だというのに何で4、5千円相当の料理が食べられるのか、中国相手に30年も商売している弟もわからないと言う。朝日に寄稿した中国の女性エコノミストが中国の中産階級は5億人になったと言っていたが、そこまでは信じがたい。弟は日本人同等のリッチ層が1億人以上いると言ったが、それだけでも、大変なことである。中国の自動車生産が日本を越してブームになっているのもうなずける。中国人があげる三偉人は、孫文、毛沢東、と小平で、と小平なかりせば、沿海部の経済成長はなかったとあがめられているようだ。と小平は沿海部からどんどん富ませていってそれを内陸部に広げる以外にないといういわば格差容認政策に切り替え、1986年から急速に流れが変わった。折りしも日本ではテレビで夕張市の破綻状況がさかんに報道されている。中央から補助金がいつまでも来ることを信じて金を借りまくっていた前市長がつくった借金630億、ついに最後の土壇場にきてしまった。小泉元主首相は、格差が出ても仕方がないと言い放った。こうなると、なんだか日本も中国と似てきたように思う。安倍内閣は経済成長率を上げて税収を増やす、そのためには財界の要望を受けて法人税を下げる発想の本間氏を政府税調に起用したが、スキャンダルをつかれて足を引っ張られた。参院選に負けたら自分たちの立場はなくなるという恐怖の一派との激しい内紛が巻き起こっているとみる。夕張に限らず、どんどん若い者が都会に出てしまって地方には生産力のない老人ばかり残る。税収がなくなって自治体が立ち行かなくなる。老人医療も難しくなる。これからは夕張以外にもこういう破綻都市がまだいくつも出てくるのは明らかだ。住民の強制移住をやってのけるロシアや地方からの流入をおさえつける中国のような荒っぽいことができない日本は独自の知恵を出さねばならない。
2006/12/30
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