読書記録館

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スチュワードシップ




「この家は私が大切にしているある方に差し上げるつもりだ。最高級の物が相応しい方だから、最高の仕事をしてもらいたい。」と地主は言った。


そこで大工は設計図を描き、その仕事に必要な人手を雇い入れた。
当時は失業率が高く、未熟練な職人は仕事にあぶれていたため、安い労賃で雇い入れる事が出来た。

その大工は地主から人件費として与えられていたものと、実際の労賃との差額を自分の懐に入れた。そして


「どうせ地主にはわかるまい。それに素人相手に苦労するのはこっちなんだから、このくらい当然だろう」

とつぶやいた。さらに、質の悪い材木や釘を買って材料費を浮かせる事を思いついた。

「羽目板でかくせば気付かれまい」。

かすかな良心の呵責を打消すように、この大工は自分に言い聞かせた。



地主は何度も現場に足を運び、大工の仕事ぶりを監督した。

いつも大工は次の段階ではどれほど素晴らしい工夫を施すつもりかを事細かに説明し、地主の目をお粗末な仕事からそらす事にまんまと成功した。

「もちろん信頼しているよ」と地主は言った。「私が大切に思っている方のために建ててもらっている家だ。君はきっと素晴らしいスチュワード(管理者)になってくれるとね」



まもなく家は完成した。窓枠のゆがみはちょっと見にはわからず、壁の傾きも壁紙でごまかした。

生乾きの材木で作られた窓枠は羽目板で覆い隠された。大工は地主を呼び、「完成しましたから、例の大切な方に差し上げて下さい」と告げた。


気前の良い地主はにっこり笑って言った。


「それじゃあ、さっそくそうすることにしよう」




そして家の鍵を大工に渡した。



「作業の間、君はまるで自分の家のようにこの家を扱ってくれた。大切な友人である君に、どうかこのプレゼントを受け取ってもらいたい」




(作者不詳の寓話。いろいろなバリエーションがある・・・


サービス・リーダーシップとは何か


/ベッツィ・サンダース著/田辺希久子訳/ダイヤモンド社刊より)





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