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2026.08.11
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『孔明と一杯 ~三国志に学ぶ現代リーダー学~』

孫権仲謀編 第一話

第十杯

人が違えば、育て方も違う

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

俺は卓上の壺へ手を伸ばしました。

「では孔明先生、次は九杯目でしたっけ?」

孔明が、少し呆れたように俺を見ます。

「我が君」

「十杯目ですぞ」

「あれ?(笑)」

孔明も笑いました。

「随分と酔いが回ってきたようですな」

「九杯も呑んでりゃ、そりゃ酔いますよ(笑)」

俺は笑いながら壺を傾けました。

ところが――。

「あれ?」

一滴も落ちてきません。

孔明が空になった壺を見て笑いました。

「我が君。杯数だけでなく、先ほど呑み干したのも忘れましたか(笑)」

「これは失礼(笑)」

俺は空になった壺を置き、店主へ声を掛けました。

「孫権殿、もう一壺お願いします」

孫権がこちらを見ます。

「まだ呑むのか」

「あと少しだけ(笑)」

孫権は笑いながら、新しい壺を卓へ置きました。

俺は新しい酒をお猪口へ注ぎます。

「ですが、今宵は孫権店が最後になりそうですね」

孔明もお猪口を手に取りました。

「ですな」

「さすがに三軒もはしごすれば、夜も明けましょう」

二人で再び、お猪口を合わせます。

孫権店――十杯目。

もう少しだけ、

この店で「人」の話を肴に呑んでいきましょう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

孔明がお猪口を置きました。

「しかし我が君」

「先ほどは、人を育てるには、教える側も人の育て方を知らなければならないという話でしたな」

「そうですね」

「では――」

孔明が続けます。

「その教え方は、誰に対しても同じなのでしょうか」

俺は首を横に振りました。

「いや」

「そこがまた違うんですよ、孔明先生」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

人は、

一人ひとり違います。

覚えるのが早い人もいる。

時間が掛かる人もいる。

一度やって見せれば、すぐ出来る人もいる。

何度も繰り返して、ようやく身につく人もいる。

言葉で順序立てて説明した方が理解しやすい人もいる。

まず実際にやらせてみた方が、感覚を掴みやすい人もいる。

褒められることで、

「もっと出来るようになろう」

と伸びていく人もいる。

逆に、

少し厳しく言われたことで、

「くそっ、次は絶対にやってやる!」

と奮起する人だっている。

もちろん、第九杯で話した通り、

自分の苛立ちを相手へぶつける「怒る」と、

相手を育てるために「叱る」のは別の話です。

その上で――。

誰に、

何を、

どのように伝えれば届くのか。

そこも、人によって違うんです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

それなのに、

十人のスタッフがいたら、

十人全員に同じ教え方をする。

同じ言葉で説明する。

同じ回数だけやらせる。

同じところまで一気に求める。

そして、

出来る人は出来た。

出来ない人は出来なかった。

そこで、

「俺は全員に同じように教えた」

「だから、出来ない本人が悪い」

となってしまう。

それでは、

人を育てる側の仕事を果たしたとは言えません。

同じことを、

同じように伝えることが、

必ずしも人を育てることではないんです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「孔明先生」

「料理だってそうでしょう」

孔明が俺を見ます。

「ほう」

「食材が違えば、状態も違う」

「大きさも違えば、火の入り方だって違います」

だから、

何も見ずに、

全部まったく同じ時間、

まったく同じ火加減で作ればいい、

というものではありません。

今、目の前にあるものが、

どういう状態なのか。

それを見ながら、

必要なら加減する。

人を育てることも、

それと似ているんです。

相手を見ずに、

自分が覚えてきた教え方をそのまま押し付ける。

そして、

「俺はこれで覚えたんだから、お前もこれで覚えろ」

ではない。

それは――。

相手を育てているのではなく、自分のやり方に相手を合わせようとしているだけ

なんです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

孔明がお猪口を置きました。

「なるほど」

「人を見るとは、能力の高低を見るだけではないということですな」

「そうです」

何が出来るのか。

何がまだ出来ないのか。

どこまでは理解しているのか。

どこでつまずいているのか。

何が得意なのか。

何が苦手なのか。

どう伝えれば理解しやすいのか。

どこまでなら、今の段階で任せられるのか。

そして、

次は何を教えるべきなのか。

そこを見ながら、

教え方も、

任せ方も、

少しずつ変えていく。

目指すところが同じでも、

そこへ向かう道まで、

全員同じである必要はありません。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

そして、もう一つ。

俺は、

全員を同じ人間に育てようとはしませんでした。

全員が俺と同じ動きをする必要なんてないんです。

調理が抜群に速い人もいる。

接客が抜群に上手い人もいる。

新人へ教えることが上手い人もいる。

段取りを組むのが上手い人もいる。

周囲をまとめることが上手い人もいる。

細かなところまで丁寧に仕事をする人もいる。

忙しくなればなるほど、

力を発揮する人だっている。

それぞれ違っていいんです。

むしろ、

違うからこそ、

組織には強さが生まれる。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ただし――。

ここを間違えてはいけません。

「人それぞれなんだから、得意なことだけやればいい」

という話ではないんです。

飲食店で働く以上、

一人の従業員として身につけなければならない基本はあります。

料理を作るなら、

守らなければならない基準がある。

接客に立つなら、

身につけなければならない基本がある。

衛生面にも、

店舗の決まりにも、

守らなければならないことがあります。

そこは、

「個性だから」

では済ませません。

まず、

一人の従業員として必要な基本を身につける。

その土台を作る。

その上で――。

その人が持っている長所を、

さらに伸ばしていくんです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

孔明が微笑みました。

「適材適所、ですな」

「そういうことです」

人を同じ型へ押し込めるのではない。

一人ひとりを見て、

その人が何を持っているのかを知る。

そして、

最も力を発揮できる場所を考える。

さらに、

その力を伸ばしていく。

俺は、これが大事だと考えています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

例えば、

店長一人が、

調理も一番。

接客も一番。

教育も一番。

段取りも一番。

判断も一番。

何もかも一番でなければならない。

そんな必要はありません。

以前の酒席でも話しましたが、

優れた監督が、

すべての選手より、

すべての技術で上である必要はない

のと同じです。

自分より調理スピードが速いスタッフがいたっていい。

自分より接客が上手いスタッフがいたっていい。

自分より新人教育が上手いスタッフがいたっていい。

「この仕事なら、あいつの方が俺より上だ」

そんなスタッフが何人も育ってくれた方が、

店は強くなります。

なぜなら、

店長一人の能力だけで作れる店には、

限界があるからです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

一人の人間に出来ることには限りがあります。

どれだけ経験があっても、

どれだけ仕事が出来ても、

一人で店のすべてを担うことは出来ない。

だから、

人を見る。

得意なものを見つける。

伸ばす。

そして、

その力を活かす。

一人では出来なかったことを、

違う力を持つ人たちが集まり、

それぞれの持ち味を発揮することで出来るようにする。

それが、

組織で仕事をする強さでもあるんです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

孔明は、しばらく考えた後、

静かに口を開きました。

「そう考えると、孫権殿の話へも戻ってきますな」

俺は頷きます。

「そうですね」

孫権は、

人を見た。

そして、

それぞれ違う力を持つ者を用いた。

全員へ同じことを求め、

全員を同じ人物へ作り替えようとしたのではない。

その人物が持つ力を見て、

活かすべきところで活かし、

任せるべきところで任せた。

人が違えば、

活かし方も違う。

育て方も違う。

任せ方も違う。

大切なのは、

全員を同じ人間にすることではない。

その人が持っているものを見つけ、

伸ばし、

活かすことです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

孔明がお猪口を手に取りました。

「我が君」

「十杯目にして、ようやく杯数を間違えましたな(笑)」

「そこ、まだ言います?(笑)」

「人には、それぞれ得手不得手がありますからな」

「じゃあ俺の不得手は、杯数を数えることですか(笑)」

再び二人で笑いました。

俺は二壺目の酒を、

孔明のお猪口へ注ぎます。

人は違う。

だからこそ、

組織は面白い。

同じ人間ばかりを並べる必要はない。

違う力を持つ人たちが、

それぞれの持ち味を発揮する。

その力がつながった時、

一人では決して作れない強さが生まれる。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

俺は自分のお猪口にも酒を注ぎました。

そこで、

ふと思います。

人を見て、

その長所を伸ばす。

自分にはない力を持つ人間を育てる。

それが上に立つ者の仕事なら――。

やがて、

自分より優れたものを持つ部下が現れるのは、

当然のことなのかもしれません。

では――。

その時、

上に立つ者はどうするのか。

「こいつは、自分より出来る」

そう思った時、

素直に喜べるのか。

それとも――。

脅威に感じるのか。

俺がお猪口を口元へ運ぶと、

孔明が、その表情を見逃しませんでした。

「我が君」

「今、何か別のことを考えましたな」

「ええ」

俺はひと口呑んで笑いました。

「でも、それはまた別の肴です」

孔明も笑います。

「なるほど」

「まだ二壺目には酒が残っておりますからな」

「そういうことです(笑)」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

人は、

一人ひとり違う。

覚え方も違う。

得意なことも違う。

苦手なことも違う。

だから、

人を育てる側は、

相手を見なければならない。

全員へ同じ教え方を押し付けるのではなく、

その人に合った教え方を考える。

一人の従業員として必要な基本を身につけてもらった上で、

その人にしかない長所を見つける。

伸ばす。

そして、

活かす。

人を育てるとは、

自分と同じ人間を作ることではありません。

違う力を持った人たちを育て、

その力を組織の中で活かしていくことなのです。

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🍶 孔明語録

「人を同じ型へ押し込むな。その人にしかない力を見つけ、伸ばし、活かせ」

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では、また次の一杯で。

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【次回予告】

部下が育つ。

出来なかったことが出来るようになる。

そして、

やがて――。

自分より優れたものを持つ部下が現れる。

本来なら、

指導者にとって喜ぶべきことのはずです。

しかし、

そこで別の感情が生まれることがあります。

「自分の立場を奪われるのではないか」

「自分より評価されるのではないか」

「自分の存在価値がなくなるのではないか」

育てたはずの部下を、

いつしか脅威として見る。

伸びようとする者を、

上にいる者が押さえつける。

では――。

自分を越えようとする部下が現れた時、

上に立つ者は、

どう向き合うべきなのでしょう。

そこには、

人を育てる者としての、

もう一つの「器」が現れます。

その話を肴に、

もう一杯だけ酌み交わすことにいたしましょう。

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最終更新日  2026.08.11 19:20:06 コメントを書く
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