二万マイルの自遊時間♪

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2008年10月1日社説(朝日・日経・読売)



米金融法案否決―世界への責任を自覚せよ 世界の金融史に残る動乱の9月。その大詰めに、とんでもないどんでん返しが控えていた。米議会下院が、7千億ドル(約75兆円)の公的資金で銀行・証券の不良資産を買い上げる金融安定化法案を否決してしまった。

 危機の連鎖を恐れた世界中の株式市場は総崩れとなった。

 同じ日に欧州でも銀行の国有化が相次ぎ、危機が広がっていた。信用不安から、金融機関の間でのドル資金の貸し借りが世界的にマヒしているため、日米欧の中央銀行がドル供給の追加を表明した直後の否決である。世界経済は恐慌という地獄のふちに立っているといっても過言ではない。

 法案をこのまま葬れば、世界の金融システムは大混乱に陥る恐れがある。米国の政府と議会は、その責任を自覚すべきだ。ここは何としても法案の修正をまとめ、今週中に成立させてもらわなければならない。

 もともと金融安定化法案のとりまとめは難航を極めていた。ブッシュ大統領は政権末期で指導力を失っている。しかも、大統領と同時に改選される下院の議員たちは「大もうけしてきたウォール街を税金で救うのか」という有権者の手厳しい批判を受けて、公的資金反対に傾いていたからだ。

 応酬の結果、法案には条件が幾重にもついた。2500億ドルをまず使い、政府の裁量で1千億ドル積み増せるが、残る3500億ドルは議会の承認を必要とすることになった。制度を利用する銀行・証券の経営陣には高すぎる報酬を制限する条項も入った。

 それでも有権者の多くは納得せず、各地で反対のデモが続いている。下院の採決では、大統領の「身内」である共和党の7割近くが反対し、民主党も4割が反対に回った。

 税金の投入をおいそれとは認められない米国民の気持ちはよく分かる。10年ほど前に金融危機を経験した日本でもそうだった。

 とくに米国では、市場万能主義や金融肥大が極端に進み、貧富の格差も日本の想像を絶する。ウォール街に対する国民大衆の怒りやうらみは、かつての日本より激しい。さらに米国には伝統的に、政府は企業活動に介入や支援をすべきでないという考え方があり、とりわけ共和党に強い。

 そこまでしなくても何とかなると楽観しているのかもしれない。しかし巨大なバブルがはじけた以上、金融システムを守るには、結局は公的資金を使わざるをえない。ウォール街のためではなく、国民経済を守るためである。国民を納得させるのは困難な仕事だが、安定化策は時間との勝負だ。

 大統領選まで1カ月余り。米国の政治は難しい過渡期にあるが、大統領と議会の指導部は、議員と国民の説得に全力をあげてほしい。

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日本経済新聞

社説 米国は金融恐慌回避へ責任ある行動を(10/1)
 世界の市場関係者があぜんとしたのではないか。米下院は29日、深刻化する金融危機に対応して打ち出された米金融安定化法案を否決した。市場の混乱を深め、世界的な金融恐慌を招きかねないという認識がまるで欠けた無責任な行為である。

 米政府と議会は、公的資金を使った不良資産の買い取りという大枠を維持しつつ、速やかに修正法案をまとめ、成立させるべきだ。日本政府も米国に対して強い危機意識を明確に伝えるべきだろう。

市場の不安感を増幅

 世界はいま金融恐慌寸前にあるといっても言い過ぎではない。

 米証券会社のリーマン・ブラザーズの破綻を機に、米欧では金融機関の破綻や救済が相次いでいる。金融機関が短期の資金の貸し借りをする市場もマヒ状態にある。日米欧の中央銀行が巨額のドル資金を大量に市場に供給しているのはそのためだ。公的な支えをはずせば、その瞬間に金融市場が崩壊してしまうような状況なのだ。

 その直接的な原因は信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の膨張にあり、価値が急落した住宅関連の証券を大量に抱えこんだ金融機関への信認が崩れていることが危機をもたらしている。こうした不良資産を公的資金を活用して金融機関から分離し、市場の不安感をぬぐうことに今回の金融安定化法案の狙いはあった。

 現在進行している金融危機を放置すれば、ウォール街だけでなく、企業や家計にも深刻な影響が及ぶ。経済を支える金融という大動脈がつまったままでは、世界経済は計り知れない打撃を受ける。法案の否決で、世界の市場の不安を増幅してしまった米下院の責任は極めて重大だ。

 法案への反対の背景には、巨額の富を得ているウォール街の金融マンをなぜ助けなければいけないのかという国民感情がある。「政府は市場に介入すべきでない」という共和党保守派に根強い思想も反対論につながった。

 金融危機時に政府が前面に出ることについては、経済活動に対する一般的な政府の介入と分けて考える必要がある。金融システムが危機に陥ったときは、介入を遅らせれば遅らせるほど、問題は雪だるま式に膨らみ、納税者の負担も結果的に拡大する。それが不良債権問題で苦しんだ日本の「失われた10年」から得るべき教訓である。

 米国の政治指導者は今回の対策が守ろうとしているのは金融システムであり、ひいては人々の生活であることを勇気を持って国民に説くべきだ。ブッシュ大統領は30日、改めて法案の早期成立を訴えたが、大統領選挙を戦う民主党のオバマ候補、共和党のマケイン候補が声をそろえることも重要だ。

 否決された法案の行方は今の段階ではわからない。米政府や議会指導者は法案の修正を急ぐとしている。ただ、修正案ができても反対に回った議員らは簡単に賛成しない可能性もある。修正が大幅になり、金融機関の不良資産の切り離しが進みにくい内容になる心配もある。

 そうなれば、世界の金融資本市場の混乱は続き、金融機関の破綻が加速する恐れがある。米連邦預金保険公社(FDIC)は経営不安に陥っていた大手米銀のワコビアをシティバンクに救済させる措置を取った。問題銀行の整理が進むこと自体は悪くないが、もぐらたたきのように個別金融機関の問題処理に追われている限り、市場の不安は収まらない。

世界的危機に備え必要

 ここまで事態が深刻化すれば、日本経済への影響は免れ得ない。米国など海外からの逆風に対して十分な備えをする必要がある。

 一つは、日本の金融市場の混乱を防ぐことだ。日銀は各国と協調してドル資金の供給を増やしているが、事実上マヒ状態にあるドルの銀行間市場の影響が円の市場にも本格的に及ばないよう警戒を強めるべきだ。

 日本の景気への影響にもよく目を配らなければならない。米国向けの輸出減少で鉱工業生産はすでに落ち込んでいるが、この傾向がしばらく続く可能性が大きい。日本の金融機関の間でも、世界的な株価下落や景気悪化を受けて貸し出しに慎重になるところが出ている。

 政府が先にまとめた総合経済対策の内容は問題点が多いとはいえ、ある程度の景気下支え効果は期待できるだろう。解散時期では様々な議論があるが、対策を反映した補正予算は成立させたうえで、総選挙に臨むべきではないか。

 米国の金融安定化の速度など不透明な部分は多く、今の段階で世界経済や日本経済の先行きを占うのは難しい。中長期的に日本の成長力を高めていくという改革路線をしっかりと堅持しつつ、景気の変化に合わせた手を打つという柔軟な姿勢で対応すべきである。

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読売新聞

米国発金融危機 米政府と議会は迅速に動け(10月1日付・読売社説)
 世界経済は恐慌の瀬戸際、という声さえ出てきた。米国発の金融危機はなんとしても抑え込む必要がある。

 米国政府と議会は、サブプライムローン問題の“震源地”として、責任を自覚してもらいたい。金融安定化法案の成立を急ぐべきだ。

 29日のニューヨーク株式市場の株価は、前週末比で777ドル安と急落した。2001年9月の同時テロ直後をしのぐ過去最大の下げ幅だった。

 株安は世界に波及し、30日の東京市場の株価も500円近く値下がりした。アジア、欧州の株価も軒並み大幅に下落した。

 世界の連鎖株安に、いつ歯止めがかかるのか。外国為替市場ではドルが売られ、ドル安・円高が進む。ドルの信認が揺らぎかねない事態だ。

 ◆法案否決が株急落招く◆

 市場の大混乱を招いたきっかけは、米国の金融安定化法案が、大方の予想に反し議会下院で否決されたことだ。

 法案は、米国政府が金融機関の不良資産を公的資金で買い取り、危機を防ぐのが目的だ。

 政府と議会が法案の修正で合意し、すぐに可決・成立するはずだった。しかし、ブッシュ大統領の与党である共和党議員らが、税金の投入に反発して大量に造反し、否決してしまった。

 市場の期待が裏切られた形だ。失望感が広がり、パニック的な売りを招いたのも当然だろう。議会の責任は極めて重い。

 11月の大統領選と議会選を控えて、議会では、保身の思惑絡みの駆け引きが続く。世界の金融システムが危機的状況にあるという認識が不足しているのでないか。政府と議会は、法案協議を仕切り直しする見通しだが、今のところ、事態は流動的だ。

 日本では、バブル崩壊後に金融システム不安が起きた時、公的資金の注入が遅れ、金融不安と景気後退を長期化させた。その日本を教訓とし、米当局は素早く対応しなければならない。

 大統領候補の共和党のジョン・マケイン、民主党のバラク・オバマ両上院議員も、議会に協力を促すべきだ。

 金融安定化法案をめぐる政府と議会のギリギリの調整が続いている間にも、金融危機は深刻化しつつあった。

 ◆欧州にも危機が飛び火◆

 経営難に陥った米大手銀行ワコビアは29日、大手銀行シティグループに救済合併されることになった。欧州にも危機が飛び火し、イギリスやオランダ、アイスランドなどで、中堅銀行の一部国有化などが決まった。

 欧米などの短期金融市場では、資金需給が逼迫(ひっぱく)し、資金調達に苦しむ金融機関が増えている。

 危機の連鎖が止まらないと、大恐慌以来の事態を招きかねないとの指摘が現実味を帯びてくる。

 金融不安が米国の実体経済を冷え込ませ、金融の混乱にさらなる拍車がかかるとの見方も強い。

 各国の金融当局は綱渡りの対応を迫られている。

 米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀などは、ドル資金を自国市場に大量に供給する協調策を拡充した。金融機関の資金繰りを支える強い決意を示すものだ。

 だが、問題は、米国の住宅価格が下げ止まらず、値下がりした証券化商品を抱える金融機関の損失が拡大し、経営体力を消耗していることだ。金融機関の自己資本の増強にも公的資金を使うべきだ、との声が強まっている。

 各国当局は連携をさらに強め、あらゆる政策を総動員して、市場の安定化を図らねばならない。

 ◆冷水を浴びた日本経済◆

 金融危機の拡大と世界的な市場の混乱は、景気の後退色が強まり「カゼ気味」だった日本経済に冷水を浴びせている。

 このところの景気の退潮は、30日に発表された8月の経済指標を見ても明らかだ。

 鉱工業生産は過去最大の落ち込みとなり、家計の消費支出は6か月連続マイナスだった。失業率も4・2%と、約2年ぶりの高水準まで上昇した。

 株価の下落や円高・ドル安の進行などマーケットの波乱も、投資や消費の意欲を萎(な)えさせる。

 日銀はリーマン・ブラザーズが9月中旬に破綻(はたん)してから、20兆円を超える資金を市場に追加供給した。それでも外資系銀行などの資金繰り不安は根強い。金融システムのマヒを防ぐため、柔軟で機動的な政策運営が必要だ。

 まずは、景気悪化の痛みを和らげる狙いで策定された総合経済対策を実施するため、補正予算の成立を急がねばならない。

 党利党略で法案を否決し、混乱に輪をかけた米議会の轍(てつ)を、日本は踏んではなるまい。

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