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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 短編05 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから――――― 遥か階下で人の動く気配を感じて、男は目を覚ました。 昨日植えたゼラニウム・菜の花・フリージアは……無事に土と馴染んだのだろうか? 反射的に目を細める。 いっぱいに開け放った窓の向こう――乱立するビル群の間に燦然と輝く田園が、柔らかな春の陽を浴びて輝き、シルクのバスローブ姿で立つ男の全身を包み込んでいる。その光の中で、誰かが庭園の中でホースを伸ばしているのが見える。 庭園? そう。ここは私の所有する高層オフィス兼集合住宅タワー《Z》、その屋上に施工された"空中庭園"。私の、私が築いた――楽園なのだ。 逆光のために、ホースを伸ばしているのが誰なのかははっきりしない。けれど、気にする必要はない。男にはわかっていた。そこに誰かいようと関係はなかった。「……おはよう」 屋上に建設されたログハウス調の館の窓から男は、庭園に立つ者の背中に笑顔で呼びかけた。 そして……彼から「おはようございます…会長…」と抑揚のない返事が返って来た。 そう。彼の言葉には本当に抑揚がなく、感情というものすら感じられない、まるで機械のような声だった。 飼い猫に頬を引っ掻かれた時のように、男の胸の中でほんの少し、ほんの少しだけ――ほんのただ少しだけ……苛立った。「……水はもういい。お前はクビだ。そのまま落ちて死ね」 言い終えると、男はサンダルを履いて彼の手からシャワーのホースをひったくるように奪った。「目ざわりだ。さっさと消えろ」 男の言葉に彼は何か反応を示すことなく、どこか遠くを見つめて歩き始め――庭園を囲む白い柵をよじ登り――さらに落下防止の長大なフェンスをよじ登り――躊躇することなく、その身を空中に投げ出した。「……空中庭園に、"機械"はふさわしくないな」 呟いた直後に、男の耳は、グチャッという鈍い音をとらえた。 グチャッーーそれは柔らかな人間の肉体が、硬いアスファルトに叩きつけられて命を失った瞬間の音だった。「……Z・О・C、Z・О・C、Z・О・C、ズィーオーシィー……」 同じ言葉を呟きながら男はログハウスの中に戻った。玄関脇に置いてある携帯電話を手に取り、秘書室へと繋ぐ。「……東側に落ちた死体を片付けろ。警察が来たら追い返せ。以上」 通話を切り、また庭園に入り、ホースのノズルをシャワーにセットし、水の蛇口を捻る。 庭園に生きる全ての植物たちが、嬉しそうに葉や花を震わせる……。――――― 愛知県名古屋市中村区にある、ブランド・貴金属のリサイクルショップ《D》グループ本社3階の社長室のデスクの前で、代表取締役社長の澤光太郎は、広げられた封筒の中身に考えを巡らせた。『招待状 《D》澤光太郎様』 内容はいたって"マトモ"な物だ。リニューアルオープンする高層複合商社ビル《Z》のプレオープンパーティの招待状……。 考える。 考えて、考えて、考えてから――社長室に置いてある応接セットのソファの傍らに立つ少女の姿をした"何か"に目をやる。澤の視線を感じた少女は、口をパクパクを動かしながら、イヤイヤと首を振った。『行かないほうがいい』 少女がそう言っているように見え、澤はデスクの上で俯いた。 "それ"はいつからいたのかはわからない。 たぶん、つい最近のことだったようにも、昔からいたのかもしれないとも思える。話しかける澤に少女はよく笑い、仕事に忙しい時には消える。どうしてそうなのか、どうしてそうなってしまったのかは、わからない。ただ、澤は今も昔も、少女は今も昔も――お互いに深く愛し合っていたという事実だけはわかっていた。「……商売の邪魔だけはすンじゃあねえっ、て言ってもわからねえか? 佳奈……?」 黒いスーツを身に纏い、幼さの残る顔を歪ませて、佳奈と呼ばれた少女のような"何か"、は再び顔を横に振った……。 その時――社長室の扉がノックされた。瞬間、佳奈の姿が消える。 息をひとつ吐き、澤は「入れ」とだけ静かに言う。「……失礼します。社長、何か用事でも?」《D》執行役員の男――岩渕誠が疲れたように聞いた。「……失礼、しま…す」《D》営業部新卒社員の女――伏見宮京子がおそるおそる姿を見せる。「何スか? また"せどり"ですか? それとも転売? 社長も荒稼ぎしますねえ」《D》大須支店支店長のクソ野郎――川澄奈央人が頬を指で掻きながら入る。「……次の土曜、《Z》のビルでプレオープンと立食パーティだ。名刺を大量に持っていけ。それと、姫様はドレスコードだ……ドレスなンざいくつも持っているとは思うが……必要なら経費も払ってやる……」「えっ? このメンバーで、ですか?」 意外な人選なのだろう、声をうわずらせて岩渕が聞いた。「……俺様と岩渕はテナント契約の商談と挨拶。姫様は広報係、適当に愛想笑いしてりゃあええが。……川澄、てめーはゼニになりそうなヤツを嗅ぎ回れや……」「参ったな…」と困惑する男と、「……ちょっと楽しみかも」となぜか嬉しそうな女と、「最高じゃないスか、社長っ!」とヤル気に満ちた男――三者の姿を交互に眺めながら、また――澤はソファの上に視線を流した。 そこには、誰もいなかった。 当たり前のように、誰の姿も形もなかった。 何もないとは、思う。 危険なことなど何もない、何もないとは思う。 けど、 けれど、佳奈の助言通り、何かあれば、俺は…… 迷わず――伏見宮と川澄は切り捨てる。そのつもりの人選だ。 だから……わかってくれよ、佳奈。これも商売なンだよ。 誰もいないソファに向かって、澤は静かに微笑んだ……。――――― ZOC(ゾック)とは、Zone of Controlの略であり、ゲーム用語。あるユニットについて、そのユニットが存在していることによる周囲のユニットへの影響範囲や、その影響の内容を表したルールのこと。日本語に訳して「支配領域」などの言い方もある。―――――『支配領域の悪魔と、D!』 aに続きます。 久しぶりのオススメ音楽コーナーです。えー今回は岸田教団&the明星ロケッツ様です。説明不要、とりあえず一曲聞いてください……。最新のベストアルバム、最高です。HIGHSCHOOL OF THE DEAD[2021]動画の共有方法が以前と異なるようで、貼り付けに苦戦。また次回までには勉強・修正しておきます。今話はプロローグということで短め。オマケや雑談等は次回にします。(というより、seesの文章作成能力のリハビリ的な意味合いもあり、あまり長文作ってしまうと疲れちゃう) 現代風の空想科学オカルト短編と思っていただければ幸いです。 ちなみに今回の話の主人公は澤さんです!! ではまた。 次回の更新は。早く思ったより近日イケます。たぶん💦 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2022.01.28
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…こんばんは。しばらくモノを書いておりませんでしたので、どこまでやれるのかは不明ですが、この度、また新しく活動を再開しようかと考えます。新しい物語のタイトルは《D》シリーズより『ZOCの悪魔と…D!』です。正直、新しいアイデアが浮かぶたび、「ああ、まだヤレるのか私は…」と感じました。まだモノを作る力が残っていたのかと、我ながら嬉しかったです。ZOC戦略的支配領域。よくシミュレーションゲームのデフやデバフの効果を及ぼす――いわば『縄張り』のような概念です。一歩入れば、そこは敵の領地であり、自らの能力を著しく低下させる……、そんなようなものです。もし、それを発明し、活用し、悪用できる者がいるとしたら…?その者はもう、悪魔と呼ぶにふさわしいと考えます。鋭意創作中です。多分、seesにとって…過去最高のデキになれば、と期待して創作中です……。ああ…テンション高いな、今回はw
2021.06.11
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 短編05 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから――――― 帰りたい。 異世界に召喚されて1年が経った。 召喚? そう。 僕はとある国の王様に、「魔族を滅ぼして欲しい」という願いを込めた魔法によって、現代の日本から呼び出されたひとりの学生だ。 魔法? そう。 この世界には"魔法"なる現象が実在し、地球で言う化学反応のような事象が現実として証明される。 魔族? そう。 この世界には人間とは違う知的生命体が存在し、互いに憎しみ合い、終わりのない戦争を繰り返していた。 帰りたい。 僕に与えられた"使命"とは、魔族を殲滅し、人間を救い、この世界に安定と平和をもたらす……みたいなことだ。聞くと、魔族の姿は人間とほぼ同じであり、その違いを区別する材料はひとつだけ、らしい。 材料? それを聞いて、僕は驚いた。 でも、それは……後述することにしよう……。 帰りたい。 ああ、帰りたい。 僕は異世界で寝て、起きて、訓練し、レベルを上げ、装備を整え……魔法の腕を上げ、訓練し、勉強し、剣を握り、盾を構え、レベルを上げ、勉強し、わけのわからないメシを食らい、徘徊するモンスターを倒し、レベルを上げ、寝て、手から炎や氷や雷や水を発生させ、盗賊を倒し、幽霊を浄化し、レベルを上げ、レベルを上げ、レベルを上げ……レベルを上げ続けた……。 帰りたい。 そこら辺に転がるラノベの主人公と、僕は、違う。違うのだ。 僕には愛すべき家族もいるし、恋人もいる。トヨタに内定を貰い、大学も卒業が近く、頼れる友人も多い。 なのに、どうして? どうして……僕が……こんなメに……。 お世辞にも美しい、とは言えない国の王女は、「魔族討伐の暁には、莫大な褒美と地位を約束し、望むのであれば私を妃とすることを許します」と頬を赤らめて言った。 帰りたい。 ああ、帰りたい。 僕は望郷する。――――― ふざけるな、とは言えなかった。異世界のルールなど知らないし、仮に僕が人間同士の争いが原因で、地球に帰還できなくなるのが怖かった。だからこそ、僕は王の命令を忠実に遂行した。従うしかなかった。でも、従いたくはなかった……。 歯をギリギリと噛み、拳を強く握り締める。 「地球に帰してください」 やがて僕は王に嘆願し、魔族の討伐を誓った。 結果、王は約束してくれた。というより、最初に受けた召喚魔法のルールにより、"魔族"の国の滅亡が達成されない限り、僕は地球に帰れない仕様らしい。 つまりは、まぁ、呪いだ。 帰りたい。 ああ、帰りたい。 飼っていた猫の顔を思い浮かべる。――――― 魔族を殺した。 なんてことはなかった。 彼らは僕より何倍も脆弱で、魔力も弱く、知恵も足りてないように思えた。 魔族を殺し続けた。 体が勝手に動いたような感覚すら、あった。 良心は痛まなかった。何でも、"そういう魔法"が存在し、精神安定剤のような効果もあるらしかった。ふと我に返ると、大地には無数の屍が横たわり、河川は血で染まっていた。 国の人間は歓喜し、僕も歓喜した。これで故郷に戻れる一歩が踏みだせたのだから。「魔族がやっかいな理由は、その数と繁殖力ですから」 と説明を受けたが、正直、深くは考えていなかった。 多少の違和感はあった。僕が観察した限りでは、魔族は一対の夫婦を形成し、生まれてくる子供は1匹~3・4匹程度の繁殖力しか持たないようにも見えた。……まぁ、どうでもいいことだけど。 帰りたい。 ああ、帰りたい。 恋人の顔を思い浮かべた。 早く帰り、彼女を抱き締めたい。 そう、思った。 そう想い続け……僕は剣を握り、炎の魔法を魔族に向けて放った。何度も、何度も……。――――― ついに、僕は魔族の王を倒した。その首を刎ね、体を燃やし、一族郎党を灰にした。 異世界の人々は歓喜した。嬉々とした顔で魔族の土地を蹂躙し、鉱山や畑の資源を奪い、領土を王族たちで区分けし、生き残った魔族たちを奴隷として扱いはじめた。その光景を見た時、僕が感じたことはひとつだけ……正直、本当に正直に、こう思った。 どうでもいい、と。 僕が思うことはひとつだけ。ひとつだけ思うことがあるとすれは、ひとつだけ。 そう。 帰りたい。それだけだ。 こんな腐った世界になど興味はなかった。 異世界からの生還こそ、僕の欲望のすべてだった。 優しげな父と母の顔を思い出す……けれど、それだけだった。2人を抱き締めて帰還を叫び、喜びに涙を流す光景が……どうしても思い浮かばなかった。―――――「あなたの未来が幸福なものでありますように」 王が言う。「勇者様、私は生涯、あなた様をお慕い申し上げます……」 王女が言う。 ……早く、僕を帰せ。 日本語で、僕は言う。『お前らも、滅びてしまえばいい』 僕はワケのわからない光に包まれ、全身が溶けるようにゆっくりと消えかけ、異世界で培った能力や体力や魔力が薄れゆくのを感じた。……ああ、これでやっと帰れる。「ありがとう、勇者様っ!」 人々の大歓声を脳の奥に刻みながら、僕は魔法陣の光の中に消えた……。 心残りなどない、はじめから、無い。 善意を施した、などとも思わない。 思わない……思わない……思わない……。 特に語ることもなく、僕の"異世界生活"は終わった。 可愛らしいネコミミ少女がいるわけでもなく、ウマいメシが無限に湧いて出ることもなく、美女たちとハーレムを作るワケでもなく、本当に――本当に、つまらない世界だった。 心から、また――思う。 帰りたい。 望郷の念だけが、僕の生きがいで、僕のすべてで、僕の夢と希望だった……。 さようなら異世界。 帰ったら、ラノベの小説家のSMSに、ひたすらアンチコメントを送ることにする。 さようなら……永遠に、さようなら……。――――― ――波の音が聞こえる。 どこかの海岸らしい。 まどろみの中、ゆっくりと覚醒する。 目を開ける。曇り空だ。サラサラとした砂の感触を手に感じる。 ――そう。僕はどこかの砂浜に仰向けで寝ていた。 ここは、地球……日本、なのか? 自問するが、答えはない。 しかし、直感はしていた。 ここは地球で、どこかの国の、どこかの海岸で、僕はただの学生で、"異世界の勇者"なんいう意味不明の職業ではなくて、魔法も剣も一切使えない、ただの人間であるということだけは――直感で理解していた。理解した気でいた。 しかし――……。「Who are you? No problem?」 誰かに声を掛けられた瞬間、 僕は立ち上がり、 砂浜に落ちていたサンゴか石か、なんだかよくわからない固い塊を手に取って、 両手に高々と持ち上げ、渾身の力で――その誰かの顔面めがけ、降り落とした……。「Oh, my God!!!」 ゴンッ、と鈍い音がし、声を掛けてくれた"誰か"の顔面がグシャグシャに歪み、鼻と口から盛大に血飛沫が飛ぶのを、僕は見た。聞いた。 なぜ? なぜ、僕は、この人を襲った? なぜ? わからない……。 考えながらも、僕はこの人の顔面を踏みつけ、喉や頭を石で殴り続けた。 なぜ? ……やがて、その人の体はピクピクと痙攣を始め、 ……やがて、呼吸も止まり、完全に動かなくなった。 遠くで人々の悲鳴が聞こえる……。「Help me!! somebody!!」「Murderer!!!」「Call the police!!!」 英語?……ここは地球? でも、なぜ? なぜ? と思いながらも、僕は石を握り締め、悲鳴を上げる人々の群れに走った。 もちろん、その人々を襲い、殺すためだ。 なぜ? なぜ、"地球に帰還したはずの僕が"、"異世界での魔族である、有色人種"を攻撃しなければならないのか? 思い出す。 そう。異世界での"魔族と人間との違い"とは、"肌の色"のみであるということ。 僕は思い出していた。 "肌の色の違う者を滅ぼすべく召喚された勇者" それが僕であるのなら……? "魔族"を滅ぼしていたのは、僕の意思ではなかった……? それが、召喚魔法の使用理由で、条件で……呪い、であるのならば? 最悪だ……最悪だ……。 思いながら、僕はまた誰かの首を締める。 涙を流しながら、砂浜に落ちていた鉄のパイプを拾う……。 嘘だ……こんなハズじゃあ……。 思いながら、僕は泣き叫ぶ子供の頭に鉄のパイプを降り落とす。 ありえない……ありえない……。 ガタガタと奥歯が震え、鮮血に濡れた拳がプルプルと震えた。「……あのクソ王と、クソ王女……これが……帰還するための……呪い、なのか?」 考えがまとまらず、推測と憶測と殺意と悪意が心の中で渦巻いた。 どうすれば、この呪いが解ける? まさか……。 世界中のほとんどの国を滅ぼし尽くすまで? 嘘、だろ……? 帰りたい。 いや、帰れる……のか? 脳内で不思議な音と声がした。 かつて――異世界でいつも聞いていたような、そんな、不可思議な声と"音楽"が脳内にこだまする……。 高らかに鳴り響くラッパの音、そして――『レベルが上がりました』 了 本日のオススメ!!! また……岸田教団&THE明星ロケッツす……。 岸田教団&THE明星ロケッツ……新曲アルバムと名盤たち……ちなみにseesはすべて持っています(予約も完了す)。 雑記 お疲れ様です。seesです。 クソ駄文ショート! ヤマなし。 最近のとある米国のニュースと、異世界モノアニメ見て、 2時間の急ピッチで作っただけ。 あかんな、40点。 おまけ作る気にもならなかった。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2020.06.05
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丸山 佳奈(まるやま かな) 享年23歳。初登場は『激昂D』。 制作当時は生贄、もしくは噛ませ犬的役割のキャラ設定。《D》グローバルゲート支店支店長。一般企業でいう"係長"に相当する役職。所属派閥は『岡崎派』。 両親のことはほとんど記憶になく、出身地も不明である。(母親は名古屋の違法風俗店で働き、後に重度の薬物中毒となり、心臓発作により他界した。この事実は澤光太郎しか知らなかった) 性格は良くも悪くも純粋。自分の属する組織こそが"正義"であり、その他の思想は彼女にとって"悪"であり"無関心"である。その思想は幼い頃より澤に英才教育を施された結果であり影響が強い。内心では澤の独身を喜び、生涯澤に尽くすことを人生の目的としていた。一方、岩渕に対しては心証が悪く、表立って敵対することはないものの、ある程度の距離は置いていた(『姫君の~』以前の岩渕は拝金主義であり、やや陰湿かつ陰険な性格であったことが起因している)。 名古屋全域を標的とした爆弾事件で犯人である佐々木亮介と偶然的に遭遇、起動前であった爆弾の入手に成功し、被害を最小限にしようとグローバルゲートを離脱。しかしタイムリミットを迎えてしまい(実際にはこの爆弾は手動による起爆装置だったのだが)、無人の駐車場にて壮絶な爆死を遂げる。 鑑定士・査定士としての知識と能力は高く、岩渕や川澄をも上回る。それは本人の才能と環境によるところが大きく、必ずしも"努力型"の人間ではなかった。また、顧客や同僚と接する場合、他人の性格の機微に対しては若干の苦手意識がある。つまり、簡単に説明すると、『ちょっとだけ空気の読めない女』である。 犯罪・事故・目立ったトラブルの経歴は皆無。それは《D》にとっては異例中の異例であり、周囲からは"異端"異常"奇跡"天才"と言われていたことを彼女は最後まで知らなかった。 容姿もスタイルも幼いが、自身は"成長段階"と思っている。 死後――彼女もまた伏見宮京子との接触によって"転成"を果たすが、その姿、形、意味、事象、能力などは謎が多く、"異端かつ異常"である。 趣味は動画鑑賞。好きな動画は『ヒロシちゃんねる』 好物は焼肉。嫌いなものはサバ、アジ、イワシなどの青魚。 腕時計はSEIKOルキア、綾瀬はるかモデル。 所有車両はなし。――――― 熊谷 正希(くまがい まさき) 年齢は51歳。満を持しての作成。『熊谷』姓は彼のためだけに準備していた名である。(seesにとって重要な"性"は残りひとつ"大野"だが……いつ使うかは不明)《D》総務課本部長。宮間有希の直轄の上司であり、執行役員。澤の希望では『取締役』のポスト就任も可能であったが、本人が辞退した。劇中では役職名を省略して『総務部長』とする場合も多い。 体形はかなり大柄であり、身長は183センチ、体重90キロ。一見すると彼が"社長"のような恰幅である。 性格は心優しく、思慮深く、他者への心遣いも忘れない人格者である。《姫君~》以前から性格のあまり変わらない唯一の人物。《姫君~》以降の岩渕とは気が合うのか、互いに『穏健派』として認識し合い、ふたりで食事に行くなど関係は良好である。 澤社長とは幼馴染みの関係であり、愛知県知多半島の漁師町出身。高校卒業後に名古屋の中小企業に就職し、結婚し、2児を設けるなど平凡的な幸福を謳歌していた。しかし、勤めていた企業が倒産。経営者は運営資金をショートさせると社員たちの給与と退職金を横領し夜逃げした。 再就職先を探している途中で澤と再会、《D》を創設する。 しかし、黎明期の《D》の仕事は熊谷の想像を絶する過酷さであった。近隣の暴力団とのトラブル、外国人マフィアが経営する同業他社との潰し合い、脅迫・恐喝・暴力などを含む悪質なクレーム対応、未熟で粗暴な社員たちの教育など……"一般人"である熊谷にとってはまさに地獄のような日々であった。 趣味は釣り。知多半島に釣り専用の別荘を持つ。 好物は寿司。嫌いなものはグレープフルーツ。 腕時計はIWC(インターナショナルウォッチカンパニー)、スピットファイヤ。 所有車両はソアラ430SCV。――――― 高瀬 瑠美(たかせ るみ) 25歳。初登場は『カーバンクルの箱と鍵と、D!』。 登場は既定路線であったが、名の由来はseesの尊敬する高瀬愛実(たかせめぐみ)氏から姓を拝借、下の名はseesを応援していただいている倉麻るみ子氏から拝借。《D》大須店、副店長。中途採用での即管理職就任は《D》内においてもかなり優秀。大須店支店長の川澄奈央人とは異母兄妹の関係である。 性格は兄に似て計算高く、物事の理解力に優れている。かつて勤めていたホテルグループ《R》では、副社長・広報部長・総務部長という重役を兼任するハイスペック手腕と高い営業能力で《R》を一流企業にまで成長させていた。だが、自分より能力的に劣る男性社員に対しては冷酷かつ冷淡な態度を取り、人事に関しては容易に人々を取捨選択していった(そもそも男性の能力に対するハードルが非常に高く、基準を満たさない者は容赦なく切り捨てていた)。 出身地は名古屋市だが、母親の出生については何も知らない。また、興味もすでに無く、母親とは絶縁状態である。 一時は岩渕、川澄と同居していたが、現在は名古屋市中区のタワーマンションにひとり暮らしをしている。 兄、川澄奈央人と同様――違法行為に関しては非常に意識が低く、顧客や商品を"道具"のように扱い(金銭、人間、商品を状況に関わらず分析し、最適解を求める)、何事に対しても客観的に物事を判断する冷静さを持つ。 反面――人間の計算外の行動・異常な事態に対しての対応に不慣れであり(例えば、誰がが突然号泣したり、酔って暴れるなど)、"臨機応変"を是にしつつも、想定外の事態に遭遇すると軽度のパニック症状に陥る場面もある。 趣味は美容関係全般。いつかは自分のエステサロンを経営したいと計画している。 好きな食べ物はスイーツ全般。嫌いな食べ物はトマト(種)。 腕時計はCHANEL、J12。 所有車両はホンダ NーBOX(車に興味がない)。―――――
2020.05.02
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 短編05 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから―――――注意!! こちらは最終話『後編』となります。前編・中編は短編05こちらからどうぞ。――――― 10月10日――午後17時。「……随分と、落ち着いてるんですね? 意外でした」 横目に私の顔を見つめながら川澄奈央人が言い、宮間有希が「確かにね……ビービー泣いて取り乱すのかと思ったわ」と不思議そうに言った。 伏見宮京子は『そんなことはありませんっ!』と怒鳴ろうとした。だが、口をパクパクさせただけで言葉にすることができなかった。 ……本心であるはずなのに。本当に心の底から、ふたりの戦いを止めたいと願っているはずなのに……どうしてだろう? たぶん……澤社長から岩渕さんに対する殺意、のようなものを感じないからだ。 だから……かな? 《D》の面々も、似たような心境なのかもしれない……。 ふたりを止めてはいけない、そんな不文律が、そんな暗黙の了解じみた空気が、その場を支配していることに、京子は気がついた。 そう――。 その場にいる《D》と《F》の人々は、ふたりの男が決着を迎えようとするその瞬間を、ただ、ただ黙って見つめていた。「……なぜ、人は争うのか……なぜ、人は自分だけが正しいと信じるのか……」 伏見宮京子は誰にともなく呟き、目を細めて辺りを見まわす。それから……彼らの交わす言葉に耳を澄ました。「……ガキ、最終警告だ。拳を下ろして目を閉じろ……それで、お前への処分はナシにしてやってもエエわ……」「……俺は、アンタのガキ……じゃない……言ったろ? ……アンタは、間違っている」 澤は沈黙した。 ただ――激しい呼吸を繰り返し、血と汗とホコリまみれの顔を苦痛に歪める岩渕の顔を……ただ――黙って見つめていた……。 澤光太郎……やはり、一筋縄ではいかないな。 ふと、京子は、愛する男の頬に触れる感触を思い出した。頼りなげで、儚げで、それでいてとても優しく……とても愛しい。どうしようもなく――……そう、どうしようもなく愛おしい男の肌の感触を――。 殴り合うふたりの男の顔を見つめ、指に嵌めた《カーバンクルの指輪》をいとおしむように撫でながら、京子はそっと唇をなめた。 その時だった。 その時、京子の心の中に、突然、例えようのない黒い霧がふつふつと昇り上がって来た。 ああ。 与えたい――。 岩渕に対する無償の愛。富と名声も、もちろん私自身も含めて――彼になら私のすべてを捧げても良いと思えた。……たとえ、その裏でいつ、どこで、誰が不幸になろうと構わないとさえ思える。 そう。 私だけを愛してくれるのなら……後のことなどもう、後の世界のことなど……一切合切、私の知ったことではないのだから……。 そして――京子は、ついに心を決めた。 欲しい。 ああ……欲しい。 すべてだ。こいつらのすべてが、欲しい……。 そう……《D》を私のものにする。 もう一度、京子は唇を舐めた。今、ルージュもグロスも塗っていないこの唇で、岩渕の傷口を舐めたらどんな味がするのだろう? "伏見宮京子"がそんな破廉恥な考えを抱いているなど、誰も想像すらしていないのだろう。そう思うと、そう思うだけで――……私は、心の中でクスクスと笑っていた。――――― 既に、岩渕の肉体は限界を迎えようとしていた。殴られ蹴られ倒されて内出血を起こしかけていた肺が酸素を求めて悶え、震えるように、折れた肋骨が暴れ狂った内臓は回復を求めて激痛を走らせていた。『立て』という命令を1秒ごとに送り続けなければ、脚や腕はその動きを止めてしまいそうだった。「……もう限界なンやろ? 岩渕、無理すンなや」 自分の激しい息遣いの向こうに、岩渕は澤の声を聞いた。「"聖女"も宇津木も《F》も、お前にとっては他人やろ? いったい、なぜだ? 理由がわからンな。俺様の行動が間違いだと言いたい気持ちも……今はなンとなくわかるが……それでも、納得はしてやれねえな……正義感か? それとも、そこの"姫"にイイ顔でもしたいだけか?」 だが岩渕は、無言で立ち続け、なおも拳を握り続けた。まるで自分ではなく、自分の中に住む、とてつもなく強い何かの意思が、岩渕の肉体を支配し、それに"動かされている"かのようだった。 岩渕は、いや、岩渕と彼の意志を支えている"何か"は――自分が本当に"助けなくてはならない人物"のことを思い出していた。 そいつは強かった。そして、その強さに、岩渕は憧れた。 そいつは岩渕を便利な道具に仕立てるため、厳しく辛い教育を施そうとした。そいつにはそいつの目的があったからだ。 どんなに辛い仕事でも持ちこたえられるように、どんなに厳しい現実でも決して絶望しないように……そいつ自身も深い悲しみと過去を背負っているのにも関わらず、そいつは数多くの若者を厳しく育てた。 そいつは、たとえ、自分が憎まれていたとしても気にはしなかった。自分が他人になんと思われようが構わなかった。結果――多くの若者が精神的な成長を遂げ、社会という闇や光に順応できるようになっていた……。 そう。 岩渕が立ち、走り、歩き、考え、知り、生きているのは、澤光太郎のおかげだった。「……俺は、アンタを救いたいだけなんだ……澤さん……」 澤は何も言わなかった。岩渕はもはや口のきける状態ではなかった。ただ、岩渕の脚を奮い立たせ、彼の願望を叶えさせたいと祈る"何か"は――ボロボロに果てた岩渕の体を、半ば強引に維持させていた。――そのことは、岩渕自身、知る由もなかった。「……見てられねえんだよ。アンタが……そうやって暴れ狂っている姿なんざ……《D》の誰も、見たくはねえんだ……」――――― 永遠にも思われた戦いの果てで、男が「……目を覚まして……くれ」と呟き、静かに、膝を崩して倒れる光景を――澤光太郎は見た。「……バカ野郎が、目ならとうに覚めてンだよ……好き放題イイやがって、畜生が」「岩渕さんっ!」 離れた場所から若い女の悲鳴が上がった。……いや、それは悲鳴というより――何か、新しい玩具を与えられた子供のような、狂喜じみた悲鳴だった。 伏見宮京子……これがコイツの本性ってワケか。澤は心の中でそう思ったが、もちろん、口に出すことはしなかった。 "聖地"に響く岩渕の激しい息遣いをしばらく聞いてから、澤は岩渕の肩を抱いて芝生に寝かせた。それから償いのつもりで、内ポケットに入っていたハンカチで岩渕の顔を拭った。激しく喘いでいた男の呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻したのがわかった。「……《F》の今後については、お前に一任する……もちろん、何もかもすべてってワケにはいかねえが……今回のケンカ……引き分けにしてやるわ」 その言葉に岩渕は目を見開き、澤の目を強く見つめた。「……申し訳、ありません」 未だ荒々しい呼吸の合間に岩渕が言った。「……でも……どうして? ……倒れたのは俺なのに……どうして……ですか?」「……簡単なことや……負けていたのは、俺様だったから……やな」「……?」 岩渕は何も理解していないようだった。澤はただ、説明は難しいなと思い、背後に佇む少女の姿をした"何か"の顔を、ただ静かに見つめ返すだけだった。 本当は少女の姿をビデオに録画したり、写真にして残しておきたかった。もし聞こえるのなら、少女の声を録音しておきたかった。だがそんなことには、今は何の意味もなかった。たとえそれをしたとしても、他人には絶対に理解してはもらえないのだから。 ――今回の件、お前にとっちゃあ不満かもしれねえが……俺と岩渕に免じて、勘弁してやってくれねえか? 少女の姿をした"何か"は――最初は怒ったような顔をして……困ったような顔をして……次に呆れたような顔をして……最後に―― ――『……またね……サワのおじちゃん……』 優しく微笑みながら……少しずつ、少しずつ、空気に溶け込むように、消えていった。 ……どこからともなく湧いて出るクソ、《D》をハメようと画策するクズ、プライドばかりが肥大する社員たち、団結しているようでしていない《D》のバカ共、自覚の薄いワガママ姫、反抗ばかりするクソガキ、自分勝手で暴力的な社長――……。 はぁ……難儀な会社になっちまったなあ……《D》は。「……俺は、クビですか?」 片腕で両目を覆い、涙ぐみながら岩渕が言うと、澤は笑った。「うるせえぞクソガキが、お前らは"俺様のガキ"なンだから、いらンこと心配すンな……」 岩渕はそれ以上何も言わなかった。ただ、ふたりで――大声を出しながら駆け寄ってくる《D》の人々の姿を見つめるだけだった。 ――――― 10月20日――。 《宗教法人団体フィラーハ》は同日付での解散を発表した。《宗教法人団体フィラーハ》こと《F》に所属する人数は100名を超えていたが、そのすべての人間が解散に同意した。 10月以降に発生した《D》と《F》の2組織間における金銭トラブル・暴力事件・児童誘拐などの事件では、何人もの人々が犯行に関与した。 愛知県豊田市茶臼岳の山腹にある《F》の本拠地では、《F》の信徒と《D》の社員による大規模な乱闘事件が発生し、80名を超える者が重軽傷を負った。 だが、《F》の代表である宇津木聖一と、《D》代表取締役である澤光太郎は、司法への最低限の報告以外をすべて黙殺する方針を互いに決めた。 宇津木聖一が《D》に求める条件として、 1.《F》及び元構成員への接触を禁ずる。 2.慰謝料・治療費・賠償金など、互いの金銭の要求・受領を禁ずる。 3."見舞い金"としての金銭5000万円の要求。 とのことだった。 澤光太郎が《F》に求める条件として、 1.《D》に関係するすべての人物への接触を禁ずる。 2.《F》の構成員、及び元構成員の愛知県外への移住。 3.特定の人物の身柄の譲渡。 以上が提示された。 茶臼岳の乱闘事件から3日後の13日には、代表者2名による最初で最後の会談が実現し、合意に至る。ここで、《F》と《D》の示談が成立した。《F》の人々にとって、《D》の襲撃は到底受け入れ難い行為ではあったものの、その後、代表である宇津木とその娘であるヒカルによって、治療費の全額負担と、再就職、新たな住居の手配、経費の負担などが約束された。幸い、後遺症の残るケガを負った者は皆無であり、何より、ヒカルの無事が約束されたことに、《F》の人々は喜んだ。 一方で、多額の損害を被った《D》の代表である澤は、損害と経費の賠償に川澄奈央人の隠し財産を宛てた。澤の「……お前が裏で宇津木とつるンでたのは知ってるンや」という詰問に対して、自分が一部宇津木と結託してシナリオを作っていたことを認めた上で、「そもそも僕がいなけりゃ、姫様だって何されてたかわかったもんじゃない。嘘でしょ?勘弁してくださいよ、社長……」と言った。《F》に強奪された1億の半分近くを、《D》に没収される形にはなったが、本人は涙を見せるようなことはなく、「まぁ、必要経費だと思えば安いものか」とうそぶいているという。―――――《D》代表取締役社長の男は、目を細めて田中陽次を見つめた。それから「澤だ」と名乗って右手を突き出した。 田中は男の小さな目を見つめ返し、その右手を握り締めようとした。だが、できなかった。田中は会議室のような場所で、安っぽいパイプのイスに座らされ、両手を背後で縛られていたのだ。空気にホコリが混じり、暗く、冷たい部屋だった。「……気分はどうや?」 アゴを手でさすりながら澤が言った。澤の後ろには黒いスーツを着た男女が3人いて、敵意を剥き出しにした目で田中を見つめている。黒いスーツのうちのひとりは恰幅の良い体形の中年男で、ひとりは腕を組んでいる。もうひとりは口元に白い大きなマスクをしていた。間違いなかった。ひとりは宮間有希、あの女に間違いなかった。「田中さん……今日は、アンタに質問したくてここに呼んだンだ」 腕を引っ込めた後で、澤は上着のポケットから、A4の紙束を2冊取り出した。それは、とある"動物"のイラストと、外国語らしき文字がびっしりと書き綴られていた。「てめえ……宮間ぁ……どういうつもりだ? ああっ?」 田中陽次は澤の背後に立つ宮間の顔を睨み、息を飲んだ。それから、恐る恐る視線を戻し、澤の目を見つめた。「ねえ、マグロとカニ、田中さんはどっちが好き?」 宮間が言い、澤が言う。「お前がコケにした時計3本、"3億"返済の長い旅や。特別に、選ばせてやるワ。ロシアでカニ捕るか、メキシコでマグロ釣るか……どっちがいい?」 田中はうっすらと涙を浮かべ、強く唇を噛んだ。「……許して……くれえ……お願い……です……家も車も売ります……貯金も、投資信託も解約、します……株式も……何もかも売って……必ず……お支払い、しますからぁ……」 呻きながら田中は言った。それから――、 全身に戦慄が走り――凄まじい恐怖に顔を歪めた。「……悪いな。"《D》の女たち"が、お前を『島流し』にしろってうるさいンだよ……お前みたいな外道は、『この街に不要』なンだと……だからまぁ、海外行って、死ンでくれや」――――― 11月10日――。 松葉杖を携えた宇津木とヒカルが、大ケガを負った岩渕誠の入院する名大病院の病室を訪ねて来た。「岩渕さん……ご無沙汰しています」 そう言って男女はペコリと頭を下げた。 ヒカルは今後、宇津木の経営する企業にOLとして就職するという報告を受けた。1週間ほど前、宇津木と岩渕で協議した結果、《F》は名前と形を変え、長野県の福祉施設の経営を始める予定だ。社員・従業員は元《F》の信徒たちをそのまま雇用するらしい。 資本金は宇津木が用意していた。そのことを宇津木に再確認すると、彼は『私の資産も、これで打ち止めですよ』と言って笑った。 別に《F》全員の生活の面倒は見なくても良いのでは? とも思ったが、ヒカルのたっての願いということもあり、結果――宇津木は全財産を《F》のために使った。かつて経営していたファンド会社、資産運用の会社もすべて、自主廃業したらしい。「本当に……何て、お礼を言ったらいいのか……」 ヒカルはそう言って、岩渕の座るベッドの前で再び深く頭を下げた。「あの時、澤社長を止めて下さらなければ……私たちは、死んでいたかもしれません……」 岩渕は女の肩を抱き、頭を上げるよう促した。「……見えないところで、社長も《D》のみんなも、《F》への暴力にはそれなりの手加減をしていたみたいだし……宇津木さん、アンタと俺だけは別だけどな」 岩渕は軽く笑いながら、苦笑いをする宇津木の顔を見つめた。「本当ですね」「体調は? もう退院したんだろ?」「おかげ様で……完治はまだまだ先ですが、会社の整理は終わりそうです。岩渕様とツカサ様、澤様には……本当にご迷惑をおかけして……これからは、娘とふたり、一生懸命生きてみたいと思います……」 宇津木の言葉にヒカルが嬉しそうに笑った。 岩渕はヒカルの手をしっかりと握り締める。彼女の体温で胸が熱くなる。彼女の隣では、宇津木聖一が目を細めてふたりの握手を見つめていた。「……結局、フィラーハ様、ていうのは、何だったんだ?」 岩渕がそう言い、宇津木が、「……日本の歴史上、この神の名が使われていた形跡は皆無でした……おそらくは、権力者によって政治的に利用された密教のひとつ……利用されるだけされて捨てられた……そんなところでしょう……」と言ってヒカルのほうに顔を向ける。「私は……母から娘への愛、死後も誰かを見守り続けたい、忘れないでいて欲しい、そんな人々の願いの込められた教え、だと思います……いえ、信じたいです」 目を潤ませてヒカルが言う。「母は最期に、あなたが助けに来てくれることを教えてくれました……岩渕さん、私は、あなたのことを忘れません」 岩渕は無言で首を振り、もう一度、ふたりと固い握手を交わした。 心の中で、『こっちは忘れちまいそうだがな』とふたりに言う。 そう。 澤社長の誕生日の件、宮間の俳句の優勝パーティの件、経団連の"噛む"レセプションパーティへの参加、新規オープンするハイブランド店への挨拶回り……。 ……仕事と悩みが山積みだ。岩渕は思った。 ふたりを見送り、病室の窓の外を眺める もし神様がいるとしたら……俺にとっては"女神様"になるのかな? 自分で考えておきながら、自分の考えが少しだけ恥ずかしくなり――岩渕は照れくさく微笑んだ。 窓からの秋風が、病室のカーテンを微かに揺らす……。――――― 最終回オススメはもちろん? sees大好き『女王蜂』様……。 女王蜂……。 4人組バンド。それぞれが性別年齢非公開w ボーカルはアヴちゃん、こと薔薇園アヴ。ベースのやしちゃん。ドラムのルリちゃん。ギターのひばりくん。 ボーカルのアヴちゃん中心のディスコ風ロックの曲調。それにしても……メインのアヴちゃんの声域の広さ・声量の凄さは特筆。幅が広く、丁寧、そしてどこか物悲しい……。 歌詞は厨二的で切なく、セクシー、破滅的なものが多く、独特の世界観は腐女や腐男に大うけ。海外でも全然イケると思うけどな……。 それにしてもアヴちゃんは美しい……あの狂気じみたヴィジュアルとパフォーマンス、すぐに好きになりました。 いいねいいね……ゾクゾクするぅぅ。 雑記 お疲れ様です、seesです。 最初に言い訳をいくつか。 最終話、更新大幅に遅れてすみません。いやね、もうホント大変でした。「さーて作るどー」のタイミングで志村けん師匠の急死……泣きながら過ごしているうちに数日たち、なかなかダメージが深く、立ち直るのに苦労しました。 seesの勤める会社でもコロナ騒ぎがあり、もう大変……。実際はインフルを患った若手社員がいて、そやつが顧客に吹聴してしまってネットに情報漏洩……クレーム案件で社長激オコ(# ゚Д゚)……とんでもなく社内が荒れた日々がありまして……。 そして最終話、いかがでしたかね? 最終話は豪華版として4話ほどまとめ更新しようかとも考えましたが、すまんです。結局我慢もできず、中途半端なタイミングで順次公開の流れになりました( ;∀;)ア~ア 今回の話の総括ですが、結局、seesは澤さん大好きってことでまとまりました💦💦💦最終話『中』の話がすべてです。それまでの川澄氏の行動や、Fのなんちゃらかんちゃらなど、実際はどうでもいいことなのです。ただ物語の構成上、仮想敵、みたいなくくりでのキャラ設定が欲しかっただけ(#^.^#)テヘヘ 方向性としては、やはり京子様のひとりだち(キャラ立ち)を最優先として、キャラクターたちにバンバン個性を与えていきたいな~みたいなww 今後は京子様の2面性と、Dの総務部長こと熊谷部長、生贄役として若手を何人か作ろうかと……ということで……次回は……。まあ、⇩見ればわかるかなww しばらくお休みしていたショートショートも何本か作ろうかなと考えていますので、次のDはその後かな……。 何にせよ、コロナ、早く終わらないかな……微力ですが、seesも世界平和を祈ります。 私、seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いた します。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『コロパニック』sees 「『ずっまよ』のコンサート……延期だった……』」後輩 「えーーっ! seesさん、チケット取るんだ―って騒いでましたよねw」sees 「うん……エメさんも、ポルカも、ヨルシカも、コンサート延期やら、中止って……」後輩 「うわあ……最悪すね」sees 「ホンマやで……好きな人に会いに行けないのは……つらひ( ;∀;)」後輩 「……(きもいな)」―――――sees 「マスク、もうないアル……後輩ちゃんは?」後輩 「昨日――アオキスーパーの開店並んで買いました。って言っても20枚ほどだけど」sees 「……洗ってもいいのかな?」後輩 「イイとは思いますけど、先輩、アルコール液とかは持ってます?」sees 「ないけど……会社の備品、少しだけパクってもいいのかな?」後輩 「……(ダメだコイツ)」―――――sees 「トイレ紙はまだ余裕あるけど……箱ティッシュが、もう残り少ない、どうしよう」後輩 「(うぜえな)……うーん、子供用のポケットティッシュなら、まだ薬局にあったよ」sees 「えー……できれば鼻セレブ使いたい……」後輩 「はあ? 何を贅沢いってんすか? 来週には大量に入荷するって世間は言ってますよ?」sees 「うう……もうダメだ……ワシは、もう、ダメだ……殺して……」後輩 「う……(唐突にメンヘラ? マジでキモいな……)」 (だいぶ前に作ったオマケ、今はもう大丈夫)(#^.^#)―――――sees 「いっそコロなりたい……コロなりたい……そしたら2週間の有給確定……ああコロ なりたいコロなりたいコロなりたい……ブツブツ」後輩 「ww(壊れたww)。有給なんてダメに決まってんじゃないスか~(# ゚Д゚)」sees 「そんなことないもんっ! ウチ、コロなって休むもんっ! 給料もらったまま、病院 で隔離されるんだいっ! (そしたらいっぱいブログ更新するゾ(*´σー`)エヘヘ)」後輩 「……これが、"疲れた現代人"のホンネか……」 3月に作ったオマケ部分。現在では、心境も全然違います。 これは国難です。早期の収束を願います……。 🌬了🤧 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング ――――― 岩渕の病室を出たヒカルは、ナースセンターの前のラウンジに座る伏見宮京子の元へと向かった。 岩渕への別れの挨拶の際――別に彼女が同席していても良かったはずだった。けれど、京子はここで待つと固辞した。何か気を使うことでもあったのだろうか?「……私は少し、川澄様と会う予定がある。ヒカルも最後に、京子様と挨拶してきなさい。終わったら……病院の入口で待ち合わせよう……」 ヒカルの返事を待たずに、宇津木はエレベーターに乗って行ってしまった。 ……お話があるなら、岩渕さんの病室ですれば良かったのに。 そんなことを思いながら、ヒカルはナースセンターに向かった。そして、ひとり静かに何かの本を読みふける京子の前に立った。 伏見宮京子はとても上機嫌のように見えた。朗らかで、嬉しそうで、ヒカルの言葉ひとつひとつに丁寧に対応し、眩しいくらいの笑顔を向けた。本当にキレイな人だ。ヒカルは思った。真剣な顔は人形のように美しく、くだけた表情はアイドルのように可愛らしかった。顔は小さく、瞳は大きかった。背は高いとは言えないが、上品な佇まいは存在感をより大きく見せていた。後で聞いた話によれば、岩渕さんとは互いに想い合っているらしい。「ねえ……ヒカルさん、ちょっと、いい?」 しばらく世間話をしてから、京子はヒカルをナースセンターの奥へと誘った。「えっ? ここは関係者以外の人は……」「ああ……ちょっと"機械"を使わせてもらうだけだから……婦長さんにも許可はいただいてますから……」 京子はヒカルの手を取ってナースセンターの奥へと歩き、様々な医療器具や書類や本やコピー用紙やコピー機が乱雑に置かれている一角へと入った。「……京子様、いったい、ここで何を?」「えーと……ヒカルさんにはお願いしたいことがあるんです」 京子が屈託のない笑顔を向けて話すので、ヒカルもまた、ぎこちなく微笑んで彼女の顔を見つめ返した。これまで彼女にしてきたことを考えると、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。 その時―― 京子が次の言葉を発した、その時―― ヒカルは―― 凍りついた。「この、"神託"――でしたかね? このノート、そこのシュレッダーで切り刻んで下さい」 ジジジジジジジジジジジ……。 その裁断機は、ヒカルのすぐ目の前で、無機質な音を規則的に流し続けた。「な、何で……姫様が、それを?」 そう。ヒカルが何年もの間書き綴った――母の愛と、母への愛が詰まった――そして、京子がラウンジで読んでいて――今、まさにシュレッダーの入口へとセットされたものは――紛れもなく、フィラーハ様の"神託"のノート、そのものだった。「私がコレをどこでどう手に入れようと、別にどうでもいいことじゃあないですか……」 京子は微笑んだ。 ジジジジジジジジジジジ……。「……澤社長や岩渕さんから処分を命じられたわけではないのでしょうけど……ヒカルさんにはもう、コレ、不要、なんですよね?」「――ひっ」 小さい悲鳴を上げてヒカルは後ずさった。その瞬間、京子の冷たい手がヒカルの華奢な手首を掴んだ。「《F》はもう終わったんですよね? 滅びたのですよね? フィラーハ、とかいう――"神様もどき"は、死んでしまったんですよね? なら、最後の介錯は、"聖女"である楢本ヒカルさん……あなたにしてもらった方が幸せじゃなくて?」 ジジジジジジジジジジジ……。 ジジジジジジジジジジジ……。 ジジジジジジジジジジジ……。「そんな……いやっ……いやです……許して……京子、様……」 もはや悲鳴は出なかった。ただ、脚が震え、瞳から涙がポロポロと流れただけだった。 ジジジジジジジジジジジ……。「他の"神託"は既に燃やして灰にしました。ふふふ……お庭で"焼き芋"をしたなんて、子供の頃以来でとっても楽しかったですよ……」 ジジジジジジジジジジジ……。「……ほら、後は、ノートを少しだけ機械の奥に押し込むだけですよ? それで、《F》の消滅を認めます。それだけで、私は《F》のすべてを許します、よ?」 京子がニッコリと微笑み、冷たく、湿った手でヒカルの手首をシュレッダーに近づける。信じられないほどの強い力で腕が引かれ、"神託"の端に掌が触れる。 ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ……。 もう、逃れる方法はなかった……。 あまりの恐怖に、ヒカルは息をするのも忘れた。 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……。 かつて、私に、『伏見宮京子を殺せ』 と命じた声が――『畜生っ! 貴様、絶対に殺してやるっ! 絶対にっ殺すっ!』 と怨嗟を誓い――『助けて……お願いだぁぁ……死にたくないぃ、死にたくないぃ……』 と慈悲を媚び――『やめてっ! やめてーっ! あああああああーっ……』 と凄絶な悲鳴を上げ――『ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ……』 と、断末魔の悲鳴を上げるのを――ヒカルは聞いた、聞き続けた……。 もはやヒカルは何も思わなかった。何も考えなかった。ただ、フィラーハ様という存在は、死んだのではなく――伏見宮京子に殺された、ということだけはわかった。 やがて……"神託"は紙1枚残らず切り刻まれ、やがて、糞尿の付いたオムツや髪の毛や、生ゴミやお菓子の食べカスや、使用済みの検尿カップやボロボロになった雑巾や、破れた手袋や靴下や下着と一緒になって1枚数円の廉価なポリ袋に放り込まれ、ヒカルが"聖女"であった証も、かつて《F》の"神"であった歴史すらも――ゴミのように廃棄された。 そして……"ただの人"となったヒカルの前から、永遠に消滅した……。「宗教戦争における敗北は、"神の死"あるのみ……あぁ、おかげ様でスッキリしました。……では、ヒカルさん、ごきげんよう」 呆然自失するヒカルの前を通り過ぎ、京子は高らかに笑いながら、岩渕の病室へ向かって歩きはじめた……。――――― 澤光太郎、岩渕誠、宮間有希、鮫島恭平に引き続き、宇津木聖一は"川澄奈央人"の素性を調べるため、個人的に交友のあった探偵社に調査を依頼した。依頼を引き受けた調査員の男は、その多額の報酬に驚いたものの、喜んで調査を開始した。 数日後のことだった。宇津木がいつものように事務所で仕事をこなしていると、調査を依頼した探偵社から小包が届いた。さらに探偵社から手紙と思われる封筒が一冊届いていた。小包と一緒に送ればいいだけのこと、にも関わらず、である。 不審に思いつつも、宇津木は小包を開けた。 瞬間、宇津木は震えあがった。 小包に入っていたのは、調査を依頼した探偵社の社長の"名刺を握った手首"と、実際に調査を行っていた若手社員の"名刺を握った手首"だったのだ。生身の、人間の、手首――宇津木はすぐに探偵社に電話を入れたが、返答は要領を得なかった。『社長と彼とは、ここ数日、連絡が一切取れない』『あなたはどこの誰ですか?』"川澄奈央人"のことを話したのはふたりだけ、そのふたりが行方不明となり、そのふたりのものらしき手首が宇津木の目の前に届けられたこと――。わけがわからなかった。その"川澄"がここまでの危険人物だとは想像だにしていなかった。 宇津木は恐怖にうち震えながら、届けられたもうひとつの封筒に手を伸ばした。封筒の中身は便箋が1枚だけ入っていた。『電話を待つ』 それだけだった。手紙の中身は短い文章と、携帯電話と思われる数字の列だけだった。 無意識に宇津木は顔を強ばらせた。 無意識。そう。無意識に、宇津木は自身の防衛本能が「電話しなければ死ぬ」と信号を発したのを感じた。このメッセージを無視すれば、自分は死ぬ――。必ず、死ぬ。必ず、殺される。 しばらくためらったあとで、宇津木はデスクの上の携帯電話に手を伸ばした。指が猛烈に震えていた。「……あなたは、誰ですか?」 小さな電話を握り締めて言う。 数秒の沈黙があった。それから……耳に無機質で機械的な声が届いた。『……なぜ、"川澄奈央人"を調べる?』 相手は、何らかの機械で声質を変えているらしかった。「なぜって……あなたは"川澄奈央人"本人ではないのですか?」 痛いほど強く電話を握り締めて言う。心臓が痛いくらいに高鳴っている。 電話の向こうの相手は、少しだけ困ったような声を出した。『……"川澄奈央人"は死んでいる……私が殺した……20年以上の、昔だ……』 その声には抑揚がなく、ひどく聞き取りにくかった。「殺した? 私の知る川澄とは……別人、ということですか?」 宇津木が聞き、電話の相手が『川澄家……3流ジャーナリストのくせに……もう……あの赤子が……奈央人……殺した……一家全員……始末したはずなのに……』「……川澄奈央人さんなら、生きていますよ?」 電話の相手が、『それはありえない』と応えた。「それじゃあ……どういう……」『そうか……戸籍売買か……そうかそうか……子供の名前だけでも残したか……』「わけがわからないっ! 私は関係ないぞっ!」 ついに宇津木は叫び声を上げ、自分でも驚くぐらいに体を震わせた。『……"川澄"は偽名だ……カネで買った戸籍だ……うかつだった……まさか、"その後"のことで私の平穏が乱されるとは……杞憂で……良かったな? 宇津木……』 電話の向こうで相手が笑った。確かに、笑った。「……私を、どうする気だ?」『別に……名だけを名乗るだけなら問題ない……ただ――私のことを知ろうとするな……知ろうとするのなら……殺す……お前も、娘も……誰ひとり残さず……死んでもらう』 相手はどことなく、安堵した口調だった。「……わ、わかった」 助かったと思いながらも、宇津木の声は震えたままだった。『"川澄奈央人"に伝えろ……"空中庭園"は私のモノだ……庭園も、財宝も、何もかも、すべて……お前も、川澄ハヤト……川澄ナナ……川澄ハルカ……そして、川澄ナオト、アイツら家族のように……"庭園の肥やし"になりたくはないだろう? とな』 電話が切れた。―――――「……以上だ。だから――私は計画を極端に早めた。ここには……この名古屋の地には、もう1秒だって居たくはない……いや、居られないのだ」 宇津木の報告を聞き終わり、呆然と宙を見つめる。……なるほどね。「……川澄様も、いや――偽名でしたね……できるなら、あなたたち《D》とは金輪際、関わり合いたくはない……私も、娘を守りたいのだ……」 川澄の反応を待たず、宇津木は松葉杖を脇に回し、振り向かずに歩き出した。呼び止める気は起きなかった。聞きたいこと、確認したいことは聞き終えた。 そう。川澄は知りたかった、ただそれだけのことだった。 宇津木がカネにモノを言わせて"僕"を調査できる限界――。 僕個人の情報の漏洩具合――。 "川澄奈央人"の戸籍(父親からは浮浪者から買い取ったと聞いていた)のルーツ。 まさか、僕の父親に戸籍を売った後、一家皆殺しにされていたとはね……。 おそらく――川澄の父親は自分以外の家族が殺害された後、しばらくは名古屋の浮浪者として身を隠すが発見され――何らかの情報の秘匿を口実に始末されたってところか……怖いねえ……あー怖い怖い。 怖かった。 怖かったし、恐ろしかった。何より、相手の正体が何も掴めず、性別すらも不明だった。 でも……。 でも……。《空中庭園》と、その財宝か……イイねえ。最高にワクワクするよ……あはは……。 興味深かった。 そして何より、カネの匂いがした。 莫大で――数えるのもバカバカしくなるくらいのカネの匂い……。 かぐわしく、芳醇で、妖艶で、悪魔的な魅力のある香り……。 「これは、ぜひともご相伴にあずかりたいですねえ……当然、アンタもそう思うだろ?」 興奮に顔を歪めながら、川澄は岩渕の待つ病室へ歩く。「……僕たち、友達でしょ? なら、手伝ってもらいましょうか……岩渕さん……」 川澄は舌で唇をなめ、静かに微笑む。 どこからか吹く秋風が、川澄のスーツと髪を微かに揺らす……。 了
2020.05.01
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 短編05 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから―――――注意! これは《中編》です。《前編》含むあらすじは短編05からどうぞ。――――― 10月10日――午後16時。 楢本ヒカルは"聖地"の入口に佇んで、その向こうに広がる景色を眺めていた。 ……ああっ、そんなっ……信じられない。こんなこと……信じられない。 広大な芝生の中央では、何十人もの人々が倒れて地に伏せている。男も女も年齢も関係ない。泣き叫ぶ子供もいれば、ピクリとも動かない老婆もいる。そのさらに中心には、鉄の棒を持ち、黒いスーツを着た集団がいた。 ヒカルが駆け寄ろうとする直前に、それを察知したかのように――隣に立つ男が彼女の腕を掴んだ。腕から背、背から脳へ、冷たい戦慄が走り抜けた。「……忠告はする。ヤメておけ」 確か――鮫島とか呼ばれていた男は、振り向いた女の目を見て力を強めた。「あそこに行けば、お前は死ぬ。お前の周りも死ぬ……諦めろ」「そんな……それじゃあ……誰も……」 ヒカルは既に泣いていた。温かい涙がとめどなく流れ落ち、頬や首筋を伝って肌を濡らし、激しい吐き気が胸を襲った。 見られたくはなかった。鮫島にも、川澄にも、宮間とかいう女にも、京子様に対してもさえ――見られたくはなかった。見られたくはなかったのに、涙が止まらなくなっていた。「……別にいいんじゃないスか? 死ぬワケじゃあないんでしょ?」 まるで私に"生贄"になれと言わんばかりの口調で川澄が言う。この男の考えていることだけは本当にわからないことばかりだ。「お前は黙っていろ……川澄。……アンタも、変な気は起こさないほうがいい。"アレ"は……危険だ」 鮫島が繰り返した。「でもっ……でもっ……」 恐怖に震えながらヒカルは身をよじり、男の腕を振り払おうとした。田中にロープで縛られた痕がヒリヒリと痛んだ。「あーあっ、早く助けに行かないとー……宇津木さんが死んじゃうなあーっ」 わざとらしく発せられた川澄の声に、ヒカルの心臓が激しく高鳴った。 宇津木さんっ! いてもたってもいられなかった。ヒカルは制止する鮫島の腕を振りほどいた。一瞬だけ息が止まり、一瞬だけ躊躇する。だが、次の瞬間にはもう、呼吸を再開させ、肺に思いっきり空気を吸うと同時に――走り出した。「ああっ……今、行くわ……宇津木さん、宇津木さぁん……父さん」 どんな理由や理屈があったとしても……ずっと傍にいてくれた。ずっと助けてくれていた。ヒカルが走る理由は、それだけで十分だった。そう思うと、また涙が滲んだ。「……ッ、知らねえぞ」 背後から鮫島の声が聞こえ、直後に川澄が笑った。「さあ、みんなで見に行きましょうか……この物語の決着を……」――――― 澤光太郎の記憶の中の母はいつも疲れたような顔をしていた。そう。目を閉じると今も、疲れて溜め息をつく母の姿が浮かんでくる。「母ちゃん、疲れているの?」 ずっとずっと昔――澤は母にそう聞いたことがあった。すると母は、「あのね……うち、父ちゃんも母ちゃんもね……」と言ってしばらく何かを考えていた後で、「……騙されて、お金を取られて、貧乏して、悲しいの……イヤだね、貧乏って……アハハ……」と言って、疲れたような笑みを浮かべた。 その瞬間からだ。 その瞬間から、澤は幼心に決めたことができた。 ……人生とは、バレなければ何をしてもいい。強盗でも、放火でも、殺人さえも、世間に発覚しなければ何をしてもいい、と思った。 だが、許せないこともある。 それは――……「……ようやく来やがったか、クソったれ野郎が……」 弱者を嘲り、自分が強者と勘違いする者―― 弱者をいたぶり、ほくそ笑む者―― 弱者を騙し、カネを得る者―― それだけは、絶対にっ、許せなかった。――――― 手の甲で頬に伝わる涙を拭い、足をフラつかせながらヒカルは駆けた。そして、宇津木のそばに――顔じゅうに青アザができ、口からおびただしい量の血を吐き、逆方向に骨が曲がった手足や指を大の字に広げた格好で地面に倒れた宇津木のそばに歩み寄った。「……ヒカル、様」 "聖女"を見上げ、宇津木が呻いた。「"様"はもういらないっ! いらないんだよっ! だからっ!」 膝を崩しながらヒカルは叫んだ。「死なないでっ! 父さんっ!」 涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、ヒカルは叫び続けた。「何で言ってくれなかったのっ? 何で私なんかのためにっ! どうしてっ?」「……お前の母さんとの約束なんだ……楢本家は代々、"そういうもの"らしい……だから、済まなかった……」 囁くように言って宇津木は目を閉じた。そして、ヒカルは宇津木の首に腕を伸ばし、しっかりと抱き締めた。「俺様を無視するなンざ、エエ度胸しとるなあ? クソ女……」 中年の男の野太い声がし、辺りを見回すと、そこには大勢の人々がいた。時間は夕暮れ、景色はオレンジ色に染まり、人々の顔には影が差し、誰が誰かはわからなかった。 ヒカルは影の差す人々の顔をのぞき込んだ。そこには――同じような黒いスーツを着て、彼女と宇津木を取り囲むように立ち並び――怒りと軽蔑の眼差しを向ける男女の顔が無数にあるように見えた。 怖い。 信じ難い恐怖に、ヒカルの体は硬直した。 人と人との間に見える向こうに、倒れて動かない別の人々が見えた。芝生の上に倒れて いるのは大人だけではなく、老人や子供もいる。学生らしき制服を着た若い少年や、妊婦 らしきお腹の大きな女性もいた。 ヒカルは神の名を叫ぼうとした。"神はいない"と信じかけていたはずなのに、"神も神託も嘘っぱち"だと思いかけていたのにも関わらず、ヒカルは神の名を叫ぼうとした。 ……フィラーハ様。 だが、まるで金縛りにでもあったように、口はおろか、体もまったく動かせなかった。 ……助けてください、フィラーハ様。私を……どうか……私たちをお救いください。 ヒカルは祈った。祈り続けた。 次の瞬間、ヒカルの周囲から、豪雨のような罵声が浴びせられた。 「下劣な詐欺師女っ、死ねっ!」「イカれた犯罪集団めっ、消えろっ!」 全身を戦慄が走り抜ける。 恐怖に目を見開いて両手を握り、天を仰いだ。 「死ねっ!」 黒いスーツを着た大勢の人々が自分をなじり、けなし、罵声を浴びせ続ける。「死ねっ!」 スーツを着た人々はジリジリと歩みを進め、少しずつヒカルを包囲していく。「死ねっ!」 ヒカルは恐怖に凍りつきながら、目を閉じた宇津木を抱き締め続けた。 「……助けて……フィラーハ様……誰でもいい……誰でもいい、から……」 ヒカルがすべてを諦め、絶望し、腕に抱く宇津木と同じように目を閉じようとした――その瞬間、その時――風が止み、夕凪が訪れた。 空気の振動が止まり、溢れていたヒカルへの罵声が止まる。 "聖地"に静寂が訪れたその瞬間――再び罵声を続けようとしていた男女の壁の隙間から、ひとりの男が姿を見せた。 「……うんざりだっ!」 ヒカルの目の前に立った男が叫んだ瞬間、全身に痺れるような電気が流れた。「もう、たくさんだっ!」 ああっ……本当に? 本当にっ? ヒカルはまた涙を流した。「こんなことをして何になるっ?」 助けに来てくれた……私を……こんなどうでもいい女のために、こんなどうしようもない人間のために……。「俺たちはっ、何も変わらねえじゃねえかっ!」 それは……投げやりで、乱暴で、とても……とても力強い声だった……。 そうだ。間違いはなかった。フィラーハ様の名を道具のように使い、世間を欺き、大勢の人々を操り、騙し、結果としてカネを搾取していたような私を――この、この岩渕誠という男は助けに来てくれた。助けに来てくれたのだ。 助かる? いや、そんなことはどうでもいい。どうでもいいのだ……。 助けに来てくれたこと。彼が来て、私の前に立ってくれたこと……。それだけが大切なことなのだ。 そう。ヒカルは"神託"の最後の言葉を思い出した。最後に切り抜いて胸にしまった"神託"の最後のページの文章を思い浮かべた。自分で書いた、自分の運命を思い返した。『もしこれが夢でなく現実となるならば、私は母の死を受け入れ、"神託"を捨てる』 ありえる話ではなかった。私を助けてくれる者など、生涯現れるはずがなかった。何もない、何の"力"もない私を助けてくれる者などいるはずがないのだから……でも。「ヒカルさん……無事か? 宇津木は……ヤバいな、意識がないのか?」 呼吸を荒げて岩渕が言い、ヒカルはまた涙を浮かべ、強く唇を噛んだ。「ムシのいい話だけど……助けて……助けて、岩渕さん、岩渕さあん……私と、父さんを……助けて……お願い……」 呻きながらヒカルは言った。それから、服の袖で涙と鼻水を拭った……。 夕凪は止み、また小さな風が吹きはじめ……岩渕もまた――小さな笑みを浮かべた。――――― 腕を組んで仁王立ちする澤社長を、岩渕はじっと見つめた。夕日の加減か、澤の顔は鬼のようにも見えた。「……茶番は終わりか? 小僧……」 組んでいた腕を解いて澤は、倒れた宇津木とそれにすがりつくヒカルではなく、岩渕を睨みつけた。……どうやら、俺を助けに来てくれた、というワケではなさそうだ。「社長……もうヤめてくれないか?」 岩渕は目に力を込め、澤の目と視線を合わせた。「こんなことは間違っている……こんな……暴力で何かを解決するなんて……バカげている」 そうだ。間違っているのだ。その気になれば、平和的に解決することなど容易にできるのだ。方法などいくらでもあったのに……。「……岩渕、俺様はなぁ、これまでお前にいくらのゼニを使ったのか、わからないのか?」 岩渕のほうに一歩踏み出し、澤が言った。その言葉は、まったく自分の予想していたものとは違っていたので、岩渕は思わず顔を歪めた。「……わからないのか? 本当に? お前はここまでバカなのか?」 何人もの人を殴り血の付いた特殊警棒を片手に握り締めたまま、まるで九官鳥のように澤が繰り返した。「わからないか? 本当に? 本当にわからないのか?」「……仕事への報酬、だとは思っています」 込み上げる恐怖を堪えながら、岩渕は言った。「感謝はしています……ですが、やはり、あなたは間違っている……」「……間違っている? だと? なあ、単純計算で5000万だ……5000万だぞ? ……それだけの価値と報酬をお前に与えた……お前は、そンな俺様の"情け"と"恩"をアダで返すのか?」 澤がまた一歩踏み出し、60センチほど岩渕に近づく。周囲に並ぶ《D》の社員たちの顔が緊張に強ばむ。「……何と言われても、何度でも言います……アンタは間違っているっ!」 凄まじい恐怖を堪えて、岩渕は言う。間違ってなどいない……間違っているものか……。「社長、引いてください。そして、《F》のための治療と慈悲を……頼みます」 澤がまた一歩踏み出し、さらに60センチほど岩渕に近づく。そんな澤の顔を岩渕は、まじまじと見つめた。 ……鬼、か。 岩渕にとって、今の澤は正真正銘の"鬼"に見えた。 この雰囲気――まるで悪霊が憑りついたような、怒りと憎しみに支配された者が宿す姿。そして――あの目……不安げで、悲しげで……孤独に泣いてしまいそうな人間の目。様々な情念が複雑に交わったような……そんな姿と目をして……どうしてこんなことに? 次の瞬間、"鬼"は岩渕に襲いかかった。「――たわけがっ!」 血まみれの警棒を捨て、一足で岩渕の懐へと移動し、そのままスーツの襟を掴まれる。凄まじい力で首を引き寄せ、澤は岩渕の顔面に拳を叩き込み殴り倒した。「があっ!」 奥歯が一撃で破壊され、瞬く間に口内で血が溢れ――眩暈がするほどの強烈な鉄の匂いを嗅ぎながらも……岩渕の意識は失うことを許さなかった。「岩渕よ……お前、本当――変わっちまったなぁ。原因は、やはりアレか?」 澤が拳に付着した血をスーツの裾で拭いながら言った。「……あの姫は、やはり俺様にとっては疫病神……甘く見てたがや……追い出すか? 岩渕……」 "鬼"――。 岩渕は怯んだ。決闘での勝ち目があるとは思えなかった。 けれど……岩渕の中にある何かは怯まなかった。「……それ以上のことは言うな。例えアンタでも……それだけは許さない……」「はあっ? 調子に乗ンなやっ! クソガキッがっ!」 澤が絶叫し、岩渕は立ち上がって拳を固めた。――――― ようやく辿り着いた"聖地"の中心で、彼と澤社長が殴り合っている光景が見えた。 私はすぐにでもふたりの間に割って入り、この戦いを終わらせようとした。意味がわからなかった……ううん、そもそも意味なんてものがあるとは思えなかったから。 でも……できなかった。 急いでふたりの前まで駆けようとした私の肩を、川澄奈央人が掴んだのだ。「……行かないほうがいいですよ? ……いや、行くな」「なぜですかっ?」「おそらく――今の社長にとって姫様は……潜在的な"敵"ですからね」 私は川澄の目を見つめた。普段とは違う、とても冷静で、とても真剣で、とても自然で……それでいて優しげで、まるで岩渕さんのような目――私は川澄の隣に子犬のようにうずくまった。 澤社長の拳が岩渕さんの顔や胸やお腹に叩き込まれる。その度に彼は立ち上がり、低い呻き声と共に澤社長へと殴りかかる。「岩渕さん……」 目を閉じ、彼のために祈る。祈り続ける。「……まるで親子ゲンカね」 後から来た宮間有希が言う。何を言っているのか理解できなかった。「宮間さんは……知っていたんですか? こうなることを……」「うーん……」 腕を組んでふたりの戦いを見守りながら宮間が言う。「状況を見なさい。周りの《D》の社員たちはただ呆けているワケじゃあないわ。きっとこうなることを"誰か"に示唆された可能性があるわね。たぶん……熊谷部長だと思うケド」 そうだ。澤社長と岩渕さんが殴り合っているのにも関わらず、周りの《D》の人たちは静観を貫いている……でも……でも……どうして? どうして止めてくれないの?「……《F》が《D》を利用したように、澤のダンナもまた――この騒動で"変わりたい"と思ってんじゃあないのか? 言葉には出さねえが……」 煙草の煙を空に向けて吐きながら鮫島恭平が言う。「不器用なんだよダンナは、だから、周りが察しなきゃならねえ……《F》の連中が許せねえっ、てのも本音だがな」「……じゃあ、私はどうすればいいの? どうすれば、ふたりを止められるの?」「さぁね」「そのうち終わるんじゃない?」「死にはしねえよ」 無力感が襲い、京子の顔はみるみる紅潮し……やがて、涙が出てきた。涙は次から次へと溢れ出て、芝生の上にポタポタと滴り落ちた。「……今度は泣いても終わりませんよ?」 私の涙を見て川澄は笑った。そっと私の顔をのぞき込み、私の顔を見てさらに笑った。それが悔しくて……憎らしくて……強い怒りさえ込み上げ――私は怒鳴った。「あなたたちはっ! そこに立っている《D》もっ! 武器を捨ててっ、《F》の人々を介抱しなさいっ! 《F》の全員が無事でなければ、私はあなたたちを許さないっ!」 怒鳴った。 怒鳴り続けた。 伏見宮京子は、声を枯らして怒鳴り続けた……。――――― 岩渕誠と澤光太郎の戦い――。 それは壮絶な戦いだった。「――こいつらはクズだっ! 社会に巣食う虫ケラだっ! 気でも狂いやがったンかっ? クソガキィッ!」「だとしてもっ、狂っているのはアンタも同じだっ!」 澤は岩渕の顔面へ拳を放ち、岩渕は澤の拳を頭頂部で受け止めた。拳を痛めて一歩引いた澤の顔面に、岩渕はそのまま頭突きを食らわせた。「――チィッ! しゃらくせえンじゃっ、ボケェ!」 獣のような咆哮を吐き、澤はなおも岩渕に突進する。「あの女が原因かっ? あの女と出会ったからっ、お前は俺に逆らうのかっ?」「黙れっ! 京子は関係ないっ!」 澤が岩渕の下腹部めがけて前蹴りを見舞い、岩渕は悶絶しながらも澤の脚を掴んで芝生へと放り投げた。「出会わなけりゃあ良かったンだっ、あの女の出現で、お前はお前じゃあなくなったっ!」「俺は俺だっ! ただアンタの間違いを正そうとする、ただの人間だっ!」 岩渕の拳が澤の顔面にめり込み、今度は澤の奥歯を破壊した。澤は折れた奥歯を出血と共に岩渕の目へと吐き、怯んだ岩渕の脇腹へ蹴りを入れた。「ぐぅぅ……」 血ヘドを吐いて芝生の上を転げ回っても……未だ岩渕の意識は明瞭のままだ。……イライラする。野郎……さっさと諦めやがれってンだ。「俺様の命令だけに従ってりゃあ良かったンだ……それだけで、お前には何もかも与えてやれたのにっ……」「うるせえ……だったら俺はもう……何もいらないっ!」 へし折れた肋骨に片手を当てながら、岩渕はなおも拳を澤の顔めがけて飛ばした。澤は向かってきた拳を掌で受け止め、内臓が破裂するほどの力を込めて腹を殴った。 そう。膂力の差は歴然だった。歴然であるハズなのに……。 澤は感じていた。 岩渕の、この、不屈の精神力はどこから来るものなのだろうか?「バカがっ! 知らねえだろうなっ! お前はっ、俺様のっ、何も知らねえっ、何もわかっちゃあいねえっ! 俺様の夢がっ、お前にわかるかっ?」 激痛に身をよじって倒れ込み、苦悶する岩渕の頭上で澤が叫んだ。「――いずれ、俺はお前と丸山佳奈を結婚させて、《D》を退く……その後、俺は築いた財産を土産に故郷へと凱旋し――そしてっ、いつかっ、俺の両親をハメたクズ共とっ、俺の親を裏切って見殺したゴミ共とその家族をっ……俺の故郷から永遠に追放するっ! それが、俺の人生の目的だったっ! それをっ、てめえとあの女が邪魔をしたっ!」 …………っ! それは――その場にいる《D》の誰も知らない、誰も聞いたことのない、誰にも話したことのない"澤の願い"だった。「……出会わなけりゃ良かったンだ……俺たちは……"あのまま"で良かったンだ……そうすれば……佳奈に……アイツに《D》をくれてやれたのにっ!」「……それ以上は……言っては、ならない……"禁句"だぜ? 社長……」 ――立ち上がる。 岩渕は、それでも立ち上がった。 肋骨が何本も折れ、内臓をすべて吐いてしまいたいほどの苦痛を堪え、真っ赤に腫れた両足を震わせながら……それでも立ち上がった。そして、再び澤へと殴りかかった。もちろん、澤は先程までと同じように、膂力の差を見せつけるように避け、何の苦もなく岩渕の顔面を殴って地に叩き伏せた。 それでも――……岩渕は諦めなかった。 切れた頭部から鮮血を滴らせ、歯の折れた口内から泡のような血を吐きながらも、岩渕はまた立ち上がった。「……それで? 今はアンタの過去の話じゃあない……ただ、アンタのその考えは間違っていると言いたいだけだ……」「さっさと倒れやがれっ! 小僧っ!」 岩渕は激昂する澤に投げ飛ばされるたびに立ち上がり、低いうなり声を上げて澤に飛びかかっていった。そして、そのたびに痛々しいほど激しく殴られ、蹴られ、激しくぶちのめされた。 それでも――岩渕は立ち上がった……。 「しつこいぞっ! クソガキィッ!」 ……俺は……俺は……、間違ってなどいない……そのハズだ………。 そのハズなのにっ! まさか……いや……。 その、まさか、だった。澤は、かつて自分が死ぬほど嫌悪していた存在に"堕ちてしまっていた"ことに、ようやく気づきはじめた。 嘘だ。 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ……そんなハズがねえ。 俺は……いつのまにか、"俺自身が最も憎むべき人間"に……なって、いたのか? なら……負けるのは、俺? "負けるべき悪は"、俺か? 目の前の男は、再び拳を固め――澤へ殴りかかった……。――――― 僕は、その様子を、近くでじっと見つめていた。 既視感だね。川澄奈央人は思った。 つまり……このままヤり合えば……敗北するは澤社長。 どうします? まぁ……僕としてはそのほうが都合が良いのだけど……。 気になることは、ある。 あの見た目からは想像し難いが、澤社長はワリと冷静な性格だ。それがどうして、こんな無茶な襲撃を? しかも突然に? 何か……あるのか? それとも……まさか……いや……僕も"カン"が鈍ったかな……。 川澄奈央人は考えていた"カン"をすぐに頭の中から打ち消した。認めたくはない現象、認めたくはない言葉――……。説明が不可能な事象――……。「……『オカルト』は嫌いじゃあないんだけどね……」 次第に顔から余裕の消えつつある澤を見つめ、川澄は小さく呟いた。「"あの女"って、私のこと?」 背後で女の声が僕に聞いたが、面倒なので無視をする。――――― あっ。 それは本当に一瞬のことで、何が起きたのか、澤自身にもわからなかった。その瞬間、澤の顔が奇妙に歪み、膝から下の感覚が消失した。 意識ははっきりとしているのに、澤は膝から崩れ落ちた。 そう。岩渕の拳が澤のアゴを捉えたのだ。肉体的ダメージは軽微なものの、三半規管に何らかの障害が起きたのは明白だった。 ……いつか、鮫島が言ってやがったな……岩渕は『神様に愛されている』……か。 その"神"が伏見宮京子に関係しているのかは知らねえが……ツイてやがるな、岩渕。『天は自ら助くる者を助く』……か。さしずめ、こいつの根性に運が味方した、こいつの考えに神が理解を示した……て、ところか……畜生。 ……ここまでか。 ここまで、なのか?「……アンタは間違っている……俺の話を、聞いて、くれ……社長……」 岩渕は激しく息を喘がせ、満身創痍になりながらも――未だ澤を説得しようと言葉を紡いだ。その後で、思い出したかのように手の甲で唇の血を拭った。 ……俺の味方は? ……いないのか? 周りの《D》の社員たちは皆――《F》のヤツらの介抱に走り、抱き起したり、謝ったり、救急車に連絡したりしていた。武器を携えている者は皆無だった。 ああ、そうか。 何となく、わかってはいた。 こうなることは、わかっていた。 連れて来た20名の社員たちはすべて営業部と総務部の人間だ。しかし、その内訳には偏りもあった。そう。彼らの所属は営業部と総務――だが……それだけではなかった。「……岡崎派、か」 そうだ。彼らは、澤自身が岡崎の児童養護施設から引き取って雇用した者たち、つまり、岩渕と比較的親しい関係性を持つ後輩や同期。普段から岩渕に対して好意的な意見や意思を持つ者たち――。 ――結局、総務の熊谷にしてやられたのだ。……あの野郎。 しかたがない。これも……運命か。「……脚がフラフラだ。ほら、岩渕、もう一発、俺を殴れ……それで、俺は倒れる」 澤は震える両足で立ち上がると、掌をクイッと揺らし、岩渕の拳を待った。「……俺はアンタを止める……だから……だからっ!」 真っすぐに飛ぶ岩渕の拳を見つめ、澤は敗北する覚悟を決めた。 その――つもりだった。 敗北して"やる"、そのつもりだった。 岩渕の拳を頬で受け、 顔が歪み、 痛みが走り、 重心が背後へ向き、 倒れ、 そして、 敗北を喫する、 その――つもりだった。 そのつもりだった、その瞬間―― その時―― 感触があった。 小さい、 とても小さい、 子供のような手。 小さくて、可愛らしい、女の手。 ああ……ああ……そうか。そうなのか? 瞳の奥から涙が込み上げ、澤は奥歯を噛み締めた。 そうだ。これは――…… かつて、深く愛していた女の手。 かつて、失ったはずの女の手が―― 澤の背を支えていた。 決して澤が倒れぬよう、女の手は、力いっぱいに澤の背を押してくれている。 堪えていた涙が、溢れた。 とめどなく、ただ、とめどなく、涙が流れ、頬の血を洗い流していく……。 ああ……。 そうだ。 味方は、いた。いてくれた。 こんなヤツに、こんな……身勝手な男の……。 今も、ずっと、そばにいた。いてくれた。 俺の味方でいてくれた……。 愛されていた。 生きている時も、死んだ後でさえも、 俺を愛してくれていた。 この世界で、 こんなクソみたいな世界で…… こいつは、この女だけは―― 俺の味方でいてくれた……。 自分の体から何か消え去るような感覚に、澤は驚いた。それまで心に纏っていた悪意や憎しみや怒りが、まるで水に流れて溶けて消えるような感覚……。 ……そうか。これが――鮫島の言う、"転成"ってヤツか……。 大きく息をひとつ吸い、ネクタイを緩めてシャツのボタンをひとつ外す。 変質した澤の雰囲気に困惑したのか、岩渕の目がパチパチと瞬いた。「岩渕?」「……はい」「どうやら、俺様もお前と同格に至ったらしい。……お前とは違う"何か"に愛されて、な」「……?」「わからンか? まぁいい……何にせよ、次の一合で決着だ。お前の"神"と俺様の"女"――どちらが正しいのか? 確かめてみるか? まあ、どちらも正しいのかもしれないが……ぼちぼち、終わろうか……」 背後に目をやる。 黒いスーツを着た少女が、澤の背を抱き締めて微笑んだ……。 そして――……。―――――『聖女のFと、姫君のD!』 k3(後編 最終回)へ続きます。 また少し休憩……。sees大好きさんたちの新曲アラカルト。Guianoさん……ヨルシカ氏……みかんせい様……みんな大好き……。 次回の"後""最終話"更新は……2020/04/25~26の未明です。イケます。たぶん💦 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。 人気ブログランキング
2020.04.23
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 短編05 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから 10月10日――午後14時。《F》の人々はただ呆然と、ただ緩慢に、その音を聞いていた。 人々は互いに目を合わせ、何事かと確認し合い、外に出て、敷地に入り、わけもわからず集合し、また目を合わせ、ヒソヒソと囁き合い――天空に浮かび、轟音を響かせる鉄の箱を凝視していた。 ヘリコプター。それが10人前後の人間を運べる大型のヘリコプターだということは誰もが理解していた。が、それを口に出す者はいなかった。いや、口に出すことができなかった。なぜなら――そこから"何"が出て来るのか、それが知りたかった。 混乱する人々を無視するかのように、ヘリは芝生の上に降り立った。 高速回転するローターの真下にある出入口のハッチが開こうとする。「誰だあ?」 あっけらかんとした老人のひとりが呟く。危機感はないように思えた。 やがて――ヘリの中から、黒いスーツを着た男女の集団が躍り出る……1人、2人、3人、4人、5人、6人……そして……。 この時、彼らは――今まで予期すらしていなかった危機感が、まるで風船のように膨れあがり――代わりに、これまで当然の権利かのように手にしていた"安心と平和"の風船は、まるで針を刺した風船のように破裂して消えた。そんな感覚だった。 恐ろしい。 怖い。 そう思った人々が一歩、また一歩と後ずさりした時――7人目にして、最後に"聖地"へと降り立った男が、周囲を見まわして言う。「……落後者どもの楽園、負け犬の聖地……はっ! ヘドが出るわ」 空にはまだ2機ものヘリが浮かび、"聖地"への着陸を待っている……。 大型のヘリ3機が黒いスーツの集団総勢20名を降ろし、帰路のため再び離陸した直後、リーダーらしき中年の男は立ち並ぶ《F》の人々を睨みつけ、舌を打った。「ジジイにババアにメスにガキが大半か……気色悪ぃな……」「……すみません、あなた方は……どちら様、ですか?」 込み上げる不安と恐怖が人々を惑わす中、ひとりの老人が男に尋ねた。他の人々はその様子をじっと見つめ、事態の解決と安心を求めて祈った。もちろん、"聖女"にだ。 中年の男は、歩み寄って話しかける老人に気づいて視線を向けた。そして――いつから用意していたのかわからない、金属の棒を地面に向けて振った。キンと乾いた音が耳の奥に響く。鉄の棒――特殊警棒だ。《F》の女のひとりが小さな悲鳴を上げる。女は手を繋いでいた子供を守るかのように抱き寄せた。「――っ! それは何だっ? バカなことをするなっ!」 両手を上げ、老人は叫ぶように言った。痰が喉に絡み、声がかすれた。 男は特殊警棒の先端を老人の額めがけて指し示し、「聖女と宇津木を出せ」と静かに、そして平然と言い放った。ツヤのある黒い上下のスーツ。50代半ばだろうか。男はどこにでもいそうな中年の男だった。 だが、男は……怒りと憎しみに支配された凶悪な風貌を隠そうともしていなかった。両目が赤く血走り、頬が細かく痙攣を続け、口の奥からはギリギリと歯を噛み締める音がした。「俺様は今、機嫌が悪い……ナメたことヌかすヤツは、殺す」「待ってくれ。話を聞いてくれ。まず……アンタたちは、《D》、だよな?」 自分の額をとらえた特殊警棒を見つめ、喘ぐように老人は言った。彼ら《D》が何をしにこの地へ来たか、何が目的で武器を手に取って構えているのか、老人は瞬時に理解した。理解した次の瞬間――今度は恐怖に胃がヒクヒクと痙攣し、吐き気が喉まで込み上げる。「だったら、なンや? ジジイ、楢本ヒカルはどこや?」 抑揚のない声で男が聞き返した。「ヒカル様は……今、ここにはいない。もうすぐ帰って来られる、予定だ。だが……頼む。わたしはどうなってもいい。彼女には、何もしないでくれ……」「……?」 男は首を傾げた。「理解できンな。その女は単なるイカれ詐欺師やろ? なぜ庇う?」「……違う。救われたからだ。彼女は、"聖女"なんだ」 突然現れた中年男の怒りに満ちた顔と、その手に握られた特殊警棒とを交互に見つめて老人は言った。「あの方は……ワシと、ワシらの生きる希望なんだ……だから、あの子が無事に生きてくれるのなら、ワシの命なんてどうなってもいい。……ワシはもう、充分に生きた」 老人の言葉を聞いた時、ほんの一瞬、中年の男の顔が泣き出しそうに歪んだ。――少なくとも老人だけ――いや、周りの《F》の人々にはそう見えた。 男は何かを考えるかのように顔を伏せた。警棒を持たないほうの手をだらりと下げ、まるで"誰かの手"を握るかのような動きをした。《F》の人々は男をじっと見つめ、彼の答えを待った。不安と緊張のためか、口を挟む者は皆無だった。 ――やがて男は顔を上げ、《F》の人々を真っすぐに見つめた。「却下だ。お前らを徹底的に潰さないと――俺……"俺たち"の気が済まない」 どこまでも低く、重い口調だった。「宇津木の成金はいるンやろ? そいつから血祭りにしてやるわ……」「……アンタらは……ああ……そんな……ヤメッ………」 老人は言葉に詰まった。いや、詰まったのではなかった。詰まされたのだ。 男は素早い動きで姿勢を整え、老人の脇腹に警棒を叩き込んだ。これまで経験したことのない激痛が脳に届き、一瞬で意識が遠のく。口の中いっぱいに胃液が込み上げ、悶絶しながら芝生に倒れ込む老人の体に……男は、容赦なく蹴りを入れ続けた。「――ぎゃああっ!」 あまりの痛みに老人は呻いた。《F》で暮らすうちに忘れかけていた"痛み"と"現実"を、老人は思い知った。激痛に意識を失いかけながら……ドバドバと血ヘドを吐きながら……ここは"聖地"ではなく、"ただの田舎"であることを思い出した。「中島、南、有吉は配電盤を探して潰せ。通信用のアンテナ、ネット回線も見つけしだい破壊しろ。清水、坂口、長谷川はここらの出入口の封鎖、車両類の確保を優先――残りの半数は岩渕とツカサを探し、残りの半数と高瀬は、俺様の背後を守りつつ――」 老人の腹を蹴り上げながら男は叫んだ。「《F》を一匹残らず、ここにっ、集めろっ!」 いくつもの悲鳴が上がった。周囲の《F》の人々が一斉に後ずさった。誰も彼もが逃げようと脚を動かしかけたその時――男がまた叫ぶ。「お前らっ! 仲間なンじゃあねえのかっ! お前らがあの"聖女"を大事に思うのならっ!全員っ、かかって来いっ! 俺様と戦えっ!」 戦え――。 男の声は、ついさっきまでの様子からは考えられないほどはっきりと、《F》の人々の心に響いた。 守る――。 "聖地"を守る――。 "聖女"を守る――。 そう。《F》は覚悟を決めた。老人も女も子供も関係なかった。 ある者は石やコンクリートの破片を拾い、ある者は園芸用の小さなスコップを拾い、ある者は野球のバットを拾い、ある者は拳を握り締めた。「うおおおおおっ!」 狂乱じみた叫びが次々に上がり、広がり、そして21名の《D》を包囲した。「そう……それでいいンだ」 動かなくなった老人から視線を外し、《D》の男は呟いた。 ―――――「澤社長は……《F》の家で何をするつもりなんですか?」 伏見宮京子は茶臼山の景色から目を逸らし、ただ黙々とフィアットを運転する宮間有希の顔を見つめて聞いた。「……殲滅、ね」 京子にはその意味がわからなかった。「老若男女問わず……二度と《D》の前に現れることがないように……」 中途半端な妥協は遺恨を残し、近い将来――必ず《D》に災いをもたらす。そんな意味のことなのだろう。信じられない……。 動揺する京子に宮間は、「このまま引き返す?」と聞いた。「心配はいりません。……私と、ヒカルさんが、澤社長を説得します」 フィアットの後部座席に座る楢本ヒカルが、両手を固く握り合わせて顔を伏せているのが見える。「ヒカルさん、岩渕さんとツカサ君は無事なんですよね?」 岩渕とツカサさえ無事ならば、最低限――示談の交渉はできると京子は考えていた。澤にとっても岩渕は大事な部下のはずだった。「……無理ね」 ハンドルを切る宮間がぶっきらぼうに答えた。「カネで解決できる段階じゃあないってこと。社長は、ああ見えて……とても純粋な人だから。説得できるとしたら……」「できるとしたら……?」「家族だけ」 宮間は断言した。「家族って……それじゃいったい、どうすればいいんですか?」 澤社長に"家族"はいるのだろうか? 結婚しているとか、子供がいるとか、両親は健在だとか、そんな話は聞いたことがない。……もしいたとしても、ここまで連れて来るまでに膨大な時間がかかることは明白だった。「……説得は不可能、ということでしょうか?」「わからないわ……もし、可能性があるとしたら……」 宮間はまた断言した。「"岡崎派"、だけね」 宮間の言葉に京子は困惑げに頷いた。――――― 鮫島恭平と川澄奈央人が乗車するハイエースは、ビニール紐で手足を縛った田中を載せて"聖地"への山道を走っていた。「そういえば、例のあのコ、丸山佳奈ちゃんも"岡崎派"、でしたっけ?」 唐突な川澄の問いに、鮫島は困ったように口を開いた。「……ああ、社長の一番のお気に入りだった。……入社試験も、歴代トップの成績だったらしいしな。……ん? てことは、お前よりも上だったってことか?」 鮫島の問いかけに、川澄は「興味深いですけどね」と言った。「でも、死んでしまったのなら、しかたありません」「同じ"岡崎派"として――岩渕さんなら、この状況、どうするつもりなんでしょうかねえ……できれば、僕の思う通りに行動してくれると助かるんですけど」 川澄が言った。「鮫島さん、もし――ツカサ君がケガひとつないような状態であるならば、宇津木さんに対する攻撃は慎んでいただけますか?」 真意の不明な頼みに鮫島は戸惑って顔をしかめた。だが、わからないでもない。鮫島は思い出そうとした。あの"聖女"の願いをすべて叶えようと奔走し、己のすべてをひとりの女に捧げた宇津木という男の話を。――そういうヤツは、嫌いではなかった。「正直、萎えたわ。あの"聖女"の態度から察するに、その宇津木って男は、やっぱりアレ、なのか? 隠してた、本当の関係、みたいなヤツか?」 しどろもどろになって鮫島は答えた。 川澄の話を聞いて驚く楢本ヒカルの表情を思い出しながら、鮫島は彼らに隠された関係性と境遇の不幸を考えた。ある意味で、自分と宇津木は似ていると思った。 ――だが、川澄の価値観はまた"別のところ"にあるようだった。「別にそんなものはどうでもいいんですよ」 朗らかに、薄ら笑いながら川澄は言った。「宇津木さんには確認したいことがあるんですよ。……どうしてもね」――――― ……もしもし、聞こえるか? 今、本館のトイレにいる。……ああ、《D》のヤツらが来た。あいつら、棒を振り回して《F》のバカ共を片っ端から殴り倒して……いいからっ、早くカネを用意して持って来いっ! ここももうすぐ見つかるし、あのクズ共じゃあ時間稼ぎにもならない……クソッ! 最悪だ。……警察? バカ言うなっ、法に介入されたらこれまでの私の努力が泡になって消えるだけだっ! ……いいか? 《F》も私の会社も、社会の毒を食らって成長しただけの存在だ。それを一瞬で失うわけには……。おいっ、いいから早くカネを持って来いっ! ……クソッ、クソッ、クソッ! ……何ぃ? 今ぁ?《D》の熊谷が来て? 大人数で? 社の玄関に? 畜生っ! 畜生っ! ……いいから、とにかくカネの用意はしろ……最悪、熊谷にもカネを掴ませて見逃してもらえっ! はあ?ヒカルを? ふざけるなっ! それだけは絶対にしないっ……ヒカルは、私のすべてだっ、……あの子を渡すくらいなら、死んだほうがマシだっ! 約束したんだ……約束したんだっ……あの子の母親と、あの子のために生きると……だから……頼む。ああ、ヒカル、《F》のゴミ共なんかどうでもいい……私は、お前さえ"幸せ"なら……どうなってもいい……だから……生きて、生きて、生きてくれさえすればいいだけなのに……畜生っ。ああっ……誰か来た……トイレに誰か入って来た。ああっ……やめてくれっ、やめろっ! やめろっ! 電話の向こうから、木製のドアがガンガンと叩かれるような音がした。床に落ちたらしい携帯電話から、『やめろっ!』『入って来るなっ!』という男の悲鳴が聞こえた。ドアが蹴破られるような音がした。『やめろっ!』『許してくれっ!』『やめろーっ!』 何かを引きずるような音が響き、男の声が途切れた。そして……電話が切れた。――――― 最悪だ――。 芝生に倒れた女の顔は、べっとりと血にまみれていた。額が縦にぱっくりと割れ、唇が膨れはじめ、充血した目で瞬きをしたいた。それは、ほんの数分前、自分に襲いかかって来た女と同じ人間だとは思えなかった。いや、思いたくもなかった。「……許してくれ」《D》営業部社員の三谷信也は誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。心臓が痛いくらいに高鳴り、腕がガクガクと震えるのがわかった。「……お前らが悪いんだ……お前らが悪いんだ……ウチの社長をバカにして、詐欺でカネを儲けて、《D》を陥れて……岩渕先輩まで……」 呻くように三谷は呻いた。 次の瞬間、視界の隅から中学校らしき制服を着た少年が、鉄パイプらしき棒を振りかざして三谷に襲い掛かろうとしているのが見えた。どこをどう見ても、子供。子供だ。「来るな……頼む……来ないでくれ……」 少年を凝視したまま、三谷は呻いた。そして、緩慢な動きで三谷を攻撃しようとしたその少年の頭部めがけて――警棒を降り落とした。そして無我夢中でその少年を押し倒し、動かなくなるまで殴り続けた。「……最悪だ。最悪だ。これは……"戦い"なんかじゃあない……一方的な蹂躙だ……」 畜生、それもこれも全部、あの楢本とかいう女が悪いんだ。芝生にツバを吐き、乱闘を続ける《D》と《F》を見つめたまま彼は思った。 澤に連れて来られた《D》は皆、三谷と同じか似た感情で動いていた。 そのことを――彼も同僚も知らなかった。 もちろん――澤自身も……。――――― 高瀬瑠美はその一部始終をじっと見つめ、無言で、ただ立ち尽くし、考え、思い、貸し与えられた特殊警棒を強く握り直した。 警察に連行される犯人のように体を引きずられ、悲鳴を上げ、助けを懇願する初老の男を見た。この男が……宇津木? 思っていたよりは"マトモ"そうにも見える。瑠美は思った。澤社長の眼下で土下座させられ、芝生に顔面を擦りつけられているこの男――宇津木聖一は今にも泣きそうなほどに顔を歪め、陸に上がった魚のように苦しげな呼吸を繰り返していた。「…………っ」 無言のまま仁王立ちする澤社長に対し、宇津木は「……暴力はやめてくれ」と懇願し、額を地面に擦り続けた。何度も、何度も。息を飲みながら、瑠美はそれを眺めている。 ふと辺りを見回す。すでに《F》の大半の人間が《D》に倒され、死んだようになって芝生に転んでいた。……非戦闘員であろう彼らに、ここまでやる必要があるのだろうか? 理解不能だ。 いや、そもそも社長以外に理解できているの? 「やってらんないわ――……」 フーッと長い息を吐いた。"仕事"を終えて一段落する同僚たちと目を合わせると、深い共感めいた感情に包まれたからだ。「そりゃあ、そうよね」 これは《D》の仕事ではない……少なくとも……そう、例えば――もし仮に、あの人がこの場所にいたのなら……澤社長を全力で止めてくれるのだろう……岩渕さん……。 大きくひとつ深呼吸をしてから、瑠美はカラカラになった口を必死で開いた。そして、努めて冷静さを装いながら一歩進み、「……社長、岩渕マネージャーの件ですが」と、目の前で宇津木の髪を強引に掴む社長へ声をかけた。「あぁっ? なンや? 高瀬」 社長が鬼のような形相で振り向く。「ねえ、宇津木さん……岩渕……さんは、どこにいますか?」 震える声で言い、瑠美は宇津木の目を見た。 やがて……男は震える手で自身の胸をまさぐり、小さな鍵を社長の前に差し出した。同時に、「岩渕様とツカサ様は屋敷の地下の倉庫にいる。だから――」と喋りかけた男の腕を――鍵を手渡そうとした宇津木の腕に――社長は警棒を降り落とした。「あああああーっ!」 骨が折れたであろう、絶叫する宇津木の悲鳴を無視するかのように、社長がまた振り向いた。「高瀬、岩渕とツカサを迎えに行ってやれ」 鼻で笑ったような社長の声が、瑠美の耳にはっきりと届いた。 最悪だ。最悪の仕事だ。もしこれが熊谷部長の"頼み"でないのなら、アタシは今日中に荷物をまとめて《D》を辞めているところだ。 早く来いよ……クソ兄貴が……。――――― 鍵を解き、倉庫の扉を開いた黒いスーツ姿の高瀬瑠美の顔を見て、岩渕誠は思わず息を飲んだ。「……お待たせ……岩渕さん、ツカサ君……待たせて、ゴメンね」 消え入りそうな声で言った瑠美の顔は、まるで悪夢を見続けた子供のように、憔悴し、恐怖と不安にひきつっていた。だが岩渕は、そんな彼女の顔を一瞥すると同時に、ツカサの手を取り、倉庫の中から飛び出した。「ありがとう……瑠美……状況は?」「……社長を止めて」 早足で地下からの階段を昇る岩渕の背に、瑠美の声が微かに届く。川澄との連絡が途絶えて1時間強、瑠美が鍵を持って現れたこと――……状況は最悪、なのだろう。「宇津木さんは――どうなっている?」「……殺されるかも」 力ない瑠美の声が背に届く。彼女の声を聞くのは数日ぶりだが、こんなにも疲労感を滲ませた声を聞くのは初めてだった。「……《F》の連中は?」 そう言って岩渕は、瑠美と並んで屋敷の玄関の前で立ち止まった。「……芝生の中央に集められて、半強制的に《D》の20人と戦わされて……もうほとんどが死に体ね……妊婦さんや、子供も含めて、ね……」 無理に平静を装った口調で瑠美が言う。「営業と総務の連中か……"自主的"に、じゃあないよな?」「臨時ボーナス100万だって……正直、誰も社長には逆らえない雰囲気だった」「キミは? なぜ社長について来た?」「……熊谷部長に耳打ちされたの……"行け"って。それで――『できることなら、社長より先に、岩渕君か川澄君に接触しろ』って……」「……?」 熊谷部長は聡明な人だ。意味のない言動はしない……つまりは、そういうことなのかもしれない……。「『この襲撃は《D》全員の総意ではない』ってトコロか……」「ついさっき兄さんから『もう着いた』ってメッセージが来たけど……ねえ、岩渕さん、これからどうするの?」「……ツカサを頼む……鮫島さんの姿が見えるまでは。俺は……社長を止める」「……できるの? "アレ"は鬼よ? まるで……何かに憑りつかれているみたい」「なら――そいつから社長を解放してやればいい」 ツカサの手を瑠美に手渡し、岩渕は館の玄関の扉を開こうとした。……この先に待つは"鬼"……さしずめ、狂気に憑りつかれた強欲社長か……クソったれが。 岩渕はスーツの裾に付いたホコリを払い、ネクタイを締め直した。ドアの取っ手に手を置き――思う。またスーツがボロボロになりそうだ……そうだな、今度は京子と一緒に、『テーラーチクサ』へ遊びに行くか……。 ドアを開けたその瞬間―― 岩渕の目に――あの、"神託"で見た光景が広がった……。―――――『聖女のFと、姫君のD!』 k2(中編)へ続きます。――――― 少し休憩……。 最近ハマっているZOC(大森靖子氏プロデュースの異色アイドルグループ) ……戦慄かなのちゃん……エエで。 次回の"中""更新は……2020/04/23!の未明です。すぐです。はい。 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2020.04.22
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 短編05 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから 10月10日――午後12時。 46号線の山道を走るフィアットの中、伏見宮京子は胸の上に手を当てる。ゆっくりと視線を横に移し、宮間の様子を注視する。車内のスピーカーから流れるジャズ・ピアノの音色に交じる、宮間たちの会話を聞く。 ケンカ? ……いや、これは戦いなんだ。誇りを取り戻すための……。「……宮間、本当にヤるのか? 手ぇ、貸さなくてもイイのか?」 ハンドルを切りながら鮫島が言う。……助手席の川澄さんはニタニタしているだけだし、まったく……この人たちは……。「いらないわ……田中を――始末するのは私よ」 宮間が低い声で言う。京子には何も言えなかった。「……お前が失敗したら? 尻ぬぐいは俺らがしろと?」「知るか。だけど……あなたはツカサ君のことだけ考えれていればいいわ。その方が……"鮫島先輩"らしいから」「そうか。まあ……骨くらいは拾ってやるよ」 そう。宮間は戦うつもりなのだ。私と同じ女性の身でありながら。"誇り"という抽象的で、曖昧で、不確定なモノのために。泣いて、泣いて、泣き続け――でも、立ち上がって、立ち向かって……もしかしたら――宮間有希の姿がこんなにも美しいと思えるのは、彼女の……大切な何かを守りたいという志の高さに、私が惹かれているからなのかもしれない。「……とはいえ、アンタには手伝ってもらうわよ? 川澄……」「――はぁ? イヤです」 川澄の淡白な返事を聞くと、私はいてもたってもいられなくなった。「どうしてそんなことを言うんですかっ?」 そうだ。この男はそういう人間だった。私を澤社長をおびき寄せるためのエサ、としか思っていないような……岩渕さんをエサに私をここまで連れて来るような……そういう、自分のことしか考えていないような――そんな人だったことを思い出す。「ケガする可能性が1%でもあるのなら、僕は車内で姫様と待機します。正直言って――宮間先輩が失敗しても、その後で警察に連絡すれば簡単にヤツは取り押さえられますし、それで岩渕さんの"お願い"は完了です。……さらに、僕の"個人的な目的"に、聖女様はあんまり関係ないんですよねえ……」 ……この男は。「加勢の報酬は……そうね、アンタの好きな駅弁を、現地に行って直接買って、日帰りでアンタに届ける……てのはどうかしら? どんな田舎でもいいわ。……私をパシりに使えるなんて、こんな贅沢な男はいないわよ?」 次の瞬間―― ルームミラーの中で川澄の目の色が変わり、邪悪な笑みが浮かぶのを――京子は見た。見てしまった……。――――― ハイエースの薄暗い後部座席の上で、楢本ヒカルは思った。 ……私は、やっぱり、死ぬんだ。 捕らえられ、カゴの中に閉じ込められた野鳥が、狭いカゴの中で必死に助けを乞い、やがてはエサも食べなくなり、疲れきり、衰弱しきって死んでしまうように――ヒカルもまた、恐怖と絶望の中にいた。 ……私は、"聖女"でも何でもないんだ。 ……私は、ただの人間で、バカな女で、どうしようもなく弱いだけ……。 1時間近くもそんなことを考え、泣き続けた。薄暗く、薄汚れた車内の中で横に倒され、これからの運命を思い、また泣き続けた。 ……やっぱり、私は、"聖女"ではなかった。 何となく、察しはついていた。いや、とうの昔に気がついていて、私はその考えを無視し続けていたのだ。すべては宇津木からの潤沢な資金があれば可能な"神託"で、私はそれを訴えるだけの人形で――。そう。私には予知の力などないのだ……天変地異どころか、明日の天気すらもわからない……何の価値もない、ただの人間なんだ……。 ハイエースが山道を下っていることはわかっていた。その気になれば、自力でドアの鍵に触れ、車外に飛び降りることも可能なようにも思われた。けれど、ヒカルには――抵抗する気力が残っていなかった。それぐらいに、そう感じてしまうぐらいに、ヒカルの心の中には絶望と恐怖しかなかった。「……岐阜に入ったら、適当なホテルに入ろうな? ……ヒカル、これから長い旅になるんだ……仲良くしようぜ……」 座席に寝転ばされ、体中を拘束され、涙を流し、汗まみれになって――ヒカルは田中のドス黒い、悪意に満ちた声を聞いた。「《F》なんざすぐに忘れさせてやる……これからは、俺のためだけに"神託"を使え……」 神様なんていないのだ……いたとしても、私の元には現れなかった。結局――母さんは、母さんのまま死んだだけ……なの?「フィラーハ様っ! 万歳っ! 万歳っ!」 田中が大声で叫ぶ。叫び続ける……。 私に神の力など、ない。神様など、いない。じゃあ……あの人には? ああ、そうだ。そう、なんだ……そういうことなんだ。 私は……私は、ただ……あの人に、あの方に……。 自分がなぜ《F》を立ち上げ、《D》に敵意を向けたのか? その理由に――ヒカルはようやく気がついた。 そう思った次の瞬間――鋭いブレーキ音が鳴り響き、田中とヒカルの乗るハイエースは動きを止めた。「川澄ぃっ!」 凄まじい怒りと憎しみを込めて、田中が叫んだ……。――――― ハイエースから降りた男を、宮間有希はじっと見つめた。日の光の加減か、田中陽次の顔は人ではなく、鬼のようにも見えた。「川澄ぃっ!」 ハイエースの脇に立って田中は、私ではなく、フィアットの助手席から降りた川澄を睨みつけて叫んだ。どうやら、私のことなど眼中にないらしい。「外道が……。お前の相手は、私だ」 川澄がおかしそうに微笑んだ。「……そういうことなんです。すいませんね、田中さん」 そう。田中と決着をつけるのは私だ。この役は、誰にも譲る気はない。「へえ? お前、宮間か?」 私のほうに一歩踏み出し、田中が言った。その言葉が、あんまり私の予想した通りだったので、私は思わず笑ってしまった。「何だあ? お前、俺にヤられに来たのか?」 どこまでも下品で、知性の欠片もない口調とセリフだった。「それは貴様のことだ、外道……拉致った女を解放し、土下座して詫びろ」 背中に隠し持っていた伸縮性の特殊警棒を"左手"で握り、宮間は言った。「土下座したとしても、私は許さないがな」「……許さない、だとっ? お前がっ? 俺をっ?」 田中がまた一歩、また一歩と踏み出し、宮間との距離を数メートルにまで縮めた。私は握った警棒を地面に向けて振る。瞬間、キンと乾いた金属音がし、警棒が本来の姿にまで伸びきった。「ええ。私は貴様のような外道を許さない。殺す、と言ったのを覚えていないのかしら?本当、猿以下の知能ね」「……なん、だとっ? このクソアマ……」 田中の頬がピクピクと痙攣し、額にはいくつもの血管が筋を立てて浮かぶ。私は"突撃"するために身を構えた。「安心してください。相手をするのは私だけです。横にいる川澄も、運転席にいる男も、あなたに手を出すつもりはありませんから」 深呼吸を一度し、冷静な口調と意識を体に戻す。戻す……そう。《D》の、兵士の誇りを取り戻す。そうだ。取り戻すだけのことなのだ。「私はあなたと違うので、正面から、正々堂々と、行くわ……心の準備は、いい?」 自分に言い聞かせるように、 自分に命令するように、 自分を奮いたたせるように、 宮間は、意を決し――決断したっ!「行くぞっ!」 次の瞬間――宮間は警棒を強く握り直し、今度は自分から――田中に向かって一歩、また一歩と歩を進めた。数メートルほどあった距離はグングンと縮まり、田中の表情の細部まで見える。そこには――とてつもなく醜くく、とてつもなく汚らわしい、欲に狂った、ケダモノの顔がニタニタと笑っている。負けるわけにはいかなかった。そう。何があっても、何をしても、"どんな手"を使ってでも、負けるわけにはいかなかった。 田中との距離は残り7メートル――。 田中は下卑た笑みを浮かべている。宮間は歯をギリリと噛み締めた。 残り6メートル――。 田中は相変わらずニタニタと笑う。宮間は歩きながら、右手で自身の太腿をまさぐった。 残り5メートル――。 田中が、「んな棒きれで俺に敵うワケねえだろうが……」と呆れたように呟く。宮間は歩きながら、"予め切断"したシャネルのスーツの切れ込みに右手を突っ込んだ。 残り4メートル――。 田中が笑いながら、「お前も、俺のペットにしてやろうか?」と宮間に問う。宮間は歩く脚をピタリと止めた―― 次の瞬間だった。 宮間が脚の動きを止めた刹那――…… 彼女の背後から、嬉々とした男の声が響いた。―――――「澤社長ーーーっ! こっちですっ!」「何だとっ!」 両手を力いっぱいに振る川澄の動向に仰天し、田中陽次は思わず背後を振り向いた。 だが、誰もいない。誰もいるはずがない。そこにあるのはただの道で、補整されたコンクリートで、山林や雑草だけなのだから。 ――しまった! 瞬間、田中はそれを知った。宮間が『正々堂々と戦う』など本気で言うわけがないのだ。田中は、急いで宮間の姿を視認しようと顔の向きを戻そうした。ゴトリと何かの金属が地面に落下する音がする。同時に――強烈な悪寒がし、田中の背筋を貫いた。 だが当然、間に合わなかった――。 ――次の瞬間、田中は見てしまった。宮間が"両手"に握り締めているのは、特殊警棒などではなく――8オンスのネイルハンマーだったっ!「くたばれっ!」 宮間の叫び声の直後――田中の体はコンクリートに叩きつけられるように沈んでいった。こめかみを中心に猛烈な頭痛を感じ、アゴが痺れたように動かなくなった。「思い知れっ!」 次に背中。『助けて』、『許して』と言う間もなく――「二度と《D》のっ、名古屋の街に来るんじゃねえぞっ!」 今度は右膝に激痛が走り、そして左膝……。そこで、闇が訪れた。――――― 何度目かの発信の後、ようやく川澄との電話が繋がった。携帯電話のバッテリーも残り少なく、こちらの状況もできるだけ伝えておきたかった。『……こちらは無事です。"聖女"も、確保しました』 岩渕誠は安堵した。しかし安堵はしたものの、未だ状況は改善されていない。「そちらはどうです? 何かありましたか?」「……《F》はパニックだな。宇津木もかなり混乱している……俺から携帯電話を没収するのも忘れて、ついさっきツカサと一緒に倉庫へ放り込まれた……簡易トイレだけ渡されてな、まぁ……監禁状態だな」『あははっ、最高ですね』 川澄の笑い声が電話越しに倉庫に響く。……相当に上機嫌だな、コイツ。「笑うな、こちらはお前と聖女様待ちだ。早く来てくれ」『了解です。今――ノビてる田中さんを縛り上げてる最中ですので、終わったらすぐにそちらに向かいますよ……』 急に川澄の声が小さくなり、電話の向こうでガサガサと物音がした。「田中か……どうやってヤツを止めた?」『いや~……あのですね……ははは……』 しばらく沈黙があった。何か言いたくない事情でもあるのだろうか? 思いあたることはひとつだけ、ある。「川澄――お前、誰か連れて来たろ? 鮫島さんは確定だとして……ひょっとして、宮間も一緒か?」『三分の二、正解』「……やはり、京子も……一緒か」 今回の件に関し――岩渕が最も関わって欲しくなかった女の顔を思い浮かべる。クソッ、川澄の野郎、ふざけやがって……。 だが、鮫島を連れて来てくれたことは僥倖だ。岩渕は視線を倉庫の隅に移し、木箱の上で静かに座るツカサの顔を見つめた。少年は疲れたように微笑んでから、心配そうに岩渕の顔を見つめ返した。……こんな状況で、よく泣きもせず耐えていると思う。岩渕は小声でツカサに「もうすぐ鮫島さんが来てくれる、安心しろ」と軽く手を振った。『……ところで、アレの件なんですが……』 電話から川澄の、歯切れの悪い声が聞こえた。「アレって何だっ?」『ほら、"澤社長を煽るな"って話ですよ……』「ああ、頼みごとばかりして悪いが、頼む。ヘタに挑発すると、ここの《F》の家や敷地も全部、火の海になるのがオチだからな……」『ごめん。それ、ムリっぽいか――』 川澄が言葉を言い終わるか、終わらないかの間際、突如――電話の向こうで激しく風を切る音が鳴り響いた。非常に独特で、モーターとエンジンを足して割ったような、機械的で、強く、規則正しい……考えるまでもない、これは……まさか……。「ヘリかっ? 川澄っ! 社長はエアロスを呼んだのかっ? アイツらは大型ヘリも複数もってるはずだ。何機だっ? 何機飛んでいるっ?」『あ――……3機、ですね。そちらに向かって低空飛行中みたいです。ヤバイなぁ……』 そこで、電話の充電が切れた。「畜生――っ!」 窓のない狭い倉庫の中で、岩渕は呻いた。自分の想像する最悪の結末が脳裏に映り、胸が押し潰されてしまいそうだった。「岩渕さん……ここの人たち、どうなっちゃうの? ヒカルさんや、家政婦のおばちゃんや、おじいちゃんたち……みんな、本当は優しそうな人たちだよ?」 ツカサの目に、大粒の涙が溢れて流れる。 岩渕は強く奥歯を噛み締め、「……何とかする。何とかしてみせる」と言うことしかできなかった。それしか言葉が思い浮かばなかった……。――――― 鮫島恭平に付き添う形で、京子がハイエースの車内を覗き込むと――そこには、両手と両足をビニールの紐で縛られた"聖女"の姿を発見した。彼女は声を震わせて泣いていた。 ああ……なんてことを……。 彼女を見た時、私はショックを受けた。言いたいことがあったはずだった。なぜ、岩渕と《D》を騒動に巻き込んだのか? それを問いたい気持ちもあった。けれど、今、京子の口から出たのは、"聖女"を責める言葉ではなかった。「ああっ、大丈夫ですか? ケガはありませんか? どこか痛むところはありますかっ?」 そう言って彼女に駆け寄り、紐を解き、ギュッと強く抱き締めながら、京子は自分自身の言葉に驚いた。「……私は……あなたを……」 京子の腕の中で、ヒカルは泣きながらそう繰り返した。「私は……あなたを……」「何か理由があるのでしょう? だからもう、泣かないで……」 ヒカルを抱き締めて私は言った。「岩渕さんとツカサ君さえ返してくれるのなら、私はあなたのしたことをすべて許します。話も聞きます。だから、ね? もう泣かないで……」 そう。京子は気づいたのだ。感覚的に、直感的に、理解したのだ。 "聖女"は自分と同じ人間で、誰もと同じ弱い心を持ち、だからこそ、誤った選択肢を選ぶこともある。善悪の問題ではないのだ。彼女は、ただ"聖女"であろうとしただけなのだ。 ヒカルは目に涙をいっぱいに浮かべて京子を見つめた。そして、「私は……伏見宮様、あなたに憧れていた……あなたのようになりたかった……あなたと同じように……誰かに必要とされたかった……恵まれない誰かのために、役に立ちたかった……」と言った。 私はもう一度、ヒカルを強く抱き締めた。京子の瞳にも涙が溢れ、彼女の顔が、たちまち涙で見えなくなった。――――― 三人に隠れるようにして行っていた岩渕との通話を切り、川澄奈央人は長い息を吐いた。目の前には、涙を流す姫君の腕の中で、同じように泣きじゃくる聖女の姿があった。 憧れが嫉妬に変わり、尊敬が敵対に変わる。よくある話ですね。 川澄は思った。 《D》の姫君と同じになりたいと願った聖女は、不相応かつ不可思議な神通力をでっち上げ、《F》を創設。何らかの形で、いつかは《D》を超えたいと願った。いつかは姫君を超えたいと願った。意味のない努力……滑稽な話だ。 川澄は思った。 その聖女を手助けした男もまた、聖女と同じく、実に愚かな男だ。 宇津木聖一――。 幸か不幸か、彼の人生こそ、"フィラーハに翻弄された人生"といえる。僕の価値観では到底理解できる生き方ではないですが。 さて、もういいでしょう。この物語にも飽きてきました。残るハードルはひとつだけ。高い高いハードルがひとつだけ……。ですがその前に、聖女には伝えておかなくてはならないこともひとつだけ……。 姫君の腕の中で泣きじゃくる聖女の耳に、僕はそっと囁く。「あなたの支持者である宇津木聖一さんは、名前を一度を変えているようですね。わざわざ家庭裁判所に行って手続きした彼の旧名は、宇野俊夫。ウノ・トシオさん。聖女様、この名前に聞き覚えはないですか?」「……本当、なの?」 その返事に僕は満足し、ゆっくり深く頷く。「本当です。さあ、僕らを《F》の場所に案内してくれますね?」 そう言って僕は、傷ついた女性を優しく慰めるように、楢本ヒカルに――本来なら宇野ヒカルと名乗るべき女性に、優しく微笑みかける。――――― 『聖女のFと、姫君のD!』 k(最終回)に続きます。 今回オススメはもちろん? sees大好きaiko様……。 aiko様。seesの青春を共に過ごした憧れの人。 未だに歌唱力もスタンスも体力も衰えがなく……やはり少し地味ながらもすごい人です。 何年かに一度アルバム出してはいますが、もちろんツアー公演も大切でしょうが、やはり曲作りは積極的にしてほしい……。 名曲多いわ。ホント。 雑記 お疲れ様です、seesです。 最近はいろんな他業種の方とお話したり、仲良くさせてもらってますが…やっぱり世間は増税とかの話や不景気の話ばかりですね……。 とりま今話題なのは……やはり「健康増進法」ですね……。 4月からどうすんのかなウチの会社。……工事決まるのなら早く決めてくれ……旅行にでも行きたいしww さてさて、まあ―田中氏との話に決着がつき、いよいよ次回に最終話を持ってこようかと考えている次第です。そう。澤様との最終決着の話です。変わった者と変わらない者、それぞれの意識と理想、善悪の区別のない、純粋な想いのぶつかり……。実を言うと、次回の話が作りたくて、この「聖女D」をはじめた次第です。最終話、青いかもww 宇津木氏の名前のくだりはaパートからすでに「トシオ」として登場していたのですが、まあ思い出せる人はいないかもですね……。ここら辺は某感動系短編マンガからヒントを得て作成……ていうか、こういう作り込み個人的に大好き。 最終話のエンド後のパートには……ズバリ、『今回の騒動に便乗しての、川澄氏の隠していた"個人的"目的』です。ままま、『よくある映画のオチ』みたいな話を用意していますので……seesの小話に興味のある方はぜひぜひ…ご賞味くださいませww 私、seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いた します。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『ホラー映画診断』先輩A 「sees君てさ、ホラー映画だと……20分は生き残れるね」 ???sees 「いやいやいや、何で20分?」先輩A 「sees君てちょっとコスいし、主人公タイプでも、ヒロインタイプでもないし」 失礼なやっちゃな……。sees 「ちなみに、A先輩は何分すか?」先輩A 「アタシは~5分かなwwカップルで~、イチャイチャ中にヤられる奴www」sees 「……幸せな最後すね」 ―――――sees 「……B先輩は……90分、生き残れそうですよね?」Bパイ 「……?」sees 「実は……コレコレこういう話でして……」Bパイ 「いや、スプラッタ系なら10分やけど……パニック系なら、ラストまで生きるで」 ???――あっ、これダメなヤツだ。 ――――― sees 「お前さんは……エンドロールまで死ななそうやな……」同僚c 「ダメダメ~俺なんか、最後の最後で裏切られて死ぬか、裏切って死ぬかの2択ww 一番最悪なヤツ」sees 「ww」 確かに……マジメで優等生でイケメンでも、最後まで生き残れる条件て、難しい もんやな……。同僚c 「でも安心しろsees、お前がゾンビになったら、俺がすぐに殺してやる」sees 「――何が安心っ? そっち系の話の映画っ? ワシ、同僚にヤられるのっ?」 しかし――…… 上映開始から20分で死んで、その後はゾンビになって同僚に殺される――みたいな 評価のまま――世間話が終わるワシって、いったい(´;ω;`)ウゥゥ 😢了😿 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2020.02.18
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから 10月10日――午前10時。 田中陽次は《F》の敷地の端にあるベンチにうずくまっていた。広大な芝生の中心では、ちょうど彼の息子くらいの歳の子供たちが楽しそうな歓声を上げて遊んでいた。洋館のところでは使用人らしき中年の夫婦が洗濯物を干し、居住区の隣にある小さな畑では老人たちが土をいじって談笑していた。 田中はそんな人々の姿をぼんやりと、力なく眺めた。 ここ数日、田中は自分が何をしていたのかよく覚えていなかった。もちろん、職場には一度も行っていなかった。何度も電話が鳴ったが、それにも出なかった。田中は数日前、《F》の代表である宇津木から『このカネを持って他県へ行き、しばらく身を隠せ』という命令を受けた。胸のポケットの中には300万ほどの現金が入っていた。《D》の川澄からカネを奪い、宮間を痛めつけ、時計を破壊したことの影響だと宇津木からは説明を受けたが、納得はしていなかった。その命令を下したのは"聖女"であり、協力してくれたのが宇津木本人だったからだ。……畜生、ふざけやがって。 宇津木と"あの"川澄が裏で糸を引き、この《F》を解散させようとしているのは何となく知っていた。川澄が『岩渕に会える』とでもして伏見の……よくわからない女を連れて《F》に来て、それを《D》の社長に知らせ、奪い返しに来るように仕向ける……そういう計画を立てているのは知っていた。 確かに、俺は《D》の連中にとっちゃ目の仇だろうし、それぐらいのことをした。だが、そんな程度のことで、そんな300万ぽっちのカネで《F》を退場させられることに納得できるワケがなかった。 岩渕とかいう男の待遇が良いのも、いずれ来る《D》との示談を円滑に進めるためだとか何とか……俺がせっかく川澄から奪ったカネも、そのままヤツに返すだとか……ふざけやがって……。《F》がなきゃ、俺の人生は終わりだ。名古屋に帰れば、待っているのは警察の手錠しかない。このまま《F》に寄生しつつカネを稼ぎ、ほとぼりが冷めたころに戻るしかない。「……畜生っ ……いったいいくら貢いできたと思ってやがる……」 田中は歯軋りした。ベンチの前を通りかかった幼い子供を連れた若い母親が、怪訝そうに振り返って田中を見た。「見るんじゃねえっ! 殺すぞっ!」 田中が怒鳴ると、子供を連れた女は小さな悲鳴を上げて逃げるように走り去った。 こうなってしまったのはすべて、宇津木のせいだった。いや、宇津木と、"聖女ヒカル"――そのふたりのせいだった。 そうだ。"聖女"だ。 宇津木からはカネをもらった。なら……ヒカルからも……。 そう。次はヒカルからも何か褒美をもらわなくてはならない。いや、宇津木以上の褒美を、この"聖女"から――自分は祈りだけ捧げて命令するだけして、汚れ仕事のほとんどは俺や若手の男どもに押し付け――さらに、一方的に《F》を解散するからと微々たるカネで縁を切ろうとする女には――相応の奉仕をしてもらわなければならない。「……一生、俺の奴隷として使ってやる……覚悟しろよ? ……ヒカル、お前は俺のモノとして……一生、俺のために"神託"を使え……」 小さく呟くと、田中は拳を握り締めてベンチから立ち上がった。怒りと興奮に顔がプルプルと震えた……。――――― 過去のものから遡ると、"神託"には実に様々な事象がこと細かく丁寧に書かれていた。それはまるで――学生に物事を教える学校の教科書のような作りで、稚拙だがイラストまで添えてあった。いや……少し違うな。これは……オーディションだ。 宇津木が"聖女"に紹介した信徒の選抜。選ばれた社会不適合者たちの情報……。 岩渕誠は思った。 本当に救いたい女ひとりのために集められた生贄……か。『●月✕日。妊娠中らしき女性が夫、夫の義父、夫の義母から激しい暴力と罵倒を受けていた。女性は顔に青アザができ、泣いて許しを懇願しているように見えた。夫たちの話を聞いていると、どうやら女性の不貞行為を疑われているようだった……』『●月✕日。初老の男がスーツ姿の女性に激しく詰問している様子が見えた……。女性は薄ら笑いを浮かべ、男は顔を真っ赤にして怒っていた。話を聞いていると、スーツの女性は生命保険の外交員で、男性は「話が違うっ!」とまくし立てていた。やがて制服姿の警察官が到着し、男性は連れていかれてしまった……』『●月✕日。家族らしき男女4人がひとつのテーブルを囲んで座っていた。母親は泣き、父親は沈黙し、兄妹は顔を真っ青にしていた。テーブルの中心には、手紙らしき紙切れが複数枚置かれていた。手紙には……"もういじめにたえられない、ごめん、さようなら"とだけ書かれていた……』『●月✕日。漫画喫茶の個室の中で、ソファに寝転ぶ若い男が見えた。男は体をエビのように折り曲げて、目を閉じ、ひたすらブツブツと何かを呟いていた。聞いてみると「……なぜ……なんで、俺がこんなメに……どうして……どうして……どうしてなんだよお……俺が何をした? ……俺は何もしていないのに……俺は何もしちゃあいないのに……何もしていないのが、罪なのかよお……」男はただ、呟きながら涙を流し続けていた……』 おそらく、ヒカルはこの"神託"によって《F》の信徒を増やし、利用し、勢力を高めていったのだろう、とは思う。彼らを救いたいと願う気持ちに、嘘がないのであれば。 ――《D》。 これか……。 岩渕の視線はそこにあった《D》という文字に釘付けになった。 罫線の引かれたノートのページには、いたるところに《D》という文字、もしくは《伏見宮》の文字が躍っていた。『《D》の川澄が《F》の田中からカネを脅し取られていた。悔しい。このカネは貧しい人々に分け与えるべきものだと、《D》に理解させる必要がある』『《D》の連中がコメダ珈琲店の葵店で談笑していた……コイツらは何もわかっていない。社会には、正さなければならない惨状が数多く存在している事実をっ!』『なぜ、そこに伏見の姫様がいるのかはわからない。わからないけれど、《D》の連中と同罪なのは変わりない……』『川澄の隠れ家らしき倉庫に本人が入り、多額の現金を掴み取る……このカネが、本来、田中を経由して《F》に運ばれるカネであることに間違いはない……』『《D》の宮間有希が取引先の会社のビルから出て、近くのパーキングに停めた車に乗り込み発進する。……汚れたカネを握り、汚れたヤツらに配り、汚れた《D》のために使う、汚れた《D》の女……こいつには多少の痛いメを見せる必要がある……もちろん、伏見の姫も同罪だ。同罪だ。同罪だ……』『《D》の鮫島恭平の息子と、《D》の岩渕誠が病院を出て、《D》名駅前店へと移動する……。鮫島の息子は楽しそうに笑い、岩渕も笑っていた……。世間に溢れる悪意と絶望の量すら知らず、貧しさから医療も受けられない人々を嘲笑するような笑いだ……。当然、許されるはずがない……。息子のツカサはともかく、父親の鮫島には、それなりの恐怖を、身を以って体験してもらうことにする……もちろん……伏見の姫、いいや、伏見宮京子にも、"大切な人を奪われる苦しみ"を少しだけ体験してもらうことにする……』「わざとらしいくらいの"煽り"だな……」 そう呟いて岩渕は、また次のページをめくろうとして――手を止めた。 ……なぜ、ここまで《D》への敵愾心を煽るような書き方をする? まるで故意に《F》と《D》を対決させようとする宇津木の真意がわからない……。考えられることが、ないワケじゃあないが……推測としては少し、現実味がなさすぎる……。 少考してから、岩渕は次のページをめくった。似たような文言が続き、《D》社員たちの個人情報らしき詳細、《F》のヤツらがした行為の根拠や状況の"予測"が記されていた。いつくかのページをめくり続け、その時――。 不自然な、まるで整合性のとれない、曖昧で、あやふやな――まるで人の夢の中をそのまま文章化したような――そんな"神託"を見つけた。見つけてしまった。「……嘘、だろ?」 明らかに宇津木の差し金でない内容に、岩渕は戦慄した――。『辺りを見回すと、そこには大勢の人々がいた。時間は夕暮れ、景色はオレンジ色に染まり、人々の顔には影が差し、誰が誰かはわからない。 私は影の差す人々の顔をのぞき込んだ。そこには……同じような黒いスーツを着て、私を取り囲むように立ち並び――怒りと軽蔑の眼差しを向ける男や女の顔が無数にあった。 怖い。本当に怖かった。……本当に。 人と人との間に見える向こうに、倒れて動かない別の人々が見えた。芝生の上に倒れているのは大人だけではなく、老人や子供もいる。学生らしき制服を着た若い少年や、妊婦らしきお腹の大きな女性もいた。 私は神の名を叫ぼうとした。だが、まるで金縛りにでもあったように、口はおろか、体もまったく動かせなかった。 ……助けてください、フィラーハ様。私を……どうか……どうかお救いください。 私は祈った。祈り続けた。 次の瞬間、私の周囲から、豪雨のような罵声が浴びせられた。『下劣な詐欺師女っ、死ねっ!』『イカれた犯罪集団めっ、消えろっ!』 全身を戦慄が走り抜ける。恐怖に目を見開いて両手を握り、天を仰いだ。『死ねっ』 黒いスーツを着た大勢の人々が自分をなじり、けなし、罵声を浴びせ続けた。『死ねっ』 スーツを着た人々はジリジリと歩みを進め、少しずつヒカルを包囲していく。『死ねっ!』 恐怖に凍りつきながら、うわ言のように繰り返す。夢であるはずなのに胃が痛む。「……助けて……フィラーハ様……誰でもいい……誰でもいい、から……」 その時――罵声を続ける男女の壁の隙間から、ひとりの男が姿を見せる。『……うんざりだっ! もう、たくさんだっ! こんなことをして何になるっ? 俺たちはっ、何も変わらねえじゃねえかっ!』 それは……投げやりで、乱暴で、とても……とても力強い声だった……。 黒いスーツを着た男女……? 倒れている人々……? 岩渕には、そのスーツの集団や、その集団に倒された人々の正体がわかりかけていた。そう。それは……。 けれど、岩渕は認めたくなかった。それが現実に起こるのなら……俺は……澤社長と……敵対する行為に他ならなかったからだ……そんな野望を抱いていたことがないと言えば嘘になる……でも、こんな形で……でも、そうしなければヒカルや、《F》の連中は……。 震える手で、そっとページをめくる。 そこには――何も書かれてはいない、白紙のページだけがあった。しかし――最後の文章はヒカル自身が作った妄想か、宇津木の作った計画かはわからない……。 カラカラになった唇を嘗めながら、最後のページを見直し、目を凝らすと――ノートの中心に紙の切れ端が見える。一枚、ノートは破られ、持ち去られていたようだった。持ち去ったのはもちろん――"聖女"だろう。「……破いて持っていきやがったか」 もう一度、唇を嘗めてから、「"聖女"は……いったい、何が望みなんだ?」と呟いた。 そこに――。 そこに、女の悲鳴が鳴り響いた。―――――「エアロスを呼べ……大型ヘリ3機や」 社長室に入った総務部長である熊谷に、澤光太郎は自分の考えを伝えた。 直立不動で顔を青くし、目を丸くして熊谷が澤を見つめる。その優しげな顔には、不安と困惑が浮かんでいる。「……総務と営業で20人連れて行く。お前は総務の残りと後で来い。……営業車は全部使ってエエぞ」 そう。宮間の報告にあったこと――。 川澄が宇津木とかいう成り金と"勝手に示談の交渉"をしたこと。 楢本とかいうクソ聖女の精神治療のために《D》を利用しようと計画したこと。 ……そもそもだ。そもそもカネの力だけで《D》を利用しようとしやがったこと。 許せるハズがねえ。そンなくだらねえ理由で、こちらの仕事を停滞させやがって……。「社長……川澄君は穏便に事を済ませようとしていただけ、なのかもしれないですし……」 熊谷は今にも泣き出してしまいそうだ。「なにとぞ、冷静に、落ち着いて……」 澤は無言で唇を噛んだ。戦うことを恐れているわけではなかった。自分にとって、《D》は人生のすべてだった。それを汚されたような気がした。 ナメられるワケにはいかなかった。周りの嘲笑や愚弄は、力で制してきた。そうだ……守らなければならない……どんなことをしても……どんなに汚いことをしても……どんなに卑劣な行為をしてでも、《D》だけは守らなければならない……。『――やっつけて。《D》の敵は、すべて、やっつけて……おじちゃん……』 澤はさらに強く唇を噛んだ。「社長……話し合いの場を持たれてはいかがですか? 岩渕君も鮫島の息子さんも無事なようですし……」 直立する脚を震わせ、両の掌を広げながら熊谷が言った。「……慰謝料の請求も青天井らしいですし……ここは、ひとつ一考してみては……」『……お願い、だよ? ……やっつけて……やっつけて……サワの、おじちゃん……』 デスクの椅子の上で腕組みをし、澤は自身の肩に触れる少女の――かつて、本当の娘のように愛した少女の手を見つめた。そして、それが幻覚であることも、それが幻聴であることも、すべて理解した上で――話を続けた。「……重量制限もあるからな……"盾"は諦めるが、"棒"は人数分持って行く」「社長っ!」 叫ぶ熊谷の顔を見る。頬が上気し、鼻息も荒いが、それでも、熊谷の顔は優しげだった。「……宇津木の計画に乗ってやるだけの話や。ただ、ヤツの考えている以上のダメージを《F》にくれてやるだけ……何も《F》全員を皆殺しにするわけやない……」「……わかりました……ただ、くれぐれも……過剰な報復は……私は……もう、あなたが、誰かと争い、奪い合う姿は……見たくはない……」「……この稼業、ナメられたら終わりだ。そんなことぐらい、知っているやろ?」「……はい。そうして、私とあなたは、名古屋の水を飲み続けた……だが……」 澤は立ち上がると、共に《D》を創業した戦友の脇に行った。そして、歯を噛み締めて震える男の背をポンと叩いた。 ……岩渕は変わった……あの姫と出会ったことで。ヤツだけではない、宮間も、鮫島も、この熊谷も……だが、俺様だけは変わらねえ。……変わってたまるかっ! 総務と営業の部署が入るフロアに入ると、澤は大声で叫んだ。「――先着20人だっ! 臨時ボーナスをくれてやるぞっ!」 歓喜の悲鳴が、 覚悟の叫びが、 闘志の咆哮が、 戦いを告げる鬨の声が、《D》に響く……。 守る。守り続ける。そうやって、守ってきた。なにもかもだっ! ……お前も、そう思うだろ? ……佳奈? 心の中で名前を呼んだ少女は――澤の目の前でニコニコと笑っていた……。――――― 礼拝堂の清掃を終えた時、入り口の扉が閉まる音がした。誰か来たらしかった。「誰ですかー?」 掃除道具を片付けながらヒカルは言った。返事はない。 片付けが終わり、入口に向かって「もうお祈りの時間は終わりましたよ?」と問いかける。腰をさすりながら、「よいしょ」と掛け声をかけて礼拝堂の入口に向かう。 そこには、田中陽次が立っている。「あっ、田中さん……」「ヒカル様、ちょっと、いいですか?」 田中の声はひどく低く、かすれていて、とても聞き取りづらかった。「宇津木さんは、ここにいますか?」「今は、館におられると思いますけど……あの……大丈夫、ですか?」「……こい」「え? ……田中、さん?」「俺と来てもらう、こんなシケた場所とはおさらばだ」 そう言うと田中は後ろ手で礼拝堂の扉を閉め、ドアに鍵を掛けた。そして、ポケットからビニール製の縄のようなものを取り出した。「私に何の用ですっ! ふざけないでくださいっ!」 思わず後ずさる。「宇津木さんに連絡しますよっ!」 田中がバックから出した物を見て、ヒカルは悲鳴を上げた。男はゴツゴツとしたその手に、鋭利な出刃包丁を握っていたのだ。「聖女様……いや、ヒカル……俺のものになれ。逆らうのなら……」 田中は充血した目でヒカルの胸や下半身を見つめてそう言うと、脂ぎった顔を不自然に歪めて笑った……。――――― 電話の向こうで、岩渕は取り乱していた。「どうかしましたか?」『大変だ。ヒカルが……"聖女"が連れ去られた』「へえ……それは、おもしろそうですね」 心臓が高鳴り始めるのを感じながら、川澄奈央人は友人とじゃれあうかのように言った。『犯人は田中陽次だ。こっちは大変な騒ぎになってる』「田中さんねえ……そうですかそうですか……」 瞬間、時が止まり、脳が勢いよく回転した。 岩渕の声は震え、話を理解するのに苦労した。礼拝堂の掃除を終えた"聖女"は、突如現れた田中陽次に体を拘束され、用意された車に連れ込まれ、《F》の敷地から出て行った。 田中は先日、宇津木から《F》の離脱を宣告され、心身ともに錯乱していた可能性があり、しかも、ヤツは前々から"聖女"に対し不敬な欲望を抱いていたことも発覚――このままでは彼女の身が危険と宇津木が判断し、岩渕さんに相談、僕に電話が回ってきた、みたいなことですか? まったく、客人待遇に気を緩めすぎでしょ? 相変わらずですね、岩渕さん……。「でー……どうします? 放っておきますか?」 わざとらしく僕は言う。彼がそんな人間でないことは、僕が一番よく知っている。そう。知っていて、きく。これから彼が僕に提案する内容も、察していて、僕はきく。『……ヤツは車で、茶臼山の国道46号線を北上するルート、らしい……46号線は岐阜県や名古屋に繋がる一本の山道だ。だから――』「奇遇ですねえ……僕も今、46号線に入ったところですよ」『宇津木からきいた……お前も、もうすぐここに来るんだろ?』 まさか京子様と一緒だとは夢にも思っていないのだろう男の声に、僕は得意げに言う。「……僕にヤツを止めろ、と? タダで? 無料奉仕しろと?」『当たり前だろっ! できることなら、助けてやれっ!』 岩渕が怒鳴った。……ああ、しかたがないかな、と思う。 それに――……。 フィアットの後部座席から、伏見宮京子が詰め寄った。「その電話の相手――岩渕さんじゃないですか?」 とりあえず彼女のことは無視し、電話を切る。電話を切る瞬間に、岩渕から『京子?』という声を聞いたような気もするが、まぁ……どうでもいいか。「ちょっとっ、川澄さんっ、人の話を聞いてますかっ?」 今度は姫様が怒り出したので、僕は慌てて電話の電源を切り、スーツの胸ポケットに押し込む。怪しむ視線を向ける姫様を無視し続け、僕は――彼女の隣に座る女に、今日最高の笑顔を向けた。「どうやら……見せ場が向こうから来るみたいですよ? ……宮間先輩?」 宮間と呼ばれた女は、携帯電話をいじる手を止め、嬉しそうに微笑んだ……。――――― 『聖女のFと、姫君のD!』 i に続きます。 今回オススメはもちろん? sees大好きSALU様……。 SALU……。 あまりヒップホップの音楽の嗜みのないseesですが、この方の曲のみはよく聴く。ダウンロードばかりで申し訳ないけれど( ;∀;)『ヒップホップのカリスマ』と呼ばれて数年ですが、やはり存在感は群を抜いて素晴らしい……。曲のテンポ、流れるような歌詞、比較的覚えやすいリズム……完璧す。甘えたような歌唱も、見た目も、ホント……非の打ちどころのないラッパーです。 皆様も一度くらいは聞いてみて下さい。惚れてしまいます……。 KREVAさん以来だわ、この感動……。 車の中で聞くと最高。 雑記 お疲れ様です。今回もお話も少し長めです。いろいろとFの事情を語っていくのはいいんですが、その度に説明する展開をどうしようか模索中……結局、なんだか読者様がたおいてけぼりな感があって……正直、ごめんなさい。 近況報告も特にないなあ……寂しいけど、平和が一番、なのかなあ(*^。^*) ていうか、次回のDの話の妄想が膨らみすぎてヤバイ……どうせなら、映画風に告知してしまおうかと画策中…具体的には、「聖女D」の最終話にて公開いたしますww さーて次回のお話ですが、ようやっと澤社長の再登場と、田中氏のくだりの終わりが見えてまいりました。どう決着をけるのか、見ものですよ~。まぁ、たいしたことは何もないのですが(^_^;)(^_^;) 最終話……果たして、岩渕氏はどうーなってしまうのか?? いや~seesも楽しみですっ!! 私、seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いた します。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『思い出し泣き』sees 「う……ううぅ」 最近……思い出し泣きをよくするseesです……。 昔見た映画や漫画やアニメを思い出しては泣いています。そう。 今日もまた……。後輩 「せっ、先輩っ? どうしたんスか? 急に泣きだして、何かあったんスか?」sees 「いやね……実は、かくかくしかじか」後輩 「……あの~……今、運転中ですよ💦」 そうだった(-_-;)テヘヘ そうやった。今は岐阜に向かう車の中で高速移動中やったっけww後輩 「……こういうこと、よくあるんスか?」sees 「いや……最近」後輩 「ビックリしましたよ……いきなり号泣するもんだから……」sees 「すまねえ……」後輩 「……しっかりしてください。次のPAで運転交代しますから……」sees 「アイツラ(会社の人)には黙っといてちょーだい」後輩 「……ムリすね」 なんでやねんっ!! しゃーないやん。こんな退屈な運転……。それに……思い出してまうんやから」後輩 「……何を思い出し"泣き"してたんすか? ていうか、聞いてもいいですか?」sees 「引くなよ? 笑うなよ? 楽しい話じゃあないぞ?」後輩 「はぁ」 たぶん、後輩はseesの過去の失恋やら別れやらの話を想像している様子だが、 違うんだよなぁ……。sees 「……ロボコップ3、ルイス巡査との別れのシーン。それに……ロミオと青い空 でアルフレドとの死別のシーン……後、ローガンでウルヴァリンの最後の――」後輩 「アニメとアメコミかよっ!!」sees 「うう……思い出しただけで……うう、泣けるぅぅ……」後輩 「……(昔のアニメの最終回で泣く人?みたいな? はじめて見たわ……)」 後日、このネタを同僚に話したところ、返ってきた答えは……。 「知らない」もしくは、「覚えていない」のふたつのみ。マジきゃ? 了 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2020.02.07
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから 登場人物一覧はこちらから 10月10日――午前8時。《F》から与えられた朝食を食べ終えるまで、給仕係であろう初老の女は一言も口をきかなかった。 きっと……何も喋るな、とでも命令されているのだろうか? 無表情で立ち尽くす給仕女の口元を見つめて岩渕誠は思った。 隣に座ったツカサも、元々は快活な性格だ。それが今は、給仕女の沈黙が感染したかのように、黙々と朝食を食べていた。 ……息が詰まりそうだ。 ダイニングの窓から流れる《F》の人々の声を聞きながら、岩渕は膝の上の両手を握り合わせた。 ……わからないことだらけだ。 この館に来てから何度も繰り返し思ったことを、また思わずにはいられない。 広大な敷地で集団生活する《F》の人々と――彼らが"聖女"と奉るヒカルという女。それがこの《F》という組織の第一印象だった。それは、情報としては少なすぎた。「……外に出られますか?」 朝食の皿を下げながら、給仕係の女が口を開く。優しげな声音だった。「いいのか?」 意外な提案に、岩渕も少しだけ警戒心を緩めて言った。「ずっと館に監禁されているものだと思っていたが、本当にいいのか?」「大丈夫ですよ、敷地内でしたら」 銀色の盆に食べ終えた皿を重ねながら、岩渕の顔は見ずに給仕女が言った。「もうすぐラジオ体操の時間ですし、それが終わると、次は"お祈り"の時間です。岩渕様、鮫島様、よろしければ、見学されますか? ご案内いたしますよ?」「ラジオ体操? そういえば……」 岩渕は窓の外に意識を向け、耳を澄ませた。懐かしい、あの音楽が微かに聞こえる……。 公園を思わせる芝生の上では、たくさんの人々が楽しそうにラジオ体操を行っていた。音楽とのタイミングが合わない者、うまく体を動かせない者も大勢いるために雑然とした雰囲気だったが、人々の顔には笑顔が溢れ、サボるような人間は皆無だった。芝生はよく整備され、ゴミはひとつなく清掃も完璧だ。 たぶん、楢本ヒカルは綺麗好きなのだろう。敷地の端には花壇が設けられ、白やピンクのダリア、バラ、パンジーなどの花々が乱れるように咲いていた。その周りには園芸用のレンガやブロックが整然と並び、背後には黄色い花を咲かせたキンモクセイが植えられていた。「……彼らは皆、聖女様に救われたんです」 給仕女がラジオ体操を続ける人々の群れを指さした。「聖女様との出会いがなければ、彼らの未来は絶望しか残っていなかったのだろうと思います……」「……アンタもか?」「ええ。実は私、長い間、腰に重い病気を患っておりましたが、聖女様に紹介いただいた病院で治療を受けたところ……半月で完治しました」 岩渕は息を飲んだ。「後で聞いた話なのですが、かつて私が通っていた総合病院はロクな診察や施術もせず、長期間患者を拘束するだけの悪質な経営方針だったようです」「……それは、聖女の"神託"とは関係ないんじゃないか?」「……疑惑や不信の目があることは存じています。ですが、聖女様は"見ず知らずの私を無償で、何の見返りも求めず、助けてくれた"、それだけで……私は嬉しかった」 岩渕は頷いた。そして、もしも、この給仕女の言うことがすべて真実なのだとしたら、"フィラーハの神託"と《F》は無関係なのだろうか、と思った。「……《F》の連中にとって、”神託”の真偽はどうでもいい? ……まさかな」 囁くような小声で呟く岩渕の言葉を、聞いているのかいないのかはわからないが、給仕係の初老の女は優しく微笑んだ。 案内された”礼拝堂”は敷地内にある居住区に隣接した、一般的な平屋住宅のような建物であった。屋根がなく、窓もない、遠目に見るとまるで”箱”のようなデザインをしている。 礼拝堂の外壁にはモダンな感じの白いタイルが張り巡らされている。洒落たようにも見えるが、コンクリート製の安普請であるようにも見える。 扉の脇には金属製のプレートが掲げてあり『礼拝堂』とだけ書かれている。 ……ここで、ヒカルは何をしているのだろうか? 何げなさを装いながら、礼拝堂の扉の前に立つ。給仕女に「中に入っても?」と問うと、女は静かに目礼した。女が言う。「正面奥にフィラーハ様の肖像がございます……現在は”お祈り”の最中ですので、岩渕様もお静かに……」 あっ。 瞬間、心臓が飛び上がった。 両手を固く握る人々の座るベンチの向こうに――天窓から陽光の射す祭壇の中央に鎮座する楢本ヒカル。そして――彼女の頭上に掲げられているモノ――それは……。 ……本人の肖像画? それにしては鮮明すぎる……写真か? ……似ているが、本人の写真ではない……ようにも思える。 まさか――母親、か? 心臓を激しく高鳴らせながら、祭壇上の写真に目を奪われ続ける。思考がうまくまとまらず、原因不明の汗が流れ落ちる。背後にいた給仕女が再び口をひらく。「ヒカル様は先祖代々続く祖先崇拝の一族の末裔です。……処女受胎によって後継の”聖女”を出産した後、絶対神フィラーハ様へと転生され、我ら《F》を導く、とされています」「……」 岩渕は無言のまま扉を締め、礼拝堂の外へ出た。 わかったことはいくつか、ある。けれど、岩渕にとって重要な懸念はひとつだけだった。 ……似ている。 天照大御神を祖先とする伏見宮家。皇族における神道と――代々を祖霊、神として崇める絶対神フィラーハの教え――……。 いや……違う。やはり……違う。なぜなら……。「”フィラーハ”は神様じゃあない。ただの人間で、ただの母親だ……そのはずだ」 そう。”聖女”の予知、未来を変える力にも、何らかのカラクリがあるはずだった。 給仕女が岩渕の横に立ち、ひとりごとのように、「……そんなことは、別にどうでもいいことです。ヒカル様がフィラーハ様の”聖女”であろうとなかろうと……《F》の”聖女”であればいいんです……大切なのは、それだけです」と言う。「……?」 何と言っていいのかわからず逡巡する岩渕の顔を見つめ、女が続けた。「もし、あなた方《D》が大挙して《F》に乗り込んで来たとしても……我々は、ヒカル様を全身全霊を賭けてお守りするだけです……」 ありえない……ありえないのだ。そんな結論に至る者の思考そのものが、ありえない。 だけど、だけど……ありえるのだっ! 瞬間、岩渕は女の思いを痛切に感じた。 そう。自分がこの女で、ヒカルがもし、もしも……京子であったのならば……。 無意識のうちに拳を握り締めた。 その時、中年の男の声が岩渕に声をかけた。「……岩渕様、少し、よろしいですか?」 岩渕は振り向いた。そして、”すべて”を教えてくれるだろう、男の顔を凝視した。――――― 午前9時――。「失礼します」 宇津木聖一が館の執務室に戻るとすぐに、部屋をノックする音と共に声をかけられた。相手が誰かはわかっているので、「どうぞ」とだけ声をかける。 入ってきたのはグレーのスーツを着た男がひとりだけだ。腕には書類らしき冊子が数冊抱えられている。彼は私が個人的に運営する企業の社員で、名前は……忘れてしまった。 緊張しているのか、それとも室内の”違和感”が気になるのか、若い男は困惑げに表情を歪めながら「……宇津木様……これは?」とだけ言葉を発した。「気にしなくていいい」 掌をパーにして男の動向を制止し、穏やかな口調で宇津木はきいた。「……ところで、例のモノは?」「……はい。無事、完成いたしました。これが……新しい、”神託”です」 しっかりとした口調で男が答えた。おそらくは、何も問題がないのだろう。”不可能な事象”や”天変地異”、”過度な願望”を極限にまで削った――人間の限界を示す書、が。「デバック作業や、必要経費の計算は?」 宇津木は男に確認しつつ、それとなく”違和感”のほうにも目を向ける。「……問題はありません。どれも予算値内です。イレギュラーについては段階的に予算値を再計算してあります……ご安心を」「《D》に関しての慰謝料は?」 私の言葉に”違和感”が目を丸くする。男のほうは身じろぎもしない。報告を続けるうちに緊張も解けたようだ。「なるべくなら示談の成立が最良ですが……そうもいかないのでしょうね」「……すみません。そちらの計算はまだ……あの……自分ごときが口を出すことではないのですが……」 男が心配そうな……いや、理解できないというような顔をして言う。当然だ。それが当然の反応だ。「……何です?」 当然、”違和感”は何も言わない。当然、男が話を続ける。「……あんな、あんな《D》のような企業に億単位の慰謝料が必要ですか? 条件次第では、せいぜい1千万程度の賠償と謝罪で済む話だと思いますが……」「そうですか? 詳しいことは精査してみますけれど……彼ら《D》を甘く見てはいけませんよ? その気があれば、彼らはこの地を焼き滅ぼすこともするでしょう……」 宇津木はもう一度、”違和感”に向けて視線を向ける。だがもちろん、”違和感”は何も答えない。今度は男も答えない。ただ、困ったように私と”違和感”を交互に見つめるだけだ。 宇津木も困った顔をして、少しだけ微笑んでみせる。「それでは”神託”は預かります。ご苦労様、社に帰ってゆっくり休むといい……」 社員の男が執務室から出て行くと、それまで沈黙を守っていた”違和感”の顔に表情が宿った。それは強い驚きと疑念、そして深い憐憫――哀れみの顔だった。「……宇津木。ヒカル、さんのことだが……」「岩渕様。……本当に、本当に申し訳ありませんでした」 私が腰を曲げて謝罪すると、岩渕はまた驚いた顔をした。本当に、彼ら《D》には申し訳ないことばかりした。しかし、しかたがないのだ……それもこれもすべて――”聖女”を現実に連れ戻すためなのだから。「すべては、アンタの持つカネの力で成し得た事象だった、てところか?」「……はい。楢本ヒカル――彼女の不遇や貧困を、私は……黙って見過ごすことができなかった……」「なぜ、”聖女”に奉る必要が?」「”フィラーハ”は彼女の一族の……”呪い”だからです」「……呪い、だと?」「非科学的だと否定されるでしょうが……彼女の血筋が女系一族であることは事実です。彼女の祖先が何を企てていたのかまでは不明でしたが、先祖崇拝によって”予知”のような能力を行使していたのも判明しています……」「”神託”はアンタお手製の”企画書”だった……なら、ヒカルは何を見ているんだ?」「……彼女は夢を見ているだけなのです」「夢?」「はい……彼女は自分が理想とする世界に浸り、私が与えた”神託”を自分が受けた啓示と思い込み、自分が”聖女”であると誤認しているだけに過ぎません……」「……ヒカルは、そのことを知っているのか?」「いいえ……”神託”は毎日私が更新し、すべて完璧に実行してまいりました……。彼女はただ、”自分がフィラーハに神託を与えられ、それをノートに書き写すという夢”を見ているだけに過ぎません……精神に何らかの異常――疾患があるのでしょう……」 岩渕はフーッと長い息を吐き、目を伏せた。「なぜ、《D》を巻き込んだ?」「……彼女の、数少ない願望のひとつだったからです……」「……?」「伏見宮京子様――経緯は知りませんが、ヒカルは彼女に対して、何か強い対抗心、強い嫉妬心のようなものを口にしたからです……」「……その関係で、俺とツカサを? 京子を困らせるのが目的で? いったい、ヒカルは《D》に対して何を求めてやがる?」「……わかりません。最初は身代金か、《F》への勧誘・改宗かとも思いましたが……」 32歳の男の顔に、道に迷った子供のような表情が浮かんだ。「……これからのことですが」 私が言い、窓の外を見つめる岩渕が小さな声で「……ああ」と答える。 偽造の”神託”をパラパラとめくり、最終的な状況を探し、ゆっくりと口を開いて読む。「……《D》に《F》を潰してもらい、私は個人的に澤社長へ示談として数億のカネを譲渡し……その後、私はヒカルと共に消えます……手荒なショック療法にはなりますが、《F》が消えれば、彼女の精神にも何らかの改善があるでしょう……それが、医師からの診断結果です」 言い終えた直後――窓の外を見つめる岩渕の目が険しくなる。「……《F》の人々は、どうなる?」「どうでもいいことです。彼らは元々――社会不適合者の集まり。雲散霧消するだけの存在です……」「どうでもいい?」 岩渕は挑むような視線で宇津木を見つめ返した。「アンタ……やっぱり洞察力はゼロだな。澤社長のこともそうだが……”人間”をナメすぎだ」 私は岩渕の顔を見つめ、落ち着いて言った。「……準備は整いつつあります。あなたの同僚――川澄様にも、既に連絡と報告は済んでおりますので、まもなくここに到着することでしょう――計画に変更はありません」 一瞬、岩渕はまた驚いたように目を見開いた。それから――岩渕の顔に、さっきまでとは別の困ったような苦笑いが広がった。「……悪いが、俺の携帯電話、一瞬だけ、返してもらっても……いいか?」 目の前の男は苦笑いを続けている……。――――― 午前9時30分――。 楢本ヒカルは礼拝堂にて祈りを捧げ続けていた。 フィラーハ様、どうか……どうか……私に”神託”を……。 祈り続けた。困っている人を助けたい。病で苦しむ人を助けたい。私のような境遇の者をひとりでも多く助けてあげたい……偽善かもしれない……打算もあるかもしれない……でも、助けてあげたいという気持ちに嘘はない。嘘はないと信じたい……。「……ねえ……お母さん……いつか、私を……」 祈り続けた。神である母に、私は祈り続けた。「……お願いだ……私を……」 その日、ヒカルはついに、心の中で言ってしまった。 決して口にしてはならない、心からの願いを、言ってしまった……。――――― 午前9時30分――。 フィアットの車内にて――川澄と《F》が共謀した計画とやらを聞いた後、ヤツの携帯電話が鳴る。どうやら岩渕クンからのメッセージらしい。内容は『無事だ。早く会いたい』という旨らしいが、嘘だろう。何せ誰もその文面を見せてもらえないのだから。 川澄奈央人、本当にムカつく男だ。やはり――男という生き物は少し呆けたところがあるほうが可愛らしい……岩渕クンのように。 宮間有希は思った。 そして、スーツの胸のポケットから携帯電話を取り出し、自身もメッセージを飛ばす。相手はもちろん、澤社長だ。 脳内で素早く文面を構成し、打ち込み――送信する。 内容は《F》の情報、代表である宇津木聖一の情報、宇津木と川澄とのやりとりと計画、川澄の携帯へ岩渕クンから何かしらのメッセージが来たこと。その他、《F》や《D》に関することのすべて。 川澄、悪いわね。私は、私の意思だけでこの車に同乗しているワケじゃあないの。岩渕クンがどうしてアンタみたいな盗賊と仲良しなのかは知らないけれど……私は別にアンタの友達でもなんでもないわ……。 そう。宮間有希は守り続けていただけだった。今朝、澤社長から下された命令はたったふたつだけ。『川澄から目を離すな。ヤツの行動を逐一報告しろ』このふたつだけだ。 国道153号線――私を乗せたフィアットは走り続ける……。――――― 午前9時30分――。 鮫島恭平はフィアットの運転を続けていた。 助手席に座る川澄が何かを喋っている。おそらくは《F》と《D》のことなのだろう。 だが、そんなことはどうでもよかった。 鮫島にとって最も優先すべきは《D》の未来でも、岩渕の安否でもなかった。 ……どんな理由があるにせよ、どんな理屈を吐かれようとも、ツカサを危険に巻き込みやがった野郎だけは、許せねえ……。女だろうが、ジジィだろうが関係ねえ。半殺しにしてやらなきゃ気がすまねえ……。 そう。ただ、それだけのことだった……。――――― 午前9時30分――。『社長を煽るな』 岩渕からの短いメッセージを見つめ、川澄奈央人は慌ただしく考えを巡らせた。 心の中で岩渕の姿を想像し、彼の状況を推察する。 ……僕が最も得をする展開に持ち込むには? 心の中で僕はそっと呟く。 そう。今回の騒動による――僕の個人的勝利の条件とは? ひとつ、田中に奪われたカネの奪還。これが最低条件だ。 つまり、最低の条件さえクリアできれば、後は……好きにさせてもらうことにする。 岩渕さん、ネタばらしは済みましたか? ”聖女”のネタを聞いて、あなたはどうしますか? まぁ、あなたがどの道を選択しても、僕は別に構いませんよ? ……僕の邪魔さえしなければ、ね。 しかし……この”お願い”はどうしようかな……。 まるで他人事のように、川澄は薄く微笑んだ。 ――――― 更新を終えた”神託”のノートを手に取り、岩渕はツカサの待つ部屋へと戻った。 ”神託”は年365冊偽造され、そのどれもが同一人物の女の筆跡を再現し、古くなって変色した紙の色を再現し、パッと見ただけでは本人にも判別できない精巧な出来……らしい。岩渕が宇津木から借りたのは本日の日付けで不要になった”神託”――10月10日のものだった。 ……何か方法があるはずだ。《F》の連中も、ヒカルも……そして《D》も、どうにかして穏便に解決する手段が……。岩渕は思った。ヒントが欲しかった。 宇津木によると、ヒカルが自ら”神託”に何かを記入した痕跡は皆無であったこと、だが、365冊すべてのノートのすべてのページを確認したワケでもないということは聞いていた。ならばと、岩渕は”神託”の一冊を手に取り、拝読の許可を得た。 ……悪いな、読ませてもらう。 他人の、しかも女の、日記のようなものを読むのはためらわれた。長い間ヒカルの傍にいて、彼女の生活を支えてきた宇津木に見つけられなかったものを、他人の自分が見つけられるとも思えなかった。彼女が直接ペンを手に取り書いたわけでもないこともわかっていた。ヒカルと《F》がかつてどんな善行と悪行を繰り返してきたのか、など知りたくもなかった。けれど――やはり、読まずに済ますわけにはいかなかった。 岩渕はそっと息を吐いた。そして、ベッドで横になって眠るツカサの髪をそっと撫でた後でソファに座り、無造作に”神託”を開いた……。――――― 『聖女のFと、姫君のD!』 i に続きます。 今回オススメはもちろん? sees大好きコレサワ様……。 コレサワ……。 着ぐるみが素顔?という異色シンガー。イロモノかと思いきや、歌唱・歌詞・メロディ、どれも素晴らしい……。恋愛テーマがメインだけれども、そのポップさで重さを感じない。MVも丁寧な作りで共感大。 今後のことについてseesから言うことはひとつ……ちょっと曲調パターンを増やしてはどうでしょうか……? 例えば編曲を誰かに任せるとか……。いやね、それくらい、この方には売れてもらいたい。それぐらいの将来性と実力があるとseesは思います。 感動。 雑記 お久しぶりです。seesです。 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。 えー今回はクライマックスに向けての助走回、ですね。フィラーハ様の正体はヒカルの母(´д`)!!エ~!! 次回は宇津木様の真の正体とは? そして田中の反逆っ……? いけるのか? 問題としては……エンドロールw後のオマケ話をどうしようかと考え中。ままま、とりあえずは整理しつつ、皆様が納得できる結末にはしたいものです( ̄∇ ̄;) てことで――残りはクライマックス&結末編として、3話ぐらいの予定。 ちなみに次作予定のDの話も既にほぼ構想済み。タイトルは決めてます。『空中庭園の聖域と、D!』 ……まぁ、仮ですがw しかし今回は長いっ!!! そして「””」多いっ!!! sees 反省……(-_-;)💦 私、seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いた します。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『詐欺師』sees ……とある日、seesは三重県のコメダ珈琲店でPCの作業中でした……。女性A 「すごいですね~……さすがですね~……ご立派ですね~……」女性B 「こんなの初めてですぅ~……知らなかったですぅ~……」標的? 「いやいや~……そんなことないですよ~(*´σー`)デヘヘ」 ……詐欺師か。女性A 「あなたなら、絶対大丈夫ですよ~」女性B 「私、もう、感激ですぅ(?)~」 ……チッ、うぜえな。見たところは証券系の詐欺師か、それとも投資系? いや、シンプルに銀行かも……。女性A 「つきましては~……こちらのプランですと――」女性B 「お得で~お値打ちで~限定で~……」標的? 「え~('ω')どうしようかなぁ(*^。^*)デレデレ」 ブサイクなオタク男に、女2人がかりで……堕としにかかるとは……。 南無。 そして――……女性A 「ありがとうございます(´▽`)!」 オタク男は……ハンコを……押してしまった……。クソォ。女性B 「今後ともよろしくお願いいたしますね~~っ!!」標的? 「はははは~…こちらこそですよ~」 残念だ。 そう。 影ながら、隣の客席から、seesは密かにオタク男を応援していたのだ。 しかし、男は女2人の褒め殺し攻撃に耐えきれず、バックできるのか不明な 料金設定の儲け話にハンコを押してしまった……。 あーー気分悪い。 冬は詐欺師も多いので、seesのページの訪問者方も、気を付けて。 すみません。オチも何もない注意喚起小話です……。 了 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2020.01.21
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岩渕 誠(いわぶち まこと) 32歳。初登場はss 『過剰な報酬』。 当時はカネに汚い商人をイメージして作成した無名の男。 貴金属・高級ブランド品を専門に扱うリサイクルショップ《D》の名駅前支店(本店)、名古屋地区統括マネージャー。執行役員の一人ではあるが、発言権は未だ弱い。 元々の性格は狡猾で強欲。《D》のカネ・金品を横領し、売上金をピンハネすることを得意としていた。しかしその内面――深層心理には過去の体験から由来する強い劣等感、更には自殺願望までが混在しており、『欲』と『自殺願望』、相反する二律背反に精神が蝕まれて続けていた。 出身地は愛知県名古屋市だが、幼少期に両親から岡崎市の児童養護施設に預けられる。父や母のことはおぼろげに覚えているものの、名前をはじめ詳細は知らない。現在では行方知れずとなっている。 その後、伏見宮京子との出会いによって、不安定な精神に変化が起こる。 現在の性格は温厚で思慮深く、自覚はないものの他者を思いやる心を持つ(実際には、自殺願望から自己犠牲へと意識が変革した可能性もある)。ちなみに、過激的、攻撃的な思想を持つ強硬派の多い《D》において、穏健派は岩渕と総務部長の熊谷のふたりのみである。 趣味は自宅にて『ルパン3世』の漫画・アニメ鑑賞。 好物は八丁味噌を使ったもの(いわゆる《名古屋メシ》)全般。 腕時計はタグホイヤー キャリバートゥールビヨン。 所有車両はフィアット500。 ――――― 伏見宮 京子(ふしみのみや きょうこ) 21歳。初登場は短編 『姫君のD!』。 登場初期は名前を偽り、『伏見京子』と名乗っていた。当時、著者(sees)が熱中していた――とある韓国ドラマのヒロインをイメージ。ちなみに容姿はシンガーの植田真理恵をイメージ。 日本国有数の皇族、伏見宮家の第一皇女。愛知の有名大学へ通う大学生。卒業後は《D》に就職する為、勉強中。 性格は柔和で優しく、強い意思と信仰心を持つ。盗まれた酒瓶を奪還するために、単身で名古屋の繁華街に向かうなど、周囲を驚かせる行動力もある。 何不自由のない生活を送ってきたためか、彼女の倫理観には独善的な部分もあり(表面化していないだけで、その内面には強い独占欲が起因している)、時には残酷な決断を躊躇することなく下すことも。 年相応以上に感情のコントロールが甘く、涙腺が緩い。 趣味は勉強と散歩。 好物は大根。嫌いな食べ物はウニ。 ファッションにこだわりは無いが、岩渕から貰った《カーバンクルの指輪》はほぼ毎日のように指にはめている。――――― 川澄 奈央人(かわずみ なおと) 年齢不詳。初登場は短編 『姫君のD!』。 初登場時は単なる悪役のひとりとして、著者にとって都合の良いだけの"役者"であった。しかしキャラクター単体としての魅力、かつコストパフォーマンスに優れていることを発見。汎用性もあり、非常に使いやすい。seesの世界観の、時には重苦しい展開を軽減する役目も担う。《D》大須支店支店長。実際にはその職務のほとんどを妹の瑠美に放任している。かつては《D》の金品を他者に横流しし、多額の報酬を得ていた。 川澄奈央人とは偽名である。その他年齢・経歴・出身地など、自身の過去の一切を明かさない(自身でも知らなかった事柄も多数あるため)。本人曰く、「"川澄"の名前が気に入っているので、問題ない」 性格は自由奔放で気まぐれ。臨機応変な行動を是とし、物事の勝ち負けにはこだわらない。それは己の才覚と能力に絶対の自信を持つが故の信条であり、たとえ敵対する者が何者であろうと、敗北するイメージは抱かない。 他者には常に笑顔を浮かべ、余裕を持って接する。が、その理由は深い情報収集と、相対する者の油断を誘うためであり、心からの笑顔は非常に少ない。 違法・犯罪行為に対しての意識が非常に低く、窃盗・詐欺・恐喝、さらには殺人行為すら、"カネ儲け"の仕事の一端として行う。同僚の岩渕からは『悪いヤツらからしか奪わない』など、ある種の義賊的なイメージを抱かれているが、実際には『弱者には魅力を感じない』のが本音である。 趣味は駅弁。秘密だが、とある場所に駅弁の包装紙をコレクションしている。 好物は冷飯。嫌いな食べ物は炊き立ての飯。 腕時計はウブロ・ビックバン。 カーボン製のアタッシュケースを愛用。 主にポール・スミスとプラダのスーツを着用。――――― 鮫島 恭介(さめじま きょうすけ) 43歳。初登場は『転成するD!』。 元から《D》のシリーズ制作にあたり登場が既定路線であった人物。中年中間管理職的な人物の登場によってストーリーに円滑さを求めた結果、現在のイメージ像に落ち着く。《D》名駅前支店支店長。支店長の給与は支店の売上に左右されるので、事実上――同役職の社員より格は上に位置する。 "転成~"では、B型肝炎に侵された息子ツカサの治療費を稼ぐために奔走するも、《D》の仕事の不条理さに苦悩する。その後、伏見宮京子との出会いによって己の人生が変質したことに驚愕する。 責任感が強く、弱者を見捨てられない性格。ハードボイルド系の小説の主人公に憧れている一面があり、普段は無頼派を気取っている。《D》の後輩たちの面倒見も良いが、岩渕をはじめとする"自分より出世した"、あるいは宮間のような"生意気な後輩"、には強く接する。 10代後半から名古屋市の中川区・中村区で違法薬物の売人をしていた過去があり(鮫島本人に薬物の使用歴はない)、その後逮捕、実刑での服役後に社会復帰する。 見た目に反して手先が器用であり、中村区の韓国人グループと手を組み作成した偽のハイブランド品を《D》に売りつけようと画策するも、失敗する。その際、《D》の社長である澤から"手先の器用さ"と"審美眼"の才能を評価され《D》にスカウトされる。 趣味は病院の看護師との雑談。 好物は家庭料理。嫌いなものは菓子パン。 腕時計はロレックス・スカイドゥエラー。 所有車両はシーマ。 シングルファーザー。――――― 宮間 有希(みやま ゆき) 28歳。初登場は短編 『姫君のD!』。 当初は固有名詞を持たず、ただ単に仕事の"デキるOL"的な役割。 シリーズ化にあたり固有名詞を与え、性格を肉付けした純粋なテンプレ女。容姿端麗かつ聡明な女、というある種の普遍的イメージを文章化。《D》総務部課長。役職的には鮫島と同格である。 自らを"カネに従う兵士"と表現するなど、《D》と澤社長に絶対の忠誠を誓う一方で――己のプライドの堅持を最優先する頑固な面もある。 伏見宮京子との邂逅によって転成を始める《D》の変化に戸惑いを覚えつつも、それが決して邪悪なものではないと信じている。 普段は冷静、冷淡、冷酷な性格だが、感情が高まると我を忘れることもある。 一般社会において比較的給与の高い《D》であるが、彼女もまた高給を得ている。そのためなのか、彼女は他人に媚びることを極端に嫌う。当然、他人に簡単に媚びるような人間は軽蔑の対象であり、信用も絶対にしない。ちなみに――《D》総務部の社員たちはほぼ全員が(男女問わず)宮間に好意的・恋愛的感情を抱いているが、本人の自覚は皆無である。 人の欲望を見極めるのが得意であり、かつては――20代前半の頃に中高年の男女を相手に"デート商法""美人局""売春の斡旋"などの詐欺・違法行為を働いていたこともある。 名古屋市錦のクラブでキャストとして働いていた頃、澤社長と出会う。澤の語る理念、カネに関する考え方、《D》の仕事の内容に感銘を受け、後日、澤には内緒で就職試験に臨み――無事、内定する。 趣味は俳句。 好物はイタリアン。嫌いな物はカレー。 腕時計はカルティエ バロンブランドゥ。 所有車両はヴェルファイア。――――― 澤 光太郎(さわ こうたろう) 53歳。初登場はss 『過剰な報酬』。(回想シーンのみ)《D》の基本設定が名古屋の中小企業、ということもあり登場がほぼ確定していた人物。 モデルはsees本人の勤める企業の、"実在する社長"をデフォルメ。発言や会話の特徴、アクセントをオマージュ。名前の由来は割愛。《D》代表取締役社長。仕事は社長業(他企業との会食・社内会議・稟議の決定・他)。また、社外ベンチャーとして不動産業・投資事業・慈善事業の代表も兼任。 性格は豪放にして気性激しく、大胆にして繊細。警察をはじめとする公的機関への信頼が著しく低く、「自分の身とカネは自分で守る」ことを信条としている。 類まれな統率力・洞察力・決断力を持ち、血の気の多い、またはクセ者揃いの《D》の社員たちをコントロールしている。"アメと鞭"の使い方に長け、成果を出した者には惜しみなく多額の報酬を与える。 愛知県知多半島の漁師の息子として生まれ、10代前半からの肉体労働の経緯から現在でも筋骨は隆々である。かつて、とある反社会的組織の構成員であったが、組織の解体と共に一念発起し、《D》を企業する。名古屋市中枢の表と裏の世界に精通し、敵対する者には容赦なく制裁を与えてきた。 とあることがきっかけで、愛知県岡崎市の児童養護施設に毎月多額の寄付を行い、少年少女たちに独自の英才教育を施している(将来、《D》で働く選択肢を与えるため)。 実は、澤自身も幼少期は貧困であり、生活が過酷であったことが起因している。ちなみに――《D》の社内には3つの派閥が存在する。 ひとつは川澄奈央人・宮間有希が(本人たちの意思とは別に)属する中途採用派。 ひとつは鮫島恭介が属するスカウト(ヘッドハンティング)派。 ひとつは岩渕誠が属する(澤が独自の英才教育を施した後、迎える)岡崎派が存在する。 なお、基本的に《D》は新卒採用はしていない。 伏見宮京子との出会いから人脈を飛躍的に拡大。水面下では公安組織及び伏見宮家当主とも接触、伏見宮家を積極的にビジネスに利用しようと計画。 趣味はアトラス(4tトラック)によるドライブ。 好物はイカ・タコ・貝類。嫌いなものは白味噌。 腕時計はリシャールミル・アヴィエーション。 所有車両は日産アトラス、マセラティ・レヴァンテ、トヨタ・MIRAI(買い物用)。 独身。 自宅は名古屋市千種区の高級住宅街。週3日、専属の家政婦を雇っている。―――――
2020.01.13
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 10月9日――午前9時。 昨晩からのことを思い出す。「……いったい、何が目的なんだ?」 岩渕誠がそう聞くと、目の前の女は楽しそうに微笑み、フフッと短い息を漏らした。「……岩渕さんとツカサ君は、お客様として丁重に扱い致します。もちろん、お答えできない疑問も少しはありますけど……」 女の仕草が自然すぎて、岩渕は顔をしかめた。 わけがわからなかった。 岩渕と鮫島ツカサは前夜――この"聖地"の洋館に連れ込まれ、特に説明もなく、簡単な食事を与えられ、簡素な客室へ案内され、質素な着替えを貸し与えられ、「お話はまた、明朝に――」と宇津木聖一に言われ、最初に案内された洋室に閉じ込められた。 用意されたベッドに寝たツカサが言った。「あの人たちは、誰?」「これから、僕たちはどうなるの?」「パパは来てくれるのかな?」 岩渕は苦笑して「……すまない」としか言えなかった。言うしかなかった。 閉じ込められた洋室の窓をのぞくと、月夜の光に浮かぶ茶臼岳の輪郭と、周辺に建てられた居住区の明かりが点々と瞬いていた。腕のタグホイヤーに目をやると、岩渕とツカサが拉致されてから、既に8時間が経過していた。……心配、させてるんだろうな。「……僕のことは気にしないで。岩渕さんは、その窓から飛び降りて、逃げてもいいよ? 僕はここに残るから……」 目を閉じてツカサが言う。「ふざけんな。……そんなことは二度と言うな」「パパは……岩渕さんは『神様に愛されてやがる』って言ってたよ……。だから、別に僕を、見捨てても……」 ツカサの言葉を途中で遮り、岩渕は低く言う。「もう一度言う。ふざけんな」「……ごめんなさい。足をひっぱって……僕……」「気にしなくていい。お前は何も悪くない」「うん……ううぅ……」 ツカサはベッドの中にもぐり込むと、声を殺して泣いていた。その少年の父親もまた、今ごろ泣いて叫んでいるのだろうな、と思う。 何がきっかけで、何が理由で、何が原因で、何が目的なのか? 聖女とは? フィラーハとは? なぜ、《D》を狙うのか?「わからないな……カネが目的じゃあないみたいだが……」 思い当たることはまったくなかった。 朝になり、客室の前から声がした。「遅くなりましたが、朝食の準備が整いました。岩渕様、鮫島様、よろしければ部屋から出ていただけませんか?」 慇懃な口調で宇津木が言う。岩渕は「…少し待て」と言って舌を打った。ナメやがって……クソが。この野郎、俺がツカサを見捨てないと"確信"してやがる……。 作務衣のような黒い和服に着替えたふたりが案内されたのは、洋館の1階にあるダイニングらしき広間であった。アンティーク調の燭台が置かれたダイニングテーブルの上には、ホテルでの朝食を思わせる清潔な食器とグラスが丁寧に並べられていた。「……結構なおもてなし、だな? 聖女様……」 目の前に堂々と座る女と目を合わせ、岩渕は口を歪ませた。「……昨日からのことは本当にすみません。……すみません」 女は本当に申し訳なさそう動作で顔を下に向けた。――――― たぶん……この男の人は、悪い人じゃあないんだろうな……。 楢本ヒカルは思った。この岩渕誠という男も、不安げに視線を泳がせる鮫島ツカサという少年も、決して悪い人間ではないのだろうなと考えていた。 32歳のサラリーマンと10歳の少年は社会の一員として、懸命に働き、懸命に生きているのだろうなとも思う。そしてヒカルも、今でこそ《F》の聖女として信徒の人々から畏敬の念を抱かれているものの、かつて木造のアパートで病気の母を亡くし、ひとりきりで懸命に働き、懸命に生き、社会の底辺でもがき、苦しんでいた。少なくとも自分と――自分を拾い上げてくれた宇津木聖一だけは、そう思ってくれるのだろう。 岩渕は、ここ数日間における、《F》と《D》のいざこざの原因を、川澄奈央人と田中陽次の金銭トラブルが発端かと怪しんだ。岩渕の質問は、ヒカルの生い立ちからその後の経歴、宇津木との関係や、フィラーハ様のことまで多岐に及んだ。「……アンタの話がすべて真実だとして、そこの……宇津木聖一、アンタは何者だ?」 感情を押し殺したような低い声で岩渕がきいた。同席していた宇津木が微笑む。「私は元々――錦で投資ファンドを経営しておりまして……まぁ、成り金です」「それがどうしてヒカル――聖女様と?」「……恥ずかしながら当時、会社の経営に行き詰まりましてね……そこで、巷で噂になっていた占い師、『フィラーハの聖女』の元を訪れた次第です」「占い? それが……アンタの言う"神託"か?」「そんな低俗な商売とは一線を画す――ヒカル様の"神託"は本物です」「……具体的に、"神託"って何だ?」「具体的? 意味はそれ、そのものですよ?」「だから……こう、人生相談とか、占星術とか、手相とか? そういう意味か?」「そんなものではありません。理解しやすく申しますと……ヒカル様は"未来を予知"し、"未来を変える"力をフィラーハ様より賜ったのです……」「……失礼だとは思うが――……ペテンだろ?」「最初は皆様、同じことを言いますよ。別に気にしないでください……」 ダイニングの室内は清潔な空気で満ちていて、暖かい陽光が射していた。テーブルの上では朝食としてパンとスープとサラダとゆで卵とオレンジジュースが置かれていた。岩渕はアンティーク調の椅子に座り、時折隣に座るツカサ少年の様子を伺いながら、宇津木と"聖女"の、"ありえない奇跡"の話の数々を、冷静な態度で聞き続けていた……。「なぜ、宮間を――いや、《D》を狙った? ……恨みでもあるのか?」「恨みはありませんが、そういう命令をフィラーハ様から受けたので」 不信感を隠さずに岩渕が質問を続ける。「……理由は?」「わかりません」 ヒカルは首を振る。御身の真意は、本当にわからないのだから。 どういう態度を取っていいのかわからないのだろう、岩渕が沈黙した。「でも……今は、少し、ほんの少しだけ……理解できます」「――? どういうことだ?」「最終的な目的は、今は秘密です。ですが、あなたとツカサ君は解放すると約束します。それだけは信じてください。私たちも、この土地から離れます……」「はぁっ? これだけの騒ぎを起こしといて、消えるだと? そんなこと……許されるワケがねえだろっ?」 岩渕が語気を強めるが、関係はない。「"神託"さえあれば、可能です。……私たち《F》は既に、そうやって何件もの新興宗教や教会を潰して回っておりましたし……」 岩渕の目が丸くなる。相当に驚いたようだ。「……結局は、犯罪集団って認識でいいのか?」 そう言って岩渕は、ヒカルの目を睨むように見つめた。「……誤解なきよう補足しますが、フィラーハ様は"絶対神"なのです。他の神々や象徴など、まがい物でしかありません。淘汰されるのが自然のことかと」 宇津木がそう言って微笑み、ヒカルも笑みを浮かべたが、岩渕とツカサは笑わなかった。 彼と少年がダイニングを出ていった後で、私は今朝のことを思い出した。 昨日の夜に見た"神託"では、《D》の名駅前店の3階で会議をする澤社長と幹部連中の姿が見えた。……どうやら《F》の、この地に踏み込むべきか、否か、の協議中らしい。 ……時間はまだある。まだまだ、ある。 彼ら《D》が我ら《F》と邂逅し、対決する未来などない。永遠に、ない。 例え彼らがここに踏み込んだとしても、《F》は既に消え去った後なのだから。 でも……何でだろう? ヒカルにもわからないことがいくつか残っている。 ……川澄奈央人、宮間有希、鮫島恭平の姿が見えない。それに――いつも、いつも、相変わらず、あの女――……伏見宮京子の姿は見えない。 ……どうしてだろう?――――― 10月10日――早朝。 川澄奈央人は名大病院のロビーのベンチで自身が書き留めたメモを読み返していた。 防犯カメラの映像。女の名前は楢本ヒカル。ヒカルは光? どうでもいい。 住所は豊田市茶臼岳の奥地の集落。《F》。信者たちと暮らしている? 30代前半。ていうか、若く見えるね。 名大病院の駐車場の監視カメラの映像。宇津木聖一。オッサン。顔を隠す気はない?逃亡? 失踪に自信アリ? 僕より? うざいね。ちなみに、コイツの正体も調査済み。ただの成金オヤジだと思ったけど、驚いたね。 "聖女"の監視の目は大丈夫? まあまあまあ、いざとなれば、"川澄"を捨てれば、何とかなるのかな? 早朝の病院のロビーには100人以上の患者とその家族が医師の診察を待ち、看護師や医療事務の人々が右往左往している。木を隠すなら森、とはよく言ったもんだね。川澄の顔に微かな笑みが浮かぶ。 グーグルマップから見た衛星写真。規模。広いね。建物。居住人数。資産。まずまず。イイね。屋敷。洋館。気に入らないデザイン。岩渕とツカサ少年がいそうな部屋の推測。正味、助ける気は微妙。岩渕に危害を加えそうなのは? 田中だけかな? まあまあ、臨機応変に対応予定。いつものように。 川澄は病院の売店で購入したカルピスのペットボトルの蓋を開けた。中身を少しだけ口に含み舌に乗せて味わいながら――すいませんね、澤社長。ほら、僕って優秀で、天才で、嘘つき野郎でしょ? 下調べに2日もかかるワケないじゃないすか。それにさ……もしかしたら僕、人に頼まれたら断れない性格かもしれないです……と考えた。 最終確認のため、現地調査が必要。先行。めんどくさい。しかたない。 足。借りよう。怒られたら謝ろう。 メモを閉じ、川澄は腕のHublot Big Bangに視線を移した。そろそろ時間だね。ベンチから立ち上がり首を回す。ここ数日、寝不足やらPC作業やらが続いたせいで、今朝は肩と首が凝っていた。 片手に飲みかけのペットボトル、もう片方の手にカーボンのアタッシュケースを持ち、川澄は歩いた。駐車場に置き去られていた"足"の前で立ち止まり、長い息を吐いた。「……先輩、"彼女"、借りますね。無傷で返せるかは、わかりませんけど」 川澄はニッと笑いながら、同僚の家から拝借したスペアのスマートキーを起動させ、"足"であるフィアットのドアを開ける。すると、サイドミラーにスーツを着た男女と、ジーンズとセーターを着た若い女の姿が映っていた。3人の男女は無言のままフィアットに近づくと、運転席に腰を下ろした川澄をじっと見下ろした。「……そういやてめえ、免許持ってんのか?」 苛立ちを隠そうともしない、野太い男の声がし、川澄は思わず苦笑いした。「いやー……持ってないすよ……本物は」「ねえ、この車……狭すぎない? 4人乗れるの?」 黒いパンツスーツを着た女が、冷淡な口調で川澄にきく。「一応、4人乗り車両の……ハズです……はい」 女の想定外な質問にうろたえながら、川澄は微笑んだ。「……では運転は鮫島さん、助手席に川澄さん。後部座席に私と宮間さんで乗ります。いいですよね? 川澄、さん?」 伏見宮京子が川澄を見下ろしてまた言う。「……いいですよね?」「わかりましたよ……姫様」 京子の顔は見ずに、川澄は運転席を飛び出した。「……どうでもいいけどよ。川澄、お前の腕時計、派手すぎだ。もっと地味なヤツにしやがれ」 鮫島恭介が運転席にドカリと座り、「左ハンドルかよ」と呟いて舌打ちする。「本当に狭い車ね。岩渕クンも、この車のどこがイイのかしら?」 宮間有希が後部座席で足を上げ、「姫様の膝の上に足、のせてもいい?」と聞く。「……しかたないですね。シートベルトはしてくださいよ」 伏見宮京子は膝の上で宮間の足を持ち抱え、「出発してください」と小さく言う。 まあ……囮役は多いほうがいいからね。お前もそう思うだろ? 彼氏が消えた"彼女"に、川澄は心の中でそっと呟いた。 フィアットの2気筒ツインエア・エンジンの排気音が、低く悲しげに響き渡る……。――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 hに続きます。 今回オススメはもちろん? sees大好きBANDMAID様……。 BANDMAID……。 コスプレハードロックバンド……。見た目のカワイさとのギャップに歌詞・曲調・演奏、すべてがハードで重厚。ビジュアルはメイド調。イベントやライブを「給仕」と銘打つなどパフォーマンス精神も旺盛。seesもすぐに好きになりました。 ツインボーカルの曲が多く、seesはボーカル/ギターのミクちゃん推しw 海外でも評判良く、女性ファンも多数とか……そりゃあそうだわな。だってカッコイイもんw コンサートメインの仕事でアニメタイアップなどの媚びた仕事あんまないのも好印象。売れるとアイドルぶった仕事するヤツはちょっと苦手(別にアニメやドラマのタイアップ仕事を嫌悪するわけじゃないが、節操ないヤツはね……)。そういう意味だと、岸田教団なんかは……ちょっと別次元、かなwwあの人たちは書きおろしなんかにも力入れているし、仕事は仕事としてキチンとしてそう……。 ミクちゃん風に言うと「おかえりなさいませ、ご主人様」 雑記 お久しぶりです。seesです。 東京で開催されるとあるフェスに行くために休み申請したけど、あっさり却下された。 さて、今回も抑揚のない、説明&スルー回ですね。 安定の岩渕氏を中心に、続々とDが集まる豊田市の山奥。ヒカル様の目的、取り巻きの真意。川澄氏の本音。京子様の心配。そして、田中の動向……。 まだまだ書き足りないこと多すぎですが、すんまへん。年内の更新は最後になるかも。新年は挨拶程度の更新はしますが、物語自体はちょっと待って( ゚∀゚)アハ 次回は澤社長の動きと、エフの人々との交流(今回ではできんかった)。 到着した京子様と川澄、田中を探す宮間、…できればツカサ君パートも作りたい。 でわ。 しかし……この話、思ったよりも長くなりそう。たぶん、「激昂」よりも長くなるかも💦 私、seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いた します。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『船酔い』 sees ……久しぶりの船と電車移動だし。良いよね💓 そう。 今日は津からセントレア、セントレアから名駅へと移動する予定の日。 seesは朝からテンション爆上がりで津港に入る……前にちょっとコンビニ。 sees 「良いよね。仕事前だけど、バレないよね……」 ブォーーーー……。 朝、10時、港を出発~フェリーで1時間かけてセントレアへゴー~🚢 そして。プシュ。 sees 「うめえ」 銀色のヤツを開けましたw うめうめうめ……グビグビ😋 sees 「そして……昨日買って食った残りのエイヒレ……をひとつまみ……」 うめえ。 仕事の前に飲酒。本来であれば始末書ものだが……今日は別に運転する 予定もないし、仕事も簡単なものだ(言い訳)。というか、皆、ヤって るやろ? 当然やろ? そう思いたい。 フェリーの中では誰もが静まり返り、放送されているニュース番組を見た り、新聞を読んだり、携帯をイジったりしていて……静かだ。その静かな 場にひとり、seesのグビグビ音が響く……。 大丈夫さ。大丈夫。別に1~2本ビール煽ったところで酔いはしない。アナウンス 「……本日は波の影響もあり~~多少の揺れもございますぅ~安全には~ 問題ありまへへへへ~……」 何か言ってやがるけど……聞こえねえな……プシッ。 ああ゛……うめえわ。仕事前の酒……。 ――――― ――――― ――――― 案の定――……。 顔真っ赤のフラフラで集合場所へ赴くseesであった……。 女子社員 「……seesさん、ま・さ・か……」 sees 「……いや……それがさぁ……二日酔いで……へへへ……」 女子社員 「……はぁ(白い目)」 天罰か、自業自得か、ただのバカか、それとも全部か、猛省。 海をナメてました。いや、自分を過信していました。 はい。 すみません。 以後、気をつけます。この場を借りて、謝罪いたします(誰に???)。 🍺了🍺 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。 人気ブログランキング
2019.12.24
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 《F》の聖地とやらの場所は、岩渕誠が想像していたより、ずっと近い、名古屋市から車で2~3時間の距離にあった。 目隠しはされておらず、岩渕は車の窓から外の景色を眺め続けた。名古屋市から出て、瀬戸市を抜け、豊田市の幹線道路から茶臼岳のルートを走る。……本拠地を知られる、という考えはないのか? ……つまりは、俺たちを生きて帰す気は……ない? 岩渕の膝の上で眠るツカサの手を握りながら、岩渕は思った。目の奥が熱くなり、涙が込み上げそうになる。 連れ去られた車の車内では、岩渕が何を言っても反応は無かった。何かを質問しても、何か世間話をしようとしても、返ってくるのは沈黙した男たちの吐息だけ。しだいに岩渕の口数も減り、ツカサも疲れて眠ってしまった。……取り乱さず、悲鳴もあげずに、よく堪えていると思う。 車の外には山々の紅葉と日本の田園風景が広がっていた。季節のせいか、その風景はとても美しいものではあるが、どこか物悲しく、どこか寂しげに見えた。 田畑と果樹、小川と岩々、木々と土に覆われた斜面……どれほど見つめていても、歩いている人の姿は見つけられなかった。民家も数えるほどしかなく、整然とビルが立ち並んだ名駅周辺に比べると、ここはまるで別の世界のようにも思える。 午後遅く、岩渕たちを乗せたバンがスピードを落とした。タグホイヤーに目をやると、午後6時を回っている。豊田市茶臼岳の深い樹海の中にある集落……てところか。辺りは暗く、街灯すらない集落であった。 やがて、瓦の乗った大きな門の前でバンが停車する。岩渕の席のドアをコンコンと叩く音がし、振り向くと、あの男――宇津木聖一が、「岩渕様、着きましたよ」と微笑みながら言う。「……こちらです」 ツカサを背におぶり、宇津木の言われるがままに門を抜ける。逃走防止のためなのだろうが、岩渕の両脇に並んで歩く男たちの視線が鬱陶しい。 門を抜けた先には100m四方はあろうかという公園のような広い空間があった。青々とした芝生が一面に敷かれており、足元には御影石を使った小道が続いていた。広場の隅には大多数の人間が暮らせるであろうマンションのような建物が3棟ほど建てられているのが見えた。 迎賓館を思わせる巨大な洋館の玄関まで歩くと、宇津木が呼び鈴らしきボタンを押す。しばらく待つと、木製の立派なドアの曇りガラスから、30代前半に見える綺麗でスタイルのいい女性が、岩渕とツカサの前に歩いて来るのが見える。 女はきちんと化粧をし、流れるようなストレートの長い栗色の髪をしていた。耳元ではリングの形をしたピアスをし、ブラウスの胸元ではピアスとお揃いのリング系のペンダントが光っていた。ブランドは不明だが、紺色のカーディガン、花柄のスカート、細い足首と、華奢な腕。爪にはベースコートが塗られ、ターコイズの指輪をひとつ嵌めている……。 ……何だ、この女。 女を見つめて、岩渕は首を傾げた。「誰だ?」と岩渕が口を開きかけた時、宇津木が、「岩渕様、こちらが"聖女"楢本ヒカル様です」と言って女を紹介した。 岩渕は思わず「えっ? アンタが? "聖女"?」と呻いた。それから慌てて、「岩渕だ」と言って顔をしかめた。《F》という組織の構成と"聖女"という役職について、岩渕は何も知らされていなかったし、宇津木から何か説明があった訳ではなかった。しかし、彼女の姿は岩渕のイメージとはあまりにもかけ離れていた。 ……《D》を脅してカネをせしめようとする中年女を想像していたんだが……マジかよ……こいつが? こいつが"聖女"?「……はじめまして、岩渕さん……」 目の前に立つ女は、ゆっくりと頭を下げ、照れたように微笑んだ……。 ――――― 10月9日――。 午前9時――《D》社内に『岩渕』の姿はない。朝のコーヒーと会議用の資料を運んで来た宮間有希が「岩渕マネージャーとツカサ君、やはり連絡はないようです……」と澤に言う。「……そうか」《D》代表取締役社長、澤光太郎は心の中で舌を打つ。 岩渕の情けない顔と、可愛げのあるツカサの顔を思い浮かべる。「鮫島支店長は……今は落ち着いていますが、かなりのショックを受けたようです……」 資料の束を胸に抱えたまま、宮間は喋り続ける。自身も何者かに襲われ、昨日退院したばかりの彼女の顔半分には、大きな白いマスクが覆っている。「……出社して良かったンか? 別に休ンでも良かったンやぞ?」 宮間の顔は見ず、笑わずに言う。「……平気です」 宮間が一礼して社長室を出て行く。澤はコーヒーを啜り、手元に置かれた資料を眺める。《D》の経営に関する資料ではない。川澄のカネを奪い、宮間をケガを負わせ、おそらくは岩渕と鮫島の息子を拉致し……そして《D》、つまりは俺様のエクスカリバーをブチ壊したクズ野郎に関する情報だ。――田中陽次。身体的特徴から考えて(宮間にも確認させたが)、コイツが実行犯なのは確定だろう……。 川澄からの報告によると、コイツは市庁に勤める公務員で、45歳で、既婚で、市庁のカネを横領するようなゴミクズ……だが。「……自宅は既にカラ。金庫の中身もカラ。家族は別居。市庁は欠勤。行方知れず……か」 奥歯をギリリと噛みながら澤は呟く。「……"あの"時計はひとつで1000万以上だ……タダじゃあ済ませねえぞ……」 宮間が襲われ、エクスカリバーが破壊されてから数日――澤はできる限りの対応策を実施した。《D》名駅前店の警備の強化、アルソックに依頼しての社内調査、社員たちの連絡網、集団出勤と集団帰宅の徹底、護身用の武器の支給、警察とのコネを利用し、水面下で公安との接触と交渉……だが、それでも岩渕は連れ去られた。 岩渕の野郎の性格……いや、性質を理解してりゃあ簡単だろうがな。 そう。おそらくは――"ツカサは岩渕にとっての人質"ってところか? 人質の"人質"――穏健派の岩渕らしい、ハメられ方だ。……畜生が。 ……決断を迫られている。 すべてを警察や世間に公表し、犯人のグループを追い詰め、適当な慰謝料を奪い、法的な処罰を求めて裁判する――もしくは……自分たちで犯人グループを追い詰め、二度と《D》に攻撃してこないよう、徹底的に攻撃し、略奪し、圧倒的な恐怖を植え付ける……。 ……前者にも後者にもリスクとメリットがある。 時間だ。時間の猶予と使い道――。 俺にとって、岩渕の命なンぞ知ったことじゃあねえ……が……。 宮間が襲われたとの報告を受けた時、澤は事件を警察に任せようと思っていた。だが、宮間有希本人の意見は違った。『公的機関の介入は不要です……あの男だけは、私が殺します』 田中陽次に賠償責任を要求し、必要なら指名手配もできる。彼女が何もしなくても事件は解決できるのだろう。だが――兵士の誇りは取り戻せない。だからこそ……宮間は対決を希望した。 岩渕と鮫島ツカサが拉致されたとの報告を受けた時、澤は事件をまた、警察に任せようと思っていた。だが、鮫島恭平本人の意見は違った。『……岩渕を迎えに行かせたのも、宮間を使いに走らせたのも……すべて俺の責任です。……命を捨ててでも、二人を取り戻します』 警察組織は優秀だ。ヤツらの組織とアジトを探り当て、ツカサを安全に取り戻すことは可能なのだろう。だが――親の誇りは取り戻せない。だからこそ……鮫島は覚悟を決めた。 そんなふたりに対し澤は――……『たわけたことヌかすンじゃあねえっ! お前らの希望なンぞ知ったことかっ!』 叫びに近い声で怒鳴った。ふたりは、下を向いて黙り込んだ……。 畜生が……お前らだけの問題じゃねえンだぞ。部下たちの気持ちが痛いほどわかっているのにもかかわらず、澤は思った。 ――午前10時。総務部長の熊谷が入る。「……社長、整いました。会議室へ」 ……決断しなきゃあならねえな。そう思い、澤は黙って頷いた。――――― 午前9時――東区のコメダ珈琲店葵店に秋の朝の薄い光が差し込み、指に嵌めたルビーの宝石が淡い紅の光を放つ。この指輪を贈ってくれた人は今、どこで、何を思っているのだろうか?「……手詰まり、ですか?」 伏見宮京子は顔を上げず、テーブルの正面で頬杖をつく高瀬瑠美に言った。言ってしまったあとで、自分は何故、こんなにも冷静でいられるのだろう、と思った。「ええ……田中陽次とその仲間の目的は不明だし、追跡も困難。岩渕さんも……」 正面から瑠美の細い声が聞こえる。「大丈夫。岩渕さんなら大丈夫……」 ミルクティーを一口飲み終えてから言う。「……心配はしていますが、どうしてか……無事だという予感はします……」「ええ……? でも……」 いつものように美しく化粧をした瑠美が、京子を見つめて困ったように微笑む。「……もしかしたら、岩渕さんは、もう二度と帰って来ないのかも……」「……はあ? えっ?」「瑠美さん、あなた、岩渕さんのこと……好き?」 京子が言い、愛する男の同僚が――いや、愛する男に好意を向けているらしい女性が――不思議そうな顔で京子を見つめた。「……でも、私のカン違いだったみたい。ごめんなさい」「ちょっ、ちょっと……京子様?」「いいの、本当に、いいの。岩渕さんは戻って来ないのかもしれないから……どこか別の場所で、別の女性と……幸せになってくれれば……」「――バカじゃないのっ?」 困惑げに歪んだ瑠美の顔を見て、京子はハッと我に返った。「ごめんなさい……瑠美さん……ごめん、なさい……そんなつもりじゃないのに……そんなことあるわけないって思っているのに……私、バカなことばかり考えちゃって……ごめんなさい、ごめんなさい……」 京子はそう言って、右手に嵌めた《カーバンクルの指輪》に触れた。 もっと前向きにならなければならないということは、京子にだってわかっている。だが、宮間が襲われ、ツカサと岩渕が拉致されてから1日、京子の口からは後ろ向きなセリフばかりだった。……たった1日だけだと言うのに。 連絡はすぐに来た――『一緒にいないのか?』と鮫島から電話が来て、《D》に連絡し、名駅前店での今日の会議の後に澤社長と面会する予定だった。けれど……もし……本当に岩渕さんが拉致、誘拐されたのだとしたら……ツカサ君も一緒に、ずっと、ずっと帰って来ないとしたら? ……ケガを負わされていたら? ……ツカサ君の病状が悪化でもしたら? ……もし、それが1週間、2週間、続いたら……もう、ずっと、会えないのだとしたら? ……私は……私はどうなってしまうのだろう?「京子様?」「ううん。ごめんなさい……本当に、バカなことばかり考えてしまって……私、本当に、本当に心配で……」 そう言って京子は顔を上げ、瞳に溜まった涙をぬぐった。「……兄さんのことだから、犯人のグループはすぐに見つかると思う……だからさ、少しは安心して……あの、岩渕さんも、きっと帰ってくるから……」「ええ。ありがとう……瑠美さん」 葵店の店内に目をやる。店内はサラリーマンのひとり客や、話し込む老人たち、勉強する学生らしき人々で賑わっている。つい数日前に、ここで6人が揃って談笑していたことを思い出す。あの時、悪い予感が無かったワケではなかった。今思えば、そこで何か手を打つべきだったのかもしれなかった。「瑠美さん……犯人たちに繋がる手掛かりが少ないってこと?」「ええ。そうなんです」「……"あの"川澄さんが? よっぽど難しいのね……」「兄さんは……いろいろと社会の裏側に詳しいけれど……それでも日数はかかるみたい。私にも何か秘密にしているみたいだし……兄さんには、兄さんだけの目的があるのかも」 高瀬瑠美がそう言って、寂しそうに微笑む。「姫様、これからどうするの?」「……実はまだ、何も考えてなくて……わからなくて……」 そう答えた京子の五感が、甘く刺激的な香りと、鼓膜をくすぐる炭酸の音を拾った。 ……これは、メロンソーダ? そう。それは隣の席の男の子が注文した、メロンソーダの香りと炭酸音だった。 あっ。 はっきりと思い出す。同時に――自分がすべきこと、川澄に調べさせること、澤社長に報告すべきこと、それらをはっきりと理解する。「……あの時、隣の席にいた女を調べます。店内の防犯カメラの映像を見せてもらえるよう、ここの店長さんに相談してみましょう。瑠美さんは、川澄さんに連絡を。『新しい手掛かりがあります』って伝えて下さい……」「へっ? なにっ?」 瑠美の呆けた声を無視し、京子は椅子から腰を上げた。――――― 川澄奈央人は鏡の前に立っていた。 携帯電話が鳴り、瑠美からのメッセージを確認する。すぐに返信する。『2日くれ。ヤツらのアジトを特定する』 オカルトに対抗するにはオカルト? ……困った姫様だね。僕は笑う。 澤社長にもメッセージを飛ばす。『あと2日ください。ヤツらのアジトを特定します』 それまでに、決断してくださいよ? 頼みますよ? 僕のためにも……。 僕のため? そうだ。僕のためにも《D》には動いてもらわないと。 川澄奈央人は思った。 そう。 せっかく僕がヤル気を出しているのだから……報酬はしっかりと貰わないとね……。 鏡の中の男は、本心を隠すかのように、ぎこちなく微笑んだ……。――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 gに続きます。 今回オススメはもちろん? sees大好き『ポルカドットスティングレイ』様……。 ポルカドットスティングレイ……。 メジャーでもアルバム出し、今、最も勢いのあるバンドのひとつ。 前回のオススメでも述べたが、彼らの曲の動画・撮影・演奏・ボーカルの雫氏のカリスマ性などなど……魅力的。 椎名林檎などの影響強く、雫氏の歌い方にはクセもあるがそれも個性かな。 しかし……ラジオ聞いていると面白い。特に雫氏の女王様キャラというか……S気強いというか……容姿の可憐さとは違うギャップにちょっと戸惑うww 雫氏風に言うと……「お前ら、買えや」 雑記 お久しぶりです。seesです。 身辺に変化なしよ。つまんない毎日を送っているしだいであります……。 今回のお話はそんなに抑揚のない回、ひさしぶり京子様パートに少し脱線ぎみに話を展開、ややこしい性格になってまったなあ……みたいな。川澄氏は登場させる予定なかったけど、いないならいないで少しさみしかったのでオチに雑談。岩渕氏……今回めっちゃ疲れた。変な描写多いし、添削多いし、短くもとめるのも一苦労す。 次回は岩渕氏のバカンス編として、エフの方々との交流と心の変化、ディーの連中は2日後、どうするのか?どうなってしまうのか? みたいな話。活躍はしないけれど、固有名詞を少し増やす予定。モブ扱いだと使いづらい気配の人多数……。がんばれ……わし。 私、seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『続・魔除け』sees あーたりぃな。仕事。辛い。眠い。上司うぜえ。客しばきてえ……。 それはいつもの、いつもの、営業帰りの車の運転中でのできごとだった……。 信号待ち。 seesは左折。ウインカー点灯。ブレーキ踏みながらぼんやりうとうと(=_=)💤 すると……後続車が左に逸れてセブンへGO。 別にそれはいい。そんなことはどうでもいい。 しかし。やはり、 ヤリやがった。sees 「……ショートカットかよ。まったく近頃のバカは……」 危険かつマナーの悪い車を見て、seesはイラっとした。そう……この時はw 信号――青にチェインッ! (古いネタwウィングマン、知らない?)sees 「……煽るか(あれ?既視感?)」 決断、即行動、理性ゼロ、アクセル踏む、AT(オートマチック)フィールド 全開ぃぃ!! (あれ?既視感?) 許せん、この国の平和は、ワシが守るぅ!! そう思い、大いなる決意と正義の鉄槌を下し――かけた時……《敵》のバリア が発動した。(あれ?既視感?……) そう。 すぐに追いついた車両には(エスクァイア?)のリアガラスに、とんでない 『魔除け』のデカールが施されていたのだっ!! 💓嵐💓 嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐 嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐嵐 どぎついハートマーク。色分けされた漢字の列・列・烈っ!! そして例の5人組それぞれの顔をデフォルメしたと思われるキャラクターの 顔・顔・顔面んんっ!! sees 「うわーーーっ!!」 急ブレーキ、開ける車間距離、高鳴る心臓……。 それは禁断のデカール、危険を知らせるサイン、絶対に関わってはいけない、 そんな気にさせる……まさに『魔除け』でした……(あれ?既視感?……)。 sees 「……はぁはぁ(;´Д`)💦💦、マジで勘弁してくれ。ていうか、デカイ車に ひとりで乗るなや……地球環境にも少しは配慮せえや……」 九死に一生を得たseesでした……。 皆さんも、交通ルールは大切ですが、それよりも大切な、守るべきルールっ てありますよね?(意味不明)そう考えさせるくらい、seesにとっては脅威 かつ戦慄のデカールでした。(あれ?既視感?……) (ちなみにこれはノンフィクションではありますが、seesの偏見と独断のみの文章です) 了🚙=333 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。 人気ブログランキング
2019.12.12
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 10月8日――。 ――白昼夢を見ている。 楢本ヒカルが絶対神フィラーハから授かった"奇跡"の力ではない。そう。とてもおぼろげで、とても曖昧で、メモを残さなければすぐに忘れてしまうような、ただの夢……。 ふと気づくと、楢本ヒカルは《F》の敷地内にある芝生に座り込んでいた。ひとりで――いや……ひとりではなかった。 辺りを見回すと、そこには大勢の人々がいた。時間は夕暮れ、景色はオレンジ色に染まり、人々の顔には影が差し、誰が誰かはわからない。 ……私は、何をしているの? 困惑しながら、ヒカルは影の差す人々の顔をのぞき込んだ。そこには……同じような黒いスーツを着て、ヒカルを取り囲むように立ち並び――怒りと軽蔑の眼差しを向ける男や女の顔が無数にあった。「ひっ」 思わず息を飲み、身を震わせた。 人と人との間に見える向こうに、倒れて動かない別の人々が見える。芝生の上に倒れているのは大人だけではなく、老人や子供もいる。学生らしき制服を着た若い少年や、妊婦らしきお腹の大きな女性もいる。 ヒカルは神の名を叫ぼうとした。だが、まるで金縛りにでもあったように、口はおろか、体もまったく動かせなかった。 ……助けてください、フィラーハ様。私を……どうか……どうかお救いください。 次の瞬間、ヒカルの周囲から、豪雨のような罵声が浴びせられた。『下劣な詐欺師女っ、死ねっ!』『イカれた犯罪集団めっ、消えろっ!』 全身を戦慄が走り抜ける。恐怖に目を見開いて両手を握り、天を仰いだ。『死ねっ』 黒いスーツを着た大勢の人々が自分をなじり、けなし、罵声を浴びせ続ける。『死ねっ』 スーツを着た人々はジリジリと歩みを進め、少しずつヒカルを包囲していく。『死ねっ!』「いやっ……いやっ……いやっ……」 恐怖に凍りつきながら、うわ言のように繰り返す。夢であるはずなのに胃が痛む。「……助けて……フィラーハ様……誰でもいい……誰でもいい、から……」 その時――罵声を続ける男女の壁の隙間から、ひとりの男が姿を見せる。『……うんざりだっ! もう、たくさんだっ!』 それは……投げやりで、乱暴で、とても……とても力強い声だった。『こんなことをして何になるっ? 俺たちはっ、何も変わらねえじゃねえかっ!』 男の力強い言葉が心に響く。それは……投げやりで、乱暴で、とても、とても優しく、すごく……暖かい声だった。そして、次の瞬間、聞き覚えのある電子音が脳に響いた。 予めセットしていたアラーム音に、ヒカルは目を覚ました。 ソファから体を起こし、部屋の中を見回す。心臓が喉から飛び出しそうに高鳴り、全身にびっしょりと汗をかいている。「……そんなはずはない。フィラーハ様以外で、私を助けてくれるヤツなんて、いるわけがない……ありえない……ありえないんだ……」 ヒカルはそう呟くと、汗で濡れた下着やシャツを着替えるために立ち上がった。 時計の針は午後14時を指している。陽光の中でシャツを脱ぎ捨て、下着を脱ぎ捨てる。ベッドの脇にあるサイドテーブルの上で、携帯電話が瞬く。ふと液晶を見ると、『次の準備が整った 宇津木』とメッセージが入っている。「……宇津木さん」 そうだ。 私を助けてくれる人は他にもいる。それが宇津木さん。《F》代表、宇津木聖一さん……。 ヒカルは自身の"奇跡"を最初に信じてくれて、自身に莫大な資金援助をし、自身を《F》の"聖女"にしてくれた恩人の顔を思い浮かべながら、クローゼットから新しい下着とシャツを取り出した。――――― 岩渕誠が《D》名駅前店の入口を抜けると、そこで《D》名駅前店支店長である鮫島恭介に呼び止められた。「岩渕、悪い、頼みがあるんだ」「……先輩? どうかしましたか?」 鮫島は申し訳なさそうに「すまん」と言い、アゴを指でかいた。「お前、今から宮間んとこに見舞いに行くだろ? 帰りに、名大病院に寄ってくれないか?」 鮫島とは上司と部下の関係だが、いつものように敬語は使用せず岩渕にきく。「名大病院って……息子さんのいるところ? えっツカサ君、どうかしたんですか?」「いやよぉ……アイツ、今日一時退院の日でさ……迎えに行く約束してたんだわ」「あー……今夜は幹部会議の予定でしたね……いつ終わるかわからないし……」「……俺のデスクで大人しく待たせるからよ、連れて来てくんねえか?」 いつも粗野で豪快な鮫島が、叱られた子供のような顔をする。「了解です。パパと違って"おとなしい"ツカサ君なら社員も歓迎しますしね。それに、《D》の社内なら安全でしょうし……」 岩渕がそう言って笑った時、背後から、「お疲れ様ですっ、岩渕さんと鮫島先輩っ」という声がした。 振り返ると、とても大金を盗まれたばかりとは思えない、何を考えているのか全くわからない《D》大須店支店長の川澄奈央人がにこやかに笑いながら立っていた。「……お疲れ」「名駅前に何の用だ?」 わざとらしく威嚇するような声で鮫島がきくと、川澄は「ちょっと人事部長と社長に相談事です」と言い、前髪を指でいじった。「……宮間の件、か?」「はい」 川澄が鼻先で笑う。「ちょっと思いついたことがあるので」「俺たちに内容は教えられない、か?」「……岩渕さん。正直、僕は今ね、"声を出す"のも遠慮したい気分なんですよ」「……?」「ヤツらの情報網が何なのか不明な以上――その網をくぐり抜ける方法があるのなら、僕は何でも試してみるつもりです」 笑みを消し、岩渕を挑むような目をして睨みつけて川澄が言う。「……それが、来社の理由か?」 興味をそそられた鮫島がきく。だが、川澄が鮫島に答える前に、岩渕が、「ムチャはするなよ」と言って微笑んだ。「アンタに言われたくないよ」 川澄が言い、鮫島が「同意だな」と呆れたように答える。「……例えば、『女子サッカーの三浦成美選手』をネットで検索したい場合、『サッカー』と『三浦』だけで足りると思いますか?」 聞き取れるギリギリの声量で、川澄が岩渕と鮫島を交互に見てきく。「無理だろ。それじゃあ、キング……三浦知良選手が先頭だ」 そう川澄に言って、鮫島は腕を組む。「……つまり、情報を検索・把握したいのなら、多少でも個人情報が必要ってことです。逆に考えるのなら……僕らに共通している《D》を肩書から一瞬間だけでも外せれば…? ヤツらは僕たちの行動を把握できなくなる……かもしれない」「……ちょっとワケわかんねえな」 鮫島が半ば本気で悩む。それを見た川澄は急に腕のHublotに目をやり、「あーっ、やばいやばい。遅刻したら社長に殺されるっ」と言って、名駅前店の自動ドアを抜けて行った。 視界から消えゆく川澄を見つめながら鮫島が、「……ツカサの件、頼むな。岩渕」と告げて店内へと戻る。それらを見て岩渕は、なぜ澤社長が川澄の現場復帰を認めたのか、少しだけわかったような気がした。――――― 僕はB型肝炎ウィルスに感染している。母親からの母子感染だ(パパから聞いた話だと、母親は何か危険な薬物の中毒者で、それを注射する針の使い回しが原因と言っていた)。 B型肝炎はすごく怖い病気だ。僕の場合――肝機能が低下し、将来は肝硬変、肝細胞ガンを発症するらしい。インターフェロンや抗ウィルス療法の薬がなければ、明日にでもガンを発症し、遅かれ早かれ死んでしまうのだろうと思う。 でも、怖くはない。 そう。鮫島ツカサは、死ぬことが別に怖いとも思わなかった。確かにインターフェロンの注射はすごく痛いし、検査は苦痛で泣いてしまうほど怖かったけれど……それでも……死ぬのが怖いわけじゃあない。 そう。ツカサが本当に怖いと思うことは……僕が死んでパパがひとりぼっちになってしまうのが怖かった。パパが悲しんで泣いてしまうのが怖かった。 今――僕の手を握って、一緒に歩いている人。岩渕さん。たまにだけど、岩渕さんは恋人の?京子さんと一緒に病院へお見舞いに来てくれる。岩渕さんたちだけじゃない。パパは僕が寂しくならないように、《D》のいろんな人を連れて来てくれた。宮間さん、ていうすごくキレイな人もいたし、坂口さん、岩清水さん、それに……スタンボー・花さんていうハーフの人もいたし……パパには内緒だけど、月に一度、澤社長も来てくれている。《D》の人たちは僕に勉強を教えてくれたし、貴金属のことも教えてくれた。だから、僕は将来大人になったら《D》の鑑定士になると決めていた。パパやみんなと一緒に仕事をするのが、僕の夢で目標だ。 岩渕さんの車が見える。「フィアット500だ。世界で一番カッコイイ車だぞ」と岩渕さんは僕に言うけれど……ごめんね。僕はやっぱりパパの乗るシーマが一番カッコイイと思う。「……いいか? フィアットは100年ほぼデザインが変わらなくてな……地球環境にも優しいエコな車で……あの大怪盗も……」 岩渕さんはニコニコと優しく笑い、僕も笑っていた。 でも…… ――"それ"は ――突然、来た。 ――唐突に、僕たちの前に現れた。 フィアットの倍以上もあろうかという大型の黒いバンが4台……5台?猛スピードで名大病院の駐車場に侵入し、僕と岩渕さんとフィアットを包囲するように停車する。 一瞬、呼吸が止まった。尿意を感じ、下腹部が痺れる。……怖くない。……怖くなんて、あるものか。大きくひとつ深呼吸をしてから、ツカサは岩渕の手を握り直す。そして震える声で、「ねえ、岩渕さん……この車は? ……誰?」と、きいた。「……ツカサ、俺から離れるな」 岩渕は奥歯を噛み締め、僕の小さな体を背から抱くように覆った……。瞬間、岩渕さんの心臓の音が聞こえる……。同時に、僕は自分の心臓の音を聞く……。気が狂ってしまったのかと思うくらいに、少年の脈は激しく鼓動する。 ……吐き気がする……痛い……胸が痛いよ……。 でも――…… 怖くはない。 怖くなんてあるものか。 本当だよ? 怖くは……ないんだよ? ……パパ。―――――「お迎えにあがりました。《D》の岩渕誠様、と、鮫島ツカサ様、でよろしいですか?」 自分でも思うが、かなり慇懃な口調だ。これはクセだな、と思い苦笑する。「……アンタらは誰だ?」 岩渕は落ち着いている"風"に言い、質問を重ねる。「宮間を襲ったのはアンタらか?」 質問に答えている暇はないので、話を進める。「……我々と一緒に来ていただけませんか? 聖女様がお待ちです」「……?」 予想はできていたが、会話は成立しそうにない。問答は無用と判断し、私はバンの中で待機していた部下の信者たちに合図を送り――それぞれの車から男たちが次々と降りる。「……抵抗すれば、その男の子――ツカサ君はケガをします。これは警告です」「……嘘を言うな」 私を睨みつけ、吐くように岩渕が言う。これには少し――驚いた。「……アンタはこの子にケガをさせるようなヤツじゃあない」「……なぜ、そう思うんです?」 こんな会話は時間の浪費だ。そう思うが、少し興味もある。……彼とは初対面なんですが、まったく、不思議な男です。「俺は鑑定士だ。専門は貴金属だが……人を見る目には……洞察力にはそれなりの自信がある。アンタは……他人をキズつけて喜ぶようなゲス野郎に見えない……」 なるほど。 感心する。 素直に感心する。「……しかし、抵抗されればやむなし、ということもありますよ? 個人的には無抵抗での招致を期待しますが……御二方、いかがされますか? 岩渕様、鮫島様?」「この子は関係ない、と言いたいが……ダメなのか?」 信者たちに腕をガッチリと掴まれた岩渕が弱々しく言う。鮫島少年はただ沈黙し、静かに状況を伺っている。……賢い子だ。「……申し訳ありません。では、御二方、我らが《F》の聖地へご招待いたします」 ――ここで、ここまで来て、私は、ようやく、大切なことを岩渕に伝えていなかったことを思い出した。「……自己紹介が遅れて申し訳ありません。私、《宗教法人団体フィラーハ》の代表、宇津木聖一と申します。以後、お見知りおきを……」 バンに乗り込む岩渕の顔が、訝しげに歪む……。 ――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 fに続きます。 今回オススメはもちろん? seesが愛する『カンザキイオリ』様……。 カンザキイオリ様。 圧倒的な歌詞力のボカロP。その一言に尽きます。 喜怒哀楽のある歌詞は世の中に吐いて捨てるほどあるけれど、これほどまでに感情豊かに悲哀を表現できる方はおられません。この方の動画で何度泣いたことか( ;∀;) もっと評価されるべき方のひとりです。……最近ではその通りになりつつありますが。 雑記 お久しぶりです。seesです。 ようやく寒くなってきましたw seesはスーツの上にユニクロのパーカー着て、安物のマフラー巻いて、顔にマスクして外に出かけます。買い物はマックスバリューばかり行き、他のスーパーには行きません。WAONのポイントがたまるけど、使いどころがわからない。 外食は行くけど牛丼やラーメンばかり、贅沢する時はうなぎ屋に行きます。自炊する時はシチューやカレーなどの汁、鍋物ばかり作ります。単身赴任だから寂しいけど、友達も少しはできました。それだけです。 仕事はデキるほうだと思いますが、それを周りにアピールしてはいません。目立つのはキライです。褒められるのも……ほどほどが一番です。 ちなみに、ブログで物書きのマネしていることは、秘密です。 今話はまずまずのデキ。seesの考え方とマッチしているし、想像がうまく形になってくれたのかな、と思います。惜しむらくは今後の展開のムラや不整合な部分をうまく調節できるか、否か、みたいな感じw 多少のストーリーの変更はございましたが、大筋はこれで完成。後はseesの脳内の話とうまく近衛がとれれば……。ラストにまつわるネタバレ部分もあったけど、まぁまぁご愛敬すね。 お子様視点の描写は《ゴーレム》以来久しぶり。興奮するぅぅ。 ……しかし、《d》パートが思った以上に閲覧数伸びてたな……何で?seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『キャッシュレスの穴』 sees 「最近近所にできたアレ――『海へ』、食いにいかね?」 同僚 「あっイイね~」 そう。最近、職場の近くにできた回転寿司(ちょい高めの回転寿司)に同僚 と行くことになりました……。 sees 「ヒラメ。……しかし、どこもかしこもキャッシュレスの宣伝ばっかやね」 同僚 「中とろ。……ホンマそれ。……まぁアタシも使うけど」 カウンターの職人さんに直接注文するスタイルの回転寿司?で、seesは同僚 の女子社員とパクパクと寿司を食らう……。 sees 「サンマ。ワシは楽天カードとエネオスカード、WAON、nanaco、楽天Edy、 ID……それと、電車通勤の時のスイカ……くらいかな?持っているの」 同僚 「アタシも似たようなもんだけど……やっぱり今はペイペイとか、メルペイ? クイックペイも使うけど……」 カタカナ語ばかりが流行る昨今の事情には疲れます。 sees 「ウニ。クレジットもそんなにポチポチ使えんしなぁ……」 同僚 「ホタテ。それそれ~……来月の支払い怖くないんかな?って思うww」 チャージもワンクリックで可能とか……正気か?とは思う。 sees 「……タマゴ。そろそろお腹いっぱいやね。帰るか?」 同僚 「メロン。そうね。今日はおごるね。こないだご馳走になっちゃったし」 さて、聡明なseesの読者様であれば、本日のオチも容易に想像できること かと存じます……。 そう。ソレが本当に、現実として、あってしまったのであります……。 ブブゥーー……。 同僚 「あれ? 残高不足? じゃあ、クイックペイで」 ブピィーー(無理)……。 同僚 「……あれれ。これは?」 ピピピー(悲)……。 同僚 「……seesさん( ノД`)」 sees 「……クレジットは? (鬼)」 同僚 「……実は財布、会社に忘れたみたいで……今は電子マネーしかなくて…… 後で返すから……お願い……ゴメンなさい……こんなハズじゃあなかった のに……ゴメンね……本当に……許して……ゴメンね……」 メンヘラぽく言うてはいるが、直訳すると『お前がおごれ』だ。 sees 「……お待たせしました」 seesはしかたなく、お気に入りのアズールの財布に指を突っ込み、 sees 「なんぼです?」ときいた。 店員 「……7940円です」 よう食うたなっ!!!! ワレッ!!! (# ゚Д゚)……とワシw いや……ワシもか……凹凹凹 電子マネーも便利やけど……管理もしっかりせなあかんな……。 🍣了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2019.11.25
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 名古屋市中区名城病院。 クリーム色の壁に囲まれた狭い病室のベッドの上で、宮間有希は膝を抱えて座っていた。その傍らで、岩渕誠は同僚の顔を見つめている。 宮間の長い睫毛が震えている。大きなマスクの裏では、奥歯を強く噛み締めているのがわかる。悔しい、情けない、怒り……様々な感情が彼女の中で渦を巻いている。岩渕にはそれがはっきりとわかった。痛いほど、わかった。 ……いったい、何が? 宮間の真剣な顔は同僚の岩渕には見慣れたものではあった。だが、今はいつもとは違うのだ。宮間は今、仕事をしているわけではないのだ。その重苦しい雰囲気が、岩渕を息苦しくさせていた。 午後14時過ぎ――宮間と連絡が取れないと鮫島から聞いた。岩渕も宮間に電話を入れたが繋がらない。鮫島は心配のあまり、出先の顧客にも宮間の行方を尋ねたのだが、相手先からは『午後1時には帰った』とされた。午後15時になって、警察から《D》に連絡が入った。そして、警察署員の口から、『東区のコインパーキングで宮間有希が強盗に襲われケガを負わされ、救急で名城病院に運ばれた』という経緯を聞いた。 ……宮間は用心深い女だ。 ……それがどうして? 岩渕はそう思いながら、壁の一点を鋭く凝視する宮間有希を見つめた。 雑務を切り上げ、病院の住所を調べ、出張中の社長へ報告し、渋滞を抜けたり、といろいろあって、岩渕が駆けつけたのは、もう夕方が近かった。ナースステーションに詰めていた看護師に話を聞くと、宮間のケガは軽度の捻挫と打撲、スリ傷や切り傷を全身に……さらには顔面にいくつものキズを負っていたらしい。たぶん……犯人との格闘の末、というより――拘束から逃れようと無理に暴れて駐車場のアスファルトやコンクリートに顔や体を打ったためのケガらしかった。 畜生っ……聞きづれえな。やはり岩清水や坂口を連れてくるべきだったか? 《D》の女子社員たちの顔を思い出しかけた時――宮間の視線が岩渕に向いた。「……死んじゃあいないみたいだな」 岩渕は同僚をからかうかのように言った。情や労いの言葉を宮間が好かない性格ということは知っている。「……ええ、生きてるわ。だからこそ……本当――イラつくわ」 鋭い目つきで岩渕を見つめ、小さな声で宮間が言った。「……来てくれてありがとう、あなたが一番乗りだわ」 岩渕を見つめる宮間の目は怒気で満ちていた。「……当たり前だろ? ……社長は明日だが、もうすぐ部長も来る予定だ」 何を奪われた? ブツは無事か? 犯人に心あたりは? 原因はお前じゃないのか? そう問いたい気持ちを岩渕は飲み込んだ。そんなことで宮間を責めても何の解決にもならなかった。「……骨の検査と治療で今日と明日は入院しろってよ。……《D》のことは心配するな、少し休め」 鼻で深呼吸をしながら岩渕は言った。ティファニーのピアスが揺れる宮間の長い髪からは、今もほんのりと香水の匂いが漂っていた。「……心配をおかけして申し訳ありません」 その時ようやく――宮間の目から力が抜け、彼女は力なく頷いた。「警察からはまだ何の話も聞いていない。……もし、警察には話したくないことがあるのなら……今、教えてくれないか? ……いろいろと《D》で調べておく」「……わたし……わたしは……岩渕クン……」 岩渕から目を逸らし、宮間がうつむいた。同僚のその様子を見て岩渕は、自分が彼女に思い出したくないことを思い出させてしまったことに気づいた。「……奪われたわけじゃあないの……ただ、壊されて……私の仕事が……私の、誇りが……私の……私の秘密も……ただ……汚されて……汚されたの……」 宮間は両腕で顔を覆い――ポツリ、ポツリと話を始めた。時折、彼女がむせび泣いて声を詰まらせるのを見つめながら――…… ――岩渕は黙って、ただ、黙って――それを聞き続けた……。――――― 肉が食道を流れ胃に落ちる感覚を楽しみながら、田中陽次は瑞穂区にある高級ステーキレストランである『キッチンハウス・リボン』で早めの夕食を食べていた。 うめぇ。 鉄板の上に盛られた松阪牛のステーキを咀嚼しながら、田中は心の中で歓喜した。最上級の肉の塊を行儀悪く噛みちぎる。芳醇な甘い香りが鼻腔を刺激する。 最高だ。田中は心の中で呟くと、脇に添えてあるフォアグラの塊にフォークを突き刺した。まるで原始人のように肉を食いちぎり、乱暴に噛み砕く。今度は注がれた赤ワインを水のようにゴクゴクと飲み込む。ひたすらに呼吸と咀嚼を繰り返し、繰り返し――まるで肉食獣のような声で唸った。 胃が膨れ多幸感で満たされるのを感じながら、田中は胸のポケットに入った財布を手でまさぐり、その厚みを確かめた。財布には、"スズキイチロー"こと川澄奈央人の倉庫から盗んだ現金の一部が入っていた。 それにしても……。「……あの女、イイ女だったなぁ……。どうせならヤっちまえば良かったぜ……」 誰にともなく呟くと、田中は宮間有希の顔を思い出し――思い出して、想像する……。「……午後13時5分に、宮間有希が東区のコインパーキングに駐車していた《D》の車に乗り込むわ。タイミングは13時15分まで10分間――その間だけ、人や車の通行はないみたい……監視カメラもダミーばかりで本物は精算機の上だけみたいだし――そこを襲って」 ソファに腰を下ろし、田中の顔を見つめてヒカルが言った。「……川澄の倉庫に続いて、これも田中さんにお願いするわ」「わかりました。……ついでですしね」 そう答えながら、田中はヒカルの唇や胸を――いつかは自分のものにしようと、いつかは自分だけのモノにしようと考えている聖女の体を見つめる。初対面の時は貧相で貧弱だった聖女の体は、今ではすっかり健康を取り戻し――女らしい……悪くないスタイルだ。「……川澄からはカネを奪うだけでいいのだけど、宮間有希に関しては……どこかの企業から買い取った高級時計を……〇〇〇で〇〇して頂戴……」 そう言ってヒカルは脇に置いてあった"神託"を手に取ってパラパラとめくる。「俳句を趣味にしているらしいから、それも適当にバカにして……顔にキズでもつけてあげて」「へえ、俳句ですか? ……顔にキズも?」 田中は唇を舌で舐める。「何か、意味が?」「よくわからないけど、俳句のコンテストで優勝したみたいなの。顔にキズでもつければ、授賞式には出られないでしょ?」「……いやいや、今時――そんなにプライドが高い女って……います?」 田中が言い、ヒカルは「女のことは女が一番よくわかるの」と言って笑う。田中も笑う。気がつくと――涎が口の中で激しく分泌されていた。《F》の屋敷の食堂で聖女様からもらって来た地図を広げ、東区にあるコインパーキングの詳細と、大須にある川澄の倉庫について計画を練る……。 大須の倉庫には1億近くの現金がゴミのように捨て置かれているらしい――考えるまでもないが、犯罪行為によって集められたカネだろう。……ここに俺から奪ったカネもあるに違いない。あのチンピラ野郎……。《D》総務課長の宮間有希。川澄に関しては私怨も強いが、この女に関しては何の恨みもない。――が、川澄と同組織である《D》に所属し、かつ聖女様の命令であるならば……俺は何も考えない。何も考えちゃあいないが……少しばかり遊んでやってもいいかもな。 川澄の倉庫から現金を盗んだ後は……想像以上に簡単に物事が進んだ。 監視カメラ対策にマスクとゴーグルをし、宮間有希がやって来るのを待つ。女がやって来たところを――男3人で囲む。膝を下ろさせ、両腕を背に回す。女は猛烈に抵抗し、カン高い叫び声を上げるが、誰も来ない。当然だ。近くに人や車がいないことは"知っている"。しかし少々面倒くさくなったので――俺が宮間の腹に拳をめり込ませると、女は嗚咽を漏らして呻いた。背筋がぞくぞくと震え、我慢できずに女の胸を揉みしだく。 宮間有希、この女はとても美しい顔と髪をした女だったが、身動きひとつできない状況で、俺に向かって、「殺すっ! 絶対に殺してやるっ!」と凄まじい形相で叫んだ。《F》の後輩信者のひとりに命じ、《D》の車の助手席に置かれていたアタッシュケースを外に運び、開ける。鍵は宮間のスーツのポケットに入っていた。「それに……触るなっ」と宮間がほざいたので、俺は女の首を片手で掴み、また胸をまさぐった。「……この、外道っ」女の悲痛な呻きを聞くのは楽しいが、口から飛ぶ唾液や血が服に付いてしまうのが困る。 首を締め、腹にもう2~3発拳を叩き込むと、宮間はようやく静かになった。女は狂ったかのように目を血走らせ、血が滲むほどに拳を握り締めていた。「お前ら……何者だ?」と弱々しく喋るが、別に答える義務はないので無視をする。 アタッシュケースを開くと、そこには高級そうなスケルトンの自動巻き腕時計が3本も収納されていた。スポンジ素材で包まれた腕時計の上にはそれぞれメモ書きが置いてある。『ロジェ・デュブイ エクスカリバーシリーズ 本物 備考――スケルトンタイプ』 素人でも理解できる。こいつらは俺のような一般の地方公務員では生涯触れることもでない一流品で、100万200万では到底買えるものではないということ。 宮間は土下座させられたような恰好で、必死の形相でもがいている。それらを見た後輩信者たちも「お前らのような富裕層のクズがいるから……我らの聖女様は……」と興奮した様子で宮間の頬を――まるでハンドジューサーでレモンを絞るかのように、ゴリゴリとアスファルトに擦り当てた。それでも、女は呻き、声を張った。「……それは《D》のエクスカリバーだ……シリアルナンバーも控えてある……現金化できると思うなよ……お前らは……全員、殺してやるっ……」 ……腕時計を奪われるとでも思っているのか? その口調には本物の殺意や敵意が込められているのはわかる。どうでもいいがな。 ――だが、違う。 俺たちの目的は、聖女様の命令は、それとは違う。 自分たちが持参したバックの中から8オンスのネイルハンマーを取り出す。アタッシュケースの中からエクスカリバーを引っ張り出し、コンクリートの上に置く。何かを察したのか、宮間が絶叫する。「……やめて、やめてっ! 殴るのなら私を殴れっ! やめてえっ!」 ……女の叫び声は最高だな。背筋がまた――ぞくぞくと嬉しそうに震え……ハンマーを降り落とす。リューズが歪み、ガラスに亀裂が入る。「いやーっ!」 自分のことでもないのに不思議だな、と思いながら2発目を落とす。「やめてっ! 許してっ! お願いっ、壊さないでっ!」 土下座のような姿勢のまま、宮間はまるでカエルのようになって猛烈に身悶えする。「しかし、理解できねえな」3発目。「こんなもん、ただの腕時計だろ?」4発目。「ただの道具じゃねえか」5発目。ここで、エクスカリバーの1本は完全に砕け散った。 2本目を手に取って地面に放る。チラりと横を見ると、宮間は涙を流している。「……いやだ……やめて……私の仕事が……私の、すべてが……」 宮間は大粒の涙を流してアスファルトを濡らしている。……まぁ、そんなに心配するな。残りの時計をブッ壊したら解放してやるからよ。「エクスカリバーなんて大仰な名前つけやがって……壊しちまえばゴミじゃねえか」 泣き崩れる宮間に俺は言う。「アンタ、俳句ヤるんだろ? 『山田山子』さん。そっちの名前はクソみたいでよ……俺は好きだぜ」言いながら、ゲラゲラと笑う。 笑いながら、ハンマーを降り落とし続ける……。 目を閉じて、思い出す。絶望に歪んだ女の顔と、恐怖、怯え、羞恥、屈辱。宮間有希の目にはそれらがないまぜになって混在し――楽しませてもらった。 しかし……本当はもっと、もっともっと楽しめたはずだった。聖女様の"神託"さえあれば、宮間有希を拉致して犯すなど実に簡単なようにも思われた。川澄奈央人を待ち伏せ、捕え、殴り殺すことなど実に簡単なようにも思われた……それができなかったのは……。 そう。 それを自分だけの判断で実行すれば、"あの男"の機嫌を確実に損ねるからだ。それは今の段階では避けたい……。 まぁ、いい。 今は、な。――――― 10月7日午前0時――。「……宮間の話は聞いたか?」『ええ。大体の経緯は』「社内の様子はどうなンや?」『平穏ですね。取り乱したヤツはいないですが……静かすぎるくらいです。まあ、みんな、考えるところがあるんでしょう』「岩渕の小僧は?」『岩渕さんなら、警察の取り調べ、エクスカリバーの修理依頼、宮間さんの心のケア、いろいろ動いてくれてるみたいですね」「おめぇは? 今まで何してやがったンだよ?」『あははっ、ちょっと今は秘密、ですねえ』「川澄……俺様がてめえを飼ってやってンのは、なぜだと思う?」『社長……わかってますってば……』「……てめえを飼ってンのは、てめえが"緊急時"に役に立つ男だからだ……カン違いすンじゃあねえぞ?」『……そうすね』「犯人グループの正体とアジトが判明次第即報告しろ……当然、どんな些細なことでもだ」『了解です……ボス』「姫様には適当に言っておけ……教えるのは最後でいい……」『アジトを発見したとして……どうします? 焼き討ちでもします?』「……そんな野蛮なことはしねえ。だが、このツケは支払ってもらう……死ンでもな」『……一応、ヤツらのメンバーに心あたりがあるので、探ってみますね……それと……』「ゼニなら用立ててやる。交渉役が必要なら岩渕を使え、用心棒なら鮫島を使え。命令や」『んー……かしこまりました。ただ……』「ただ? なンや?」『……社長や役員や社員も全員――気をつけてくださいね……ヤツら、《D》の関係者を狙って襲って来る可能性――"特大"ですから……』 通話を切る。《D》代表取締役社長――澤光太郎は、出張先で宿泊していた東京のセンチュリーサザンホテルの上層階で、首都圏の夜景を眺めていた。明日、朝一の新幹線で名古屋に帰社し、社内の陣頭指揮を執るつもりだった。 最悪――戦争の用意も必要か? ふと、《D》名駅前店の倉庫に眠る、ジェラルミンの盾のことを思い出す……。 ――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 eに続きます。 今回オススメはもちろん? seesが最も愛する『Aime』様……。 Aimer様……。 説明不要のスーパーシンガーwハスキーな歌声に伸びのある声質……。難しいとされる英語歌詞や難解なメロディをしっとりと歌い上げる技量……天才かつ最高。 惜しむらくはメディア露出が極端に少ないことと、アニメやドラマのタイアップが非常に多い事(そんなことしなくても売れるのに……)。 やはり見た目が少し地味なのが影響か? ……穿った意見でスイマセン。 ……ホント、クソみたいなドラマやアニメで使われて欲しくない。てのが本音かな。 安売りはしないでくれ……。 アルバム各種。買うべし聞くべしw 雑記 お久しぶりです。seesです。 更新頻度鈍いなw自分でもイライラする。 さて、近況ですが……特に何もないw今回は本当に何もないw しいて述べるのならば、私、松阪に赴任してから1年が経過したということぐらいか。sees的には2ヵ月で帰る予定だったのだが、昨今はどこも人材不足ということで説きふせられ……今に至る……むむむ、さいですか……。はいはい。ああ、ういろう、食いてえ。 久しぶりの澤社長の登場パートにseesも気合注入💉ドピュー!! 後はまぁ、惰性ですねw岩渕氏は相変わらず主人公属性らしく地味な立ち居振る舞いの徹底化。セリフの強弱を考え、比較的おとなしめ……。まぁ、制作時間に関しては今回短かかったですしね……。 キャラクターの性格と言動がテンプレ気味なのが少々違和感。まぁ……あまりに細かく設定してもね……それに、それがseesの才能の限界だとも思う。まじで。 田中氏鬼畜すぎーーwwwでもseesは好き♪ 次回は――ある方とある方がある方によってあることをされて、それによって京子サマとある方が激おこ😡みたいなwもう少しヒント出すと、岩渕さんと○○(京子様でも川澄でもない方)が大ピンチになりますw ああ……ああ……もっとホラーな話をつくりたい……ドロドロで、もふもふで、にちゃにちゃな……いやいや、我慢我慢(´・ω・)💦 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『会食と価値観(つまらない話)』 sees 本日は会社関係での会食。ツイにも呟きましたが、ちょっとばかり有名な 隠れ家的フランス料理店に来ました。会員制です。とても期待しています。 ……え? 何でそんなに丁寧な口調ですって? いやいやこれが私ですよ? 局長 「sees君、今日は存分に食べてくれたまえよっ! ガハハッ!」 うるせえな。 だったらマルゴーとかシャブリとかの高級ワイン飲ませろや。 局長 「sees君、これは○○産の○○を使ったソースで、○○が○○で○○な……」 うるせえなジイジ(暴言?)……ワシをナメてんのか? しかし……ウマイな(〃▽〃) 前菜はアンチョビの甘酢あんかけ?みたいな。 サラダは海藻と水菜と香草?と玉ねぎと白髪ネギと……いろいろな野菜に サラサラのオリーブオイルと何やらポン酢ゼリー? ジュレ? 頭が……。 局長 「ほらほら、飲み物も好きなモノ頼んでいいからね💓」 ……うぜえな――しかし……。 sees 「……ペリエ(水)で」 局長 「あれれ~(コナン君調)、遠慮しなくてイイんだよ~」 アホな上司は置いといて……。 スープは何と……鳴門金時(さつまいも)のポタージュ! これがまた 美味かった……。甘いようで優しくて……正直、おかわりしたかったw 局長 「いや~美味しいねえ美味しいねえ、また来週にでも来ようかな~」 ……無視無視。 メインは豚・鳥・牛・魚から選択。seesは迷わず魚。 ……美しい。 皿に盛られたのはカレイのムニエル?に南蛮風味のソース、カイワレやら ネギやらの野菜盛……(料理系の表現は難しい……)すげ。 ウマイ、美味すぎる、十万石饅頭……(埼玉県ネタ)。 局長 「sees君、どうだね? 予約していくかい?」 プライベートでの次回来店を進める局長……うるせいなぁ……。 sees 「……しかし本当に美味しかったですね……(本当に定期的に来たいな)」 そして……seesは見た。 離れた席に置いてあったメニューをそっと手に取り、価格を確かめた……。 結論から思うに――見なきゃ良かったw ランチコース 3000~6000円 ディナーコース 5000~15000円 ペリエ 600円、ワイン、グラスで1500~??? どんだけ~っ!! sees 「……今日はありがとうございました<(_ _)>」 庶民にゃ無理か……。思い知ったわ、いや、思い出したわ。 ワシには……日高屋のラーメンがお似合いやな……。 🍜了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2019.11.07
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 10月6日――。 朝刊を眺めていた宮間有希の視線が、文化面のある特集のところで止まった。「えっ」 思わず声が漏れた。 心臓が高鳴り、呼吸が乱れる。ココアの注がれた紙コップを持つ手が震え、目をパチパチと瞬かせる。『現代俳句協会主催 名古屋城俳句祭り』『最優秀賞』『俳号 山田山子』『季節、時事、人間心理などを美しく句に表現。秀逸である』 特集に書かれた全文を見る。間違いなかった。「……私が、優勝?」 ……半年前に私がしたため、私が送った、私の俳句……。県が全面協力のコンテスト、賞金は30万円と賞状と……。東急ホテルでの受賞パーティ、知事や文科省大臣からの称賛……。 信じられなかった。こんなことは、俳句を趣味としてからはじめてのことだった。誰にも言ったことはないし、誰かに言うつもりもなかった。「……優勝か」 無意識のうちにそう呟き――次の瞬間、宮間は、笑みがこぼれるのを必死に堪えた。 もう読んでいられなかった。宮間は新聞を畳んでホルダーに戻し、《D》の社員用休憩スペースのソファから立ち上がり、飲みかけていた甘いココアを飲み干した。空になった紙コップをゴミ箱に放り投げ、たった今読んだ記事の内容を忘れようとでもするかのように、強く首を振った。耳元でティファニーのピアスが揺れるのがわかった。「優勝……私が、認められたんだ……」 そう呟き、足早く女子トイレへと駆け込む。いつものようにトイレの鏡に自分の姿を映し、今朝の化粧や服装をチェックする。 お気に入りでもあるシャネルの黒いパンツスーツに、茶色くて細いエルメスのベルト。明るいクリーム色のシャツに、エルメスの腕時計。宮間はファッションに関しては持っているもののほとんどがハイブランドだ。……受賞パーティに行くとしたら、もっと控え目な服装のほうがいいのだろうか? それとも、下品でバカな女をアピールしたほうがいいのだろうか? 宮間はそういう"一般人"的な思考がイマイチよくわからない。周囲にいるのは《D》という個性的な企業に集まる、イカれたヤツらばかりだから……。 クラブで働いていた頃は、男に媚びを売って自分を少しでも高く見せることだけを考えていれば良かったし、それ以外には興味もさほど湧かなかった。地味なスーツを着て、地味な事務仕事、地味な庶務作業、地味な秘書仕事をするようになったのは、ここ数年――最近のことだった。 でも……《D》での仕事は楽しい。カネ持ちも、貧乏人も関係ない。《D》に足を運ぶような客は例外を除きほとんどがクズ――虚栄、慢心、欺瞞、偽善……それらを纏う無数のクズどもからカネをむしり取るのが、愛知県名古屋市中村区にある、ブランド・貴金属のリサイクルショップ《D》総務課長宮間有希の仕事だ。それには満足している。 もしかしたら……家に県から授賞式の招待状が来ているのかもしれない。そう思うと、鏡の中の自分から満面の笑みがこぼれた。どんな形であれ、どんなヤツらでもあれ、有象無象の――大多数の人々から自分が称賛されるのは、やはり気分がいい。「……当日は絶対に休んでやる……趣味は秘密にしてたけど……しかたないわね……」 ひとりごとを言いながら総務部の自分のデスクに戻る。その時――また、さっきの新聞記事が頭をよぎった。『最優秀賞』『秀逸』『賞金30万と賞状』『受賞パーティ』……。 賞金30万なんてハシタ金に興味はないけれど……。宮間はつくづく思った。『山田山子』の俳号に関しては……もう少し慎重に考えておけば良かった……もっと可愛らしい、もっと私にふさわしい名前にすれば良かった……。 デスクに戻った直後、背後から「……宮間」と、弱々しい声で鮫島が呼んだ。 宮間は振り返り、鮫島に機械的な笑みを見せた。「……悪いんだけどよ。ちょっと使いに行ってくれねえか?」 首をもたげ、申し訳なさそうに鮫島が言った。「『出張買取』なんだけどよ……できれば"美人"の査定士がイイって言われてさ……頼まれてくれねえか?」 普段なら絶対に断るべき仕事だが――気分が高揚しているせいか、断る理由が思いつかなかった。 昼の休憩の前に、宮間は名駅前店を出た。 その時はまだ、自分がこの後すぐにどうなってしまうのかなど、考えてもいなかった。―――――「では、行ってきます。標的は宮間有希と……あのクソ野郎、川澄奈央人の……ですね?」 歓喜と狂気の入り混じった下卑た声がそう言い、田中陽次は部屋を出て行った。屋敷の階段を駆け降りる軽やかな靴音がし、それに続いて車の排気らしき音が聞こえた。 楢本ヒカルはひとりになった部屋の中を見まわした。静かだった。屋敷の外では《F》の信者の子供たちがボール遊びをしている声や音が聞こえた。 不安や心配する気持ちはなかった。"未来"は私の味方なのだ。あの女――伏見宮京子に比較的近い宮間有希が何時何分にどこへ向かうのだとか……田中からカネ(後に私のものとなったはずのカネ)を奪った、あの川澄とかいう男の秘密も……私は知っている。 ……不思議ね。でも、しょうがないじゃない。"未来"が変えられるんだから……。 伏見宮に関わる者が不幸になることを考えると、息が弾んだ。 ヒカルはゆっくりと立ち上がり、部屋の隅にある母の写真が飾られたキャビネットの前まで行った。40歳で死んだ母と当時中学生だった私の写真にチラリと目をやってから、キャビネットの引き出しを開け、そこから分厚い日記帳を取り出した。 ソファに座ってティファールのスイッチを入れ、サーバーにティーバッグを入れてから、ボロボロに擦り切れた日記帳を広げる。タイトルには『神託』とあり、当時ヒカルが感じた経験や経緯が綴られていた。『夢を見た』『自販機の下に500円玉が落ちていた』『私はそれを使って喉を潤した』 日記帳の字は指が震えたかのように歪で、ところどころが掠れて読みにくくなっている。当時の細かい心理状態まではわからないが、紙に染みた汗や涙はくっきりと残っている。 そう。あの日はとても寒かった。寒かったし、お腹も減っていた。何日も何も食べていなくて、本当に、もうどうしようもなく困窮していた。 ヒカルはサーバーに湯を注ぎ、もう何百回と読んだ自身の思い出に目を走らせた。『夢を見た。雪の降る日、私は外に出て、自販機の前に立っていた。自販機の下を探ると、500円玉が落ちていた。私はそれを使って暖かい缶コーヒーを買ってそれを飲んだ。 次の日の朝、雪が降っていた。私は何も考えていない。何かを考える気がしなかった。たぶん、このまま雪に埋もれて死んでもいいと思っていた。悔しかった。悔しかったけど、それもいいかなと思った。それもまた、悔しかった。 夢の内容を思い出し、外に出た。寒かった。すごく寒かったし、おカネもなかった。コンビニでおにぎりを買うカネすらなかった。惨めだった。 夢で見たものと同じ自販機があった。何も考えていない。何も考えず、自販機の下に手を伸ばした。この時も私は何も考えていない。通行人から冷たい視線を浴びたけれど、そんなことすらも、何も考えていなかった。 信じられない。本当にあった。本当にあった。本当にあった! ほんとうに! 500円玉があった。あった。信じられない。 ここで少し冷静に考えた。予知夢? 未来視? 既視感? それとも飢えと渇きで頭がイカれたのか? わかんない。わかんない。わかんない。 "夢"が予知だとすれば、私は缶コーヒーを買うべきなのだけど、わかんないから。何もわかんないのだから、私は"コーンポタージュ"を買った』 ヒカルはページをめくった。次のページには翌日のことが綴られていた。『前日の夜と同じように、母のマネをして、フィラーハ様への祈りを捧げてから寝た。すると、また夢を見た。 私がよく行くスーパーの女子トイレだ。女がひとり入って来る。女は用を足すわけでもなく、鏡の中で自分の顔を見ていた。鏡の中の女は、私もよく知っている女。私をクビにした工場長の妻だ。顔を見ただけだけど、ムカついた。夢の中だけど、ムカついた。この女はいつも私の挨拶を無視し、まるで虫ケラを見るかのような視線を向けていた。 女は財布と腕時計を外して、化粧を直し始めた。見ていて気持ち悪かった。 でもそこからが"夢"の本当の意味だった。女は財布と時計をトイレに忘れて出て行ったのだ。出て行った。出て行きやがった! 腕時計の針は14:20を示していた。本当に信じられない夢だった。 女が戻って来て、財布と腕時計を見て安堵していた。チラりと見た腕時計の針は、何と、14:34分だった。わからない。わからないけど、どうすればいいのかは、わかった。 これが"夢"の意味だった。見せてくれたのは、フィラーハ様? それとも母さん?』 ヒカルはまたページを捲った。『やった。やったよ! 本当にあった。私が14:25分にスーパーのトイレに入ると、本当にあった。あの女の持っていた財布と腕時計が、本当にあった。もちろん、私はそれを盗んで外に走った。 盗んだ、とは思わない。これは拾ったのだ。拾ってやったのだ。横領だとか、窃盗だとかはどうでもいい。どうでもいいに決まっている。落とした女が悪いのだ。 夢は未来を教えてくれる。しかも未来は自由に変えることができる。変えられる。変えられるんだ! 私のクソみたいな人生が変えられるっ!』 ページの最後にはこう締めくくられていた。『フィラーハ様、フィラーハ様、私はあなたに永遠の忠誠を誓います。私の神。私の父。私のすべて。何もかもすべてを、あなた様に捧げますっ!』 ヒカルは日記帳から顔を上げ、また母の写真を見つめた。今はもう、母のことを狂人だとか、嘘つきだとは思わなかった。処女受胎のことも含め、すべてが真実であったのだ。だが、当時の悔しさや憎しみ、妬みや嫉みの心までは消えてはいない。 それから――ヒカルは"予知できる夢"の力を得て、"未来を変えられる現実"の力を得た。その過程で出会う人々はヒカルを『聖女』として畏敬の念を持ち、縋った。そして《F》を設立し、名古屋の郊外に広い屋敷を構えた。信者の数は年々増え、今では100人規模になっていた。《F》の資産も10数億にまで膨らんだ。 だが、やはりヒカルには疑問も残っていた。 ……フィラーハ様の神託があの"夢"だとしても、その意味は? 何? でも、もう、それも氷解した。すべては……絶対神の御心のままに……。 ヒカルはペラペラと日記帳をめくり――とある一文に視線を落とした。『私は誓います。あなた様の使徒となり、聖女となり、奴隷になります。どんな命令にも従います。人だって殺します。いえ、神様だって殺します……』 ヒカルは日記帳を閉じて薄く笑った。そう。絶対神からの命令は下ったのだ。――――― 午後1時。《D》大須店支店長の川澄奈央人はひとり、大須にあるトランクルームのビルの廊下を歩いていた。あくびをし、自身の借りている倉庫の鍵を胸のポケットから取り出す。今夜、岩渕と食事に行く約束をしていたことを思い出す。……100万もあれば良いかな? と思いながら倉庫の前に立つ。 扉が半開きになっている。 ……え? 思わずたじろぐ。 ――倉庫は開いている。 考えるまでもない。泥棒に入られたのだ。 ……うわぁ、ヤられたかな? 苦笑しながら扉を開き、中へ入る。この時点ではまだ"怒り"は湧かない。悪いのはカネを放置した川澄であり、盗んだ泥棒には拍手さえ送りたい気分だった。……この時までは。 川澄が借りているトランクルームは名古屋市に数ヵ所あるが、大須の倉庫には現金だけを隠し置いてある。著名な人物を脅して得た現金や、警備の甘い富豪の家から盗んだ現金や、盗品や密輸品や違法な品を売り払った現金が約1億――あったハズだった……。 ……空っぽか。 チリひとつ残さず片付けられた部屋の中を見まわす。すると視界の隅に、壁に貼られた小さなメモ用紙が入った。 ああ……そういうことか。 川澄は壁に貼られている紙をそっと指で摘み、見た。『天罰』 そう。それは川澄が最も嫌いな言葉のひとつだった。神様や幽霊やUFOの存在を疑っているワケでもない川澄だが――例えそんなヤツらがいたとしても、そいつらから罰を受けるいわれはないからだ。 ……不愉快だね。『天罰』――瞬間、川澄の脳裏にある人物の言葉の断片が横切った。確か――『聖女』だとか、『フィラーハ様』だとかをほざいていた男……田中陽次、か。「……ケダモノの知能でどうやってココを突き止めたのか……じっくり聞いてみないとね」 そう呟いて川澄は笑った。沸々と怒りの感情が湧くのがわかる。 そう。 心からの笑いと――怒りだった。 川澄が慌ただしく考えを巡らせていた時、スーツの中のポケットで携帯電話が鳴った。 ポケットに手を入れ、通話ボタンを押す。『もしもし、川澄か?』 強ばった岩渕の声が耳に届き、川澄も反射的に表情が硬くなった。「何? 今忙しいんだけど……」 最近は穏やかなはずの岩渕の声は、電話でもはっきりとわかるほどに緊張していた。 瞬間、ドス黒く冷たい不安が川澄の背に覆い被さった。「……まさか……他でも、何かあったのか?」 自分だけじゃない……そんな気がしたのだ。『宮間が強盗に襲われた。名城病院にいる。お前も後で来い』「はあっ?」 頭の中が白くなりかけ、思考が極端に狭まっていった。 『……? ――お前にも何かあったのかっ? 川澄っ!』「…………」 岩渕に言葉を返す前に川澄は携帯電話を落とした。そして……倉庫の壁を背に、もたれるようにしてズルズルと座り込んだ。ここまで動揺するのは久しぶりのことだった。 ……田中には仲間がいた……宮間の行動もすべて把握していたに違いない……僕が知らない情報網を持つ……まるで――そう、予知? ……超能力? ……それ以上の存在? 僕は微笑む。どういうわけか――僕は僕が思っている以上に、負けず嫌いな性格だったようだ。僕は僕の性格を理解する。当然、田中陽次を許しはしない。「聖女だがフィラーハ様だかよくわからなことだらけだけど……万能じゃあないみたいだしね……弱点はありそうだ」 倉庫の床に転がった携帯電話から岩渕の声が続いていた。だが、川澄奈央人にはもう、何も聞こえなかった。 ――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 dに続きます。 今回オススメはもちろん? seesも好き『ずっと真夜中でいいのに。』様……。 『ずっと真夜中でいいのに。』 たぶん、知名度はそんなにないのだけど……動画では1000万再生越えもちらほらと……seesも一瞬で好きになりました。……というか、ホンマにワシってこういう『感情的に歌う女性ボーカル』て好きなんやな……。 丁寧な歌詞に感情的な声量、音域はやや狭いかもだけど、不思議と迫力がある。キーが高くても音割れしないし……(安いスピーカーだと、こういう音楽割れるからイヤ)。 ヨルシカ氏にも似てるし……広瀬香美にも似てるし……うむむ、類似した方が多いのも、『ずとまよ』の課題かも💦 ……曲もアニメも良いのだけど……やはり方向性が迷走しているような気も……。 ……いろんなジャンル混ぜたような曲はどうかと思う、seesでした。アルバム『潜潜話』(ひそひそばなし)は……買う、かな(^^♪ 雑記 お久しぶりです。seesです。 さて、前回の雑記でも述べましたが……新しい時計買いました。自動巻きのスケルトン、定価は3万ほどで、セールしてたので買ってまいました。……そこまでは良かったのですが……sees、やはり知識のないモノを買うのはダメですね。そう。自動巻きって、少し放置するだけで『止まる』んです( ;∀;) いやね、朝昼晩と手首につけっぱにしているワケにもいかないんスよ……。でね、夜に寝て、朝起きたら数時間時計ズレてるとか……昼間ロッカーに入れてたらキチンとズレてやがる……みたいなww聞いてないがやwwいや、知らなかったがww しかたなく……楽天でワインディングマシン購入……5000円の出費(・□・⚡)そして――その後、リサイクルショップでも売っているコト判明。またショック⚡ ワガママなヤツ買ってもうた……。・゚・(ノД`)・゚・。 今話は……ヒカル氏の説明最終回と、邂逅です。ターゲットにされた宮間氏には合掌✋少しヒネった作りにしたかったケド……まぁ、これでいいのかな? 他人の小説のセリフをそのままパクったかのような描写もあるけど、それはソレww女性の言葉使いってムズイのよwホント( ´艸`) 岩渕氏の登場回数少ないのは……今だけ。後半は出ずっぱりの予定ww 次回は、邂逅編その2、ついに社長――澤サンにも神(魔)の手が……。京子様の周辺で次々と起こる事件の数々に、岩渕氏はどうするのか、どうなってしまうのか……。それはseesにもわからない(嘘)。…それと、宮間氏におきた事件の詳細あれこれ……。 しかし……もう……アレだね。『神』とか『姫』とか……ああ、普通の話が恋しい。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。"イイネ"もよろしくぅ!! でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『ドキッ❕ ツッコミだらけのカラオケ飲み会~😲』 sees ……タリいな。 そう。今夜は職場の同僚たちによるカラオケ会……。誰が言い出したのかは 知らないが、年に2~3回ヤルそうな……。あー帰りて。 若手男 「――米津玄師、『レモン』イキま~すっ!」 sees (うぜ―な。しかもヘタw商売用の案件歌しか作れなくなった米津に用はねえ、 《ハチ》の歌は好きだしドーナツホールは大好きだが……) 若手女 「――西野カナ、『トリセツ』で~す」 sees (……キモい歌詞やな。愛やら恋だら失恋だら……しかも歌い手は獣女子。 手に負えんな……一応拍手はしてやるが……あーマジ嗚咽ですけどw) 部長 「よし、歌うぞ~――長渕で「とんぼ」やっ!」 sees (長渕かよっ! 剛かよっ! 知らねえしっ! お前は清原かっ! 勘弁してくれっ ……しかもウマいのかよっ! どんだけ長い間歌い続けたんだよっ! 子々孫々 まで語り継ぐ気かよっ! ……ナウシカかよっ!) 同僚a 「よーし、ルパンで~『炎のたからもの』です」 sees (――ふざけんなっ! それワシの歌やぞっ!!!(# ゚Д゚)💢) 同僚a 「『あなた~にだけは~わかぁ~ってほしい~……』」 sees (クソッ! クソッ! わかってヤルわけねーだろがっ! 今後、てめーとは 一切口きいてやらねーからなっ😡ヽ(`Д´)ノプンプン) 同僚b 「――盛り上げるために、AKBの『フラゲ』イキま~す」 sees (――……うわあ。40男のアイドル曲はキツいな。脳がトロけるシチューに なりそうな……想像以上の破壊力やな……) 局長 「よし……『マジンガーZ』、イクか」 sees (……………素晴らしい。選曲、キー、盛り上がり、パンチを繰り出す仕草、 まるで本物の水木一郎先生や……帝王や) 総務長(女)「……菅田将暉の『さよならエレジー』いきます……」 ses (――めっちゃ歌い込んでるしっ! 好きなのかよっ! オバハン、菅田ちゃん 好きなのかよっ! ワシも好きだよっ! Wも好きだよっ! 最高だよっ!) ……はぁはぁ、疲れる。 ただ聞いているだけなのにこの疲労……帰ったらビールで乾杯やな(?) ……しっかし、コヤツら……ツッコミ所多すぎww疲れるわワシ……。 同僚c 「……seesさんは、何歌います?」 う~ん……ルパン三世のテーマか? しかし……こいつらに男の世界と美学を 教えたところでムダだろうし……なら…つい最近までラジオで垂れ流され、 洗脳教育されかけた…あの歌なら……歌えるかな?? sees 「……じゃあ、私は、あいみょんの――『マリーゴールド』歌いま~す」 ざわ。 え? ざわざわざわざわ……。 漏れるヒソヒソ話。隠れてない苦笑い。聞いてもいない老害たち。ケータイを いじる若手。誰かが言った「……えっ? seesさんて、そういう趣味なの?」 いやいやいや……いやいやいや……え? ダメなの? ワシみたいなんが10代の流行り歌ったらアカンの? 教えて……ねえ……教えてや……いや、教えろやっ、世間っ!! seesは見た、身をもって体験した、カラオケ社会?の闇を……。 想定より長い話になっちまった……。 了。゚(゚´Д`゚)゚。こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2019.10.18
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 10月3日――。 東区のコメダ珈琲店葵店の店内は閑散としていたが、分煙されている喫煙席にはかなりの人数が席に座っていた。岩渕誠を含む6人は禁煙席の広いテーブルに座り、もう30分ものあいだ雑談を交わしていた。 そこには岩渕がいて、伏見宮京子がいて、川澄奈央人がいて、鮫島恭平がいて、宮間有希がいて、高瀬瑠美がいた。男性陣3人は全員がホットコーヒーを注文し、女性陣3人は宮間と京子がミルクティー、高瀬がアイスティーを注文していた。――いや、京子は他の飲み物を注文したがっていたようにも見える。時折、隣のテーブルの上や、店員たちが運ぶ盆の上に視線を走らせていた。 岩渕がコーヒーを半分ほど飲み終えた時、川澄と高瀬のあいだにざわめきが走った。「兄さん、また私に黙って『バイト』してたでしょう?」「……知らないし、瑠美に言う必要ないし、関係ないし」という声が聞こえた。川澄は顔を窓に向けて頬を膨らませていた。宮間は「はぁ……」と深い溜め息をつき、鮫島は「うるせぇな」と吐き捨てた。京子は両手を挙げて揺らし「お、落ち着いて……」とたしなめる仕草をした。自然な流れとは思いたくもなかったが、京子の視線が自分へ向かう。 ……こいつら。 何を話し合うために来たのかを思い出させるため、しかたなく岩渕は言う。「……『社長の誕生日に何を贈るか』、いいアイデアは浮かんだのか?」 発案者は岩渕のすぐ隣にいる――京子だ。《D》社員一同からの、ではない。京子本人が個人的に澤社長へのプレゼントを考えるため……相談相手にと声をかけたのがこの――5人だった。 いや、あの強欲社長に何か贈るなど考えたこともない……。最初、京子に相談を持ちかけられた時、彼女の正気を疑った。欲するモノは何もかもすべて、自分の腕とカネで手に入れてきたような野郎だ……何を贈ったところで喜ぶとは思えない。「皇居での食事会に招待、とかでイイんじゃねえか? 京子サマなら余裕だろ?」 鮫島がそう言うと、対面の宮間が口を開いた。「黙れ、鮫島」 冷淡な口調と言葉に不意をつかれたのか、鮫島が宮間を睨む。一瞬で目付きが鋭くなり、頬が痙攣したかのようにピクピクとわなないていた。「てめえっ、またっ……先輩に向かって何て口ききやがる」「……それよりもさ」 今度は川澄が言った。「京子様の指輪、《カーバンクルの指輪》、あげちゃえばイイんじゃない? ……いろいろ喜びそうだと思うよ? ……いろいろ勘違いもしそうだし」 おいおい――。 岩渕が声を上げようとする前に、京子の声がした。「これは私のものです……よ?」 ニコニコと笑いかける川澄に対し、京子は微笑み返すものの……目は笑ってはいない。場の空気を察したのか、高瀬が呆れたかのように笑った。「あーあ……くだらないヤツばっかりね《D》って。《D》でまともなのは私と岩渕さんだけなのかしら? ……姫様も、就職するなら別の企業にしたら?」「――うるさいね、瑠美、ブス、親不孝者」「――高瀬さん、"女の格"を教えてあげましょうか?」「――俺は先輩だぞ? ……どいつもこいつも」「――黙りなさい」 4人の声が重なった。 空気が弛緩するのを待ち、岩渕は低い口調で言う。「……鮫島さんの案はイイと思うが、ハードルも高い。けど、まぁ――"食事"ってのは無難だしイイと思う。ついでに高い酒でも用意できれば最高なんだが……」 鮫島は黙って頷き、京子と宮間と高瀬は顔を見合わせ、小さく何かを囁き合った。「……京子、悪いな。たいした意見も出せなくて」 岩渕がそう言うと、京子は岩渕のスーツの袖を掴んで首を振った。「……ううん、全然大丈夫。それに……私も、たまにはみんなとお喋りしたかったし……」「今日は……本当にありがとうございますっ」 テーブルに向き直り、京子が屈託のない笑顔を向けた。髪が揺れ、彼女が飲んでいた紅茶の香りがふわりと宙を舞う。 瞬間――岩渕はそこに漂う空気が浄化されていくような感覚に驚いた。 暖かくて、優しくて、愛おしくて……どこまでも、どこまでも澄んだ空気――。それが、6人の座るテーブルを覆い囲んでいるような感覚――。「……姫様、明日は暇? 良かったら夜、POLAのエステに行かない? 会員制だけど、私の紹介なら全然OKだから」《D》総務課長の宮間有希はニッコリと微笑んだ。「――あっ、私もご一緒しますっ。代わりに、最近通っているマツエクのサロンも紹介しますよ」《D》大須店副支店長の高瀬瑠美は宮間と顔を合わせ、大きな目を輝かせた。「……化粧もイイけどよ。そろそろ時計なんてどうよ? どんなハイブランドでも姫サマなら8割引きで譲ってやるよ」《D》名駅前店支店長の鮫島恭介はカカと笑い、手持ちのカタログを鞄から取り出した。「……何ていうか、最近、ちょっと退屈だね……なぁ、岩渕さん? 何かカネ儲けのネタとか……ないっスか?」《D》大須店支店長の川澄奈央人は人差し指で頬をかきながら、照れたように微笑み――そして……少しだけ、ほんの少しだけ……楽しそうに笑った。「……いいんだよ。これで……これでいいんだよ」《D》名古屋地区統括マネージャーである岩渕誠は、隣に座る麗しき姫君を見つめた。「……どうか、したの? 岩渕さん……」 京子が心配そうに声をかけ――岩渕は思った。唐突に、思った。 ああ……すべて、なんだろうな。 彼女のすべて――何もかもすべてを、愛している。 険悪な雰囲気からの好転劇。 どうでもいい、ありふれた、くだらない、そんな会話。《D》の社員ども、及び、伏見宮京子の言動や性格。 隣のテーブルにひとりで座る女は、それらをずっと見ていた。 隣のテーブルにひとりで座る女は、それらをずっと聞いていた。 隣のテーブルにひとりで座る女は、それらをずっと見続けて、聞き続けていた――……。 "5人"は知らなかった。気づいてもいなかった。 隣のテーブルに座る女の視線と、感情と、そして――おぞましい何かに……。――――― ――来ることはわかっていた。 ――あの6人がここに来ることはわかっていた。 ――偶然ではない。計算でもない。 楢本ヒカルはコメダ珈琲葵店の玄関を見つめ続けた。何時に《D》の連中が来るのかはわかっていた。 風除室を抜けて現れたのは、ずんぐりとした体つきの男を先頭に、スーツを着た5人の男女だった。その3番目に、品の良いスカートと千鳥柄のコートを着た伏見宮京子も並んでいた。 ……田中をハメたのは誰かしら? 昨日、泣きながら『スズキイチロー』の特徴を告げた田中の証言を思い出す。……アイツか。 ヒカルは息を飲み、思わず背筋を正した。 ……京子様……あれが、伏見の……皇女様……本物の……。 話したことはおろか、会ったことすら一度もないはずだった。だがヒカルは、これまで何度も京子の姿をテレビの外から見つめ続け――それが本物の京子だと、すぐに理解した。心臓がイヤというほど高鳴った。 注文したメロンソーダを飲み込みながら、ヒカルはぼんやりと京子の横顔を見つめていた。時々視線を下ろし、ソーダのグラスを見る。反射したヒカルの華奢な指と、地味な髪型をした自身の髪が見える。《D》のヤツらの笑い声が聞こえた。言い争いをしていた雰囲気もあったが、それもすぐに収まった。腹部がキリキリと疼いた。「……楽しそうだな」 無意識のうちにそう呟いた。 最初は――少なくとも、今日の朝までは、ヒカルには明確な目的があった。『田中を脅迫したヤツを特定し、逆にお金を取り戻す』 という"思い"を、神に請い願い、結果――"奇跡"は起きた。それだけだ。ヒカルがしたことはそれだけだ。それだけなのに関わらず、ヒカルには"奇跡"が起きた。「……幸せそうだな」 無意識のうちにまた呟いた。 6人は本当に楽しそうで、幸せそうだった。くだらない内容で話し合い、些細なことで口論し、何気ない仕草で笑い合っていた。 ……自分には何もない。そう思った。 ……何で? どうして? とも思った。 ……自分にはフィラーハ様がいる。《F》のみんなもいる。とも思った。 ヒカルは呆然と、自分と、自分の人生について考えた。もう、『ススギイチロー』こと川澄奈央人のことなどどうでもいいとさえ思った。 ……どうして? ……どうして? ……どうして、私は、なに? フィラーハという"神"と出会い、"聖女"となり、《F》を立ち上げた女は考えた。考え続けた。膨らみを続ける葛藤の中で、ヒカルは、かつて自分が憧れた京子の顔をチラりと見た。かつて自分がどれほど彼女を見つめ、羨望し、自分の未来像と重ねて夢を見てきたことか……。 そして、 突然に、 ――ヒカルの頭の中に声が響いた…………。『お前が孤独を味わい、飢えと戦い、差別に苦しんでいたあいだ……この女はずっと幸せだったんだ……生まれた瞬間に大勢の人々から祝福され、頭が良くて、顔もキレイで、スタイルが良くて……両親から愛されて、男たちからチヤホヤされて……健康で、正直で、頼りになりそりそうな恋人がいて……そういうヤツに、お前は憧れていたのか?』 自分の中の何か大切なものが、ヒビ割れて砕けるような感覚が襲った。けれどヒカルには、それを守ろうとする意識は起こらなかった。それどころか、破壊を待ち望んでいるかのような意思すら感じられた。崩れ落ちる何かと一緒に、肉体から感情の一部が消えていくのがわかった。『無視され、ひとりにされ、不要だと言われ続けたお前の苦しみが、この女に理解できるのか? わかるのか?』 また声が聞こえた。声の主の正体はわかっている……わかっているのだ……。『お前がどんなに辛かったのか、お前がどんなに惨めだったのか……わからせてやれ。思い知らせろっ! 思い知らせるんだっ!』 それは――絶対神、フィラーハの声だった。『お前に"奇跡"をくれてやったのはこのためだっ! お前の辛さを思い知らせろっ! あの女と、あの女たちの信仰する"神"を殺せっ!』 ヒカルは力強く目を開いた。 そう。フィラーハ様から"神託"を受けたのは、これが初めてのことだった。『殺せっ!』 そうだ。フィラーハ様以外の神など神ではない。 ヒカルにはそれがわかった。 でも……どうして――? いや、理由など最初からわかっていた。フィラーハ様は"絶対神"なのだ。この世界に存在するすべての神々は敵なのだ……そのために、私は"奇跡"を与えられ、《F》を与えられた。そうだ……フィラーハ様以外に、この世界で私に手を差し伸べてくれた者などいない……だから……だからこそ、フィラーハ様の敵は、私の敵に決まっていた。 そう。京子は間違いなくヒカルの敵だった。敵ならば……ヒカルのすべきことは、ひとつしかなかった。"奇跡"はこのために与えられたのだから……。――――― ――チラチラとこちらを伺う視線はずっと感じていた。 隣のテーブルに座る女だ。間違いない。なぜかはわからないが、あの女からは明確な敵意を感じる……。京子にはそれがわかった。わかってはいたが、放置した。その場で岩渕や宮間や鮫島に相談することもできるのだが……そうすべき理由も思いつかなかったから。 いったいこの女は……どこの誰――? いや、別に誰でも構わなかった。《D》以外の人物で、京子が本当に信頼している者などこの世界にはいなかった。それは父や祖父でも例外ではない。……だから、たとえどこの誰であろうと、それは京子の敵に決まっていた。 そう。この女は間違いなく京子の敵だった。敵ならば……京子のすべきことは、ひとつしかなかった。何をしても、何がなんでも、どんな手を使ってでも、《D》を守るだけだ。 そう。 岩渕と、岩渕と同じくらい、《D》を愛しているのだ。 岩渕も、《D》も、私のものだ。私だけのものなのだ。 理由も、理屈も、それだけで十分だった。 京子は隣に座る岩渕のスーツの袖を掴みながら、目を細めた。 "敵"の女が、メロンソーダをすする音が聞こえる……。――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 cに続きます。 今回オススメはもちろん? seesも大好き『ナナヲアカリ』様……。 アルバムもライブも好調、アニメの主題歌にも起用されるなど注目度はsees目線から見ても最高潮のナナヲ様。……ライブ行きたかった。 相変わらずのアニメ声と毒のある歌詞、可愛らしい容姿と天然ぶり……。いや~……控えめに見ても思う……。『もっと評価されてもいい』と(;´Д`) ちなみにYouTubeのチャンネルは……ノーコメントww 全部購入済みw 雑記 お久しぶりです。seesです。 イキナリですが、増税、ですねw seesも増税前に何か買い物することにしますた。seesも欲しいものがひとつだけありまして……。そう。そうなんです。『腕時計』が欲しいス💦💦 今まではフェンディの安く地味な時計ハメてたんすけど……この度《飽き》を迎えまして……新たに購入する決意となりました ですが、やはり購入するならば条件というものもございまして……。スバリ《自動巻き、スケルトン、ビジネス用、そこそこの高級感》というものが必須となります。いや~、昔っから憧れだったスわ……自動巻きのスケルトンw 買ったらツイで報告しますw 今話は……特になし。あえて説明するならヒカル様の紹介話ですね。グダグタです。 岩渕氏は変わらず。京子様は性格に難が出てきました。……まぁまぁ、時系列的にも、シリーズ的にも、いろいろと成長と変化があればオモロイのかな?と勝手に考えました。 ヒカル様の紹介の詳細は次回で終わりです。"奇跡"と《F》の全容です。3話もかけるなんてseesの力もまだまだス( ´艸`) 今回も文章の作りは甘いです。時間があれば……と言い訳するのは簡単ですが、いかんせん、だいぶ脳が幼くなってまいましたwwこれまでのような納得できる作りではないですが、まあまあ、大目に見てやってくだせえ🙇 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 適当ショートショート劇場 『魔除け』 sees ……松阪事業所の社用車《初期型セレナ》はマジでナイわ……。ダセェし、 ノロイし、ヤニ臭ェし、ラジオの感度悪ぃし……(あくまでseesの私見💦)。 seesはイライラしながらも、信号にさしかかった。停車し、ウィンカーを灯す。 sees 帰社したら報告と書類整理とPC業務か……タリぃな。名古屋帰りてぇ。ナポ リタン食いてえ。ここらじゃウマい菓子すらねぇしよ……うぜ。 信号待ちするsees(右折)に、同じく信号待ちする対向車がやってきた。 ウィンカーはなし。……直進か。そう思った。 sees 「何ぃぃ(# ゚Д゚)!!!!」 信号が青に変わった瞬間、対向車は何と、何と、何とぉぉ――! 何と、対向車は左折しやがった。 sees、激おこ! sees 「……このガキャァ(想像)、交通ルールも守れんのきゃぁ(汚い名古屋弁) 殺すが……」 seesの中の小さなミニデーモンがイオナズンと唱えようとヤリを構える。 sees 「……煽ったるか( ・´ー・`)ドヤヤ」 決断、即行動、理性ゼロ、アクセル踏む、AT(オートマチック)フィールド 全開ぃぃ!! 許せん、この国の平和は、ワシが守るぅ!! そう思い、大いなる決意と正義の鉄槌を下し――かけた時……《敵》のバリア が発動した。(本当に、夢かと思った……) そう。 右折した先を走る軽自動車(タント、だったかな?)のリアガラスに、とんで ない『魔除け』のデカールが施されていたのだっ!! 『 I💓 E.YAZAWA 』 sees 「うわーーーっ!!」 急ブレーキ、開ける車間距離、高鳴る心臓……。 それは禁断のデカール、危険を知らせるサイン、絶対に関わってはいけない、 そんな気にさせる……まさに『魔除け』でした……。 sees 「……はぁはぁ(;´Д`)💦💦、危ない危ない、あやうく死ぬところだった」 九死に一生を得たseesでした……。 皆さんも、交通ルールは大切ですが、それよりも大切な、守るべきルールっ てありますよね?(意味不明)そう考えさせるくらい、seesにとっては脅威 かつ戦慄のデカールでした。 (ちなみにこれはノンフィクションではありますが、seesの偏見と独断のみの文章です) 了😢こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2019.09.23
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 短編04 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。――――― 10月1日――。 愛知県名古屋市名城公園。 名古屋城本丸御殿の近くのベンチに座りながら《ユニモール》の食品街コーナーのチラシを眺めていると、正面から声をかけられた。「こんにちは」僕は言う。「田中さん?」明るく陽気な声で言ってみると、男は眉をピクリと動かした。「……はい……スズキ、さん?」「いやぁ、待ってましたよ」そう言って僕は笑う。 ベンチの隣に座るようジェスチャーしてやる。眺めていたチラシを4つに折り畳み、素早くスーツの内ポケットに入れる。本当はまだ眺めていたかったのだが、これから想定外のことが起こるのかもしれなかったので、しかたない。 田中が隣に座る。加齢臭と整髪料の不快な臭いが鼻腔に流れ込む。「……お前が、スズキか?」 人を見下すような口調で田中が言う。「スズキイチロー……どう考えても偽名……だよな?」『田中陽次』はスポーツマンのようにがっしりとした体格をしている。廉価なものだと一目でわかるスーツに、ジムで鍛えたのだろう筋肉の隆起が見える。背は高いが、靴は量販店の安物だ。既婚。45歳だということだが、それよりもずっと若く見える。頭髪はキレイに整えられ、髭はない。瞬間、僕はこの男の性格を想像する。女にモテたいのだろうけど、必要以上にカネは使いたくない。目立ちたがりなのだけど、遊び人のようには見られたくない……そんなところだろう。「……僕のことなんてどうでもいいじゃあないですか」僕は微笑む。田中は笑わない。「カネだ」 僕の目的を田中が言う。「100万ある。それ持って消えろ。……それで、"アレ"は無かったことになるんだろ?」 田中は銀行の封筒を僕に手渡しながら僕を睨んでいる。微かに煙草の匂いがする。僕は田中の"職業"と"悪行"を思い出す。田中が名古屋市役所に勤める公務員だということ。田中が同じ職場の若い部下と不倫関係にあること。名古屋市役所の資料室や会議室や駐車場やトイレや応接室や市議会議員の公用車であるセンチュリーの車内で不倫相手と"とある行為"をしていたことなどを思い出す。 少ないな。そう思い至り、携帯電話を操作する。 名城公園には光が満ちている。城の天守閣の瓦が眩しく輝いている。公園では修学旅行と思われる中学生たちがはしゃぎ回っている。 携帯電話を操作しながら隣に座る田中の顔を見る。「あなたに要求した金額は500万でしたよね?」と、きく。「……そんなカネはない」僕を睨みながら田中が続ける。「警察に突き出されないだけでもマシだと思え」そう言って鼻を鳴らした。 ……まいったなあ。全然わかってない。頭が悪すぎる。この程度のカネなら惜しみなく出せると踏んでいたのに、めんどくさいな、と思いながら、僕は後頭部を指でかく。僕のそんな動作にも田中はビクッとして身構える。「……このカネはくれてやるから、明日からはマジメに働けよ」僕とは目を合わせずに田中が言う。「まだ若そうだし……アンタもこんな……脅迫なんてヤメろよ」「……そうですねえ。時間ももったいないですし、会社の休憩時間も残り少ないですし、何よりも……お目当てのアレが売り切れちゃうかもしれないし……」 そう言って僕は笑う。操作を終えた携帯電話をポケットに入れ、唇を尖らせる目付きの悪い中年公務員を見つめる。「……カネは置いていく。次に連絡して来たら、警察に通報する。……じゃあな」 田中が封筒をベンチに置き、立ち上がろうとする。「撮影した動画の一部をあなたの母親宛てに送信しました」 僕が告げた瞬間――田中の時間が一瞬止まった。「何だとっ? お前、約束が違うぞっ!」 田中が怒鳴り僕を睨む。僕はニコニコと笑う。「ケチくさいこと言わないでくださいよ。約束? 僕は何も約束なんてしちゃいません」「カネは無いって言ってんだろっ!」 男がまた怒鳴る。名古屋城を見学する学生たちがこちらに目をやる。「……じゃあ、コレは?」 僕は懐に隠し持っていた紙の束をベンチの下にぶちまける。田中の目が丸くなる。 不倫相手との逢瀬の写真――だけではない。 カラ残業による不適正給与の資料。白紙伝票による不正支出、及び自分名義の口座の入金記録。経理の水増しによる裏金工作。経理上の不正操作によるプール金の横領。田中本人のデスクに残っていた通帳の写真。自宅の金庫にしまっていたハズの現金の束の写真。それらをぶちまける。田中が短い悲鳴を上げる。「……どれも少額ですが、どれも立派な横領行為ですねえ。正直、このカネを何に使っているのかまではわかりませんでしたが……」 僕は田中を見る。田中は足元にぶちまけられた写真や紙を必死になって拾い集めている。僕は微笑む。田中は「ひいっ……ひいっ……」と短い悲鳴を繰り返す。「キャッシュカードと通帳を預かります。そんなに心配しなくても、500万以上は貰いませんから……あなたは安心して、明日からの仕事――がんばってくださいね」 見ると田中は嗚咽を漏らして跪き、わけのわからない言葉で呻いていた。「……ああ……ああ……お許しください……フィラーハ様……聖女様……」「……?」 わけのわからない呻き声を聞きながら、僕は――川澄奈央人は、目の前の男の鞄からカードと通帳を半ば強引にひっぱり出すと、ベンチから腰を上げた。「……《岩手県三陸のウニ弁当》、まだ残っているとイイけど……楽しみだなあ」 ユニモールの『駅弁フェア』に思いを馳せつつ、川澄は歩く。『スズキイチロー』という偽名を使ったことなど、もはや微塵も思い返すことはしなかった。 田中陽次は未だベンチにうなだれて座り込み、何かをブツブツと呟き続けている……。 ――――― 私が教室に入る。すると――それまでクラスメートたちの話し声や笑い声で賑やかだった教室が、一瞬にして静まり返る。 ――沈黙。 それから視線。その後に――囁き声。 私は俯いたまま、ランドセルを肩から外す。 いつの頃からだろうか、私は覚えていない。たぶん、母が吹聴したホラ話がきっかけだとは思う。そうに違いない。そうに違いなかった。『私は処女受胎によって娘を生んだ』 どうしてそんな話をしたのか、楢本ヒカルにはわからなかった。 何となく……本当に何となく理解できたのは、ヒカルが中学生になった時だった。 ヒカル、という名前は母が付けた。『フィラーハ様は光の化身であり、絶対神である』という"教え"からの由来だった。 フィラーハ様、というものがどんな存在であるのかを理解できたのは、ヒカルが15歳の誕生日を迎えた日だった。 母は先祖代々信仰していた密教のひとつ《F》の司祭であり、ヒカルを後継者として育てた、と説明した。……けれど、当時の《F》の信徒や規模やシンボルも、何もかも、ヒカルは知らない。教えてもらう前に、母は他界してしまった。自宅の押入れの奥には先祖代々が守り、継承を続けた教本や資料があるような気もする。だけどもう、それほど興味もない。今となってはもう、尋ねることもできない。 処女受胎の話が母の嘘だと知ったのは、ヒカルが17歳の時だった。ガンを患った母が病床でうわ言を呟いたのだ。『……ああっ、トシオさん……トシオさん……愛してます……抱いて、私を、もっと……』 母は私を愛してくれた、とは思う。シングルマザーで娘を育てるということは、並大抵の努力と苦労が必要なくらいはわかる。 私の記憶の中で、《F》の信徒は誰一人としていない。母の呟いた《トシオ》なる男の姿も記憶にはなかった。そう。私はひとりだった。 母が死に、父はおらず、頼りになる大人は誰もいなかった。学校でも、アルバイト先の工場でも、わたしは常にひとりだった。ひとりきりだった。 既に《F》のことを忘れかけていた、23歳の時――アルバイトに出勤する前、よく観ていたテレビ番組があった。日本の皇室の方々の執務や活動の記録を放送する、『皇室日記』という番組だ。 テレビの中の皇族の方々は輝いていて、美しくて、知的で、上品で――当時はすごく、ものすごく……羨ましいと思った。理由はわかりきっている。私はひとりきりだったから。 誰かを好きになることもなかった。誰からも『好き』だと言ってもらうこともなかった。食事に誘われることもなかった。ただの一度もなかった。 私は誰からも必要とされなかった。けれど、私も誰かを必要としなかった。理由なんてなかった。あったとしても、私はそれを孤独だとは思わなかった。《F》のことなど忘却の彼方に消えていた25歳の頃も、私は『皇室日記』を観ていた。成人式を迎える『伏見宮京子』様の振り袖姿を見つめると――不意に、唐突に、ヒカルの胸はときめいた。キレイだな、素敵だな、と思った。けれど、それだけだった。 他人の生活を見て羨ましいとは感じても、怒りや憎しみは湧かなかった。芸能人やアイドルが遊んだり笑ったりした姿を見ても、妬みや嫉みは湧いてこなかった。 わかっていたことではあったけど、私の生活は苦しかった。工場でのアルバイトは時給も上がらないし、保険や年金や住民税を払い続けるのは苦しかった。それでも、ヒカルは薄給のまま働き続けた。そう。お金の苦労を除けば、日々の生活は穏やかだった。 何年かは何事もなく過ぎた。 給料は相変わらず薄給のままだが、誰かに縛られることなく生活はできていたし、少ないが貯蓄もできていた。いつかは国家資格を取得してきちんとした職に就職しようかとも考えていた。ひとりきりだ。けれど、生活は穏やかだった。このまま人生がずっと過ぎると思っていた。そうであるべきだと信じていた。 けれど――そんな平穏にも終わりがきた。勤めていた工場の閉鎖が決定したのだ。しかも、私だけが、次の職場を紹介してももらえなかったのだ。 貯蓄を切り崩しての生活を始める現実に――私は狼狽し、そして――母のことを思い出しかけた。理由なんてわからない。あったとしたら……それが孤独というものなのだろう、そんなことを思った……。 就職先も決まらず、貯蓄の底が見え始めた3年前の春――私はキュウキュウと鳴くお腹を抱えて眠りについた。瞼を閉じ、母の姿を思い浮かべようとした。そんな思いに心を巡らせるのは初めてのことだった。けれど――……「絶対神、フィラーハ様……私に御身の加護を……」 口に出して呟いたのは、"母"ではなく、"神の名"だった。 そう。 その日――私は"聖女"になった。――――― 『聖女の《F》と姫君の《D》!』 bに続きます。 久々のオススメはもちろん? ヨルシカ様……。 ヨルシカ……。 動画で惚れてそのままポチ買い。アルバム数こそ少ないけれど、どれも繊細かつ丁寧かつ大胆な歌詞。メロディはややマンネリ、激しい高低差はないけれど、心に響く。 ちなみにヨルシカのプロデューサーはn-buna(ナブナ)氏。生放送で生声を初めて聞いたのだが……ノーコメントw ……全部購入済。 雑記 お久しぶりです。seesです。 いやはや……本当にw 今さらだけど仕事が……仕事が……。 まぁいつものテンプレ言い訳ですが、SNSすらほとんど触れることすらできなかった現状――とてもぢゃないけど趣味の時間がほとんど取れなくて、数少ないseesのネット友達やもっと少ないファンの方には本当に申し訳ないというか、弁解というか、謝罪というか――すままへん<(_ _)> 今話はリハビリの意味での書きなぐりです。ストーリーは序盤ということもあり平坦かつわかりやすい構成。(とてもじゃないがSSはムリだ。ネタはあるけど作りきれない) 設定が出来上がっている《D》で適当話作りつつ、元の筆力が取り戻せれば……いいかな?? プライベートでは少し出世できたけど(回りの社員が辞めたり、ヤラかした上司が降格したり……seesのキャパをオーバー)、給料はあんまり上がらん(# ゚Д゚) 救いは会社の決算報告でまずまずの結果。ボーナスの微増と慰安旅行の復活、有給の取得or定期的な連休……くらいか? 母さん、seesは松阪で元気に生きてます。また名古屋に帰省します。近いけどww さて――本編ですが、いつもの?厨二話ですw 主人公は相変わらずの岩渕氏。 変態役の川澄氏発端?のとある団体との因縁話です。京子様と岩渕と《D》が巻き込まれてさぁ大変――。みたいな話。特に凄惨な場面はなし。が、極めて社会的な背景と描写は使います。不快な方は見ないでね。 今回は本当に本当に久しぶりの作成なので、ヘタクソです。seesの精神も不安定気味なので、ぶっちゃけ――「キツイ、キビシイ、キモイ、そんなコメント」はやめてww seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 久方ぶりのショートショート劇場 『受付嬢の悩み』 受付嬢 「seesさん……ちょっと相談が……」 sees 「なんやねん? ワシ忙しいねん」 受付嬢 「……さっき支部長と面会していたB様のことですが……」 ワシの都合は無視かい。このビッチっ! sees 「……B?(不動産関係のコンサル男。30? フツメン。色黒。男優ぽい)」 受付嬢 「……実は、さっきB様にラインのアドレスの入ったメモを渡されて……」 sees 「……ナンパか?」 受付嬢 「はい。今度食事でも……と」 sees 「その気がねえなら捨てちまえ。無視しろ」((`・ω・´)キリッ 受付嬢 「無下な扱いをしてよろしいのですか? 社の取引先では?」 sees 「丁寧な返事なんぞは必要ねえ。パワーバランス的にもこっちが上やで」 受付嬢 「――了解で~す」 受付嬢はメモをゴミ箱に捨て、まるで何事もなかったかのように微笑む。 まぁ……タイプの男でもなかったんやろーが。ふぅ…めんどくせいぜw 解決解決。おわり。めでたしめでたし。 受付嬢 「――あっ、そういえば~朝に借りていたボールペン、お返ししますね」 ……確かに、朝、デスクに嬢が来て『ペン貸して』と言われ、貸した。 何でも《青色》のボールペンを紛失したとかで(黒や赤は常備してい る)、seesの4色ボールペンを……まさか、いや、まさか、な('◇') sees 「ちなみに……Bの野郎に、ワシのボールペン、使わせて……ないよな?」 受付嬢 「?? いいえ――メモ書き(アドレス)するのに、使っていただきました」 sees 「―――――っっ!!」 け……汚された。ワシの……お気に入りの……400円もした…… コクヨの4色が……汚された。ナンパカス野郎の手で……ワシの、 大事な何かが……股間触って手も洗わないような(ド偏見)、ゲス 野郎の手で……ああ……ああ、畜生っ!!! クソがぁぁぁっ!!! 了💢こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!! できれば感想も……。人気ブログランキング
2019.09.14
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。――――― 6月3日。午前1時――。 大須にあるローズコートホテル。岩渕はホテルのロビーにあるロングチェアの端に腰を下ろし、両手で《カーバンクルの箱》を握り締めていた。 今、ホテルのロビーにいるのは岩渕と川澄と高瀬瑠美と高瀬順子、鮫島恭平と……その知人の6人だけだった。高瀬瑠美は岩渕がオークションで支払った2億5000万の札束が詰まったトローリーバックの柄を握り――高瀬順子は岩渕の近くのロビーチェアに腰を下し――鮫島とその知人は、まるで自分たちは無関係と言わんばかりに、ロビーの柱の影に隠れて様子を伺ったいた――そして、川澄は……「……どういうことです? 岩渕さん……」 岩渕と同じチェアの端に腰を下ろしながら川澄が言う。「《箱》を僕に譲渡してくれる、気はない……と?」 川澄は微笑んだ。それは昨日今日何度も見た子供っぽい微笑みではなく、明確な敵意を感じさせるものだった。「ああ。これは俺のものだ……」 川澄が深く息を吸い、舌打ちと共に息を吐く。「どいつもこいつもっ……岩渕、アンタ、死にたいのか?」「ああ……そうだ……そうだと思う」「……? どうする気だ?」「まずはこの《箱》の正体だが……瑠美さん、教えてくれるかい?」 しばらくの沈黙の後――岩渕は目の前に立つ瑠美を見つめた。彼女は指先で下唇を触りながら、何かを深く考え込んでいるように見える。「……ダメよ。私からは何も答えられない」「……ここからは俺の推測だが……簡単に言うなら税金対策。もっと素直に言うのなら……外資の洗浄、マネーロンダダリング……だろ?」 瞬間――高瀬順子の顔から生気が失せた。おそらくは図星なのだろう……本当、巧妙なやり口だと思う。「……この《箱》を競り落とそうとした中国人との密約、アンタたちは《箱》の中に《R》の海外口座番号、入金・出金・送金方法なんかを忍ばせて取引する計画だった……」 高瀬順子は顔をブルブルと震わせ、娘である瑠美の顔を見た。瑠美は岩渕の目をじっと見つめ、ほんの少しだけ、誰にもわからないくらいほんの少しだけ――微笑んだ。「……オークションという手間のかかる方法を用いたのは、不特定多数の買い手から選ぶという偶然性を演出するためと――ある意味の"オーディション"『アンタら中国人の中で誰がウチと取引するにふさわしいカネを用意できるか?』の選出、てトコだな……まぁ、今回は例外だったからこそ、俺が競り落とせるチャンスだったワケだが……」「ねえ……」 そこまで黙っていた瑠美が岩渕に声をかけた。「……オークションで《箱》が第三者……例えば岩渕さんのような……他人の手に渡るリスクに関しては? どう説明するの?」「そんなもん関係ないよ」 岩渕よりも先に川澄が口を開いた。「《箱》の中身を正確に確認するには《鍵》が必要不可欠だからね。お前も持っているんだろ? 《鍵》をさ」 川澄が胸のポケットから《鍵》をつまみ出し、プラプラと揺らした。 そう。《鍵》がなければ《箱》に意味はない。おそらく――過去、高瀬親子は似たような手法を用いて海外からのマネーロンダリングを引き受けていたのだ。……自分たちに都合の良い顧客にだけ、パスワードや暗号や《鍵》のようなアイテムを渡し……情報の漏洩を防いできた……。「はぁ――……疲れた」 瑠美は本当に疲れたような声を出し……やがて――岩渕の目を優しく見つめ、ぎこちなく微笑んだ。「……アンタはいい女だ」 無意識のうち岩渕は呟いた。 そう。高瀬瑠美はとても上品な顔をした美しい女性だった。京子に負けないほど大きな瞳で岩渕を見つめ、少し恥ずかしそうに、少し寂しそうに笑っている。 彼女の人生に何があったのか? 何が彼女の人生に影響を与えたのか? 彼女の未来には何が待っているのか? 岩渕は何も知らなかったし、知ろうとも思わなかった。彼女の人生は彼女のものであり、岩渕の知るところではなかった。 だが――…… もう――…… うんざりだ。そう思う。 たぶん……川澄も、瑠美も、そんなに悪いヤツではない。少なくとも、過去の自分――世界のすべてに束縛されていた自分よりはよっぽど人間らしい。自分に正直で、自由で、心のあるがままに生きることができる……それが犯罪行為であろうとしても、だ。 もう、嫌だ。 もう、うんざりだった。 ……丸山佳奈は命を捨ててまで澤社長や俺の命を救った。なら、俺が彼女にしてやれる最大限の譲歩案とは? 答えはひとつだった。「俺がアンタたちに提案する取引はひとつ。川澄、瑠美さん、お前ら……仲直りしろ。そう約束してくれるのなら、《箱》はお前ら二人にやる。互いに《鍵》を使い、互いの"私物"を取り戻せばいい……」 ……これでいい。これで、いいんだ。 本気でも嘘でもいい、嘘でもいいから、お前らが本当の家族に戻れるのなら――俺は、俺だけが、地獄に落ちても……構わない。――――― ――瞬間、全身が燃えるように熱くなり、凄まじい怒りに脚が震えた。この男に、この岩渕という男に対して、こんなにも怒りを露わにするのは初めてだった。「……――ふざけんなっ!」 そう叫ぶと、僕は岩渕の胸倉を掴みかかった。 意外なことに、岩渕は逃げようとはしなかった。身をよじろうとさえしなかった。 「岩渕っ、僕がっ、そんな提案受けるワケがねえだろうがっ!」 岩渕は顔を背けず、無言で僕の目をじっと見つめた。「僕は……奴隷のように命令を受けたり、浮浪者のように施しを受けたり、王様のように自由を縛られるのが――大っ嫌いっなんだよっ!」 岩渕を背もたれに押し倒し、首を絞めるかのように力を両手に込めていく。だが、岩渕の顔は微笑んでいるかのように見える。「……畜生っ! 僕の言うことだけを……僕の思う通りに動かないのなら……殺すぞっ!」 僕は力を込める。両手で岩渕の襟元を強烈に締め上げ、更に力を込めた。「うぐぅ……」 くぐもった声を漏らし、岩渕の顔がみるみる赤みを帯びていく。抵抗すればいいのに、という思いはあった。なぜ、こんなにも簡単に? 理由はひとつだった。岩渕は両手で《箱》を大事そうに抱え続けていたからだ。 殺す。そう思った。背後から制止を呼び掛けられるが、関係ない。 僕は盗賊だ。犯罪者だ。人を殺すくらいワケはない。 殺す。僕はこの男を許さない……。 僕はそうやって生きてきた。だってそうだろ? 社会は僕の存在を知らない。血液型、戸籍、顔、指紋、歯型、病院歴、ありとあらゆる個人情報を何も知らないのだ。 殺す。殺して《箱》を奪って逃げる。 奪い、盗み、必要とあれば殺す。そうやって生きてきた。死ぬまでだ。僕は死ぬまでそうやって生きていく。……ん? 死ぬまで? ――さあっ、殺すぞっ! ……死ぬまで? 僕は、死ぬまで、僕自身を知らない? ……誰も……誰も? ――殺す? 死ぬ? 死……。《箱》の中身を手に入れたところで……僕は、僕のことは……誰も? ……知らない? 誰も知らず、誰からも知られず、誰にも言えず、誰にも言われず……永遠に? 永遠に僕は……ひとり? そんなことは考えたことがなかった。昔から、遥か昔から――僕が物事を思案する時、僕の脳はすぐに答えを導き出してくれたし、それが万能であると信じていた。 そのハズだった。 ……わからない。 ……何をどうすりゃいいんだよ……わからねえ……僕は……誰だ?「……岩渕さん……僕は、誰だ? ……僕は……何?」 視線が錯綜し、考えがまとまらず、脳がパニック寸前となり、岩渕を殺そうと力を込めたその時だった。その時、突然、川澄の脳の中が声を上げた。『カッコ悪い』 声――そう。それは子供の声だった。子供の頃の川澄自身の声だった。 声――そう。それは岩渕の腰のあたりから聞こえた。そこにあるのは、《箱》……。《カーバンクルの箱》は川澄を制止し、自らの完全な解放を願う……?『半分じゃダメ。だから……ヤメよう?』 子供の声に、川澄の心はわなないた。『本当は《箱》の中身を知るのが怖いんでしょ? イライラして……だからアンタは、それを岩渕さんに八つ当たりしているだけなんだ。……違う?』 川澄の知らなかった、もうひとりの自分がそう言ってケラケラと笑った。 ――結局、僕はできなかった。どうしても、力が抜けてしまう。「どうした? 川澄?」 背もたれに沈む岩渕が低く言った。「俺を殺して《箱》を奪えよ。元々はお前のものだしな……」 僕は完全に力を抜き、ロビーチェアに座り直した。ゆっくりと視線を横に向け、岩渕の顔を眺める。咳き込む岩渕は未だ両手に《箱》を握っている。「おい……岩渕さんよ……ひとつ、教えて欲しい」「何だ? 何が聞きたい?」 岩渕が僕のほうに、咳き込んでかすれた声を向けた。「僕がアンタの……そんなくだらない取引に応じると、本気で思っているのか?」 利用するだけ利用して見捨てる予定だった男の顔を見つめて僕は質問した。「僕をコケにした女と手を取り合い、二人仲良くゴールイン、なんて妄想――本気か?」 その時、見捨てる予定であった男の顔が呆れたように微笑んだ。「川澄……俺は、ただ――」 僕を見つめ、岩渕はまた微笑んだ。「お前のことを誰かに伝えたい。お前の性格の悪さ、駅弁食うだけの趣味、他人を徹底的に見下す自意識の高さ……溜りに溜まった俺の愚痴や文句を……瑠美さんや、他のみんなに伝えたい……それだけだ」「何だよ、それ」 僕は笑った。盛大に笑った。こんなにもくだらなくて、こんなにも馬鹿な理由で大金を用意した馬鹿は、僕と一緒になって笑っていた。 笑いながら、川澄は目元を袖で拭った。 ……どうやら、笑いながら泣いていたらしい。困ったね……まったく。 今回だけ、折れてやるか。 川澄奈央人は首を縦に振り、「了解……」と静かに呟いた。―――――「あんた……どうする気なの?」 目の前の娘に向かって、喘ぐように母は言った。 そう。母――高瀬順子は恐れていた。私が岩渕との取引に応じ、川澄と手を結び、いつかは自分を裏切って《R》を乗っ取ろうと画策することを。そして、まるで過去の不幸を繰り返すかのように、ひとり孤独に生きる自分の姿を。「……《箱》の中身が世間に知られれば、どの道《R》は終わります。なら、別に拒否する理由はないわ」 考えるまでもない結論を、瑠美は母に向かって堂々と告げた。「冗談じゃないっ!」 母はヒステリックな叫びを上げ、瑠美が持っていたトローリーバックの柄を強引にひったくった。けれど、彼女の娘は動じなかった。ジリジリと後ずさる母親を冷静に見つめ、ゆっくりと、自分のうなじに手を伸ばした。 終わり、だね。 そうだ。自分を生んだ女と決別し、自由を得るのだ。……兄のように。「……お前……誰が育てたと思って……」 ドラマや映画でよく聞くセリフを吐きながら、母は両手で必死にバックを引きずり後ずさった。本当、どこまでも強欲な人だ。「……お前は、クビだ……二度とウチの家には入れない。このカネだって……一銭だってくれてやらない……このカネは私のものだ……」 まるでうわ言のように、母は似たような言葉を繰り返した。 ……母、か。 自由を欲した娘には、もはやそんな言葉は意味をなさなかった。 そう。今では母でもなければ、娘でもなかった。 母親を見つめる娘の目の中には、もはや愛情などひとかけらもなかった。親密さもなければ、恨みも憎しみもなかった。彼女を見つめる娘の目の中にあったのは、少しの同情と、深い憐憫の情だけだった。「……受けるわ。私の持つ《カーバンクルの鍵》、これを兄さんと使う……約束も、する。兄と仲直りする。……最後の親孝行として、《箱》の中身は焼却処分しとく……それでいいかな? 母さん?」 瑠美はうなじから取り外したチェーンネックレスから《鍵》をつまみ、岩渕の眼前に差し出した。そして、母――高瀬順子は、激しい怒りに顔を歪めた。「……畜生っ! お前ら全員、のたれ死にやがれっ!」 そう怒鳴ると、母は怒りに引きつった顔でバックを引きずり、やがて……ホテルのロビーから出て行った。 母がロビーから出たところで視線を外し、私は大きく息を吐き出して……微笑んだ。 ……さようなら、母さん。会社の経営ごっこ……楽しかったよ。 ……兄さん、とりあえず――今後ともよろしく。 そして岩渕さん、とりあえず――私を……。―――――「さぁて……御開帳といきますか」 川澄が楽しそうに言う。「瑠美、鍵穴はどこだっけ? 昔のことで覚えてない」 瑠美と呼ばれた娘は「……いきなり下の名前で呼び捨て?」と眉間にシワを寄せたが、すぐに気を取り直し、岩渕から《箱》を受け取った。「……ちょっと待て、お前ら」 ここまで無言を貫いてきた鮫島恭平が口を開いた。「岩渕よ。お前自分の状況わかってんのか? あのカネっ! 2億5000万っ! 高瀬の女社長に持ってかれちまったじゃねえかっ! どうすんだよっ!」 激しく息を喘がせて鮫島が怒鳴った。これだけは……言っておかなければならない。「……はぁ」「気の抜けた返事すんじゃねえっ! 返済できなきゃ……拉致られて死ぬぞっ!」「……いやぁ、心配してくれるのは嬉しいんですが……」 鮫島からの視線を外し、呆けたように岩渕が呟いた。 続けざまに怒鳴ろうとした鮫島の横から、川澄の声が笑った。睨みつけると、さらには女社長の娘の瑠美も笑っていた。「いいスか? 鮫島先輩。よく考えてくださいよ。あのね……この僕ですら、半日で億のカネを用意するのに四苦八苦してるんです。……鮫島さんの連れて来た、そちらの奥の方?そちらさんが僕以上に頭がキレて、しかも未来予知までできているのなら話は別ですが……」「……はぁ?」「俺は……死ぬ覚悟で偽装屋からカネを借りようとしたのは本当です。ですが……」「このオジさん、頭は大丈夫? 紹介とは言え、いきなり他人に3億も"本物"渡すバカがいるわけないじゃない」「えっ?……じゃあ、あのトローリーバックの中身……は?」 わけのわからない兄妹が同時に口を開いた。「ニセ金に決まっているじゃあないスか」「ニセ金よ。私は持った瞬間にわかったわ。札帯は本物だけど、中身はカラーコピー。底にあるのはほぼ白紙。……母の致命的ミスは中身の検分を私に任せたこと、ね」「……嘘だろ?」 鮫島は勢いよく顔を横に向け、今度は偽装屋に向けて睨みつけた。「おいっ! コイツらとそんなやりとりがあったなんて聞いてねえぞっ! お前……たばかりやがったのかっ!」 訊きたくはなかったが、鮫島は訊いた。自分の心配は何だったのか、やり場のない怒りすら込み上げた。「……やりとりなんてない。あれは潰れた暴力団からの払い下げで手に入れた、賭博用の見せ金だ。鮫島よ、消費者金融だって最低限、ATMぐらいは通す。まぁ一応、億の小切手と契約書の用意はしていたし貸付もする予定ではあった。……まぁ、それも徒労に終わったが……《D》の岩渕、だったか? 名前ぐらいは覚えておくが……必要経費は頂くぞ」 偽装屋の男は紳士然とした声で、楽しそうに笑った。「そういうこと」 川澄の声が背後から言う。「ルールを守るとかどうとか言っておいて、ルールをあっけなく反故にする。今回はさすがに僕もショックですよ……鮫島先輩」「畜生っ!」 鮫島恭平は叫び、自身の頬を両手で思い切りビンタした。ヒリヒリと痛み始める頬を撫でながら、鮫島は思った。 ……これも伏見宮京子――神の加護ってヤツか? ……まったく、悪運の強い野郎だ。――――― 3日後――。「……京子。もう、いいか? ……少し恥ずかしい」 愛しい岩渕の声がすぐ頭上で聞こえたが、京子は顔を上げなかった。そう、岩渕を抱き締めたまま離れたくはなかったのだ。 家族にも知らせなかった突然の帰国だったため、出迎えは岩渕ひとりだ。そう考えると気分も高揚して視野が狭まり、空港で再会を喜ぶ恋人たちと似たような行為をしたくなる。本当に、本当に今日という日を待ちわびていたと思う。その証に、数分以上も岩渕の背を抱き締めていても羞恥心は感じない。出発前に聞いた騒動の顛末も関係しているのだろう。男への愛おしさが無性に込み上げ、呼吸もままならなかった。いつもなら周囲の動向にも意識を向けなければならないのに、その余裕すら――今の京子にはなかった。「俺も嬉しいんだが……少し、落ち着いてくれ……」 京子の肩を押し返そうとしながら岩渕が言った。「セントレアは人も多くて目立ちはしないかもだが……さすがにもう、いいだろ?」 岩渕の言葉に京子はようやく顔を見上げた。「……本当に、大丈夫なんだよね?」 京子は何度何度も聞いたはずの質問をまた聞いた。空気を思い切り吸い、今度は吠えるように、「……解決っ、したんだよね?」と叫んだ。「……ああ。もう、心配いらない」 岩渕が微笑んだ。「……川澄も、高瀬瑠美さんと仲直りしたよ……たぶん」「それじゃあ、例の……《カーバンクルの箱》も?」「ああ、中身は川澄が回収して、《箱》は……俺が貰った」「結局……《箱》の中身って……何? 岩渕さんがそこまでして協力して……手に入れたものって……」「……ああ、それは――……」「……ふぅん。私にはちょっとよくわからないけど……あの人にとっては、大事なものなのかもね」 背と腰に伸ばした両手を離すと、岩渕は安堵したかのように微笑んだ。次の瞬間、京子は、岩渕の話に出た高瀬瑠美という女のことを思い出した。川澄の妹で、所属する会社を解雇された女……彼女はこれからどうするつもりなのだろう? ……まぁ、私と岩渕さんには関係ないのかもしれないけど……新しい人生を謳歌してくれたら、それでいい……。 京子は瑠美のことを頭から打ち消した。いや、打ち消したのではなかった。「……岩渕さん、これは?」 岩渕は優しげに微笑みながら、京子の右手と指に触れた。「あっ……」 京子は顔から笑みを消し、岩渕の言葉を待った。「《カーバンクル》は伝説の獣の名、らしい……せっかくだから、《箱》から出してやることにしたよ……」 岩渕がちょっと不安そうな面持ちで言う。「……《D》の依頼でブルガリの職人たちに大至急作らせたエタニティ・ルビーリング……名前は《カーバンクルの指輪》……好みに合えば……俺も嬉しい」 岩渕の手が離れると同時に、京子の右手薬指が紅の光を放った。「……嬉しい」 瞬間――京子の目に涙が溢れ、キラキラと輝く指輪に落ちる。「……本当に、本当に嬉しいです。生まれ変わった《指輪》、一生大切にします……」《箱》の経緯などどうでもいい。《箱》は生まれ変わり、転成し――《指輪》となって、京子の宝物となった。 それがすべて。それがすべてなのだ。 岩渕がプレゼントしてくれた。それが重要であり、《箱》であった過去は関係ない。 ふたりで腕を組んでセントレアの出口へと歩きながら、岩渕とこれからの未来をぼんやりと想像する。 岩渕とこれからもずっと……ずっと一緒に生きるためには、私が想像もできないような苦労や苦痛や苦悩が待っているのだろう。だが、それらもすべて――排除してしまえばいい、殲滅してしまえばいい、焼き払ってしまえばいい……。 そんな汚らわしく、おぞましい言葉が胸に湧くことにも……抵抗はない。まったく、ない。 それぐらいなのだ。それぐらい、私――伏見宮京子は岩渕を愛している。―――――本日のオススメ!!! ずっと真夜中でいいのに。 氏……。 ずっと真夜中でいいのに。氏は歌系動画では現在、それなりに有名になりつつある状況です。元々は複数のクリエイター集団と有名バンドの演奏者たちがボーカル、《ACAね》(あかね)氏を迎えて――爆発的な再生数です。 広瀬香美やaikoを彷彿とさせる力強いボーカル力に加え、幻想的かつノスタルジックな動画アニメ……11月にニミアルバムが出るとかで……seesもかなり注目しております。 発表曲は少ないですが、正直――すげーっす。 ずっと真夜中でいいのに。の予約はこちらから……。雑記 お疲れ様です。seesです。 いかがでしたかね? 今回の主人公はふたりの男を軸に、これまでの《D》を回顧しつつ、新たな(平和的な)問題に立ち向かう、みたいな内容。 派手さもグロさもないストーリーに少々困惑しながらの完結……。 消化不良感がぬぐえませんが、それはそれは……スイマセン<(_ _)> 今後は…ショートショートをいくつか作るいつもの路線に戻ります。 曲の宣伝は控えめにします。あまり意味がないのかもだし💦 ちょくちょく更新はする予定ではありますし、構想のストックもあるので……数少ない訪問者の方々、見捨てないでくれると嬉しいな……。 誤字脱字、理解不能な部分の修正はちょくちょくします。重ねてスイマセンm(__)m もうひとつ、今回の話、どいつもこいつも笑いすぎ。少し自粛しろ。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『思えばこの時、会社ではとある陰謀が……後編』 次長 『――てことで、松阪のY田が故郷の北海道に帰るそうや」 sees 『……』 次長 『――てことで、行け』 sees 『……はい』 数日後……。 総務女子『……seesさん、社宅の件ですが――』 sees 『……はい』 数日後……。 sees 『……しばらく本社を留守にします。皆様、ありがとうございました』 みんな 『バイビー』 数日後……。ていうか、現在。 sees 「……何でワシがこんなメに……🍶グビグビ」 そう。seesは飲んだくれていた……。 sees 「出世はしたかもしれないけれど、結局は社宅の家賃とほぼ相殺。手元に残る カネはいつもと変わらない額……」 そう。しかも生活用品はほぼ自腹で用意。結局、引っ越しにかかった経費は 10万……慣れぬ職場で疲れ果て、耳に届くは訛った三重弁。 そう。『なんやんやん~やんやんやんやで~』て、何やねん。 sees 「ああ。また酒でも飲むか。しかし……」 そうだ。希望はある。この地に来て、初めて知った、出張ではわからなかった 魅力……それは、やはり――アレだ。 賃貸する月5万の1LDKマンション(地価安いっ!)のすぐ近くにあるスーパー 『コスモス』(隠す気もない)の肉コーナー……。 安い……。そう。肉が圧倒的に安い。冷凍松阪肉が普通にスーパーで買える? 松阪牛焼き肉用ロースが300gで800円? ホルモン200gが650円? ……爆安ではないのかもしれないが……それが毎日のように安い……。さすが は肉の都市……ウマすぎる。海外の肉だとさらに爆安……。なんてこった。 (高いのはA5ランクとかのブランド肉だけってことか?) sees 「……何でワシがこんなメに(>ω<)モグモグ……畜生が……グビグビィ……こん な街……さっと抜けて帰るぞ(´~`)モグモグ……🍶グビグビ……」 今度、自宅用の焼き肉コンロ、買うか……♬ 了🍖こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング ――――― 玄関の扉を開けると、奥のリビングで若い男女が楽しそうに談笑しているのが見える。考えるまでもなく、あの兄妹だ。全身に深い倦怠感が走り抜ける。やはり、川澄を自宅に迎え入れたのが間違いだったのだ。合鍵か? クソ野郎……。 川澄の妹である瑠美が先に岩渕の帰宅を察し、「ああ、岩渕さん、おかえりなさい」と微笑む。……何かの冗談か? イラ立ちが込み上げる。全身が熱を帯び、今すぐにこの兄妹を叩き出そうかと考える。こいつらは疫病神だ。関わるとロクなことにならないのは、火を見るよるも明らか。正直、しばらくは顔も見たくはない……そんなことを思う。「……何の用だ?」 怒りとイラ立ちを抑えて岩渕は訊く。 川澄は岩渕を見つめてニヤリと笑い、ペラペラと喋り始めた……。「……《D》に職場復帰しようかと思います。澤社長にも了承済みです。瑠美も《D》の採用試験、受かりました。しかし僕も瑠美も家が無いホームレスです。ですからしばらくの間、岩渕さんの家で寝泊まりしますね。家賃は適当に払います。食事は適当に作ります。睡眠は適当に取ります。仕事の邪魔はしません。とりあえず、現時点での報告は以上です」 その瞬間、岩渕の世界が静止した。静止……静止……静止……。――――― ……そんなに驚くようなことなのかな? 時間が止まったかのように呆然とする岩渕を見る。 これでも感謝してるんですよ? 短く小さいお辞儀をする。 瑠美も岩渕に向かって何か言っている。 惚れたのかい? 僕は応援するよ。……応援だけだけど。 僕はリビングのテーブルの上に置いたノートパソコンに目をやる。 ノートパソコンにはマイクロSDカードが挿入されている。 そう。 僕の《鍵》で開いた《箱》の中には、この小さなマイクロSDカード1枚が入っていた。 中身は見せましたよね? あまり感動してはくれませんでしたよね? しょうもない、と内心では思いましたよね? でもOKです。 これは僕だけにしか価値はないですから。 えっ? もう一度見たい? しょうがないですね……。 ほら……どうぞ。 ああ……実に可愛らしい、笑顔がステキな『家族写真』ですね。『写真』の数は20枚。そのほとんどが、『家族写真』です。 ちゃんとタイトルもありますよ? ほら……これが僕の本名です。普通でしょ? 被写体はもちろん、僕と父と母です。 父も笑い、母も笑い……僕も、笑っています。 岩渕さん――アンタ、もしかして……カンが悪い? それに……いつまでボーッとしてるんですか? しかたがないですねえ……ちょっと大声でも出してみますか。 よーく聞いてくださいよ?「――見ろっ! 岩渕っ! これは家族の写真だっ! これがどういう意味か、わかるかっ? この子供は僕だっ! 僕の顔だっ! 僕のものだっ! 僕だけのものだっ! 僕は僕を取り戻したっ! もう一度言うぞっ、僕は僕を取り戻したんだっ!」 僕は両手を掲げてバンザイをした。 瑠美は笑っていたし、僕も笑った。 岩渕だけは未だに呆けている。……いったいいつまで静止しているつもりなのだろう? 僕は笑う。 笑い続ける……。 ああ……。 世界がより一層美しく見える。 そう。 そうなのだ。 僕はやっと、僕はようやく、岩渕と同じ――同格に至ったのだ。 それがわかる。 僕の脳裏に映像が広がる。……幼かった僕……父や周りの大人たちの命令で、整形手術を受けるために手術台で眠る僕。苦痛。薄れていく意識。そして、もう元には戻れないという喪失感……でも、僕は僕を取り戻した。 大きく息をつく。 結論。 僕は、生まれ変わったのだ。岩渕や《D》と同じように……変わった、そう思うことにする。 世界は変わった。無論――地球の何かが変質したとか、そういうわけではなく……単に僕の意識が改革されたというだけだ。ただ、そう思う。『これまでの川澄奈央人』の世界は消滅し、『僕』の世界に上書きされた。 つまり……僕が今、世界を消滅させている。 そう思うと、笑いが止まらなかった。『…………次は、どうする?』 僕は子供の声で僕に訊く。 僕は答える。『……火事場泥棒とか、オモシロそうだと思わない? 災害や災難に便乗して被害者をさらに被害者せしめる……鬼畜、外道の犯罪……』 ――いいね。 ――最高だ。 僕と僕は喜んで共感する………。 了
2018.10.31
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。――――― 6月2日。午後23時――。 ……気に入らねえ残業だ。……吐き気がしやがる……クソッ、岩渕の野郎……。《D》名駅前支店の支店長である鮫島恭平は自家用車であるシーマの運転席からイライラとしながら外の様子をうかがった。 鮫島は岩渕の命令――というか頼みをきき、とある人物を大須駅まで呼び出し、そのまま岩渕の待つローズコートホテルまで案内する依頼を引き受けていた。大須駅は若い男女や外国人でごった返している。鮫島のいる駅前のターミナルも、商店街へと繋がる道も、大通りも、幹線道路も、人々の群れでいっぱいだった。 シーマのすぐ近くで口論をしている若いサラリーマンたちがいる。会社を辞める、とか辞めない、だとかの押し問答をしているらしかった。そいつらはそれぞれに不安げな視線を交わし、周囲を気にせず語り合い、しきりに何かを互いに訴えていた。 鮫島も何度か岩渕を説得しようと訴えた。一般論を説明し、川澄のことは放っておけ、考え直せ、と言った。けれど夕方に外で会った岩渕は――『もう決めたことなので考えは変わらないから、鮫島さんは例の知人を呼んでください』という意味の言葉を繰り返すだけだった。「……断る、べきなんだろうな……断り切れなかった俺様も同罪か……岩渕の野郎……」 鮫島は声に出して呟いた。もしこれが澤社長にバレたら、俺はクビになる可能性が高い。伏見の姫様を利用して成り上がろうとしている社長にとって、岩渕は死ぬまで手放せない金脈だ。そんな男を、男自身の願いだからと言って葬る手伝いをしたとあっては、鮫島もタダでは済まない。『……お願いします、鮫島さん』 困惑する鮫島にそう訴えた岩渕の目は真剣だった。そんなにも真剣に自分に何かを語る者の目を、鮫島は彼女以来――伏見宮京子の出現以来ぶりに見たような気がした。B型肝炎で生活のほとんどを病室で過ごす息子に『必ず治ります』『必ず良くなります』と訴え続けた姫君の目。それを思い出した。「……善人ヅラしやがって……どうなっても知らねえぞっ……」 吐き捨てるかのように言い放ち、薄く笑い、また思う――。 ……俺も同罪、同類、か。 心の中で本音を呟く。そこに――シーマの助手席のドアをコンコンと叩く、黒縁の眼鏡をかけた男が現れた。左手には巨大なトローリーケースの取っ手を握っている。 鮫島が何らかの反応や態度を示すよりも早く、男は助手席のドアを素早く開き、「久しぶりだな、鮫島」と低く言った。「ああ……久しぶりだな……《偽装屋》」 鮫島は助手席に座る男と目を合わせた。鮫島はこの男についてほぼ何も知らない。せいぜいが自分と同年代であるとか、請け負う仕事の内容ぐらいしか知らない。「……電話で話した通りだ。今のところ、変更はない」 できるだけ穏やかな口調で鮫島は言った。特に恐怖や緊張などはしていない。けれど、かつて、この男の仕事の手伝いをしていた時のことを思い出すと、背筋が凍りつくような思いがする。……できることなら、できることであるならば、生涯、もう二度と、会いたくはなかったが……。「……契約書の内容なんだが……できれば……そのう……」 岩渕への情が抑え切れず、奥歯を噛み締めながら鮫島は言った。「……頼む。少しだけ手加減して欲しい」「……ダメだ。3億のカネだぞ? 返済能力が低下した瞬間、カンボジアに連れて行く。 健康体のうちにバラさないと価値が下がる。それぐらい、お前も知っているだろ?」 男の声には何も無かった。 感情も、抑揚も、憐れみも――何も感じられはしなかった。 ……やはり、社長に一言相談するべきだった。 闇の商人――日本各地の地下で暗躍するそいつらの商売道具は多種多様であり、全容は公安組織でも解明されていないとされる。ある商人は銃火器を扱い、別のある商人は違法薬物を売買し、またある商人は若い女と子供を売買する。 そして、《偽装屋》の扱う商品はふたつ――保険金詐欺の斡旋と、臓器の売買――。 ……岩渕も何らかの策は用意しているとは思うが……大丈夫か? まさか、何のアテもなく《偽装屋》からカネを借りるってワケじゃあ……ないよな? 汗ばんだ手でシーマのハンドルを握り締め、鮫島はゆっくりとアクセルを踏んだ。 後悔していた。どうしようもないくらいに、後悔していた。――――― ……茶番だ。 ホスト役の男が「――では、《カーバンクルの箱》っ! スタートは100万円からでございます」と言って頭を下げた瞬間――……茶番劇は始まった。 母の順子が私を伴って川澄の席のすぐ隣に立つと、それを合図に待ってましたと言わんばかりに、人民服の男が「1億4千万っ! 8番っ!」と叫んだ。 そう。茶番なのだ。川澄の限界額などとうに調べがついている。私は小さな息をひとつ吐き、母の様子を伺った。 母は驚いたように目を見開く川澄の顔を見つめ、しばらくニヤニヤと笑っていた。それから、川澄の席の脇にしゃがんで、「気分はどうだい? アンタの父親と母親は、こういうふうにアタシから大事なものを奪い続けたんだよ?」と訊いた。「……時間もチャンスもくれないってワケか?」「ええ。悪いけど、兄さんの負けね」 瑠美の返答を聞いた順子が、突然、「ざまあみろっ!」と叫んで笑い出した。隣にいた瑠美も母につられて笑みがこぼれた。「……はじめから、僕をコケにするためだけに?」 川澄は声を震わせ、殺意すら感じられる目で順子を睨みつけた。けれど、母は笑うのをやめない。だから私は母に、「……母さん、あとは警察の方々に任せましょう? そこのバッグに詰まっている現金はどうやって集めたのか? キチンと通報しないとね……」と言った。「……一生、刑務所から出て来られないように、ね?」と。 母は、笑い続けている。 瑠美の合図で駆けつけた何人もの警備員が、川澄の腕や肩を取り抑えている瞬間も―― 血の気が引き、顔が青ざめ、頬がピクピクと痙攣しだす川澄の顔を見ている瞬間も――「やめろ……手を離せ……」力なく呟く川澄の瞳に、強い恐怖が浮かびかけた瞬間も―― 母は、笑い続けていた。 ねえ……どうするの? 岩渕さん。 瑠美は心の中で、川澄の隣に座り、そっと目を閉じた岩渕の顔を見つめて訊いた。 そして――…… ……えっ? ……ええっ? ……何? 次の瞬間――岩渕の行動に、瑠美は驚きの声を上げた。「……嘘だ。そんなワケがない……そんなこと、あっちゃいけない……ありえない……ありえないんだよ……岩渕……」 岩渕は右手を握り締め、拳を天に掲げ――チャペル全体に響き渡るかのように、叫んだ。「――1億5000万っ! 14番だっ!」 信じられない。あまりにも、信じ難い行動だった。 チャペル内がどよめき、招待客がザワザワと騒ぎ始めた。 よくよく凝視すると、岩渕の背後の席に見知らぬ男がふたりいる。ふたりは列に並んで座り、背後から巨大なバッグを手渡しした。……片方の男の正体は知らないが、もう片方の男は知っている。《D》名駅前支店長の鮫島恭平だ。 掲げた拳を下げた岩渕に、鮫島は、「……悪いがよ、招待状がねえもんだから、ワイロにお前のゼニ、少しだけ拝借したぜ……恨むなよ」と、背後から囁いた。 ワイロを貰って不審者を通したクズの話など、今となってはもう、どうでもいい。 やはり、彼は普通の……今まで私が出会ってきたどの男たちよりも、違う……。正論だけを言い放ち、緊急事では糞の役にも立たない若い社員……私や会社を騙してカネを奪おうとした投資詐欺の男……私に対してセクハラとパワハラを繰り返し、私が社長の娘とわかるととたんに掌を返して媚を売る執行役員の男……経営能力も無いくせに私に求婚し、《R》を乗っ取ろうと画策した子会社の社長息子……私の脚や胸や顔を、まるで品定めするかのように見つめる成金のIT企業の社長たち……記憶力に乏しく、自意識だけが肥大し、下劣で、下品で、愚かで、たいした努力もせず、たいした能力もなく、ただただ毎日の性欲と食欲を満たすためだけに生きているような――そんな無数の、そんな無限に湧いて出てくるゴミのようなカスどもとは――……「……違う。明らかに、違う」 瑠美は声に出して呟いた。間違いはなかった。 動揺する警備員の腕を振りほどいた川澄が叫ぶ――笑いながら、叫ぶ。「――あははははっ! 愛しているよっ! 岩渕さんっ!」 あっ、何? 突然――瑠美の胸が猛烈にときめいた。 そう。川澄の歓喜の叫びと同時に、瑠美は確信した……いや、確信しかけていた。 もしかして私は……岩渕さんのことが……好き、なの? なぜ? ……愛している?そんなハズはない……でも……かもしれない……この気持ちは、何? ……これは? この胸が張り裂けそうな気持ち…………これは……何? 高瀬瑠美は理解しようとしていた。 何かが――女として何か大切なものが、今にも生まれ落ち、産声を上げそうだった。 ……兄は、愛されていた。父に、その母親に。そして、岩渕も兄を助けた。……私は?私も……私のことは? 私を……助けてくれる人は? ……いるの?「――1億5500万っ! 8番っ!」 取引先の筆頭候補である華僑の実業家が叫んだ。だが、それだけだ。何の感情も、何の思いも、湧かない。湧きやしない。「……1億6000万。14番」 岩渕がゆっくりと挙手をし、宣言した。 彼に……助けて欲しい? 彼に……守って欲しい? もしかして……私は、誰かに……例えば――岩渕さんに……愛され、たい? 心の奥底で――私は私に、何度も何度も同じことを問いかけた。「别调戏! 没听这样的展开的!(ふざけるなっ! こんな展開は聞いてないぞっ!)……1億7000万っ! 8番だっ!」「……1億8000万。14番」 瞬時に岩渕が値を上げた。 岩渕が鮫島に持参させた現金はいくらなのだろう? 2億? 3億? よくわからない。何にしても相当なリスクで……命の危険さえ感じる額だ。つまり……。 ああっ。 再び心臓が飛び上がった。 川澄が何事かを騒ぎ、母が不安げな表情で私のスーツの袖を掴み、チャペルの会場が異様な雰囲気に呑まれようともしていたが――気にはならなかった。 私の心臓は息苦しいほどに高鳴り、全身の毛穴が汗を噴き出す。眩暈がする。口内が渇き、唾を飲み込む。 ……死ぬ気なんだ。……この人は死ぬ気で、あの兄を助けようとしているんだ。 死ぬ? 死んで、消える? 岩渕が死んでしまったら? 消えてしまったら? もし、そんなことになったら……この気持ちは、この気持ちの正体は永遠に謎のままだ。 瑠美は思った。そんなことを思うのは、考えるのは、生まれてはじめてのことだった。 「……1億9000万だ。8番。……もう諦めろよ、日本人」「2億。14番」 オークションは続いている……。――――― 6月3日。午前0時――。 オークション会場に招待された客たちの腕時計の針が午前0時を指すと同時に、とある伝説上の獣の名を冠した宝石箱の落札者が決定した。 オークション開始とともに《箱》の値は億を超えたが、その後は中国人の富豪と日本人サラリーマンの一騎討ちとなる展開を見せた。値段の吊り上げは500万から1000万単位で進行し、値が2億となってからは500万以下の入札が続いた。 招待客たちは驚いた。なぜなら、競りの対象である《箱》は、主催者側から『せいぜい1000万円程度の品』と紹介されたからだ。 正体不明の《箱》が、どうして億を超える価値があるのか? それは値を競る中国人と日本人と出品者しかわからない。招待された客たちは、その異様なやりとりが繰り返される光景を呆然と見つめるだけだった。 中国人の声が次第に小さくなり、比例して競る単位も減り続けた。もはや闘志などあり得なかった。たとえ落札に成功しようが、何らかの損害を被るのは避けられそうにないのだろう。死ぬ気で《箱》を競り落とす気も、最初から無かったのかもしれない。 招待客たちは、どこからともなく莫大な現金を用意した日本人のサラリーマンを見た。「……番のお客様、最終落札額は2億5000万でございます」ホスト役の男が落札を決定する鐘の音を鳴らす。まばらだが、会場からは小さい拍手と、感嘆の息が漏れた。 そこで初めて、その日本人がカネの単位以外の言葉を口にした。招待客の多くは日本語に精通してはおらず、男が何を言っているのかがわかりずらかった。しかし、別に自分たちに対して無礼なことを言っているわけでないことは理解できる。 落札したのは、日本人のサラリーマンだ。その男は、こう言った。「……高瀬社長、瑠美さん。そして……川澄。《カーバンクルの箱》を手に入れたのは、俺だ。お前らじゃない……この俺だ。ルールは守るんだろ? なら……最後の取引だ」――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 i(最終話)に続きます。本日のオススメ!!! Guiano(ぐいあの)氏……。 Guiano(ぐいあの)氏。以前もツイやブログで紹介させていただいたと思いますが……元々はニコ動でボカロ作曲のP。flower(子供のような声)使いの中ではトップクラスのP、だと思う。 抒情的な歌詞であり、洋楽風、かつエモい。ボカロでは難しいバラードも抵抗なく聴かせる力がある。…歌詞がワンパターン化しているフシも見られるが、メロディと歌詞が常に斬新であるため、気にならない。間奏も長いな……作詞にはあまり時間をかけたくないのかも? Guiano氏参加の楽曲……。 雑記 お疲れ様です。seesです。 実は……引っ越します。 かねてより会社から打診があったものの、この度、ついに決定してしまいました。 行き先は……三重県、松阪市デス。 元々よく出張に行っていたのですが、この際だから「異動しろ」と命令されて💦 その引っ越し準備やら何やらで時間を食ってしまい、更新も遅れ、SMSなど何も手につかない状況でした。少しですが、更新がまた遅れそうです。ネット環境も整えなければならず、生活用品も買い揃えなければ……。(家具家電つきの家ではなく、単純に何もないマンションを社宅として賃貸します。……めんどい。 てことで、次回が最終回です。なるべく早く作りますので……。(最終回前だからかもだけど、ちょっとつまんない。最終回はずっと構想考えていたもので変更はないけれど……)。箱の正体は? 瑠美さんと川澄は――どうなる? まて、次回。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『思えばこの時、会社ではとある陰謀が……前編』 sees 「次――運転交代しろよ」 後輩 「……俺~高速の運転苦手なんすよね~……」 sees 「……知るかい。せめて鈴鹿まで走れや(何でこいつ、営業に就職した?)』 そう。松阪へ出張だ。 しかし、seesは知らなかった。これが本社勤務最後の出張になろうとは……。 後輩 「seesさん、眠くなっちゃいました~……交代してくらは~い……」 sees 「……まだ四日市じゃねえかよ。(松阪まであと2時間くらいか……クソッ)」 ヘタれな後輩を助手席に乗せ換え、seesはハンドルを握った。 しかし、seesは知らなかった。これが愛するバネットとの最後の旅になろうとは。 後輩 「でも~、seesさんて結構、松阪に出張行ってますよね……何でスか?」 sees 「……(そういえば、そうだな。最近になってなぜ?)」 命令、だから。と納得するのは簡単だ。しかし……確かに回数が増えている気は する。……まさか。 2日後。 後輩 「いんや~ダルかったすね~seesさん。手伝いやら研修やら、最悪すよ。早く 帰りたいっす」 sees 「……ああ(いつも通りの出張内容だ。もしかして、とは思ったが、やはりワシの カン違いやったか……)」 だが――……。 帰り際――……。 所長 「ああ~……sees君、来月も(から?)ヨロシクね」 sees 「……?」 松阪事業所の所長、最後の言葉はいったい――? ま・さ・か? ……… ……… ……… 後輩 「……あ゛ー運転ダルいすわ。パイセン~、運転お願いしますぅ~」 まさか、まさか、まさかね……。 後輩 「seesさ~ん、聞いてますぅ?」 sees 「うるせぇぞっ!! 運転の練習やっ! 愛知入るまで運転せぇやっ!!」 後輩 「ひぇ~~」 まさかね……。 つまんねー話、でも、続く。こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.10.08
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。――――― 6月2日。午後21時――。 送迎に用意したレクサス・LSハイブリッドのルームミラーに目をやる。注視すると、2人の男が相反して顔を背け、2人して夜の大須の街を眺めているのが見える。「……何か、僕の顔についてます?」 爽やかな――それでいて警戒心の強い口調で川澄の声が応えた。「いいえ。……オークションの場所は、ご存知ですか?」「……中区大須のローズコートホテル。会場はホテルのチャペル。……うまく考えたとは思うよ? 夜の結婚式場を貸し切っての非合法オークション……参加したことは無かったケド、本当――頭の狂った連中だよ、華僑は……まぁ、僕ほどじゃあないだろうが、ね」 瑠美は何も答えることができず、もう1人の男――岩渕の方を見た。数時間前に会って話しをした時には感じなかった何か……何か深い疲労感のようなものが感じられた。窓際で頬杖をつき、目を細めて外の景色を眺めていた。 レクサスが停車する。運転手の男が「到着しました」と告げ、降車する。しばらく待つと、助手席と後部座席のドアが同時に開かれ、支配人らしき紺のスーツを着た男が現れた。「いらっしゃいませ。高瀬様」「こんばんは。川澄さん、岩渕さん、着きましたよ? 降りてください」 瑠美は、降車する2人の男を見つめていつものように――子供っぽく微笑んだ。 ――その時だった。 目の前に立った岩渕が自分を見つめ返したその瞬間、まるで正面から誰かに強く抱き締められたかのような肉体的な感触とともに、胸や下腹部を強い熱気が通り抜けた。 それはたぶん、突撃を命令された瞬間に兵士が感じるような、すべてを犠牲にしてでも何かを守りたい……強い覚悟を秘めた熱だった。 体が先に理解した。そして次の瞬間には、頭でも理解した。フィクションでしか見たことの無かった非現実的な挑戦を、この男は成し遂げようとしていると、完全に理解した。 そうだ。間違いない。岩渕は川澄を助けようとしている。この臆病で陰湿な、どこにでもいるようにさえ見える32歳の男が、あの意地汚く、泥棒で、嘘つきで、無法者の兄を助け、自身の身を破滅させようとしていた。 ……なぜ? いったい……どうして? わからない……わからないよ……。「どうかしましたか? 高瀬……瑠美さん」「いいえ……別に……」 瑠美は岩渕を見上げ、反射的に微笑んだ。喉の声帯が今すぐにオークションへの出品停止を訴えようと震えているのがわかった。今すぐ岩渕と川澄を丸め込み、勝負から逃げ出そうとしているのがわかった。 だが瑠美はそうしなかった。 数億のカネを用意できるワケがない。川澄の悲鳴を聞かなければ、母の心は癒せない。ほんの一瞬間の間に、瑠美はそれを思い出した。「さっさとオークションのルールを教えてもらえませんか? さっさと入札して、さっさと帰りたいですから、ねえ?」 川澄が軽やかな口調で言い、瑠美は無言で頷いた。下腹部の奥に溜まった強い熱気が、体の中で渦を巻いているのがわかった。――――― 1.形式は『ファーストプライス・オークション』方式とする。 (最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売され、支払額も最も高い価格に設定される。一般的な形式) 2.参加者間(買い手)での資金の共有は厳禁とする。 3.落札成立時、支払いは現金のみとする。 他にも『口外禁止』だとか、『携帯電話・パソコン・カメラの持ち込み禁止』だとかの適当な文言の書かれた書類を読まされ、手渡され、サインをさせられ――オークションの会場であるチャペルに案内される。誓約書の複写を渡されるが、僕はそれを拳の中で握り潰してポケットに入れる。……どうでもいい。スマホはチャペルの前の受付に預けたが――こんなもん、本当にどうでもいい。 一般的な西洋風チャペルの中に通されると、既にそれらしい客たちが礼拝用のベンチに腰を下ろしていた。人民服を着た中年の男、普通のサラリーマン風の男、革ジャンを着た若い男と付き添うチャイナドレスの女、全身に貴金属を纏った婦人、西洋人らしき金髪の紳士、幼い子供を連れた大柄な黒人、ホスト風の若い日本人、若い女を2人連れた白髪の老人……国籍も性別も年齢も違う人々は、新たに入室した僕と岩渕を睨むかのように凝視する。……値踏みでもしてやがるのか? ……豚どもが。 そんなヤツらが佇むベンチのひとつに、僕と岩渕が案内される。席に座っても、岩渕はずっと黙ったままだ。緊張してやがるのか? ……だけど、まぁ、ここまで来たら覚悟は決めているのだろう。……期待してますよ。「……《箱》を手に入れても、《鍵》はひとつ、か……」 川澄は誰にともなく呟く。 自分が欲しているのは、あくまで自分の《鍵》で開く部分だけ。瑠美の《鍵》で開く中身の確認はできない。興味はない……興味はないが、完成形での《箱》は諦めるしかなさそうだった。……最終的には1度破壊して元に戻すのがてっとり早いのだが、資産的価値は相当に落ちるだろうな。まぁ、いいか。瑠美を脅迫して《鍵》を手に入れるのは簡単だし――それはそれで面白そうだ。 薄ら笑いを心の中で浮かべながら、川澄は隣に座るひとりの男――岩渕の心理と心情に思いを巡らせた。滑稽なほどに美しく、悲しいくらいに慈悲深い、生涯唯一の友と呼んでもいい男の優しさを――笑った。 岩渕さん。あなたは僕が持っていないものを持っている……。知りたいですか? それはね……簡単なものですよ。ものすごく簡単で、ものすごく得るのが難しいもの。そう。あなたは――自分を棄てることができる人間だ。自殺願望なんて言う逃げ道の話じゃあない。困った友人や恋人がいれば、最後の最後には必ず手を差し伸べてしまう……例え、自分が地獄に落ちると知っていても――あなたは手を差し伸べる。差し伸べてしまう……。 そんなことが、そんな非現実なことが、あなたはできてしまう。そんな人間は僕の知る限り――あなただけだ。 あなたが京子様を連れて《D》大須店を訪れた時、僕は確信しました。コイツを仲間にすれば、最後の最後まで決して裏切らない。裏切れない。踏み台にしようが、肉の盾にしてしまおうが、あなたは――最後の最後で必ず、僕を助けてくれる。 ……すいませんねえ、あなたの休日を潰してしまって。ついでに……そう、僕を助けて死んでください。100円ショップの線香くらいはあげますよ……。 現金は持参していないようですが、あなたがどんな方法でカネを用意したか? それも見当はついています。ですが……まぁまぁまぁ――僕が用意した1億3000万で勝負が決まれば御の字です、よ? そこまで思った時、背後から誰かが川澄の肩をポンと叩いた。 反射的に振り返る。そこに、妹の瑠美の顔があった。「もうまもなく始まります。 ……《箱》を諦めるのなら、今の内ですよ?」 挑発するかのように瑠美は言った。僕は彼女を睨みつけたつもりだったのだが――……やはり、ダメだ……。 笑みが浮かぶのを抑えられそうにない。――――― 入札の方法は簡単だった。「……こちらの商品は日本を代表する日本画家、東山魁夷の作で――」 商品説明が終わると、ホスト役の男がチャペル中央奥の祭壇の上で鐘を鳴らす。『……3000万。18』 参加者はベンチに収納されているマイクで希望落札額と参加者番号を言う。『3500万。5』『3600万。18』 競い合う。それだけだ。参加者は希望額以外何も言わない。何も言い合わない。何も言い争わない。それだけの、実にシンプルなこと……。 くだらない、とは思わない。くだらないとは思わないが、こんな世界に自分が足を突っ込む日が来るとは思いもしなかった。こんなことはカネ持ちだけに許された娯楽であり、自分には生涯関係のないもの……。 ぐったりとベンチにもたれたまま、岩渕はそう思った。「岩渕さん。アレ、知ってます? ……ジャン・ミシェル・バスキア?」 しばらくして、川澄が聞いてきた。「……ヤク中で死んだグラフィティ・アート作家だ。確か、日本の何とかいう企業の社長が収集してるって聞いた気がするが……」 次の瞬間――岩渕の斜め前の席から、日本人が大きな声で『10億っ! 1番っ!』と言った。それはマイクを通して、というより、怒鳴っているというような口調だった。「10億? アレが?」 川澄が感心したかのように訊き、岩渕は「『アート』の世界はわからない。あのカネ持ちがそう思うのなら、それでいいんじゃないか?」と言った。 マイクの音を切り忘れたのか、その日本人の席からは『……さん、すご~い』と媚びる若い女の声が漏れ聞こえた。チャペルが失笑に包まれる中、しばらくして、鐘の音が鳴り響く。「……バスキアの絵画、1番様が落札」とホストが宣言すると、もう用は無いと言わんばかりに、その日本人のカップルはチャペルを出て消えた。「……なるほど。希望額を発言してからのインターバルは……1分てとこスか……」 "不安げ"な表情で川澄が呟く。……嘘くさい。本当に。「岩渕さん」 また、川澄が岩渕の名を呼んだ。「……何だ?」「もしかして、緊張してます?」 川澄が"優しげ"な眼差しで見つめて訊き、岩渕は急に背筋に冷気を感じた。「ああ……少しだけな」「別に緊張しなくても大丈夫ですよ。これは"僕が"招いたトラブルなんですから……でも、今日のことは本当に"感謝"しています……」 川澄はそう言って微笑んだ。整ったその顔には、相変わらず、幼い子供のような"笑み"が浮かんでいた。 ……嘘だ。 ……わかっちゃいるんだよ。 ……それが全部、何もかもが全て嘘、演技だってことは、わかってんだ。 「……お前が礼を言うなんて、珍しいな」「そうスか? まぁ、もう別に、先輩は"何もしなくてイイ"ですから……後は"僕が"決着をつけて見せますよ……」 そう言って笑うと、川澄はチャペルの祭壇を凝視した。「……続いての商品はホテル《R》の高瀬社長提供の一品となります。寄木細工の技術を応用し、希少なルビーをメインに組み上げた紅き宝石の箱――《カーバンクルの箱》、でございます……」 ホスト役の男が仰々しく説明する……これまで口にしなかった出品者の情報まで流して。 岩渕は思った。 ……わかっちゃいるんだ―― ……何もかもわかったうえで、わかったうえで―― ……お前のために……お前のような外道のために―― ……死んでやるよ。俺の人生は、今夜で終わりだ。 ……こんなことを思うのは……こんなことを本気で思うのは、2度目か……。 岩渕は強く思った。 ……それぐらい、お前が俺にしてくれたことは、嬉しかったから。――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 gに続きます。本日のオススメ!!! 鬼束ちひろ氏……。 学生時代に最もよく聴いた方のひとり。 ……正直、《歌手》という職業の方々の中でもかなり異質な女性。事務所の命令に逆らえずキャラを作り、素の状態を晒したと思ったらまさかのハーレイ・クイン。「主食はスイカバー」などの珍言、放言、恋人からのDVなどなどなど……。 最近はようやく精神が落ち着いたのとの言もあり、新曲も披露。seesも一安心でございます。 歌手としては超一流、その存在感、魅力、歌詞の力を120%引き出す表現力……。 本当なら、もっともっともっと頂点を目指せた方だというのに……人生はわからない。 seesは……《Beautiful Fighter》が好きスね。 左が新曲と新DVD……。 雑記 お疲れ様です。seesです。 夏も終わりかけ、仕事も一段落しそうでしてないseesです。 今年の夏はいろいろあったなぁ……。慢性的な体調不良にケガ、ものもらい、寒暖 差による連続夏バテ。……母校の甲子園出場、ああ、応援に大阪、行きたかったなぁ、クッソ熱いだろうけど……それが悔やまれるな。 9月からも仕事キツイ……社員旅行、行けるのかなぁ? 私……。自慢じゃないが、 社内での成績は良いほうなのだが……逆に縛られることも多い。困ったものだ。 ああ……映画見たい、旅行行きたい、ずっとPCの前にいたい、ゲームしたい……どっか遠くに行って、流行りの?ソロキャンプや車中泊したい……。 前話で近鉄百貨店のくだりを書きましたが、実はアソコ、夜はビアガーデンなんす。 行きてえなぁ……思い切りソーセージ食いたい……。はぁぁ……。 さて、今話はストーリー上、進展ず少ないようにも思えますが、役者が揃うのは次回ですので……期待は、してもしなくても――みたいな感じ。《箱》を手にする者は誰か、その中身とは? 順次、公開する予定ス。そして、川澄氏と瑠美嬢は……。 ちょっと色気が足りない気もするけど、まぁいいかw オークションのくだりは…まぁ、半分ギャグですわねww seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『誕生日プレゼント……』 sees 「ぶひぶひ(今日、誕生日だけど……何か、自分に欲しいなぁ……)」 友 「……ほらsees、コレ、やるわ」 sees 「え? ありがとう~友よっ!!」 seesは、ブルースウィルス主演映画、『アクト・オブ・バイオレンス』の DVDをてにいれたっ! ――――― sees 「……今日の夜、とらのあな、行こうかな……」 次長 「おいっ、sees、お前、確か誕生日近いんやったな? これ、飲めや」 sees 「えっ~? すいません~ジチョ~、マジでありがとうございます(^^)/スリスリ」 seesは、『霧島5本飲み比べセット』をてにいれたっ! (茜・黒・白・プレーン ・ゴールドの霧島焼酎セット……豪華なワリに安価ス💦) ――――― sees 「……やっぱプラモかな……それとも、完品塗装済みでもエエが……」 総務部長「sees君、ハイこれ。あげるから、読んで頂戴。とっても楽しいお話だから、 あなたにも買ってあげたわ」 sees 「――っ! えっ、本すか? ありがとうございます。次の休みにでも読みますねっ」 seesは、東野圭吾の『魔力の胎動』をてにいれた。……東野圭吾かよ。中学生 じゃあるまいし……こんなの読んでも時間のムダやな……。どうせなら、横山 秀夫とかがよかったが……。 ――――― seesは街を彷徨いながら、錦や栄の街を彷徨い歩いた。そして――自分のために、 自分のためだけに、自分が欲しいものを――買った。 MG1/100 RX-78-2ガンダムver.3 ソリッドクリア……要は、半透明のスケルトン ガンプラ……。一番くじのラストワン賞。とらのあなで7500円……。 sees 「…………」 考えてみると、周りと自分の価値観て、本当に、本当に相違がある。 周りが気を遣ってくれるのは素直に嬉しいが――本当に欲しいものは自分だけしか わからない……う~ん。ワシがただ単に頭がおかしいだけなのか? わからん…… 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.09.14
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。――――― 6月2日。午後16時――。 耳に押し当てた電話の向こうで呼び出し音が始まると、岩渕の心臓は体全体を絞った かのように縮こまった。……アナハイムは深夜0時、くらいか? いたたまれなくなり電話を切ろうとした時、相手か出た。 『はい……もしもし? どうしたの? ……岩渕さん」 岩渕は言葉に詰まった。何を何から話せばいいかがわからなかった。相談したいこと があるのに、心配をかけたくないという気持ちも働いて、自分が何を伝えたいのかが わからなくなりそうだった。 『もしもし……何かあったの? 今、大丈夫?』 正義と愛に満ちた伏見宮京子の声を頭の片隅で聞きながら、岩渕は噛み締めるかの ように声を出した。 「……川澄の野郎が……声には出さねえが……助けを求めてやがる……嘘かも、ホント かも……何もかもわからないが……」 それはさっきからずっと考えてきた、考えて、考えて、いくら考えてもわからない。しかし、絞り出すように声を出した瞬間、頭の中に広がっていた霧が少しだけ晴れた気がした。 『……川澄、さんが? そう……』 どこかホッとしたかのように京子が言う。『……放っておけばいいんじゃない? こんなことは言いたくないのですが……彼は、信用できません……』 「――違うっ! ……信用とか、信頼とか、そんなんじゃあないっ!」 自分の声の大きさに岩渕は驚いた。頭の中の血管を血液が無尽に駆け巡り、白い、モヤモヤとした霧が完全に消えた。自分が何をしたいのか? 答えがわかりかけた。 「……あの野郎は……アイツは……京子、キミと同じなのかもしれない……」 『……? 何があったのか、教えてもらっても……いい、かな?』 京子の声が優しげに響いた。たぶん、いろんなことを憂いているのだろうな、岩渕は思った。眠ろうとしていた京子の、美しい姿と顔を思い浮かべた。 何を思うのか、何をしたいのか、何が自分らしいのか、答えはもう、決まりかけていた。 事情を説明し終えた後で、京子が真剣な口調で聞いた。『……《カーバンクルの箱》を手に入れて、川澄さんに渡せたとして……その後、あなたはどうなるの? 川澄さん が岩渕さんを裏切らない保障は……あるの?』 そんな保障はどこにもない。そんな保障など必要ない。そんな理由じゃあ、ない。 「……わからない。けど……あの兄妹を出し抜いて《箱》を手に入れるには……この方法しか思い浮かばない……もしかすると、キミとの関係も終わりになるのかもしれ ない……ごめん……」 途端に、京子の口調から優しさが消えた。『ちょっと待ってっ! どうしてそこまで する必要があるの? 《D》とは本来関係のない話じゃないの? 放っておけばいいん じゃないの? ……どうして?』 「……別に死にに行くわけじゃない。これは……単に俺のワガママなんだ……」 『ワガママ? ……どうして? ……どうしてなの?』 京子は、どうして、を繰り返した。 「どうしても、だよ。アイツが何を考えているのか、《箱》の中身が何であろうが、そんなことは関係ない。アイツは――……キミと同じことを、俺にした……」 沈黙があった。京子は泣いているらしかった。沈黙の中に時折、鼻水をすするよう な音が混じった。罪悪感が込み上げる……情けない……。 「京子が戻って来たら、俺はどうなっているかわからないけど……就活のレクチャー くらいはしてやるよ。……こっちの業界で働きたいんだろ?」 岩渕は冗談めかして言ってみた。しかし京子は黙ったままだった。 「大丈夫。まだ何も決まったワケじゃない。もしかしたら俺のこの計画も、全部、単に空想で終わるだけかもしれないしな……」 岩渕はつとめて明るい声で言った。 受話器からようやく京子の声が聞こえた。 『……やめなさい。あの男は信用してはいけない。……お願い』 毅然とした京子の言葉に岩渕の心は揺らいだ。そして同時に、京子の、美しき姫君の願いを無下にする男など――この世の中にいるのだろうか? とも思った。 『……あの男があなたに何をしたのかは知らないけれど……行かないで……私たちの ためにも……やめて……』 電話の向こうで京子は繰り返した。 「アイツとキミだけなんだ。……川澄は、俺の……俺の心に触れた。ひとりぼっちの俺に、カネのことしか考えてないような俺に、『一緒に来てくれ』と言ってくれた。……打算もあるのかもしれない。……使い捨てにするつもりだったのかもしれない。……将来、俺や《D》を裏切るのかもしれない。――だけど……放ってはおけない、アイツを。できることなら、アイツの妹も……」 そう言うと、岩渕は受話器を置いた。それ以上、京子の声を聞いていられなかった。 行きたくはなかった。誰でもいい、誰か俺を殴ってでも止めてくれ、とさえ思ってい た。それでも、岩渕は行くと決めていた。 変わっちまった。京子に出会ってから、生活も、性格も、何もかも変わっちまった。ひたすらにカネを稼ぎ、いつか澤社長を地獄に叩き込む野心も……見つけ出し、いつか復讐すると誓った両親への怒りも……変わっちまった。それなら……それでいい。それ なら、俺は俺自身の選択に付き合ってもらうだけだ……。 岩渕は窓の外を眺めた。太陽は傾き、ゆっくりと沈み始めていた。――――― 一度だけ岩渕に電話を掛けなおした。その呼び出し音を聞きながら、伏見宮京子は どうやって岩渕を説得しようかと考えていた。……呼び出し音は鳴り続けた。岩渕が出る気配はなかった。……こんなことは初めてだ。 閉め切ったカーテンの隙間からアナハイムの街の光が漏れ入り、広い寝室をぼんや りと照らしていた。明かりはつけていなかった。ついさっき、使っていたパソコンを閉じた時点でスイッチを切っていた。就寝する直前だった。 「……泣きマネじゃ、ダメか……」 京子は声に出して呟いた。「……私が……どこにでもいる、普通の、ごく普通の女で あったのならば……この体ごと岩渕に捧げてでも……構わないのに……それで彼が思い留まってくれるのならば……構わない……構わないのに……」 ベッドに潜り込み、京子は神に祈った。 天照大御神様……また《D》に関わる者たちに危険が迫っております……どうか……御身の御力により、守り給え……」 岩渕と《D》のためだけに祈ることに、躊躇いはない。それが不敬だと感じていた としても、躊躇いはない。 それから京子は、明後日には日本に戻ろうと決めてから――目を閉じて泣いた。――――― 6月2日。午後19時――。 巨大な南京錠の鍵穴に無骨な鍵を差し込み、左回転に向けて力を込める。U字型の鋼鉄の棒が勢いよく飛び出すガキンッという音が、僕の耳に届く。 24時間営業の、新栄にある貸倉庫ビルの5階に、人の気配はない。……月極4万の4畳スペースだ。さすがに利用者は少ないからね……。 扉を開ける。監視カメラの角度に注意し、そっと入る。一息吸い、電灯のスイッチを入れる。……微かにカビ臭い。 「こんにちは……迎えに来ましたよ」 ……何に挨拶? ――いやいや、挨拶ぐらいしますよ。何せ……彼らの所有権は本来 僕ではなく、父なのだから。「どれぐらいの金額かまでは、知らないんですけど……」 ――現金。 100万円の束が縦横に積み重なった大量のカネ――そう。カネは何も語らない。 無表情で、無言で、次に手にする者の命令に従う、世界の根底を支えるモノ――そう。それでいい。それでこそ、ここに来た意味がある。 父が生前、盗品を現金化した際の隠し倉庫で――僕は持参したLOUIS VUITTONの バックパック・エクリプスをふたつを開き――現金の束を無造作に詰め込む。50万 円以上するバックパックは瞬く間に膨らむ。……かなりの重量だが、しかたない。 腕時計で時間を確かめる。スーツのポケットに入れてある《カーバンクルの鍵》を握り締める。それから――4畳の倉庫の真ん中で横になり、大の字に脚を広げる。 ……これで集まったのは1億3000万、てところか。そう。それは川澄奈央人に とって、たった半日で搔き集められる金額の限界だった。勝負になるのか不確定な、おそらくは足りないであろうカネの詰まったバックパックを両脇に――川澄は打ちっ ぱなしの鉄筋コンクリートの天井を仰ぎ見た。 新栄の街を歩く、家族連れらしき親子の笑い声が微かに聞こえる。 目を閉じる。おそらくはジェスチャーであるだけなのかもしれないが、母を思う妹――瑠美の心情を想い――思う。 思うのは、『母』を失った息子――……。 ……そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていたのに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。 ――……ねえ、聞いて。 いつ? どこで? そんなことは覚えていない。ただ、誰かに話しかけられたこと だけは覚えている。おぼろげな姿ではあるが……母であることは間違いなかった。 ――……あなたは、とても賢いわ。 返事はできない。言葉が喋れないようだ。 ――……あなたは、とても強いわ。 体もうまく動かせない。手が短く、脚も短いようだった。 ――……あなたは、誰よりも賢く、誰よりも強い……。 ――そんなことはわかっているっ! 僕が知りたいのは……母さん、アンタの……。 ――……ん? コレに興味があるの? 《カーバンクルの箱》とは何だっ? 《箱》の中には何が詰まっているっ? ――……そうねえ、まだ中身は決めていないのだけど……今、決めたわ。 どうして《鍵》はふたつある? どういうつもりだっ? ――……気になる? じゃあ、片方だけ教えるけど……いつか思い出しても、パパ には絶対内緒だからね? そうだ。 思い出した。僕は昔、赤ん坊の時――《箱》の中身を、母に聞いていた。確かに、 聞いた。それを今――思い出す。ようやく、思い出す。 ――……あなたが将来お金に困らないように、脱税・詐欺・密売・密輸の錬金術を メモにして置いておくね。もう片方は、今度、ね? ……愛している。 記憶の断片で、母が、僕の頬にキスをした瞬間――……僕は目を見開いた。 そうか……そういう経緯で、高瀬母娘は《R》を築いたのか。 「ということは……残っているってコトか……僕にもまだ、勝機が……」 川澄が嬉しそうに微笑んだ、その時――内ポケットに入れたままのスマホが軽やかな メロディを奏でた。 直感的に川澄は笑みを強くした。 直感。そう。脳と感覚が直結し、意識が一致した。スマホの液晶に表示されていた のは、川澄が最も必要とする男からのものだったからだ。 躊躇なくスマホを手に取り、通話パネルを操作する。また笑みが強くなる。 『……今どこだ? 迎えに行ってやるよ……俺も大須に行くことにした。最後まで見届けてやるよ……』 岩渕の声と内容を聞いた、その瞬間――確信する。 ――僕の勝ちだ。 そう。《カーバンクル》に愛されていたのは、僕だけだっ!――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 gに続きます。本日のオススメ!!! カンザキイオリ……氏。 カンザキイオリ氏。 元々はニコ生で楽曲配信するP。CD登録、所属はなし。年齢もわからんし、ツイは謎だらけ。ミク・レン・リンちゃん以外は使わないみたいだし……。 だけど……何だろう、それでいいのかもしれないな……。 この方の歌詞には力があり、魂を震わせる力があると、seesは断言いたします。 この方の動画で涙したのは1回ではありません。むしろ聞くたびに涙腺が緩くなった感さえ、ある。動画の構成もシンプルかつ、『歌詞』を強調した作り、非常にわかりや すい内容……(下手なアニメよりもずっとイイ)。 新曲でも泣いた。同時に過去作も聞くからまた泣いた。 ホント……すげー方だと思いますよ。しいて頼むのは……もっと欲を出されても、 良いのでは? くらいかな……。 カンザキ氏はCD未発表なので……最近seesが買ったモノを少し紹介……。 イアさん。ブトゥームの最終巻(マルチエンドッ!)。泣ける野球マンガ。 雑記 お疲れ様です。seesです。 夏も終わりかけ、仕事も一段落しそうでしてないseesです。 今年の夏はいろいろあったなぁ……。慢性的な体調不良にケガ、ものもらい、寒暖 差による連続夏バテ。……母校の甲子園出場、ああ、応援に大阪、行きたかったなぁ、クッソ熱いだろうけど……それが悔やまれるな。 9月からも仕事キツイ……社員旅行、行けるのかなぁ? 私……。自慢じゃないが、 社内での成績は良いほうなのだが……逆に縛られることも多い。困ったものだ。 ああ……映画見たい、旅行行きたい、ずっとPCの前にいたい、ゲームしたい……どっか遠くに行って、流行りの?ソロキャンプや車中泊したい……。 前話で近鉄百貨店のくだりを書きましたが、実はアソコ、夜はビアガーデンなんす。 行きてえなぁ……思い切りソーセージ食いたい……。はぁぁ……。 さて、今話はストーリー上、進展ず少ないようにも思えますが、役者が揃うのは次回ですので……期待は、してもしなくても――みたいな感じ。《箱》を手にする者は誰か、その中身とは? 順次、公開する予定ス。そして、川澄氏と瑠美嬢は……。 ちょっと色気が足りない気もするけど、まぁいいかw seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『フィアットとストーカー』 とある営業帰り――……。 sees 「あ゛ーフィアット欲しいな……」 課長 「また同じこと言ってるどー」 sees 「いや、ね……やっぱり…500もイイけど……新型の500X?、最高ですね、アレ」 課長 「さっさと買えどー。頭金100で5年ローン? お前ならイケるど?」 sees 「……簡単に言うスけどね~……今の車も好きだし……(めっちゃ内装イジったし、 スピーカーも一番高いの装備したし……イキナリ外車は、正直怖い)」 課長 「おっ、噂をすればだどー」 そう。我々が車で走っている場所は現在――フィアット守山店前……。 すると――……。 課長 「おっおっおっ……今――販売店から出た車、お前の欲しい車種だど?」 sees 「――っ! マジか、フィアット500X……しかもイエロー……」 課長 「sees、見るだどっ!! 運転してるの、でら美人だどー」 sees 「なにぃっ!!」 2車線でバネットと並走するフィアットの運転席をチラりと見ると……。 sees 「……うわっ、北川景子(通称セーラーマーズ)みたいや……やべえな」 課長 「……sees、久しぶりに、ヤルかど?」 sees 「………」 欲しい車、セーラーマーズ、これはもう……ヤルしかねえっ、いや…… やらいでかっ!」 sees 「……粘着走行、イキまーすwww」 【粘着走行とは、決して煽り運転ではない。あくまで自然を装い、並走し、 横に並び、背後にゆっくりとテイルトゥノーズする、seesの特殊運転スキル であるっ!】 sees 「……フィアット……マーズぅ……ふふふ、ふふふのふ……都合の許す限り、 じっくり観察させてもらうでぇ……へへへww」 だが――……変態たちの幸せな時間は、ものの5分と持たなかった……。 マーズ?『……火星に代わって折檻よっ』 そんな北川景子風セーラー戦士の声がseesの脳裏に流れた次の瞬間、キモい 上司の叫び声が耳元で轟いた。 課長 「――っ! seesっ、危ないど――っ! 信号《赤》だどぉ――っ!」 sees 「うわわわわっ!」 急ブレーキ……停止線大幅超え……フィアットは左折専用レーンの先に消え、 取り残されたバネットは、往来する車両たちの視線を一身に浴び、社名を晒し、 恥を……赤っ恥を……数分晒し続けた…… sees 「……わしゃ妖魔かっ! (反省はしている)」 何度目だ? こういう話……もう、ヤメよう…… 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.08.24
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 6月2日。午後14時――。 北海道函館本線森駅名物――イカめし弁当を噛む音を聞く。聞き続ける。その音に、川澄奈央人のイラ立ちは募った。10回、11回、12回……川澄はイカめしを噛み続けた。味はしなかった。13回、14回、15回……。クソっ……この僕が……。 曇り空の隙間から太陽光が漏れ射し、名鉄百貨店の屋上庭園のベンチに座る男2人をチラチラと照らしていた。ついさっき、偶然、名鉄百貨店で開催されていた駅弁フェアで岩渕がイカめし弁当を買ってきてくれた。「……いただきます」とだけ言い――ふたりして遅い昼食を食べた。簡単な情報交換は済ませていた。「……高瀬母娘は、なぜ、今さらお前を探して呼び出すようなマネを?」 弁当を食べ終えた岩渕が缶コーヒーの蓋を開けながら言うのが聞こえた。 16回、17回、18回……。そこまで咀嚼して、ようやくイカの味が口内に広がる。 カネの力でも解決できないことは多々、ある。そんなことはわかっている。過去との決別、もそのひとつだ。人は思い出を忘れても、記憶は脳に残っている。それが悪しきものであるならば、消し去りたいと思うのが人間だ。特に……ああいう新興企業のトップであれば、過去のスキャンダルは一掃したいと考えるのも……理解できる。おそらく、高瀬母娘は僕を挑発し、僕のミスを誘うのが目的だ。万が一、億を超えるカネを用意したとしても、その後……僕を警察に売るつもりなのだろう。『あのカネは犯罪によって集められたもの』とでも言って……落札できなかったとしても、その後、高瀬は僕のことを徹底的に追い詰めるつもりなのだろう(何せ、今日まで顔も名前もわからない状態だったのだから)。有り余るカネを使い……全国のホテルに網をしかけ……ネットで情報を集め……僕を、必ず、破滅させるのだろう……な。 最善策として最もベターなのは……軍門に下ること。奴隷になること。謝り、土下座し、慰謝料を払い、人生を捧げて尽くすこと――もしくは、逃げること。敗走と言ってもいい。高瀬とも、岩渕とも、《箱》とも縁を切り、海外にでも逃げることだ……。 何もかも諦めて? ……すべてを忘れたフリをして? ……逃げる、ただ、逃げるだけ? ……そんな人生は……僕じゃない。僕であってたまるものか。 噛み続けたイカめしを、ようやく飲み込む。「……私怨、スよ。私怨。恨み、つらみ、積年の怨念……みたいなものっス」と、笑いながら言った。 岩渕は缶コーヒーの中身を一口すすり――目元に幼さを残し、困ったかのように笑う川澄の顔を見た。 川澄は岩渕の目を見つめ返した。そして、ずっと思っていたことをついに言った。「岩渕さんはここまでです。オークションへは僕ひとりで行きます」『あっそ、じゃあな』と岩渕が言うわけがないことはわかっていた。そう。そんな自己犠牲的なことは言いたくなかった。しかし、言わないわけにはいかなかった。それも、川澄にとっては……。「今日のことはありがとうございました。この謝礼はまた後日……」 無表情であった岩渕の口元が一瞬、悔しそうに歪んだ。ゴクリと何かを飲み込む音が聞こえた。それからゆっくりとひとつ、息を吐いた。「……バカ言うな。乗りかかった船だぞ? 最後まで見届けさせろ」 岩渕の声は震えても上ずってもいなかった。一緒に仕事をしていた時のような、いつもと変わらぬ口調だった。「3億、5億なんて金額はハッタリだ。何かしらのトリックがあるハズだ。それに……《鍵》はお前が持っているんだろう? ……カネが用意できなくとも、中身を見せてもらうくらい可能なんじゃないか?」「あの連中の目的は僕の破滅です。僕が喜びそうな取引に応じるとは思えません。……いいですか? 《R》も、おそらくは大小様々な犯罪により成長を続けた企業です。特にあの高瀬瑠美……彼女は危険です。目的のためには手段を選ばないでしょう。《D》や姫様、アンタの弱点や負い目も、ヤツらは完全に把握しているハズです」 川澄は"必死"だった。岩渕の存在こそ、今の川澄にとってもっとも重要である可能性が高いのだから……。「それは、そうだが……。お前らしくないな……泣きでも入ったのか?」 "優しげな目"で岩渕を見つめ、まるで自分自身に言い聞かせるかのように川澄は言う。「……これは僕自身の問題です。たとえ最後、僕がどうなろうと、どんな結末を迎えようと岩渕さんにこれ以上の迷惑はかけられません。因果応報、それが僕の運命なら……僕はそれを歓迎します。父や、おそらくは母もそうしてきたように……僕は自分の過去や罪から逃げたりはしません……そうやって生きてきたつもりです……だから、もう、あなたの助けは借りません」「……カネのアテは、あるのか?」 岩渕は声を震わせながら言った。その様子に嘘は見えない。心から川澄を心配し、心配してくれているのに――自分の心の中には少しだけ……ほんの少しだけ――"罪悪感"が残った。申し訳ないな、とは思う。「それは言えません。ただ、可能性はゼロじゃない。僕は……とにかく僕を信じるだけのことですから……信じるだけ……信じるだけ……っスよ……」 川澄は強い口調で繰り返し、それから少し微笑んだ。「……まぁ、そんなに気にすることないですよ。別に命まで取られるワケじゃないですから。また明日、名駅前店に顔、見せますよ。結果は報告します……先輩……」 岩渕を口をつぐんだ。それ以上、言葉が思いつかないようだった。……たとえ岩渕が何を言ったとしても……この――僕の決断が変わることはない。「……じゃあ、今日はここまでですね。イカめし弁当、ご馳走様でした。じゃあ、"また"」 僕はひとり歩き出す。これから夜の9時までに、なんとかしてカネを工面する"努力"をしなければならない。当然、この会話と行動には理由がある。 だが……しかし……本当に、本当に――……自分で省みればみるほど――…… ……すごく、すごく、ものすごーく…… ――不愉快、だね。 川澄奈央人らしくない、こんな"最低な会話"を僕にさせ、こんな行動を僕にさせたこと……まったく、賞賛に値するよ。ハラ違い、とは言え僕の妹だけあるね。……拍手すら贈りたい気分だ。 だけどね……。――――― 岩渕は屋上庭園のベンチに座ったまま、ヒラヒラと手を振って立ち去る川澄の後ろ姿を見つめていた。寂しそうな雰囲気はなかった。ふたり同時に仕事を終え、簡単な別れの挨拶を互いに交わすかのような、そんなごくごく普通の別れだった。 解放はされたはずだった。川澄との仕事は終わったはずだった。だが、今も、何も、この仕事は解決してはいない。川澄と、ヤツの欲する《カーバンクルの箱》がどうなってしまうのかは……わからないままだ。それは本意ではなかったが、必要ないとヤツに言われれば同意するしかなかった。 岩渕は曇り空に隠れる太陽の明かりをじっと見つめた。少し疲れてはいたが、それは嫌な疲労ではなく……どこか、懐かしいものだった。 そう。 あの日――…… あの時――……川澄の運転する車の後部座席で、こんな空を、見た。『岩渕さん、僕と一緒に来ます? 僕と一緒に、新しい人生を始めませんか?』 かつて、岩渕は川澄にこんな言葉で誘われたことを思い出した。『生に未練はないのでしょう? なら、決まりですよね?』 打算もあるのかもしれない。すべてがヤツの計画なのかもしれない……けど、けれど。『……岩渕さん、あなたは、僕のために、泣いてくれますか?』 泣いていた。そうだ。あの時、川澄は……泣いていた。なぜかはわからない……なぜかはわからないけれど――あの時、確かに、川澄は涙を流していた。 それは岩渕が、生まれてはじめて見た男の涙だった。――――― オーク材の重厚なドアを開ける。 その微かな音に、高瀬順子が顔を上げた。母はCassinaのカウチソファの上で横になり、赤ワインの注がれたグラスを右手に持っていた。リビングテーブルの上のワインの瓶はほぼ空であり、ギャッベの絨毯の上には食べカスのカシューナッツが散乱している。「……クソッ……クソッ……クソがっ……」 ソファの上で体を起こした母は、歯を食いしばり、怒りと憎しみの入り交じった凄まじい形相で、娘である瑠美を睨みつけた。「……どいつも、こいつも、許せねえ……アタシを……コケにしやがって……」 敵意を剥き出しにした母の態度に関して、別に驚きはない。元々が尊大な性格である母は、その人生の大半を『媚びる、詫びる、へつらう』に使い続けたのだ。その影響なのか、私の成長と反比例して、母の精神は年々歪みを増していた……。別にどうでもいいが。「……あの外道を海に沈めてっ……あの腐れ女の顔を引き裂いてやりたいっ」 ……母の《R》での役職は確かに社長だが、実質――取引にも経営にも参加しないデク人形だ。テレビ番組やメディアに出演させるのはあくまで瑠美による演出であり、戦略のひとつだった。私はいわゆる……宰相、てやつだね。「畜生……殺してやるっ……殺してやるぞっ……畜生……」 私は母の持つ――ワイングラスを取り上げ、ついでにテーブルの上に置かれたワインの瓶を持ち上げて、キッチンへ運ぼうとする。瞬間、母がソファから腕を素早く伸ばして瑠美のスーツの裾を掴もうとする。瑠美は慌ててその場から離れる。「……お酒はほどほどにして。それよりも、今夜のことでも考えて頂戴」 そう言い残し、ワイングラスの残りと瓶の中身をキッチンに運んで流しに捨てる。そう。今夜は大事な取引も控えているのだ。川澄奈央人――兄と遊ぶのは、その余興に過ぎないのだから……。 兄が苦しみ、悶え、必死に哀願する姿でも見せれば、母の精神も少しは和らぐのかもしれない。もう何の価値も無い母親だが――もう少しだけ人形の役をしてもらわないと、今夜の取引に差し障る。「ほら、ソファで横にならないで、ベッドで寝よう? 夜になったら起こすから、ね?」 私はそう言って膝を屈し、母の肩を掴みかける。もちろん、母の健康状態など気にしてはいない。「……ねえ、瑠美」 母が言う。「瑠美……あのね」 母の口調が優しげに変わり、私は顔をのぞき込む。「……アタシは、ゴミじゃないよね?」 さらに母は媚びるかのように言う。「……アタシは『使えない女』じゃ、ないよね?」 だが―― 私は無視して母の肩を持ち上げる。寝室へ向かう。「……どうして? ……どうして? ……アタシの何が悪いの?」『……何もかも。無能で無知で無意識で、嫉妬深くて、嘘つきで、こざかしく、汚らわしく、おぞましい。美意識のカケラもない、最低の女。だから、捨てられる。だから、私も、いつかあなたを捨てる。これは摂理だ。これは真理だ。父がそうしたように……兄さんも、そう思うでしょう?』 別に口に出しても問題ないケド、一応、心の中でだけ呟いた。 ふと、思う。 私は『愛』というものの意味がわからない。 そんなものは父も母も教えてはくれなかった。 兄は『愛』というものが何なのか、知っているのだろうか? それとも……誰か……例えば――……岩渕さん? ……あなたなら、私に、『愛』を教えてくれる? ――――― 乗り込んだタクシーの後部座席で、川澄は流れる人々の群れ、形を変えるビルの影を見つめ続けていた。もちろん、カネを集めるための奔走は続けていた。しかし、いまだ億を超える金額は集まってはいない。――そもそも、"集まるとは思っていない"。 岩渕と別れた時のことをもう1度、思う。 川澄奈央人らしくない、こんな"最低な会話"を僕にさせ、こんな行動を僕にさせたこと……まったく、賞賛に値するよ。ハラ違い、とは言え僕の妹だけあるね。拍手すら贈りたい気分だ。 だけどね……最後に勝利するのは僕だ。 なぜかって? 僕は知っているからさ。 なにを? 最後に勝利するのは『善』でも『悪』でも『カネ』でもない……。 僕の考えが正しければ……必ず……。 僕は目を閉じる。頭の中で、もう1度考えを反芻する――。 すると――…… ……――邪悪で、いびつな笑みが自然とこぼれる……。――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 fに続きます。 本日のオススメ!!! Reol……さん。 Reolさん……。 去年?解散したReolのれをるさん。心機一転?でシンガーソングライターのReolに……。いや……ね? seesはあまりこの方存じ上げないのでアレなんですが……知人にこの人のことすっげー好きなヒトがいて……まぁ、ニコ動で知名度上げたアーティストの中じゃかなりの勝ち組でしょーからね……熱狂的ファンが多くいても納得……。 sees的には……う~ん……ハスキーな歌唱(酒やけ?)、世界観丸出しの歌詞、美意識高い系衣装……嫌いじゃあないけれど……アクが強いなw それまではサイコーだったのに、商業目的が先行したヤツって……本当、劣化も早いよね。例えば、まぁ……最近アニメやドラマのタイアップ楽曲作りまくってるあの野郎、とか?w れをる氏はそうではないと思いたいが……。 雑記 お疲れ様です。seesです。 熱いす。ツイでも日常でも何度もつぶやいてしまうほど、ゲキ熱い年です。今年。 外回りの仕事もするseesですが、いつまでも車の中に引きこもっていることなどできず、完全に野外での仕事やミーティングもあり、脳がクラクラ、熱中症寸前の毎日です。 体は丈夫なほうですが、内臓が寒暖差に弱く、常に風邪ひいたような感覚にも陥ります。最悪……。モチベーション下がりまくりで更新頻度激オチ君でもうしわけない……。 さて……今回は、というよりお話全体の構図がようやく判明できた回でした。あと3話程度の完結……ラストは衝撃の……、てのは無い。それぐらい、この短編は丁寧に考えたつもりです。90分の地上波ドラマでも放送可能な内容というのが、今回の基本姿勢でしたからw それにしても淡々とした文章……抑揚なくて、なんかゴメン。 それにしても……映画でも何でもそうですが、seesは『悪対悪』の構図の話って本当、好きだな~🎵 アメコミ的な勧善懲悪も好きだけど。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『ラーメンとサウナ』 同僚 「seesさん、今日アガったらラーメン行きましょう」 sees 「イイっすよ。どこ行きます? 『はなび』『武蔵』?」 同僚 「……くねくね」 sees 「はぁっ?(知らんわそんな店)」 同僚 「栄にあるラーメン屋『くねくね』です。知りません?」 sees 「……ウマイの? 『はなび』より?」 同僚 「いや……さすがにあんな有名店よりかは……しかしですね、ここのベトコン ラーメン(名古屋名物、飲み後の〆用ラーメン)はマジでうまいっス」の sees 「栄か……(どうせならショットバー行きたいが……)、ついでに『湯の城』 (名古屋ドーム近くにある温泉施設)行っていい?」 同僚 「オッケーす」 ……… ……… ……… くね 「へい、ベトコンラーメンチャーシューましまし、です」 sees 「……存じない方にも説明すると、ベトコンラーメンとはニンニクとトウガラシ を大量に使った台湾ラーメン。『くねくね』さんでは豚骨かミソかを選べる。 特にニンニク、ニラ、トウガラシは大量に使用されており、辛い。次郎系の ような背脂ごってりのものではなく、どちらかと言えば脂は控えめ。チャー シューをましましでスタミナアップ、夏バテ防止のラーメン。……見た目は かなりマズそうだが(笑) ちなみにベトコンとは、ベトナム解放戦線の意味の 他に『ベストコンディション』の意味もある(らしい)」 同僚 「……誰に何言ってんの?」 sees 「……さあね。……しかし、辛いな。ウマいけど、辛い……」 同僚 「ウマウマ、カラカラ、ズルズル……」 sees 「……(ラーメン大好き小泉さんじゃあないが、やっぱ《麺屋はなび》に行きた かったなぁ……ちなみにseesは塩ラーメンの味玉と炙りチャーシューのトッピング) がオススメです。行列を回避できるなら毎日食べれるウマさです。セントレア や桑名にも支店があるみたいなので、今度行ったら写真撮りますっ!)」 同僚 「早く食べないと麺がのびますよ~」 sees 「……『くねくね』さんか、何だかんだ……辛い、が、うまいね~」 ……… ……… ……… 同僚 「いや~サウナに入るの久しぶりです。……どれどれ、注意書きを見て、と…」 seesは知らなかった。 満腹状態でサウナに入るのは健康上オススメできないことを……。 seesは忘れていた。 自分でも思っていた以上に身体が疲労していたこと、ここまで同僚の運転で 案内され、自身の肉体には多少のアルコールが入っていたことも……。(大 好きなハイボール2杯、度数は約10度程度?) sees 「…………」 サウナに入って約10分後。 同僚 「そろそろ出ますか?」 sees 「……ん…………」 そして――……ふたりがすぐ近くの水風呂に浸かった次の瞬間――…… 事件が起きた。 sees 「ドボンッ! ………ブクブクブク.。o○.。o○(水風呂内でブラックアウト!)」 ワシの名を叫ぶ同僚、頬をビンタされるワシ。痛みで現世に戻るワシ……。 (同僚いわく、かなりやばい顔をしていたらしい……) 銭湯もサウナも暑い季節には最高やけど……使い方ひとつで変わるなぁ…… しみじみとそう思う、今日このごろです……反省。 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.08.11
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 6月2日。午後12時――。「すみません。ちょっと……ワケありだったみたいでして……」「本当ですね。さっきの母は……社長は、少し、怖かったです」 不安げな顔を浮かべる高瀬瑠美を隣に、岩渕は左手のTAG HEUERカレラの針を見つめて小さな舌打ちをした。針は12時を回っていた。 そう。川澄の話だけを信用し想像するならば、まさにあの《カーバンクル》を、盗んで逃げた犯人が目の前にいるのだ。良くも悪くも――自分と自分の父親の運命を変えた、強引に変えられてしまった相手と、今――まさに対峙しているのだ。「廊下ではなんですので……」と瑠美に通された社長室では、応接室のような絢爛さや豪華な室内装飾はない。だが、壁の上方にはいくつもの額縁が掲げられ、中身には様々な表彰状・各種許可証が見えていた。 風俗営業・大衆浴場・民間運輸・衛生管理――保健所関係各種の営業許可証……。掲げられた額縁はこまめに拭き清掃がされていて、ホコリや手アカはまったく見えない。他には関係企業からの表彰状がズラリと並ぶ……。『モンドセレクション』『グッドデザイン賞』『トラベラーズチョイス賞』『BEST SALES OF THE YEAR』……。 そう――。 ……どれもこれも、カネを積めば受賞できるものばかり……だな。 それらの表彰状の額縁を見て岩渕は、権威や権力を掴もうと必死にもがき、苦しみ、葛藤に涙を流す中年の女社長の姿を思い浮かべた。女性が故に苦しみ、女性が故に男に媚を売り、必要あらば犯罪にも手を染める――染めざるをえない事情……。『努力して、苦労しました』のアピール、か? 数億は軽く超えるだろう豪華な自宅に、並べられた無数の宝石たち……1度も使われることなく売りに出されるブランド品に、巨大な金庫に詰まった多額の現金……そして――集めたカネに、さらにカネを生ませるシステムの構築……岩渕が見たものは、岩渕が高瀬社長に見たものとは――そんな……汲めども尽きぬ欲の塊、そんなふうにも見えた。 普通の――まともな努力と苦労にはとても見えねえが……まぁいい。そこまでだ。俺の憶測や興味の範疇はそこで終わりだ。関係ない。この《R》がどういう企業でどういう末路を迎えるのかは……本当に、どうでもいいことだ。「失礼します……よろしければ、どうぞ」 ソファに座る岩渕の前にコーヒーが置かれ、「ありがとうございます」と軽く頷いた。「……あの、川澄、という方は……社長とどういったご関係なのでしょうか?」 向かいのソファに瑠美が座り、真剣な眼差しで岩渕を見つめた。「社長はこれまで、お客様に対してあんな不躾な……無礼な態度を取ったことはありません。例え――どんなに悪質な方だとしても、です」「川澄は……弊社でも優秀な人材でありまして……」「ええ。もちろん岩渕さんと《D》のことは信用しております。問題は……」 岩渕は息を飲んだ。「うちの社長の態度の悪さです。今回のことは、改めてお詫び申し上げます」「そんな……気にしないでください」 岩渕は瑠美に苦笑いして見せる。「今回のことは……こちらとしても、穏便に……」 そこまで言うと、ようやく安堵の表情が瑠美の顔に浮かんだ。そして、アッチ側の話し合いは大丈夫だろうか、と思った。「後ほど、社長にはキツく注意しておきます。《D》さんとは、今後とも仲良くさせていただきたいものですので……」「……一応、確認させていただきたいのですが……高瀬瑠美さんは、高瀬社長のお嬢様、ですか?」 岩渕は聞きながら、自身の口の中がカラカラに渇いていたことを知った。コーヒーを飲むためにカップを手に持つと、エアコンは効いているはずなのに、手の中は汗ばんで濡れている。「ええ。社長の順子は私の母です。父親とは私が幼い頃に別れたと聞いています。……お酒が好きで、母に暴力も……それから――母はシングルマザーとして働いて、今の《R》を創業しました。立派な母だと思います」「……酒……か」 瞬間、岩渕はかつて――自分が殺されかけた中年男の姿を思い浮かべた。「……笑っちゃう話があるんですけど――私、母と仕事のことで口論になると、ついつい父親の言葉を口にしちゃうんですよぉ~……」 幼く整った顔で岩渕を見つめて瑠美が笑った。「《仏に逢うては仏を殺せ。祖に逢うては祖を殺せ。羅漢に逢うては羅漢を殺せ。父母に逢うては父母を殺せ。親眷に逢うては親眷殺せ。始めて解脱を得ん》……だよ? ママ。いついかなる時でも冷静に、臨機応変に……て感じです……ふふふ……」 ――瞬間、《天使》のオーナーの声が頭の中に蘇る。『……見誤りましたね。常識に囚われるのは日本人の悪いクセです……臨済宗の言葉で、 《仏に逢うては仏を殺せ。祖に逢うては祖を殺せ。羅漢に逢うては羅漢を殺せ。父母に逢うては父母を殺せ。親眷に逢うては親眷殺せ。始めて解脱を得ん》、というのがあり ますが……どう思います? 倫理や常識に囚われることなく臨機応変に、ですよ』 強い吐き気とともに、ドス黒い負の感情が体の中いっぱいに溢れ出て、岩渕はパニックに陥りかけた。 ……最悪だ。嘘、だろう? この、クソ女……いや……コイツ……。「ん? ……ちょっと難しかったかな? 岩渕さぁん……うふふ……」 瑠美が子供っぽい仕草で微笑む。 それは岩渕の知る、川澄奈央人が微笑むそれと――似ていた。似すぎていた。 ――川澄と同族か? 親戚? いや……そんなことは問題じゃない。問題があるとすれば、ひとつだけ、たったひとつだけ注意すべきことがある。 ――あの野郎と同類か? 否か? ……もし、そうだとしたら――さっきまで考えていた感想はほぼすべて間違いだ。高瀬順子は娘の操り人形でしかない? 《R》の成長と発展はこいつの才能? 商才? そして、間違いなく、知っている。知っていやがった。俺と川澄が訪ねて来ることも、はじめからわかっていやがった。もしかすると、あのテレビ番組の出演依頼から? あの《カーバンクルの箱》を俺に見せたのも、わざとか? 俺を、川澄を釣るためのエサにした? しかし、なぜ? 疑惑が疑問を次々と呼び、ほんの少しだけ頭痛がしたが、どうすることもできなかった。今はただ、瑠美が普通の、一般的な思考の持ち主で、川澄とは何の関係もないことを祈るだけだった。「ねえ……岩渕さぁん」 唐突に、馴れ馴れしい口調で瑠美が聞いた。「そのスーツ、ステキですね? オーダーメイドですか? それとも――どこかの高級ブランドですか? 教えてくれません?」 息を弾ませて微笑む瑠美に、岩渕は微笑み返した。けれど――口元や眉がヒクヒクと引きつってしまうのは、どうしても止められなかった。止められるワケがなかった……。――――― 川澄と名乗った男は順子の正面のソファに脚を広げて座り、見下げるような視線を送る順子の姿をじっと見つめていた。「《カーバンクルの箱》が欲しいんでしょう? そのために来たのでしょう?」 男は答えなかった。 この男は何かに思案を巡らせ、意識を研ぎ澄ませているように見えた。考えている姿は石像のように硬く、およそプロの犯罪者のそれではなかった。にもかかわらず――順子は男の姿をつくづく――懐かしいと思った。 ゆすり、たかり、詐欺、窃盗、強盗、殺人、違法な取引……数えるのも無意味なくらい犯した、何度も何度も繰り返した犯罪行為の数々の――犯行前、順子のかつての恋人は、収集した膨大な資料の前でこういうふうに――石像のように――よく考え込んでいた。 もちろん、その恋人との婚姻関係はない。そんな話が出たこともない。だがおかげで、順子は犯罪組織との関係を疑われることなく生活ができた。 恋人の口から別れ話が出た時も、順子は黙って従った。そう。少なくとも、その時、その瞬間は――その男に対して別に恨みも憎しみも湧かなかった。幼い娘の養育費として多額の現金を受け取ってもいたし、娘の将来を考えると……しかたのない部分もあった。「…………ふぅ」 川澄の息遣いが聞こえる――それはかつての恋人の息子の息遣いではなく、かつて愛し愛された私に向けて吐き出すそれそのものだった。 ああ。順子は思った。 愛し、愛され? 違う。愛していたのは……私だけだった……。この男の父親は私を裏切り、私の娘をあっけなく捨てた。食べ終えたカップメンの容器をゴミ箱に捨てるように、何の考えも、何の躊躇も、何の情もなく――捨てやがった。「……あなたの父親、最後は酔っぱらってビルから落ちて死んだ、らしいわね――本当、あの外道らしい、最低な最後で……笑っちゃった……」 男は答えなかった。 金銭での取引話が事実上破綻している今、たぶん他の手を考えているのだろう。今はただ、どうやって《カーバンクルの箱》を奪えばいいか? それだけにすべての神経を注いでいるのかがわかる。だが順子は男の声が聞きたかった。殺したいほどに憎んだ男の子供が、自分に慈悲を乞う姿を想像し、見て、聞きたかった。「……実は、今夜、大須の地下オークションに《箱》を出品する予定なの」 そう言うと順子は、スーツのポケットからハンカチを取り出して口元を覆い、微笑んだ。それはほんの小さな笑みに過ぎなかったが、とたんに男の顔色が赤く火照り、奥歯を噛み締める音がした。「……なん、だと?」 仰天したかのような声を男が出した。「……どういうつもりだっ?」 順子は歓喜し、さらに言った。「主催者は華僑です」 その一言が、男の呼吸をさらに乱した。「華僑っ? ……中国に渡ったら、もう2度と……」 明らかに動揺した声に――私はさらに歓喜した。 いい気分だ。あの男と、あの女――……大勢の人間の前で私のことをバカにして、私のことを無能で無価値だと罵りやがった、あのクソ女……。ヤツら2人に対する積年の恨みを、ヤツら2人の息子に返している……そう思うと、最高に気分が良かった。「……華僑の大富豪、もしくは中国系の企業相手に、オークション勝負をしろと?」「……さすがに理解が早いわね。ちなみに上限は青天井。事前情報として、落札者には《R》との業務提携の優先権もつけてるわ……どいつもこいつも、目の色を変えて吊り上げるでしょうねえ……あなたに用意できる? 5億とか、10億とか……あははっ!」「……ムリですね。半日で億のカネは……不可能だ」 カン高くなりつつ声を必死に抑えながら、順子は笑った。「じゃあ、ムリですね。あなたの母親の形見は、どこぞの――でっぷりと太った中国人のクズ男に、ブッ壊されるまでオモチャにされるだけだからあっ、ねえ?」「…………」 静かな応接室に響く男の乱れた呼吸音をしばらく聞いてから、順子は満足して話を補足する。……逆上されても、つまらない。「運否天賦ですよ、こんなものはね。もしかすると、《カーバンクル》や《R》に興味を示さない方も多いでしょうから。だから……希望を捨てないで頂戴、ルールは守ります」 その言葉に男は拳を握りながら立ち上がり、順子の目を強く見つめた。その目は――本当に憎らしいほどに、コイツの母親の目にそっくりだった。「…………ハメられたってことか……この、僕が……」 深く、長い息を吐いて男が言った。「……アンタたち母娘とは面識があったはずなのに、テレビを見た時に思い出すことができなかった。……これは僕のミスだ。反省は、する。後悔も、少ししている……だけどね……」「……だけど?」「……《カーバンクルの箱》は僕のものだ。父親や母親のためじゃあない。そもそも、僕の中に母親の記憶はほとんどないからね。……アンタがオークションのルールを守り、それ以上の干渉をしないのであれば……僕も、強引な方法で《箱》を奪うことはしない」 今度は順子が沈黙した。「僕の両親にアンタが何をされたのはか想像がつく。だから……これは同情さ、アンタら母娘に対する憐れみの気持ちを持って……ルールに従ってやる。僕の家から《箱》を盗ったことも、くだらない自己満足のために僕を呼び出したことも……チャラにしてやる」 ……? ああ、そうか。この男は、誤解している。 しかたない。あの子には悪いけど、しかたがない。「……地下鉄大須観音駅、今夜9時よ。迎えを出すわ……それと――」 平静さを取り戻しつつあった川澄奈央人の顔を見つめて高瀬順子は笑った。「あなたの家から《箱》を盗んだのは私じゃなくて……。あと、オークションに《箱》を出品しようとして、その下準備と宣伝のために岩渕さん……《D》を呼んだのは……娘の瑠美よ。……わたしはただ、いろんなことを思い出しかけただけで――」 川澄は何も答えなかった。ただ――応接室を出て行く瞬間、誰にも聞こえないくらいの小さな声で、「……『妹』っていうのはもっと可愛げのある生き物だと思ってたけど、笑えないね……笑えない……」と呟いた。――――― ――そんなこと、考えてる? わかっちゃうんだよね……私……。 ところで、どうする? オークションに放るカネのアテはあるの? 澤社長に土下座でもして、《D》のカネを借りる? 伏見の姫様に何とかしてもらう? 自信があるんでしょ? 自称天才で、万能で、優秀なんでしょ? 駅弁ばっかり食べてないでさぁ、何とかしてよ……兄さん……。 そうそう――……。 わかんないのは、岩渕さん。 兄さん。何であんな普通の人を連れて来たの? あとで教えて。 教えてくれたなら、もうひとつの《カーバンクルの鍵》、あげちゃうね。 高瀬瑠美の顔に、無邪気に遊ぶ子供のような笑みが浮かぶ……。 ――その時、瑠美の胸の奥で、赤い光を放つ石が小さく揺れた……。――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 eに続きます。本日のオススメ!!! リョクシャカッ!!! (緑黄色社会)Vocal長屋晴子(ピンク)……透明かつ、愛らしい。キーボードpeppe(峰岸ぽい娘)……可愛らしい指先。 Guitar小林壱誓(特徴なし)……柔らかい演奏。Bass穴見真吾(モジャモジャ)……たぶん、音楽センスはこの中一番。 ツイでもブログでも何度か紹介させていただきましたが……やはり知名度は相変わらずの低空飛行。フェスの参加も良いですが、やはりメディア露出が……欲しい。かなりの実力があるだけに残念です。Mステにでも、一発、ねじ込んで欲しいけどなぁ……。 この際、アニメのタイアップでも良い気がするが……やはり必要なのは『個性』ですかね~? リョクシャカはぱっと見、『優等生』すぎるイメージがある感が……。 苦労されている……とは思いますよ。ホント……。 雑記 お疲れ様です。seesです。 はい。体調悪いです。ものもらい。風邪。寒暖差による体調不良債権……最悪す。 今回のお話はストーリーを進めるためのものと……ちょっと話が川澄氏によりすぎでしたね。ちょつとずつの微調整をしつつ、路線をまた戻す、他に寄り道する。繰り返しです。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『酷暑、酷暑、酷暑……そして……』 なぜ、私がこんなメにあわなければならないのだろう? seesは思った。 仕事も適当にし、遊びも適当にし、付き合いも適当にこなす私に……なぜ、天はこれほどの苦痛を与えるのだろう? マジで seesものもらい完全完治から数日、名古屋の地を――猛暑が襲った。あの、未曽有の大雨災害からの酷暑……生まれつき体が繊細かつピュアなseesは、「あっ」と言う間に体調を崩し、大好きな相撲も野球も見れないカラダになってもーたのだっ!! 営業をゼハゼハ叫びながらこなし、デスクワークを同僚にぶん投げ、残業を減らして薬を飲み、早めの就寝……なんてこった……。 世間には誘惑が満ちていた。 野球、相撲、ネット、読書、アニメ、映画……何とか気力をふりしぼり、行けたのは『ハン・ソロ』の映画のみ……畜生っ! 畜生っ! 味気ない野球と相撲のダイジェスト映像……届いたはいいが見れていないマンガ……触れも見れもできないネット関係……ブルレイに、まるでヘドロのように溜まるアニメたち……結局、見に行けなかった『メイズ・ランナー最終章』……クソッ……体がっ……動かないっ! 予定も大幅に狂った。ささしまにある109シネマ(丸山佳奈嬢が爆死した場所)で酒飲みまくりながら楽しもうと……プレミアシートで大暴れしてやろーと思ってたのにぃぃぃぃぃぃっ!! はぁはぁ……ぜーぜー 次長 「――で、結局、具体的に、お前、なんなん? なんやの?」 sees 「……寒暖差による体調不良……風邪のような……」 次長 「早めの夏バテやろ? カス。氷やらコーラやらファンタばっか飲んでるからや」 sees 「いや~……んっん……やはり人通りの多い場所とか行くと……」 次長 「――言い訳すなっ! たわけがっ! 殺すぞっ!」 sees 「……うっううぅぅ」 最悪や。この夏は最悪や。なんとか、浅めのキズで逃げ切らねば……。 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.07.22
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 6月2日。午前10時――。 フィアットのスピーカーから、『愛のダ・カーポ』が流れている。 僕は右手の親指で自分の唇をさわり、膝の上には現金の詰まったカーボンのアタッシュケースを載せ、サイドミラーに映る後続車や、窓の外の名古屋の市街地や、その中を歩く人々の群れを見つめている。そして、左ハンドルの運転席――僕の隣には岩渕が真剣な顔つきで、器用に片手でハンドルを握っている。 ついさっき、岩渕が高瀬社長のオフィスにアポイントを取り、「……11時に会ってくれるそうだ。……個人的な商談、ということも伝えたぞ」と言った。僕は満面の笑みで拍手をし、「いや~、素晴らしいです。さすがは岩渕さん」とわざとらしく喜んだ、だけだ。せっかくだし……最低限の仕事はしてもらわないと。「……見せ金は持ってんのか?」 岩渕が少しだけキツイ口調で聞いた。だから僕は微笑んで言う。「見せ金? そんな失礼なマネしませんよ。……名古屋銀行に寄ってください。外貨預金をおろします」 少しだけ考えてから、言う。「……5000万ほど」 岩渕は僕の目をじっと見つめたあと、無言で着替えを始めた。 フィアットに装備されたAlpineのスピーカーから、『炎のたからもの』が流れているのが聞こえる。 ……カリオストロの城、か。岩渕さん……本当にルパン三世、好きですねえ……。 目を閉じる。クラリス姫を救い助けようと、カリオストロ伯爵に戦いを挑むルパンの心情を想い――思う。 思うのは、『たからもの』を奪われた哀れな男とその息子――……。 ……そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。「……父さん、何しているの?」 そう。自宅に戻った僕に一瞥もすることなく、一心不乱に、父は母の名を叫び散らし、家の壁やドアや家具を破壊し尽くしていた。何が原因かはすぐに察しがついた。 ――畜生っ! 畜生っ! アイツの……アイツの《カーバンクル》が……アイツの、形見が……クソッ! クソがっ! 怒鳴るように叫びながら、父は両手の拳を握り締めた。 そう。 盗まれたのだ。何者かが家に侵入し、亡くなった母の形見の《カーバンクルの箱》を盗み出し……それに気がついた父は、狂ったかのように家で暴れた。今――思えばあの頃から……だったのかな? 父親の人間性が壊れてしまったのは。 ――殺してやるっ! 殺してやるぞっ! 大声で叫びながら、父は狭いマンションの中で暴れまくった。台所の鍋やフライパンを叩き落とし、テレビをテレビ台ごとひっくり返し、テーブルやイスを窓ガラスに向けて放り投げ、ドアを拳で力いっぱいに殴り続け、冷蔵庫や洗濯機や掃除機を引き倒し、力任せに襖を蹴り倒し、抜けるほど強く床の板を踏み鳴らした。 目茶苦茶になったそんな家の中で、鬼のような形相に変わった父に対し――なおも暴れ続ける父に対し――……僕は聞いた。聞いてみずにはいられなかった。「《カーバンクルの箱》の中には、何が入っているの?」 声を上げた僕と目が合った瞬間、父は叫んだり暴れるのをやめた。息を喘がせ、体を震わせ、呟くように父は教えてくれた。顔を歪めるようにして笑いながら……。――――― ――午前11時。 川澄と一緒に待機していた――名古屋市中区にあるホテルグループ《R》本社ビルの応接室に入ってきたのは、シックな夏物のスーツを着た中年女性と、スカートスーツ姿の髪の長い若い女性だ。ふたりとも面識はあった。テレビ番組の打ち合わせの際、名刺交換程度の挨拶は済ませている。中年女性は高瀬順子社長。若い女性は社長の娘で……名前は高瀬瑠美……《R》での役職は不明だが……。「お忙しいところをすみません。本日は突然の訪問を許していただき……」 まだ幼さを残した瑠美の顔と、気の強そうな笑みを浮かべる社長の顔を交互に見つめ、穏やかな口調で岩渕は言う。「先日は大変お世話になりました、岩渕さん。今日は……例の……《赤い宝石箱》を、その……譲渡してもらいたい……というお話で……」 社長に向けて喋ったつもりなのに、幼く可愛らしい顔をした娘が答えた。おそらく歳は京子と同じくらいなのかもしれない。錦や栄の街を歩けば、何人ものスカウトに声をかけられることだろう。「はい。こちら――私の同僚の川澄がですね。そちらの《箱》をいたく気に入り……」 岩渕は説明しながら、隣に座る川澄の様子を探る。『同僚』は岩渕のアドリブだ。まぁこの際だ、多少の嘘もやむを得ない。「……川澄、と申します。はじめまし……て」 抑揚がない口調で川澄が話し出す。……違和感がある。何かを心の中で懸命に抑え込んでいるかのような……そんな口調だった。「……あの――どこかで、お会いしたこと、ありませんでした、か?」「いいえ。《D》の方々とは、岩渕さん以外、お会いしたことはありません」 川澄の言葉に瑠美が1度だけ顔を振る。社長のほうは目線をわずかに下げただけだ。 思い返せば――社長の微笑みは最初だけで、ソファに座ってからはずっと、川澄の挙動を無表情に見つめている……。「……いかがでしょうか? 相応の金額を川澄は現金で支払うと申しておりますが……」 岩渕は社長に聞くが、社長は岩渕の顔を見ようともしない。瑠美は眉間にシワを寄せ、母でもある社長に、「社長、いかがいたしますか?」と問いた。だが、社長は相変わらず岩渕の隣の男を見つめるばかりで何も喋らない。「あの……すみません……社長……?」 社長の肩に手を当てて、困惑げに瑠美が言う。彼女が体を動かした瞬間、ストレートの髪の隙間から甘い香りが漂って来る。「……ご希望の金額があれば、可能な限り融通できると、川澄も申しております。その他にも、《D》名駅前店ご来店の際には、VIP待遇での査定をお約束いたしますが……」 これも、社長は無言のままで、代わりに瑠美が答える。「……すみません、今日は何だか、社長の具合が悪いみたいで……お客様が来ているのに……こんな……こういう態度で……すみません……」「いーえー……。とんでもなーい……社長は何か、体調でも悪く?」 川澄が口を開いて瑠美に言う。だがもちろん、社長は何も答えない。今度は瑠美も答えない。ただ、困ったかのように岩渕と川澄と社長を順に見つめるだけだ。 つまりは……こいつら、知り合いかよ。 猛烈にイヤな予感は、これか。聞いてねえぞ……クソッ。 岩渕も困ったかのような顔をして、少しだけ笑ったフリをみせる。「……どうでしょう。当事者の方々だけで少しお話をされては? ……えー、瑠美さん。私たちは少し外に出ましょうか? 少ししたら戻りますので……」 ……露払いなんて俺のガラじゃあないんだが、しかたない。ここでの俺の出番はもうなさそうだ……。 ああ……俺の休日が……タダ働きにならなきゃいいが……。――――― そうそう――……。 記憶の断片で、父が、僕に教えてくれたことは――……。 「――《カーバンクルの箱》の中身は、お前自身だ」 あの時の父の言葉の意味は、今もまったくわからない。ただひとつ、ただひとつ今、 思うことがあるとすれば……そうだな。 僕は僕自身を取り戻すため――コイツに、コイツらに奪われた僕を奪い返すため――僕は来た。これは運命だ。これは宿命なのだ。《カーバンクル》が昔も、今も、奪われずにずっと手元に置いてあれば、父や、僕や、もしかしたら世界中の人々の未来は変わっていたのかもしれないのだ……。 もう1度、考える。『僕は僕自身を取り戻す』 いいね。いい響きだ。何が何でも成し遂げたくなる。いや……少し、違うな。 悔しいのだ。憎らしいのだ。僕が知らない僕自身が、自由を奪われて閉じ込められている。その事実は、その事実だけは、絶対にあってはならない。絶対だっ! 自由と欲望は、僕にとってすべてなのだ。――――― 岩渕と瑠美が応接室から出て行くと、それまで無表情であった高瀬順子社長の顔に感情が宿った。それは怒りと、憎しみと、蔑みが混ざり合ったような、下卑た中年女の顔だった。「……生きてやがったのか……ゴロツキ……顔と名前を変えても、雰囲気はあの外道と同じだね……通報してやろうか?」「……上等だよ」 川澄奈央人の顔に―― もう自分の本当の顔と名前も忘れてしまった男の顔に―― もう誰からも、自分の本当の顔と名前を教えてもらえない男の顔に―― 無邪気に遊ぶ子供のような笑みが浮かぶ……。 ――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 dに続きます。 本日のオススメ!!! ナナヲアカリさん。 seesのブログでは何度も紹介させていただいておりますが……先日、動画で衝撃の…「YouTuber、はじめてみました」発言……。誠に勝手ながら……心配しかありません。 何かとんでもないことやらかさないか……できればヤメて欲しい……。 えー……似た人なら、川本真琴サン? 本当、ハマる人なので……どぞ。 雑記 お疲れ様です。seesです。 仕事……仕事……薄給……休みは寝てオワリ……。音声認識でPCに打ち込み、してみようかな? と本気で考えてますが……やはり誤字が多い。本当――最近は体が動かんぜよ。また風呂屋に行こっと。 某大手小説投稿サイトで既存の品を投稿してみたが……ダメかも。投稿者は世間知らずの子供たちばかり……小生、ついていけません💦(所詮はフォロワー間同士で☆のやりとりするだけのままごと)……いろいろ考えさせられるseesですw さて、今回のお話は……ノーコメント。特筆すべきコトはないです。お話が大きく動くのは次回からですね……。短くてゴメンゴ。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『飛翔する野口英世サンと、眠る石川遼クン』 1日目。 少しだけ左まぶたが熱い。 2日目。 何となく……左まぶたが重い。 3日目。 鏡を凝視。左まぶたに腫れモノを確認。衝撃、走る。放置。 4日目 次長に軽く叱責され――同僚たちに「普段と変わらんやん」などとからかわれる。 5日目。 休日。某、名駅前眼科クリニックへ。初診料2200円。薬代2500円。一週間分。 ものもらい、確定。凹む ちなみにブログ更新と映画鑑賞の予定だった。全放棄。何をとち狂ったのか、6980円のサングラス購入。セール品の石川遼くんモデルの国産メガネ。似合わない 6日目。 社内での強制業務。朝から恥ずかしい思いをする。ニヤニヤされながら「エンガチョ」と罵られる。後輩女性(ブリ子)から「えぇ~手術(整形)でまぶた切り取っちゃえばイイのに~🎵」と笑えない天然ジョークを食らう。 7日目。 ここにきてようやく、改善の兆し しかし……しかし、まぁ……薬はまだまだ残っている……。 さようなら、幾多の星空へ散った野口サンたち。 さようなら、クローゼットの奥で眠る遼クン。 ……最低な1週間だったな……最悪や。風邪のほうがまだ良かった……。 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.07.06
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。 ――――― 6月2日――。 ありがとう、岩渕さん。本当に、ありがとう。 僕は本当に感謝している。あなたのおかげで、僕は《カーバンクル》と再会できる。もう一度、アレをこの手に取り戻せる。お姫様が《菊花紋章――十四裏菊》を取り戻したように、僕も、《彼》とまた、再会できる。 僕はそう思いながらBALLYの靴を脱ぎ、困った顔をする岩渕さんを見つめた。 ――そしてまた、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていた のに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。「ねえ、僕の兄さんとか、弟とか、妹って、どこに行ったの?」 焼酎をビンごとラッパ飲みし、札束のカネを指で丁寧に数える短髪の男に、幼い僕はそう言って話しかけた。……あれは7歳か、8歳のころ? よくわからないな。小さな体。サラリとした髪。細い手足。人懐こそうな、それでいてどこか冷たく、落ち着いた雰囲気の細い目をしている。子供用のジーンズに無地のTシャツ。ジーンズもシャツもスニーカーもピカピカで、汚れひとつなかった。 ――どうでもいいな。お前さえおりゃええワ。 男がそう答えると、僕は「何で?」と言って笑った。おかしかったから。 数え終えた札束を机に置き、ニヤニヤと笑いながら新しい札束を手に取り、また数え始め――僕の顔を見つめる。「何で僕だけなの? みんな、どこに行ったの?」 ――アイツらと、アイツらの母親は使えない。何の役にも立たない。だから、捨てた。「僕と……僕の母さんは?」 ――お前は特別だ。「特別……? 何で……?」 ――……一度しか言わないから、よく聞けよ……。 記憶の断片には他に誰もいない。父親の男と、幼い僕が会話する姿だけ。僕が頷くと、父親の男はニヤリと微笑んだ。僕も微笑んだ。父が、僕に言ってくれたことは――……。―――――「お邪魔しまーす」 ドアを開いたトレーナー姿の岩渕に、昔の同僚、川澄奈央人は笑いかけて靴を脱いだ。キョロキョロとわざとらしく家の中をのぞき込むフリをする。ポールスミスのスーツ。BALLYの靴。腕時計はHUBLOTの……ビック・バンか。左手にはカーボンのアタッシュケースを持っている。指や首にアクセサリーはつけておらず、スーツや靴に汚れは一切ついていない。髪は綺麗に整えられ、髭も剃られている。「ちょっとしたお願いがあるんです」 川澄はそう言ってリビングのソファに腰を下ろした。「……早朝にいきなり来て、何言ってやがる……」 岩渕は舌を打って唇を尖らせた。……冗談だろ。勘弁してくれ。「このウチ、他に誰かいます? 例えば――……」「やめろ。俺たちはそんな関係じゃない。……そういう生活はヤメたんだ」「……以前の岩渕さんなら、しょっちゅうキャバ嬢とか連れ込んでたんですけどねえ……」「……今すぐ、叩き出されたいのか?」「ごめんなさーい」 岩渕はレギュラーのコーヒーを淹れながら、嬉々としてリビングを眺める川渕の背中に目をやる。その背中に隠された狂気や性質のことを考える。……カネのために《D》や俺を裏切りかけたこと……自分の自由のために父親を裏切り、見殺しにしたこと……俺を仲間に誘い、俺を殺そうとし、俺を見逃した……最後は《D》に協力し、父親の財と情報と知識を担保に澤社長と示談成立……出自不明……経歴詐称……神出鬼没……。 確実に犯罪者……父親も、おそらくは母親も、重度軽度関係なく罪人……さらにこの男は、罪の意識なんて感覚はこれっぽっちもなく、血も涙もないクズ。自分のことを棚にあげても、そう思う。そう思わざるをえないヤツ……。 ……だが、俺は、どうしても……コイツが……嫌いになれそうにない……。 岩渕は食器棚からコーヒーカップを2セットと、黒糖の入った瓶と、クリープの瓶を出してソファの前のテーブルに並べる。この男が砂糖とクリープを使うかは覚えていないが、とりあえず出しておく。コポコポとサーバーに落ちるコーヒーをカップに注ぐ。「コーヒーでいいか?」などとは聞いていない。拒否するのなら、別にいい。俺が飲むだけだ。「広くて綺麗で家具が少なくて、岩渕さんらしい家ですねえ」部屋の中を見回しながら川澄が言う。「家賃は20万てとこですか? 大変じゃないですか?」「……《D》の不動産投資の物件だ。一部の人間だけだが、社員割引で住んでいる」「社割? いいっすね」「……川澄、お前、何しに来た?」 そうだ。俺が気にするべきことはコイツの来訪目的だ。「……単刀直入に申しますと――」 まるで道端に転がる石を拾い上げるかのような――そんなごくごく当たり前の口調で、川澄は話し始めた。爽やかに微笑み、薄ら笑いをし、ふざけながら――岩渕を誘った。無理難題ではない……無理難題ではないが――そう。 川澄という男は単なる自信過剰か、それとも単なる狂人か。そんな男の頼みを断るか、否か――……。 まただ。また、俺は決断を迫られている。そんな気がした。――――― 熱いコーヒーカップを両手で持ちながら、僕は落ち着いた口調で言った。「――先日、岩渕さんがテレビ番組で共演した、ホテルグループ《R》の高瀬順子社長の宝石コレクションのひとつ……《カーバンクルの箱》を僕に譲渡してもらうよう、取引を代行してもらえませんか?」 言いながら、僕はそんな自分を不思議に思った。これまでの人生で、僕は誰かを頼ったりしたことはほとんどなかったから。 目の前にいる男は、僕を訝しげに見つめていた。だが、僕の話を真摯に聞いてくれてはいる。僕は、それが嬉しかった。「……信じてはくれないかもしれませんが……岩渕さんも見た、あの赤を基調とした宝石54個で形成された箱……あれは元々、父が母に贈った唯一の品なんです……だからアレは……僕のものなんです……」 こんなことは他人に、まして自分がかつて殺そうとした相手に話すべきことではないとわかっていた。けれど、やめられなかった。まるで心に巣食っていた蜘蛛の糸をほどいて解くかのように、僕は話を続けた。「……どんな経緯かは僕にもわかりませんが……父は収集した赤色系の宝石たちを箱の形に埋め込んで造らせた……母はそれをとても気に入っていた、と思います……僕がまだ小さかった頃に母は病で他界しましたが……いつしか――《箱》は行方知れずになり、僕も正直、忘れかけていました……」 嘘ではない。 そう。少なくとも今、この瞬間だけは、彼に嘘を言いたくないと思う。「……《カーバンクル》? 高瀬社長はアレを《赤い宝石箱》と呼んでいたが……」「ふっ」あまりにも陳腐なネーミングに、僕はつい鼻で笑ってしまう。「……カーバンクル、ラテン語で《赤い宝石》を意味します。他にも《赤い石を持つ獣》の意味もありますね」 説明しているうちに、また僕の心臓が高鳴った。冷静でいられない自分を見るのは、本当に久しぶりのことだった。「……その《カーバンクル》がお前のものだという証拠は?」 当然だ。当然の質問だ。当然――僕はその問いに応えられる。「はい。もちろんありますよ。……ええっと、どこにあったかな?」 そう言うと、僕は持参したカーボンのアタッシュケースからひとつの《鍵》を取り出した。僕はそれを指でつまみ、岩渕の眼前に見せつけた。「……こいつ、軸は象牙……? ブレード部分の先端は……ルビーかっ? マジかよ……3カラット以上はあるな……」 それから、岩渕は両目を見開いたまま呆然とした。頭の中で思案を巡らせているようだけど……どうやら、少しは信用してもらったようだ。まっ、本当は無条件に信用して欲しかったけど。 ぐったりとソファにもたれたまま、岩渕が口を開いた。「《鍵》って……あれ、密閉された箱、じゃないのか?」 実際に手に取り、見たクセに、岩渕は何もわかっていない。……まぁ、それも無理はないのだけど。「……箱根の寄木細工の技術を応用した造りらしいです。この《鍵》がなければ、あの《カーバンクル》の真の姿は拝めません。……番組での査定価格は900万でしたっけ?流石にアレをバラす勇気は、あの社長も持ち合わせていないでしょうからね……」 しばらくの沈黙があった。けれど、それは重苦しい沈黙ではなく、何かが氷解するような、優しくて、嬉しくもなる沈黙だった。 沈黙が続くうちに、僕は自身の胸の内が少しだけ軽くなっていくのを感じた。「川澄……」 やがて、岩渕が僕の名を呼んだ。「なんです?」「……面白そうだな。俺への報酬は?」 岩渕が楽しそうに微笑んで聞き、僕ももちろん、笑って言う。「僕が欲しいのは《カーバンクルの箱》の中身だけです。外面の石も鍵も全部、先輩にあげますよ」「了解……それと、もうひとつ――」 岩渕はそう言って立ち上がった。顔からは笑みが消えている。「お前、まだ俺を殺したいと、思うか?」「……あの時の自殺願望は消えましたか? 残っているのなら、今すぐにでも殺してさしあげますよ?」「……勘弁してくれ……マジで……」「冗談スよ……」 僕が言うと、岩渕はほっとしたように微笑んだ。僕も微笑む。そう――最初の問題はクリアした。 僕は立ち上がりながら、岩渕にも聞こえないくらいの小さな声で呟く。「……アンタは僕の持っていないものを持っている……アンタを生かす理由はそれだけさ……」 それに……――――……《鍵》はひとつではない。 それの所在が確認できないことには、あまりムチャなことはできないしね……。――――― そうそう――……。 記憶の断片で、父が、僕に言ってくれたことは――……。 「――俺が本当に愛していたのは、お前の母親だけだからだ」 あの時の父の言葉の意味は、今もまったくわからない。ただひとつ、ただひとつ今、思うことがあるとすれば……そうだな。 どこぞの社長か、金持ちか、資産家だか何だか知らねえが……僕の《カーバンクル》を奪った罪は重い。何も知らなかった、としてもだ。許されることではない。決してだ。 大きな罪には、盛大な罰を与えなければなりませんねえ……。 そんな権利、お前にはない? いいや――だって、僕は天才なんだよ? 優秀なんだよ? そんな権利、あるに決まっているじゃあないか。 川澄奈央人は強く思った。――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 cに続きます。 本日のオススメ!!! SHISHAMOさん。 SHISHAMO。 左から松岡 彩(まつおか あや)。担当はベース。 宮崎 朝子(みやざき あさこ)。担当はボーカル・ギター。 吉川 美冴貴(よしかわ みさき)担当はドラム。リーダー。 女性バンドらしい女性目線の歌詞大半。恋愛だったり仕事だったり、日常的な生活を歌詞にしたイメージ。キンキンシャンシャン鳴らすだけの野郎バンドとは違い、ドラム音がやや強く、ボーカルを食い気味。ベースはベースらしく一歩引いた演奏で好感。 うむむ――aikoに若干似た歌い方をする傾向があるかも……若いし。 しかし……何ていうのかな……飽きないんだよね、この人たち。 バリエーションが豊富で引き出しが多いワ。リスナーに対して自分たちに「飽き」が来ないように工夫している感じ。ヨソからいろんなものオマージュして使っている感は残るけど、そのたびに新鮮な気分になれる。……一度、聞いてみてください。 SHISHAMO、のCDす。まぁ……一応。 雑記 お疲れ様です。seesです。 更新遅くてすんませ~ん。最近、勤める会社のオフィスや玄関の改装(改築?)工事が決定しまして……seesはいろんなところに出張させられてる次第でありんす。元々営業メインの仕事ではありますが、こう他県に行かされると……流石に疲れる まぁ、また落ち着いたら更新も頻度あげられると思うので、あしからず。 今回のお話は、ざっくりと今後の流れを説明する回に終始しました。本格的に動くのは、Cパート~ですね。川澄氏の性格を掘り下げるのは疲れる……まぁ、よく海外映画やドラマで散見される、天才型犯罪者のそれを踏襲しています。天使の面、悪魔の面、ふたつを交互に使い、自身の精神を維持……多面性のある性格ではあるけれど、別に多重人格者でもない、そんな性格です(?) 最終回までには、どうなることやらwww 文節の作りは、はい、甘いです。適当です。手抜きです。 だから……ごめん。変な表現多用しているけど、深い意味はないからw時間的余裕があればもう少しなんとかなったかもだけど……。 しかし……川澄氏、出ずっぱり。淡々としていて、正直スピード感はない。新キャラ出して、ペース配分考えよう……っと。 次回は移動――行動――新キャラ登場、の流れ予定。よろしくっす。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『嬉しい?』 (手抜き) sees 「え~、ついにヤッちゃったの?」 男友 「……買っちゃって、飼っちゃったミニチュアダックス……しかも2人」 sees 「あ゛ー……ええな~ペット飼うのって……」 男友 「いっぴー(seesのあだ名)は、猫飼いたいんだっけ?」 いっぴー 「……いや~やっぱ世話とか餌とか、大変じゃね?」 男友 「そりゃそうやで~……ワンコ2人なんて初めてやし……」 いっぴー 「白騎士さん(男友の彼女、同棲中)も忙しそうやもんね……」 男友 「いっぴーさ、いっぺんウチ来なよ……ウチの子紹介するわ~」 いっぴー 「マジで? 行く行くぅぅ✌('ω'✌ )三~」 …… …… …… 白騎士 「あらら、いっぴーじゃん。久しぶりぶり~~」 いつぴー 「白騎士さん、おつかれ~…………」 ポポロクロイスの白騎士さんに似た、大学同期の女に案内され、seesは リビングに腰を下ろすと―― wダックス 「キャンッ! キャンッ!」 2人のカワイイ子犬が突進してきた。 いっぴー 「っ! やっべっ! カワエエッ!」 wダックス「キャイ~ン……ク~ン……ペロペロレロレロ……」 seesの腕や肩や腹に縋りついて離れなくてジャレる2人を見て、思わず seesもニンマリ。ナデナデナデナデ 男友 「いや~…お客さんなんて珍しいから2人とも興奮してるね~ww」 白騎士 「ホント~すげー嬉しそう……」 いっぴー 「いやはや……ちょっと驚いたけど、イヌ様もエエなー」 イヌ様たちと抱き合い、じゃれ合い、舐めあい、時間も忘れて遊んでいる と――……ふと――…… イオンで買ったコシノヒロコのスーツに違和感が……。3000円もした ミチコロンドンのワイシャツに何か……生温かい……何か液体が……。 wタックス「シャァーー…シャアーー……プルプルいっぴーさん大好きだワン!!」 シャワワワワ……シャワワワワ……。 いっぴー 「…………ま、さ、か」 白騎士 「あー……やっちゃったかぁ(*‘∀‘)テヘペロ」 男友 「ウレションだね。いっぴー……ご愁傷様」 いっぴー 「NOOOOOOOOOOOOッ!!! NOO、NOO、NOOOOOOOooooん…」 半笑いでウェットティッシュを用意する男友。 苦笑いでwダックスをゲージに入れる白騎士。そして、 半泣きでスーツとシャツをウェットティッシュで拭くsees。 まー……何だな……それでも、まぁ、やっぱりカワイイね。子犬って。 ……ペット欲しいな。 最近よくそう思う、seesでした。 🐩了🐕 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。 人気ブログランキング
2018.06.14
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 《D》については短編の02と03を参照。番外としてはこちらから。――――― 6月1日――。 群馬県高崎駅で購入した弁当の袋を片手に下げて、高崎駅近くのルートイン高崎駅西口のフロントでチェックインをする。もちろん、1泊だ。料金を現金で支払う。急ぐ心を懸命に抑えて、真っすぐに部屋へ向かう。 弁当の袋をテーブルに置き、ポール・スミスのスーツのジャケットをハンガーに掛け、グッチのネクタイを緩め、テレビの電源をそっと入れる。 ……良かった。放送には間に合いそうだ。 名古屋市の金持ちを特集したバラエティ番組が見える。リポーターらしき若い女と、資産家らしき年配の女、そして――ひとりの男が見える。クリスタルのシャンデリアの下、海外の絵画や美術品が並ぶ中――絢爛豪華な一室で、リポーターの女が楽しそうにはしゃいでいるのが見える。画面の奥のガラスケースの前では、グレーのスーツを着た男が嘘くさい笑みを浮かべている。 男がズームアップされる(正しくは、男が見ていたガラスケースなのだけど)。少し顔色が悪いですね……緊張でもしてますか? 高崎駅名物、だるま弁当の箱を開け――僕は唇をなめながら、笑う。 僕? 僕のことなんてどうでもいい。今、テレビの液晶画面に映るのは、僕ではなく、彼なのだから。 彼――もちろん、僕は彼のことを知っている。 彼の名は岩渕誠、32歳。岩渕さんは今、宝石・貴金属鑑定士としてテレビ局に出演依頼され、名古屋の著名な資産家女性の宝石コレクションの数々を――適当に見学し、適当な値段をつける仕事をしているところだ。白い手袋をはめ、わざとらしく驚いたり、冗談を言ったり、それなりに役を演じている風に見える。 今度は資産家女性の顔がズームアップされる。あらら……有名ホテルチェーンの女性社長は満面の笑みを浮かべている。『自分は人生の成功者』と言わんばかりの表情は、確かに……テレビ番組向きなのかもしれない。だけど、しかしまぁ……笑ってしまう。本当、あまりにも知性と品性に欠けていて。 次に、若い女のリポーターがズームアップされる。「岩渕さんっ! これはこれはっ、何ですか? いくらぐらいしそうですかっ?」 女はカン高い声で岩渕を呼び、興奮した様子でガラスケースの中を指でさす。岩渕は微笑んではいる。だが……少しだけ、ほんの少しだけ、目を見開いた。何です? 何を見たんです? 僕にも早く教えてくださいよ。 僕の心臓が高鳴り始めたのがわかる。岩渕と同じ気持ちになったのがわかる。そんな岩渕を嬉しそうに見つめ、僕は弁当を食う箸を止めた。 岩渕がガラスケースの扉を開ける。そこへ、両手を差し伸べて、持ち上げる。それは……――《箱》だった。 ……まさか……いや、本当に、あの《箱》なのか……? テレビの中の岩渕はそっと《箱》を取り出して、フェルトの盆の上に置いた。《箱》。そう。それはルービック・キューブにとても良く似た大きさと形をし、正方形の1面にはルービック・キューブのパズルような9個の赤い宝石が埋め込まれていた。9個の石はそれぞれが別の種類の宝石であるものの、カッティングは全てアッシャー(正四方形)の形状をしている。 石の種類はルビー、ガーネット、パイロープ、コーラル、ジャスパー、スピネル、コランダム、ベリル、カーネリアンの9種9石。美しい。どの石も1級品だろう。 台座として使われている6面の板はショール(黒いトルマリン)だ。 ……知っている。 ……僕は、この《箱》を知っているっ! 3~6カラットの宝石54個(9個×6面)が埋め込まれたトルマリンの《箱》を。 ――瞬間、僕の脳裏を遠い記憶の断片が横切った。決して忘れ得ぬ何か……遠い遠い昔に消えてしまったはずの何か、失ってしまったはずの何かを……大切だと思っていたのに、捨ててしまった何かを……僕は、思い出した。「カーバンクル……」 赤き宝玉を額に持つ幻の獣の名を――……僕はそっと呟いた。「カーバンクルの箱……」 かつてその《箱》に命名された名を――……僕はそっと呟いた。 そして――駅弁と旅が好きで全国を放浪する、どこかの浮浪者からカネで買った名前を名乗る、犯罪者で、狡猾で、意地悪で、手先が器用で、頭の回転が良くて、あらゆる知識が深くて、賢くて、それらを自分で完全に理解でき――だからこそ、だからこそ自分の欲望を叶えるのが大好きな、とてもとても大好きな――…… ……――かつて、《D》という企業に勤めていた、川澄奈央人は――「……とりあえず、話を聞きに行きますか……岩渕さん」 今度は微笑みながら、そっと呟き――今も《D》で働く岩渕に会いに行くため、ホテルの部屋を飛び出した。 川澄の心臓は今も高鳴り続けていた。こんなことは、本当に久しぶりのことだった。―――――「……おはようございます」 大きな受話器を握り締めて言う。すぐ隣のベッドで横たわるルームメイトの女の子が、ニヤニヤと顔を緩めて伏見宮京子の顔を見ている。 数秒の沈黙があった。それから……低く眠たそうな男の声が届いた。『……ああ、京子か。おはよう……もう朝か……そっちは……昼過ぎ、くらいか?』 男の声。そう。それは岩渕の声だった。「……アナハイムは午後2時ですよ。あの……そのう……」 微かに手を震わせて言う。少しだけ緊張し、少しだけ心臓の鼓動が早くなる。岩渕と電話で話すときはいつもそうだ。 岩渕は未だ眠気が取れぬのだろう、小さなあくびを繰り返していた。『……ところで、どうした? んあぁ……帰国は、もうすぐだろ?』「うん……語学留学っていっても、60日じゃあっという間だね……朝早くに電話してごめんなさい……あのね……実は、さ……」『実は……?』「……ううん、何でもないの」 ……会いたい。会って話がしたい。 喉まで出かかったその言葉を、京子は息を止めて飲み込んだ。 ……帰りたい。帰ってあなたに会いたい。あなただけじゃない、《D》のみんなにも会いたいし、父や祖父とも会って話がしたい。 それらの言葉を、どれほど口にしたかったかわからない。その言葉を口にさえすれば、今すぐにでも、アメリカから日本へ帰国することができるはずだった。それらの言葉さえ言ってしまいさえすれば、京子は日本に帰って岩渕と抱き合うことができるはずだった。けれど……京子はそれらの言葉を口にしなかった。 もし京子が身勝手な言葉ひとつで帰国したとしても、岩渕は何も言わないだろう。例え京子がどんなワガママを言ったとしても、責めることはしないだろう。だとしたら……私はきっとダメになる。一歩も前に進めなくなる。何の役にも立たない、何も守ることのできない――グズで愚かな女になるだけだ。それだけは、絶対にイヤだ。この短期留学は、いわばそのための第一歩、意識を変えるために決めたのだ。『……まぁ、あと数日だ。帰国したらメシでも食いに行こう。名古屋コーチンの専門店が名駅前店の近くにできてさ……』「……八丁味噌の味、強くない? 私でも大丈夫?」『大丈夫だよ。水炊きの鍋とか刺身とか、なるべくヘルシーな料理頼むからさ』「さ……刺身? ニワトリ、の?」『結構イケるぞ。鮫島さんなんてさ、それ5人前とか食うしな』「ふぅん……なら、大丈夫かな……それじゃ、お仕事がんばってね」『京子も、あんまり無理するなよ』「わかった……それから、岩渕さん……」『……どうした?』「……愛してる……またね……」 受話器を置きながら、京子はこんなやりとりがずっと続けばいいと思う。これからも毎日こんな会話が彼とできるのなら……そうしたらもう、私は何も望まない。――――― 京子との通話を切り、オーディオのリモコンを手に取る。Aimerの歌声がスピーカーから流れるのを確認してからソファに腰を下ろし、この休日は何をしようかと考える。 すると――インターフォンが鳴った。 朝早いが……誰だ?「……どちら様ですか?」警戒心を隠さずに言うと、相手は笑った。笑いやがった。『川澄です。川澄奈央人』「はあっ!? お前……川澄かっ!?」 思わず仰天し、立ちながら目が眩む。考えたことはなく、夢で見たこともない来客に、岩渕の意識は一気に覚醒した。『お久しぶりですね、先輩。ちょっとお話があるんですケド……エントランス、開けてもらえませんかね? ちなみに僕ひとりですから』 少しだけ考え、少しだけ逡巡してから、岩渕はロックを解除した。急いで金目のものを隠し、仕事用のアタッシュケースやビジネスバックやフィアットの鍵をクローゼットに放り込んだ。そんなみっともないマネはしたくなかったが、これから何が起こるのか俺にもわからないので、しかたない。……別にヤツが嫌い、というわけじゃないんだが……。 しばらくしてドアフォンが鳴る。のぞき穴から川澄の様子をうかがう。朝日に照らされた、ピースサインをする男が立っている……。 玄関の扉を開ける。 ……イヤな予感がする。猛烈に、する。「おはようございます、岩渕さん……」 いいや、違う……イヤな予感、などではない。これはもう、確信だ。少なくとも……そう。そうなのだ。「……俺の休日をどうするつもりだ? ……川澄」 せっかく与えられた貴重な休日を、確実に捻り潰すであろう目の前の男は――無垢で幼い子供のように、ニコニコと笑っていた……。――――― 『カーバンクルの箱と鍵と、D!』 bに続きます。 本日のオススメ!!! LiSAさん。 某アニメの「剣の芸術とネット通信」はあまり興味が湧かなくて見ていなかったが、LiSA氏の歌が流れているのは知っていた。正味、ビジュアルはあまり良くなく、体形も日本人そのもの、外見に何か特徴があるわけでもないのだが……――それがかえって良いのかもしれないな……。 パワフルな中~低音域の歌、アニソン丸出しの中二歌詞。場所を問わず聞ける汎用性も魅力的。群れない、媚びない、背伸びもしない、そんな不変的な印象をseesは彼女に抱きました。う~む……不思議な魅力がある。ただキンキン叫ぶだけのボーカルにはそれほど興味もなかったのだが……。 LiSA氏のアルバム……まぁ一応のせときますね……。 雑記 お疲れ様です。seesです。 個人的にかもですが、PCの調子が悪いです。正確には『楽天ブログ』の作成がうまくいきません😢 この間のOSのアプデからブログのプレビューと保存の機能が著しく低下。うまく編集ができません……。文章だけならできるかもだけど……。それだと味気ないしなぁ……悩む……。保留案件やなぁ……改善されているとイイんだけど……。 今回からは新しい短編がスタートです。以前から告知していた川澄氏と岩渕氏ふたりのメイン話です。一応は最後までのプロット的なものは作りましたが……。段取りうまくいかなくなりそうな予感……。8~10話、(もう少し短くてもいいが)予定。京子様登場回は未定……。細かい設定や情報は次回に出します。特には何もないですがww 仕事休みなくて断続的な制作過程……誤字脱字訂正は後ほど……まったく、ネット見る暇もロクになかったぜい。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『ひよったsees』 sees 「……こわい……こわい……いやだ……」 伊勢への出張帰り。深夜2時。伊勢自動車道。疲労大。眠気大。トラック 多数。渋滞無し。吐き気あり。温度計は23度。つまり……。 sees 「おいおいおい……何でどいつもこいつも130キロ以上のスピード出しやがる んや……殺す気かワイを……」 ビュンビュンとseesのバネットを抜き去るアメエキのトラック……背後から ピタリとテイルするクラウン……轟音響かせる10トン車……揺れるseesの 肉体……限界を超える眠気……。 sees 「死ぬ……死ぬ……ヤベぇ……幻覚が」 ブレるハンドル……尽きたブラックブラックガム……普段は飲まない、買い もしない黒コーヒー……震える脚……。 sees 「名古屋のインターまで……残りは何キロ? これは……」 ふと思う。声に出して、思う。 sees 「……なぜワシは生きているのだろうか? いったい、何のために生きている のだろう? なぜ……ワシはこんなメに遭っているのだろうか? どうして、 ワシだけがこんなメに……諸行無常……南無……」 ワケのわからないような呪いの文言を吐き散らし、さらに考え、思う。 5時間前、社から届いたメールの内容を思い出して、思う。また口に 出す。 sees 「『sees主幹 お疲れ様です。先日提出されました業務報告書に一部誤り がございましたので、明日昼までに確認と訂正をお願いします』……」 経理部の、ちょっとぽっちゃりした女の顔を思い出す。そして吐く。心の 内に秘めていた毒を、思い切り、車内で、わめく。 sees 「――テメェッ! メスブタァッ! 殺すっ! 殺すっ! 殺すどっ!」 叫ぶ。高速の上で、ワシはカラオケのように、叫ぶ。 sees 「――アイツだけじゃないっ! どいつも、こいつもっ、ブチ殺してやるどーっ!」 赤い86がバネットを抜き去るも、seesは叫ぶ、レイのように、叫ぶ。 sees 「クソォッ! てめえらの血は……何色だーっ(# ゚Д゚)!!!!」 ……… ……… …………眠気、覚めました。でも怖いので、久居インターで高速降りましたw 皆様も、深夜の高速には注意してね。眠いのなら、叫び散らすと効果的かもね (∀`*ゞ)テヘペロ 了🐽了
2018.06.03
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ss一覧 短編01 短編02 短編03―――――前回までのお話はss一覧から――――― セシリアは図書館の雑誌コーナーの傍に置いてあるイスの上に座り、ユウキが戻って来るのを待っていた。 いつの間にか、時計の針は深夜2時を指していた。未だ眠れず起きているのは、自分を含めて数人だけだ。 泣き疲れて眠ってしまった幼い子供たちの寝息を聞きながら、セシリアはパウロ神父のことを考えた。 神父様とはもう二度と会えないんだ。会話をすることさえ、二度とできないんだ。 そう思うと、心の底からまた強い悲しみが込み上げて来た。不思議なことに、この街の異変がもたらした悲しみは、時間を追うごとに少しずつ強くなっていくようだった。 故郷の父や母には何と言って報告したらいいんだろう? 無意識のうちに天井の蛍光灯を見上げながら、セシリアは思った。 ……父や母に、会えるの? ふと、なぜ自分はこんなメに遭っているのかがわからなくなった。ずっと抑えつけていた――理不尽に対する怒りのようなものが、急に心に広がっていくのが感じられた。 その怒りに駆られるように、セシリアはついさっき、ソウタと名乗った子供がユウキに告げた言葉を思い出した。ユウキは未だ戻って来ない。『東公園に石像を立てたヤツが原因だ――』 石像を立てた者(彫刻家?)と、過去――理不尽な理由で息子を失った者は同一人物であり、東公園にある子供の石像が例のアンテナとスピーカーである。 敬虔なカトリック教徒であるセシリアでも、そんな非科学的なことを信じることはできなかった。けれど、心のどこかで『もしかしたら』とも思い始めていた。 ……旧約聖書に登場するゴーレム(石や泥で作られた像)は人の意思を具現化して命令を実行する、ロボットのような働きをするという。石像に人の意思が宿る? そんな……でも……もしかしたら……この世界にはまだ……科学で解明できないことがあるのかもしれない。 もしかしたら……人間の命令を実行する、人間以上の存在があったとしたら? もしかしたら……そのゴーレムを破壊すれば、人々は元に戻るのかもしれない? ユウキ……それに、彼に付いて行ったソウタ君……大丈夫かな? セシリアは腰を上げ、少し離れた場所にある閲覧カウンターの様子をうかがった。 その時――急に、鋭い悪寒が走った。 えっ? 慌てて息を殺し、耳に意識を集中する。 図書館の周囲――白い壁と、分厚いカーテンが閉じられた窓の向こうから、複数の人の足音が響いていた。 ……誰? ……警察? セシリアは一歩踏み出し、壁に耳を張りつけた。 けれど、その気配はセシリアの求めるようなものではなかった。周囲を取り囲んで中の様子をうかがっていたのは警察などではなく……何人もの大人たちだったのだ。 そうだ。それは確かに大人たちだった。中年の男の低い声や、まだ若いであろう女の声が、防火防犯用の分厚い窓とカーテンの向こうから、憎らしげに囁きあっていた。 ……憎らしげに? そう。他人が憎くて憎くてしかたがない――セシリアは確かに、《アイツら》の囁きからそんな感情を受けた。――――― 自分自身とセシリア、そして図書館に集まった子供たちの話を聞いた後で、ユウキは貸出しカウンターにあるパソコンを起動させ、瀬戸市関連の新聞記事を検索した。この瀬戸市の異変に関連してそうな事件と事故のいくつかをリストアップし、印紙にプリントしておくつもりだった。 そのパソコンのモニターは利用者が扱いやすいように文字が大きく、結果を閲覧するまで少々の時間がかかり、とても古臭いシステムではあったけれど、使い方はシンプルで簡単でもあった。 そして、それはまるで大事な仕事を任されている大人のようで、ほんの少し、ほんの少しだけ――ユウキは嫌なことを忘れ、一日中張りつめていた緊張が和らいだ。 ……もし、もしも……俺ひとり、だったら? ……いや、やめよう。 もちろん、自分やセシリアたちの置かれている状況まで忘れることはできなかった。自分ひとりで行動すれば、県道を南下して名古屋市に逃げ込むのも楽で――ずっと簡単だったに違いない。けれど、幼い子供たちや、道を知らない中学生たちや、彼らを守ろうとするセシリアを置いて逃げ出すことなどできそうになかった。 今、瀬戸市の商店街や駅の周辺はどうなっているのだろう? 燃えさかる家々や、笑顔で殺し合う《アイツら》……絶え間なく響く悲鳴や絶叫や怒号……街ごと狂ってしまった瀬戸市……。 あれっ? 1件の新聞記事の前でユウキの視線が止まった。 20年前……瀬戸市……隕石の落下……18歳の息子が死亡……。 死亡したとされる息子の父親の名前を、ユウキは再度検索し直した。それから、ふと、ついさっき話を聞いたソウタと名乗る子供の言葉を思い出した。 えっ? 背筋が冷たくなるような気がした。 モニターに映し出されたのは、つい最近の新聞記事であったが、その記事に添付してある写真の人物の名前こそ、息子を失った父親と同姓同名同年の彫刻家だったのだ。 ……瀬戸市在住の彫刻家男性……行方不明になる……親族が警察に捜査届……嘘だろ? 今度は男性の近影とおぼしき写真に目をやる。その表情は、今日何回も、何十人もの人々の表情に見た――ひどく顔色が悪く、目が虚ろで、とても陰気な雰囲気にそっくりであったのだ……。 ……わかんねぇ……何なんだよ……コイツは……。 理解できることは何もなかった。「ああ……?」 ユウキは低く呻いた。彼にできたのは、それだけだった。 モニターに映る写真の父親は――ただの写真であるだけなのに――強烈な負の感情をユウキに向けて浴びせた。ユウキは知っていた。それを、骨の髄まで知っていた。 憎しみ……悲しみ……怒り……恨み……苛立ち……妬み……。 立ち向かえるわけがない。この街を元に戻すことなんて、できるわけがない。やはり初めから、自分たちに勝ち目などなかったのだ……。 ほんの一瞬のあいだに、彼はそれを理解した。 次の瞬間、雑誌コーナーからユウキの名を呼ぶセシリアの悲鳴が上がった。そして、それから数分後、ユウキは思い知った。 ……自分は何かの物語の主人公ではない。なれない。セシリアはこの物語のヒロインではない。違うのだ。 だから……俺たちふたりの運命は――……。――――― ソウタは考えていた。 自分はどうすればいいのか? どうすれば、目的を達成できるのか? なぜ? ……当然だ。 ソウタより年が上のヤツらは頼りになりそうになかったから。 ユウキとか言う高校生は目先のことばかり考えて、行き当たりばったりだ。 セシリアとか言うシスターはみんなのリーダー気取りだけど、僕の言うことを信じてくれる気はない。……キョウカなら信じてくれたのに。 キョウカの顔が閉じた瞼の裏に見えた。それは弟の安否を心配してそうにも、怒りを爆発させているようにも見えた。しかしキョウカの顔は次第にぼんやりと薄くなり、その真意を確かめることはできなかった。……確かめたいとも思わなかった。 ソウタは静かに息を吐き、さっき事務室で見つけ――ポケットに隠した、トラックの鍵を取り出した。 理屈はわかっている。 ソウタは本能でわかっていた。 ユウキが見ていた新聞記事と、セシリアが語っていた神父の言葉だけで……ソウタには理解できていた。 ――さあ、始めるぞ。 僕の大好きな街に巣食うモンスターたちに、ソウタは心の中で語りかけた。 ゴーレムを支配するのは――僕だっ! ヤツらは全員――殺すっ! 殺し尽くしてやるっ! キョウカやパパやママを失った時点で、僕に、恐れるものなど、何ひとつなかった。――――― ユウキは図書館の事務室から工具箱を持ち出すと、子供たちが集まるメインホールの絨毯に中身をぶちまけた。 ユウキの手には釘抜き付きのハンマーが握られていた。すぐ隣ではセシリアが小型のナタを握っていた。中学生たちにはモップの柄やアルミのパイプを渡していた。ホールの書棚を隅に移動させて空間を作り、そこに幼児たちを隠した。 セシリアは目を見開き、カーテンで覆われた窓の一点を見つめていた。ガンガンと窓を叩き割ろうとする音が響き、亀裂が防犯ガラスにジワジワと広がり、まもなく破られようとしていた。自分ごと死のうとしたバスの運転手の姿をユウキは思い出した。恐怖が今も、鳥肌となって頬を覆っていた。《アイツら》は、死ぬことをまったく恐れていなかった。 ただ命令のままに――たぶんこいつらは、みんな呪いのようなものにかかっているのだろう。そして、いや、だから――《アイツら》は死ぬことも、殺すことにも躊躇がないのだ。 ハンマーを握り締め、窓の横に忍び寄った。上段に構え、振り下ろす準備をした。荒くなる呼吸を整えた。 窓が破られるか破られないかの瀬戸際で、セシリアが声を上げた。「……本当に、やるの?」「…………」 セシリアは続けた。「できれば手加減して。……追い払うだけって、できないの?」「わからない」 日の出が近いせいか、カーテンの隙間から薄い明かりが漏れた。その明かりの灯ったセシリアの顔を見つめてユウキは言った。「……キミを守りたいんだ。だから、ごめん」 ユウキは言葉を切り、大きく息を吐いた。制服の裾で額に滲む汗を拭い、また両手に力を込めてハンマーを握った。 その時、ついに、ガラスが破られた。「やめてっ! 来ないでっ!」 セシリアが叫んだが、《アイツら》は躊躇うことなく、窓の淵に手をかけた。そして、40歳くらいの男が、下卑た笑い声を上げて顔をのぞかせた。「来ないでっ! 来ないでよっ!」 セシリアや中学生の女の子が叫ぶも、男は両手を窓の淵にかけて身を乗り出そうとした。「来るなーっ!」 叫びながらユウキはハンマーを降り落とした。柔らかい感触とともに男が血飛沫を上げ、絶叫しながら飛びのいた。「来るなと言ったじゃないかっ! 警告したじゃないかっ!」 無我夢中だった。無我夢中で叫んだ時、別の《アイツら》が窓に手をかけた。「うううーっー!」と、獣じみた低い呻き声を漏らして身を乗り上げようとした。「止まれっ! 止まれーっ!」 ユウキは再びハンマーをそいつの顔面を叩き込んだ。鈍い音と同時に、そいつの体は窓の外の木立へ吹っ飛んで消えた。さっきと同じように窓やカーテンが血飛沫に濡れた。「来るなら来いっ!」 外で群れる《アイツら》に向かって、ユウキは大声で怒鳴った。「殺してやるぞっ!楽になりたいヤツはかかって来いっ!」 敵は答えなかった。その代わり――…… ……――とても乾いた、空気を切り裂くような音が、ユウキの身に襲いかかった。 瞬間、ユウキの左肩に、凄まじい激痛が突き抜けた。腰が抜け、息が止まった。思わずその場にしゃがみ込んだ。矢だ。ボウガンの矢が、ユウキの肩を貫通し、奥に並べた書棚のひとつに突き刺さった。 生温かい血が腕を伝って滴り落ちた。わからない。敵がどこから撃ち、誰が撃ったのかもわからないまま――ユウキは片手でハンマーを振り上げた。左肩が猛烈に痛み、左腕からは感覚が消えた。それでも――……死ぬものか、殺されてたまるものか。そう思った。「ああ……ユウキっ!」 好きになりかけたひとつ年上のシスター見習いが自分の名を呼んだ。その言葉ひとつだけが、ユウキを勇気づけた。 勝てない。負ける。敗北する。死ぬ。殺される。そんなことはわかっている。わかっているのだ。……でも、それでも、セシリアたちを守りたいと思った。 そう。 ……俺は人間なんだ。これが人間なんだ。俺は……狂っちゃなんかいない……。「全員武器を取れっ! 窓からの侵入に注意しろっ! 戦うんだっ!」 静かな図書館にユウキの声が響き渡った。「うん……うん……戦う……私も戦うわ……」 セシリアは泣きながらユウキの肩に縋りつき、ハンカチを傷口に巻き、痙攣する左腕を抱えて支えた。ユウキはハンマーを握り直した。そして、次の襲撃に反撃するチャンスを待った。 守るんだ。彼女だけは、絶対に守り抜いてみせる。 窓の外では、《アイツら》が愉快そうに笑っている……。――――― かつてヒトだった何かが立っている。道路の中心に大勢の何かがいるのが見える。 ソウタは、日野自動車の3tトラック、デュトロの運転席に座っていた。小さな手に大きなハンドルを握り締め、走り寄る何かを見つめていた。 ソウタは……ふと、図書館に居残っている少年や少女たちのことを思い出した。まだみんな生きているのかな? と思ったり、連れて行けなくてごめんなさい、などと心の中で謝った。何度も。そう、何度も。後ろめたい気持ちがないわけでは、決してなかった。 ソウタの父親が日野自動車のエンジニアで、オートマ車の運転が子供でも簡単に可能だと知っていたことも……この3tトラックなら、図書館の子供たち全員を県外に運ぶことも簡単であると知っていたことも……ソウタは黙っていたからだ。 デュトロの速度を落とした。そして、運転席の窓を開け――乗るかい? と言わんばかりに手を振った。男のような生き物が笑顔で応えた。 笑顔――応えた時、男のような生き物は爽やかな笑顔を浮かべていた。しかし次の瞬間、それは凍りついた。「バーカ」 男のような生き物が移動の向きを変える前に、ソウタはアクセルを深く踏んだ。幸運にも、この3tトラック――デュトロはハイブリット仕様のためかエンジン音が小さい。それが――ソウタを喜ばせた。「待っ――……」 言葉を聞き終わる前に、ソウタは目の前の生き物を轢いた。 前輪の接触時に骨が砕けるような音が聞こえ、次に、後輪の接触時――水風船が弾けるような音がした。死んでしまった、殺してしまったとだけ思う。 罪悪感はなかった。むしろ、何の感慨さえも――無かった。 獣たちが異常を察知したのか、街全体の空気が震えた気がした。走行するデュトロの運転席からは、様々なモノが視界に入った。興奮し呼吸の荒い老婆や、全身を血だらけにした中年男や、ギラギラと目を血走らせた女たちの集団や、拳銃を持った警察官や、斧を持った若い女が見えた。「……東公園に着くまで、何人轢き殺せるのかな?」 まるでゲームを楽しむかのごとく、少年は嬉しそうに笑った。――――― 高校生の少年は、自分よりひとつ上の少女の手を握り締め――存在するかもわからない神様に願った。助けてください、俺はどうなっても構わないから、この子たちだけは助けて下さい。そう思いながら……。――――― ソウタは運転席から降り、デュトロとの衝突で砕けた石像を見つめていた。乗って来たデュトロには生き物の肉や内臓が無数にこびりつき、タイヤは血で濡れていた。 ソウタの思った通り――石像の台座の中身は、人間のミイラであった。ミイラは全身をビニールテープでぐるぐる巻きにされ、両腕と頭部の間に何かを大切そうに抱いている。ソウタの想像と予想が確かであるならば――それは宇宙から来た、地球外の、何か得体の知れない力を持つ――隕石だ。そう思った。 息子を失った父親は絶望の中でこの隕石の力を知り、ゴーレムを作り、自らの怒りを呪いに変えて街にバラ撒いた……誰かに奪われないように、息子の後を追うために、自分自身の墓石をゴーレムに変えて……。 ……だから、何? そう思った。 ソウタはカッターナイフでミイラの手の指を切断した。そして――ペットボトルほどの大きさのそれを取り出し、両手に持つ。奇妙で歪な形をし、見た目以上に重いそれを――ソウタは、天に掲げた。 それはちょうど、ゴーレムに形作られた少年のポーズに似ていた。 少年は隕石に願いを込めた。「会いたいよ……。パパやママや、キョウカに会いたい……」 堪えて、耐えて、我慢していた涙が、両目に溢れ落ちた。 そうだ。 ……僕は、結局、人間なんだ。 恨みや怒りや憎しみや悲しみが、いったいどれだけ高く積み重なろうとも…… 僕は、やっぱり、人間の、ただのちっぽけな、子供なんだ……。 街を守ることができるのか? 瀬戸市を守ることができるのか? ……僕には、わからない……だけど……だけど……それでも、僕は……。 瀬戸市は今も、混乱を続けている……。――――― 本日のオススメ!!! ヨルシカ、ことn-bunaさん。 ツイでは頻繁に紹介させていただいておりますが……いかんせん、知名度はまだまだですかね……。 ヨルシカ――n-buna氏とボーカルを務めるsuis(スイ)氏によるバンド。元々n-buna氏はボカロ楽曲の作曲をメインに活動する、いわゆるボカロPのひとり。あまりにも完成度が高く、ボーカルのスイ氏を迎えてメジャーデビュー。コンサートもやり、CDも出し、後はメディアの露出さえできれば……確実に売れるヒトたち。 seesも思わず泣いてしまう切ない歌詞、ロック調の演奏……多少クセの強いドラム音がしますが……まぁ気にしないでくれっス……。 ヨルシカ、ナブナ氏のCDです。……まぁ、興味もたれた方は、お願いします。 雑記 お疲れ様です。seesです。 またも大幅に更新遅れてすみません。いやね、出張が重なっちゃって暇が無いのよ、ホント。休みの日は雑用こなしたり、買い物行ったり、ツレと遊んだりしてたらもう5月💦月日の流れは無常ですわ……。 さて、後半ですが、まーまーよくあるオチですね。海外小説の流れを踏襲しつつ、パニックホラーテイストを出す、みたいな(笑) 気に入っていただける方がひとりでもおられれば、seesは満足でございます。 次回はseesの大好きな《D》の短編をひとつ。タイトル考えるの難しいケド……。まぁ内容的にはコンパクトに、2時間ドラマ風のものになりそう。ストーリー的には例によって、『悪いヤツと悪いヤツのトラブルに巻き込まれる岩渕先輩』みたいなもの。京子嬢の登場は少なめ、を予定。……あまりオモロクはないかも。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『まさかの副業?』 seesパパ 「なぁ……熱帯魚、飼おうかと思っとるんやが……どうや?」 sees 「……? 何や、新しい趣味でも始めるん? ええんやないの?」 seesパパ 「そうかそうかww ちょっとな、老後の趣味のひとつにでも、なw」 嫌な予感がした。 猛烈に嫌な予感がした。しかし、seesはそれを口に出すことはせず、 パパの笑顔をただじっと見つめ、ママの作った味噌汁をすすった……。 後日―― seesパパ 「なぁ、熱帯魚の繁殖に成功したら、カインズで買い取ってくれるって、 sees知っとるか?」 sees 「……? 知らんが……そうなの? ……いくら?」 seesパパ 「メダカとか、グッピーとか、一匹20~50円くらいらしいな(^^)/」 sees 「……」 嫌な予感がした。 猛烈に嫌な予感がした。しかし、まだ実家に水槽が置かれていない状況を 考慮して、seesは不安を口に出すことはせず、パパの笑顔をただじっと 見つめ、ママの作った白和えを肴にハイボールを飲んだ……。 後日―― seesパパ 「完成したぞー」 sees 「……何が?」 seesパパ 「見てみいっ! 楊貴妃(メダカ)用の養殖池やっ!」 sees 「……(ただ水槽を地面に埋めただけやん。まぁ、これぐらいなら……)」 seesパパ 「見とれよ~seesっ! メダカをじゃんじゃん養殖して、稼いだるワイッ!」 sees 「……へーすごいねー(棒)」 ……やべぇな。騙されてやがるんか? そんな簡単かつ、ウマい話があるワケねーぞ。しかし、seesは心の内を 口に出すことはせず、パパの笑顔をただじっと見つめ、ママが友人から もらってきたハチミツをヨーグルトにかけた食べた……。 後日――写真、Twitterにあげときます。 🐟了🐠――――― いくつか、疑問が残る。 父親は息子の蘇生をなぜ願わなかったのか? なぜ、大人たち――社会への断罪を選択したのか? 少年が考えていると、背後から、自分の名を呼ぶ姉の声を聞いた。「……ソウ、タァ……オネガイ……」 疑問の答えを、少年は見つめた。「アタシヲ……コロシテェ……」 それは……かつて姉であったそれは……もう、人間ではない、何か別の……。 了
2018.05.12
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― どこをどう走ったのかは覚えていなかった。 猛烈に息を喘がせながら、ユウキはいくつもの路地を駆け抜け――いくつもの道路を横切った。いくつもの田畑を通り過ぎ――いくつもの家々を通り過ぎた。何人かの成人男性や成人女性や老人や老婆とすれ違ったが、ユウキを止める者はいなかった。 無我夢中で走り続けたユウキが気がつくと、目の前には瀬戸市立図書館があった。 入口らしき自動ドアを夢中で開けようと、ユウキは足踏みを繰り返した。「開けてくれっ! お願いだっ! 助けてくださいっ!」 必死で叫びながら、ドンドンとガラスを叩く。 けれど、鍵が掛けられているらしく、ドアはどうしても開かなかった。 ……誰もいない? いや、たとえ誰かがいたとしても……。 諦めて引き返しかけた時――自動ドアの向こう側、エントランスの廊下の影から、自分の様子を窺う、自分と同い年くらいの女の子の姿がチラりと見えた。 女の子が《アイツら》と同じではない保証はどこにもない。どこにもないけれど――ユウキはもう一度、今度は背後を気にしながら、小さな声で呼びかけた。「……《アイツら》はここにはいない。……ここを開けてくれ。助けて欲しい」 開かないドアのガラスに手をピタリと押し付けるようにして、ユウキは図書館の中をじっと見つめた。夕暮れも近いというのに、蛍光灯はひとつも灯ってはいない。けれど人の気配だけはある。……そんな気がした。 ……集まってたのか……自然に? 偶然? やがて――エントランスの廊下の影が動き出し、ひとりの少女が現れ出た。そして、少女はゆっくりと背を屈めて自動ドアに近づき、下部にある鍵を解いた。 少女は白い服をまとい、髪はボサボサで、首から十字架の付いたペンダントをしていた。 ……教会の人? そう。まだ会ったばかりだというのに、ユウキは少女に神聖な……例えば、そう……希望の光、のようなものを感じ取った。確かに、感じた。「……早く入って」 少女の声に導かれ、電源を切っているらしい自動ドアを手動で少しだけ開き、ユウキは体をすべり込ませた。少女が扉を閉め、また鍵を閉め、ガチリと硬質な音を聞いたその時――力が抜けた。「いっ!」 思わず尻もちをつく。昼過ぎから何も飲まず食わず、何時間も走り続けた疲労が全身に巡るのがわかる。もちろん、疲労のせいだけではなく、恐怖と緊張のためだ。 無言で奥歯を噛み締めながら、大きく安堵の息を吐く。 ……えーと。 ユウキが立ち上がり口を開くと同時に、頭上の少女の声と声が重なった。「「……何歳?」」 偶然ではない同じ問いに、ユウキと少女が顔を見合わせて笑った。 ――――― ユウキと名乗った高校生の男子の提案で、図書館にバリケードを作ることに決めた。窓を施錠した後にカーテンを閉め、そこに本棚を移動させて壁を作った。それと出入口の自動ドアに備え付けてある防火用シャッターを下ろし、《本日閉館》のプレートを外に置いた。さらに事務室に残されていた職員用のお菓子や、災害時用の防災グッズからカンパンや缶詰を取り出し、図書館に取り残された子供たちにあげた。 子供たち――。 すべての司書士や職員たち――大人たちが図書館から消え去った後(もしかすると、正気を保っていた誰かが、あえて子供たちをこの場に残したのかもしれないが)、閉じ込められていた子供たちの泣き声を聞き――セシリアはいても立ってもいられず、たまたま裏口に駐車してあったトラックの屋根によじ登り、2階のテラスから侵入した。 セリシアはそこで子供たちの話を聞くと、驚くべきことに――誰ひとり家には帰りたくない、できることならずっとここに留まっていたいと言う声だった。 そう。ここに残された子供たちは皆――混沌とする市街地から、かつて信頼していた大人たちから、何かが狂ってしまった母や父から――恐怖に追われ、どうしようもなくなって、この図書館に逃げ込んだ――15名の、子供たちなのだ。 壁に掛けてある時計を見る。午後3時を回っている。瀬戸市内が本格的に狂い始めて、まだ24時間も経っているかどうかもわからない。「……セシリア、少し休まないか? 玄関の見張りは中学生のヤツらと交代でするし……できれば子供たちも1ヵ所に集めて、明かりは最小限にしたいし……それに、そのぅ……少し、状況を整理したい」 そう。ユウキとはさっき図書館に迎え入れたばかりで、名前を呼ばれたのも初めてのことだった。それなのに、今ではなぜか、ずっと一緒に敵と戦って来た昔からの戦友のような気がした。 自分たちは果たして、この戦争に勝利することができるのだろうか? その可能性は果てしなくゼロに近いようにも思えた。敵は言うなれば、街、そのものなのだ。残された子供たちを連れて生き延びることは、不可能に近いハズだった。でも……戦うしかなかった。私たちが生き延びるためには、大人たちと戦い続けるしか道はなかった。 もし……この戦いに勝利して、街の平和を取り戻すことができたら……そうしたら、その時は、ユウキやここの子供たちと一緒にヴァチカンへ行きたい。法王様からお褒めの言葉を頂戴できるかもしれない。両親から貰った仕送りを全部使ってもかまわない。 セシリアはその時のことを想像した。絢爛豪華な謁見の間に、ふたりで法王様の元に跪く自分たちの姿を思い浮かべてみた。 もし、本当にそんな時がきたら、どんなに嬉しいだろう。「……セシリア」 16歳のユウキが17歳のセシリアを呼んだ。現状――この街において、最も信頼できるのは年齢だけだ。「……はい。何です?」 泣き疲れて眠っている小学生の男の子の髪を撫でながらセシリアは答えた。「例の……パウロ神父様、だっけ? その人は……最後、何て言ってたんだ?」「……まるで、何かの悪霊に憑りつかれているような様子でした。神父様は……『なぜ……俺の息子が死ななきゃならねえんだ』とか、『なぜ、お前たちクソ共は生き続けられて、俺の子は死んだ?』と仰ってました……それに……『息子より長く生きているヤツ……たとえ1秒でも長く生きているヤツは……許せねえ』とも……」「……俺が《アイツら》のひとりから、この街の……大人たちが元に戻る方法を聞いた時、言われたのが――『この思いは、この願望は、この怒りは、この恨みは、破壊されなければ消えねえよ』、だったな……」「……息子さんが死んでしまった怒りと憎しみが、父親の呪いに変わって、街の人々を襲った……ということ、ですか?」「俺が会った《アイツら》のおっさんと、パウロ神父の話を強引に結びつけると……な」「じゃあ、『息子より長く生きているヤツ』って……」「ああ……たぶん、18歳以上の大人? を無差別に、て意味かな……」「調べたら、それが誰かわかるんじゃない? それに……神父様はこうも仰っていました。『呪詛を流す、《アンテナとスピーカー》』を探せと……ユウキの会った方は確か……」「『破壊されなければ消えねえよ』……か。一応、調べて探してみるのもアリかな……」「瀬戸市で、18歳の息子さんを亡くした……たぶん、理不尽で、不平等な死に方をされた方……」「……そのオヤジが作った《アンテナとスピーカー》を破壊すれば、この騒ぎも終わるかもしれない……ってことか」「……本当にオカルトね。こんなこと――」 大人なら誰も信じてはくれないね……そう言いそうになって、セシリアは口をつぐんだ。「こんなこと考えるなんて……本当――中二病だよな……」「……中二病?」「いいんだ。気にしないでくれ」 ユウキはそう言うと、図書館の貸し出しカウンターを指で差し、「……瀬戸市の古い新聞記事とかって、あそこのパソコンで検索できるかな? ……スマホもネットも使えないしな」と言って微笑んだ。 そして、その微笑みを見たセシリアは――自分より1歳年下の男子高校生に特別な好意を抱き始めていることに気づいた。 異性に対してそんな感情を抱くのは、本当に久しぶりのことだった。――――― ……キョウカ、お姉ちゃん。 セシリアと名乗る教会のシスター見習いの女性に髪を撫でてもらいながら、ソウタは低く呻いた。僕は泣いていた。眠ることなどできず、ずっとずっと、セシリアの膝の上で泣いていた。 ソウタの閉じた瞼の裏にあるふたつの眼球は、ひたすらに闇を見つめ続けた。そこには、言葉にできぬほどの強烈な負の感情が宿っていた。 憎しみ……怒り……恨み……悲しみ……苛立ち……恐怖……。 およそ人間が持っている負の感情のすべてが、眼球の奥で渦を巻いて蠢いていた。 僕はもう二度と、キョウカやママやパパとご飯を食べることができないんだ。わけのわからない理由や方法で、僕の幸せや人生がすべて台無しにされたんだ。 ほんの数時間のあいだに、ソウタはそれを理解した。 許せない。 すべての不幸の原因と確信する、東公園の、あの石像のことだけじゃあない。 この世のすべての大人たちが許せなかった。 普段からテレビの中で偉そうにしている大人、 僕を子供扱いしてバカにする大人、 僕をこんなメに遭わせたクセに、 僕からキョウカを奪ったクセにっ! すべてが憎かった。すべてを壊してやりたいと思った。『元に戻る方法』? だからどうしたっ? 僕は絶対に、絶対に、お前たち、大人を、元に戻ろうが、何だろうが―― 絶対に、許さない。 瀬戸市を大人たちから守るのは――僕だ。僕だけなんだっ!――――― 『ゴーレムから街を守れ!』 後編b に続きます。 本日のオススメ!!! ORESAMA!!! 久しぶりのORESAMA氏。相変わらずメディアに露出するほどメジャーには なっていないかもですが……ボーカルの「ぽん」嬢がカワイ過ぎる……。 以前と似たような紹介文ですが……ORESAMAの特徴はエレクトロな演奏と ポップな歌詞、ノスタルジックな演出が極めて強いバンドです。80、90年代 のJポップはseesもあまり聞いてこなかったので……とても新鮮です。それで いて現代風なアレンジって……結構レアなことだと思うけど……やはりもう少し だけ売れて欲しい……。 ↓は先月発表された曲、ちょっと古い曲、さらにオマケの曲。……ちなみに、 レーベルは違いますwww リリース情報です。……まぁ、興味もたれた方は、どーぞ。 雑記 お疲れ様です。seesです。 相変わらず更新頻度遅くてすいませんね。モチベが下がったワケではないのですが、いかんせん……この世界には魅力的な誘惑が多すぎる💦 大谷翔平氏の試合中継(BS買ってて本当に良かった)や将棋の藤井先生、大相撲やペナントレース、競馬……チェックするべき項目が多すぎて……時間がいくらあっても足りませんぜ……。 さて、今話はseesの妄想と、海外小説のオマージュを融合させた意欲作仕上がりです。まぁ、訪問されたほとんどの方には不快なモノでしょうケド……。一度はヤッてみたかったンすよぉぉ、パニックもの。難しすぎて頭から血が出そうでしたけどね(⋈◍>◡<◍)。まぁ……これの評価や感想はあまり求めません。こういうジャンルって、あまり評価されるものでもないしね。……暇つぶしにでも、目を通していただけるだけでいいや。《後編b》はもうすぐ、待っててちょーだい。 さらに次回の短編はseesの大好きなあのシリーズ。《D》短編をひとつ作ろうかと思います。タイトルは……『持たざる者と、D!』かな(仮)。持たざる者、というのは、もちろん……あの野郎のことですねww seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつ でも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『うんテン🚙=33』 sees 「……コラッ! 車線変更は早めにっ、アピールは強引にっ! 都会の 4レーン、ナメんなよっ!」 新入り 「はいっ! わかりましたっ!」 そう。 本日は新入社員の運転講習。seesの働くグレー企業は社用車の運転に 際して講習が義務付けられている。 sees 「ちゃうっ! そこはバスレーンやっ! 右側が右折するとは限らんでっ!」 sees 「初見は+10キロ、慣れた道なら+20やっ! トロトロ走るんやないっ!」 sees 「レーンを利用してバスを追い越すっ! これが有名な『名古屋走り』やぞ」 sees 「『誘導する線?』そんなモンはねえっ! 甘えんなっ!」 sees 「信号? そんなモンはねえっ!(嘘) あれは『矢印』だっ!」 ……はぁはぁ、疲れたな。さすがに免許取得して1年やそこらの新入社員に 運転教えるのも楽じゃないYO。質問も多いし……。 新入り 「コンビニでアイドリングしての休憩ってアリ、ですか?」 sees 「……ケースバイケース。ただし……目立つな。立ち読みも厳禁だ」 新入り 「営業車内での飲食って?」 sees 「弁当NG。カップ麺NG。おにぎりOK。……おすすめはゼリー。夏場は クーリッシュが美味いゾ……煙草吸ったら殺す」 新入り 「雪とか、台風の時って……私、運転ヘタクソで……」 sees 「ギアをセカンドにいれろ。できるだけエンブレを使ってアクセルを踏め」 新入り 「はいっ!」 ……ふふふ。まったくしょーがないジャリガキたちだ。 良かろう。私が営業車のいろはを教えてやろうじゃあないかww むふふ。あー気持ちいい。あー今日の仕事はラクだにゃ~あ(*‘∀‘) ……… ……… ……… ……さて、この小話のオチはっと……やはり……。 部長 「sees君、さっき、キミと新入り君が乗ってたバネットなんだけど……」 sees 「……はい?」 部長 「こんなものが落ちてたよ」 それは――……コンビニの袋、である。瞬間、seesは我にかえった。 眠気が吹っ飛び、瞳孔が開く――……「ヴッ!」 部長 「……マンガと雑誌だねぇ……。何々……『ワンパンマン』と『ぴあムック、 藤井聡太特集』『食糧人類』『甲鉄城のカバネリ』? sees、お前よお……」 sees 「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!! 部長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! バラしちゃらめぇぇぇっ!!!(特に『食糧人類』みたいなグロマンガ読んでる ことぉぉ)」 了💦💦💦
2018.04.22
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 何か、よくわからない何かがきっかけで、僕の生活はメチャクチャに狂ってしまった――僕はそんなふうに感じていた。そして、ぼんやりと、もう、元の生活に戻ることはできないのだとも感じていた。 そうだ。たぶん……もう、元通りになることはないのだ。ちょうど、ひっくり返ったゾウガメが自分の力では立ち直ることができず、干からび、そのまま……ゆっくり、ゆっくりと死んでいくように……。 以前はあれほど仲の良かったパパとママは、今では心の底から互いに憎しみ合っているようだった。パパは、ほんのささいなことで怒鳴り散らし、ママにひどい暴力を振るった。そして、ママは気が狂ったかのようにお酒を飲んで、家の家具を壊したり、自分の長い髪をひっこ抜いたり、窓のガラスを割ったりした。 信じられなかった。パパもママも、今では別人のように変わってしまっていた。パパは家に帰って来なくなり、ママは僕たちにご飯を作ってくれなくなった。部屋の掃除もしなくなったし、買い物にも行かなくなった。リビングのテーブルにはお酒の空き瓶が放置され、それまで一度も見たことがなかった煙草の灰皿には、吸殻が山のように盛られていた。 パパもママもひどく顔色が悪く、目が虚ろで、とても陰気な雰囲気だった。僕や僕の姉のキョウカを見ても微笑むことなんて絶対にしなくなった。 僕には、家の中の空気がいつも重たく、どす黒く淀んでいるように感じられた。そんな家に帰るのがイヤで、僕はいつも瀬戸市立図書館で時間を潰してから帰った。キョウカも僕と同じようなことを思っていたみたいで、家に帰りたくなさそうだった。「姉ちゃん……どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」 僕は何度も何度も、キョウカにそう聞いた。僕の心の支えはキョウカだけだった。 そんな時、キョウカは困ったように微笑み、無言で首を左右に振るだけだった。 そう。キョウカにだって、理由なんてわかるハズがないのだ。 朝――、目を覚ましたら頭痛がした。寒気もひどかった。「風邪……かな?」 僕の額に手を当ててキョウカが言った。「ソウタ、今日は土曜だし、家で寝てようか」「嫌だよ。図書館に行く。家にいたくない」 僕は首を振った。「ダーメ。本当は私だって家にいたくはないけれど……明日にしましょう。後でママの部屋に行ってお薬もらってきてあげる。だから、図書館には明日行きましょう」「でも……」 僕は口ごもった。 本当に気分が悪いし、寒気もひどい――けれど、この部屋のすぐ隣の部屋にママがいると思うと、気が重かった。「ママの部屋に行くって……大丈夫?」 キョウカの顔を見つめて僕は聞いた。「大丈夫に決まっているでしょ? ママはママなんだし」 キョウカの笑顔を見て僕は、しかたなくベットの中にもぐり込み……目を閉じた。 そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。 次に僕が目を覚ました時にはもう午後12時を過ぎていた。 ぐっすりと眠ったお陰か、今では頭痛はほとんど治まっていた。全身を覆っていた寒気も消えていた。 キョウカは自分の部屋にいるのかな? 自分の部屋を出ると、僕はキョウカの部屋に行った。 けれど、部屋にキョウカの姿はなかった。窓が開いたままになっていて、外から生暖かい風が吹いているだけだった。窓ガラスを閉じながら、僕は外の景色と空を見つめた。 どんよりと暗い曇り空の下で、パトカーや救急車のサイレンが聞こえた。騒々しいのは嫌いだった。けれど、物音ひとつしない静寂よりはマシだとも思えた。キョウカの部屋の窓を閉めた時、ママの笑い声が聞こえたような気がして、僕は背後を振り向いた。 ママが笑っている? 信じられなかった。僕はもうずっと、ママが笑っているのを聞いたことはなかった。 けれど、もし……本当にママが笑っているのだとしたら……それは僕にとっても嬉しいことに違いなかった。 ママの部屋のドアの前に立ったまま、僕は耳を澄ませた。 またママの笑い声がした。それから……小さく呟くような女性の声もした。それはどうやら、キョウカの声らしかった。 元に戻ったんだ。ママが元に戻ってくれたんだっ! 僕は嬉しくなって、ノックすることもせず、ママの部屋のドアを勢いよく開けた――。 あっ。 瞬間――僕は自分がとんでもないものを見てしまったことに気づいた。――――― ……おかしい。何かがおかしい。……何もかもがおかしい……どうして? なぜ?なぜ私たちが? なぜ……。少女は思った。 わけがわからなかった。いつものように祈りを捧げるために通っている教会の図書室で、突然――施設の内外で凄まじい悲鳴と怒号が交錯し、少女は、強い恐怖に全身が震えた。 その場にいた神父に手をとられて礼拝堂に駆け込むと、神父は扉の内側から鍵をかけた。 その、ほんの一瞬、ほんの少しの次の一瞬――扉がガンッと音を鳴らして激しく揺れた。「――この詐欺師野郎っ! 出て来いっ! てめえは必ずブッ殺すっ!」 礼拝堂の扉の向こう側で、誰のものかもわからない、男たちの怒号が響いた。 神父様が詐欺師のハズがない。それなのに……彼らは『ヴァチカン瀬戸教会』の出入口を封鎖し、関係者や信徒たちに暴力を働いているようだった。「――クソ神父っ! てめえはバラバラにして田んぼの肥やしにしてやるっ! そこにいやがる信者の娘もっ、息子もっ、ひとり残らず殺してやるっ!」 男たちの怒声とは別で、若い修道女や信徒の子供たち、事務所の職員や警備員の絶叫も聞こえていた。扉の外で誰かが襲われ、犯され、殺されているのだ……。悲鳴の中には、幼い赤子のような悲鳴も混じって聞こえる……。 警察への電話は繋がらなかった。それどころか、一般電話・携帯電話・インターネットのすべてが回線を切られているらしかった。「……狂っている。この街は、突然、狂ってしまったのだ……」 パウロ神父からそれらを聞かされた少女――セシリアは震え上がった。 本当なら、もう、疑いの余地はない……この街は、この街の人々は狂っているっ! 私も……神父様も……みんなも……殺されちゃうの? 固く施錠された礼拝堂で、17歳のセシリアはロザリオを強く握り締めて神に祈った。「……お救いください……御方よ……」 礼拝堂の祭壇前のベンチで、セシリアは泣き崩れた。わけがわからなかった。「……セシリア、落ち着いて。しっかりなさい」 パウロ神父は肩を震わせて泣くセシリアの隣に座り、彼女の背中を優しく撫でた。「この街を覆う邪気の元凶は、たぶん、この街のどこかにあります……それを探すのです。大丈夫……私は……天からの御神託を頂いたのです……」 疲労とストレスでぐったりとした神父の声がセシリアに告げた。そんな神父を見つめ返し、セシリアは涙を拭った。けれど、深くシワの刻まれた神父の目には、どこか他人事のような虚ろな色が浮かんでいた。 そう。神父がこの状況を危機的だと思っていないのは明白だった。「……御神託とは、本当ですかっ? 御方は何と? 私は、何をどうすればいいのですかっ?」 ヒステリックになおもそれだけ言うと、セシリアはまた泣きそうになった。すぐ脇で神父が薄く笑うのが聞こえた。「これは、あなたにだけ教えてあげるんですけどね」 優しくはあるけれど、どこか人を小馬鹿にしたような口調で神父が言った。「御方が教えてくれました、偉大なる御方、がね。あなたには、何も聞こえていないようですがねぇ」「神父様……何を? ……あなたには、とは?」「『なぜ……俺の息子が死ななきゃならねえんだ』とか、『なぜ、お前たちクソ共は生き続けられて、俺の子は死んだ?』とか……」 神父が異様なほど口角を吊り上げ、不自然な笑みを作った。「何を……仰っているのか……意味が、わかりません……」「『息子より長く生きているヤツ……たとえ1秒でも長く生きているヤツは……許せねえ』」「……? ……わかり……ません……。パウロ神父……様?」「……ああ、御方の言葉には逆らえません……扉の鍵は――そろそろ開けますか?」「やめて下さいっ!」 慌ててセシリアは言った。「そんなことしたら、神父様も私も殺されますっ! 祭壇のマリア様も破壊されてしまいますっ」 神父が大きなため息をついた。その顔はセシリアの知る――優しくて、温かくて、無欲で、勤勉で、信心深い、カトリックの修道士のそれではなかった。「……これは呪い……これは命令……これは服従……また服従……また服従……死ぬまで服従……これは呪い……この命令は街を支配する……囚われる……何もかも、すべてを……」 神父は何かをブツブツと呟きながら、礼拝堂の扉へ向かって歩き出した。それを見て、セシリアは悲鳴をあげて震えた。やがて、神父が一度だけ振り返り、セシリアに向けて何かを言うのが聞こえた。「……探しなさい。成人にだけ通じる呪詛を流す、《アンテナとスピーカー》のようなものが瀬戸市のどこかにあるハズです……。さようなら、信徒セシリア、そこの燭台で祭壇の脇にあるステンドグラスを割り、教会の外に逃げなさい……私の理性も……限界です……ああ……偉大なる御方、は私にこうも仰って下さいましたよ、―――――と」 それが、洗礼名――セシリア・ナツキ・アソウが見た、修道士――パウロ神父の最後の言葉だった。頭の中で、神父の言葉を反芻する。 ……いや、少し、違う。 ……頭から離れないんだ……離れてくれないんだ……。『――互いに殺し合えっ! 互いに奪い合えっ! 互いに死ねっ! と』 それが――大人たちが《アンテナとスピーカー》から受けた、逆らえぬ命令。神父様は命令に従い、誰かと互いに殺し合って、たぶん、死んだ……死んじゃったんだ……。「……何もかも信じられない……けど……」 そう。探すしかなかった。 怖い、怖いけど、どうしようもないくらい怖いけど……暴力と狂気に呪われた大人たちから、子供たちを救いたい。ひとりでも多く救いたい。 セシリアは強く思い――ひとり、混沌とする街を駆けた。 ――――― ついに訪れてしまった。 ついに迎えてしまった。 ついに見てしまった、今日……――――……ユウキは高校を早退して帰りのバスの車中から、見た。そして、座席の仕切り棒を懸命に掴み、身を低くし、ガチガチと歯を鳴らしながら震えていた。 救急車が横転し、車体が田んぼの泥の中へと沈んでいく。パトカーが電柱に正面衝突し、クラクションを鳴らし続けている……。消防車がコンビニに激突し、ガラスや雑誌やATMの機械が無造作に、ぐちゃぐちゃになって散らばっている光景を……。 それだけじゃあない。もっと、もっともっとひどい光景を、ユウキは見た。見続けた。見たくは決してなかったが、見つめ続けた。 小学生くらいの女の子が、中年の女性数人に殴られて蹴られていた。女の子は固い地面の上で倒れたままぐったりとしており、その小さな体を激しく踏みつけられていた……。 バスの後ろを走っていた軽トラが、突然、民家の家屋に突っ込んだ。門と玄関と戸口とガラスが一瞬で粉々に破壊され、凄まじい絶叫が家の中から響き渡った……。 雑居ビルの3階から煙と火柱が昇っていた。関係者と思われる男は燃えさかるビルの前でケラケラと笑っていた……。 若い女性が半裸の状態で手錠をかけられ、交番の中で泣き叫んでいる。傍らに立つ警察官たちは笑いながら制服を脱ぎ始めた……。 車に轢かれたらしき老人が、道路の真ん中で倒れ、引き裂かれた臓器が辺り一面にバラ撒かれていた……。血だらけになって倒れている女性に金属バットを振り下ろす大学生の姿を見た……。人間の腕と思われる太くて長い肉の塊を、旅行トランクのようにゴロゴロと引きずって歩く腕の無い男……。 いったい、みんな、どうしてしまったというんだろう? 俺にはそれは、タチの悪い伝染病のようにも感じられた。 そうだ。まるで伝染病の病原体のようなものがこの街に蔓延していて、それが、みんな、子供以外の人間をおかしくし、憎しみ合わせているのだ。 もちろん、俺にはその悪い病原体がどこから来て、どんな方法で拡散しているのかなんて知らない。何かを誰かに聞きたくても、誰も何も教えてはくれなかったし、誰かが答えを知っているとも思えなかった。 その時だった。 その時、バスの運転席から低い男の笑い声が聞こえた。ユウキが視線を向けると、運転席のガラスに反射した男の視線と――目が合った。運転手の男はシワとシミだらけの顔を見せ、「坊や……怖いかい?」と笑いながら聞いた。 そのあまりにも普通で、あまりにも緊張感のない、あまりにも適当な男の態度に、ユウキは激しく苛立った。「……何言ってんだよ……全部、全部アンタたち大人が……大人が悪いんだろっ」 先ほどまでの恐怖を忘れるかのように、ユウキは声を荒げた。 そう。この街の異変に対して何の対処もせず、むしろ率先して被害を拡大させているのは大人たちそのものだった。何か、とてつもなく忌まわしく、とてつもなくおぞましいモノに染められて、犯されて、暴れ回っているのは大人たちだった。 とたんに、ガラスに反射する運転手の顔つきが険悪になり、鋭い目つきでユウキを睨んだ。「……言うじゃないか。クソガキ……」 ハンドルを握ったまま運転手が振り向いて言った。「死にたいのか?」「アンタたちのせいだっ!」 運転手を見つめてユウキが繰り返した。誰かを――街がメチャクチャにされたこの怒りは、誰かを責めなければ気が済まなかった。「どうすれば元に戻る? アンタたち大人は、どうすれば元に戻るんだ?」 ユウキの言葉を聞いた運転手は、下卑た笑い声を上げ、頭頂部をポリポリとかいた。「……この思いは、この願望は、この怒りは、この恨みは、破壊されなければ消えねえよ……お前みたいなクソガキは……何もできやしねえんだよ……」 そう言うと運転手は正面に姿勢を向き直し、声を張って叫んだ。「さぁっ! 行くぞっ!」 バスのエンジンが回転数を上げ、スピードが跳ね上がった。直後に、ユウキは自身の体が宙に浮くような感覚に襲われた。 道連れ――。 そう。運転手はユウキと一緒に自殺する気なのだ。狂っているのだ。 それはまさに狂人の所業だった。 運転手本来の意思や希望を完全に抹殺する――何か、何か邪悪な魂が憑依しているかのようにも思われた。「あひいぃぃぃ……ひいぃぃぃ……」 ユウキは声にならない悲鳴を漏らし、股間から尿を漏らし、バスの廊下に尻もちをついて優先席の仕切り棒にすがりついた。 大人たちは全員が狂っている。まともなのは、子供たちだけなのだ。大人たちから見れば、子供なんて簡単に殺せるのだろう。 ……俺も子供だ。……俺も殺される。……俺は、死ぬ、のか? あまりの恐怖に、ユウキは呼吸することさえ忘れた。 その時――『ガツンッ!』 という轟音と振動が響き――同時にバスのスピードが極端に落ちた。道路上の何か意図せぬ障害物に衝突したらしかった。直後――ユウキの体のすべての細胞が、一斉に動き出した。 ――こんなところで死にたくないっ! ――嫌だっ! 死んで……死んでたまるかっ! ユウキは再び走行を開始しようするバスの中で立ち上がり、『緊急停止』のボタンを叩き押したっ! 油圧式のドアがゆっくりと開き始め、ユウキは無我夢中で腕を差し込み、こじ開けた。そして――体をすべり込ませて車外へと転がり落ちた。 込み上げる安堵と解放感の中、ユウキは思った。 何を破壊すればいいって? ……わかんねえことばっかりだ……ちくしょう……。――――― ママのベッドの中にはパパとキョウカが並んで寝ていて、ふたりの上で馬乗りになったママがいた。ママは微笑みながら笑っていた。 僕がドアを開けた瞬間、ママが僕を見た。キョウカとパパは顔を苦しみに歪めていて、言葉にならない呻き声を漏らしていた。けれど、ママは嬉しそうだった。 ママは目を見開いたまま、僕の顔を見て微笑んだ。「……もうちょっと待っててね。ふたりを殺したら、次はソウタの番だから……」 えっ? 僕はわけがわからなくなって、パパとキョウカとママの顔を交互に見つめた。 そして、次の瞬間、ソウタは母親が何をしていたのかを理解した。 ズンッ! それは凄惨な光景だった。 そう。ママは両手に2本の包丁を握り締め、ふたりの体を同時に刺し貫いていたのだ。 殺意を込めた渾身の一撃ではない。……短く……浅く……少しずつ……急所を外し……じっくりと……なぶり殺していたのだ。 パパとキョウカは同時にカッと目を見開き、直後に、顔から力が抜けていった。「うわーっ!」 僕は悲鳴を上げて部屋を飛び出した。おしっこが漏れて、生温かい液体が腿を濡らした。 パパが死んだ。 キョウカも死んだ。 殺されたのだ。殺したのはママだ。 パパとキョウカに包丁を刺した時のママの顔が、僕を凄まじいパニックに陥れた。 家の玄関を飛び出し、パジャマのまま――全力で走った。走って逃げ出さずにはいられなかった。「ああーっ! ああーっ!」 そして僕は……どうして自分の家族がこうなってしまったのかを、いつからこうなってしまったのかを思い出した。 そうだ。東公園にある、あの石像だ。 僕にはわかっている。あの石像がすべての原因なのだ。あの石像がやって来て、何か悪いものを運んできたのだ。僕は確信していた。――――― 『ゴーレムから街を守れ!』 後編 に続きます。 本日のオススメ!!! 緑黄色社会、様!!! 緑黄色社会……。愛知出身。以前も紹介はしましたが……長屋晴子氏の透き通った 歌声と切ない歌詞が特徴的な4ピースバンド。往年の鬼束ちひろを彷彿とさせるバンド。 (まぁ、鬼束氏の世界観に迫るのは難しいケド💦) てかまだ若い……将来性はすげーあると思います。後は…やっぱりちょっとした機会、 大きなチャンスとエエ歌を作り、維持し続けていれば……大メジャーバンドに成長する と……seesは考えます。応援します! ↓は新曲『 / Re』と 少し前の曲『大人ごっこ』――です。 リリース情報っ! ついに、1stフルアルバム、発売です。本当――オススメっす!!! 制作雑記。 お疲れ様です。seesです。 桜が咲いてますね。だから何だっていう話ですけど……。課のみんなで花見に行こうか、という話が来ていましたが、sees的には興味があまりなく……いやね、別に花を愛でる趣味がないワケじゃなく、外で酒が入って妙なコトを口走らないか心配なんす。seesがブログでこんなことをしているのは、一部を除いて秘密ですから💓 危惧した通り――スティーブン・キング氏の小説じみた展開になってしまった。まぁ、私はキング様の映画も小説も大好きなので……しかたない。 本来ならば大長編モノでも使えるネタだけど……短くまとめてみるのも、また一興かww『続きは後編』とありますが、もしかしたらもう2話続くかも、、、、🐔ゥゲェ……。 説明しきれない描写が続くけど、訪問者様方……どうか、勘弁して。 それにしても……子供目線の文章って作るのムズい💦 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつでも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『鬼畜、かつ、悪魔』 sees 「えー、24日って、今日? てか今?」 次長 「何や、どうした?」 sees 「今日、名古屋城に藤井クン(6段)(先生)、来てるんスかぁっ!!」 次長 「……」 sees 「こども王位戦のゲストって……名古屋城二の丸広場って……」 次長 「……確かに、午後一時からやし、藤井クンも来とるみたいやが……」 sees 「次長……ちょっと、この時間、抜けてもエエですかね……??」 次長 「…………」 sees 「( ;∀;)テヘヘヘヘ」 そう。すぐ近くに藤井聡太先生、師匠の杉本7段。そして連盟会長こと、 佐藤康光9段がいるのだ。一目、見に行きたい……。当然、会場には入れ ないだろうが、一目見るくらいはできるだろう。ああぁー、藤井君が愛知 県民で良かった。本当、良かったぎゃあ 次長 「…………チョキチョキ」 言うまでもないが、これは半分ジョークだ。seesも仕事中に私用で抜ける など言語道断だと、当然ながら理解している。 だが――次長は、何か新聞を切り抜いて、何か微笑んでいる。 sees 「……あのー何を?」 次長 「sees、お前に特別な大チャンスをやる。この――今日の中スポの詰将棋の 問題、コレを10分内に解けたら、外出を許可してやるで……ただし――」 中スポのオッサン用詰将棋問題、見ると――『10分で2段、13手詰』 『ヒント、角は9手目で使う』――……ヴ。 sees 「………じゅう……さん? しかも、10分?」 次長 「トライは自由や、だが、失敗した場合は、わかっとるよな?」 sees 「……しっぱ、い、したら? ガクブル」 次長 「……そうやな――……、みんなの前で、一発ギャグ、やれや」 ぐむむ……畜生、畜生畜生畜生、鬼畜がぁぁぁぁぁっ!! ……… ……… ……… sees 「――……あぁーん、腹筋ん、胸筋んん、上腕筋んん、すべてぇ、鍛えればぁ ぁぁ、キミもぉ――perfect body!!」 sees渾身の山本高広(ケイン)のモノマネ……。 フロアの中でこぼれる失笑、生ぬるい微笑み……やめろ……やめろ…… 悪魔たち……ワシを……そんな目で見るなぁぁぁっ!!!! 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.04.05
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 愛知県名古屋市の北東に位置する愛知県瀬戸市――。 約5万5千世帯、人口約13万人――。 瀬戸物を中心とした陶磁器が有名なこの街で――。 ――20年前、水田の中心に隕石が落下し、ひとりの犠牲者を出した。 この隕石落下事件の翌日、この事件を取材した新聞記者のひとりが、友人の新聞記者に、自分が見た凄惨な現場での話をした。「……最悪だ。田んぼがクッションになって隕石自体はヒビ割れひとつない状態らしいが、下にいた農家の息子は木っ端微塵に砕けちまったらしい……。警察の話だと、その子の体の一部が隕石にこびりついてひどい臭いだと」「こびりつくって……その隕石って、かなり大きいものなの?」「みたいだな。衝撃波で水田がぐちゃぐちゃだし……」「不運な事故ね。それで、その隕石、記事にするの?」 犠牲者がいる以上、隕石そのものへの取材には時間がかかりそう……と思いながら、新聞記者の女は聞いてみた。「記事にはするが……扱いは小さいな」「妥当ね」 友人の新聞記者は、なぜか背筋が冷たくなるのを覚え、「外で畑仕事の手伝いをして、突然、隕石が真上から落下して死亡するって……すごい偶然よね?」と聞いてみた。そんな天文学的な確率――ありえないのだ。ありえないことなのだ。「宝くじの一等を10年連続当てるより……難しいな」 取材した新聞記者が答えた。「しかし……親御さんにとってはショックだろうな……」 ありえないことながら、ふたりは偶然に幾重もの不幸が重なった農家の息子――男の子と両親のことを憐れんだ。そう。そんな不幸な奇跡の連続は、自分には決して来ないだろうと信じながら……。 その後、瀬戸市で起きた隕石落下のニュースは新聞やテレビで大きく取り上げられることなく収束し――やがて、人々の記憶から消えた。隕石の行方や、死亡した少年の遺族のこと……調べようと動く者は皆無だった。 そして……20年後のある日、突然―― 愛知県瀬戸市は、平和な田舎の小都市は―― 恐怖と戦慄が渦を巻く、深い闇に包まれようとしていた――……。――――― 家族で朝食を食べている途中、突然――パパはママを怒鳴りつけた。「何だ、このマズいメシはっ? お前、俺の給料をこんなマズいメシに変えたのかっ?」 ママに向かって、マンション中に響き渡るような大声でパパが怒鳴り、姉のキョウカも僕もびっくりしてしまった。 そう。キョウカも僕も本当に驚いた。それまでは、たったの一度だって、僕たちはパパが怒るのを聞いたことはなかったから。「おいっ、ママっ! どういうつもりだっ? 俺にこんなマズいメシを食わせやがって、外で不倫でもしてるんじゃねえだろうなっ?」「ごめんなさい……ごめんなさい……明日から気をつけるわ」 ママは泣いて謝っているのに、パパは怒鳴り続けた。「ふざけんなっ! このバカ女がっ! クソォッ!」 大声で怒鳴りながら、パパは牛乳が入ったグラスを壁に向けて投げつけた。粉々に砕けたガラスが部屋中に飛び散り、ママは小さな悲鳴を上げた。「クソッ! こんな料理捨てちまえっ!」 吐き捨てるように怒鳴り、パパは床を踏み鳴らして部屋を出て行った。 パパが出て行った後で、ママは両手で顔を覆って泣いた。キョウカが慌てて駆け寄り、「ママ、ママ、大丈夫?」と声をかけたが、ママは泣き止まなかった。 僕もママが心配だった。そして、パパのことを最低な男だと思った。「パパって最低――。ねえ、ソウタ、あんたもそう思うでしょ?」 ママが作ってくれた卵焼きを頬張りながら、キョウカはとても怒っていた。 食事のあとで、僕とキョウカは飛び散ったガラスを拾い、食器を洗い、祖母懐小へ行くための準備を始めた。ママは部屋に閉じこもってしまい、ずっと泣いているらしかった。 一里塚町のマンションを出た時、僕は立ち止まって目の前の東公園を見た。 そう。僕の目に、昨日までは無かった、奇妙な物体が飛び込んで来たのだ。 それは本当に不思議なモノだった。 住宅街の隣にある大きな公園の入口すぐ奥、舗装された石畳の上には――大人の男、パパくらいの高さの四角い石のテーブルと――男の子の姿をした像があった。 男の子? そうだ。男の子の石像だ。男の子が空に向け、顔と両手を伸ばしている姿だ。 どうしてあんな恰好をしているのだろう? あれじゃあ男の子の顔は見えないし、なにより公園のキレイな景色が台無しじゃないか? 僕は首を傾げた。「ソウタッ!」 先を歩いていたキョウカが僕を呼んだ。「何してるの? 早く行かないと遅刻しちゃうよ」 それで僕は、祖東中の制服を着た姉のところに向かって走った。もちろん、石像のことは気になったけれど、それ以上は考えなかった。 それが――すべての悪夢のはじまりだった。 悪夢? ……いや、これは夢なんかじゃあない。 そう。悪夢のような現実の、はじまり。 そうだ……この、少年の石像がやって来てから、すべてがおかしくなったのだっ!―――――「今日は自習にする。帰りたきゃ帰れ。以上」 担任の教師が3日連続――そんなことを言うなんて、ユウキには信じられなかった。いや……それだけじゃない。担任の教師だけではなく、瀬戸西高校の教師たちは全員、別人のような顔をして、ひどく顔色が悪かった。どの教師も授業に出ず、部活に来ず、職員室にこもったきり放課後まで出て来ないらしかった。 異変を感じていたのはユウキだけではなかった。クラスメートの女子生徒は生活指導の男性教論にレイプをされたとか、友達の男子生徒は教頭先生の車に轢かれたとか、そういう噂やデマが飛び交い、事実、似たような話で学校を休む生徒が続出しているのだ。 担任教師と同じように、仲の良い保健医の先生もまたひどく顔色が悪かった。訪ねるとイライラとした、思い詰めた様子で眉間にシワを寄せ、ほんの些細なことにもカッとなってヒステリックな叫びを上げた。怒鳴り散らしながら保健室のカーテンを引き裂いたり、壁のポスターを破り捨てたりしていた。まだ生徒に暴力を振るうようなことはなかったが、そうなるのも時間の問題のように思われた。 ここ数日の間――帰りのバスの中で、ユウキは街の人々の姿を凝視した。ブツブツと何かを呟きながら歩く男の大人や、互いに激しく罵り合う老人たちや、奇声をあげて髪を掻きむしる女性の姿を見た。パトカーや救急車や消防車が街中を忙しく走り回り、それらが鳴り響かす大音量のサイレンを嫌というほど聞き続けた。 ユウキは言い知れぬ恐怖に身を強ばらせた。 そうだ。この街は……こんな騒がしい街じゃなかったハズだ。この街はいつだって穏やかで、静かで、平和的で、誰でも安心して暮らせる立派な街だったのだ。田舎で地味なところではあるけれど、ユウキにとってはかけがえのない街なのだ。それなのに……。 教室の中では重苦しい空気が立ち込めていた。ただ座っているだけで、息が詰まりそうなほどだった。 かつての教室の中では快活な教師と生徒のやりとりが絶えなかったというのに、今ではもう、誰ひとり笑うことはなくなってしまった。生徒間で話をすることさえ、ほとんどなくなってしまった。みんながみんな――ただ、ただただ疲れ果てたような顔をしていた。 いったい、何が、こうなってしまった原因なのだろう? 高校1年生のユウキは思う。 いったい、いつから? ……いや、どうして? ……何が、どうしてかって? そう。ひとつだけ、わかっていることがあった。それは、それだけはわかっていた。 そうだ。俺には……俺たちだけはわかっていた。すべてがおかしくなったワケじゃないことを……。すべてがおかしくなった街の中で……俺たちだけが例外であることを……。 18歳未満。つまりは子供たちだけが――この、おかしくなった街の中で……――以前と変わらぬ意思を持っていることを……。――――― 『ゴーレムから街を守れ!』 中編 に続きます。 本日のオススメ!!! Aimer(エメ)様。またかよっ、て感じだけど💦本当好き。 新曲発売されたので、再度宣伝。何度でも宣伝したくなるくらい好き。 滑らかかつ、丁寧かつ、力強い歌声……抒情的な歌詞、切ない表現……。 ああ……萌える。 ↓は新曲の『眩いばかり』う~ん、美しい……。 リリース情報っ! 新曲とオススメ。 お疲れ様です。seesです。 もうすぐ春ですね(?)。今年の新入社員の方々は使えるんでしょうか、今から何かと心配ですww seesは若手って感じじゃあなくなったかもだけど……とりあえず、めんどくさいケド、がんばります。すべてはカネのために……目先の小銭のため……社畜兵士を演じます……。ああ……楽して儲かる術はないものか……。投資信託と証券だけじゃあんま貯金増えないなぁ……いっそ、デイトレードでもしようかな……。 今回のお話は3話構成予定。もしかしたら4話にズレるかもだけど……。 よくある世界観と、人物造形です。舞台は愛知県瀬戸市――そう。藤井聡太先生の出身地でごわす。行ってみたケド……う~ン、田舎wwいや、美しいよ、ホント。カントリーシティって感じでとても感じ良かったス。すんばらしいぃ~。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつでも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『人はみかけによらない』 それは、懇意にしている取引先相手の社員のひとりで、seesとは世間話くらい はする仲の良い、ちょっと年上の男性だった。 sees 「えー……rさんも、とらのあな、行くンすか?」 r 「行きますよ~全然、フィギュア好きですもん」 sees 「何買うんスか? 萌え系? ロボ系? あっ、それとも特撮系?」 それは、何気ない、日常的な、悪く言えばどうでもいい、そんな会話のハズ だった。しかし――……。 r 「いや、僕作るほうなんでー、パテとかプラとか、ブラシ材とか、そういうの 買うだけっスね~ww」 sees 「へーそうなんですか~……てっ、何いいっ! rさんて、そういう趣味だった んスかぁぁっ?」 r 「まぁまぁw、seesさん見ます? コレ、僕が作ったヤツ」 r氏はそう言うと、スマホの画面をseesに見せ、細かな解説をはじめた……。 sees 「……ゴジラ、ガメラ、モスラ……すげ(特撮系が好きなのか?)。いやいや、 これは……スピーダーバイク……Xファイター……え? デス・スターまで… スターウォーズ系もこんなに……うおおおぉぉぉぉっ」 seesは目の前の、年上の、ちょっと不潔そうな、ちょっとイケメンではない 漢の評価を改めたっ r 「……これはエヴァ量産型でー、これはもう売っちゃったけど、ハンブラビと ダンバインでー、こっちはザクでー……」 聖戦士からガンプラ系、まさかのシン・マツナガ専用ザクまで(マニアック ですいません)……すごい……すごすぎる。 簡単に説明すると、r氏はパテとシリコンを使ってゼロからモノを造形し、 プラモは塗装してジオラマに組立、パーツも改造してしまうとのこと。 そしてデキの良いモノはネットで売る、みたいな。 (今度、写真をコピペし、許可が頂ければツイにあげます) seesは軽く眩暈がし、くらくらとする意識のあと――r氏の手を握りしめた。 sees 「rさんっ、お願いですっ」 seesがツイにあげたのは、r氏に頼んで急造していただいたファルコン号です。 今回は謝礼ロハでいいとのこと(マジか)。しかしそれでは何だな、という ことなので、次にお願いしたレッド・ショルダーの時は焼肉をオゴるという 話で決着した……いや~ヒトは見かけによらないな……。 そう、 しかし、 seesは少しだけ、ほんの少しだけ――言いたかったケド、言えなかった言葉が あったことを知っていた……。 ……ガンダム系萌えフィギュアも、できれば、強化人間系……欲しいな。 プル、プルツー、マリーダ様の姉妹セット……欲しい欲しい欲しい欲しい、 ほじィィィィィィィ……いつか、ヤってもらお 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.03.23
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 ――――― 50年ほど前、私は名古屋市に生を受けた。名古屋市と言っても広く、名駅から地下鉄に乗って何駅か行った、商業ビルやマンションがゴチャゴチャと軒を連ねる一角だった。 私は、桜通という道路に面した横長のビルの1階で、朝から夜まで、一日中、コーヒーを飲む人々の話し声や笑い声が聞こえて来るような、木とレンガとオレンジ色で彩られた――ひとつの喫茶店だった。 それは――今思えば、無数の人々が私を利用し、私の前を通り過ぎ、やがて私の前から消えていった証拠なのだろう。店内のテーブルやイスや廊下や壁には、いつのものかもわからない、古いキズやシミが残っている。何度か繰り返された改装でも決して消えない、それは……確かな記憶の財産なのだ。 従業員は毎日、その木製のテーブルにコーヒーを置き続け、客はそれを飲み続けた。朝にはモーニング・サービスとしてパンと卵を提供し、メニューが増え、ココアやコーラを飲む客もいた。そして誰も彼もが皆――……喜んだ。喜んでくれた。 私には商売のことはわからなかったけれど、それでも、その1杯のコーヒーやパンが、誰かの役に立ち、私を支えてくれるものだということはわかっていた。 ……なぜ、人々は私の元へ足を運んでくれるのだろうか? 意味がわからなかった。「どうしてコメダに来るのかって?」 ある日、私は客同士の会話を聞いた。 60代、70代はあろうかという高齢者の男は、躊躇わらずに言い切った。「落ち着くし、居心地がイイからな」 どうして落ち着くのか? どうして居心地がイイのか? 私は心の中でもう一度だけ聞いた。 けれど、当然ながら、もう客は答えなかった。私もそれ以上は聞かなかった。聞けば答えを得られるわけではないし、もそもそ私の声など聞こえてもいないのだから。 私は何も聞かなかった。聞くこともできなかった。けれど、直感した。 ――私の元へ足を運ぶお客さんは、私に心の安寧を求めているのだ。だから、その手段のひとつとして、私は1杯のコーヒーを提供する……。 きっとそうだ。だから毎日、私の中で働く従業員はコーヒーを淹れ続けているのだろう。他とは違う、私だけが持つ価値を求めて……。 ――しかし、それも永遠ではない。 10年店に通った者が、ある日を境に突然いなくなることがある。頻繁に、ある。 引っ越したのだろうか? 病に倒れたのだろうか? それとも、死んでしまったのだろうか? それも……まぁ、いい。一瞬でも、誰かに安寧を与えることができたのなら……。 営業は続く――。――――― episode01《ミルクコーヒー》「……誰も引き受けてくれないの。それで、というわけでもないんだけど……加藤君、引き受けてくれないかしら?」 ある日、禁煙席の2人用テーブルで、グレーのパンツスーツを着た女性は対面する男の目を見つめて言った。口元には薄い微笑みが浮かんではいたものの、その口調は事務的で、やや高圧的な印象だった。「……北京への長期出張、ですよね……」 加藤と呼ばれた男は女性の大きな目を見つめ返した。女性の年齢は50代半ばであり、加藤の年齢は30代前半、という印象だった。「引き受けるのはかまいません。ただし……」「ただし?」 女性の顔から笑みが消えた。「ひとつ、条件があります」 加藤は淡いルージュの引かれた女性の唇や、いくつか白髪の混じった女性の長い髪を見つめて言った。「……条件て、何?」 女性はやや眉間にシワを寄せ、厳しい視線で加藤を見つめ返した。「……教えなさい」 加藤は真っすぐに女性の目を見つめ、笑わずに言った。「……そのミルクコーヒー。僕に奢らせてください」 一瞬、女性は驚いたように目を見開いた。それから――女性の顔に、さっきまでとは違う、優しい微笑みが広がった。 そんなやりとりがあってから、女性と加藤は頻繁に私の元を訪れるようになり、やがて恋人同士になり……結婚の約束をした。縁談を取り持つのが私の仕事ではない。だが――悪い気分ではない。 ふたりが注文したミルクコーヒーの湯気を見つめる。 できることならば、この先何年も何年も、見つめ続けていたいと思う。 営業は続く――。――――― episode02《クリームソーダ》 ――午後22時30分。 オーダーストップ間際に客が来る。客は中年の男で、噴水のあるカウンターに座り、始めに出された冷水を一気に飲み干した。観察してみると男の風貌はかなりやつれていて、髪はボサボサ、無精ヒゲがだらしなく生えていた。「23時に閉店しますがよろしいですか?」と従業員が聞く。だが男は、「構わない」と言う。注文を聞くと、男は《クリームソーダ》を注文した。「クリームソーダ……で、よろしいですね?」 再度、従業員が確認すると、男はムッとしたように「はいっ」と応えた。「……少々、お待ちください」 吐くように言い残し、従業員は席を離れた。 そう……こういう客もいる、そういうことだ。 ――雨が降り出した。風に運ばれた細かい水滴が禁煙席のガラスに、まるで水鉄砲を撃たれたように付着し、雫になって流れ落ちていく。明日の朝までに止んでくれるといいのだが。 従業員たちは閉店の準備を進めている。店外の照明を消し、新聞を片付ける。ゴミを捨て、明日のため、テーブルの備品を整理する。店長がいつものようにレジの前でシメの作業を進めていると、男の低い呻き声が聞こえたような気がした。 カウンターでクリームソーダを飲む男を見る。 そこには、ロングスプーンでクリームをすくい、涙を流しながら口に運ぶ、中年の男がいた。「……なぜだ? ……なぜ? ……なぜ、俺が? ……俺が、いったい、何をした?」 男は自問を繰り返し、大粒の涙を流し、ひたすらクリームを口に運び続けていた。「……ちくしょう……ちくしょう…………甘いな……甘すぎるな……コレは……俺は……」 この、容貌風采共に卑しそうな、一見すると浮浪者にも見えるようなこの男に、いったい、何があったというのだろう? 男は……杞憂ではあるが、決して店内で暴れたり、大声で号泣したりすることはなさそうだった。 料金を頂戴したのち、私はしばらくの間、玄関から雨の降りしきる街の闇へ、消えゆく男の背を見つめ続けた。その時、男がこちらを振り向いた。意識はしていないのだろうが、私と目が合う。男の目は私に助けを求めているようにも見えるし、志を新たに覚悟を決めた、そんな目をしているようにも見える。 私にできることなど何もない。 ――ただ、男がほんの少しだけ……ほんの少しだけの時間、ささやかな甘みを口に含むことができたのなら……この出会いに感謝する意味が、あると私は信じたい。 営業は続く――。――――― episode03《ウインナーコーヒー》 モーニング・サービスが終了した午前11時過ぎ、以前、この時間帯によく来店していた老婆のことを思い出した。 ――あれは確か、ウインナーコーヒーをいつも注文していたな。 老婆はひとりでの客だった。腰が曲がり、ツバの広い帽子をかぶっていた。私より少し、いや……かなり年上のように見えた。老婆は、月に何回か、週に一度は来店し、注文は必ずウインナーコーヒーの一択……。それだけなら、別にいい。別にどうということはない。普通の客として歓迎し、もてなし、料金を頂戴するだけだ。けれど、老婆には他の客とは違う、決定的に違う点があったのだ。 ウインナーコーヒーを一口も飲まない。それどころか、カップを自らの体から離し、拒否するかのように決して口をつけない。 従業員が一度だけ、老婆の前で膝をおろし、訝しげに顔を傾ける老婆に、「お口に合いませんか?」と言ってみた。だが、老婆は敵愾心を剥き出しにした目で従業員を睨みつけ、「うるさいっ、放っておいてくれっ!」と怒鳴っただけだった。 私はおよそ7年間、老婆を見つめ続けた。雨の日も、雪の日も、老婆は毎週のように来店し、ウインナーコーヒーを注文し、眼下に供されたカップを自分から遠ざけ――特に何かをするわけでもなく、ただ……ただ黙って空を見つめ続け……私はその光景を見つめ続けた。 7年間、老婆が何を考え、何をしようとしているのかは知らない。私が覚えていることは、最後に老婆を見かけたあの日――……テーブルに座る彼女がポツリと呟いた言葉と、シワだらけの顔で作った小さな微笑み……それだけだ。たった、それだけのことであるはずなのに……私は、あの老婆、彼女のことを……決して忘れない。 彼女は言った。「……あなた。また、口にクリームがついてますよ……ふふふ……」 その後、彼女を見ることはなかった。いや、あれからすでに、何年もの歳月が流れたが、今でも私は時折、ウインナーコーヒーをすする年老いた夫婦の幻を見ることがある……。 そういう客もいていいのかもしれない、私はそう思う。 営業は続く――。――――― 了 本日のオススメ!!! moumoon(ムームーン)氏。 ブックオフで処分しようとした雑貨を漁っていたら偶然CDを発見(大変失礼な話ではありますが……)。今聴いてみても……やはり気持ちがイィ…。 KOUSUKE MASAKI(まさき こうすけ)氏。各種演奏、作詞作曲編曲担当。 YUKA(ユカ)氏。 ボーカル。作詞作曲担当。 ――の二人組。柔らかいボーカルと流れるようなリズム、自然体の歌詞、抵抗感のない演奏……癒し、ですな。結構頻繁に新曲出されていて驚愕。シーデー放置し、誠に申し訳ない💦 これからは定期的に聴き、配信もあれば購入しますデス、はい。 元々は、CM主題歌で有名になったのかな? 遊戯王でも歌っていたような……。 皆様も、ぜひぜひ、どーぞ……。 上から1.2.はお気に入り。3.は最新曲すね。しかし…BONNIE PINK様と似てるような気も(笑) リリースも結構……かなり精力的に活動されてますね……さすがっス。紹介しきれん。 お疲れ様です。seesです。 上司とケンカ退職した同僚が出てしまい……タダでさえ多い仕事が増加💦更新予定を大幅に遅延、まいったす。 SNS的なものもほとんど手がつかず……お手上げ。 日々の眠気が先行し、疲労が回復しきれない状況。お話の練りもままならない、が……何とか形に。コメダ珈琲店、葵店でお茶しながら制作。ほぼ一気に書き殴り、自宅で調整。形にして半日……。明日もまた仕事と残業……まぁ、いっか🎵 今回のお話はsees的にかなりリアルな部分が多いです。限りなくノンフィクションに近いフィクション。まぁまぁ、要は商品別に勝手なイメージ上塗りしただけの3本仕立てですが……好評でしたらepisode増やしてバンバン作りますので。内容も、可もなく不可もなく。 コメダ珈琲店、葵支店様、 本当、すみません<(_ _)>。 また行きます。美味しいスよね……金のアイスとか、ミニシロとか、個人的にはミニカツ復活して欲しいすケド……。本当、すみませんでした。削除要請あれば、すぐにでも消します。 次回は前後半、のショート予定。その次の『~D』の短編もほぼ構想はできあがり。 まぁ……適当にがんばって作ります……。 seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつでも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 あんま関係ないけど―― 愛知県瀬戸市の誇り、東海の希望、中京にタイトルを、 藤井聡太先生っ 応援してますっ 好評?のオマケショート 『理不尽』 sees 「身長体重血液検査……視力聴力血圧か……」 そう。この季節と言えば、健康診断、である。 タメ同僚 「お前、去年より太ったんじゃね?」 sees 「んなこたーねーワイww」 ……しかし、最近ハラが出て来たような💦……。 ……気のせいだよね。 看護師 「seesさ~ん、じゃあ、この機械の上に乗ってくださ~い」 ……気のせい。 ……気のせい。 ……気のせい、じゃないっ!!(ホラー映画調) 看護師 「……あっ(察し)」 sees 「そんな……嘘だろ……ありえない。……こんなこと、ありえないっ!」 ……… ……… ……… ドクターA 「……去年より5キロも増えてますねえ……血圧も高めだし……seesさん、 あなた、わかってます?」 sees 「……はい」 ドクターA 「お仕事も大事でしょうケド……もっと健康管理を……食事も……運動も…… あなた、わかってます?(2度目)」 sees 「……はい。……はい。……すみません……すみません……」 ……… ……… ……… しこたま説教を食らい、診察室を出る。すると、隣の診察室からも退室する 者が……当然、一緒に来ていた同僚だ。コイツも……ワシと似た生活やから な……相当体イッとるやろww sees 「ワシ、最悪やった。お前、どうやった?」 タメ同僚 「ん? 別に?(笑) 何? 何かあった? 明日死ぬとか? うけるーwww」 そして――…… seesは――…… ブチキレ――…… 同僚の首を絞めた。 sees 「てめーーーっ! ワシと似たような生活しとるんちゃうんかいっ! 健康児 ヅラしくさって……殺すぞっ!」 ギューー。首を、ギューー。 タメ同僚 「……ヤメテ……シヌ……メシオゴルカラ……ユルヒテ……ラメェ……」 sees 「焼肉や、焼肉行くぞっ!」 タメ同僚 「……リョーカイ……チヌ……オテテ……ハナヒテ……」 ふー……健康管理って難しいねっ 了こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.03.08
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ss一覧 短編01 短編02 短編03 ――――― 玄関の扉を開けて家に入る。すると――それまでリビングの方で聞こえていた夫と義父と義母の話し声や笑い声で賑やかだった家の中が、一瞬にしてシンと静まり返る。 ――静寂……いや、これは沈黙だ。 それから、壁ごしに伝わる視線。 私は無言のまま、足元だけを見つめて2階の自室へと向かう。 いつからそうなってしまったのかは、覚えていない。たぶん、結婚してから数年は経ってからだと思う。優しかった夫は私と話すことをやめ、笑顔を消した。義父や義母は、まるで私の存在などはじめからいなかったかのように――私を無視した。 どうしてそうなってしまったのかは、わからない。どれほど考えても、どれほど努力してみても、解決はできそうになかった。 私は愛知県の動物愛護センターに勤めていた。犬や猫や鳥が好きで、それならばと選んだ職場であった。 動物愛護センター――とても楽しい仕事ではあるが、同時に――とても悲しい仕事でもあった。狂犬病などの感染症、保護期間の満期……様々な理由で殺処分される動物たちを施設内のガス室へと送る時、私は……彼らの声を聞いていた。もちろん、彼らが人間の言葉を喋るわけではない。けれど、彼らの声は繊細で……儚げで……悲しくて……切なくて……苦しげで、今すぐにでも心臓が止まってしまうような……それでいて、どこか熱っぽく……何だか人間の感情表現に近い声だった。 熱……感情……? そう。自らの死の運命を、彼らは知っていたのだと思う。 死の運命を知った時、彼らは何を思うのか? 悲しい? 辛い? もちろんそれらはあるのだろう……。 いや……私は彼らではないのだから、彼らの心中など永遠にわからない。 そう――。もしも、仮に、万が一……それが私であったならば……―― ――……思うことは、ひとつだけなのかもしれない……。 証明のできない考えを頭の中で巡らせながら――私は階段を上っている。階段の先にある窓の隙間から射す、満月の月光が、足元を照らし――私は何気なく顔を上げた。「あっ」 そこには、見知らぬ若い女が立っている。あまりに突然のことであったためか、瞬間、私の脳はパニックに陥った。一段下がり、「……どちら様ですか?」と言った、その時――。 その時、若い女は、両手で持ち上げた何かを……黒い、金属の塊を……私の頭上に……私の脳天に……叩き下ろした。「えっ?」 悲鳴を叫ぶ前に意識が飛びかけ、バランスを崩し、そして……長い髪をなびかせながら、私は――転落した。直後、意識を失う前、階段上にいる若い女と目が合った。闇に隠れて顔の細部までは見えないものの……女は、口角をぐにゃりと曲げ、目尻を歪め、頬を吊り上げた。そう――女は笑っていたのだ……。 瞬間、私は自分がなぜこんなメに遭うのかを理解した。そして――『死の運命』を知った者が何を思うのかを、再び、強く、理解した。 思いを口に出そうとした直前に――首が背骨か、もしくは両方の骨が折れる音が聞こえ……直後に――私は闇の中に消えた。 私の命はそこでブツリと切れている。だけど、私は知っている。私をこんなメに遭わせたのは誰か、何の目的だったのかも……知っている。いや、そんなことはどうでもいい。たとえわからなかったとしても、別に、いい。どうでもいいのだ……。 大切なことはひとつだけ。私が殺処分した動物たちの声の意味……それさえ理解できたのならば……構わない。それだけで充分、私は私の人生に満足した……。――――― 真っ暗な闇の中を歩く。歩く。歩き続ける……。 そこは海溝を思わせる深い闇の中だった。私は歩き続ける。感覚はない。脚が勝手に動いているのだ。嗅覚もない、聴覚もない。触覚もない、けれど、歩いているという思いだけはわかる。 一瞬、チラッと、光の粒が顔の前を横切っていくのが見える。 私は直感した。まるではじめから、生まれた時から知っていたかのように――直感した。 そうか……これが、この光の粒が『生』の世界……。 今、自分が歩いている世界こそ『死』の世界で、『死』の世界に漂うほんの小さな光の粒が『生』の世界なのだ……。体の大きな自分では『生』の世界に入れない。指一本入れることすらできない……。そう。自分は死んだのだ……。だから私は歩いた……歩いた……歩き続けた……いつか、自分が入れる『生の光』を探して……。 そして……奇跡は起きた。「……アンタに朗報がある……まぁ、たいしたコトはシテやれないがな……」 それは――『生』と『死』の境目の、とても小さな隙間に住む者たちの声……。彼らは『生』を終えた時、『生』にこびりついた残滓のような者たちだった。残滓は『生』と『死』の両方の世界を行き来でき、『生』の世界では『幽霊』だとか、『幻』だとか、『錯覚』だとか、『夢』だとか、『気のせい』だとか呼ばれていた。 ――その残滓が、彼女に奇跡をもたらせた。「……これまでの汚れ仕事……ご苦労様。アンタみたいな立派な人間……そうはいないよ」 私は返答しない。したくてもできない。残滓が私に言う。「……10秒間やる。その間、アンタの声と姿を『生』に戻してやる……」 ――それだけ? 残滓は私の心の声を聞いたかのように、言う。嬉しそうに、言う。「贅沢言うな。アンタ、事故に偽装されて殺されたんだろ? 家族ぐるみでさ。そいつら何とかしたいとか思うだろ? なら警察にでも化けて出て、真相話して来いよ。案外、再捜査してくれるかも、だぞ?」 ――……ああ、そうか。私、殺されたんだっけ……。でも別に、恨みとか、無いし……。 残滓は饒舌だった。誰かと話したくて仕方ない、という印象だった。「はあ? ならアンタ、好きなヤツは? 別れの挨拶でもしたいとは思わんか?」 ――……別れの挨拶?「そうだ。よくあるだろ? 『余命一ヶ月の花嫁』とか『おくりびと』とか『黄泉がえり』とか……そういうコトしたいとか思うだろ?」 ――……挨拶がしたい? そう、なのかもしれない。私は……忘れかけていたのだ。彼らの言葉を……彼らの言葉の 意味を……。 そうだ。私は思った。彼らの言葉の意味を、『生』の誰かに教え、伝えねばならないのだ。 それが彼らの希望であり、宿願なのだ。もしかすると私は、その使命を彼らに託された? 目の前を飛び回る光の粒に向けて、私は腕を伸ばした。筋肉ではなく、脳内でイメージ するように――残滓は嬉しそう笑うと、小さな声で囁いた。 「姿と声を10秒間だ。その間は何にも触れられねえし、触られねえ。わかったか?」 ――……うん。 「まずは場所を指定して、化けて出る時間を指定しろ……時間指定はサービスだぞ?」 ――……ありがとう。 顔の筋肉が勝手に動く。 たぶん、私は今――微笑んでいるのだろうと思う……。 ――――― 犬たちはこの女の姿を見ても脅えはしない。またいつものようにマズい飯を持って来てくれたのだろうとしか考えてはいないのだろう。……手慣れたもんだ。残滓は安心して、様子を見る。 「……あなたたちの思いを、少しでも誰かに伝える方法を思いついたの」 犬たちは真剣に耳を傾け、聞いていた。自分たちの思いが少しでも……少しでも報われること……らしい。正直よくわからんが……何かあるのか?「今日のお昼ごはんは少しだけ残しておいて。そして夕方のチャイムが鳴ったら、残したご飯を咥えて、あの――少しだけ開けてある、鉄格子の窓の近くに放り捨ててみて……それで、あなたたちの思いは少しだけ報われる……。ずっとあなたたちの面倒を見ていたかったけど……ごめんね……ごめんね……」 ――10秒が経過した。「…………?」『死』の道を再び歩きはじめる女の後ろ姿を、残滓は口を開けて呆然と見送った。殺処分前の犬や猫なんてどうでもいい。そう思う、そう思っただけなのに……。 そう。残滓はその身に――強烈な悪寒と、凄まじい戦慄を感じていた。――――― 夕方5時を知らせるチャイム鳴り、動物愛護センターにも流れ聞こえた。 犬たちは残した餌を咥え、窓へ放り捨てた。 窓辺で佇んでいたオナガが、飛んできた餌を口バシでキャッチして飛び立った。 餌を咥えて飛ぶオナガを狙い、カラスが滑空した。 滑空するカラスを見て、野良猫が住宅街で脚を止めた。 住宅街を走っていたスクーターに乗る少年が、野良猫の出現に驚いて転倒した。 転倒したスクーターと少年からいくつもの荷物が散乱し、道路上にバラ撒かれた。 砕けたサイドミラーを拾うサラリーマン。 タブレット菓子を拾う子供。 財布や小銭や鍵を拾う少女。 ノートや文房具を拾うOL。 転倒した少年を助け起こす、中年男性やカップルの男子高生や女子高生……。 ほんの些細なことで、ほんの少しだけ運命がズレた人々は、それぞれの道へ、それぞれが歩きはじめた……。どこかの、何かの、得体の知れぬ思いを背に乗せられて……。――――― 数日後――。 女が最後――檻に囚われた犬猫たちに伝えた挨拶がどうしても気になって、残滓は再び『生』の世界へ意識を飛ばした。そして――信じられないものを見てしまった。 あの女の夫は……緑区の大高緑地の森の中で見つけた。瞬間、残滓は声を失って後ずさりした。「うっ……こりゃあ、ひでぇな」 雑草の上に全裸で転がる――それは死体だった。「ありえない……そんな……」 恐怖に打ち震えながら夫の姿を観察する。地面に横たわった夫の遺体には目玉がなく、苦痛に顔を歪めている。刃物か何かで腹を裂かれた痕があり、胃や腸がだらしなく雑草の上に垂れている。全身に肉が削がれたようなキズがあり、肉片と血でそこら中がおぞましく汚れていた。 ……生きたまま、動物に食われた? そう。間違いない。あの女の夫は死んでいる。それも生きたまま、文字通りの生贄にされたのだ……。 あの女の義父と義母は、港区の廃棄された商業施設で見つけた。その、あまりにも強烈で、あまりにも残酷な死に方に――残滓はガタガタと震えて息を飲んだ。 商業施設に残された下水の浄化槽の中……汚物と汚水の溜まるマンホールの中に、ふたりは閉じ込められ……400キロある蓋をこじ開けようと必死にもがき、のたうち回り、何日も何日も苦しみ続け、やがて――力尽き、絶命していたのだ! あの女を殺した実行犯は……正確には夫の不倫相手である(あの女は最後まで知らなかったのかもしれないが)彼女には、さらに残酷な仕打ちが用意されていた……。 彼女を見つけたのは昭和区の第二赤十字病院の病室、もちろん患者として、である。彼女のカルテをのぞき見て、残滓はたじろいだ。あまりにも冷酷で、あまりにも理不尽な仕打ちに、残滓はただ、ただ――たじろいだ。 彼女の病名は『原因不明』、症状は『重症心身障害者』……介助なしでは動くことも、食べることも、触れることも、喋ることも、聞くこともできぬ重度の障害……脳機能は著しく低下し、肺炎気管支炎も併発。死ぬまで、24時間、生涯――苦痛と絶望を強いられる運命……。 ありえない……あの女、まさかそこまで計算して、あの『挨拶』を? 嘘だろ……?いやいやいや、あの女は遺族や犯人に恨みは無い、と言っていた……。なのに? どうして?どうやって? ……理解できねえ。いや……理解なんてしたくねえ……。 翌日、残滓は『生』の光を完全に抜け、『死』の道を歩きはじめた。 その事実を誰かに伝えることはしなかったし、伝える相手もいなかった。 残滓が何を思い、何の結論に至ったのかは、誰にもわからない……。――――― 右投右打の元プロ野球選手が、死後、左利きであった可能性が高いと医師に診断された事例がある。アフリカで生まれた黒人男性が、死後、白人男性と同じ遺伝子色素を有していたとされる研究レポートが残っている。もしかすると、死後に開花する才能や能力は存在するのかもしれない。 けれど、もはや、それを確かめようとする者はいなかった。ただ――『死』の世界には、予知のような力を使い、たったの10秒で4人を抹殺できる能力を開花させた者がいるのかもしれないし――『生』の世界には、残虐非道な方法で人間を殺したいと願う動物たちがいるのかもしれない……。 確かなことがひとつだけ、ある。 そこにはただ、闇の中で『生の光』を探す女と、ペットのように横を歩く小さな小さな残滓の影が、ゆっくりと歩き続けているだけだった……。 ――――― 了 本日のオススメ!!! 酸欠少女さユりさん……。 つい先日新曲配信されたので試聴……うん。相変わらずのイカれた娘っぷりですね。 スタイルも顔もseesの好みではないし、言動のイカれ具合も好きではない、が、何ででしょうかねえ……彼女の歌と歌詞にはどこかパワーを感じますね……。歌詞もまるっきり意味わからんのですが……。オススメです。 上から新曲の『月と花束』『ちよこれいと』『ふうせん』の3曲。 一応、『酸欠少女さユり』、載せさせていただきます……。 お疲れサマです。seesです。 単発ショート復帰1作目、いかがでしたかね。今回は完全オリジナルですが、中身は『ファイナルディスティネーション』のオマージュ的な品になってしまったス。 これは去年の12月頃に下書きを済ませていたので、あんまり苦もなく作れました。制作時間は7時間くらい……かにゃ。内容はまずまずですが、固有名詞のチョイスに苦労したwwかなり自己満足作。ちとファンタジーすぎたかも、理解不能でしたらゴメン。 トータル70点くらいかな(笑) やっぱ楽だなーー、ショートはww seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでの フォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、 辛辣なコメントも大大大歓迎で~す。リクエスト相談、ss無償提供、小説制作の雑談、いつでも何でも気軽に話しかけてくださいっス~。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて💓 好評?のオマケショート 『死か、自腹か、』 sees 「なんてっ、たって~アーイドール🎵不倫は文化よ~🎵フッフ~🎵」 とある日。今は亡き?アイドルの名曲を口ずさみながら、seesは港区から 中区市街地へ続く湾岸一般道を14号と共に爆走していた……。 sees 「……ん? なんか臭いな……」 微かなコゲ臭……そして――。 sees 「――……!」 ガタガタと揺れる車体、ブレるハンドル、焦るsees。一瞬にしてテンパイ。 sees 「ホッピング(エンジン不具合による揺れ)かよっ! おいっ、14号っ、 大丈夫かっ?」 14号 「……タ、タスケテ、タスケテ、seesサン……」 sees 「城之内クーンっ! ……じゃなかった。バネット14号ぉぉぉぉっ!!!」 14号 「……ボク眠クナッテキタヨ……ボク20マンキロハシッタカラ、ツカレタヨ」 sees 「……死ぬな……死ぬな……死ぬんじゃあないっ! パトラッーシュッ!」 ……… ……… ……… その後、港区のセブンに車を駐車し、相棒のエンジンルームを開ける。 sees 「あのコゲ臭……やはり点火プラグか、焼き付いてやがる……いつエンジンが 停止してもおかしくはない……か……コゲくせえし……」 さて……どうするか……。seesは選択を迫られていた。 1――本社まで自力で戻り、車両整備のブタにブン投げ。ただし、この状態で 本社までたどり着けるかは不明。走行中に緊急停止した場合はレッカー移動& 土下座&死。 2――自力で回復。ただし自腹の可能性が高い。申請すればワンチャン金 くれるかもだが……seesのボーナス査定のためには……自己犠牲は必至。 どうする? どうする? どうする? ――― ――― エネオス 「――プラグ2本と工賃込みで、9000円になりまぁーすっ」 sees 「……カードで」 2本かよっ! クソがっ……畜生……畜生……しかし……まぁ……。 14号 「ヮリぃ~ス、seesハoィセ冫★ぉかけ〃τ〃また動けるヨウ~★ぉぉきに」 ……なぜギャル語? 若返った、てことか? ――まぁ、いいか。まぁ、良しとするか。 ケガしたまんまじゃ、走るのも辛ぇからな……。 了🚙=333 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.02.16
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 注意! こちらは最終話後編です。K-1はこちらへ。――――― 11月1日――。 名古屋市熱田区にある屋内霊園《熱田の杜 最勝殿》の参拝ブースに10数名の男女が立ち並んでいる。祭壇の前に立った澤社長は、『丸山佳奈』の名が刻まれたプレートと小さな壺とを交互に見つめ、両手の指を組んだ拳を額に押し当てながら、恰幅の良い体を震わせて泣き続けていた。 それはその場に居合わせた者全員の心を震わせてしまうほどに、辛く切ない悲鳴だった。こぼれ落ちそうな涙を瞳に溜めたまま、岩渕はゆっくりと視線を逸らした。そして、悲痛な声を上げ続けている社長の声をじっと聞いた。「……こんなに悔しいことはない。……こんなに悲しいことはない」 涙を流し続ける社長の背中を見つめ、岩渕は思った。《ユウリクリニック》の残骸からは女性の遺体がひとり発見された。遺体は顔も性別も特徴もすべて消えたバラバラの状態であったが、司法解剖と遺族からの証言により――遺体は永里ユウリ本人と確認された。 それは取り返しのつかないことだった。爆弾事件の真相も、《D》との関係性、岩渕や京子との関係性も……すべてが闇に葬り去られることを意味していた。 悪いのは佐々木亮介の狂気か、永里ユウリの悪意なのか……それとも、彼らを取り巻く社会の歪みが原因なのか……何もわからないままだった。永里の関係者は全員が『関係ない。あると言うなら証拠を見せろ』とうそぶき、遺族は弁護団を結成して検察や国と徹底的に争う構えを見せている。直近まで行動を共にしていたであろう警備部長の安藤は、《ユウリクリニック》爆発の直後、『もう会うことはない』と言い残し、何も知らされていない部下たちを置き捨てたまま――行方知れずとなった。安藤浩司、という名も偽名である可能性が高かった。証拠物件の宝庫だったはずの《ユウリクリニック》は院長室や私室を中心に吹き飛ばされてしまい、パソコンやサーバーのデータ・金庫の中身も予め処分や整理がされていた。問題の爆発物に関する製造元や入手ルートも依然として不明のままだ。《D》の証言も、駐車場での騒動も、事件や爆弾そのものとはあまり関係なく、警察の捜査は難航していた……。「……ねえ、岩渕……さん」 誰にも聞こえないくらいの小さな声で、京子は岩渕に囁いた。「……どうした?」 軽く息を吐き、隣に立つ京子の顔をのぞき込む。ずっと泣いていたのだろうか、京子は目元をハンカチで軽く拭うと、赤く腫れた目を開いて顔を向けた。「……気分でも悪いのか?」 岩渕が聞くと、京子はゆっくりと首を左右に振り、手を上げ、岩渕の頬を静かに撫でた。「……ただ、呼びたかっただけ……」 頬を撫でたまま京子が言う。 そう。 伏見宮家と永里家の関係性について、《D》と岩渕は何も語らなかった。それは澤社長や宮内庁や国からの命令や指示なのではなく、《D》全員の総意の結果であり、今回の事件と伏見宮京子は無関係だという証明に繋げるためだった。 幸い、宮内庁側に事件の関係者はなく、《ユウリクリニック》は岩渕の治療のため利用していただけ……という結論に落ち着いた。永里家との交友についても、伏見宮家は事業のパートナー以上の関係を否定した。伏見宮家の当主はいかなる団体の質問にも答えておらず、マスコミの追及もそこで終わった……。「……その子が、私らの命を救ってくれたんですね……」 参拝ブースの端に立つ男がそう言ったその瞬間、社長の体がビクッと跳ねた。そして、喪服の裾をひるがえし、「大村知事っ! 」と叫んで振り向いた。「大村知事……それに、河村市長まで……」 岩渕を含め、その場に居合わせた《D》全員が驚き――声の主を見つめる。愛知県知事、大村秀章。名古屋市長河村たかし。間違いなかった。「お久しぶりです……」 岩渕のすぐ前まで来た大村知事が言い、岩渕と京子は無言で頭を下げた。 報道はされていないが、あの日――グローバルゲートの視察に非公式で訪れていた知事と市長は、そのまま――…… 社長と祭壇へ向けて――……深々とお辞儀をした。 そして――……「ありがとう……ありがとう……ありがとう……」と、何度も、何度も、何度も……頭を下げた。 そうだ。丸山佳奈は守ったのだ。このふたりだけじゃなく、俺のこと、京子のこと、《D》のことも、あらゆる不幸から俺たちを守り抜いた。自分の幸福を投げ捨てて、他人の不幸から俺たちを守り抜いた……。 そうだ。丸山佳奈は不幸を奪い、幸福を授けたのだ……あの、佐々木亮介の理論を、根本から打ち砕いてやったのだ。そのことに、岩渕は気がついた。 知事と市長が《D》へ感謝の言葉を述べている。 何の脈絡もなく、ふと、母のことを思い出した。そして、思った。 あの日、俺が捨てられた日、確かにあった俺の不幸は――今もずっと、俺の中で蠢いているのだろうか? 本当に? 京子や《D》と出会えた運命は……つまりは……母がくれた最後の幸運であることのようにも思えた……。 もう……恨みも憎しみも……消えたよ……母さん……。 はじめて思うよ……母さん……俺を生んでくれて……ありがとう……。 八重歯を強く噛み締めながら、岩渕はそっと微笑んだ。 泣いていなかったはずなのに、その瞬間、笑みの中で涙が溢れた……。 ――――― 京子は岩渕の腕にすがりつき、彼の流す涙を見つめていた。 祭壇の前では社長と知事と市長が揃って感謝の言葉を繰り返し、周りでは《D》の社員たち全員が泣いている。 京子も泣いていた。佳奈さんのことを考えると悲しくて、悔しくて、涙が溢れて泣いてしまう。その気持ちに嘘はない。……嘘? 京子は思った。 岩渕のことは心から愛しているし、《D》のことも大好きだし、これからもずっと応援したいと思っている。その気持ちに嘘はない。 けれど――……何だろう? それだけじゃない……何か、こう……お腹の底から湧き上がる……この気持ちは……。こんな感情は……知らない。岩渕や《D》に対してのものじゃあない、ことはわかる。……このドロドロとした……黒くて、汚らわしくて、決して気分の良いものではない……この気持ちは……たぶん……アイツ……だ。「わっちらげぇんぜいにほんはぁー、あんたらでーの応援するだぎゃぁーで、こんからもながよぐしてくれんと助かるやでもー。ほんまになーありがとーう」 河村市長がわけのわからない名古屋弁を言い、《D》の社員たちが「市長、何言ってるんだかわからないです」と唱和して笑っていた。岩渕も笑い、私も笑った。 結果、市長も知事も《D》を認めてくれた。これからも《D》は発展し、名古屋の経済に少しずつ影響を及ぼす企業へと成長するのだろう。……それはいい。そんなことは、別にいいし、構わない。岩渕の幸せこそが、私の幸せでもあるのだから……。 大丈夫。いずれは父や祖父にも……必ず《D》と岩渕さんのことを認めてもらうから……。 「……ごめんなさい、ちょっと電話してきますね」 岩渕の耳元へそう呟いてから、京子はひとり外へ出た。周囲に誰もいないことを確認し、ハンドバックからiPhoneを取り出し、電源を入れた。 予定していた時間通りに、着信音が鳴り響く。 京子はiPhoneを耳に押し当て……そしてまた、考えた。 私は、許さないと言った。 私は……私だけは、決して、あなたのような、卑怯者を許さない。 そう言ったはずだ……。 私がさっき、佳奈さんの墓前で何を考えていたか、あなた、わかる? 殺す。 あなただけは、絶対に、殺す。 そう。 私は、未だ――激昂しているのだ……。 そして……。 ――――― 本日のオススメ!!! ↓岸田教団&THE明星ロケッツ様。 ↑インディーズ時代から認知はしておりましたが、発表されたばかりの新曲が↓我がブログの《D》の世界観と合うと感じましたので、急遽推すことに決定しました。 メンバーはリーダーの岸田氏とVoのichigo氏、Gtのはやぴ~氏、Drのみっちゃんで構成される4人の音楽グループ。熟練かつ安定した演奏にパワフルなichigo氏の歌声が絶妙……歌詞は厨二病的かつ明快、楽曲毎のイメージに沿っていて非常にわかりやすい。 アニメとのタイアップが非常に多いが、顧客の要望に合った楽曲を毎回完璧に提供できる技量はさすが。(まぁ、レーベルがアニメ推しの会社でもあるのだろうケド……) いや~……カッコイイっすわ(*‘∀‘)!! ↑から『ストレイ』『LIVE MY LIFE』『天鏡のアルデラミン』 岸田教団&THE明星ロケッツのオリジナル楽曲含む必聴のアルバム……。 当然seesは全部持ってマスッ!! ……が、同人関係のものは未入手……欲しいなぁ。 お疲れサマです。seesです。 最終話ということもあり、更新にやたら時間かけてすいません……<(_ _)> 何せ2部構成、というのは『愛されし者』以来、久しぶりのことでして……。 後書きも少し長めw 今回のお話は反省点も多々あり、読者様方には理解不能の部分もかなりあったと思われます。特に佐々木亮介のくだりと爆死の前後……ここらへんは割愛した部分も多く、到底seesも納得していた作りではなかったのですが……丸山佳奈氏のキャラクターをゴリ推しすることで誤魔化しました(笑)。 サービス回と手抜き回、ガチ制作回と毎回力の入れ方が違ったのも失礼しました。そこはseesのリアル仕事が忙しくて……下書きなしの書き殴り、寝ながら作る、アニメ見ながらセリフをそのままパクって書く、などの卑劣な行為の結果……変に違和感の残る文章が蓄積……大変失礼致しました。 お話全体の総括ですが……今回の主人公は京子様、ですね。岩渕氏はヘタれ役、澤社長は盛り上げ役、佳奈さんには生贄役、その他は適当な配分で構成。舞台は名古屋市。都市伝説と時事ニュースを混ぜ込んだ内容。季節感はゼロ。……うん。中途半端なデキやな~。 次回からはショートショートに回帰し、しばらくしたらまた《D》の短編ですね。今度はスケールの小さな……例えば殺人事件、温泉旅館、地下街、幽霊騒動、宝石盗難、なんかの小規模テーマで登場人物少なめの設定、かにゃ? まずは…単発ショートで原点回帰っ! 脳と腕が鈍ってなきゃオモロイの作れそう……。 楽天プロフィール終了、しちゃいましたねww フォロワーの方々、短い間ではございましたが、訪問・応援・コメント、誠にありがとうございました。あまり訪問行けなくてすいません……ホント、操作性不具合というか、機能性無知というか……出不精というか……とにかくすいません。読み捨てゴメンです……(´;ω;`)ウゥゥ(わりと記事を見に行ってはいますので……) seesに関しての情報はもっぱらTwitterを利用させてもらってますので、そちらでのフォローもよろしくです。リプくれると嬉しいっすね。もちろんブログ内容での誹謗中傷、辛辣なコメントも大大大歓迎で~す(seesも大人ですので、「ならお前作ってみろ」などの返しはしませんよww)。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『優しくない街……』 次長 「……アッチとコッチ回って書類受け取って来い。ついでに東京インテリア 行ってアレやコレや受け取って来い。車は……アトラスでエエやろ?」 sees 「ブ、ラジャーです(^_-)-☆✌」 ヒヒヒ……いや~久しぶりのアトラスは萌えるねぇ……。やはりこの デカいハンドル。高い車高(2t)。広い運転席。そして……―― sees 「どけやーーーっ、アトラス様のお通りだーーいっ!!! そこのCRZッ、 てめーら踏み潰すどーっ!! ちょこまかすなやっ!! 無駄無駄無駄無駄ぁっ!!」 あああ……。 この重量感と視界の広さ、体感あるスピードと重力……やっぱりトラックは エエなーー💓恍惚💓 sees 「……あ゛ーー気持ち゛いい゛ーーー……愚民どもを上から見下ろすこの 感覚、たまらんぜよ……」 気分は世紀末覇王かニュータイプか……そんな気分で市街を爆走するseesで あったが、そう――そんなイイ事がずっと続くワケはない……。 ……… ……… ……… ――!! ヴ……事業所付近に、停めるスペースが無い、だと? じ……じまったぁ゛…今日は日曜か……。駐車できねぇ……。 そう。目的地付近の駐車場にはコインパーキングしかなく(普段は何にも 考えず利用するだけ)、完全に想定外。 sees 「……しゃーない。とりあえず近くのコンビニで(もちろん許可をもらって)。 徒歩で行くか……」 ……… ……… ……… 良し。書類も受け取ったし、あとは東京インテリアか、あそこは駐車場も あるし問題ないやろ……。 そう。 その安心感からか、私はカン違いしていた……いや、少し違う。ボケていた。 よーし着いたぞ。さぁーーーて……。 ( ゚Д゚)!! キキィィーーーッ!!! seesは急ブレーキを踏む。 ブブーッ!! 後続から響く激しいクラクションの嵐……。 そう。癖だ。クセで、やらかしかけたのだ……。 seesがいつもイオンへ買い物に行く時のクセが出てしまい、何と……屋上 駐車場にトラックを放り込もうとする――大事故が起こってもおかしくない、 重罪クラスの過失をヤラかしかけたのだ……。 頭上に見える『制限2.2メートル』の看板……。 sees 「……夢だ。これは……夢だ……」 seesは涙ぐみながらハザードを灯らせ、窓から謝罪し、鳴り響くクラク ションを聞きながら―― ――後続の、怒りの形相でseesを睨むオッサンの車を見た……。 ……偶然にも、それは――CRZ。車社会の名古屋での別名『走るゴキブリ』。 いい歳したオッサンがスポーツタイプ乗るなよ……。 seesはそう思い……そう思いながら、涙した(´;ω;`)ウゥゥ畜生……。 😢了😿こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング ――――― また……退屈になっちゃったな……。 真昼の太平洋。大海原の中心に、女はいた。 女は小型クルーズ船であるサンロイヤル・エンプレスのメインサロンでミルクティーを啜り、名駅高島屋のミッシェル・ブランのマカロンを齧りながら、思った。そして、先月に起きた名古屋での爆弾事件のことを、まるで他人事のように思い返した。 ……楽しかった。本当に、心が躍るように楽しかった。 佐々木亮介の精神を完全に支配していく過程……彼が本当に私からのプレゼントを受け取り、躊躇わず使ってくれるのか、という不安……人々がパニックに陥り、警察が必死に犯人捜しをする様子……丸山佳奈の死と死の動画、それをアイツらに送りつけた時の高揚感……慈しみ合う、ロマンチックなふたりのやりとり……戦う者たちの闘志、怒り、苦痛、流される鮮血……。そして、最後まで『永里ユウリ』を慕ってくれた――たったひとり残した――身代わりのために用意しただけの――あの美しい受付嬢の体を縛り、口と鼻に濡れたタオルを押し当てた時の感触……そう……はじめての、殺人。自分が直接殺した人間の、あまりにあっけなく死んだあの瞬間は……。 ……楽しかった。本当に、楽しい日々だった。 そうだ。これが私のすべてなのだ。……脳内を巡る光景を眺めながら私は思う。 私は退屈が嫌いなのだ……退屈するくらいなら、誰かを殺してでも解消する……。 人生は長い。けれど……無意味で無価値な時間を過ごしたくはない。有り余るカネを使い倒し、世の中の刺激を味わい尽くさねば……私の生きる意味なんてない。……おそらくはこれからも、私は私の退屈を満たすため、誰かの幸福を奪い続けるのだろう。その理論を教えてくれた亮介クンには、本当に感謝している。 そうだ。奪えばいいのだ。『退屈』が私の不幸であるならば、他人の幸福で穴を埋めよう。……それだけだ。それだけのことなんだ。……しかも、私はそれを簡単に実行し、叶えることができる。それが、嬉しい――。 次はどこで何をしよう? 計画を考える時もまた、女は――永里ユウリは興奮した。 メインサロンのソファのすぐ脇に立っている若い男の存在に気づいたのは、ユウリが3枚目のマカロンを口に入れて間もなくのことだった。男はポケットからスタンガンを取り出して――……。 ――――― 僕のすぐ目の前、クルーザー後部のアフトデッキの上には、両手両足をロープで縛られた永里ユウリが俯せに横たわっている。デッキの階段にはユウリの体から剥ぎ取られた貴重品が散乱している。カルティエの指輪と腕時計。エルメスのブレスレット。ハリー・ウィンストンのネックレス。ブルガリのダイヤのピアス。 性的な目的からではないので、衣服は着たままだ。ただ、これから僕のすることを、さらに効果的にするためだ。それだけだ。 当然だが、殺してはいない。スタンガンの衝撃で一時的なマヒ状態にしただけだ。ついさっき、クルーザーの操縦者らしき女性の部下にも使用したが、問題はなかった。 さて……この女の運命は、いかに? ……まぁ、予想はついてるんだけどね。僕は微笑む。「……お前、どうやってこの船に入り込んだ? ……目的は何? ……私を殺す気か?」 デッキの上に体を起こした女は、歯を食いしばり、怒りと憎しみの入り交じった凄まじい形相で僕を睨みつけた。 敵意を剥き出しにしたユウリの発言に僕は驚く。調査を続けて何日か経つが、彼女のこういう言動は見たことがなかった……これが素、なのかな? 別にどうでもいいが。 僕は微笑みながら、言う。「まず、ひとつ目は――エンジンルームに隠れてました。ふたつ目は――泥棒と依頼です。みっつ目は――あなた次第です」「こんなことをして……お前っ、ただじゃあ済まさないからなっ!」 ユウリは猛烈な怒りに頬を紅潮させて、全身をブルブルと震わせている。おそらくは、その脳内で僕は惨殺されているのだろう。「……私の家を甘く見るなよ。貴様と、貴様の家族も皆殺しにしてやる……」 僕はデッキの階段に腰を下ろし、足元に転がるユウリの近くまで脚を伸ばすと――瞬間、ユウリがワニのように体をよじらせ、僕の足首を噛み千切ろうとする。僕は慌てて脚を曲げて引っ込める。「まぁまぁ……そう怒らないでくださいよ」 こんな女と話していてもつまらないだけだ。……どうせこの船も、この船に積まれた多額の現金も、美術品も、貴金属も、全部僕のものになるのだから……さっさと仕事を済ませよう。そう思った。もちろん、この女の生死のことなど興味はない。「……ねえ」 ユウリが言う。「ねぇ……あなた」 ユウリの口調が急に変わり、思わず彼女の顔を見る。「あのね……今だったら……許してあげる。あなた……どうせ《D》の連中に頼まれたか、関係者でしょう? 今だったら……何もなかったことにしてあげる……」 デッキに顔を擦りつけた女は、潤んだ瞳で僕を見つめる。今にも号泣しそうな顔を歪めて媚びるかのように言う。「……お金ならあげる……私の体も好きにしていいから……お願い……命だけは助けて……何でもする……何でもするから、お願い……お願いよ……」「……非常に興味深い提案ですが……残念ながら、その決定権は僕にはありません。それは誰か? あなたも察しがついてるんじゃないですか?」 そう言って、僕は優しく微笑む。「ちょうど時間ですね……さて、皇女殿下の判決は?天国か? 地獄か? ――まぁ、どちらも似たようなものですがね……」 ここで、ユウリの口調が再びヒステリックに変わる。「クソ女がっ! ……生まれの幸福だけで生きてきたような、クソアマッ! 不良品とくっつけて人生台無しにしてやろうと思ったのにっ……畜生っ! 畜生っ!」 ……不敬な発言ですね、ホント。 男は――川澄奈央人はまた微笑む。 そう。川澄は依頼されたのだ。依頼内容は、逃走した永里ユウリの身柄の確保。報酬はユウリの個人資産の一部。断る理由はない。あるわけがない。 そして……川澄はクスクスと笑いながら――…………――スマートフォンのパネルを操作した。―――――「こちらも大変な損害です。ケガ人も大勢いますし、少額で構いませんので、その……寄付をお願いできませんか? 澤社長にも恩を売ってみてはいかがです?」 川澄は困ったかのように笑うと、やがて了承した。本当は伏見宮家で《D》の方々の治療費は負担しても良いのだが、いかんせん、父や祖父が納得する理由が思いつかない。 今現在――川澄が電話の向こう側で何を考えているのか? 何を実行しているのか?京子は決して質問はしない。問うたところで特に思うことなど何もない。 思うことがあるとすれば……これからのことを思うことがあるとすればひとつだけ、ひとつだけ、心に決めていたことがあった。 ……守り抜いてみせる。 ……これから先、何があっても、何が起きても、私が《D》を守ってみせる。 それだけだ。そのシンプルな答えだけが、今の京子のすべてだった。『……ところで――この人……どうします? 生かして警察にでも連れて行きますか?』 川澄がわざとらしく聞いた。 永里ユウリはまだ生きている。本当は、会って直接言いたいこともあるのだけど……。もういいや。もう、いい。どうせユウリが死ぬ瞬間に立ち会えないのでは、面白くない。「……もう、結構です。そのまま――……」 今すぐ、あの女の息の根を止めてもらうことにする。「……海にでも捨ててください」 ……守り抜いてみせる。 何をしても、何を失っても……何が何でも……。 岩渕も、《D》も、私のものだ……誰かに奪われてなるものか……。 彼を愛しているのだ……この気持ちは……私だけのものなのだ……。 了
2018.02.07
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月20日。午後4時40分――。 困惑と驚愕に顔を歪ませて、目の前に立つ安藤がゆっくりと言葉を発した。「……信じられない……どういうことだ? ……何が起きている?」 安藤は唇を震わせて澤の顔を見つめた。次いで周囲を見まわし、それから背後を見まわし、そのあとでダメージを負いアスファルトに倒れた何人かの部下を見つめた。そして、ようやく自分たち《警備部隊》の数が減り、《D》の数が減っていないことを理解した。「おい……傭兵ども……それとも、非国民か? 売国奴か?」 引きつった顔で自分を見つめる安藤に澤は言った。「お前は……お前らみたいに血とカネしか興味のないようなゴミどもは……この街に不要なンだよ……まさか……自覚がないわけ、ないよな?」 安藤は血まみれになったジェラルミンの盾を見つめた。それから「……そうかもな」と声を震わせて頷いた。 安藤は澤と同じくらいの歳だろう。頭髪が白く短く、肌が浅黒く焼けていて筋肉の隆起が装備の上からでもわかる。その筋肉で覆われた肉体が未知の恐怖に脅えている。「ぐげぇっ!」 弾き倒した《D》にトドメをさそうとした警備隊員は一歩進んで盾を水平に持ち替えた。しかしそれ以上前に進めない……。隊員が足元を見つめた時、違和感の正体がわかった。脚の骨を折った《D》の若い女が隊員の脚にすがりついて離さない……。「このっ、クソアマッ!」 両手ですがりつく女の顔面を蹴りあげようとした瞬間――隊員の内臓に激痛が走った。今さっき倒したハズの《D》の男が蘇ったかのように立ち上がり、隊員の脇腹に前蹴りを食らわせた。蹴りは油断していた隊員の肝臓を一瞬にして破壊した。「ひっ」 隊員は地面に倒れ、胃液吐き散らし、涙を流して激しく悶えた。 激しい乱闘の末――。 ひとり……ひとり……またひとり……。 安藤は自分が指揮する隊の人間が次々と倒れ伏し、《D》の人間たちが誰ひとり欠けることなく動き続けている光景を――信じ難い驚きと、凄まじい恐怖に囚われて、見た……。口から赤い泡を吹いて悶絶する隊員を……奪われた盾で執拗に叩きのめされている隊員を……土下座して許しを乞う隊員を……焼けたフライパンに放り込まれたエビのようにのたうちまわり、苦しげに「安藤隊長……」と助けを呼ぶ隊員を――見た。見続けていた……。「……格付けは済ンだな」 澤は呆然と立ち尽くす安藤に向けて――まるで逆転の満塁ホームランを打った野球選手ように――勝ち誇って微笑んだ。「……永里……あの女のところへ行く。止めるなよ?」「それは……無理だ」 恐怖に震えながら安藤が応える。「無理?」「ああ……『行け』なんて言えるわけないだろ? 私も……ケジメをつけなきゃならん」 恐怖に震え続けながらも、安藤は微笑んだ。「……そうか、ケジメか……不器用な生き物だよ。『男』ってヤツは……」 低く笑い返すと、澤は視線を左右に動かした。「鮫島っ! 宮間っ!」 左右から同時に現れた男女が安藤の盾と腕を掴み、体を抑え込む。――刹那、澤は固く握った右の拳を思いっ切り――微笑む安藤の顔面に叩き込んだっ!「うぐぅ!」 安藤が悲鳴を上げた次の瞬間、左の拳を安藤の顔面に叩き込む。右……左……右……連続で……叩きのめす。「ぐぐぅ……うぐぐ……ぐぐっ……」 血ヘドを吐いて、安藤がくぐもった呻きを漏らす。そのまま膝から崩れ落ちるも――男の目は意識を失ってはいなかった。「……お前らは……何だ? なぜ……立ち上がれる?なぜ……立ち向かって来れる? あれだけ痛めつけてやったのにっ……なぜだ? ……その力は……何だ? 小銭を集めることしかできねえような……中小企業の、クズ共が……こんなことは、ありえない……ありえねぇんだよ……」「……知らん。まぁ……しいて言えば……アレだ……頼まれたからだよ」 澤はそう言って笑うと、血まみれの長い髪をかきあげる宮間有希と、ボロボロになったスーツのホコリを払う鮫島恭平の顔を見つめた……。「……そうね。結局はそう考えるのが妥当かも。それにしても、不思議ね。姫様のお声を聞いたあたり、だっけ? 何だかあなたたちに対する怒りも憎しみも……今はあまり感じないわね……」「……ステゴロなんて久しぶりだからな。俺はそれだけでスッキリしたぜ?」「……これだから元プッシャー(麻薬売買人)は……頭、イカれてんじゃない?」「うるせえぞっ! 元ポン引き女(売春斡旋業者)が……中間マージンで食うメシはさぞウマいんだろうなぁっ!」 安藤は愉快そうに笑う3人を交互に見つめ、それから――自身と、自身の隊の敗北を認めたかのように……静かに……瞳から力を抜いた。「……『やっつけて』とアイツに頼まれた。皇女殿下にも応援を頂戴した。負けるワケにはいかねえ……それだけだ……それだけのことだ……」「……そうか……そう、なんだよな……」 安藤は力なくそう呟くと、震える腕を懸命に持ち上げて、《ユウリクリニック》の3階を指で示した。「……察しもついてると思うが……爆弾は院長室だ……さっさと避難しろ。5時になったら、ボンッだ……」 その瞬間―― 安藤を除く、《D》も《警備部隊》も関係ないすべての者が―― 驚愕と戦慄に身を震わせた。「岩渕の野郎……そこに居るのはわかってンだよ……畜生が……」 低く呻くように、澤は呟いた……。――――― 終わった。 駐車場での戦いが終わり、京子の手を振りほどく。彼女が俺の名を呼ぶ声を聞く……。そして、自分の価値と、未来のことを考える。頭を抱えてしゃがみ込み、ひたすら考える。 ユウリの言う通り、俺は不良品……なのだと思う。何の価値もない男だとも思う……。なぜ、そう思う? ……簡単だ。俺は廃棄されたのだ。父にとって、母にとって、家族にとって……俺という人間は何の価値も無いのだろう……そんな自分が、そんなゴミのような男が自分を捨てて、都合よく他人に成り替わろうとした。自分を捨ててしまうような――あっけなく全てを諦めてしまうような――……最低な人間。たとえ一度でもそんな決断をしたバカな男を――彼女はどう思うのだろうか? 彼女は、『そんなことはない』と言ってくれるのだろう……。けれど、その言葉を簡単に信じられるほど、俺は子供ではない……。 暴力・窃盗・恐喝……積み重ねた悪しき過去は、努力と贖罪によって晴らされると思うのは間違いだ。 早ければすぐ――そして、遅くともやはりすぐ――俺の素性は世間に発覚し、京子とは引き裂かれるのだろう……。 別にそれは構わない。殺されようが、死刑になろうが、そんなことはどうでもいい。分をわきまえず調子に乗って裁かれたヤツは、有史以来、腐るほどいる。……結局、出会ってしまったことが罪なのだ。……こんな結末が、俺にはふさわしい。 ただ、俺のせめてもの願いは、《D》に謝りたい、裏切るようなマネをして申し訳ないと、心から謝罪したいということだけだ。 たとえ皆に殴られ、蹴られ、裏切り者として解雇されたとしても――謝り続けたいということだけだ。 だが、たぶん……それも難しいだろう。 こんな男の話を誰が聞いてくれるのだろうか? 身勝手な自己愛だけが肥大しただけの、『愛』の意味すら理解できぬような不良品の謝罪を、誰が受け入れてくれるのだろうか?「……京子、教えてくれ。お前はどうして、俺や、みんなや、両親から愛された? ……いったいどこで、そんな方法を学んだんだ? ……教えてくれ……俺はどうすれば……どう生きれば……俺の望む生き方ができる? わかんねえんだ……どうしてもわからないんだよ……」 気がついた時、京子は震えながら泣いていた。「……大丈夫。心配しなくても、いいよ。……不安に思わなくても……いいよ……」 そう言って岩渕の前に膝を下ろし、ギュッと強く抱き締められる。互いの額が触れ、暖かい涙が岩渕の頬に流れ落ちた。「……心配しすぎなんだよ……考え過ぎなんだよ……だから、もう、泣かなくてもいいよ」 岩渕を抱き締めて京子が言った。「……ほら、外にいるみんなの声を聞いて……誰も、あなたのことを嫌ってなんかいないよ……」 彼女が言った、まさにその時――窓の外から自分を呼び、自分のために叫び、自分の抱える闇をすべて打ち砕くかのような――《D》の声が響いた。「悪かったよっ! 今回の件はすべて俺に責任があるっ! 許せっ! 申し訳ないっ!」「コイツらから話は聞いたわっ! 煽った私にも責任があるっ! ごめんなさいっ!」「岩渕っ! 爆発するぞっ! 姫様連れてさっさとそこを出ろっ! 危険だっ!」「岩渕っ!」「岩渕先輩っ!」「マネージャーッ! 急いでくださーいっ!」「ケガ人とクソ野郎共はアトラスに乗せましたーっ! あとは岩渕さんたちだけですよーっ!」「永里のことは放っておけっ!今すぐ降りて来いっ!」「――ズラかるぞっ! さっさと来いっ! 《D》に……ウチに帰るンだっ!」 涙をぬぐい、京子の手を取る。迷いはない。何もない。あるわけがない。 ふたりで院長室の扉を抜け――階段を駆け下り――玄関を走り抜け――《D》の皆と一緒に走り抜ける――。 ふたりでフィアットに乗り込み――エンジンに火を入れ――アクセルを深く踏む。「悪いが……今日、俺が言ったこと、泣いたこと、全部忘れてくれ」 京子は少しだけ驚き……少しだけ笑い……少しだけ、いたずらっぽく微笑んだ。「それは……ムリか、な……」「コイツッ……今度、覚えてろよ……」 京子が笑い――そして、岩渕とふたり……ルームミラーの中で爆炎を上げる《ユウリクリニック》の残骸を見つめ続けた。運転席の窓を開き、ユウリの顔が印刷されたパンフレットを放り捨てる。 顔の皮膚が燃えるように熱かった……。――――― k-2 へ続きます。 休憩です。 最近お気に入りの楽曲ス。よろしければ、試聴後にk-2へ。ふぃ……。ごめんちょっち更新待ってて……今月末までには……。一話分の前編仕様、短い。ごめん。修正すらしてない。ごめん。また作り直す。また来てください……。
2018.01.30
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月20日。午後4時00分――。 ついに――澤社長が壊れてしまった。 ひび割れかけていた彼の精神が、その瞬間、ついに破壊された。「うおおおおおおおおおっ!」 愛しき者を失った男が、獣のようなうなり声を上げて目の前の中年の男に襲いかかった。「うおおおおっ、殺してやるっ!」 だが、獣が男に触れることはできなかった。男の持つジェラルミンの盾が社長の拳をはじき返したのだ。 男は姿勢の崩れた社長の胸に盾をあてがい、ラグビーのタックルを思わせる強烈な一撃を与え――社長を3メートル近く吹き飛ばした。社長の体がアスファルトに激突し、鈍い音が響いた。 だが、社長は次の瞬間には立ち上がっていた。そして、再び男に飛びかかった。もちろん、男はさっきと同じように、何の苦もなく社長の肉体を数メートル先のアスファルトに強烈に叩きつけた。 それでも社長は諦めなかった。「……クソがっ!」 アスファルトに叩きつけられるたびに立ち上がり、うなり声を上げて目の前の男のに飛びかかっていった。そして、そのたびに嫌というほど激しくぶちのめされた。 社長だけではない。 全員が似た黒いスーツ、見覚えのある男女、《D》の社員たちもまた――獣のように叫び、うなり、目の前の男たちに立ち向かっていった。そのたびに拳ははじき返され、腕を掴まれ、体当たりをかわされ――固いアスファルトの上に叩き落とされた。 盾で顔面を殴打される《D》、脚で踏みつけられる《D》、男も女も関係なく叩きつけられ、ぶちのめされる《D》、鼻や歯がへし折れ、皮膚がズタズタになり、流血し、血を吐き、壊される《D》。私の好きな人たち……私の愛する《D》、……私の幸福のすべて――。 あああっ……。 いやだっ……いやだっ……。 どうして? ……どうして? ……どうして、こんなこと……。 京子は見ていた。院長室の窓の前で、岩渕に腕を掴まれ、体を震わせて、大粒の涙を溢れさせ――ただ、見つめていた。子供のように泣き、呻き、喚き、ただ見つめていることしかできなかった。「……やめてっ! お願いっ! もうやめてっ!」 細い体を激しくよじって京子が壮絶に叫ぶ。「やめてっ! いやーっ!」「しっかりしろっ!」 腕を掴む岩渕が怒鳴った。「京子……俺の話を聞いてくれ。《D》のことは諦めろ。そして……俺と一緒に東京へ行こう。そこで……一緒に暮らそう」 一瞬、何を言われているかがわからず、京子は岩渕の顔を見つめ返した。「……どうやら何もわかっちゃいないようですねえ……しかたありません。クイズの答えをご教授させていただきましょう……お代はあなたの幸せ、ということで」 永里ユウリが背後から言い放ち、京子は歯を食いしばった。涙を強引に抑え込み、服の袖で目元を拭い、「……岩渕さんに、いったい、何をしたんですかっ?」と叫んだ。「うふふ、コレですよ。岩渕さんはぁ、コレが欲しくて欲しくてたまらないんですよぉ」 ユウリの嬉しくて、楽しくてしかたがないという声が聞こえた。彼女が白衣のポケットから取り出したソレは……。「……個人番号カード。通称――『マイナンバーカード』です。まぁ、コレは私個人のもので、岩渕さんのモノは別のところに隠してありますが……」 京子は呆然と岩渕を見つめた。とたんに、彼は京子からの視線を外し、卑屈そうに顔を歪めた。京子の瞳にまた涙が溢れ始めた。――――― 香川県の高松市に《松の里》という特別養護老人ホームがある。そこに5年前から入居している『岩渕』という名の夫妻がいる。 それだけなら別に、いい。別に、どうでもいいことだ。 夫妻は2人とも重度の認知症患者であり、家族・親類縁者はいなかった。ここだ。ここが重要なのだ。ここで、この2人の重要度は跳ね上がる。 岩渕夫妻の夫は元公務員であり、定年退職するまでに目立ったトラブルを起こした経歴はなし。 岩渕夫妻の妻は元公務員であり、結婚退職するまでに目立ったトラブルを起こした経歴はなし。 2人とも犯罪・事故歴なし。共に裕福な家庭に生まれ、共に高い学歴を持ち、共にやましい噂、社会での立ち居振る舞いなどの諸問題の一切ない夫婦。 2人とも生粋、かつ純粋な日本人家系に生まれ、DNA、病歴も問題なし。 そう。完璧だ。『岩渕夫妻』は完璧な道具になり得る素材だった。私は歓喜した。さらに喜ばしいこととして、彼ら夫妻には子供がいないことも幸いした。……躊躇う理由などない。 後は簡単だ。彼ら夫妻がかつて住んでいた地域の役場と、永里家が権利を所有する教育機関の関係者にカネをバラまき――作る。夫妻の子供として、健全な男子として、純粋な日本人として、作り……作った。完璧な血統、完璧な経歴を持つ者のマイナンバー……。その登録名は、当然、『岩渕誠』本人。 これは写真を模しただけだとか、他人のナンバーを上書きしたとか、そんなレベルの代物ではない。本物だ。本物なのだ。 だから……結婚もできる……相手がどんなに高貴な存在だとしても、だ。児童施設に放り込まれるような不良品では決して叶うことのない愛も、夢も、叶うことが可能なのだ。『……想像してみてください。あなたの生い立ちのせいで、姫様がマスコミに追いかけ回され、疲弊して痩せ衰える苦労を……。あなたの過去の犯罪歴、バレてないとでも思いましたか? 学生時代の暴力事件、万引き行為などの窃盗、《D》の客に対する恫喝、会社に対しての数々の横領……それと――無意識なのかもしれませんが、自殺未遂も繰り返してましたよね? ……本当、不良品ですね……あなた』 不良な人は更生できる。だが、不良品は違う。不良品は廃棄されるべき運命、不良品は良品に淘汰されるべき運命なのだ……。 だからこそ、私は彼に言い続けた。『駆け落ちでもしますか? その後に待っている人生に責任は取れますか?』『断言します。今のままでは……あなたは必ず破滅する。例え姫様と別れたとしても、です』『そこらへんのくだらない女と結婚して、グレーな企業に死ぬまで奉仕して……それでも、まぁ、そこそこ幸せな人生を送れるのかもしれない。ケドね……いいんですか? あなたがクソみたいな商売女を妻として抱いている間――姫様はどこかの良家に嫁ぎ、そこの男に死ぬまで利用され、抱かれ続けていてもいいんですか?』 私は彼を見つめ続け、言い続けた。だがやがて、彼の目から涙が溢れていき……両手で髪を激しきかきむしり……彼は、消え入るような声で呟いた。『……イヤだ。……そんなことは、絶対にイヤ……だ。京子は……俺のものだ……』 彼が私の計画に加わることを了承する……その瞬間、私は心の中で笑う。盛大に笑う。 ……だって、そうでしょ? ――不良品に未来なんて、あるわけないじゃん。壊れる時が遅いか早いか、それだけのことでしょう? 私が用意してあげられるのは、せいぜい、『夢の延長』だけ。その後のことなんて、どうでもいいし……ねえ? 姫様?――――― 目を逸らす岩渕の横顔を、京子はそっと撫でた。 ユウリの話を聞いて……彼の悩みや、彼の痛みを聞いて……彼のことが、彼の根本に何があるのかが……少しだけ、ほんの少しだけ、理解できたような気がした……。 岩渕さんは……自分自身のことが、本当に嫌いなんだ。生まれも育ちも劣悪だと思い込み……憎み、怒り、忌避して、隠して……ずっと、ずっとずっと苦しんでいた……。 彼は顔を歪ませたまま、ゆっくりと視線を私に向け、呟くように言った。「一生苦労はさせない。死ぬ気で働いて、死ぬまでカネを稼いで、必ずキミを幸せにする。だから……俺と一緒に、行こう。……後悔はさせない、頼む……」 その言葉は嬉しかった。死ぬほど嬉しかった。彼の申し出を喜んで受け、彼と一緒に生活する光景を想像……したかった。彼に抱かれ、彼に愛していると囁かれる光景を想像……したかった。でもそれが、どうしてもできなかった……。「……わからないの?」 京子は岩渕の顔を見つめて微笑んだ。その顔が、たちまち涙で見えなくなった。「……自分を嫌って、自分を捨てて、その先に得た幸せに……何の価値があるの? お願い……だよ……自分を見捨てないで……私があなたを好きなように……あなたも、あなた自身を好きでいて……お願い、だよ?」「……俺は……違う……そんなことは……」 岩渕が呻き、崩れるようにして床にうずくまった。そして、京子の腕から手を離した。 次の瞬間――ユウリから「ふーっ」と深い溜め息が漏れ聞こえ、「つまんないの」と舌を打つ音が響いた。「……大人しく不良品と結ばれて、いつか壊れる瞬間をこの目で見届けたいと思ってはいましたが……ダメですね。岩渕さんとの契約は無効です。使えないなぁ……何の価値もない、やっぱり……親に廃棄された不良品だから、ですかねえ……」 ユウリが呆れ果てたように岩渕を見下して、京子は奥歯を噛み締めた。「黙りなさいっ!」 京子が怒鳴り、ユウリがビクッとして後ずさった。「あなたはっ、自分の思い込みだけで動いているっ! それも自分の手を汚すことなく、ただ他人を利用するだけ利用して……そんな価値観が……そんな汚れた価値観を持つ者など……私は絶対に許さない!」 吐き捨てるかのように叫んだ後で、今度は京子が岩渕の手を握った。そして窓のガラスを思い切り開き――深く、大きく深呼吸をし――……声の限り叫んだ!「――社長っ! ――《D》の皆さんっ! ――負けるなっ! ――諦めるなっ!」 いなくなってしまった佳奈さんのために戦う彼らを、京子は必死に応援した。負けるわけにはいかなかった。諦めるわけにはいかなかった。……陛下のように、国民すべてに勇気と希望を与えられる力はないのかもしれない……けれど、少なくとも、少なくとも……目の前で戦う《D》の人々にだけは……与えたかった……負けない力と、諦めない心を……。「……わからない……意味が、わからない……」 応援を続ける京子の姿を、永里ユウリは意味もわからず、ただ呆然と見つめていた……。――――― ……なぜ、立ち上がれる? 男は思った。ついさっき、男は目の前の女の顔面に盾をぶち当て、さらに倒れた女の肩を踏み潰した。アスファルトに後頭部と背部を激しく叩きつけられ、全身の骨と間接に致命的なダメージを負わせた……ハズだった。しかし……女は立ち上がる。 凝視すると、女の左腕がブラブラと揺れている……骨折したか、脱臼したか、どちらにしろ想像を絶する苦痛のハズだが、女は平然と立ち上がり、なおもこちらに立ち向かってくる。 男は、上司にあらゆる発言を禁止されている。けれど、1度だけ、どうしても尋ねてみたかった。尋ねてみずにはいられなかった。 「……なぜ、立ち上がれる?」 歯を何本か失い、唇からダラダラと血を流す女は男の目をじっと見つめた。そして、呟くように言った。「……さぁ? よくわからないわ。……ただ――諦めて自分から倒れることだけはしたくないの。こんな風に思えるなんて、たぶん、アタシの……クソッたれな人生ではじめてかもしんないし……マジで、何だかわからないケド、力が湧いてくるの……すごく暖かくて……痛みも、そんなに感じないわね……やべぇ……生まれ変わった気分だわ……」 男はそれ以上は聞かなかった。いや……聞けなかった。 男は突如、背後から《D》の男に忍び寄られ、首を絞められ――あっけなく盾を手放し――さらに別の角度から歩み寄られた中年の男に盾を拾われて――……「――野郎どもっ! 皇女殿下の声を聞けっ! 『我ら官軍』だっ! ぶっ倒れてる暇なンてねえぞっ!」と叫ぶ声を聞き――そこで、意識を失った……。 ――時刻は夕方の4時半を回ろうとしていた……。 決着の時は迫っていた……。――――― ……神武天皇、神々の御子による祝福? 恩恵? 転生と、転成を促す力? ……これが、まさか……お姫様の、力?「まるでオカルトですね……これは……」 様子を窺っていた若い男は、静かに呟き、困ったかのように微笑んだ。――――― 『激昂するD!』 k(最終話)に続きます。 本日のオススメ!!! Orangestar 様 Orangestar 氏↑ 主にIA氏を中心に動画にて楽曲提供されている有名P。無数にあるボカロ関係楽曲の中でもかなりレアな方(seesの知っているCDでも4枚くらい?)。しかしながら動画再生数は結構すごい……。 内容は歌詞3、メロディ7の抑揚重視派。ギターやドラムより、ベースやピアノを多用する傾向があり、どちらかというとしっとり。勉強や運転など、集中時には良いかもしれません。ただカラオケには不向き。感動はしてもヘビロテはしない。 seesは好きでよく聞きますが……本当、歌詞は意味不明。 ↑Alice in 冷凍庫 / feat.IA ピアノの旋律が美しい……。 ↑DAYBREAK FRONTLINE / feat.IA ……何度でも聞ける。 ↑空奏列車 / feat.IA×初音ミク ……素敵な曲だ、と思う。 Orangestar 氏のオリジナル楽曲含む必聴のアルバムたち……seesは全部持ってマスッ!! お疲れサマです。seesです。 皆様、正月はいかがお過ごしでしたでしょうか? seesは2日だけあった休日を動画閲覧だけで過ごし、酒飲んで寝ていただけ。残りは相変わらず仕事漬けの日々でございます。 そろそろ車買い替えようかな? とは思うケド……フィアット見に名古屋の外車屋行こうとは思うケド……敷居が高いっ! どうしよう……💦💦 誰か一緒に来てもらうか……。 楽天プロ終了に伴い、seesも休止していたツイを復活させようかと考えます。まぁ、日頃からツイのチェックぐらいはしていたが……これを機にいろいろ呟いてみようかと……。 ツイッターで『株式会社sees』と検索していただければすぐに見つかりますので、よろしければフォローお願いします。楽天プロでのフォロワーさんならノータイムでフォロー返します。別に変なこだわりとかもないんで……((´∀`)) さて、次回は最終話予定です。楽天プロ終了前には確実にアゲます。彼ら《D》の最後の秘密とは……? 岩渕と京子様、そして川澄と……永里は? どうなってしまうんでしょうかねえ??? そして更新の遅れ、いつもすいません。作りながら寝てしまうzzzダメだこりゃ🙅 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『謝罪……』 それは去年の忘年会でのことですじゃ……。 次長 「おい(酔い)、sees、そういやお前、山菜食えないんやったなぁ~」 sees 「……はい。いや~昔、それで腹壊して吐いちゃってですね……(>_<)」 次長 「これ、食えや」 次長が指をさしたものとは……何と、山菜のテンプラ盛り合わせだったのだっ! sees 「いやいやいや、無理すよ。吐いちゃいますって……😓」 次長 「ガタガタぬかすンやないでっ! さっさと食えやっ! (パワハラ、ハイパー化) sees 「う、うううぅぅ……(´~`)モグモグ」 次長 「ほら、食えるやないか。コイツ、またホラ吹きよったでぇ~(*‘∀‘)ゲラゲラ」 しかし、次の瞬間――悲劇が起きた。 sees 「――!!! ヴッ!! オゲェッ!」 時が止まった。 時が止まった世界でseesは見た。seesだけは見た。 咀嚼した緑のドロドロが次長の飲んでいたビールのコップや、隣に座る総務の 女の子(ブス)の唇や、大皿に盛られたカンパチの刺身の上に――盛大にぶち まかれる映像を――見た。 時は動きだす。(`・ω・´)キリ! 社員一同 「……っ! ギャアァァァァァァァッ!」 総務の女 「えっ、sees、さん……? (*ノωノ)」 次長 「…………」 sees 「あのーー……次長?」 殺される、そう思いかけた時、次長から、思いもかけぬ言葉が飛び出した! 次長 「……そうか。すまんかったな。みんなの皿と酒は新しいものを注文しよう。 ワシが悪かった。……sees、悪ノリが過ぎたな。申し訳ない(*_ _)ペコリ。 えっ? まさか、謝罪? あの鬼と悪魔のハーフであるこのケダモノが? ヘヘっ、しょーがねーなあー次長さんよお(*‘∀‘)ヒヒヒ。 (真実――実はその時食べていた鳥の手羽先が喉にひっかかり、不意に 吐き散らしてしまっただけなのだっ!) しかし、seesが悦に入っている時間など、ほんの数秒であった……。 社員一同 「(´∀`*)ポッ」 (大人の男に憧れる空気感が漂う…次長、潔く非を認めてカッコイイ的な) ………… ………… …………ワシは認めねえぞ。ワシは……ワシは……何だ? この敗北感は? 😢了😿こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.01.12
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あけまして、おめでとうございます! seesです。 今回は雑記です。何もないです。 現在は1日の夜、そろそろ酔いも醒めてきたので、挨拶でもしたためようとした次第です。 昨年は皆さま方の大変な応援、コメント、ナイス、誠にありがとうございました。これを励みにまた、少しでも楽しいお話を作っていこうかと、拙に思うseesです。 楽天ブログの方々へ。 ご訪問、なかなか行けなくてすみません。何卒、多忙なseesでございます。どうか、ご理解とご容赦を……。本当にいつもすみません。 楽天ブログ外の皆様へ。 つまらない駄文ではありますが、時間つぶし程度のお話をいくつか作っております。お時間ございましたら、ぜひ、ご拝読賜りたく存じます。ss一覧 短編01 短編02 短編03 現在進行中の『激昂するD』の更新はも少し先です。(なかなか休みがとれなくて💦) ……… ……… ……… ここで終わってもイイんだが……まぁ、せっかくだから、seesのコレクションの一部でもお見せしましょーかね……(#^^#)何もないんじゃサビしーすかからね……。 言うまでもないすけど、他人に見せるためのものではありません。いろんなものがガチャガチャしているだけのものです。単にホコリから守るだけのものですね……。 中身は自分で買ったもの、ゲーセンなどのサプライ品、友人たちからのお土産、などです。思い出なんか何もないけれど、捨てられない。ホコリかぶせるのもアレなんで…。ちなみに、買ったのはコレ……(正確には違うけど、同じ会社、似た型番のものです)【新商品特別割引】【送料無料】/コレクションケース カルトーネ NKE-0010 【コレクションケース】・【キュリオケース 鍵付き】 【飾り棚】【 コレクションボックス】 陳列棚 ・ ショーケース【smtb-k】【kb】】【YDKG-K】【ky】 皆様も、お気に入れのコレクションはケースに入れてはみては、いかがでしょうか? seesでした。今年もよろしくですっ!こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.01.01
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月20日。午後3時30分――。 ついさっきまで凪であった瑞穂区には、今、南からの木枯らしが吹いていた。 安藤浩司は《ユウリクリニック》の玄関の前のベンチに座り込み――まるで座禅を組む僧侶のように――神経を集中させて駐車場を眺めていた。 安藤浩司は下僕であった。永里家に仕える下僕――。ただ、一般的な下僕と違うところがあるとすれば……その報酬は莫大なものだということだった。 そう。陸上自衛隊を除隊したあと、彼は永里家にスカウトされて警備部門の要職に就いた。文句や意見は何ひとつなかった。 永里家の警備部長――報酬は規格外だった。月給で数百万、年で億のカネを受け取った。それには満足している。だが……しかし……。 誰もいない駐車場を眺めて、安藤浩司は考える。これから、私は、また永里のための汚れ仕事をこなさなくてはならないのか……。 永里家の警備部長として彼は20年以上、永里家の闇の部分を仕切ってきた。裏金のマネーロンダリングや納税の操作、関連企業との癒着や国税局への根回し、敵性組織や暴力団への示威行為。破壊、暴力、数々の違法行為への加担。 そして――……《花火師》と呼ばれる名古屋の武器商人との取引にて制作した爆弾の手配をし――……《ゲンタツ》と呼ばれる名古屋の地下ブローカーと協力しての違法薬物・催眠療法を多用して特定の人物の思考を洗脳し――……自衛隊のコネを使い用意した特注のドローン――……遠隔操作で爆弾を起動させ、証拠の隠滅の実行……。 そんな彼に自分の時間はまったくなかったし、有り余るカネを使う暇もなかった。今の彼に必要なカネは、離婚した妻への慰謝料と年老いた両親への仕送りだけだった。 そして現在の任務は――自衛隊に所属していたころの彼は、この国を守るという使命感に燃えていた。……そうだ。天皇陛下と我が国に命を捧げる――自己犠牲の精神、誇り高い仕事とやりがい……。だが、今――彼は自分の仕事に誇りを持てないでいた。それは社会に対して、背信する行為であることが間違いなかったからだ。たとえどんなに卑しく、苦しく、ひもじい仕事に就いている者でも、自分よりは正義であるハズだ。安藤浩司は思った。 現在の主人である永里ユウリという女は異常だった。何もかもが異質で、危険な思想の持ち主だった。他の永里家の者とも違う、ヒトならざる者にさえ思えた。今まではカネのため、仕事だと思って我慢を続けた。けれど、最近の永里ユウリの異常さは常軌を逸していた。特に、伏見宮の皇女殿下が《D》の話をされてからの永里は、安藤の理解を遥かに超えて異常だった。 ……なぜ、ここまでする必要がある? ……恨み? いいや……違う……。これは……まるで――……挑戦? わからない……。 永里ユウリは何も教えてはくれなかった。 トラックの排気音が轟く……。「……来たか」 安藤は静かに呟き、顔を上げた――。 ……もう、嫌だ。もう、うんざりだ。 ……できることなら、足を洗い、田舎で静かに暮らしたい……。 それがいつになるのかは、安藤浩司自身にもわからなかった。――――― 永里ユウリに私室の隣にある院長室で待機するよう言われ、岩渕はこれから起こるであろう惨劇に思いを巡らせながら、駐車場を望める巨大な窓のブラインドを上げた。 ……これでいい。……これで、いいんだ。《D》の連中を返り討ちにするため、ユウリは警備の担当者を30人以上招集したと言っていた。玄関の自動ドアの陰に、それらしき男たちが待機していたのは知っている。タダの警備員でないことは一目瞭然なのだが――今の岩渕には関係がなかった。……関係がないと思い込もうとした。岩渕がユウリに命令されたことはひとつだけ――……。 『……――京子様と院長室に籠って、外の様子を一緒に見続けること。これが達成されたなら、例のモノをプレゼントします……』 岩渕はぐるりと周囲を見まわした。来客用のソファの上に、起動済みのノートパソコンが見えた。そして、液晶には監視カメラの中継らしき映像が流れ続けていた。 岩渕はパソコンのマウスを操作して、音量を上げ――楽しそうに身をよじる若い女と、怒りに身を震わせる愛しき女の姿を見て、聞いた……ただ見て、聞き続けた。『言いなさい……こんなことをした理由を言いなさい』『理由ですかぁ? ……理由は、《佐々木亮介クンのため》ですよ』『佐々木亮介……あの者の……ため?』『彼は元々、私の担当する精神疾患の患者です。彼ねぇ、面白いことを言ったんですよぉ』『……?』『自分が不幸なのは奪われたから。他人が幸福なのは奪ったから。世界の《幸福》は石油のように絶対量が存在し、人々は限りある《幸福》を奪い合うために生きている……みたいな理論です』『……』『……実験、してみたくなっちゃったんですよぉ。……神武天皇、神道における初代の天皇。つまりは神々を先祖とするあなたの幸福を奪ってしまえば――ついでにぃ、幸福を謳歌する名古屋の富裕層たちの命を奪えば、いったい、どこで、何人もの人々が幸福を取り戻せるのか? ……私は、ただ、実験してみたかっただけなんですよぉ』『……どうかしている……あなたは……狂っている……』『いやあ、でもねぇ、いろいろと想定外のコトや、計算外? 稚拙で粗末な実験しかできなかったワケでして……特にアレ、丸山佳奈さんのアレ? ……彼女がいなければ、本当は熱田神宮の宝物殿――《神器、草薙の剣》を爆破する予定だったのに……残念ですぅ』『あなたにそんな権利がっ……罪のない人々を殺す権利がっ……我が国の宝を汚す権利がっ、あなたにあるとでも?』『……あはっ、殺したのは私じゃあないですよ。私はただ、準備をしただけです。私は、亮介クンの願望を叶えてあげただけ……。彼の破壊衝動の手伝いをしてあげただけ。後、彼の自殺願望の手伝いをしてあげただけ。……見ます? 彼の自殺願望を記録した音声や動画や実際の自殺未遂のキズ痕……証拠なら腐るほどありますから……』『……私から……何を奪うつもりですか?』『そうですねえ……やっぱり、岩渕さんと《D》、ですよねぇ』『岩渕……さん……』『はい。あなたは自身の身分を鑑みず、どこの馬の骨ともわからない男を愛した。しかも、それだけでなく、反社会的かつ中途半端な中小企業まで愛してしまった。ですから、その愛も情もすべて捨てていただけませんか……?』『……卑怯者め………彼らのことを何も知らないクセに……佳奈さんは……丸山佳奈さんは、命を賭けて《D》を守ろうとしていたのに……』『まあまあまあ……説教が始まりそうなので止めておきますが――少なくとも、これから京子様には最高のショーをお目にかけたいと思います』『……ショー?』『はい。それが終われば、京子様は岩渕さんと幸せに暮らせるハッピーエンドが待ってますから……あと、ほんの少しの辛抱です。それで、私の実験も、何もかもが終わります……』――――― ――それは、ほぼ同時であった。 岩渕は待機を指示された院長室の窓の前に立ち、駐車場の奥の出入口とクリニックの自動ドアから集まるふたつの人々の群れを見下ろしていた。隠れているつもりはないのだが、岩渕の視線に気がつく者は皆無であった。《D》陣営は社長のアトラスを中心に50名ほどが車外に躍り出て、同じくアトラスから降りる社長を中心に扇型に社員たちを配置した。《ユウリクリニック》側から駐車場に並ぶ人数は男ばかりが30数名ほど。全員が同じ特殊部隊風の紺色のジャケット・カーゴパンツ・野球の捕手のような防護装備を着込み、手にはジェラルミン製と思われる巨大な盾、頭部にはバイザー付きのヘルメットを着用していた。 ……胸クソが悪い。 気分は相変わらず乱れていた。しかし岩渕は自分の中に、その乱れとは関係のない感情が紛れていることに気づいていた。いや……関係ない。関係ない。関係ないのだ……。岩渕は思ったが、関係なくは――決してなかった。 ユウリからの報酬を受け取り、京子を連れて名古屋を離れたいという願望と……同時に、《D》のあの輪に戻りたい、という矛盾した願望――それらが複雑に交錯していた……。クソ……クソ……畜生が……。「……岩渕さんっ!」 入室した京子が叫びながら岩渕の腕にすがりつくが、岩渕は何も喋らなかった。窓の前で微動だにせず立ち尽くして、京子の腕を強く掴む。岩渕はただ、心の中で「畜生、畜生」と繰り返し呟いた……。「ねえっ! 何か言ってっ! 何か喋ってっ! ……岩渕、さん……どう、したの?」 京子が呻き、泣きそうな顔を見せると、ユウリは満足げに頷いた。「――さて、ここで京子様にクイズです」 ユウリは……本当に嬉しそうだった。「京子様……どうして岩渕さんがこういう態度で、あなたの腕を強く掴んでいるのか、わかりますぅ?」 ――――― 扇形に《D》の社員たちが整列し終えたのを目視すると、澤は眼前の、ほんの数メートル先に姿を現した異様な集団を凝視した。……専属の警備部隊、ていうところか。 部隊の中心には、ヘルメットをしていない、白髪の小柄な中年男が仁王立ちしていた。中年男は無表情で無言のまま、おそらくは同世代であろう澤の目を見つめ続けていた。 30数名ほどの部隊は中年男を中心に《ユウリクリニック》の出入口を守るかのように配置され、それぞれが無言のまま盾を手に構えていた。「……イカれ女の奴隷か? お前らに少しでも人間の心が残っているのなら……去ね……」 中年男を睨みつけて澤は言った。瞬間、相対する男が微かに身を震わせ、舌を打った。周りにいる隊員たちは相変わらず無表情のままだった。けれど――澤は男の瞳の中にある、悔しさと悲しさと嫌悪を見逃しはしなかった。……知ってやがるのか。何もかも……知っていて、知っておきながら、従う。……従うしか道がない、か。……同情するぜ。「……アンタ、名前は?」 一歩踏み込んで澤が短く聞いた。ほぼ同時に、男の両脇にいた男たちが盾を低く構えて片脚を伸ばした。けれど白髪の男は相変わらず無表情で落ち着き払い、低く言う。「……安藤だ。コイツらの中で、私だけが発言を許可されている……」安藤が続けて言った。「暴力はやめて欲しい。話し合いで解決したい。アンタらが暴力を使えば、私たちも同じ方法を使わざるを得なくなりますから……」 安藤と名乗る男は無表情で、その声には抑揚がなかった。けれど、澤を見つめる彼の目には……深い哀れみ、同情、戦いたくないという優しさがあった。 そう。澤の敵はあくまでも永里ユウリであり、《D》の目的はクリニック3階の院長室、そのハズであった。そのハズであるのが至極当然だ。 けれど、今の澤の敵は――今の、《D》の目的は――…… 至極当然……当たり前のこととして――……結論する。 そう。 答えは既に決まっているのだ。「邪魔するのか? なら……お前ら全員っ! 皆殺しだっ!」 澤が怒鳴り、《D》の社員たちが戦いの咆哮を上げる。 安藤は一瞬間だけ表情を歪ませたものの、次の瞬間にはもう、澤と同じように――鋭く残酷な光を目に宿らせた。「……まるで野良犬ですね。こちらの譲歩案を簡単に捨てる知性の低さ……残念です」「――俺たちが野良犬ならっ、てめえらはカネに飼われた家畜だろうがっ!」 怒りを滲ませる安藤の顔を睨みつけて、澤は叫んだ。「行くぞっ! ブッ潰してやるっ!」 ――その時、どこかで若い女の悲鳴がした。 けれど、女の悲鳴は人々の怒号や絶叫、モノやヒトやコンクリートがぶつかり合う衝撃音にかき消され、駐車場の虚空に消え、誰かの耳に届くことは決してなかった……。 悲鳴は続いている……。―――――「ふぅー……」《D》と《ユウリクリニック》の警備隊が激突した瞬間――川澄奈央人は現場の近くのビルの屋上で双眼鏡をのぞき込みながら、深く息を吐いた――。「事後承諾でもイイのなら、別に助けてあげてもイイんだけれども――……どうする? どうしますか……岩渕さん? あんまり僕を失望させないでくださいね……」 永里ユウリも安藤浩司も、その存在を知らぬ若い男は――小さく、薄く、微笑んだ……。――――― 『激昂するD!』 jに続きます。 本日のオススメ!!! aiko----ッ! めっちゃ好っきゃねん……。 ↑aiko……ごめんな。新曲の宣伝遅れて……ワシ、仕事やらブログとかゲームとか忙しくてさ……とりあえずGoogleでダウンードだけはしたからさ……。またアルバム出たら絶対買うからね……許して……。seesはあなたを永遠に応援します。 正直、紅白のトリがaikoなら、絶対に見るのだが……。まぁいい。 ……そうだっ! aikoのためのショートショートを作ろうっ! ……しかしseesも得意テーマは恐怖と悪……(自慢じゃないが、それ系の話ならくさるほど湧く。ただ起こすのがめんどくさいからメモるだけ)。どうすればいい……? いったい、ワシは、どうやって彼女に愛のショートを捧げればイイのだぁーーーっ!? ↑新曲『予告』――カワイイ。 ↑『彼の落書き』――ああ、カワイイ。 ↑『恋のスーパーボール』――カワイ過ぎる。 aiko氏のオススメアルバムっす! お疲れサマです。seesです。 もしかしたら今年最後の更新かも……一応は大晦日に個人的なコメントだけは出しておきたいけれど……まぁ、よくある「来年も~」みたいな定型文くらいはあげておきたい。 仕事は晦日まで、大晦日は家でゆっくりする予定。カニと酒買ってDVD観る予定ってだけ。忘年会は来週――疲れそう💦《激昂D》の完結は1月に持ち越しスね……すいやせん。ここまで中途半端に長くなるとは想定外でして……。まぁ、閲覧数ゴミのseesが何をしようと関係ないかも('◇')ゞ さて――今話は……ぐだってますね……。相変わらずの飲酒しながら制作……脳が酔った勢いで作った駄文。校正する時間も取れねえし……ううう😢ちなみに《花火師》と《ゲンタツ》は名古屋の都市伝説です……もしかしたら……実在するかもしないかも💦字数の関係で会話メイン回になっちゃった(#^^#)テヘヘ 背景の表現や描写は、正直今回手を抜きました……。 次回は最終回前の決着と……それなりに落ち着く内容を考えております。なるたけ納得していただけるよう熟慮いたします……。でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『……激安と激闘っ!(≧∇≦) seesのツッコミ祭り』 同僚 「seesきゅ~ん(甘)」 sees 「……何やの、気持ち悪い」 同僚 「……キャバクラ行こっ(^_-)-☆」 sees 「はあっ? ヤだよっ! ワシ忙しいんやッ! 無理無理無理――」 同僚 「90分5000円のポッキリコース、行こうよお。(# ゚Д゚)グイグイ」 sees 「無理無理無理ぃぃぃ~……ラメぇぇぇ~~……」 …… …… …… ??? 「こんにちは~~エリカで~すぅ💓」 錦の某キャバクラ、フリー入店、テーブルチャージ無料(タイムサービス)、 安酒のみ飲み放題……こんな激安キャバクラの、最初のフリー嬢は……何と――。 まさかの――……名古屋巻ドリル嬢ぅぅぅっ! sees 「――ドリルじゃねえかっ! ゲッター2かよっ! 神隼人かっ! ヤル気かっ!」 ??? 「こんにちは~~レイで~す💓」 フリー2人目の嬢は『レイ』と名乗ったが、それも納得である。なぜなら……。 sees 「……綾波じゃなくて、林原じゃねえかよっ! 誰が中の人呼べっつったよ! 学生時代、ずっとアンタのラジオ聞いてたよっ! スレイヤーズ毎週見てたよっ! ファンだよっ! だからなぁ、めぐみさん……アンタの顔だけは見たくなかった んだよっ!」 ??? 「こんにちは~~チアキで~す💓(よこざわけい子さん風)」 フリー3人目の嬢は……何と、あの、国民的キャラの妹だった……。 sees 「誰がドラミちゃんと酒飲みたいと思うンだよおおっ! ワシはなぁ、のび太や ないねんぞっ!」 ハァハァハァ……ツッコミが追いつかねえ……何だ、この店は……。 そして――とどめの4人目の嬢は……何と、あの、美少女キャラのパチ物――。 ??? 「こんにちは~~リョウコで~~す💓」 sees 「――ふざけんなっ! てめーどこのYAWARAちゃんだよっ! 絶対元参議院 議員だろーがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」 ハァハァハァ……ツッコミが、ツッコミが……ツッコミどころが多すぎる。 た、たしゅけて……誰か(´;ω;`)ウゥゥ……ハイボールしか飲んでねえヨ……。 😢了😿こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2017.12.23
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月20日。午前0時――。 愛知県警に匿名の人物から電話と、名古屋市と思われる縮小地図がコピーされたFAXが届いた。『――本日20日の午後5時にセッティングした爆弾を、 ――FAXに記されている複数か所にしかけました』 電話をかけて来た人物の声は機械を通されており、男か女か判別できぬよう変換されていた。応対した警察官にその者は、爆弾の種類と解除方法、爆発の威力と規模について告げ、当日は警察組織全体で対処するように警告した。 電話の声の主は抑揚のない口調で淡々と喋り続けた……。「……地図に載っているのは……50か所? 相当数ありますね? この場所すべてに爆弾を? ……あなた、いったい、誰なんです?」『先ほど述べた爆弾の情報は未だ世間に公開されてませんよね? この電話はキチンと録音されてますか? 信じようと信じまいと勝手ですが、佐々木亮介に爆弾をプレゼントしたのは私です。ちなみに、マスコミにも似たような爆破予告文、爆弾の模型を送りました』 絶句する警察官が唾を飲み込むのと同時に、電話が切れた。 警察官はその者の言葉を信じていなかった。同じような電話やFAXやメールやSNSはこれまでにも無数に入っていた。それらはほとんどがイタズラだった。そうでないものも大抵がカン違いや妄想の類だった。警察官の脇では今も電話が鳴り続けていたし、受話器の隣のFAXからは匿名の人物からの怪しげな地図が流され続けていた。当然、今回もただのイタズラである可能性が高かった。 しかし、若い警察官は不思議な直感に動かされ、目の前のパソコンでメールフォームを開き、たった今話したばかりの通話内容の概要を上司に送った。 ただちに警察組織とマスコミに連絡が取られた。マスコミには爆弾の模型が送りつけられ、爆破の予告らしき文書が発見された。FAXの地図のコピーは愛知県に所属するすべての警察官に配られた。当惑する現場の警察官たちを尻目に、県警上層部は爆弾の捜索・解体・回収、周辺住民の避難誘導を決定した。犯人と警察しか知らぬ情報を、電話の相手が話していたことが決め手であった。 ――リミットは20日の午後5時。 ✖印で地図に指定された場所は50ヵ所。それも相当な被害が予想される学校・役場・動物園・水族館・映画館・モール街・商業施設・ホテル・駅・地下街・高速道路・病院・体育館・高層ビル・港・セントレア……多岐にわたった。 だが、地図に指定された場所のひとつ目、ふたつ目、みっつ目のどこを探しても爆弾は見つからなかった。電話の相手の正体もわからなかった。だが、警察上層部は捜索の縮小を決断できなかった。これ以上の爆発は何としても防ぐ必要があったのだ。たとえ、警察の機能をマヒさせてでも……。 残り47か所――全警察官動員による大規模避難誘導、爆弾の捜索は続いている……。 FAXから流れる地図を最初に見た若い警察官は思った。 ……瑞穂区には、何も書かれてないんだな。 けれど、若い警察官はその事実を上司に相談したり、報告したりすることはしなかった。 ――それが犯人のほぼ唯一のイージーミスであることも……事件が完全に解決できる最後のチャンスであったことも……若い警察官は気づかなかった。 彼はただ、そんな程度のことは誰でも気がつくだろうと思い込んだだけだった。――――― 10月20日。午後2時――。 瑞穂区の《ユウリクリニック》には今日も清潔な空気が満ちていた。 手持ちの鞄を片手に提げて、岩渕は診察室のメディカルスツールの前に立っている。伏見宮京子という女の顔と体と言葉のことを考える。 ……今、選択肢は目の前にあり、俺はそれを拒むこともできる。《D》を捨て、今の《自分》を捨てることができる。そうすれば、アイツと――京子と結婚できる可能性が生まれる……ずっと、ずっと一緒にいられることができるのかもしれない。そう思う。「どうします?」 女がきく。急かしているつもりはないのだろう。ただ、楽しんでいるだけなのだ。 そう。俺は今、この女に、答えを求められているのだ。自分の運命と、《D》の運命と、京子の運命を左右する選択肢を求められているのだ。まるで神のように、彼らの行く末を決定できるのだ。 自らの人生を考える……考え続ける。たくさんの人々と知り合い、学び合い、すれ違う。だが、俺がこれから下す決断は、それらをすべて捨てること。すべてを捨ててでも……何もかも捨ててでも、それ以上の価値を持つ女を手に入れること……。 やはり……失うわけにはいかない。伏見宮京子を手に入れるためならば、澤社長率いる《D》も、過去も、未来も、何もかもいらない――……。「……何をすれば、『それ』をくれる?」 女の目を見つめながら岩渕がきく。口がカラカラに乾き、脚が震えている。瞬間、京子に抱いていた欲望と愛情がドロドロに溶け、ドス黒い闇となって岩渕の背に覆い被さった。「……簡単なお仕事ですよ」 女が満面の笑みを浮かべ、まるで子供のような口調で岩渕に言う。もちろん、この女がまともでないことはわかった。 更にはまともでない選択肢を提案され、決断を求められ、 そして――…… ――……岩渕は、「……わかった」と静かに首を縦に振った。ギリリと奥歯を鳴らす。 屈辱的ではあったが、しかたなかった。 震える指と手で、京子を誘うためのメールを打つ。『今日は《ユウリクリニック》で診察のために名古屋に戻ってきている。会いたい』 ひどい罪悪感が込み上げるが、しかたなかった。 ……しかたがないのだ。……しかたが、ないのだ……。 心の中で思う。 手に入れるのだ。アイツを手に入れるためならば、俺は――…… ――……敵になる。……そうだっ!《D》の敵になるのだっ!「隣の部屋に移動しましょうか? そこで、姫様と見ているだけでいいんですよ。《D》の連中が血まみれになって倒れる姿を……ねえ?」 女は本当に嬉しそうに笑った。その無邪気な笑顔は岩渕がよく知っている、永里ユウリのものだった。――――― 午後3時――。 高いフェンスに囲まれた広い駐車場の隅に岩渕のフィアットが停めてあるのが見え、京子は同伴していた宮内庁の警護官に話しかけた。「岩渕さんも来ているようですし、ここからはひとりで大丈夫です」 再び歩きはじめた京子を呼び止めて女性警護官が言った。「……わかりました。しかし、時間は6時までにしてください。私どもは名駅周辺で待機しておりますので、何かあれば連絡を早急にお願いします」「……頼まれていた消防局の公務も終えたし、この後の予定も特に聞いてはいませんが……ダメですか?」「嘘はやめてください。『名古屋市消防庁の特別表彰式』なんて田舎行事の挨拶……結局は、あなたが名古屋で遊ぶための方便なのでしょう?」「……いいえ。お仕事です」「あまりに過ぎたワガママはやめてください。宮内庁は国民の税金で動いているのですよ?」「……はい」「6時に迎えに来ます。食事以外の外出は控えてください。それと――消防局長にも電話連絡を。内容は……ご理解いただけてますね? ……失礼します」 京子は警護官と別れて《ユウリクリニック》の玄関に辿り着くと、自動ドアのガラスを見つめ、セミロングの髪を手早く整えた。それから消防局長の携帯に電話を入れ、今後――しばらくはイベントに参加できず申し訳ない、と伝えた。 局長は悲しげに承諾すると、今にも泣きそうな声で、「……残念です。あんな事件が多発しても……それでもこの街に足を運んでくれたことは……感謝いたします」「……そんな……私は、ただ……」「いえいえ……地元企業の自粛が広がり、名古屋の経済が苦しい状況だからこそ、殿下の行動は……その……ご立派だと思います」 電話を切り、自動ドアを抜けて受付の女性に挨拶をする。 それまで平静であった心臓が微かに痛んだ。―――――『来ましたっ! ヤツからですっ!』 問い合わせ担当の女性社員から連絡が入る。同時に、《D》全社員が立ち上がり、名駅前支店のビルが揺れた。「……繋げろ」 電話を耳に押しつけて澤はきく。「おい、アンタは誰だ? どこにいる?」 相手からの返事はなかった。 ……ガセか? それともイタズラ? 澤が唇を噛んだ瞬間、電話から女の声が聞こえた。それは……若い女の声だった。『社長? ……澤社長、ですね?』 電話から聞こえたのは本当に若い……若くキレイな女の声だった。「おいっ! お前はどこにいるっ!」 澤は叫んだ。そばにいた宮間有希が眉間にシワを寄せて澤を見る。『応えろっ! お前はどこにいやがるンだっ!』『澤社長……よく聞いてください。いいですか?』 女の声は冷静で、デキの悪い生徒を諭すかのような口調だった。『丸山佳奈さんの件は偶然です。彼女は偶然事件に巻き込まれただけですから。私はただ、それを撮影しただけなんです……いいですか? それだけはわかってください……私は、彼女に対して、何の恨みも憎しみもありません……お願いしますよ』「ふざけンなっ! アイツを助けようと思えばできたハズだっ! てめえは、それを楽しむためだけに見殺した……それだけだろうがっ!」 狂ったように澤は叫んだ。『……彼女は立派です。彼女のせいで私の計画は大きな変更を余儀なくされました。それと――《D》の宮間とかいう女。そいつが名駅前支店に隠した盗聴器を外してしまったから、私もこんな手間のかかる、カネと時間をムダに使うハメになったんです。本来、あなた方は何の関係もないハズだったのに……巻き込んでしまって、本当にすみませんでした……』「関係ないっ? 関係ないだとっ?」 声が猛烈に震える。手が震え、電話を耳に押し当てていることができない。『そうです。関係ないのに、佳奈さんは死にました。……ん? 少し違いますね。少々、死ぬのが早まった……予定が狂って早死にした。勢いあまってバラバラになって、本当に死んで欲しかったあなたの代わりに死んだ――……みたいなことです』「てめえ、何が目的で……」 さらに言おうとした澤の声を女がさえぎった。『黙って聞いてください……実は今から《D》の皆さんと、あるゲームを楽しもうと思ってるんです……いいですか? これからわたしは澤社長に、私の居場所をお教えします』「……居場所、だと?」『そうです。《D》の誰かが、私のいる場所まで無事に辿り着けたなら……とある場所に仕掛けた最後の爆弾のありかを公開します』 電話の女は楽しそうだった。『……リミットは今日の午後5時。数分前に発見できれば、少なくとも人命くらいは助かるかも、ですよ?』「……ナメるなよ。爆弾なンて関係ねえ……てめえは絶対に殺す」『いい答えです』 女は本当に楽しそうだった。『一応、忠告しておきますが、途中で《D》関係者以外の人物の介入は許可しません。直接・間接を問わず――武器、武器と思われる道具の使用も許可しません。車両・重機による破壊行為、放火も許可しません。そのほかにも何か不審な行動を取るようなら、その時点でゲームは終わりです。爆弾は爆発し、佳奈さんのようにバラバラになる人々が増え、私は消えます』「……上等だよ、アバズレ。貴様をバラバラにしてやる……」 澤は辺りを見まわした。社長室の中では、外では、廊下では、《D》の社員たちによる巨大な黒い人だかりができていた。男も女も年齢も関係ない、皆――覚悟は決めていた。『それでは、ゲームの開始です。……今――私のいる場所は、あなた方の目的地は、瑞穂区の《ユウリクリニック》3階の院長室です。お待ちしておりますね……』 電話が切れた。「クソがっ!」 ……川澄の野郎の言う通り、ヤツは自分から《D》に接触してきやがった。ナメやがって……ナメやがって……畜生が……殺す……殺してやるぞっ! 心と体で叫びながら、澤は両手の拳を握り締めた。血液が一瞬で沸騰し、全身を激しい怒りが包み込む。……許す気などこれっぽっちも湧きはしなかった。「社長っ! 行きましょうっ!」興奮する澤に向けて若い女性社員が叫ぶかのように言い、それにつられるかのように他の社員たちも口々に、「丸山さんのカタキを討ちましょうっ!」と叫び、「コイツを殴り殺して……終わらせる、全部っ!」と叫び、「罠だろうと関係ねえ、必ず殺すんだっ!」と叫び、「……許せない、絶対に許すものかっ!」と叫んだ。止まることなくずっと、ずっと叫び続けている……。 澤は渾身の力を込めて、拳をテーブルの上に叩き落とし――「行くぞっ! 瑞穂区の《ユウリクリニック》だっ! 急げっ!」と怒鳴った。 澤の声が静まった瞬間、社員たちの凄まじい怒号と絶叫が響き渡る。そして――それに応えるかのように澤は――何度も、何度も、拳をテーブルに叩き落とした……。 そう。 澤は……社員たちを止めることもせず、抑えることもせず……凄まじい激昂に心を犯されながら、同じように犯される社員たちを見つめていた……。「――俺のアトラスを持って来いっ! 邪魔するヤツは、皆殺しだっ!」 ああ……止められるワケがない。抑えられるワケがない。 澤と社員たちに残酷な笑みが浮かぶ。それはかつて、佐々木亮介という男が浮かべていた笑顔に、本当にそっくりだった……。―――――「ゴメンね。散らかってて……」 永里ユウリが扉を開いた。瞬間、京子の下半身がすくんだ。 そこは畳に換算すれば20畳はあろうかというほどの洋室だった。その広い部屋の壁を埋め尽くすかのように、大小さまざまな京子の写真が貼られていた。部屋の隅には巨大な液晶テレビが3台並び、ひとつが幼い頃に両親と遊ぶ京子、ひとつは成人式のイベントで挨拶をする振り袖姿の京子、ひとつは過去に取材を受けた『皇室アルバム』の映像が流れていた。「どう? 驚いた?」 耳元でユウリの嬉しそうな声がした。「さぁ、入って入って」 女の手が肩に触れ、全身が恐怖と嫌悪に震えた――その瞬間、まるで槍や剣が腹や胸を切り裂いて内臓をえぐるように――《死》を連想させるほどの、冷たい、圧倒的な戦慄が、京子の体を貫いた。「どうかした?」 体が先に理解した。数秒後、ようやく頭が理解した。何の確証も証拠もない、それでも確信した。……なぜ、この人が? ……どうして? いったい、どうして? そうだ。間違いない。名古屋市で多発した爆弾事件の真相――佐々木亮介という人物に爆弾を渡し――グローバルゲートで丸山佳奈さんを見殺しにし――彼女の最後を、命を、尊厳を冒とくしたのは、彼女だったのだ。この明るくて優しくて頭の良い、昔から伏見宮家と仲の良い大富豪のご令嬢……私の友達で……私が憧れる……年上のお姉さんで……。「……本当、大丈夫?」「いいえ……何でもない……」 京子はユウリの目を見つめ、反射的に微笑んだ。声帯が悲鳴を上げ、両脚が走り、手と指が今すぐにでも警察に電話をかけようとしているのがわかった。 だが、京子はそうしなかった。 この女は自分を欲している。自分が犠牲にならなければ、また新たな犠牲が生まれてしまう。ほんの数秒のあいだに、京子はそれを悟った。「今日はね、岩渕さんと一緒に見てもらいたいものがあるの。いいかな?」 ユウリがいつもの子供っぽい口調で言い、京子は無言で頷いた。涙は出なかった。泣いている暇などないことぐらい、今の京子にだってわかっていた。 けれど――『岩渕さん……助けて……』 という、心の声を聞いた気がした……。――――― 『激昂するD!』 iに続きます。 本日のオススメ!!! BAND-MAID様っ!!! とにかく……。 BAND-MAID様……。その魅力はまぁ、イロイロあるんスけど、sees的に最も惹かれたのは――やはり……衣装と演奏ですかね(笑) 正直、お化粧濃すぎるのではないか? といらぬ心配までしてしまうほど濃厚なビジュアル……。そしてメイドさん風の衣装……う~ん、嫌いじゃないス😊 スタイルは典型的なハード・ロック。演奏はギターを軸に歌詞とメロディを乗っける王道パターン。歌詞は普通、むしろありきたり。ただ……ツイン・ボーカルのインパクトが強く、柔剛使い分ける器用な一面もあり。いやはや、プライドだけのクソバンドとは違って、本当――エンターテイナーな方々ですわw メンバーはミク(Gt/Vo)彩姫《さいき》(Vo)Kanami 遠乃(Gt)Akane廣瀬(Dr)MISA(Ba) ――の5名。seesはミクさん(真ん中のツインテ嬢)推しすね(*ノωノ)デヘヘ ↓エンドレスで何曲もずっと聞き続けましたが……この曲が1番かな……。 ↓演奏うまいな……。歌詞はホント普通やけど……。 ↓MVもうちっと何とかなったんじゃ……ワシが監督したかったな……。 BAND-MAID様のオススメ楽曲……結局、ポチ買いしてまったseesです……💦 お疲れ様です。seesです。 毎度のことながら、更新遅くてすいません。(。-人-。) ゴメンナサイ…。 のんびりしてたら年末近くて焦る~……。seesの会社は晦日まで仕事だし、それまでに忘年会やら飲み会もあり、少々忙しい💦💦 自然と――休日は寝て過ごすだけ、みたいな感じになっちゃうし……うむむ――やはり生活態度の改善が必要だと感じるこの頃です~……。 あと、『スター・ウォーズ』観に行きたいし(笑) 次回はクライマックスですかね……その後は最終回っ! 最終回は長めに作ろうか、検討中。まあまあまあ……今話は長めだけれども、つまんない作りかも、ですからね~最後くらいはキチンと熟考して作りましょうかねwwちなみにまた訂正と修正多そうw誤字脱字だけは直したいので、またチョコチョコ編集しまっす。失礼しました……。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『……理解し難い者(たまには愚痴っぽい感じw)』 sees 「……毎日お疲れ様っスね~」 某配送A 「いや~seesさんこそ、毎日お疲れサマっすっ!!」 sees 「……休み取れてます? 顔が疲れてますよ?」 某配送A 「えっ! そんなことないっスよっ~!! エへへへ( ・´ー・`)」 ……seesの働く会社はグレー企業だが、残業代と休日出勤手当はある。 ちなみに残業代は時給1000-税。休日出勤は一日14000-税。まあ良い方 なのかもしれない……。月給は固定+能力+管理+モロモロ-税で――まぁ 普通。休日は……まぁ、最繁期でも6~7日もらっている。しかし……この、 仲良しの配送業者A氏は……。 sees 「……休みとか、取れてます? 手当とか……」 某配送A 「いやいやいやいや~…月1、とかならwwww カネは……いらないっスよ~ (`・∀・´)エッヘン!!」 sees 「…………ッ」 某配送A 「……まぁ、休みなんていらないっスよボク。倒れるまで働けって言われて るんでっ!! 大丈夫っすよ~っ!!」 ――A氏はそう言って爽やかに笑い、笑み、去って行った。 ――それが、A氏を見た最後であった……。 先日、A氏と同じ配送業者のB氏に話を聞くと……。 某配送B 「A? ……ああ、あいつ、入院してすぐに辞めたっスよ」 sees 「に、入院? ……会社辞めちゃったの?」 某配送B 「ええ。腰と内臓ヤられたみたいで――退院して、家族と一緒に地元帰るって」 sees 「……そうですか。……ところでBさんは、体調、大丈夫っスか? 休みとか?」 某配送B 「……まぁ、休みなんていらないっスよボク。倒れるまで働けって言われて るんでっ!! 大丈夫っすよ~っ!!」 ――B氏はそう言って爽やかに笑い、笑み、去って行った。 ……たまにいるのだ。こういう、無知か純粋か、ゆえに――厳しい環境に疑い を持たず、ただ従順に順応してしまうヤツが。……どこかの企業を名指しして 『ブラック』とは言わないが――『ブラック適応済人間』が、いるのだ。 『黒く染まったまま、自らが黒いと認識できず、ただ放置してしまう者』が。 ……中には、 『死ぬまで働くことが私のプライド』、 『仕事大好きなんで、全然大丈夫』 ……みたいな考えのヤツもいる。…説明が非常に難しいテーマ。もっと簡単に 言うと、 『適当な給与体系のクセに、ドヤ顔する、エリートブラック企業社員』かな? ……個人の生き方に口を挟む気は毛頭ないが……少し、少しだけ、思う。 sees 「……ドMか? 人格破綻者か? 洗脳か? 才能か? ……理解できねえし……したくもねえ……本当――不愉快だわ、コイツら……」 💢了💢こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2017.12.14
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月19日。午前11時――。 タクシーに乗っていた伏見宮京子は、国道1号線に並ぶ街の景色をぼんやりと眺めた。 ついさっきまで空想の世界を見ていた。グローバルゲートで買い物をする岩渕と京子をエスコートする丸山佳奈と、3人で一緒に笑いあっている空想だった。 ……まただ。……また、私には、何もできなかった。 心の中で京子は呟いた。 腕の時計を見る。午前11時30分。約束の時間と場所に相手の気配はない。強い風が服をはためかせ、細い体を揺らしている。『伝馬町のコメダ珈琲店で11時半』 約束の言葉を思い出し、店の前でしばらく躊躇してから、京子は思い切って扉を開けた。禁煙席に座り、ミルクコーヒーを注文する。おしぼりで手を拭きながら深呼吸をする。「……これはこれは、お美しい皇女殿下――……待ちました?」 頭上から若い男の声がした。忘れたくとも忘れられない、聞き覚えのある声だ。「……いいえ」「いや~……本当にお美しい。皇室に入っておられれば、佳子様や眞子様と同格か、それ以上の《金銭的価値》がありますねえ……」「……川澄……奈央人……あなたという人は……」 そう。かつて《D》の宝を奪い、岩渕を拉致監禁し、あまつさえ殺害すら予告した男――川澄奈央人を、京子は睨みつけ……禁煙席に近いカウンターの女性客にチラりと視線を送る。宮内庁所属の女性警護官と目を合わせる。もしも川澄が不審な行動をとれば、即座に逮捕する手はずになっているからだ。 グローバルゲートでの爆発と、犯人である佐々木亮介の自爆から数日――京子は何度も電話に手を伸ばし、《D》の様子を伺おうとした。大丈夫なのか? 丸山さんの葬儀は?そう聞こうとした。だがそのたびに、電話の相手は『後ほどお電話させていただきます』の一点張りだった。岩渕は県外を飛び回っているらしく、簡単なメールでのやりとりしかできなかった。そんな時だった。そんな誰からも情報が入らない、そんな時――突然、この何を考えているのかわからない、悪魔のような男からの連絡がきた。「……さて、では――情報交換といきますか。お姫様……」 川澄がニヤニヤとしながら腕を組み、注文したカフェオレを一口すすり、「《D》に届いた犯人からの動画の件は、ご存知ですか?」と言ってまたニヤニヤして微笑んだ。 川澄が私に接触してきた理由はわからない……わかりたくもない。……けれど、確かなことがひとつだけはっきりしている。 事件は、まだ、何も、解決してはいないのだ……。 静かな恐怖に京子は身を震わせた。 泣きそうになるのを堪え、川澄を睨み続け――そして、男の話に確実に登場するであろう岩渕の安否を思った。何か、ドス黒い手が彼と《D》に迫っていることを思った。もちろん、これはただの女の直感、ただそれだけのことなのかもしれない……でも……でも……。 ――それでも、彼と《D》の助けになりたかった。この男と会って話をする理由は、それだけで充分だった。――――― 同日。同時刻――。『……それでは亡くなった方々の中で、これまでに身元が判明した方のお名前を申し上げます。緑区の愛知大学生、ヤマダ・コウイチさん。ヤマダさんの後輩でツジモト・サキエさん。中区の無職、ムラヤマ・ショウジさん。ショウジさんの妻でムラヤマ・ヨウコさん。瑞穂区のアルバイト、コデラ・ユキさん。瑞穂区の会社員、サトウ・シホさん。瑞穂区の会社員のスズキ・マサルさん。マサルさんの長男で幼稚園児のアリスちゃん………』 岩渕は名阪自動車道をひた走るフィアット500のハンドルを握りながら、ラジオから流れるもうこの世にはいない人々の名の羅列を聞き入っていた。 いつもなら昼食をどこで食べようかと思案している時間だった。だが、食欲はまったくなかった。激しいストレスから込み上げるイライラと吐き気を抑えながら、岩渕はもう1時間近くハンドルを握り締めていた。『……天白区の高校生、ミウラ・ホノカさん。ミウラさんは名古屋市立大学病院に搬送されましたが、昨日の午前1時すぎに病院で死亡が確認されました。緑区の中学生、マエダ・ケンタロウさん。マエダさんはつい先程、NTT西日本東海病院で息を引き取られました。あっ……たった今、名城病院に収容されていた公務員、ミズタニ・ケイコさんが亡くなられたとの情報が入りました……。 ……日進市の無職、イトウ・ヨウジさん。豊明市の大学生、クニエダ・エマさん。中川区の会社員、ヤマモト・ジュンイチさん。ヤマモトさんの妻のヨシエさん。長女のエミリちゃん。次女のアカネちゃん……』 岩渕は奥歯を噛み締め、ギリギリと音を鳴らした。そのまま短い呼吸を繰り返し、それからラジオのチャンネルを変え、片手で助手席に置いた自身のスマートフォンを起動させた。 ――そこには、何もなかった。《D》からの業務連絡も、京子からのメールも、誰からも、何からも、連絡や電話の記録はなかった。最後に《D》と連絡を取ったのは、昨日の深夜、総務課長の宮間から電話があり、『早く帰って来いっ!』と怒鳴り散らされただけの内容だった。名駅前支店で何かトラブルが発生したであろうことは容易に想像できた。だが、その理由も告げずに電話を切られた意味がわからなった。社長からの連絡はない……こちらからする気にもなれないが、な……。 ……ふざけやがって。 散々ドサ回りさせといて……『早く帰って来い?』 バカにしてやがるのか? そうだ。そもそも丸山が死んだのはすべて、社長のせいだ。いや、佐々木亮介とかいう無職のガキと、澤という強欲な男のせいだった。 ……そうだ。《D》社長、澤光太郎のせいだ。こんな企業、働いてられるか……。俺や京子も、利用されるだけ利用されて……いずれはゴミのようにに捨てられるのがオチだ。たいした理由もなくグローバルゲート支店を開店させ、丸山の忠誠心を利用して見殺しにした……。あの場には、俺も社長も役員が全員揃っていたのにも、かかわらず、だ……。 そうなのだ。澤という男には、これまで数え切れないほどの暴力を受けてきた。殴られ、蹴られ、罵倒され、給料のピンハネをされ続けてきた。その上、未だ終わらないドサ回り営業を岩渕に押しつけ、自分は市長や県知事や国から感謝状の贈呈? ふざけんなよ……ナメやがって……アホらしい……畜生が……もう、うんざりだ……冗談じゃねえ……こんな腐れ企業、さっさと抜けちまうか……。 岩渕は心の中で呟いた……呟き続けた。 ……わかってるよ。 ……最低なんだろ? ああ、そうだ。最低なんだよ……俺も、社長も、《D》も……人間も会社も、そんなに簡単に変わることなんてできやしない……腐った企業は、腐ったまま潰れるだけ……だったら、俺は、京子だけでも……いっそ……。 岩渕の中に言いようのない怒りとイラ立ちが込み上げ、フィアットのアクセルを深く踏み込む、その時――助手席に置いたスマートフォンが着信の音を鳴らした。 反射的に岩渕の体が弛緩した。 反射。そう条件反射。スマートフォンの液晶に表示された名前をのぞき見た時、岩渕の全身の筋肉が弛緩をはじめた。安堵した、と言ってもよかった。そう。『それ』は、ちょうど岩渕が話したいと思っていた相手であったのだから。 カーナビのBluetoothを起動させ、受話器の形をしたパネルに触れる。その時、カーナビの液晶に『それ』の名が浮かび、そして、『それ』は、口を開いた。『……もしもし、岩渕さん? 永里です。永里ユウリです』 電話の向こうで、『それ』はおかしそうに笑っていた……。 ――――― 予約はしていなかったが、今池駅前にあるルートインには簡単にチェックインすることができた。 壁際にシングルベッドがあるだけの窮屈な部屋に入ると、川澄奈央人はカーテンも開けずベッドに腰を下ろし、煙草のヤニで黄ばんだ壁を見つめた。 薄汚れたカーテンの向こうから街の喧騒が絶えず耳に届く。時折、人の話し声や廊下を歩く靴の音がする。「……ふう……これから、どう動こうかな?」 僕は天才だ。当然、事件の首謀者については察しがついている(もちろん、その情報を京子や他の誰かに、しかもタダでくれてやる気は絶対にない)。だが、僕にとって最も重要なことは真犯人の暴露でも、逮捕でもない……。 ……対決する? ……決着は? ……どう奪う? ……どこへ向かう? 川澄は事件の首謀者から大金を奪い、悔しそうにハンカチを噛むそいつの姿を思い浮かべようとした。最後にオイシイところをかっさらう自分の姿と、悔しそうにボロボロと涙を流すそいつの姿を――……。 ……だが――できなかった。脳裏に残る伏見宮京子の言葉が、強く、川澄の心を蝕むかのようにこびりつき、どうしても、打ち消すことができなかった。『……止めなければなりません。争いあったり……奪いあったり……傷つけあったり……こんなことをしても、何の意味もないんだ……早く、早く止めないと……また……』《D》に届いた動画を見終わった後で、京子が涙ぐみながら呟いた言葉の記憶は、川澄の心を乱すのに充分だった。争うこと、奪うこと、傷つけること……それは川澄の母の信条であり、おそらく、《天使》のオーナーであった父の信条であり、川澄奈央人の信条でもあった。川澄はずっとそうして生きてきた。今になって、その生き方を変えるつもりは……。 ありえない……僕は、僕の生き方は……そんな簡単には変わらない……変えられない……そのハズだ……。 川澄はそれ以上考えるのをやめた。今池駅で買った中日ドラゴンズの弁当を開け、「いただきます」と言って飯を口の中に放り込んだ。しばらく仮眠したあとで、また情報収集のために夜の名古屋市を奔走する予定だった。「……確証がないことばかりだからね……そんなに有益な情報交換はできなかったけど……まぁ、少なくとも、誤った選択肢だけは選ばないで欲しいな……道を誤れば、すべてを失うかもしれないよ? 《D》も、岩渕さんも、何もかも……ね……」 シミで汚れた壁を見つめたまま、誰にともなく川澄奈央人は呟いた。―――――「……ところで、いつ来るんですかい? その《暴徒》ってヤツらは?」 元自衛隊員の警備部長が私に問い、私は微笑む。 歓迎する準備は万端に整えた。警察や行政は関係ない。 そう。ここに来るのだ。激昂に我を忘れた暴徒たちの集団が、私を殺そうとやって来る。 伏見の姫君と――姫の愛する《D》と岩渕。私が壊したいもののすべて――。 さぁ、壊れろ。壊れて晒せ――私の持っていないモノを持つ資格が、彼女にあるのか、否か。証明してもらいましょうか……そして―― ――何もかも、すべてを、失ってもらいますよ……京子様……。――――― 『激昂するD!』 hに続きます。 本日のオススメ!!! ↓久しぶりのgumi様。HoneyWorksさんからの楽曲です。 ↑ちなみにsees的な優先順を決めるとすればですね……gumi様>イアさん>リンちゃん>青い人、の順ですね……。 改めてgumi様の魅力を考えるとですね、やはり歌詞を選ばない自由度と切ない演出が効く中低音サウンドですかね……例えばイアさんは超高音特化であり、リンちゃんは機械的な色が強く、青い人は中途半端感が強すぎる(*´σー`)エヘヘ。 ハニワ、ことHoneyWorksさんは日本のクリエイターユニット。イラスト・漫画・アニメ・ボカロ曲の作詞作曲・元々はニコ主。メンバー3名……作る歌詞もメロディも女性的ですが、gumi様の特徴を上手く使っているな、というイメージ。一度は必聴ですっ!! ところで……皆様、中島愛(めぐみ)さんという声優さんはご存知でしょうか? そう――gumi様のベースとなった方ですが……彼女、どこいった?? ↑カラオケ用楽曲。みんな好き、らしい。 ↑Flowerとのコラボ。好き。 ↑ザ・青春。聞くだけで恥ずかしい、神曲。 HoneyWorksの楽曲。う~ん……女性にはオススメだけど、男性には……💦 お疲れ様です。seesです。 はい。風邪引きましたね……。いや~…最近人の出入りが激しい場所へよく行ったもんだから誰かに変なモンもらいましたね……💦💦 更新も遅れてすみませんm(__)m……話の構成は完成していても書き出しがどうしても時間かかっちゃって……。眠いし。体だるいし。病院行ってたし。『激昂~』は残り3~4話程度の予定です。その後は楽天ブログ様の動向を見守りつつ、細々とやっていけたらね~と思います。まぁ、こんな駄文に付き合っていただけるのは、ほんの一握りの方々だけでしょうしね……。 今話は短め。各キャラクターの動向に一貫性を持たせるのは苦労します。あまりムダに字数を使いたくないですし……まぁ、前回のロスがひどかったからな私も……反省ス。 ちなみに、今回は川澄回ですね。……次回は対決前夜?にしようかしら……。 また更新遅れたらすみません。こりゃもう誰も覚えてくれないスね💦 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『……駐車場にて』 sees 「先輩、アノ鳥の名前、何てーすか?」 先輩(女)「……ありゃ、オナガよ」 sees 「へーかわいいっすね。スズメみたいっすね。最近よく見ますよね?」 先輩(女)「……オナガは雑食だからね。ここいら(名古屋)は木や森も多いし、そこらに 巣、作ってるのかも……」 オナガ1 「ピュピューイ……ピューイ。チューイ、チューイ(なんやこのアホ面は)」 sees 「うわっ、鳴いたよっ! カワイイっすね」 先輩(女)「……しかも2羽いるみたいだし……つがい、かしら?」 オナガ2 「ギギギー……ギーギー(なんか食わせろ)」 sees 「? 汚ねー声だな……オスか? なかなか人懐っこい鳥なんすね💦」 先輩(女)「sees君、何かエサ的なモノ持ってないの?」 sees 「う~ん……そうやっ!」 seesは鞄から今日のオヤツにと用意しておいた『しるこサンド』を取り出し、 袋を開け、1枚取り出し――「ルールルルル……ルールルル……」と言いながら、 オナガの前に放り捨てた。 オナガ1 「ピュ? ピュ? ……! (。・ω・。)ノ♡! (えーもん持っとるやないか)」 オナガがしるこサンドにクチバシをつけようとした―― その瞬間――オナガ2が喚き散らして飛び立ったっ! オナガ2 「……ギッ!! ギギーっ! (ギギギ、くやしいのう、くやしいのう)」 つられるかのようにオナガ1も飛び立ち、辺りにいた鳥たちは消えてしまった。 sees 「やっぱ、警戒心が強いのか―――――」 seesが溜め息を漏らそうとした次の瞬間―――― ヤツが―― すぐ目の前に―― そう。ヤツが、すぐ目の前に――黒い悪魔が、しかも巨大で丸々太った鳥獣が、 ふたりの眼前に降り立ったのだっ!! あまりの衝撃に、あまりの恐怖に、seesと先輩(女)は絶叫した――。 sees 「うわっーーーーっ! このカラス、どらでっかっ!!!」 先輩(女)「……いやや、いやぁぁーーーーーーっ!!」 そして、黒い悪魔は、しるこサンドをくわえて飛び立ち、背後の電線へと 飛び乗った……。 あー……ヒッチコック監督の『鳥』じゃねーけど……カラス怖わ💦 🐣🐦了🐔🐤 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2017.11.30
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月12日。午後18時――。 その瞬間のことはよく覚えている……。 グローバルゲート1階のほぼ中央、人が集中する十字路の一角に位置するダンロップ・ゴルフショップの隣のゴミ箱にアタッシュケースを押し込もうとした……その瞬間――こちらに歩み寄る女が、いきなり亮介の腕を掴んだのだ。 バレたっ! 反射的に、亮介は逃げようとした。けれど、女の手が亮介の服の裾を固く握り、反動でアタッシュケースごと床に尻もちをついてしまった。「……? ごめんなさい。ここのゴミ箱にそんな大きなモノはちょっと……」 女が何かを話しかけているその隙に、亮介はアタッシュケースを床に放り捨て、女の手を振りほどき、出入口に向かって直進した。「……! 待ってっ!」 慌ててアタッシュケースを拾い上げ、女は亮介の背を追った。女が自分を追って外に飛び出したら、それですべてが終わりだった。 亮介に迫る女は「あなたっ、コレは何ですかっ?」と騒ぎながら通路を進んだ。すれ違う人々の視線が、亮介に集中し始めたのがわかる。 けれど、女がそれ以上進むことはできなかった。その直前に、亮介は予め用意していた小型の出刃包丁をポケットから取り出し――振り向きざま、女の下腹部に思い切り突き刺したからだ。「うっ! ぐうっ!」 ほっそりとした首を前に傾け、女は苦しげな呻きを漏らした。 けれど、女はアタッシュケースを手放そうとはしなかった。次の瞬間、亮介は激しく苛立った。女の目が、まるで亮介を憐れむかのような視線だったのだ。 ……お前には何もわからないのだろう……お前のように若く、可愛らしく、誰からもチヤホヤされて育ったお前みたいな女には……俺の気持ちなど、理解しようとも思わないのだろう……。 この女を許すわけにはいかなかった。この女には罰を与えねばならなかった。 アタッシュケースを抱えてうずくまる女の髪を掴み、顔を上げさせ、顔面を――形のいいその鼻を思い切り殴りつけた。 鼻の骨が砕けたような感触が握り締めた拳に伝わり、可愛らしい女の鼻がいびつに曲がった。「ぐっ……ああっ……いや……」 潰れた鼻から血を溢れさせ、女は気を失いかけて床に倒れた。そんな女を一瞥し、周囲の人々を睨みつけながら、小さな声で吐き捨てる。「……あと3~4分で爆発だ。お前ら全員――死ね」 周りにいるすべての人間が敵に見えた。 佐々木亮介は真っ暗な自宅の床に座り込み、遠くで鳴り響くパトカーのサイレンを聞き続けていた――。 次はどうする? 亮介は自分に聞き、「……そうだな」と自分で答えた。 あれから――グローバルゲートの爆発音を聞き、自宅に逃げ帰った後、亮介はテレビを見るのをやめた。どうしても見る気にはなれなかった。不発したわけではないけれど、失敗したことは明らかだった。そして今、ようやく最後の爆弾を手に持つ時が来ようとしている。最後に何人を道連れにしてやろうかと思うと、たまらない満足感が込み上げてくる。……いい気味だ。どいつもこいつも、思い知ったか……とも思う。 最後の地へ向かうために亮介は立ち上がった。「……熱田神宮だ」 自分に向けて亮介が言った。「もちろんそのつもりだ……天皇家? 神様? 草薙の剣? くだらねえ……」 熱田神宮を攻撃する明確な理由はなかった。恨みなどあるわけもない。ただ何となく、何となくイライラしただけだ。テレビの情報番組では、イオン今池やミッドランド・スクエア、グローバルゲートや熱田神宮の宣伝ばかりしているし、ネットの広告も、ポストのチラシも、すべてがその4か所ばかりを宣伝していた。アタッシュケースと一緒に贈りつけられた手紙にも……それにあの人との会話でも……。……どうしてだ? 突然湧いた疑問に答えを求めて、亮介は思い切ってテレビのスイッチを入れた。 ――『いやあ……松坂牛や飛騨牛なんて、味わからないんだけどね』 それは、かつて見た情報番組の再放送らしき内容だった。情報番組の再放送? 何だと?……これは……そんなこと、ありえるのか?「……まさか……そんなバカな……何で?……」 ――それが、亮介の最後の言葉になった。 次の瞬間、かつて誰も聞いたことのない轟音がアパート全体を覆い尽くし、床が、天井が、柱が、壁が、窓やガラスやドアや階段が――何も理解できぬままの、何もわからないままの佐々木亮介の肉体をバラバラに吹き飛ばし――佐々木亮介の世界ごと消滅した……。――――― 10月18日。午後12時――。 愛知大学グローバルコンベンションホールの駐車場での爆発から数日――。岩渕にとって、東海3県の《D》の支店と、《D》に関係の深い企業に今回の事件の経緯を説明する挨拶回りは簡単ではなかった。各事業所に電話連絡とアポを取り、長い距離を運転し、騒動を説明する。何日も自宅に戻れなかったのも辛かったし、なぜこんなことになったのか? といちいち説明するのも鬱陶しかった。食事や睡眠もロクに摂れず、上半身が常に重く感じられた。 それでも岩渕と営業課の社員数名は、割り振られた事業所への説明を淡々と続けた。国道1号線沿いに三重県に入り、桑名市……四日市……鈴鹿市……津市……松坂市……。『……グローバルゲート支店のオープンは延期しない。これは決定事項だ』 自信満々でぶち上げる社長の言葉を思い出した。 ……それでこの結末かよ。ふざけやがって……。あの時、俺の言葉を少しでも聞いていたら、こんなことにはならなかった……丸山だって……。『くどいぞっ!』 首元を掴まれた時のことを思い出した。あの時のアザは今も岩渕の首に残っている。 ……丸山を殺したのはアンタじゃないのか? 冗談じゃねえぞ……クソがっ!――――― 10月18日。午後14時――。《D》名駅前支店3階の会議室には、既に50名ほどの社員が集まっていた。愛知県下の《D》社員で参加していないのは岩渕クンを含める営業課の社員数名だけだ。各地の店舗は今日、臨時の閉店措置を取っている。 総務課長である宮間有希は外部との連絡役兼書記を務めるため、携帯電話とPCの持ち込みと使用を許可されている。 ……これが普通の会議であれば、どんなに気が楽だろう。 そう。これは業務とは関係のない、非公式な会議であるのだから……。《D》グローバルゲート支店長、丸山佳奈の死亡及び――容疑者、佐々木亮介について。警察の発表によると、佐々木亮介という無職の男が問題の爆弾を名古屋市の各施設で爆発させたことは、ほぼ間違いなかった。しかし、男は最後に残した爆弾を自らの住居で使用し自爆した。爆発物の入手経路、犯行の動機もわからないままだ……。「……ああ、座れ」 儀礼的な挨拶と起立、労いの言葉と着席の命令を下したあと――最後に会議室に入った社長は、テーブルの上に顔をうなだれたまま――しばらく沈黙していた。 有希はそんな社長を、まるで娘を亡くした父親を見るかのように見た。……やはり社員と社長の関係……だけではなかったのね……。「……社長、全員、揃っています」 進行係である総務部長が社長に告げた。「……ああ、そう、だな……」 総務部長の言葉に静かに頷き、いくつかの簡単な指示を出したあとで、社長は虚ろな目で社員全員を見渡しながら、深く静かに息を吐き――それを繰り返し――やがて……持参した鞄の中から小さな木箱を取り出した。「……岡崎で火葬した、丸山の……骨だ。アイツ……バラバラになっちまって……ほんの少ししか残っちゃいねえが……」 悲痛な声で社長が言うと、社員の列席からはむせび泣く声が漏れた。 社長が静かに言う。「……少しだけ、昔話をしてやる……いや、させてくれ……」 誰も彼も、異論などあるはずがない。それは、有希にとっても必要な話なのだ……なぜなら、あの時――有希も現場にいたのだから……。 ……ん? ……『業務連絡』のメール? ……しかも……タイトルに『閲覧注意』? どういうこと? 誰? 起動済みのPCと自分のiPhoneに、何か、外部から連絡が入ったようだった。「……25年前くらいだ。俺にも好きな女がいた。そいつは俺が《D》を立ち上げた当初からアルバイトで雇っていた従業員のひとりだった。宝石や貴金属、ブランド品に詳しくてな、まだまだ未熟な俺をよく助けてくれた、と思う。……やがてその女と交際を始め、将来は結婚できればいいなと誓い合った。……そして、ある日突然、女は消えた」 社長は壁の一点を見つめ、淡々とした口調で話した。「……結論から言うと、女は暴力団に雇われた風俗嬢だったっていうオチや。《D》の抱えるブランド物や宝石類を根こそぎ強奪する計画やったらしい……後日の別件で、そこの暴力団事務所がガサ入れ食らった時、ウチの警備システムや金庫の型番の情報が発見されてな……だが……しかし、なぁ、俺は女のことを忘れ……られなかった。1年後、大須の探偵に依頼して彼女の行方を探したら、案の定、すぐに見つかったワ……栄の違法風俗でシャブ漬けにされた、廃人同然の元婚約者の女がな……」 有希は信じられないというふうに首を振った。社長の話のことではない。 ……そんな……嘘、でしょ?「『岡崎の児童養護施設にアンタの娘がいる』って言い残して……女はあっけなく死ンじまった……だがな、勘違いすンなよ。丸山佳奈は俺の娘じゃねえ。DNA鑑定もしたが、父親は別の男だ。……ただ、俺はあの時、この娘はいったいこれからどんな人生を送るンだろうなって考えただけだ……。せめて、母親とは違う世界を見せてやれたらなってな……」 有希の全身を戦慄が走り抜ける。社長の話は聞いていたものの、脳に残る気配はまったく感じられなかった。「……それからずっとだ。才能があるヤツはウチで雇う意味合いも込めて……俺は定期的に岡崎の児童養護施設を訪ねて佳奈の成長を見つめてきた……いつか、ウチで働けるように陰ながら応援してきた……それだけだ。その結末が、コレだ……俺は、お前ら全員に謝罪する……すまない……申し訳ない……」 弱々しく息を吐きながら、社長が「……来年《D》を売却しようかと思う」と呟きかけた、その瞬間だった――。 その刹那―― ついに――《D》総務課長である宮間有希は、決意した――。「――鮫島っ! 窓のブラインドを下ろせっ!」 突然の指名に鮫島は訝しげに顔を歪めた。「……あっ? てめえ先輩に何て口の聞き方しやがる」「うるさいっ! いいからブラインドを下ろせっ!」 有希が怒鳴り、鮫島を含める社員全員がビクッとして体を震わせた。「坂口っ! 岩清水っ! ALSOKに連絡して、大至急来てもらうように伝えろっ! 社内に不審物がないか調べるんだっ! 急げっ!」 有希は自分でも信じられないほどの怒鳴り声で総務の女たちに命令すると、しっかりとした足取りで会議室の壁に近づき――渾身の力を込めてホワイトボードに掌を叩き当てた。呆気に取られる社員たちを一望し、「全員っ、傾聴っ!」と叫びながら会議室の端にあるホームシアターセットに駆け寄り、電源を入れて社員用のPCとUSB端子を繋げた。自分に歩み寄ろうとする女性社員に「――動くなっ! いいから座ってコイツを確認しろっ!」と怒鳴り、まるで鬼のような形相で叫び続けた。「社員全員のPCにメールが入ってるハズだっ! 後で確認しろっ! でも今っ、ここでスクリーンに出してやるっ!」「……宮間、ALSOKを呼んだり、スクリーンの用意までして……何をする気や?」 か細い、まるで覇気の感じられない社長の声が会議室に響き渡るが――今の有希には関係がなかった。「《D》業務連絡用メールアドレスに、動画ファイルが一斉送信されているっ! そしてっ!社内の様子が盗聴されている可能性が高いっ! これで満足かしらっ? 社長っ!」 有希は怒鳴り続けた。「……クソッ! クソッ! 今……映すぞ……見てろっ! 畜生がっ……」 ああ……もう、ダメだ……。 冷静に……なれない……。 私は……私は……。「ああ……佳奈ちゃん……佳奈ちゃん……佳奈……畜生っ!」 そう呻いて、有希は髪の毛を振り乱し、ギリギリと歯軋りをした――。――――― それは何かの災害現場を上空から撮影するニュース映像のようだった。 グローバルゲートの内部から、黒いリクルートスーツを着たひとりの女性の影が動く。カメラとの距離は離れているハズなのに、女性の声ははっきりと録音されていた。『……離れなきゃ……少しでも遠くに……』 それは《D》社員、丸山佳奈の声と姿だった。佳奈は脇に銀色のアタッシュケースを大事そうに抱え、片手で腹部を抑え込み、可愛らしかった顔を不自然に歪めてフラフラと歩いていた。そう。鼻の先端からおびただしい量の鮮血が滴り落ちている。だが、佳奈は脚を止めることなく歩道に躍り出ると……トヨタカフェの前に停めてあるi-ROADに近寄り、躊躇せずに乗り込んだ。『……行かなくちゃ。私が守るんだ……私が……お店を……』 佳奈の影が車の中に消え、i-ROADが発進する。『……お腹、刺されちゃった、な……痛い……痛いよ……』 車両の移動に合わせてカメラが動く。直線的かつ立体的に、前後左右に動く。「何だ?」「この映像は……?」「どうして……いや、どうやって?」 困惑げに疑問を口にする社員たちに向け、宮間有希は言い放った。「……おそらくカメラは高性能ドローンよ。それもかなりの解像度……自衛隊仕様のものかも。そして音声は……あの、アタッシュケースの中……たぶん、盗聴器ね」『ここでいい、よね……』 i-ROADが愛知大学グローバルコンベンションホールの駐車場へと辿り着く。『……ダメ、もう、動けないよ………』 i-ROADのハッチが開くものの、佳奈の影は現れない。『……助けるって、守るって……言ってくれたのに……嘘つき、だね……サワのおじちゃん……』「……課長っ、もう見ていられませんっ!」「消してくださいっ!」 スクリーンに近い女性社員たちが口々に悲鳴を上げた。中には呻き声を漏らしてすすり泣く社員もいた。既に号泣している若い男の社員もいた。そんな彼らに、有希は、容赦なく、怒鳴り散らした。「逃げるなっ! 最後まで見続けろっ! 話はそれからだっ!」 佳奈はようやく車外へ体をすべり落とすと、固いコンクリートの上を這いずった。ドス黒い血が佳奈の下腹部を中心に――まるで水溜まりのように溢れて広がる。 ――突如、カメラの高度が落ち、地を這う佳奈の表情の撮影を始めた。佳奈は、逆流する血と胃液を口の中からゴボゴボと溢れさせ、鼻血をたらし、目から大粒の涙を流していた。「……な、に? ……この、カメ…ラ? ……なん、なの?……うぅ……」「……ぐぐぅ……うう……」 低く唸り、血が滲むほどに拳を握り、社長である男は目を閉じた。「……そっか……きょ……う……は、ん……者か…………」 佳奈は直感で理解した。このドローンを操作する人物こそ、この汚らわしい事件の共犯者。許されざる者――この土地に、この名古屋という街に存在してはならない者――佳奈の大好きな《D》や《D》の社員たちが住むこの街にいちゃいけない者――そして……佳奈の愛する男が決して触れてはならぬ、決して触れさせたくない者だと―― ――直感で理解した。 そして次の瞬間――彼ら《D》は見て、聞いた。生と死を分ける一本の線が、自分たちとスクリーンの間に引かれているのを見た。短い動画であったが、確かに見た。自分たちは生の側に座っており、スクリーンの中の丸山佳奈は死の側で這いつくばっていた。 それは彼らの人生における最大の……。「……畜生……畜生……ち、くしょう……」 佳奈は四つん這いになって、車から離れようと必死に腕を動かした。鮮血が口と鼻から溢れ、指がヌルヌルと滑り、呼吸もままならない中で、佳奈は少しずつ……少しずつ……距離を離していった。少しずつ……少しずつ……少しずつ……少しずつ……佳奈は『死』の領域から『生』の領域へと近づいていった。だが、カメラを正面に向けられた瞬間――佳奈の顔が恐怖と絶望に歪んだ。「……サワの、おじちゃん……お願い、だよ。……こいつを……やっつけて……みんなぁ……くやしいよ………やっつけて……おじちゃん……お願いだ、よ……ああああっ……………」 やがて――…… ……――まるで撮影者が満足したかのように、画面は《死の閃光》に支配され、佳奈の姿も、声も、存在も何もかもが、消失した――……。――――― そして、《D》代表取締役社長、澤光太郎は――目を見開いた。「……殺しましょうっ!」 気の弱そうな女性社員が叫び、「許せねえ……」と唸る男性社員や、「……警察に引き渡す必要はない。……殺してやる」と呟く温厚な総務部長の姿が見えた。「ナメやがってええーーーっ! 絶対に見つけ出してっ、絶対に殺してやるーーーっ!」 子を持つ父親である鮫島恭平が絶叫し、普段から冷静な宮間有希もまた「みんなっ! 情報を集めましょうっ! この野郎だけは、絶対に逃がさないっ!」と叫んだ。「殺す」「殺す」「殺す」「殺す」……殺意は次々と伝播し、《D》の社員たちのすべてを支配した。 そう。丸山佳奈の死の動画――それは彼らの人生における、最大の屈辱であったのだ。「畜生っ……畜生っ……娘が……俺の、娘が……」 澤光太郎もまた――何かを呪うように呟きながら、奥歯を強く噛み締めた。 堪え難い屈辱が…… 無限に湧く憎しみが…… 切なく募る悲しみが…… 腹の底で煮えたぎる怒りが…… おぞましく、狂おしく…… 混じり合い、形を成し、醸成され…… 激昂へ至る――。「ああああああああああーっ!」 澤は叫んだ。身をよじり、両手で髪を掻きむしり、声の限りに叫んだ。「ああああああああああーっ! 殺すっ! 必ずだっ!」 瞬間、心臓が燃えるように熱くなり、凄まじい怒りに全身が震えた。 そして澤は……これからこの動画を撮影した者を探そうと決めた。今すぐそいつのところに行き、そいつから全てを奪い取り、命を以って償わせようと決めた。 心が壊れても構わなかった――まるでかつて、佐々木亮介が自分の心を壊してしまったかのように――澤にとってももう、そんなことは、どうでもよかった……。――――― 『激昂するD!』 gに続きます。 本日のオススメ!!! DAOKO氏!!! 宣伝する意味、もうないのかもだけど……。 前回紹介させていただいた時から数曲、新曲増えましたので再登板。相変わらずの病的な美しさと、非日常的な歌唱力で、今やメジャー歌姫となってしまいました……。あの、素顔NGで、アニメPVしてた頃はいったい……。 説明は不要……ですかね。とにかく一度は聞いてみてください。波長が合えば、すぐにでも好きになってしまう方ですから(つまりは客を選ぶ音楽性)。まぁ、seesは丸顔のヒトってだけでも好きですが……。↑DAOKO × 岡村靖幸『ステップアップLOVE』――ダンス、意味あったのかな……。↑DAOKO × 米津玄師『打上花火』――米津氏、販促向けの楽曲多くなってきたな。しゃーないか。↑DAOKO『Forever Friends』――ザ・低予算PV。……ま、丸い。ちょーカワイイけど。 DAOKO氏の楽曲↓よろしければ、お手にどーじょ。 ……お疲れサマです。seesです。はじめにすいません。更新遅れました…m(__)m いや……今回は気合入ったなあ……感慨。というか、今短編はこの部分と、もうひとつの部分だけが作りたくてヤッたものですからね……。下書き段階でいろいろと案はあったのですが、やはりこういう形がsees的にはしっくりいきましたね……。後は、ラストまで走るだけスね……。今日は仕事も適当に済ませました(笑) ただ、今短編は人間関係がかなり複雑になった感はあります……これだから、固有名詞を増やすのは手間がかかる💦 品詞選びも楽じゃないし……「あらすじ」なんてもの作るヒマないんスよね~ww ……思った以上の長文となり、自分に乙ww文春や新潮の連載小説並みの文字数……長すぎて理解してもらえないかもだけど……ごめんなさい。 楽天様以外のお客様には本当――お手数かけます……<(_ _)> 今回からもう、爆弾騒ぎは完全に終わりです。暗黒面に堕ちた《D》と、✖✖✖の対決が軸になります……お楽しみに~(@^^)/~~~ でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『……聞きたくはなかったカモ』 sees 「……アガアガアガ」 Doctor.k 「ほら、seesさん、ちゃんと口開いてっ!」 そう。seesは近所の有名歯科医で治療を受けていた……何が有名かというと、 ズバリ、激安。そして、ドSの歯科医K。 Doctor.k 「はーい、麻酔イクよ~。痛いからね(確定)。我慢してー」 sees 「っ!! ああ゛ーーーっ!! アグアグ、アグゥ……💢」 Doctor.k 「おいっ、ちゃんと口あけてっ! 余計痛いよっ! ( `ー´)ノニヤニヤ」 sees 「オエエエエ……(マジか……)」 ……… ……… ……… それは、処置の途中の出来事であった。 歯科助手 「先生~…✖✖信用金庫からお電話です」 sees 「! (おいおい、ウチの会社の取引先じゃねーかよ)」 Doctor.k 「……チッ。 あのクソカス銀行に言っとけっ! 今仕事中やっ!」 歯科助手 「……先生、何かお約束されてたとか、どうとか……」 Doctor.k 「知るかいっ! ついでに言っとけ、てめーんとこの銀行、裏でパチ屋 の✖✖(パチンコ屋、北のあの国系)と✖✖のバラシ屋(解体業者、ほぼ 暴〇団系)と癒着しとんの知っとんのやぞボケっ! てな、ゲラゲラww」 歯科助手 「はーい🎵」 ……えっ? Doctor.k 「あーseesさん、すいませんね。じゃっ、続きしましょーか💓」 sees 「っ? ――ああああああああ!」 永遠に続くかと思われた苦痛の中、seesは思った……。 ――あの銀行……て、マジ? 歯科事務 「……本日は350円でーす。お大事に💉」(嘘っぽい価格ですが、ガチです) sees 「………」 後で次長に報告やな。あと、ここの歯科医、宣伝しとこ(◍>◡<◍) 了 ('Д')プルプル こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング あー疲れた……。
2017.11.15
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月11日。午前0時――。 伏見宮京子は乾いたベッドの中でエビのように体を丸めていた。いつまでたっても体は冷えたままだった。時折、フッと意識が遠のいたが、眠れたという実感はなかった。ついさっき、岩渕から届いたメールの中身を思い出す。それは『社長を説得しようとしたが、ダメだった。明日は予定通り、《D》グローバルゲート支店をオープンさせる。京子は、来ないでくれ。すまない』という内容だった。 一昨日――岩渕との別れ際、彼は何も言わず私の体を抱き締めた。それは嬉しくはあったけれど、慰めにはならなかった。そう。私は何もできなかったのだ。死にゆく人々をただ、ただ呆然と眺めて泣いていただけだったのだ……。 眠れないまま京子は、目を閉じて闇の中に身を委ねようとした。そうしていると、いろいろな思いが心をよぎった。岩渕のこと。犯人のこと。死んでしまった人々のこと。グローバルゲートのこと。もしも、グローバルゲートで爆弾が爆発してしまった時のこと……。 彼は犯人のことを『悪意の塊』と表現した。それは正しいと思える一方――間違った認識だとも思う。なぜ、犯人は悪意に身を染め、卑怯な手段を用い、人々を惨殺せしめたのか? それは悪意などではなく、純粋な殺意からのものに間違いなかった……。人を、社会を、全てを憎む殺意が……犯人の中で今も蠢いているのだろう……。 もし……もしも……あの時、ミッドランドスクエアの爆発で岩渕が死んでしまっていたら……そうしたら、私も、犯人と同じようになってしまうのかもしれない……。もし、《D》の名駅前支店で同じような爆発が起きたとしたら……そうなっていたら……私は、きっと、正気じゃいられないのかもしれない……たぶん、誰かを憎み、殺してしまいたくなるのかも、しれない……。 京子はそっと大きく息を吐いた。そして、心が弱ってしまった時にいつもそうしているように、神々への祈りを捧げようとした。そう。不安や恐怖がどうしようもなく募った時、京子はいつも『祈り』を捧げた。 ……犠牲者の魂にご冥福を……そして、名も知らぬ卑怯者よ、どうか……怒りを鎮め、憎しみを捨てなさい……どうか……もう誰も……傷つけないで……。 閉じた瞼の隙間からとめどなく涙が流れ――京子は、優しい眠りが訪れるのを待った。――――― 佐々木亮介は敷きっぱなしの布団に横たわり、いったいアレをどうやって、グローバルゲートの内部に持ち込めるだろうか? どこに放置すればいいだろうか? と考えていた。暗い喜びが全身に広がっていくのがわかった。 とある人物に次の転職先にどうかと勧められたグローバルゲートの商業施設を思い出す。自然と頬の肉が緩み、笑みがこぼれた。 ……あいつらの命は――あそこで働くあいつらの命は――あと何時間なんだろう? 高級カフェ・高級スーパー・高級レストラン・輸入雑貨店・セレクトショップ・診療所・スポーツ用品店・呉服屋・自転車屋……グローバルゲートにテナントを構える企業に興味はなかった。もちろん、恨みがあるわけでもなかった。だが、いつだったか、テレビの情報番組の企画で、『グローバルゲートで買い物をするセレブ家族に密着』なる内容の放送を見かけた。ホームパーティのための買い出しに来たということ。『味はわからない』と笑う中年の男が、松坂牛や飛騨牛を大量に買い込むということ。 その後の放送も、亮介はただぼんやりと見つめ続けた。 中年の男には亮介と同い年くらいの息子と、若くて可愛らしい娘がいる。息子には美しい妻と、ベビーカーに寝る赤子がいる。娘にも婚約者がいる。企画の最後、彼らがレクサスのSUVで走り去る映像を見かけた。 この中年の男がどんなヤツなのかはわからなかった。だが、その男と家族がグローバルゲートの常連であり、ヤツらの人生が幸福で満たされていることだけはわかった。 そして、そんな、そういうヤツらが集まる場所は――…… ――復讐の条件に充分だった。―――――「……つぅ」 名駅前支店のバックヤード裏で、《D》総務課長である宮間有希の顔を見つめて、岩渕は首をさすった。社長に掴まれた首元が、軋むように痛んだ。「ざまぁねえな」と《D》名駅前店支店長の鮫島恭平が笑いかけた時、有希が「……社長の命令は絶対だからね。……イライラしているところに岩渕クンの正論でしょ? それじゃあ、首を絞められるのも当然ね」と言って頷いた。 岩渕は痛みに顔を歪め、「……イライラ? わけがわからない」と呻いた。それから小さく息を吐き、「……グローバルゲート支店、何でオープンを急がせると思う?」と聞いた。 午前0時を回る数分前、残務処理を終えた岩渕が社長室に入室し、そこで書類を眺める社長に『……明日の新店オープン、延期できませんか?』と聞いた瞬間――首を掴まれた。『くどいぞっ!』 社長は怒鳴り声を上げて岩渕を睨みつけ、首を掴む手に力を込めた。それには強い意志が込められており、鬼のような形相だった。 抵抗することはできたハズだった。けれど、社長の中に存在する固い決意の前に、いや、ひとりの男の持つ意地とプライドが、岩渕の抵抗を許さなかった。そう。ひとりの男が、誰かとの約束を守るために貫いた矜持に――気圧されたのだ。「……ふたりとも、煙草、いいか?」 そう言って鮫島は、有希と岩渕が頷く前に煙草に火を点けた。有希が小さな舌打ちをするも、鮫島は夜空に向かって煙を吐き出した。「……ていうかよ、宮間、お前知ってるんじゃねえのか? 社長が延期しない理由をよ……」 有希はさらに煙を吐き出す鮫島を一瞥し、それから少し目線を下げ、長い溜め息を漏らし、「……ええ」と頷きながら髪を指でいじった。そして、「……あくまでも非公式の話だし、私も社長から直接聞いたわけじゃないケド……」と話を始めた。「……どういう理由だ?」 即座に岩渕は反応した。「……河村市長が来店されるらしいの。表向きはグローバルゲートの視察みたいだけど、実際は《D》に政党への資金援助の要請、後援会への参加要望ていうところかしら……」 有希が言うと、鮫島は驚いたように目を吊り上げ、咥えていた煙草を灰皿にずり消し、それから岩渕のほうを見て笑った。「はあっ? この、爆弾事件も解決してねえ段階でか? 嘘だろっ?」「……犯人が逮捕された後、被害に遭った市民と企業に恩を売る計画みたいね……鮫島さん、声が大きいわよ……」 有希の言葉に、岩渕は呆然とした。やがて、ふたりに聞こえないくらいの小さな声で、「……ふざけるな」と呟いた。 ――京子、教えてくれ。 ここにはいない女の名を思い浮かべ、岩渕は考え、思った。 ……《D》は、キミに、本当に、応援される価値があるのか? ……《D》は、キミに、本当に、愛される資格があるのか? 政治の毒を食らって身を守り、偽善をエサにカネを得て、死者を利用して名前を売る……。 ……そんな企業で働く俺は、キミに、本当に、 ――愛される価値が、資格が、あるのか? ――京子、頼む、教えてくれ。 ……教えてくれ、よ……畜生っ……。――――― 10月11日。午前6時――。 浅い睡眠と覚醒を繰り返しているうちに、夜明けの空は少しずつ明るくなっていって、やがて暖かな光がカーテンの隙間から差し込んだ。「……うん」 丸山佳奈は恍惚となって声を漏らした。そして、誘われるかのようにカーテンを開き、窓を開けた。瞬間、10月の涼しい風がアパートの中に流れ込み、佳奈の固くなった筋肉を心地よくほぐしていった。意識が完全に覚醒し、視力が研ぎ澄まされた。「……ああ……気持ちいい……」 爽快な気分に声を漏らし、背を伸ばした。そして、今日からオープンする新店舗のことを考えた。無意識のうちに頬が緩むのがわかった。 ほんの数日前、佳奈は社長から市長の来店を告げられていた。けれど、同僚たちはまだそのことを知らなかった。後で思い切り悔しがらせてやろうという、ほんのイタズラ心のつもりだった。うまく事が運べば、佳奈と《D》の利益に繋がるのは間違いないからだ。 爽やかな空気に包まれて、佳奈はゆっくりと深呼吸を繰り返した。眼前の窓からは眩しいほどに輝く太陽の姿が見えた。周囲の家々からは、目を覚ました小鳥たちのさえずりが響き始めていた。そして――今、私は、これまでの人生で一度として感じたことのなかった幸福感に包まれていた。 そう。今、私は幸せだ。かつてないほどに気力が漲り、脳の計算も冴えていた。尊敬する社長と、大好きな仕事に従事でき、未来への希望の道をしっかりと歩くことができるのだ。 もしかしたら……あの施設で今も苦労する子供たちに、何かプレゼントを贈ってやれるかもしれない。佳奈は思った。 もしかしたら……私のような……かつての私のような不幸な人生を送っている人々に、何かの形で夢や希望を見せることができるのかもしれない――。 ふと――自分に夢と希望を与えてくれた中年の男の顔を思い出し、佳奈は、笑った。 しかし――。――――― 10月11日。正午ちょうどに名古屋市中村区にある愛知大学グローバルコンベンションホールの駐車場で凄まじい爆発があったというニュースは、瞬く間に日本列島を駆け抜けた。それはイオン今池であった爆発にもひけをとらない大爆発で、その破壊力は凄まじく、被害は甚大なものになると報道された。 爆心と思われる駐車場はアスファルトが広範囲にえぐり取られ、辺りは瓦礫の山と化していた。爆発と同時に、駐車してあった車両からは火災が発生し、北東の乾いた風に煽られて黒煙と炎を広げていた。現場には救急車や消防車、パトカーなどが大挙して駆けつけ被害の規模の調査を始めた。 ――判明している被害者はひとりだけ。 グローバルゲートに勤務する会社員の女性とだけ発表された。 翌12日、監視カメラの映像から、この女性と、犯人と思われる男の行動の全容が解明された。警察の発表では、男がグローバルゲート内部のゴミ箱に、爆発物であるアタッシュケースを置き捨てようとした際、偶然にも現場を目撃し、不審に思った女性が男を問い詰める映像が公開された。 爆発の時刻が迫っていると知った女性は、果敢にも爆発物を奪い去り、中村区を試験走行中であったトヨタのi-ROADに乗り込み、200m離れた愛知大学コンベンションホールの駐車場まで辿り着き、そこで爆発を迎えた。警察では、女性は腹部に重度の裂傷を負っていたことが確認されており、女性自身の避難には間に合わなかったとみている。 ――調査の結果、被害者の身元が判明し、氏名が公開された。 被害者はひとりだけ、『会社員 丸山 佳奈(25)さん』とされた。 そう。 被害は駐車場のアスファルト、国産自動車数台とトヨタの試作車が1台、そして若い女性がひとりだけとされた。その程度の被害で済んだのは、まさに、奇跡であった。 警察は現場から立ち去った男の顔や服や特徴をテレビで公開し、情報の提供を呼び掛けた。政府からは非常事態宣言が発令されていたが、それは単に恐怖を煽り立てただけだった。名古屋市各地の大規模商業施設は次々と営業を自粛し、都市は機能の一部を失いつつあった。 警察は犯人の確保に3万人の警官を動員し、名古屋の街を駆け巡った。 ――グローバルゲートの運営会社と名古屋市と国と警察は、丸山佳奈さんの所属する企業に対し、『警視総監賞』『紅綬褒章』の授与を打診したが企業の社長はこれを無視し、記者会見すら開こうとはしなかった。河村市長が直々に感謝の意を伝えるために訪問した際、企業の社長はこう言い放ったという。『……黙れっ! 貴様ら全員っ、ブチ殺すぞっ!』――――― ――丸山……佳奈さん、だっけ? 彼女のせいで、計画が台無しにされてしまった……。 本来なら、グローバルゲートと一緒に《D》の幹部連中も爆死、あわよくば……組織ごと壊滅させる予定だったのに……。 ――残念だ。 いや、それはワガママというものだろう。佐々木亮介はよくやってくれた、と思う。よくやってくれたとは思うけど……計画の変更が必至である以上、もう佐々木亮介に用はない……これまでに多くのカネを使って誘導してきたが……まぁ、いいか。……とにかく、彼は……役に立ってくれた……。彼のおかげで最高の映像が撮れたし、彼のおかげで最高の声が録れた。……これなら……元は取れた、のかな? あとはこれを細工して、編集して、《D》の皆様方へのプレゼントとしましょうか……。 ――ああ……楽しみだ……。……姫様……あなたに最高のプレゼントを贈ります……。……激しい怒りと……深い悲しみと……強い憎しみと……永遠の絶望を……あなた様に、あなた様だけに……贈ります……。 ――楽しみに……していてくださいね……。 ……そうそう。岩渕さん、安心してください。せっかく生き残ったんですし……あなたにも……何か、ステキなものをご用意しますから……。――――― 男は新聞を読んでいた。 新聞を読む。たったそれだけのこと、たったそれだけのことなのに、男の胸は躍った。名古屋市での連続爆破事件の詳細を頭の中に巡らせ、さらに慌ただしく考えを巡らせる。「……楽しそうですね。……僕も混ぜてくださいよ……岩渕さん……」 別に、事件のことなどどうでもいい。《D》のことも、どうでもいい。 カネの匂いがした。そう。ただ、それだけのことだ。 ふと少女――いや、成人した女の顔が薄れつつある記憶から浮かんだ。「……あのテストで僕よりも高い点数を取ったとか? ……もう会えないと思うと、残念だね」――――― 『激昂するD!』 fに続きます。 本日のオススメ!!! ポルカドットスティングレイさん。……ねっとりと絡みつくのは、相変わらず。 前回紹介させていただいた時よりもグッと引き締まりましたね。歌声に伸びが加わり、ギター担当ののエジマ氏?の実力も上がりましたね……。 具体的に申しますと、曲の始まりの『椎名林檎感』が抜け、ボーカル担当のシズク氏の個性が際立ってきました……。以前は妙な力感が、魅力を半減させていたように思える……。まあまあ、素人感は完全に消えましたよ😊ようつべのコメントも賛否が別れてきました(順調な証拠です)。……後は露出の問題スね。何かのキッカケさえあれば、一気にメジャーバンドに成長するのですが……。 ↑新曲『レム』ス。歌詞は意味不明ですが。 ↑『シンクロニシカ』す。複雑な曲。難しい。 ↑『夜明けのオレンジ』……椎名林檎感、強し。比較用。ポルカドットスティングレイの楽曲。よろしければ、どぞどぞ。 ……お疲れサマです。seesです。 意気込んで作っているワリに更新遅れてすみませんです。 ……疲れた。『浜木綿』以下のクソまずい中華料理屋で会食し(浜木綿はウマいと思う)、休日を踏み潰す深夜残業。同僚の、何とかプラズマ肺炎?病欠の代替出勤。寝ながらPC作業して社内メール誤送信……昨年比マイナスの成績が2ヵ月続いただけでキレられる始末。「一時は10か月連続でプラスだったのにぃ😢……アカは転職してから一度もないのにぃぃ」 とは言えるワケもなく……ただヘラヘラ笑うseesです……。 さて、次回はいよいよタイトル『激昂……』の真意が発表される、最初のメイン回です。 個人的には一番好きなシーンが出ますね~💚お楽しみに~💓 ちなみに、グローバルゲート部分の表現方法は、あえて、ああいう形にしました。決して手を抜いたワケじゃあナイす。すべては、次回、明らかにする予定っす。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『……エセ』 ――とある選挙演説にて、河村名古屋市長、挨拶より抜粋。 河村市長 「……みゃあ~たら名古屋市っちゅ~からみゃ~僕としては……東京とんと トヨタはカネを稼いでるっちゅう~京都からホント、おそろしいっちゅう 大阪? 考えんとアカンと、歴史と世界遺産とドイツ? しゃーくしょっ ちゅうとこーはで、だで、ですわ。ちょいちょい、トヨタぁ?」 sees 「………」 先輩 「sees君、わかるか?」 sees 「いいえ……先輩、アレ、本当に名古屋弁すか?」 先輩 「……河村市長は一宮市出身だからな(標準語基本のハイソな街)。……アレは エセ名古屋弁、だで」 河村市長がビジネス名古屋弁を多用しているのは、周知の事実らしい。 知らなかったのは社内でseesだけ?……マジかよ。 ……… ……… ……… ――社内にて、社員たち、雑談より抜粋。 後輩 「sees先輩って出身どこですかブー? 名古屋ナマりとかナイですブヒよね?」 sees 「生まれは三重だからな、名古屋弁というより三河弁に近いよね(^^♪」 後輩 「へー…でも普段は標準語ですブヒよね?」 sees 「いや……まあ、公私混同はしないよ( ・´ー・`)ドヤヤ……顧客相手だと、つい名古屋弁 出ちゃうコトもあるけどネ🎵( `ー´)フフン」 後輩 「すご~い。使い分けてるんですね~……尊敬しちゃうブ~💚」 ヒヒヒ……名古屋人なんてチョロイもんだぜ……なんせ名古屋人てのは、 本当に『I💓愛知』だからな(公私で方言が抜けれない県民性らしい)。 ――しかし、そんな、調子に乗るseesに 天罰が下らないワケがなかった……。 次長 「……確かお前、生まれは三重やけど、育ちは関東やなかったか?💢」 sees 「ヴっ……(これは……致命傷か?)😅💦」 後輩 「えっ? つまり……どういう意味ですかブ~?」 次長 「……このバカは取引先でワザと口調変えとるんや。エセや。市長と一緒やの」 後輩 「えーーー、信じらんなーい。さーいてぇーいwwwブヒヒ(# ゚Д゚)」 sees 「……じ、次長……な、なぜ、それを……??」 そして―― 次長の、seesへの、かみなりっ! 次長 「たわけがっ! おめーの入社試験の面接、オレが担当やったで忘れたんかっ?💢 おみゃー、始終標準語やったやないかいっ!! エセ名古屋弁タレるんやないでっ!! (# ゚Д゚)!!⚡⚡仕事もクソも、全部標準語しゃべれやっ!!⚡⚡」 sees 「おっぱぁぁぁーーーー………ひ、ひでぶぅーーーーっ!!!」 こうかはばつぐんだ! 相手の、seesは、たおれた……。 了( ;∀;) こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2017.11.07
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月9日。午後17時00分――。 岩渕は《ユウリクリニック》の待合室でテレビを見ていた。 テレビではミッドランド・スクエアの爆発事件の中継映像が流れていた。つい先程まで、京子と一緒にコーヒーを飲んでいた場所とは思えなかった。もはやどれほどの時間が経とうとも、あの景色が戻ることはないのだろう。「……どこぞの国のテロリスト、とは思えないが、な……」 犯人の目的、場所との関係、動機そのものの意味……わからないことばかりだ、心の中で岩渕は言う。「岩渕様、院長先生がお呼びです」 事務の女性が事務的な口調で言う。「伏見宮様……かなり落ち着かれたとのことです」「……今はこっちが落ち着かないよ」 岩渕は事務の女性に苦笑いして見せる。「……チャンネル変えたほうがイイかもな」と言いながら待合室を出る。「岩渕だ……入るぞ」 そう言って病室のドアを開ける。 チリひとつない清廉な病室では、伏見宮京子と永里ユウリが話をしている。永里が岩渕を見て微笑み、軽く頭を下げる。岩渕も同じように微笑み返す。「……テレビの解説の方がおっしゃってたんですが、犯人っていうのは、若い日本人風の男性、らしいですね」 ユウリが丁寧な口調で言う。「ああ……もしかしたら、どこかの国に依頼されてヤッているのかもな」 そう答えながら、ベッドに横たわる京子の様子を見る。 京子は未だショックから立ち直れないようだ。無言で岩渕を見つめ、唇を震わせている。ファンデーションの上からでも、顔色がひどく悪いのがわかる。目が真っ赤に充血しているところを見ると、ついさっきまで泣いていたのかもしれない。「……だとしたら、今後も事件は続く可能性が高いわけですね……。岩渕さんも充分に注意してくださいね。……名駅前やグローバルゲートなんかは、テロリストにとっては格好のターゲットなんですよ」 ユウリが言い、京子が「……決して、許されることではありません」と言いながら、目にハンカチを押し当てる。 ユウリが出て行ってから、病室のベッドでしばらく京子と抱き合っている。京子は、「……ごめんなさい、岩渕さん」「あんなに取り乱して……ごめんなさい」と繰り返し、また大粒の涙を流している。たぶん、パニックに陥った自分を運ばせた俺と、病室を貸してくれたユウリに自責の念があるのだろう。「……俺なら大丈夫だ。気にすることはない」 そう言って、ほつれた彼女の髪を撫でてやる。 ……強がりだ。岩渕は思った。 本当は動揺しているし、怯えてもいるし、不安も残っている。とてもじゃないが、社に戻り業務を続けられる自信はない。案の定――社長から『皇女殿下は伏見宮家に連絡して車を手配してある。お前は帰って寝ろ』と言ってくれたので、その言葉に甘えることにする。 京子の涙と鼻水をティッシュで拭いてやり、もう一度彼女の髪の毛先に触れ――……? ……何だ? ……何かが、心に引っかかっていた。 その何かを思い出すことが叶わぬまま――岩渕は病室を出た。―――――「……はい。準備は順調です。当日は精一杯がんばります。何かあればすぐに報告を……はい……はい。では明日も朝、お待ちしております……」 まるで戦いに赴く兵士のように社長にそう言うと、丸山佳奈は電話を切った。接客用語の発声練習をするアルバイトたちの活気ある声がし、それに続いてレジ精算の練習らしい電子音が聞こえた。 佳奈はレイアウトの終わった《D》グローバルゲート店の中を見まわした。美しかった。ショーケースには煌びやかな宝飾品がライトアップされて陳列していた。 テレビを見る気にはなれなかった。きっとどのチャンネルもイオン今池と、ミッドランドスクエアの爆発事件の話題で持ち切りに違いない。 ……ここに来たら、ブン殴ってやる。 汚らわしい闇の手がこの場所に来る可能性を考えると……息が詰まって苦しい。 佳奈はにじり寄るようにして、店内奥に飾られた《D》のエンブレムが刻まれた看板の前まで行った。軽く一礼し、エンブレム横にある額縁に目をやる。『店舗責任者 FGA(宝石鑑定士) 当社規定査定士 丸山佳奈』 ……ありがとうございます。……社長。 緊張しているのか、高鳴る心臓の音を聞きながら、佳奈は考えていた。 ついさっきテレビのニュースが、ミッドランドスクエアでも爆発が起きたと伝えていた。それにはやはり、イオン今池での爆発物と同様の爆弾が使用されたらしかった。インタビューを受けていたミッドランドスクエアの関係者は、自分たちには思い当たるフシが全くないと言い、悲痛な現状を吐露していた。そのニュースを聞いた瞬間、佳奈は、被害者を憐れむ気持ちがあまり湧いてこないことに気がついた。 ……犯人は、たぶん、私と似たようなヤツかもしれないな。 佳奈は自問した。 ――それは、なぜか? 佳奈は《D》のエンブレムを見つめ続けた。 ずっと昔、まだ10歳か11歳だった頃のことを思い出した。あの頃、佳奈はいつも、他人が憎くて悔しくて、羨ましくて仕方がなかった。親に捨てられた自分の将来が、美しく輝くバラ色になるとは思えなかった。なぜそうなふうに考えたのかはわからないが、父や母のいる家庭の子を見るたびに、自分と彼らの人生には越えられない壁があると恐怖した。そんな時、幼い佳奈はいつも、『大丈夫、この壁は、これ以上大きくはならないから』と自分に言い聞かせた。『大人になれば、きっとこの壁も壊れて消える』と。 ……きっと犯人は、壁を壊すことができなかったんだ。そうなんだ。壊れてくれない壁は、削れてもくれない壁は、やがて大きな闇を生む。光を遮る壁は、闇を生み、悲しみを膨らませ……怒りと憎しみだけが残る……。「……同情ぐらいはするよ。被害者にも……犯人にも……でも、私は違う」 声に出して自分に言い聞かせた。「私は明後日、一人前になる。懸命に働き、国に奉仕し、《D》のために、ガンバリますっ!」 佳奈はこれから、改めて、自分の人生のコンプレックス――劣等感とでも言うべき壁を乗り超えようと決意した。そう決めてしまうと、緊張は徐々に収まっていった。――――― 世の中には幸運な人がいて、不幸な人もいる。 佐々木亮介はもちろん後者であったが、昼間――ミッドランドスクエアで死んでしまった買い物客たちは、果たしてどちら側の人間だったのだろうか? 夜、途切れることのないテレビのニュース映像を見ながら、亮介は考えた。ゆっくりと深呼吸を繰り返し、また考えた。あらゆることを思い出し、考え、考え続けた……。 ……記憶もおぼろげな幼い頃から――亮介は、父や母から虐待を受けていた。毎日のように殴られ、蹴飛ばされ、つねられ、髪の毛が抜けるほど引っ張られた。母はタバコの火を亮介の腕や背中や足に押し当てては笑っていた。雪の降る日に一晩中、ベランダに放置され……食事だと言って雑草を食べさせ、『お前に食わせるメシはない』と罵った。あげくの果てに――児童養護施設に亮介を預けたまま、どこかへ消えた……。「もう、いいや……許します。俺は、アンタたち2人を許します」 亮介はテレビを見つめて微笑んだ。映像では、高級ブランドらしきハンドバックを抱えた中年の男が、娘らしき女の名を懸命に叫んでいた。 ……高校生の時――亮介にも好きな女の子がいた。その子はとても明るくて活発で、バスケットボール部でキャプテンをしていた。亮介は何とか彼女と親しくなろうと懸命に努力した。身なりを整え、髪型を変え、口調も変えた。共通の友人を介して、どうにか接点を作ろうとした――けれど、ある日、名駅前の交差点で、彼女と彼女を紹介してくれと頼んだ友人が手を繋いで歩いていたのを目撃した。バツが悪そうな友人は亮介に告げた。『……わかってたろ? ……ごめんな』「あの時の怒りと屈辱も……許しますよ……ええ、許します」 亮介はテレビを見つめて微笑んだ。映像では、婚約者を亡くしたと喚く派手な化粧をした若い女が映っていた。 ……勤務する清掃会社から突然――『8月いっぱいで辞めてもらうから』と言い渡された。カッとなった亮介は上司である男に詰め寄った。『どうして外国人より先に、この俺がクビにされるんですか? 俺はマジメにやってるじゃないスか? みんなに負けないほど一生懸命に働いているじゃないですか?』けれど、上司の男は面倒くさそうに、『会社の判断だ。俺には関係ない』と言うだけで、キチンとした対応は何もしてくれなかった……。「……許します。……俺は、あなたも、会社も、何もかもを許します……」 亮介はテレビを見つめて微笑んだ。映像では、泣き叫ぶ若い女を胸に抱く恋人らしき男が、『……信じられません』と顔をしかめた。 亮介は考え、考えぬいて――呟いた。「……いいですよ。以前の俺なら決して許さないことでも……今の俺なら、許します……中学生の頃、お下がりでボロボロの制服を着ていただけで、毎日俺をイジメた同級生たちも、俺が拾った一万円札を、盗んだと叫んで奪い取った近所の主婦も、『こんなブサイクな男に部屋を掃除させるな』と会社にクレームをつけたカネ持ちの女も……許します。あなたたちが大勢死んでくれたから……許しがたいことだが、許します。あなたたちが死んでくれたから……何もなければ絶対に許せないことだけど……特別に、許します」 亮介は言葉を切り、感情の高ぶりを鎮めるために床に置いたペットボトルのコーラを手に取り、震える手で、それをラッパ飲みする。炭酸が胃の中で泡立つのを待ち、部屋の隅を見つめて深呼吸をする。「……でもね」 そこで亮介は口をつぐむ。少し微笑み、また口を開く。「……許せないことは……まだまだたくさんあるんだよ」 亮介は低い声で、誰もいない部屋の隅を見つめた。そこには、2つの銀色のアタッシュケースが無機質な光沢を放ちながら静かに横たわっていた。 亮介は目を閉じ、これまで自分を苦しめていたヤツらが炎に包まれて焼け焦げる様子を想像した……。 ――次の目標は決まっている。グローバルゲートだ。 なぜ? 理由は……ん? わからないな……。 イオン今池はテレビでCMしていたから……? ミッドランドスクエアは、動画サイトで広告が入っていたから……? グローバルゲートは? そうだ。郵便受けに毎日チラシが入っていたから、だっけ……? ――まぁ、どうでもいいか。 ――本当、どうでもいいな……。 そう。 俺はただ、殺したいだけだ。殺して殺して、殺しまくりたいだけだ。殺しても殺しても、まだまだ殺し足りないだけだ。 ……たぶん、俺に爆弾を贈ったヤツも、同じ気持ちなのだろう……。 ――――― 『激昂するD!』 eに続きます。 本日のオススメ!!! Aimer(エメ)さん……↓……新曲出たので💚 ……seesが思うに、Aimerさんほど完璧な女性シンガーはもうしばらく、世に現れるとは 思えないスね……。seesの貧乏ブログでも何度か紹介させていただきましたが……本当に、 何度聞いても飽きることがない歌唱と歌詞。そしてミステリアスな風貌と、非現実的な 表現力……。……こんな人が近くにいたら、seesは全財産を貢いでしまいそうだ……😢 商業的な匂いもなく、媚びたような歌詞でもなく――ただ、ただ、美しい魅力に溢れて ますネ、マジで……。 ↑新曲の宣伝用す。 ↑『六等星の夜』……名曲すね。 ↑『StarRingChild』……ああ、美しい。 Aimerさんのアルバムす↓……seesはもちろん購入済。皆様も、どーぞ。 ……お疲れサマです。seesです。 しばらくぶりの更新で皆様に忘れ去られてはいないかと心配😟……まぁ、こんな駄文で制作欲を発散させてるようなヤツですからね……。 仕事の都合でPC触れず無念。会社の業務形態が少し変わり、当面忙しい状況が続きそう。 そう。 実はsees……。 単独で昇給、しちった(⌒∇⌒)ヤッピー。 (これは昇進も確定かな~? ww来年度の人事、楽しみww……🐷ブヒヒ~ンwwwさっ、大事に取っておいた8000円のラフロイングと、イオン今池で買ったお肉で、すき焼き&ハイボール祭りじゃあっ!!) ……て喜んでも、少しばかり給料と賞与アップ⤴の予定ってだけ。ストレスは今後もかなり溜まりそう。年末賞与も査定が厳しくなるし……まぁ、ぼちぼち、コツコツ、がんばります。 さて、今話も進行は遅めです。次回はかなり進ませる予定ですが……なかなか、良い文面が思い浮かばない……本来ならキチンと校正してブラッシュアップしてから更新するべきなのですが……いかんせん、時間が……なひ😞 岩渕さ~ん、たしけて~😢 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『……見てくれよ。いや、見ろよっ!!!』 友 「……じゃ、いっちん、ごめんなしって~(ToT)/~~~」 (徳島出身、さよならの意)sees 「うぃ~すっ。んじゃオカピー、またよしこサヨナラ~✋✋」 (中日投手、又吉を揶揄する挨拶) ――ド深夜、12時。 守山区の友人宅から帰路――夜の一般道を疾走するseesの車……。 ……思ったより遅くなっちまったな。明日は公休か……ZERO見て、寝るか。 桜井翔クンの顔を思い浮かべながら――ハンドルを握るsees……。 そう。 それは何てこたーない。何の変哲もない、ただの帰り道になる、ハズだった。 ……… ――げっ! あれは……検問っ!! ……ヤダ、ヤダーっ! 見ると、道路の一帯をパトカーが占拠し、赤灯🚨がユラユラと回っているではないか。警官A 「はーい。止まりなさーいっ! 🚓千種署でーすっ! 交通安全週間で~すっ! ご協力、お願いしま~すっ!」sees 「はーい。(チッ、この私としたことが……安全週間の情報を聞き逃していたとは)」 警官たちはseesの車のドアをゴンゴンと手荒く叩き、「開けて」「開けて」と 言い放った。警官B 「はい。息」sees 「へ?」警官B 「飲酒の確認っ!! ほら息っ、私の顔に向かって息吐いてっ」sees 「ふ、ふはぁーー……。💢(何が悲しくてオッサン警官に息かけなきゃならんねん)」警官B 「よし、免許」sees 「……は、はぁ。えーと……ゴソゴソモタモタ」警官B 「……もういいっ!! 行って良しっ!!」sees 「え? いや、免許ありましたケド……(なんやコイツ)」警官B 「あるのはわかった。俺らは雰囲気でわかるんだよ。さ、早く行きなさいっ!」 ……… ……… ……… この恥辱、許すまじ💢 我怒る。我叫ぶ。sees 「――見ろやっ! ワシの免許、見ろやぁぁぁぁぁっ!!!💢見てくれやっ!!!💢」 何だろう、この妙な高揚感……。 いやいや皆さん、検問てさ、結構、テンション上がらないっスか?? 🚨了🚨 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2017.10.24
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月9日。午前10時00分――。 愛知県名古屋市中区にある愛知県警本部では、イオン今池での爆発事件の調査を進めていた。県警は事件を爆発物による爆破事件と断定し、被害の規模や状況から、爆発物の特定を始めていた。それは――C4と呼ばれるプラスティック爆薬の爆発に酷似していた。 コンポジションC4――。その物質は引火した瞬間に熱とガスに化学変化をし、凄まじい爆風と衝撃波を生み出す――イギリスやアメリカ、ロシアやドイツの特殊部隊が敵性組織の施設や工場、飛行場や船舶、鉄道や発電所……大量破壊兵器発射設備などを破壊するために開発した――非常に高性能な、爆薬兵器であった。 おそらくは――犯人は持ち運びに便利なカバン・リュック・アタッシュケース型のケースに爆薬と信管、雷管と時限装置を組み込み、イオン今池で爆発させたと思われた。 それは、商業施設の一区画を壊滅させるほどの威力を持っていた。だが、北朝鮮やシリアが惜しげもなくミサイルや化学兵器を使用する現代――その程度の爆発物なら世界中で手に入れることが可能である。日本への持ち込みでさえ、条件が揃えば方法は無数にあるものと思われた。 爆弾本体の製造過程・入手経路の特定は依然として不明であり、県警は情報収集のために奔走した。今池駅、名駅を中心とした不審者情報の整理・都市部における監視カメラの映像鑑定・イオン今池の全従業員からの聞き取り調査・高速道路の検問・自衛隊、警視庁、他県警、セントレア空港、名古屋港、大企業への協力要請・爆破予告の有無などのネット巡回・警察所属の全車両によるパトロールの強化……。 警察は捜査を続けた。行うべきこと、調べることは山積みだった。 県警に設置された捜査本部にはイオン今池の爆発現場からの中継映像が映し出されていた。昨日の爆発から既に20時間が経過したその時――不眠不休で情報の選別を担当していた、県警捜査官の男が、ポツリと、呟いた。「……バカは自爆してりゃあいいんだよ……めんどくせえな、ゴキブリ野郎が……」 そう。 ただ―― ただひとつ―― あえて言うことはしなかったことがひとつだけ―― 犯人像の可能性についてだけは――皆、察しがついていた。 そいつは、愛する家族もおらず、愛される家族もおらず、友達も恋人もおらず、ひとりきりで孤独に生きていた。社会の不条理に弄ばれ、絶望と闇に心を犯され続けて生きていた。 そいつは、自分は不幸だと思い込み、自分だけが不幸だと信じ、自分だけが他人の幸せを奪う権利を持つと願い――幸福に生きる人々を羨み、妬み、恨み続けて生きていた……。 誰にも聞こえないくらいの小さな声で、捜査官の男は呟いた。「……死刑になる前に、撃ち殺してやる……ゴキブリ野郎が……」 そう。 そんな人間はありふれていたし、それだけでは何の手掛かりにもならなかった。 警察は捜査を続けている……。――――― ……良かった。 ライトアップされたショーケースの指輪やネックレスやブレスレットをぐるりと見まわして丸山佳奈は思った。 テレビで見たイオン今池の爆発事件は身の毛がよだつほど恐ろしかった。けれど、今、不謹慎なことに彼女はそれを『不幸な事故』程度と感じていた。 佳奈は3週間前、女性査定士として働く《D》の社長から、とある大抜擢を命じられた。『11日オープンの《D》新店、グローバルゲート支店の支店長をやれ』 それは、これまでの佳奈の人生を大きく変えるであろう人事異動であった。喜んで承諾し、銀行からの融資を豪勢に使い、与えられた店舗を自分好みにレイアウトした。社長は眉間にシワを寄せ、『ファンシー過ぎないか?』と渋ったが、口調は笑っていてくれた。嬉しかった。そして……イオン今池の事件でオープンの時期を遅らせようという意見が出た時も、社長は真っ先に反対してくれた。『……予定していた新聞広告とプレオープンは自粛する。だが、オープンそのものは延期しない……それでも、クソ高い損失だがな』 ……とりあえずは、本当に、良かったと思う。 ……本当に、嬉しかった。 佳奈は思い切り息を吸った。そして、誓った。社長の期待に応えること。任を解かれるまで1度の赤字も出さぬこと。店舗を守り抜くこと。 ……拾ってくれた恩は、忘れません。そんな思いを心を決めて、息を吐いた。「……しばらくは俺も在籍するから、遠慮なく命令してくれ」 岩渕という32歳の上司は、23歳の1年生支店長の顔を無遠慮に眺めて微笑んだ。この男が、自分と同じ岡崎の児童養護施設出身というのは知っている。伏見の姫様と知り合い、助け合い、《D》に莫大な利益とコネをもたらした、というのも知っている。……私の知るかつての岩渕は……カネに汚く、腹黒く、ズル賢く、社長や同僚やお客様に対して何を考えているのかわからない、そんなヤツだったのに……。「……まぁ、気楽にいこうや」 岩渕がまた、ぎこちなく微笑む。……人が違うみたい。姫様と出会い、変わったんだな……。 クセのある男や女たちと一緒に仕事をするのは確かに楽ではなかった。辞めたいと思ったこともないわけではないし、泣きたくなったことも何度もあった。けれど、査定士という仕事が嫌いになったわけではなかった。それどころか、世界中の金銀財宝を手に取り扱える高揚感や達成感は、他では味わえない深い魅力があると感じていた。 それだけじゃない。高校の卒業式の日の夕方――生まれて初めて、佳奈は他人に必要だと言われた。『……お前にはモノの価値を見極める才能がある。……性格が優しすぎる欠点もあるが、それも……まぁ、いい。《D》に来い。時間はかかるかもしれンが、期待はする……』 必要とされた。 必要とされるために努力した――。必要とされるだけの努力はした――。 今、また、佳奈は必要とされていた――。 なら、佳奈がするべきことは決まっている――。 ……あれ? 今も昔も、自分だけは何も変わっていないことに、《D》社員の丸山佳奈は、少しだけ……ほんの少しだけ……驚いた。 ――――― 午後12時30分――。 岩渕はセントラルタワーズの地下から7番出入口を昇り、名駅通りへと出て、オフィス街にあるミッドランド・スクエアへと歩き出した。まだ時間には早いため、点在する高級ブランドショップを挨拶がてらに見学する。ヴィトン・ロエベ・ディオール・ショーメ……各店舗の支配人たちと新しい名刺の交換をし、約束していた場所へ向かうために東急ハンズの方向へと脚を向ける。 ……正直、少し困惑する。待ち合わせの相手が急に「今日、どうしても会いたい」と連絡してきたのは、たぶん、これが初めてだからだ。 いつもなら前もって予定を組み、互いに一緒に過ごす時間を工面するハズなんだが……。 そう。伏見宮京子が『すぐに会いたい』と岩渕に頼むのは初めてのことだった。 ……まぁ、どういう理由かは、何となく察しはついているが。「……ねえ、岩渕さん」 名鉄百貨店1階のスターバックスの窓際の席で、京子が呼んだ。狭い2人席だと、声がよく通る。「どうした?」 アイスコーヒーにガムシロップを入れて混ぜながら岩渕は答えた。「……グローバルゲートの出店計画だけど、遅らせることはできない?」「……爆弾野郎か? ……まだ捕まってないらしいな。……自爆したワケじゃないらしいし」「うん……ごめんなさい。部外者が、こんなことお願いして……」「いや、わかってる。……正直、社長の決断は早計すぎる。せめて、犯人が捕まるまではな」「何か……社長さんには、オープンを急ぐ理由でも?」「もしかしたら……」 社長は丸山佳奈を溺愛し、彼女の意志と努力を尊重したいから……そう言いそうになって、岩渕は口をつぐんだ。「もしかしたら、何?」「いや、何でもない。とにかく、もう一度、社長には進言しておく」「ありがとう。あのね……あの事件があって……私、すごく心配したんですよ? ……でも、岩渕さんや《D》が無事で……本当に……良かった……」「……すまない。俺も……キミが無事で良かった」 頬を紅潮させ、少しだけ涙ぐむ京子にハンカチを渡す。そして、その時――岩渕は改めて、自分が伏見宮京子に抱く特別な好意を意識した。 そんな風に思える異性など、これまでひとりとしていなかった気すらした。 ……場所を変えて、今からふたりでどこかに行くか? そんなことを考えながら、唇にストローを差してアイスコーヒーを飲み込む―― ――その時だった。 ――その時、店内でざわつく客同士の会話や、静かに流れる有線の音楽が――まるで火山が噴火したかのような、あるいは強烈な雷が大木をなぎ倒すかのような、狂暴で破壊的な――――うなるような轟音が鳴り響いたっ! 僅かに体が揺れ、全身の毛が逆立つ。体の中で冷たい戦慄がいっぱいに膨らんでいくのがわかった。 岩渕は、 京子は、 ふたりは、その戦慄の、その恐怖の正体を思い浮かべ、身を震わせた。それは、昨日からずっとテレビで中継しているイオン今池の惨劇に。それをいとも簡単に引き起こしたであろう――おぞましく汚らしい、悪魔の所業に。「い……行くぞっ! ミッドランド・スクエアだっ! すぐ目の前だっ!」 叫ぶように言った次の瞬間、岩渕は京子の手を握り締め、スターバックスの入口へと走り抜けた。「ああ……いや……いやーーーっ!」 京子は凄まじい悲鳴を上げると、握り締めた手を組み直し、岩渕の首にすがりついて泣き叫んだ。首の下を温かな液体が流れるのを感じた。 そう。岩渕と京子は見た……見てしまったのだ。ついさっき歩いていた、ついさっきも2人で歩いていた――ミッドランド・スクエアの出入口から放たれる猛烈な炎の渦と、噴き上がる黒煙を……―― ――……そして、手や足や頭や血の塊だけになった、無数の人間の血肉が、サンロードに降り注ぐかのようにバラ撒かれた光景を――……。 強い恐怖に全身をわななかせ、奥歯をガチガチと震えさせ、すがりつく京子の肩を強く抱き締めて――岩渕は呟いた。「……意味がわからねえ。……こんな殺戮に、意味なんてない。あるとすれば、悪意、だけ?悪意、だけかよ……畜生。完全にイカれてやがる……」――――― 『激昂するD!』 dに続きます。 本日のオススメコーナー!!! カンザキイオリ /命に嫌われている。↑↓ 他2曲 カンザキイオリ /アダルトチルドレン feat.鏡音リン カンザキイオリ /君の神様になりたい。feat.初音ミク ↑カンザキイオリさん。ボカロPではあるものの未だ楽曲は少なく、ダウンロード版の ミニアルバム1枚……動画の再生数も少ない。しかし……seesが涙する、切ない歌詞と 儚いメロディーは必聴かと……。(思えばseesのブログに動画を埋め込むのは初めてかも。 しかし、まぁ……カンザキ氏に関しては本気で聞いて欲しいと思うし……まぁいっか😊 評判良ければ今後も動画の埋め込みしようかな……)。 ……最新曲、「君の神様~」は本当、神様が歌っているよう…ある種の陶酔感、禅味すら 感じます……。しかし……相変わらず、再生数、全然のびないな……😞 お疲れサマです。seesです♪ bパートでは急展開という声が多数ありまして……失礼しました。……前半と後半ではまるっと話の内容違いましてね……焦る気持ちが文に出てしまいましたね……反省。 あー…早く後半のクライマックス……作りたいな……。 てことで、今話は特筆すべきことのない普通回ですね……。しいて述べると、今回の短編の主要キャラ3名の紹介が終わったところかな……。 相変わらずの誤字と、文節の乱れ……平にご容赦とご理解を賜りたく……m(_ _"m) 次回少し遅れるカモ……次の休日、少し遊び??に行きます(某企業主催のメシ……安い酒飲まされるだけの合同会食に行かされるハメに(# ゚Д゚))。憂鬱……。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 本来ならば、ここにカンザキイオリさんの商品紹介したいケド……無理ぽいからな……。 ので、最近買ったseesのオススメ雑誌・文化系・小説・ラノベを軽く……。 ↑カープより中日派だが。↑タダ者ではない。↑もらいもの。無双。↑ダークなラノベ。最強モノ? こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『……悪夢のデジャヴ??』次長 「sees君、コレあげるから、行っといで……今日早アガりやろ?』 それは……そう、アレですね。次長 「また中日さんにチケットもろたんや……ワシは仕事やし、やるワ( `ー´)ノ」sees 「えーーー…マジすか~(^▽^)/……やったーっ、ありがとーございます。 行ってきま~す。😊ウレピー」 (ア゛ッ💢……何をくれるかと思ったら……5位確定のドラ×ハマのド消化 試合やんけ……しかもパノラマ席かよ、何も見えん最奥の席で何を楽しめと??) …… …… …… 来ました(笑) さてと……弁当よし(全力投牛弁当、要はすきやき弁当) そして……銀色のヤツよし(説明不要のスーパードリンク) とりあえず、試合開始前にグビり……。sees 「……ぶはぁ~、さーて、今日はどうなるのかな~……」 (中略) 1回(!!)表裏終了時スコア 中日0-8横浜sees 「……まぁまぁまぁ。奇跡を待ちましょう……😞」 (中略) 5回表裏終了時スコア ドアラとゆかいな草野球チーム0-12ハマ・デビルズ (ちなみに本塁打0、一方的拷問)sees 「……次回の構成はどうしようかな……やっぱり宮間総務課長メイン回作ろう かなぁ? ((+_+))ブツブツ……グビグビ……ブツブツ……グビグビ……」 seesは考えた……。 ……帰りたい。恥ずかしい。死にたい。生きたい。歌いたいw ……そんなことを考えながら、生きている意味を考えながら―― そして、死にたいと思っても死ねないので、そのうちseesは―― ――……考えるのをやめた……。 了「投手たちは風になった――」
2017.10.11
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月8日。午前11時30分――。 永里ユウリの執拗な食事への誘いに、岩渕誠はついに根負けし、しかたなく頷いた。「嬉しいっ!」 女は本当に幼い子供のような仕草で両手を合わせ、ドクターチェアから立ち上がった。「……どこか行くのか?」「ええ。この近くにはカフェがたくさんありますから。……岩渕さんは何か好き嫌いはありますか?」「いや……永里先生と同じでいいよ」「そう? それじゃ、歩いて行きましょう。すぐ近くのイタリアンの店で、パスタがとても美味しいんですよ」 そう言うと永里はデスクの上の電話で事務員に外出すると伝え、自分は「ちょっとお化粧を直してきますから、外で待っていてください」と言って診察室を出て行った。《ユウリクリニック》の駐車場の前で永里を待つ間、岩渕は携帯から《D》名駅前支店に電話を入れ、少しだけ遅れると言っておいた。《D》への電話を切り、肩の凝りをほぐしながら――クリニックの自動ドアを抜け、軽快な足取りで自身に近づく永里を遠目に眺める。 エルメスのクロコダイル・バーキンが目につく。……査定なら1000万、てところか?岩渕は思った。だが、それだけだった。それを当然のごとく腕に下げる永里ユウリやその家族を羨ましいとは思わなかった。「ふふっ、岩渕さんとこうしてお食事できるなんて、初めてですよね」 嬉しそうにそう言いながら永里は、たった今店員が運んで来たミネラルウォーターの注がれたグラスを手に取り、乾杯する仕草を見せた。手首にはめられた腕時計がキラリと輝く。特徴的なローマ数字の文字盤……カルティエか。……たぶん、これも500万はするだろうな、と思った。「本当だな。外で会うのも、何だか変な感じがする」 いつの間にか来た店員がパスタの皿を岩渕の前に置く。食べ慣れた味、ナポリタンだ。「あっ、どうぞ。先に召し上がってください」「……それじゃ、いただきます」 1分ほど遅れて来た――永里の前に置かれたパスタの皿からは、酸味の強いトマトソースと魚介の香りが空気の流れに乗って漂った。「……ペスカトーレも美味そうだな」「はい。元々は漁師さんたちの考案でその後イタリア全土に調理法が広まったとか……。このお店のも、とっても美味しいですよ」「先生は料理に詳しいんだな」「いいえ全然。ただ――自宅で調理をしたり、レシピを考えるのは好きですよ」「そういう趣味って……何かいいな。羨ましいよ」 それは本当だった。今の岩渕には趣味を楽しむ時間などなかった。「実を言うと私、昔、料理研究家になりたかったんですよ。……学生のころの話ですけどね」 ムール貝の身をフォークで突き刺しながら永里が微笑んだ。「……今からでも遅くはないんじゃないか?」「今からって……? うーん……無理ですね。私に、料理の才能はなかったみたい」 岩渕は無言で頷くと、ミネラルウォーターを一口飲んだ。「……岩渕さんは、どうして《D》に入社を?」 永里は顔を上げ、岩渕の目を見つめて聞いた。「……俺は、偶然だよ。たまたま会ったウチの社長に、たまたま試験を受けさせられて、たまたま――……」 そこまで言って岩渕は少し言いよどんだ。それから、つとめてさりげなく、「『合格だ。明日からウチに来て働け』って言われただけだよ」と続けた。「試験?」 永里がいぶかしげに岩渕を見つめた。「試験って、何をするんですか?」「……あくまで俺の場合だが、30種類の金・化合金・プラチナ・レアメタルの塊を高額順に並べて当てろっ……ていう試験だったな……」 ナポリタンをフォークに絡ませながら岩渕は言った。「見ただけで? 随分とムチャクチャな試験ですね……」 岩渕は無言でナポリタンを口に運んだ。スピーカーから流れるジャズ・ピアノの軽快な音色が広い店内を満たしていた。「でも、結果的に、岩渕さんには才能があった……という事ですよね?」 永里がさらに言い、岩渕は皿から顔を上げた。「……才能なんて関係ないよ」 永里の目を見つめ返し、自分自身に言い聞かせるかのように岩渕は言った。「後で聞いた話だと、俺は合格ギリギリのラインだったらしい……それでも……そんな俺でも、それなりの役職と報酬をもらっている……。現に、そのテストで満点近い得点を出したヤツらがいるにもかかわらず、だ。……要は、《D》のために何ができるのか? ていう面接みたいなことを、社長はしていたのかもしれない……。こんなことを考えるのは、本当――最近だけどな」 向かいの席に座る永里は「ふぅん」と言って微笑んだ。「それにしても、その試験で満点に近い得点て、すごいですよね……」「ああ……本当だよ」 岩渕は頷き、困ったように笑った。「それじゃ、そのエリート社員さんたちは……今はどういう役職を?」 永里の質問に岩渕は少しだけ考え、それから言った。「……俺が知っているのはふたりだけだが――ひとりは、川澄って後輩で……こいつは、まぁ、どうでもいいか。……もうひとりは丸山って女の子の後輩で、彼女は今度――……」「そう、なんですか…………」 話を聞く永里もまた――頷き、困ったように笑った。 ――――― 遅い昼食を済ませた伏見宮京子は、リビングのソファで脚を伸ばしてまどろみかけていた。正面ではテレビが古いドラマを再放送しており、眠くなる内容にうとうととしていた。その心地よいまどろみの中で京子は―― ――突然画面が切り替わり、メ~テレの報道局のスタジオでアナウンサーが『たった今、大変なニュースが入りました』と言うのを聞いた。 慌てて目を見開いて画面を凝視する。アナウンサーの背後がひどくざわついているのがわかる。スタッフがアナウンサーに紙片を渡し、アナウンサーが強ばった顔でそれを読む。『つい先程、愛知県名古屋市千種区、イオン今池店の店内で非常に大きな爆発がありました。この爆発によって多数の死傷者が出ている模様です……』 京子は瞬きもせずテレビの液晶を見つめた。全身から血の気が引いていく。 ……何が? ……どうして? 得体の知れぬ恐怖に京子は身震いした。『イオン今池で大爆発』『死者30人以上、ケガ人100人以上、行方不明者多数』 どのチャンネルもイオン今池の爆発現場からの中継を放送している。爆発で倒れ担架で救急車に運ばれる女性、その背後で泣き叫ぶ子供のものらしき悲鳴や絶叫や嗚咽、駐車場でうずくまる男性や、呆然と立ち尽くす老人の姿が映る。けたたましいサイレンの中で走り回る消防署員や、顔を真っ黒にした警察官の姿もあった……。 あまりにも凄惨で、あまりにも悲惨な映像に、京子は呻いた。自分の心臓が破裂しそうなほどに高鳴っているのを感じ、すぐにでも号泣してしまいそうになる。けれど、京子は涙を流して心を落ち着かせるようなことはしなかった。ただ、目元に溜まった涙を指ではじき飛ばしただけだった。 事件か事故かもわからない大惨事――。 ――……だが、京子はそこに存在する、おぞましい悪魔の意志を感じた。悪意と狂気に染まった人間の影を――それは、確かに、そこに感じられた。「……卑怯者め」 京子は口内に血が滲むほどに奥歯を噛み締め、テレビの液晶を睨みつけ――呟いた。――――― 佐々木亮介はアパートに戻っていた。今日は朝からずっと、噴き出した脂汗で掌はひどくベタついていた。けれど、もう脚は震えていなかったし、心臓の鼓動にも異変はなかった。 ……やったぞっ! ……俺はついに、奪い返したっ。 気がつくと、亮介の胸の中には不思議な高揚感が湧き上がっていた。自分が神様にでもなったような気分だった。 何も入っていない空のスポーツバッグを床に投げ置くと、亮介は敷きっぱなしの布団の上に腰を下ろした。そして、唇を舐めまわしながら、部屋の隅に置かれたアタッシュケースを見つめた。 ……アタッシュケース? いや……これは、爆弾なのだ。しかも……手榴弾や擲弾のような小規模な破壊のために作られたモノじゃあない。亮介は考えて、考えて、すべてを必死になって、思い出そうした。 午後1時。イオン今池の1階のレストラン街の入口付近を、強烈な閃光と爆風が貫いた。各施設のガラスは一瞬にして砕け散り、十字の通路は爆風に飲み込まれた。 昼食の時間帯であり、レストランを営業する店舗では多くの食事客を迎えていた最中でのことだった。通路を歩いていた買い物客はもちろん、ケンタッキーやマクドナルドで順番待ちをしていた客も、レストランで必死になって働く従業員も、トイレに入ろうと通路に向かうイオンの社員も――そのほとんどの者が死傷した。 爆風が過ぎた通路には黒い煙が充満し、無数のガラス片が床一面を埋め尽くし、その隙間を縫うように様々なモノが散乱していた。……真っ二つに割れた『イオン今池へようこそ』と印字された案内板、床や天井のガレキ、壊れたイスやテーブルやソファ、やぶれたり千切れたりした紙幣、中身をぶちまけたガチャガチャの機械、食器やパソコンやタバコや帽子や財布や下着や本やペットボトルや野菜――……。 ――……そしてもはや、誰のものかもわからない、人間の血や腕や脚や内臓が、そこら中に、そこらに転がる石ころのように――辺り一面に広がっていた。 ……掃除が大変そうだな。……業者にでも頼むのかな? 脳裏に深く刻み込んだ光景を思い出しながらも、亮介はそんなことを考えていた。 依頼された住宅に赴き、掃除機をかけ、トイレと浴室とエアコンを清掃し、窓のガラスを入念に磨き、床にワックスをかけて拭き掃除し……残された大量のゴミを処分する――それが、先々月まで亮介がさせられていた仕事のすべてだった。 なおも唇を舐めまわしながら、亮介は自分が置き捨てた爆弾によって死んだ人々の群像を思い浮かべた。 ……ああっ……爆発する直前、みんな、幸せそうだったなぁ……。 哀れむ気持ちはまったく湧いてこなかった。もしかすると、アイツらが俺の幸せを奪った犯人なのかもしれなかったから。もしも、アイツらが存在しなければ、アイツらの幸せは俺のところに来ていたのかもしれなかったから。 ……壊れてんなぁ、俺。 壊れていた。心はすでに粉々に砕け散っていた。それを、亮介は知っていた。 ……次はどこにしよう? ミッドランドスクエア? グローバルゲート? 熱田神宮? 心が壊れ、暗い喜びに精神が完全に支配され――そして、決意する。 ……どいつもこいつも、自分と同じ境遇にしてやる……どいつもこいつも、地獄への道連れにしてやる……。「……どいつも、こいつも、ぶっ殺してやる」 そう呟きながら、ふと、もう一度、部屋の隅に置かれたアタッシュケースに目をやる。 ケースはまだ3つ残っている……。――――― 『激昂するD!』 cに続きます。 本日のオススメコーナー!!! こういうヒト大好き……→大森靖子/「絶対絶望絶好調」 ブチギレ事件?……→大森靖子/「音楽を捨てよ、そして音楽へ」 理解不能の名曲……→大森靖子/「非国民的ヒーロー feat.の子(神聖かまってちゃん)」 大森靖子さん↑ ……脳内で何回も浮かぶメロディ、圧倒的ビジュアルと超個性的歌詞。うん。天才さんですね。……あの事件で興味を引かれ、試しに動画見たら……そらスゲーパワーを感じましたわ。知るのが遅いくらいでしたね。個性的な歌詞とは裏腹に、音楽業界に対しての意識が高く、レーベル批判や他バンドへのダメ出しも平然とする人。女性では本当にいないタイプ。一度は聞いてみては? ちなみに愛知県松山出身。 そして武蔵野美大出身(seesの姉が行ってた大学。ハチミツとクローバーの聖地)。既婚。一子。 う~ん……素晴らしいっ! お疲れサマです。seesです♪ 聡明な方なら、今後の展開がまるっと予想できてしまうような内容に、少々気落ち。己の才能の無さを露呈する今話とあいなりまして候。aパートでは数々の誤字が目立ち、翌日含め何度も修正を繰り返す愚かさ……う~ん、反省ばっかやな。『D』では人物たちに固有名詞をフることに決断しましたが――作り慣れない文節が多々あると考えます……平にご容赦を<(_ _)> 話の筋は次回から急展開させる予定です。タイトル『激昂~』に恥じぬ内容が届けられると嬉しいスけどね……。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 ↓大森靖子さんのオススメ。 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『……いや、あのさ』後輩 「sees先輩。確か二輪免許、持ってましたよね?」sees 「……お、おう」後輩 「俺、CBR買ったんすよー。今度、どっか温泉にでもツーリングしません?」 そう。陽キャラの後輩を多数持つseesは困っていた。……とても、困っていた。sees 「へー、CBRかー……何CC?」後輩 「1000っス! (^_-)-☆ドャャ……」sees 「……………すごいね😊」後輩 「いや~新型っすよ~(^^♪。テヘヘ……」sees 「……値段は?」後輩 「240万、くらいスかね」sees 「……へええ~(240? ワシの車と……いやいや、さすがに盛りすぎじゃろ)」後輩 「でー、どっか行きたいところあります? 何なら広島とか、四国とか?」 その時―― どこからともなく―― 妙なヤツが何人も現れた……――後輩2 「行く行くー…俺もニンジャ乗りたくなってきたしぃー(^^)/」後輩3 「ボクもバイク持ってますよ~~。古いシャドウですけどね~…(^^)/」先輩A 「いいねー。俺も行きたいなー。俺のは、ドゥカティだけどな(^^)/エッヘン!!」後輩たち 「うわ――っ、A先輩っ、外車乗ってんスか~wwww」 ……… ………seesは黙った。黙るしか、なかった。 ………そして――、後輩 「……でー……sees先輩、何乗ってんすか? 行きましょうよー先輩っ!」sees 「……いや、あのさ――今日、雨すごいね(*''▽'')テヘヘ 夜までに晴れるかな???」 い゛――……。 い゛……言えるわけない。今さら、言えるワケないじゃないか……。ワシは中型 免許しかなく、しかも二輪で高速に乗ったこともない、そしてバイクはとっくの 昔に売ってしまったという真実を💦……言えるワケない💦……どうしよう?💦 ……どうすれば、いいのだぁァァ(>_<)!!! 了🏍=c c
2017.10.04
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ss一覧 短編01 短編02――――― 10月2日。午前11時――。 名古屋市中村区にある、高級ブランド・貴金属のリサイクルショップチェーン《D》のエリアマネージャーである岩渕誠は、名古屋市立大学病院に隣接する精神科・心療内科の診療所《ユウリクリニック》の診察室のメディカルスツールに座っていた。「……今日もありがとうございました。おかげ様で、また少し楽になった気がします」 岩渕がそう告げると、目の前の女は嬉しそうに微笑み、フーッと長い息を吐いた。「気分が滅入ったり、悪くなったりしたら、遠慮なく仰って下さいね。……岩渕さんに何かあれば、京子様に怒られるのは私なんですからね」 女の子供っぽい仕草がおかしくて、岩渕も思わず微笑んだ。 女の名は永里ユウリ。ユウリは悠莉と書いたようだが、忘れてしまった。診察では先生とだけ呼んでいる。 伏見宮京子の半ば強引な紹介で《ユウリクリニック》に通うようになったのだが、永里の細かい気配りや医療知識の豊富さには感心させられていた。「岩渕さん、すぐ帰られます? もし時間あるんなら、お食事でもご一緒しませんか?」「食事?」「ええ。私も今からお昼休憩なので、ひとりじゃつまらなくて……。今日はお仕事お休みですよね? いかがですか?」 男への警戒心が微塵も感じられない口調で永里が言う。……京子の紹介、という背景もあるのだろうが……な。「仕事は休みだけど、用事がありまして……ちょっと人を待たせていますから」「……京子様ですか?」「ええ……まぁ、いろいろです」「いろいろですか……では、また次の機会に……」 永里は本当に子供のような動きで両手を合わせ、微笑んだ。「……では、失礼します」 会釈をし、立ち上がり、私物のトートバックを肩にかけ、岩渕は診察室を出て行った。会計を済ませ、靴を履き、クリニックの自動ドアを抜け、駐車場に向かう途中――岩渕は首を回し、背後に建つクリニックを眺めた。 ――これまでの30余りの人生で、岩渕は多くの人々と知り合った。その中には何人もの大富豪たちがいたが、そのうちのひとつとしてこの永里家を超える家は少ない。不動産・医療・介護・ゴルフ関係・警備・飲食・服飾・出版・運送……永里家は東海3県に事業を展開する多角経営企業の中枢であり、多くの株式を保有する資産家でもある。純粋な資産、カネの量で考えれば伏見宮家を簡単に超える……京子と縁があるのも、自然な流れでのことなのだろう。……どちらが先に近づいたかまでは知らないが。 ……しかし……彼女自身、働く必要があるのか? 岩渕は思い出した。《ユウリクリニック》の外観は洋風でオシャレで品があり、内装は清潔で美しく落ち着いたデザインが施されていたことを。何気なく飾られていた花瓶やアート作品はそれ単体でかなりの値打ちモノだということを。勤務する精神科医や事務員のスタッフは誰もが優秀で、若く、美しかったことを。詳しく尋ねたことはないが、永里ユウリの年齢も若く、精神科医としても優秀らしいということを。 金持ちで、若く、賢く、美しい――イイ女だな。岩渕は思った。だが、それだけだった。彼女を手に入れたいとか、抱きたいだとかは思わなかった。 車のドアを開き、乗り込み、シートベルトをし、バックミラーとサイドミラーをチラりと見て、エンジンを動かしてサイドブレーキに指をかけた時――ふと、助手席に置かれていた《ユウリクリニック》のパンフレットに視線をうつす。そこには、美しく微笑む『クリニック代表 永里悠莉』の写真がプリントされていた。 ……アイツにももう少し、永里先生みたいな色気があればな……今度、クラブにでも一緒に行くか……。錦や栄の高級クラブで慌てふためく姫君の様子を思い浮かべながら、岩渕はそっと微笑み、アクセルを踏んだ。ついさっき、自分を食事に誘った女のことなど、もはやチラリとも思い浮かべはしなかった。「……少し遅れそうだが……行けるか?」 修理を終えたばかりの、フィアット500にそう尋ね、さらにアクセルを深く踏み込む。かの大怪盗にも愛されたイタリアの名車が、嬉しそうに車輪を回す――。――――― 伏見宮京子は名駅地下から北口へと昇り、西交番へと向かうために歩いていた。 本当は『ゆりの噴水』の前で待ち合わせしたかったのだが、岩渕に「ダメだ」と言われたので、しかたなく交番前まで歩く。 退院したとはいえ、彼の精神状態のことを考える。いつ、どこで、何がきっかけで、彼の精神バランスが崩れるかは原因不明のままだ。もしまた、そんなことになったら、今度はどうなってしまうのか……。『……祓えたまい、清めたまえ、神ながら守りたまい、さきわえ給え』 神道、神への言葉を心で紡ぎ、祈る。けれど、個人のためだけに祈っても良いものなのかが、正直、わからない。ううん……少し、違う。万人のための祈りが、彼個人に届きさえすればいいのだ。……そう思い、また祈る……祈り続ける……。 交番に着くとすぐに岩渕から電話があった。『……今、運転中、遅れてすまない』「そんなことより、運転、気をつけてくださいよ?」『ああ。安全第一だ』「うん。……では、待ってますね」 ビックカメラの前にある『ゆりの噴水』前では、大勢の若者たちが待ち合わせのために立ち並んでいる。無事に巡り合えた恋人たちが手を繋いで名駅の中に消えていく……。 かつては――そういう、恋愛や、友情や、信頼を育む人々に対して羨望の眼差しを向けていたことを、京子は思い出しかけた。……それはもう、ずっとずっと昔のことで、子供のころの記憶だからだ。今の京子には、会いたいと思う人や、話したいと思う人々、守りたいと思う人々がいた。京子を必要とする人も、皇族としての自分を必要とする人々も、今では大勢いた。「……岩渕さんと《D》だけは、特別だけどね」 それはただ、何となく――。 そう。何となく、何も考えることなく、ただ無意識のままに呟いた一言だった。 けれど、生を受けた時点で国のために生き、民のために祈ることが宿命とされた者にとっては、『ただ、何となく』では済まされない一言だった。 そして――…… ――自分が呟いてしまった言葉の真意に、京子は身を震わせた。 名駅北口の自動ドアが開く。そこから岩渕が現れてこちらに真っすぐ歩いて来る。好みだと言う桃太郎ジーンズにBEAMSの長袖のシャツ……京子が意識し終えた時には、もう、彼女は岩渕の腕にすがりついていた。「……すいません、岩渕さん。せっかくの休みだったのに、私が無理に誘ってしまって……」「いいよ、そんなこと。……ヤボ用もあるしな」 ほんの数秒前まで――自身の心にドス黒く広がっていた不安や恐怖が、まるで嘘であったかのように晴れるのがわかる。泣いてしまいそうな気持ちをぐっと抑える。「……ヤボ用って、何?」 腕を離すと同時に聞き、同時に歩き出した。「《テーラーチクサ》に行って新しいスーツの受け取りだ」「……服屋、さん?」「正確には服飾屋、だけどな」「ふうん……どういうところなの?」 彼は32歳だが、今はまるで私と同年代の青年のようだ。きっと《D》で働くみんなは、こんな彼を見たことがないのだろうとも思う。「……狭くて、汚くて、どうしようもない主人と家族が経営してる、貧乏くさい店」 岩渕が楽しそうに笑い、京子も微笑む。「それ、本当ですか?」「だいたいは、な。実際は、奥さん思いのイイ主人だよ。……京子にも、紹介したいな」 嬉しかった。彼の言葉すべてが嬉しかった。歩きながらもう1度、腕を絡める。すれ違う人々からの視線を受ける。……恋人同士に見える、よね? 京子は同じ言葉を何度も何度も心の中で繰り返し――また腕を強く抱き締める。 どうにかなってしまいそうだった。どうにかなってしまいそうなほど―― ――私は彼を愛しているのだと思う。――――― 奪われたのだ。 何を? 誰に? どうして? 幸せ。俺以外のヤツすべて。強引に、剥奪されたからだ。 奪い返すのだ。 何を? 誰から? どうして? 幸せ。俺以外のヤツすべて。それが、権利だからだ。 仇を討つのだ。 何の? 誰を? どうして? 幸せ。俺以外のヤツすべて。汚され、犯され、殺され、捨てられたのは俺自身の幸せ……。俺は、俺自身の仇を討つのだ……それは、当然の権利だからだ。 佐々木亮介は自身が生まれてからずっと住んでいる名古屋市郊外の木造アパートの一室で、床の上で鈍く光るアタッシュケースをぼんやりと眺めながら、また、ふと、これらがこれから引き起こすことを考える。いずれ、この名古屋の街を覆い尽くすはずの凄まじい恐怖と混乱、絶望と戦慄とのことに考えを巡らせる……。 心の底から湧き上がる怒りと憎しみに、佐々木はただ、その身を委ねた……。――――― 『激昂するD!』 bに続きます。 本日のオススメコーナー!!! なんか懐かしい……→ORESAMA / Trip Trip Trip カワイイんだが……う~む……→ORESAMA / ワンダードライブ こだわりが強そうな……→ORESAMA / 乙女シック ORESAMA(オレサマ)さん。長野出身の男女ユニット。……たまたまド深夜に 放送されてたアニメ「グルグル」の主題歌流れてるの見て興味湧きました。懐かしい レトロ調のイラスト通り、90年代風?のテクノポップを多用されているような…… とにかく――懐かしいな、ていう感想。ボーカルのぽん氏はカワイイし、相方の小島 氏は演奏も上手(歌唱修正ヤってんのかもだけど)、「うとまる」さんのイラストも とにかく素晴らしいっ!! 必見すっ!! お疲れサマです。seesです♪ ……seesが当初構想していた物語とはかなり乖離した内容になっております。 理由は単に「まだ、ムリ」だからです。長編ならクリアできる課題を短編にまとめるのは、思った以上にしんどいスね。まぁ、今回の話もそれなりに考えたモノですので、気楽に、何も期待せず、淡々と読み流していただければと思います。 短編02の失敗を反省し、1話目からゆったり仕様ですw 特に今話はプロローグ調で短めです。いろいろと展開するのは3話目以降ですかね……。年内完成がメドですが……まぁ、しかし、思い出しますねえ……『愛され者』をww表現使いまわし疑惑? ……勘弁してね💦 ……余談ですが、松居一代氏の愛車のフィアット、カッコエエなぁ……あのカラーを選択するとは……イイ~センス❕❕ でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 ↓ORESAMAさんのオススメ。たまには、どうですかね……? こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『……個人的には、コーラ社よりも伊藤園なんだが』 コーラ 「😓……あーseesさん、イイーところに」 sees 「どーされまったか?」 コーラ 「あー自販機の入れ替えなんスけど……何か希望あります?」 そう。社内用の自動販売機、中身入れ替えの時期到来なのだ。 sees 「んー……と、どうせなら新しいの飲みたいスからね😊……」 コーラ 「空きは……10種16点、すね。……決めてもらってイイすか?」 sees 「しゃーないすね。んじゃー……コーラとスプライト、ジンジャエールと ファンタオレンジそれぞれ2点で、炭酸はこれでエエやろ」 コーラ 「コーヒーはどうします?」 sees 「ワシ、コーヒーあんま飲まんし(付き合いは別)、ジョージア2種類適当で」 コーラ 「はいはい……。お茶は?」 sees 「……ウーロン茶と綾鷹、て……紅茶花伝のホットも🔥」 コーラ 「あと……1つスね」 sees 「んーん……じゃあ、リアルゴールドでww」 コーラ 「あざぁーす」 ……… ……… ……… 後日、自販機の前で、ちょっとした騒ぎになったのは、言うまでもなく……。 次長 「おいっ! ファンタグレープがないやないかっ!!!💢」 総務課長 「ちょっとっ! コーラゼロないじゃないっ! どういうことっ?💢」 課長 「からだ巡茶がないどー……😢」 一同結論 「炭酸ばっかでコーヒーが少ない💢 誰や決めたのっ!!!!💢」 ……『ワシです』と言えんなこの空気。まさかファンタグレープにあん なにファンがいたとは……わからん(東海地区では昔からオレンジ派が 主流というデータもあるらしいし、実際、seesもオレンジ大好き)。 強制の新製品は入ってるし、コーヒーも適当でいいと思ったのだが……。 てゆーかコーラとウーロン茶さえあればイイと思うケドなぁ……。 ……からだ巡茶なんて飲んだこともない……ウマイのか? 了
2017.09.27
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ss一覧 短編01 短編02――――― ――《D》名駅前支店3階、会議室。 それの閲覧許可が下りたのは、《A》の出張査定を行う前日の夜だった。社員証の提示と確認・誓約書へのサインと本人確認・電子機器の預かりと男性社員によるボディチェックを終えてからのことだった。「閲覧はここの会議室、監視カメラの下でお願いしています。……すみません、鮫島さん。認証システムの導入が遅れていまして……」 グレーのパンツスーツを着た《D》総務課長、宮間有希が事務的な口調で言う。女性誌のモデルを思わせるスタイルの宮間は、赤いクリアファイルの書類を机上に置くと、『話は終わりだ』と言わんばかりに踵を返し、「注意事項は確認しましたね? では、帰り際にまた声をおかけください」と言い残して会議室を出て行った。鮫島の「ありがとうございます」の言葉を最後まで聞いていたかは……わからない。 宮間の態度に思わず舌を打つ。……仕事も見てくれも悪い女じゃあないんだが、どうにも、ああいう強気な女は苦手だ……。《A》のことは知っているか? と岩渕に尋ねただけのつもりが、名駅前店に伝わり、総務である宮間にも伝わり……社長にも伝わった。クソッ……これはミスだ。これは『借り』だ。 くだらないことだとは理解しつつ、己の不注意を心の中で呟いた。今回の件で、鮫島は岩渕・宮間・名駅前店の社員に『借り』を作ってしまったことを恥じていた。報告書の作成は不可避に近く、帳簿の偽造もできそうにない。……めんどくせえな。……ロクでもない情報だったら、後でクレームつけてやるからな……。 ――社長の認可によって閲覧が許された社外秘の情報。つい最近になって総括されたという、そんなものの存在は、支店長職を持つ鮫島ですら知らなかった。 鮫島はファイルの中にある、何枚かのコピー用紙を取り出す。そこには、『川澄奈央人』なる人物の《A》に対する解説が、日記のような形で綴られていた。それにしても、川澄? どこかで聞いた気もするが……。 ――宗教法人団体《A》、及び、神父とされる人物についての考察―― 非常にしょうもない調査であった。この団体はキリスト教系の新興宗教を名乗ってはいるが、実質、運営が信徒からカネを貪り私腹を肥やすだけのエセ団体であり、テロ行為などの危険思想を持っているわけではない。つまり、僕にとっては非常につまらない、しょうもない団体である。 表向きは隣人愛よろしく集団生活を営み、肉体労働最高の家畜小屋生活。稼いだカネはお布施として徴収。当然のごとく非課税。後、運営に上納するスタイル。まぁ、無関係な者には無害な集団。 活動内容は主に職業訓練的なカリキュラムを延々と繰り返し、聖書の一部を改変しただけのオリジナル教本を元に意識改革(洗脳?)を促す。教本の内容も実にシンプル、『人類は皆平等である』『財産平等主義』つまりは旧共産主義を踏襲した脳内お花畑みたいな感じ。カビくさ。 勧誘方法もいたってシンプル。信徒による個人勧誘と、経営する内科診療所の患者を勧誘するだけの2パターンのみ(……一般信徒は診療所と団体の繋がりを知らない)。 団体トップは「先生」と呼ばれる内科医師兼神父の男。 と言っても、この男は医師免許も神父の資格もない、ただ自称しているだけの詐欺師だが。 はっきり言って、僕はこの詐欺師野郎に興味はない。興味があるのは、この団体の教示のひとつ『※※の際、※※は宝石・貴金属を纏い※※す』という部分だけだ。つまり、この詐欺師野郎の最終目的はコレの回収と撤退に間違いない。本当にクズだね(笑) まぁ、何にしても、いずれは僕がこのクズから奪うだけだけど。 せいぜい――僕のために稼いでね。《A》の敷地図・各関係施設・構成員・信徒・教本については別紙参照。 川澄 奈央人 ……最悪だ。 信憑性の高低や、川澄のふざけた文章のことではない。 ――俺が明日、《A》で査定し、買取をするべき品々とは……クソッ……外道が……。そう……いいや、違う……そうだ……いや、違わない……。 ……たとえヤツが何者だろうと……俺ができることなど、何もない。何もない。 ……何も、ないのだ。ブツを手に入れて、高値で売り払い、利ザヤを懐に入れるだけ……それだけだ。……それだけなのだ。 そうだ。 俺の子供――司のためだ。少しでも良い病院で、良い医療で、良い病室に入れてやりたい。給料だけではとても賄えない巨額のカネ……補助金だけではとても足りない……莫大なカネがいる。カネがいるのだ……。何としても、何をしてでも……どんな悪事の手伝いをしてでも……司に少しでも、1日でも……いや、1秒でも長く……生きて、生きていて欲しい。 ――それだけだ。 ……俺の願いは……それだけなんだ……。 ……けれど、けれど……俺は……俺自身は……。 レポートから視線を離した瞬間、鮫島の中に強烈な罪悪感が湧き上がる。その感情がどこから来るのかは、わからない……こんなにも不快な感情を抱くことは、《D》で働くようになってから、初めてのことだった。 ……ヤツからそれを買い取れば、俺はその詐欺師野郎と同じか下、クズ以下のカス……そんなことはわかっている……わかっちゃいるが……わからねえんだ……俺は……どうしたい? どう……すればいい? 鮫島は会議室の机の上にうな垂れて、また…… ――あの、B型肝炎を自称する女の顔を思い出す。――――― 午後13時――。 出張査定の依頼をした《D》の鮫島を名乗る男が、銀色のアタッシュケースを持って《A》を訪ねて来た。「……失礼します」 そう言って鮫島はペコリと頭を下げた。 男は40歳のシングルファーザーで、名古屋市立大学病院に息子が入院している。息子の病名はB型肝炎。僕の知っているB型肝炎の信徒の女と同じように、男もまたカネが欲しくて欲しくてたまらないのだろう……ことは知っている。少しばかり調査したので……当然、僕は知っている。 信徒を勧誘する際も、僕はいつも対象である人物は念入りに調査していた。……頭は良すぎないか? ……友達や家族は多いのか? ……カネは持っているか? などだ。 別に彼がこの商談を放棄、もしくは警察にタレ込む心配が消えたワケではない。だが、彼は勤める《D》に関して明確なコンプライアンス違反を犯しており、今から行う『査定の事実』を口外する確率は低い。僕はそれを、知っている。調べたので、知っている。「かなりの量があるとお聞きましたので……」 鮫島はそう言って、応接室のソファに腰を下ろし、持っていたアタッシュケースを開いた。中身の細部までは見えないが、査定に使うものらしいいくつかの道具を取り出した。「では、早速――拝見させていただいても、よろしいでしょうか……?」 僕はテーブルの上に黒いスカーフを敷き、傍らに置いておいた壺を持ち上げ――逆さにし、中身を、盛大にぶちまけた。硬質な金属音が応接室に響き渡る。「……! ……すごいですね」 驚き、目元をヒクつかせて鮫島が僕に言う。「……金だけで3キロはあります。宝石はルビー・サファイア・エメラルド……いろいろです」「……さ、ん、キロ?」「ええ。長年、私と私の家族で集めました」「……そうですか」 抑揚のない口調で鮫島が言う。喜怒哀楽の皆無な、能面のような顔だった。 僕は両手を使い、スカーフの上に散らばった指輪やネックレスを丁寧にほどいて広げた。期待で胸が熱くなる。わずかに鉄臭い。鮫島は無表情のまま、白い手袋をはめている。「…………?」 何かを見つけて鮫島が聞く。「これは……何です?」 僕は微笑み、それをつまんで持ち上げた。いびつな形をした、金色の塊だ。「金の差し歯ですよ。差し歯。人間の、歯ですよっ!」 一瞬間だけ――鮫島は、歯を食いしばり、怒りを込めた形相で僕を睨みつけた。 僕はつまんだ金歯を、まるでサイを振るかのようにコロリと落とす。 心の中で『……オッサン、知ってやがるな。僕と《A》の正体を――』と鮫島に言う。―――――「……ダイヤモンド以外のカラーストーンは正直、あまり値がつきません。ダイヤに関しても鑑定書がないとのことですので、当社の規定により買取価格を決定させていただきます。……今回査定させていただいた金の重量は558g。20金が576g。18金が1148g。14金が174g。12金が240g。10金が579g。 本日の相場価格と照らし合わせ、手数料を引いた場合――……金が260万円。20金が224万円。18金が402万円。14金が44万円。12金が54万円。10金が112万円……。 プラチナは355gで……135万円。銀は545gで3.5万円……。少数ございますが、メイプルウィーン金貨、プラチナコイン、地金のインゴットは別計算で算出いたしますと……」 何の抑揚も、何の感情もなく、鮫島はただ業務のままに査定結果を伝えて――パチパチと電卓を叩き、査定書にペンを走らせた。神父はソファにもたれかかり、じっと鮫島の手元や査定書を見つめている。エアコンの稼働音とセミの鳴き声だけが室内に響いている。「何か、ご質問はございますか?」 そう話しかけてみるが、神父は返事をしなかった。無言で顔を横に振り、ほとんど瞬きもせず、ただじっと鮫島の動向を見つめている。 鮫島は悩み、迷っていた。昨晩、この神父――男のしでかした犯罪行為を暴きたいのか、それともカネを手に入れて黙認するか……答えはついに出なかった。 ――それはなぜか?「……以上の買取金額は、1500万で、いかがでしょうか?」 鮫島が告げ、神父はうっすらと微笑んだ。 ……俺は正義の味方ではない。基本的に、犯罪行為は被害者側の過失が原因と考えている。『騙されるヤツが悪い』『忘れるヤツが悪い』『殺されるヤツが悪い』『頭が悪いヤツが悪い』 ただ――この男の持参した金や銀やプラチナの出処だけは……許せなかった。『葬儀の際、故人は宝石・貴金属を纏い納棺す』 元々のしきたりは別の教義であろう概念を歪曲し、解釈を上書きする。そういう死体の、何の抵抗もできない、何の法にも守られていない者の最後の宝を奪うというのは――最低に下劣な行為のような気がした。第三者であろう川澄が泥棒するのとはワケが違う、畜生道にも劣る大罪のように感じられた。 けれど、それは――もう、いい。答えを知る手段なら、ある。 そう。 ……わからないのなら、わからないでいい。答えが知りたいのなら、教えてもらえばいい。 そうだ。 ……俺に、答えを教えてくれ。 ……そのための用意はある。―――――「……以上の買取金額は、1500万で、いかがでしょうか?」 ダラダラとくだらない説明を終えた鮫島は、僕の予想金額とほぼ同額の価値を宝に認め、膝の上で両手を重ねてから――僕の顔色を探るように切り出した。「非常に高額の買取になります。お客様の身分証の提示と……念書のサインを」「念書?」 わざとらしく、僕は言った。「……盗品譲受における、当社の過失を認める。要は、『《D》に責任はない』とする旨の念書です」 鮫島が挑むように僕を見つめる。それも、僕の計算通りだ。「……実は、ご相談がありまして……」 そこまで言って、僕は声をひそめる。「……鮫島さんのお力で……書類の改ざんをお願いできないでしょうか?」 僕は頬に汗を流す鮫島の浅黒い顔を見つめる。「……査定が1500万だっていうことは鮫島さんしか知らないワケですし……どうでしょう?鮫島さんと僕、ふたりの個人間売買ということにして買取をお願いできませんかね?」 鮫島は無言で僕の顔を見つめ続けていた。軽蔑する? いいや、それはお互い様だ。「……鮫島さんもサラリーマンとして、おカネが必要でしょう? 企業のコンプライアンスも守らなくてはならないし、ご家族にも……幸せになってもらいたいのでしょう? ……もし、そうしていただけるなら買取金額の減額を……」「……わかりません」 ……?「わからない? ……どういう意味ですか?」「意味もなにも……迷ってるんですよ。どうすればいいのかを……ね」 唇を歪めて鮫島が笑う。「……今すぐ決断はできませんか?」 しかたなく僕は言う。「……僕もそれほど気が長いタチじゃない。金額の交渉がしたいなら、そちらの希望額を言ってくれると……」「いや、そういうコトじゃあないんですよ。ちょっとした、条件がありまして……」「……条件?」 鮫島の顔から笑みが消えた。 「はい」 僕は鮫島の目を見つめ、笑わずに言う。「……言え。何が条件だ?」「……もし、アンタが《A》を愛し、《A》もまたアンタを愛しているのなら……問題ない話だよ。……俺は答えを見つけることができなかった。……だから、聞くことにした。《A》の信徒である、あの女から答えを……」「……あの女、だと?」 驚いて、僕は聞き返す。クソの役にも立たない、自業自得で苦しむだけの、遅かれ早かれのたれ死ぬ女のことを思い出す。……野郎、何をしやがった? 鮫島はほんの少し、考える。それから言う。「……俺の手製だが、アンタのことを調べた資料をあの女にだけ見せた……時間を指定してな。あの女が、今もアンタのことを先生と慕い、《A》に身を捧げる覚悟ができているのなら……俺は潔くそこの金銀を買い取り、ココから消える」「……資料、だと? いったい、何を?」 あまりの驚きに、僕は一瞬、言葉を失う。「……嘘だろ? これまでのこと、全部、か?」 そう呟き、無意識に唇をなめる。「……ああ。診療所と手を組んで信徒を集めたこと、信徒の死体や骨壺から金銀を剥ぎ取って売ろうとしたこと――全部だ」「――ふざけんじゃねえぞっ! 鮫島っ!」 僕は叫んだ。そして――思う。 ……5年だ。貴重な僕の時間を5年も使ってやったのにっ……最後にほんのちょっぴりの貯金を下ろして消えようと思っただけなのにっ……。クソ野郎がっ! 携帯電話を手に取り、連絡したくもない女の番号を探してプッシュする。……間に合うことができれば……まだ……チャンスは……。 すると―― ――どこか遠くから聞こえる声に、 ――僕は、 ――目を見開いた。「……返せっ!」 それは女の声だった。外から聞こえ――怒りに震える――ひとりの女の声だった。「……アタシのカネッ、返せっ!」 応接室の窓の外で喚きちらす死にかけの女を見て、僕は、感じた。 5年の努力の結晶が、もろくも崩壊する予感を――……。――――― ――セブンイレブン北名古屋熊の庄店に、午後14時にFAXを送る。 ――コンビニの店主には話をつけてある。 ――それを見て、決断しろ。 ――このまま《A》で死ぬか、別の場所で死ぬか、選べ。 ――もし別の場所で死にたいと思うなら、《先生》に向かって叫べ。 ――「カネ返せ」ってな。 ――最後、親御さんの元に帰れ。おフクロさん、心配してるぞ。 鮫島がしたことはふたつ。 顧客情報から調べた女の携帯へメールを飛ばす。 手書きのコピー用紙をコンビニにFAXしただけ。それだけだ。 ……フェアでない条件であることはわかっている。あの女が《A》に対して本当はどう思っているかなど想像に難くない。……しかし、それでも、答えは答えだ。「畜生っ! どういうつもりだっ? 貴様っ、何が目的だっ?」 激高する神父が、醜悪な目つきで鮫島を睨みつけて怒鳴っている。周りには、騒ぎを聞きつけた信徒らしき男女が4.5人、彼の背後で心配そうな目つきをして立ち並んでいる。「……ご破算だよ。そんな腐った肉のついた指輪や金、いらねえよ」 目の前に立ち塞がる神父に向かって、低く、呟くように鮫島は言った。「……イイ気になるなよ。てめえも俺と同類だろうが。貧乏人からカネを巻き上げて、カネ持ちどもに媚びるだけの腐れ企業の分際でよ」 神父が吐き捨てるかのように言う。「……外で吠えてるあの女も、てめえのクソガキも、いずれは血ヘドに溺れてくたばる運命なんだ」 鮫島は無言でアタッシュケースを閉じ、帰り支度を整えて応接室の扉を開けた。それから……貴金属をスカーフに包み込み、周りの男女からの冷めた視線を無視し、真っ赤に顔を紅潮させた神父に向き直る。神父は、「……せいぜい長生きするんだな。てめーのガキがくたばる瞬間をっ、てめーの目に焼き付けやがれっ!」と言って笑った。 次の瞬間――…… 北名古屋市の宗教法人団体《A》の神父の顔面に―― 高級ブランド・貴金属のリサイクルョップ《D》西春店支店長―― 鮫島の拳がめり込んだ――。―――――《D》名駅前店3階。社長室。 社長室の前に立つ。スーツの胸の部分をまさぐり、きちんと辞表が入っていることを確認する。ノックして入室する。社長はデスクの上にある書類の束を1枚1枚丁寧にめくり、真剣な表情で目を通している。何も言わず辞表をデスクの上に置く。だが社長は、鮫島が懸命に書いた辞表をすぐに破りゴミ箱へと放り捨てた。なぜか理由を聞くと、鮫島に頼みたい仕事があると言う。「……それは、本当ですか?」 鮫島が聞き、社長が舌打ちをして目線を上げる。「……しつこいな。お前は来月から名駅前支店長だ。……問題あンのか?」「……いいえ。……しかし……どうして? ……岩渕は? ……暴行事件の処罰は?」 社長は視線を書類に落とし、再度舌打ちをして言う。「……大手銀行3社の無制限融資が決定した。事業拡大のための債権整理だ。……ヘタな若手に任せるより、お前の方が使えるンでな。……岩渕の野郎には新しい役職をくれてやることにした。『名古屋地区統括、エリアマネージャー』だ。……いろいろと都合があンだよ。……暴行事件?ンな話、聞いてもいねえぞ……」 社長は聞こえないくらいの小さな声で「黒田慶樹さんの例もあるしな……」と呟きながら、話は終わりと鮫島に向けて掌を払った。 2階に降りると、総務部のオフィスからクラシックの有線放送が流れているのに気がついた。ガラス越しにしか見えないが、オフィスの内部は賑やかで、とても活気があるように見える。不思議と、そこで働く者たちはみんな楽しそうな顔をしている。総務部トップの部長までが、何だか幸せそうな顔だ。 1階に降りる。倉庫の前を通り過ぎ、廊下から店内へ入ると、高級時計のコーナーに水色のサマーセーターを着た若い女性がショーケースを眺めているのが目に入った。 瞬間、鮫島の心臓が高鳴った。 総務課長の宮間が接客しているのは、あの女――毎日のように息子の病室を訪れては話をし、同僚である岩渕の交際相手と思われる、伏見宮京子だった。無論、声をかける気はない。どんな顔をし、どんな言葉を交わせばいいのかがわからなかった。 けれど――京子は、違った。 フロアの端を歩き進める鮫島を見つけると、すぐさま声をかけ、微笑みながら歩み寄る。溜め息を漏らす鮫島の横顔をじっと見つめ、それから、満面の笑みを浮かべ、頬を赤く染め、大きな瞳を輝かせた。「鮫島さんっ! 名駅前支店長就任おめでとうございます。明日、岩渕さんの退院祝いと、鮫島さんの歓迎会をしようって相談してたんですっ。鮫島さん、何か好き嫌いはありますか?」 ――京子の声を聞いた瞬間、鮫島の体内で何かがはじけた。 ――変わった。 ――流れが、明らかに、すべてが、変化した。 俺の人生が……いや、俺の人生だけじゃあない。おそらくは岩渕も、社長も、俺の息子も、《D》に関わるすべての者の運命が、この女の出現によって書き換えられたのだ! あの神父の言葉通り……貧乏人からカネを巻き上げて、カネ持ちどもに媚びるだけの腐れ企業に、大手銀行が無制限の融資? そんなバカなことがあるワケがない。俺が売り上げトップの名駅前支店の支店長? そんな奇跡みたいなことがあるワケがない。ありえないのだ。あってはならないのだ……。 ……生まれ変わった? そうとしか思えない。 岩渕が伏見宮京子に出会い、《D》は、何か……何か違う世界……別の次元に引き上げられたのだ。……転生? いや、転成……か。……社長のワンマンで限界と思われていた企業の寿命が、繁栄が、運命が、未知の何かに……転成しやがった! やがて――鮫島は駆け足でその場を立ち去ろうとした。「……店は適当に選べばいい。……俺は病院に行く」「なら私も……」と言う京子を手を挙げて制止させる。「……アンタの詳しい話はあとで聞く。……それよりも、俺にはやらなくちゃいけないことがある……」 走り去る鮫島の姿を、京子と宮間は呆然と見つめ――互いに目を合わせて笑った。 背後から聞こえるふたりの笑い声を聞きながら、鮫島は心の中で呟いた。 ……とりあえず、岩渕の野郎は一発殴る。 幼稚な考えに笑みが浮かぶ。 そう。まるで――生まれ変わったかのような、そんな気分だった。 了 この下手うま感が何とも……→ 嘘とカメレオン /N氏について 試行錯誤、努力をすげー感じる……→ 嘘とカメレオン /されど奇術師は賽を振る 嘘とカメレオンさん↑ 下北沢出身のインディーズバンドです。演奏テクニックとパフォーマンスに関しては全く問題のない、非常にレベルの高い新人バンドです。……しかし、しかしながらですね……ボーカルのチャムさんの歌が……下手、うま、という超独特なバンド。病的な歌詞と軽快なパフォーマンスは少々の中毒性があり、密かに話題沸騰中です。今後、確実に売れるバンドです。 ……ようやくミニアルバムが発売ということで紹介します。見た目は……気にしないでね♪ お疲れサマです。seesです♪ 『転成D』、いかがでしたかね。とりあえず、長い。1話としては、過去最長かも。 (>_<)イヤーン、まぁ、勘弁してね。訂正箇所多し。ちょこちょこヤリます。 いや~本当に《D》は使い勝手の良いネタですね。中小企業・カネ・社会投影・皮肉・風刺・そして人間と愛――あらゆるジャンルに対応可、ぱーぺきに近い素材ですね。実に汎用性の高いネタです。今話も問題なく進行できた(かも)です。(sees的にはもっと長い話でもイイのですが、さすがに自分が飽きてきそう)。 さて、次回は……紆余曲折ありましたが、ここ数ヶ月のseesのブログ活動を〆る集大成、『地雷原のD!(仮)』を開始予定デス。予定は10~12話の短編~中編のやや長めの設定。それと……モール街のネタはボツになるかも……うむむ難しいスねイロイロと。 …今言えるのは、「あらすじ」とか作るのめんどくさいので毎回毎回を簡潔に……てぐらいですかね。……うーん。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 ↓嘘とカメレオンさんのミニアルバムです。これはオススメっすよ~(笑)こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『フォースの加護』 課長 「sees君、ちょっと郵便局行けどー」 sees 「はい。わかりました(素直)」 課長 「……? じゃあこれとコレ、よろしくどー……」 あまりに素直な後輩を怪しく思ったのだろう。課長の顔は明らかに不審がっていた。 ……… ……… ……… セブン店長「…(いらっしゃいま)せー。……て、seesさんか、今日もアレ、ヤルの?」 sees 「……もちろん」 そう。中村郵便局へのヤボ用をさっさと済ませる。目的はコレ。 セブン店長「……ベアブリックのhappyくじ、スターウォーズコラボ。700円だけど、何回ヤル?」 sees 「10発で」 セブン店長「……はい。7000……円だけど……」 sees 「ナナコで」 そして――引く、引く、引く、箱の中からクジを引くぅぅぅっ! sees 「うぉぉぉぉぉぉっ!!! 狙うはぁー5番っんんんん!! ジャンゴ・フェットォォッ!!」 ペリッ…ヨーダ様、いらん。 ペリッ…レイちゃん。綾波じゃないし、いらん。 ペリッ…レイア姫。危険ドラッグは、いらん。 ペリッ…レン君。小当たり。飾ろう。 ポンッ…肩を叩かれた。誰やねん。邪魔すんなや……。 次長 「……何やsees、こんなところで何しとるんや? 💢 ああ?💢」 sees 「げぇぇぇっ!! (>_<)ピギャース」 次長 「……油売ってねえでさっさと……ん?」 sees 「あわわ……いや、今ですね……このクマ人形とスターウォーズがコラボしてて……」 そして――奇跡が起きた。 次長 「……ワシも一回やるわ。なんぼや?」 sees 「(食いついたっ! キタコレッ!) ……700円す」 …… その後、次長はチューバッカを手に入れ、ご機嫌で帰社。 (*_ _)フゥー……あぶないところだったぜ。死ぬかと思った('Д')ヘアア。 ――雑誌立ち読みなどのマナー違反もですが、いつ、どこで、誰が自分を見ているか わかりません。皆様も、普段の生活――多少の緊張感を持って過ごしましょうネ(^^)/ んで何とか、了😊
2017.09.20
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ss一覧 短編01 短編02――――― テレビではワイドショーの男性司会者と日本宗教学会の評論家が、新興宗教の問題点について喋っている。それを頭の片隅で聞きながら、鮫島は送られてきたFAX用紙を眺めていた。 ほんの数時間前まで、宗教法人の団体などに関心はなかった。そんなものは自分にとって何の役にも立たないと知っていた。だが今、事情が変わった。今、鮫島は、北名古屋市に本拠地を構える宗教法人《A》が、どういった組織であるのかが猛烈に知りたかった。 ――今朝、《D》西春店の開店と同時に掛かってきた電話にて『出張査定』の依頼が入った時、鮫島は寒気を感じるほどに驚いた。『……先日はウチの者が感情的になってしまい、誠に申し訳ありませんでした……』 電話の相手は若い男のようだった。聞けばとある宗教法人団体の代表だと言う男は、先日カネを恵んでやった若い女の身元引受人……のような者、と言った。『……つきましては御礼を兼ねて、私の持つ貴金属や宝石類を売却したい』との申し出だった。 Dell・Japanからの事業主宛てのFAXを破り捨て、パソコンのあるデスクのイスに座り直す。コンビニで買ったカロリーメイトをかじり、缶コーヒーの蓋を開けて一口飲み込み、液晶に映る自分の陰影を見ながら顧客情報を共有システムに打ち込む……いつものと同じ、いつもと同じ作業をする自分の姿を液晶に見ていると……ふと――あの、B型肝炎を自称する女の顔を思い出した。 財布から2万円を抜いてトレーに置き捨て、鮫島はカネを拾う女を見下ろした。あの時、女は一度だけ、カネを拾う前に一度だけ――顔をこちらに向けた。俺と目が合う。 女の目は俺に助けを求めているようにも見えるし、単に何も考えていないだけのようにも見える。 ……俺にできることなど何もない。 ……《A》の出張査定依頼は当然、引き受けるつもりだ。カネのためだ……。そうだ。俺にはカネが必要なのだ……。それだけだ。 あの女と《A》、代表とかいう男の間に何があるのかなど知らない……興味もない。 そう。 この国は資本主義社会なのだ。資本を多く持つ者が正義であり、善なのだ。それは《D》も例外ではない……ハズだ。それが当然なのだ。それが普通なのだ……。 もう一度、さっき思った言葉を心の中で反芻する。 ……俺にできることなど何もない。 鮫島はいつもと同じように、いつもと同じ作業を繰り返し、思う。 ……よりにもよって、なぜ、あの病気なんだ? ……畜生が。 ――――― エレベーターに乗り込む。一緒に乗り込んだ若い看護師が強ばった笑顔で頭を下げ、鮫島もまた顔を強ばらせて会釈を返す。 誰もが自分に気を遣っている。それがはっきりとわかる。 エレベーターを降り、リノリウムの廊下を歩く。遠くからセミの声が響いている。ナースステーションから看護師たちの雑談も聞こえる。 顔を上げ、無機質に光る廊下を見渡す。長い廊下の奥の部屋――そこが息子の病室だった。『鮫島司(さめじまつかさ)』 そう印字されたプレートの横のドアの前に立ち、軽くノックをする。 眠っているいるのだろうか? 返答はない。ドアノブに手をかけ、そっと引っ張る。病室の消毒液臭い空気が、ふわりと廊下に溢れ出る。 病室の中央にたったひとつ置かれたベッドに、息子はひっそりと横たわっていた。吸い寄せられるかのように息子のベッドに近づく。壁の時計をチラりと見てから、枕元のファイルに書かれた前回の注射や投薬の記録を見る。 ……まだ少し時間はあるな。 看護師が今日の注射を行うまでには、まだ1時間程はある。それまでは、ふたりきりでいられる。「司……パパだよ」 挨拶するように息子の頬に触れてから、ベッド脇のイスにうずくまるように座る。細くて軽い息子の髪を――閉じたままの瞼や、三日月型の眉や、整った鼻や、長い睫毛をじっと見つめる。 ……将来は男前になるな。 そう思い、また思う――。 ……ああっ……どうして、俺の子供が……こんなメに……クソ……クソ……。「今年は暑いね。パパ」 目を覚ました息子が起き上がり、鮫島を見て言った。「今年の名古屋は特に暑いみたいだね……パパは体調、大丈夫?」「ああ……大丈夫だ」「……お仕事、順調?」「ああ……問題ないよ……司は、何かあったか?」 息子は微笑み、窓際に置かれた花瓶に顔を向けた。花瓶には花が生けられている。「……最近、隣の病室の人と仲良しなんだ。この花も、その人から貰って……」 息子の言葉に頷きながら、鮫島は花瓶の花をじっと見つめた。おそらくはアイツ……後輩のクセに生意気で、生気のないシケたツラをした……あの男。《D》の名駅前店支店長、岩渕誠からのものだ。 ……詳しくは知らないが、大須の混成マフィアと騒動になりケガをした、という連絡は聞いている。騒動は社長と名古屋近辺の若手社員たちだけで取り仕切り、解決させたという。俺は若手、ではないし……入院している息子もいる。社長に気を遣ってもらった、というより……数にも入っていないのだろう。……そう思うことにした。 岩渕が弥富の病院から名古屋市立大学病院に転院した日――出世街道から外れた、落ちこぼれのオヤジと、若くして名駅前店を任されたエリート――接点も面識もあまりなかったが、息子のついでに見舞いに行った……それだけの関係だ。 そう。 鮫島は岩渕の病室に見舞いに行った。ただ、それだけのことだ。それだけのことであるハズなのに……鮫島は出会ってしまった。 名字も知らないあの女性――『京子』と呼ばれていた、岩渕の彼女と。――――― 静かな部屋の中をショパンの旋律が満たしている。 夜想曲第2番変ホ長調。 ……美しい。何と美しい旋律なんだろう。いったいどうしたら、これほどまでに神々しい調べを作れるというのだろうか? 神の奇跡――そうだ。これは神が作りだしたモノなのだ。 夜想曲だけではない。ショパンにおいては、すべての旋律が奇跡によって創造された、神の御業と確信したと思わざるを得ない。 そうなのだ……ワルツもマズルカもバラードもピアノソナタもポロネーズも、すべて――フレデリック・ショパンが神と同化した末に創造された曲なのだ。 礼拝堂の隣にある資料室兼個室の白い壁を見つめながら、しばらくショパンの調べに聞き入ったあとで――僕はふと我に返り、机に並んだ指輪やネックレスやブレスレットに視線を戻す。そして再び、スマートフォンを操作して、金や銀やプラチナの相場価格をチェックする作業に戻る。 ……金の指輪だけでも相当数ある……銀の価値は低い? が、プラチナはかなり……。 そうだ。この大量に集められた金銀宝石は元々僕の持ち物ではない。 ……さしずめ、《A》に捧げられた副葬品、という感じかな? 最後にこれらを現金化して姿を消す。そう思えば、ここ5年の宗教ごっこも、苦痛ではなく喜びに感じられてくるから不思議だ。『私たちはもう年だし、子供もいないから、あなたみたいな人が来てくれて嬉しい』 5年前、《A》を運営していた老夫婦から『神父』の資格と仕事を託された。 唇を舐め、僕はそっとほくそ笑み――自らの行いを思い出した。 信徒の老人たちから年金を奪い、障害者からは支援金や補助金を奪った。それら社会のクズ共を《A》が経営するクリーニング工場で働かせ、給料をピンハネする。偽りの善意で人心を縛り、神の都合で恫喝し、必要あらば暴力も行使する……。 ……重度の疾病で労働が制限されている者……自活が不可能な者……避妊具も使わず『B型肝炎』のキャリアと性交渉をし、あげく肝臓ガンを発症した愚か者など……そういうヤツらは手持ちの現金をむしり取って放り出すだけ……。 そう。それが僕の《A》の教え、 ――僕の神の啓示なのだ……。 神父は目を閉じ、無言のまま、そっと微笑む。 両手を広げ、机の上をまさぐり――自身が《A》に取り入ることを決断させた、魅力ある宝石たちの感触を確かめた。指に絡まった金のネックレスや指輪をすくい上げ、ジャラジャラと響く音を楽しみ――目を開いた。 ――《A》創立30年ですか……さぞかし溜まっていることでしょうねぇ……。 心の中で僕はそっと呟き――また、ほくそ笑む。――――― 病院の売店で息子が読みたいと頼まれた雑誌を手に取り、ページをパラパラとめくっていく。すぐ近くのエレベーターからエアコンの風に混じって、汗の匂いがする。たぶん、自分が来たエレベーターとすれ違いざまに乗って消えた小学生と母親からのものだろう。 ぼんやりと、あの子の母親のことを思い出す。ずいぶんと昔に離婚した、今では生死すらわからないバカな女のこと。そう。『アメリカで出産したい』などと夫に頼んだ女のこと。現地の病院や病院のシステムや治療や検査のことを何も知らなかった女のこと。何も知らないまま、出産の知識や常識のことすら何も知らないまま――息子の命を悪魔に貪り食わせた女のこと――……そんなことをぼんやりと思い出していると、いつの間にか、息子の病室の前にまで戻って来ていた。『……ボクは………パパに…………』『……大丈夫……だから、キミは……』 病室の中から声が聞こえる。お見舞いにどうやら客が来ているらしい。声から察するに女のものだ。鮫島は舌打ちをした。いくら同僚の彼女だからって、他人の息子に必要以上に干渉する権利などない。そう思った。 ノックせずにドアを開く。 そして、文句を言ってやろうと口を開きかけた次の瞬間――鮫島は見た。 困ったような苦笑いを浮かべる息子と―― ただ――鼻水をたらしてべそをかき……ただ――ひたすらに泣きじゃくる、若い女性の顔を見た。つい……見てしまっていた。 京子は唇を震わせて「すいません」「勝手にお邪魔して」「ごめんなさい」と繰り返し、また大粒の涙を流している。たぶん、親の許可なく病室に入って息子と話していたことで自分を責めているのだろう。「パパ、怒らないで。ボクが京子さんにワガママ言っているだけだから……」 息子はそう言って、とめどなく涙を流す京子にティッシュの箱を手渡していた。 京子から視線を外し、軽くため息をつく。息子の病魔の正体も、おそらくはこの女も聞いているのだろう。……別に隠したい理由なんてないしな。 やがて――京子は顔を上げ、鮫島の目をじっと見つめて、言う。「……大丈夫です。鮫島さぁん……私と岩渕さんがついてます……」 ……はぁ? ……何を言っているんだ、コイツは? 京子は涙声で言い続けた。「……司クンの病気も……今は難しくても……未来なら……将来なら……きっと、きっと良くなり……ううん……必ずっ、治りますからぁっ!」 セミロングの美しい黒髪を揺らしながら――憐れみでもなく、慰めでもない言葉を、京子は叫ぶかのように訴えた。 ……誰かにここまで言ってもらえたのは、息子が生まれて初めてのことだ。……京子が微笑みながら涙を流すのを見ていると――鮫島の目にも涙が込み上げそうになる。「ありがとう。京子姉ちゃん……」 血液感染でB型肝炎に侵された息子は、そう言ってケラケラと笑っていた。「――でもさ、彼氏の心配もしてあげなよ」 楽しそうに、嬉しそうに、息子は笑い続けている……。 ―――――『転成するD!』 後に続きます。 不思議な魅力を感じます……。→ コレサワ/ SSW 癒されますねぇ……。 → コレサワ/ あたしを彼女にしたいなら いろいろ考えさせられる曲。 → コレサワ/ 君のバンド まさか……コレサワさんを紹介する日が来るとは思っていませんでした(*''▽'')テヘヘ。 seesのプロフでは何回かコレサワさん推していたんですけどね……いやはや、感慨深い。 さて――コレサワさん↑ 仮面の匿名シンガーソングライターです。セルフプロデュースの本格派で才能大。出す曲すべてが可愛らしいス……。8月、日本クラウンからついに、メジャーデビュー。歌詞は女性目線、楽器はギターメインのロック?スタイル? 緊張感がほぐれるような癒し効果がありそうスね……。レトロかつ味わいのあるアニメ動画も最高に癒されます。大好きだったアニメ「飛んでブーリン」、「きんぎょ注意報」を思い出しまス……。 ぜひぜひ、ご試聴を……。正直、本当――もっともっと売れて欲しい……。 お疲れサマです。seesです♪ 今話『転成~』はモチーフにseesの独断と偏見が詰まった問題作です。さすがに気を悪くされる方がおられると思います……どうかご容赦を……m(__)m 各キャラクターの定型化防止を意識しつつ、何とかラストまでたどり着かせる……か。 ――昔、とある先生に言われた「sees君の話のキャラって定型すぎ。もっと複雑にしろよっ!!」と怒られた記憶が……。( ;∀;)ゥェェェ……難しいねぇ、まったく。今思えば、『小説書こうぜ』や『文章構成力教本』とかの教材もどき、seesにとっては何の役にも立たなかったなーww。 今の10代とかで文芸やっているコたちはどうやってモノ作りしてんだろ……もしかして妄想だけ??? ワシと同じやんww ――てことで、最近じゃ少し時間かけて作っている分、更新遅れてばかりですいません……まぁ、株式会社sees.iiのアクセス数なんてゴミカスみたいなものだけど……。眠いし。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 ↓コレサワさんの初メジャーアルバムです↓ オリジナル楽曲も、どぞどぞ~。 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『突然の来訪者』 sees ん~そろそろ帰ろかな~( ̄∇ ̄;) ……さて、《とらのあな》行ってライダー系のフィギュアでも下見するかな…… 中古でもいいから、シャドームーン先生、もしくはエターナル、ブルーフレアの 美麗品、欲しいな……ブツブツ……松岡さぁーん……ブツブツ……。 妄想が頭の中を巡り、私物を整理してデスクを立とうとした――…… その時、 そいつは、 ――突然、やって来た。 ??? 「すいませーん。お仕事中、失礼しまーすっ」 社員一同 「……???」 次の瞬間、そいつはスーツの打合せをひらりとめくり……見せつけた。我々一般人 には馴染みのない、例の、輝く、そう…金色に輝く旭日…… つまり…… ――おまんら~桜の代紋ぜよっ!!( ゚Д゚)ドヤァァ……!! 警察官 「中村署です。少し皆様に確認させていただきたいことがございまして……」 次長 「はいはい……何か、事件でも?」 警察官 「はい。実は……」 sees 「……(へぇ、ドラマじゃ手帳を見せびらかすイメージだけど、実際は腰から チラ見せするだけなのか……しかも……イケメンッ!! ワシと同世代くらいか? ……上司にパシらされてる感じかな……)」 警察官 「……小学校低学年の女の子がこの近くで行方知れずになってまして……」 次長 「っ!!」 次長が何かを察したのか、大声で怒鳴る。「お前ら~、全員集合やっ!! って、sees、てめーも帰るの待てっ!!」 sees 「……ビクッ。は、はい……(イヤな予感が……(>_<)マサカ)」 次長 「2~3人ずつ並べ。だで、よーく見て確認せや」 警察官 「……お話が早くて助かります……こちらが、女の子の写真です……」 社員全員(seesはなぜか最後)の目撃情報の収集を終え――改めて帰宅の意思 をseesが示そうとした、その時……。 次長 「別のフロアにも何人か社員がいるはずです。ご案内しますね😟」 警察官 「おそれいります……では、ご一緒に……」 sees 「う……帰る(逃げる)タイミングが……」 seesは、まるで犯罪者のようにオロオロとデスクの前に立ち尽くしたまま、 ただじっと次長の帰りを待ち続けた……じっと……空しく……。 ………… ………… ………… そして――……15分後(くらいかな)。 警察官 「ご協力、ありがとうございましたっ!!」 イケメン警官が出て行き、そして――次長がオフィスに戻り、一言、立ち尽くす seesに向けて、言った。 次長 「……何やsees、まだおったんか? 片付いとんのやったらハヨ帰れや(笑)」 sees 「……はい。失礼します。(…………はあぁーあ、直帰するか……)」 女の子はその後、無事発見→保護されたみたい……まぁ、それなら良いか😊 了( ´ー`)フゥー
2017.09.11
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ss一覧 短編01 短編02――――― 高級ブランド・貴金属のリサイクルショップである《D》北名古屋市西春店の支店長である鮫島恭平にとって、それは普段の、ありきたりな、少し面倒くさいだけの、ただそれだけの客だった。「……査定は以上でございます」 鮫島が微笑みかけ、仕切られたカウンターの向こう側の女はうつろな目つきでこちらを見る。「何かご質問などはございますか?」 女に笑いかける。だが、女がこちらに笑い返してこないことはわかっている。「……もう少しだけ……もう少しだけ……何とか、ならない?」 女は顔を歪めて嘆願する。「ねぇ……あと、少し……少しだけでいいの……」 もちろん、女の言葉が意味するのは、査定額のアップだとはわかっている。だがそれは、空気を求め、酸素を求めて苦しみ悶える魚のような、そんな顔にも見える。 女がこの店を初めて訪れてもう5回目。今回、女はロクなモノを持って来ていない。今ではその査定結果は、子供の小遣い程度の価値しかない。カネに対する強烈な渇望に、女の精神は耐えることができていないのだろう。 1ヶ月ほど前、ロレックスやウブロの時計を換金した時と同じように、女は首にかかるサラサラとした茶色の髪と、生意気そうに整った顔つきをしている。だが、この1ヶ月間で女の風貌はすっかり変わってしまった。 吊り上がった大きな目は落ち窪み、脂肪を失った頬や顎は頭蓋骨の形がはっきりと見て取れる。あれほど完璧に施されていた化粧も、今では不健康さを際立たせるだけのように見える。安物のルージュで色を塗っただけの唇も、安物のファンデーションを厚く塗っただけの頬も、例えようのない違和感だけが残っただけだ。今はただ、伸ばした手の爪にピンクのマニキュアが、相変わらず艶やかに光っているだけに過ぎない。「ねえ……お願いよ……1万円でいいの……お願い……お金が必要なの……」 女の声は媚びるかのような、悲鳴に近いものだった。「ふざけんなよ貧乏人」 目を閉じ、指で額をポリポリと引っ掻きながら鮫島は言う。「……カネがねえなら働けや。働きたくねーのなら、盗んで来い。んで、今度はもう少しマトモなモノ持って来いっ」 叩き出すつもりの罵声を浴びせながら、鮫島は1ヶ月前の女との会話を思い出す。 あの日の夜――女はひとりでやって来た。『高額買取キャンペーン』のチラシを見て来たのだろう。ハンドバックのポケットに西春店のチラシが入っているのが見えた。 女はチラシを確認しながら、手持ちのハンドバックからいくつもの腕時計を取り出した。「よろしくね」「はい……ロレックスのオイスター……ウブロのビックバン……カルティエのスケルトン……ブルガリのセルペンティ……すごいですね……」「そう? 高く買ってくれるなら、また来てもいいわよ」「ありがとうございます」 鮫島はそれ以上何も言わず、新品同然の高級腕時計をただじっと見つめ続けた。 それから15分後、カウンターの上の盆の上に、現金155万円が載せられた。本当は170万までの融通が可能ではあったが……まぁこれぐらいだろう。当然だが、差額分の売値は鮫島自身がピンハネするつもりなのだから。適正価格と査定金額の差を埋めるのは、この女自身の交渉能力――そう。この女の責任なのだ。 案の定、女は155万を笑顔で受け取り、鮫島は日計売上の報告書を書き換えた。 そんなことを思い出しながら、鮫島は女を見つめた。 痩せた肉体に青いカットソーだけの地味な服の女は、カウンターの椅子にうなだれて、目から涙を溢れさせてこちらを見つめ返している。女の目の前のカウンターの盆の上には現金にして7800円が載せられている。「ねぇ……そんなに厳しいこと言わないで……このままじゃ捨てられる……お願いよ……何でも言うとおりにする……また来るから……だから、お願い、あと1万円だけ……」 かつて生意気だった女の口調は、今ではこんなにも大人しくなり、ふてぶてしかった態度はこんなにもしおらしくなった。「……栄や錦で風俗でもしたらどうだ? 何で働かない?」 時間のムダと知りつつ話を聞く。ここまで面倒な客は久しぶりだった。「……人と関わり合うことは禁止事項なの……このままじゃ、教会から追い出されて……」「教会? アンタ、何かの宗教団体にでも入ってンのか?」 女が小さく頷くのを確認しながら鮫島は言う。「……信者からカネをむしるだけの神様なんざアテにすんな。これで目が覚めたろ? 大人しく働いて、地味に生活しろや……」「先生をバカにするなっ! あたしの人生を、あたしが信じた人のために使って何が悪いの? 教会は……先生は……あたしに光をくれたんだっ、あたしを導いてくれたんだっ!」「……はあ? まぁ、確かにな……もちろん、アンタの自由だ」 舌打ちをし、睨む女を睨み返す。「アンタがどこで、何をして、誰に貢ごうと、俺には関係ないからな……」「ねえ、1万だけでいいの。少しだけでいいの……お願い……あたし、もうすぐ死ぬかもしれないの……だから……お願い、お願い……お願いっ!」「……死ぬ?」 鮫島は訝しげに首を捻った。……別に、どうでもいいことだがな。「……あたし、B型肝炎なの……だから……お願い……」 嘘か本当かもわからない言葉を悲鳴のように叫ぶ女に向けて、鮫島は長い息を吐き――そして……財布から1万円の札を2枚取り出し、カウンターの上に放り捨てた。――――― 女を《D》西春店から叩き出したあと、鮫島は店舗の裏口から外へ出て、夜空を眺めながら煙草を吸っていた。「『大好き』、か……」 数日前のとあることが脳裏にチラつき、考えずには、思い出さずにはいられなかった。 あの、名古屋市立大学病院での出会い――ひとりの美しい女性との出会いを。 あの、ある病気で入院している息子への――優しい言葉を。 そして、ひとりの男と――そいつと俺の働く《D》に向けられた――純粋な愛と好意を。『……彼は私にとって特別な人なんです。それと《D》という会社も、私は大好きですよ』 鮫島は思った。 ……もしも、さっきのバカ女が心酔するような、《神》に近い者がいるとしたら? ……もしも、他人に光を与えたり、他人を導いたりできる者がいるとしたら? ……わからない。けれど、もしも……もしも……本当にいるとしたら?「……バカバカしい、な」 鮫島は吐き捨てるかのように呟きながら、吸い終えた煙草を灰皿にこすり捨て――そして少しだけ、ほんの少しだけ……月の輝く夜空に向けて微笑んだ。 ――――― ……役に立たねぇ女だ。 女の所属する新興宗教の神父である若い男は思った。普段なら、目の前で土下座する女を殴りながら犯し、必要なら売春もさせる……そのつもりだった。「……すみません……すみません……先生、お金がこれしか用意できなくて……」 しかし、女はB型肝炎だ。売春や風俗はもちろん、まともな職場も用意できるかわからない。「……すみません……すみません……先生……」「……困りましたねぇ。お金がなければ宿舎に住まわせることはできませんし……」 神父はそう言って、優しく微笑む。「僕も、みんなも、せっかく出家されたあなたを追放したくはないのですが……」「ああ、それは許してくださいっ! 先生がいなければ……この家がなければ、あたしは生きていけませんっ! ……だから、お願いですっ!」「余計な言葉を言う必要はありません。問題はどうやってカネを用意するかです」「……はい」 追放という言葉が相当にこたえたのだろう。女は消え入るような声で素直に答えた。 神父は満足して言葉を続ける。「では、こうしましょう。名古屋近郊の宗教団体の幹部に近づいてください。そこで幹部と性交渉をして、あなたの肝炎ウィルスをバラまいてください」 女の首が微かに上下し、唇が震えるように動く。だが、いつまで待っても女は答えない。「どうしたんです? あなたの信仰心はその程度のものですか? あなた以外の信者の方は今も必死に働いておられます。インターフェロンの注射代くらい、自分で稼ごうとは思わないのですか?」「そんなっ……待って……待ってください……お金なら、《D》に頼んで……今度は実家から何かを持って来て、また売ります……から……ですから……」 女が涙を流しながら首を左右に振る。「《D》ですか……。今回あなたが処分した私物ですが――アレで、いくらでしたっけ?」「はい……2万7800円……です」「ほうっ!」 意外な数字に驚いた声を出す。「驚きましたね。あなたの私物でまだそれほどのモノが残っていたとは。僕も見る目がない」 神父は自嘲気味に笑い、傍らに置いたワインを飲んだ。「……お金が必要だと言って、高額に査定してもらいました……」 呟くように女が言う。「へぇ……」 瞬間――神父の脳裏に邪悪な計画が浮かび上がった。瞬時に計算し、計画を練る。けれど、それを誰かに話したり、伝えたりする気は皆無だった。ただ――とりあえず、この女の処分は決定した。「……我らが教えを連想させる会話は厳禁と言ったでしょう? ……今月は特別に許してあげますが、罰は受けてもらいますよ?」 神父はそう言って、また優しく微笑む。「さて、服を脱いでください」 女は涙の溢れる目に凄まじい恐怖を浮かべ、途切れ途切れの言葉を発する。「……お許しを……どうか……どうか……先生……」「ダメです」 そこまで言ったところで――神父は女の髪をぐっと鷲掴みにし、別室へと連れて行く。「いやっ! いやあああああああーっ!」 恐怖と怯え、羞恥と屈辱、若い女の目には、それらがないまぜになって混在している。まるで何かに憑かれたように叫ぶ女を見て、神父は笑った。ただ――笑い続けた。 ひとつだけ、はっきりさせておこう。 ――僕は外道だ。人に光を与えることもしないし、人を導くこともしない。 ただ、どこかの聖者のマネをするのが好きなだけだ。 目的ですか? ――カネのためです。それ以外の理由なんて、それ以上に大切なモノって、ありますか? そう。 自分の行為を正当化する理由はひとつもない。そんなものは、欲しくもない……。 そうだ。 僕は新興宗教《A》の神父であり―― ――卑劣な詐欺師。それだけだ……。ただ、それだけのことなのだ……。―――――『転成するD!』 中に続きます。 今日のオススメ。新曲? →シュガーソングとビターステップ /UNISON SQUARE GARDEN 結構有名らしいスね♪ →天国と地獄 /UNISON SQUARE GARDEN こりゃ女性にモテるわ! →オリオンをなぞる LIVE /UNISON SQUARE GARDEN UNISON SQUARE GARDENさん↑ 職場のバンギャルにオススメを聞いたところ、 『絶対にイイ』そうです。seesの趣味ではないけれど……エエ感じのバンドですね。 それなりに時間使って試聴しましたが、うむむ……ベース担当の方が上手ですね。 リズムとテンポの調整、演奏におけるパフォーマンスが他のふたりと比べてもレベル が少し違います(別に辛口きどっているワケじゃないす、ただの感想す)。歌詞はセカ オワ風でややファンタジー……ちょっと軽いかな。そんな感じス。よろしければ、どぞ。 お疲れサマです。seesです♪ 最初に伝えておきますが、今作は、いつにもまして、遊びです。次回の短編へ向けての助走、煽りの3話目的のショートですww予定ですがww 盆が終わり、夏が終わり、休みも取れやすくなったので更新頻度とフォロワー様方への訪問もしやすくなるかと思います。今後とも、よしなに……。 さて、今話は設定使いまわしです(笑)。しかも《D》の人物の登場は未定です。そして……タイトル考えるの、ツライ💦 補足すると、『転生』と『転成』は意味が少し違いますからね~……コレ誤字じゃないスからねwww はぁ……駄文、失礼しました……。 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 ↓UNISON SQUARE GARDENさんのアルバムす。よろしければ試聴だけでも、どぞ~。 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『教えたいコト💓』 sees 「お邪魔しま~す(^^♪」 友&友妻 「seesく~ん、久しぶり~」 sees 「いや~、最近忙しくってさ~……もう死ぬかと……凹((+_+))」 友妻 「あっそうだ~っ、ブログ見たよ~(^_-)-☆ めっちゃオモロイね(棒)」 sees 「いやいや~褒められちった。(*''▽'')テヘヘ」 ――そう。 そんな和やかで、平和で、オマケに作る価値もない、そんな風景が2時間 ほど過ぎた時――……。 友息子 「ねーねー……seesたん、トランプちよ~」 友娘 「ねー……」 sees 「もっちろんっ!!(めんこいの~)」 友&友妻 「じゃあ、ウチら晩御飯作ってるね~……sees君、よろしく~( ^ω^ )」 sees 「(ブ)ラジャー!! さて、何をするか……何を教えてあげようか……」 友息子 「何する~?? ババ抜き~??」 友娘 「……る~??」 ふと――seesは思った。 この、無垢で愛らしい子供たちのために、何を教えてあげられるのか……。 seesは考えた。考えて、考えて……決断した……。 よし。彼らの将来、きっと役に立つコト、これは……ワシに与えられた使命 なのだ……。 ………… ………… ………… 友 「どれどれ~3人とも~、何をしているのかな~?」 友妻 「sees君ゴメンね~。ふたりがワガママ言っちゃって……」 友息子 「やたー、次ボクがバンカーね」 友娘 「じゃアタチがプレイヤーねー」 sees 「よし、ワシが客(勝敗を予想する)で、次は100万ベッドしようかな(笑)ムフフノフ」 友&友妻 「………な、なにを……して、いるの?? ( ・´ー・`)マサカ……」 sees 「ん? じゃーふたりとも、せーので言うよ~(^_-)-☆ さん、ハイッ!」 息子&娘 「バカラーッ!!」 瞬間―― 友と友の妻の髪が黄金に輝き、体全体が光のオーラに包まれた!! seesは頭上から来る強烈な殺気に、背と顔が猛烈に震えた。 友&友妻 「バカ野郎っ!!💢 何教えてやがるんだよぉぉっ!!💢 seesぅぅぅっ!!💢 ブチ殺すぞっ!! ( ゚Д゚)オラー💢」 sees 「ひっ……ひぃぃぃぃっ……」 ……ダ、ダメなの? ブラックジャックの方が良かったの? 誰か……誰か…… ワシに……答えを……教えて……だ……れ、か……助けてよぉ😢」 ♦♥了♠♣
2017.08.29
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ss一覧 短編01 短編02――――― 数年前に事故で亡くなった、妻の連れ子を名乗る者からの電話を受けた数日後、男は自宅から100mほど離れた古い民家の玄関の前に立っていた。 ……驚いていた。妻の気がヘンになり、男自身にもその兆候が見えはじめたきっかけとなった――電話の相手の住居は、自分の家のすぐ近所であったのだ。 ここ数日間、妻の奇行は相変わらずだった。家のパソコンやスマホで子供服を買い漁り、それを咎めると外に出て買い物を繰り返す。理由を聞いても『ごめんなさい……ごめんなさい……』と同じ言葉を繰り返すばかり……。 もちろん、妻から電話もパソコンも携帯電話も財布すらも取り上げてしまうことはできた。半ば強制的にどこかの施設に押し込めることも簡単だろうとは思った。けれど、男はそういう決断ができなかった。……せめて、この電話の正体を知っておきたかったからだ。 男は無意識に唇をなめた。そして、もう一度、目の前に建つ不気味な家に視線を投げかけた。不気味な家……それは確かに不気味な家だった。ほとんどの窓が鎧戸で塞がれており、鉢植えは汚く、狭い庭では雑草が伸び放題になっていた。「……こんな家に、住んでいるヤツがいるのか?」 囁くように、男が呟いた。知人の保険調査員に相談し、謝礼金を支払ってまで調査してもらった結果――この住居には2人暮らしの老夫婦がおり、自宅に……それも昼夜問わず、妻に電話をかけているらしかった。 男は、腰の高さほどの門を抜け、枯れたツタの這う家の外壁をそっと見まわした。電気のメーターが回っているのが見える。そう。いるのだ。妻をたぶらかし、夫である自分をあざ笑った『何か』がいるのだ。 玄関戸の脇にあるインターホンに指を伸ばすと、どこからか――湿ったカビ臭い空気がふわりと溢れ出た。瞬間、男はそこに漂う空気の不気味さにたじろいだ。 すえていて、湿っていて、冷たくて……とてつもなく不吉で、とてつもなくおぞましい空気の塊。それがその家の中に、どんよりと溜まっているように感じたのだ。 ……イヤだ。帰りたい。 男は強く思った。 数日前の夜と同じ――男の意識の底に眠る原始的な遺伝子が、その家に関わることを拒絶していた。だが……ためらっているわけにはいかなかった。 とにかく、このふざけたイタズラをヤメさせて、妻を少しでも以前の状態に戻すまでは……何としても……何とかしなければ……。 その思いが、男の指を動かした。―――――『ピーンポーン』とチャイムが鳴る。恐る恐る口元をインターホンに近づけると、反応があった。『……はい。どちら様でしょうか?』 それは老婆の声だった。男は一瞬だけ躊躇し、それから、囁くように、「……と申します。妻との電話の件でお話があります……今から少し、よろしいでしょうか?」『……はいはい。鍵は開いていますので、そのままどうぞ、お入りください……私は居間のほうにいますので……』 インターホンの向こうで老婆がおかしそうに笑った。 突然訪ねた見ず知らずの人間を家の中に招き入れ、居間まで来てくれと言われたのは常識的に考えても、普通ありえないことだった。けれど……冷静さを欠いていた男はそんなことにさえ気づかなかった。 男は戸を開いた。カラカラと音が鳴った。瞬間、すえたような臭いが家の中から溢れ出た。「……ひどいな」 右手で鼻を押さえて男が言う。「……掃除もしていないのか?」 躊躇ってから靴を脱ぐ。したくはなかったが、するしかなかった。そう。板張りの床は埃まみれで、靴下がすぐにでも真っ黒になってしまう気がしたから。 時間はまだ夕方であるはずなのに、ほとんどの窓が鎧戸で閉じ塞がれているせいで、家の中はとても暗かった。窓や戸の隙間から差し込むわずかな光が、弱々しく辺りに漂っているだけだった。 土間に立ち、右手で鼻を押さえたまま、男は家の中を見まわした。 すぐ左側には2階へと通じる狭くて急な階段があった。天井が低く、2階の様子はまったく見えない。家の壁はどこも薄汚く、埃が張り付いていた。微かなカビの臭いと、糞尿のようなアンモニア臭もした。 ……ペットでもいるのか? ……糞の始末くらいしておけよ。 心の中で呟きながら、男は玄関の右奥にあるガラス戸を見つめた。「失礼しまーす……そちらの部屋でよろしいでしょうかーっ」家の奥に向かって、半ば叫ぶように言う。「そちらに向かいますねーっ」 もう一度呼びかける。 その時――。 家の奥のほうから、無機質な機械の音が鳴り響いた。 ジリリリリリリリリリリリーン! ……ジリリリリリリリリリリリーン! 電話? 不審に思いながら廊下を進む。体重を受けた床板が、ギシッ、ギシッと、不気味な音を立てて軋んだ。 ジリリリリリリリリリリリーン! ……ジリリリリリリリリリリリーン! 音は廊下の奥のほうから聞こえて来る。現代では考えられない、古いタイプの電話機の呼び出し音だ。 電話には出ないつもりなのか? ……どうして? 自分の足が小刻みに震え始めたのを男は知った。足だけではない。手も腰も首も、肉体のすべての部分が震えていた。 今すぐに帰りたい。男は思った。今、再び、男の中に眠る遺伝子が、その廊下の先にある凄まじい恐怖を予感させていた。男に『帰れ』と命令していた。 ジリリリリリリリリリリリーン! ……ジリリリリリリリリリリリーン!『帰れ……帰れ……帰れ……帰れ……』 ……帰りたい。……もうイヤだ……今すぐに帰りたい……。『帰れ……これ以上進むと……危険だ……ここには、何かが、いる……』 けれど、男は帰らなかった。妻と生涯を支え合うと誓った責任感が、帰りたいという猛烈な欲求を押さえ付けた。 電話の呼び出し音は続いている。 ジリリリリリリリリリリリーン! ……ジリリリリリリリリリリリーン! 廊下の突き当りにある部屋へ……ガラス戸を開け、恐る恐る足を踏み入れる。 部屋は和室で、ガランとしていて、家具のようなものは一切なかった。ただ正面に脚の短いちゃぶ台が置かれており―― ……そこに――それは、あった。 ……古い、ダイヤル式の、黒い電話機が――そこに、あった。――――― どれくらいそうしていたかは、わからない。そう。姿の見えぬ老婆を待ち続けたのは、ほんの数秒か、数分なのか……わからない。時間の感覚が無意識に歪んでいた。 ……トイレだろうか? あの老婆はどこに行ってしまったのだろうか? そして……俺はどうすればいいのだろう? 男は自分自身に聞いた。 何を怖がっている? おいおい、バカじゃないのか? さっさと電話に出て、相手に折り返し連絡するよう伝えるだけじゃないか。 男は、ついに、制止する遺伝子の警告を振り払い、畳の上に腰を下ろし……ゆっくりと、鳴り響く電話機の――受話器を――手に持ち上げた。「もし、も……し?」 唇を震わせながら電話に出る。「この家の主人ですが……ただ今……席を外してまして……」『あ~……? はいはいはいはいはい……』 ――えっ? 背筋が一瞬にして凍りついた。『そうなんですよぉ……ワタシも知らないんですよぉ……お客さ~ん……』 それは女性の声だった。短いが、ついさっき、インターホンで会話したばかりの女性の、しわがれた、老婆の声だった。「ひっ」 わけがわからず、男は息を飲んだ。『ウチの主人がぁ、どこに行ったかぁ、知りませんかぁ?』 ……わからない。どういうことだ? ……あの老婆は、どこへ? どこから? ……何のために?『久しぶりのお客さまだで……お茶でも入れたいのじゃけどぉ……こんな体でぇ、申し訳ありませんで……』「……こんな……からだ?」 老婆の言葉の意味を、必死に考えようとした――その時だった。男は急に視線を感じた。 見ている。 誰かが見ている。 誰かが俺を、じっと見つめている。 そっと首を動かし、室内に視線を泳がせる。物音ひとつしない室内に、人のいる気配など微塵も感じることはできなかった。 それにもかかわらず、『見られている』という感覚は消えなかった。 そっと唇をなめた後で、男はもう一度、室内を見まわした。そして、男のすぐ背後の、薄暗い和室の隅で――自分を見つめているふたつの目に気がついた。 あっ。 瞬間、あまりのおぞましさに――男は息を止めた。受話器を放り投げ、慌てて後ずさる。 視線を向ける目とは――和室で首を吊った老婆からのものだった!「ひっ、ひいいっ!」 天井に向けた顔は、なぜか眼球だけが下を向き、男をじっと見つめ続けていた。老婆の股間からは黒く濁った体液が滴り落ち、畳をドス黒く染めている。 ちゃぶ台に落ちた受話器から、老婆の無邪気な笑い声が響いた。『いひひ……もう一週間戻って来ないんですよぉ……。お客さ~ん……ウチの人、どこに行ってしまったかぁ、知りませんかねぇ? ひひ……しかたないヒトですよねぇ……』「うわあーっ!」 凄まじい悲鳴を叫び、男は無我夢中で飛び出した。――――― 玄関のドアを施錠し、ドアチェーンを掛ける。一呼吸でキッチンに辿り着くと、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して飲む。 乱れた呼吸を整えながらテーブルにスマートフォンを置く。瞬間、男は、あの民家の和室で首を吊った老婆の皺だらけの顔と目を思い浮かべそうになり、慌ててブルブルッと首を振った。 ……意味がわからない。ウチの娘……死んだハズの娘の名を名乗るヤツが――見知らぬ者で――老婆で――既に死んでいる? あのインターホンは? あの電話は? あの声は?あの家の主人はどこに行った? そう。ワケがわからなかった。……錯覚だ。……夢だ。そうだ。そんなことがあるわけがない。ありえないんだ。……しっかりしろ。錯覚。そう。俺の錯覚に決まっている……。 口元に残る水滴を袖で拭い、冷蔵庫にミネラルウォーターを戻す。その時、隣室から男を呼ぶ声がした。一瞬、躊躇し、それから声のした方向に顔を向ける。小さな声で「……ただいま」と応える。「おかえりなさい……あなた……。どうしたの? ひどく疲れているようだけど……」 妻の声を聞くと、体の底からじわじわと安堵感が湧き上がって来るのを感じた。気のせいか妻は、ずっと昔の――結婚した当初のような穏やかな表情をしているように見えた。「ああっ……ああっ……ああああっ!」 男は立ち上がり、声にならない声を上げ、妻の体を抱き締めた。体中の筋肉が弛緩し、涙が滲むのがわかった。「……? どうしたの突然……本当に、大丈夫?」 妻を抱き締めていると、今日あった様々な事柄を、冷静に考えることができそうだった。 死者からの通信――。 今になっても男には、そんな非科学的なことを信じることはできなかった。けれど、心のどこかで『もしも』とも思い始めてもいた。 もしも……死者の世界が実在していて、死者は互いに交流ができるとしたら? もしも、死者との通信ができるとしたら? もしも……死者は生者に何かを語りたいとしたら?……無意識のうちに、生者は死者に人生を介入されている、そういうことがあるのかもしれない……。「……キミの話を、もっと真剣に聞いてみることにする。娘のこととか、あの電話のこと、買い物のこと……頭から何もかも否定するんじゃなく、もう少し……例えば――そう、いろんな可能性とか……これからのこととか……とにかく、キミの話を聞き直したいんだ……」 抱き締めていた腕を離すと、妻は少し不思議そうな顔をした。たぶん、俺の言うことが信じられなかったのだろう。「……ここ数年、俺はキミに対してひどい扱いばかりしてきた……許してほしい……」 妻がどうしてこういう状態になったのか? もう一度、ふたりで深く考えてみたかった。それだけは、その思いだけは、本当に本心からのものだった。 「わかったわ。それじゃあ、明日、ふたりであの子のために、何かカワイイ服でも買いに行きましょうね」 幼い子をあやすような口調で妻が言った。「……俺と、話をしてくれるのかい?」「うん。約束する。だから、私もう、寝ていい?」 そう言うと、妻は男の頬に唇をあて――微笑んだ。――――― 妻はすぐに眠ってしまった。 けれど、男は眠れなかった。部屋のどこからか、あの忌まわしい老婆の目が自分をのぞき込んでいるような気がして、どうしても眠ることができなかった。 来る。 あいつは、また、必ず、ここに電話を掛けてくる。 男はそれを確信していた。その証拠に……ほら。 プルルルルル。プルルルル……。 予感した通り、『何か』からの電話を告げる機械の音がした。 そうだ。すべての原因となる理由が、この電話の相手に秘められていた。 心臓が狂おしいほど激しく、息苦しくなるほどに高鳴っていた。 何度も躊躇った末に――男は受話器に手を伸ばし、それを掴んだ。 男は思った。 決別させなければならない……。ここで、断ち切らなければならない……。 理由を、意味を、必ず問いたださなければならない……。それが、妻のため、自分のため、過去に生きた娘のため、これからの未来のため……。 そう。恐怖と戦う覚悟は、できていた。―――――『何か』は何も考えてはいない。『何か』は個人ではないし、集団でもない。『何か』の正体は何者でもないし、将来的に何かになるわけでもなかった。『何か』は声を誰かに伝えることはできるけれど、その声を聞いた者がどういう顔をしているのか、どういう行動を取るのか、そういうことは知らなかった。『何か』は『何か』の声を、『何か』と関係したものにだけ発するだけ。『何か』が欲しているものを教えたり、『何か』が探している人を教えたり、『何か』が『何か』になってしまった理由を教えてあげるだけ……。 この男は、『何か』が『何か』になってしまった理由を知りたそうだったので、教えてあげただけ。その後で――この男がどうなったのかは、知らない。 そう。『何か』は教えてあげただけ。『何か』の母親は夫である男が大好きで、ふたりきりで暮らしたいと願ったこと。一方で、『何か』は母に嫌われており、事故を装って殺されちゃったこと。 男は働き者ではあったけど、それと同じくらい遊ぶのも好きであったため、『何か』の母は精神疾患のフリをして、男からの愛と生活を独占したいと願ったこと。『何か』と電話していた時の母は、『何か』が消えてくれて嬉しいと言ったり、夫に叱られたり怒られたりするのが嬉しくて楽しくてしょうがないと言っていたこと。 男は――呻いたり、怖がったり、声を震わせていたようだけど、『何か』には関係なかった。ただ、『何か』の母が『何か』に伝えたことを伝えただけだ。 もしも、今のこの生活が終わりになるようであれば――『何か』の母は夫である男を殺してしまう。 夫が死ねば、『何か』になるだけだから、と言っていた。 そこまで男に伝えたところで――電話が突然切れてしまった。 理由はわからない。『何か』の存在する理由のように、男の身に何があったのか、『何か』は知らない。『何か』は考えた。 でも、『何か』は何も知らないのだ。 誰か……教えてくれるのだろうか?――――― 了 今日のオススメ。代表曲? → ウミユリ海底譚/ ナブナ feat.初音ミク 切なくて、悲しい曲すね… → アイラ/ ナブナ feat.GUMI ナブナ氏結成のバンド曲! → 言って。/ Yorushika n-buna(ナブナ)さん。↑はジャケ写。ボカロの有名P。ボカロPには珍しく、ギターサウンド中心の楽曲多し。情景や心理描写、童話をテーマにしたりと男性よりも女性向き? 女性ボーカルsuisを迎えてのバンド、『ヨルシカ』もイイ! 美しい人間ボーカル(笑)に合わせた楽曲と歌詞とPV。かなり文学的な作りというか、世界観がとにかく美しい……。一度だけでも、どうぞ🎵 お疲れサマです。seesです♪ 更新すごーく遅れて申し訳ないス……仕事が……用事が……遊びが……休みが……微妙。 はいっ! ワケわからない話、ですね~wwwwすいません。なんせ、seesにもワケがわかってないのです。……誰か、教えてくれませんかねww 今回は特筆するべき事項なし。適当に文面考えただけ。無許可のノベライズに近いから余計に手ぇ抜いた感だけが残りました……。しっかし……ノベライズもどき作業って久しぶりだけど、結構楽しいスね。『世にも奇妙』のDVD、また借りよかな……(*´σー`)エヘヘ😊 次回は……どうしようかな……早めの更新にはなると思います。テーマは……『愛』かなww でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたします。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 ↓n-bunaさんPのオリジナルボカロアルバム、おすすめっス。n-bunaさんPのバンド↓『ヨルシカ』 こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング 好評?のオマケショート 『緊急ミッション! 怠慢を隠蔽せよ!www』 sees 「そらへまーう、せーかいのかなたぁ~🎵 やみをてらすぅかいせいぃイェ~イ、ェェ🎵」 seesは出先である東海市から名古屋市の本社へと帰社する車内でひとり、歌っていた。 スマホから流れる神曲『アスノヨゾラ哨戒班』を真剣に、何度も、ひたすらに……。 sees 「ねがったんなら🎵、かなえてしまえやぁ~🎵 って、EEE~🎵」 ……この時間帯じゃ南区は渋滞だな……別に早く帰る理由もねえし……港側回って 中川区から行くかな……。 そう。渋滞はイヤなのだ。それよりも、海を眺めながら歌っていた方が気分もイイ。 当然だ。当然の選択だ……。しかし……。 運命は――……。 突然に――……。 あっけなく、狂った。 ……パンッ! プススゥゥゥ~~ンン……。 sees 「みらいを🎵、すこしでもキミといたいから🎵~~叫ぼう~……何だ??」 ――異変。 すぐに近くのダイソー木場店の駐車場にて確認してみる。 ………?? ………!! あわわ……あわわわ……。 そう……愛するバネット14号の左前輪タイヤが……ペッタンコになっていたのだっ!!! sees 「ギャアァ――――っ!!! 14号ぉぉ―――――っ!!!」 seesは真昼のダイソーの駐車場の片隅で、愛する者の名を、叫び続けた……。 sees 「……畜生っ、畜生畜生畜生っ―――!!! なぜだっ! なぜ……」 seesは思い出していた。自身が運転して来た道を……そう。名古屋の港区と言えば―― ザ・超工業地帯――。 くうっ……工場の鉄粉か……金属片か……クソッ……ト〇タ系の部品工場……東レ系 ……NTN系……三菱系……愛知製鋼……クソックソッ……犯人は(?)誰だよぉぉ。 こんな、こんな残酷なコトしやがってぇぇぇぇ………(´;ω;`)シクシク……。 ……… ……… ………エネオス「ういっスッ!……タイヤ補修(溝の穴ポチを埋めて空気入れただけ)で、2500円っス (^^)/ニカ」 sees 「ういっスッ! エネオスカードで♪(Tポイントもしっかりな😊)」 ……危なかったぜ。タイヤのバーストなら始末書モンだからな( ^ω^ )ウヒヒ。 ミッション――コンプリートww ――皆様も、工業地帯を走行する際は注意してね🎵 了🚗🚙≡≡3
2017.08.22
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