2009.10.26
XML
リクエストフィクションです。

さらに、お話の中にここの常連さんを登場させるということです。


タイトル「ふしぎなゆびわ」

 神様はここんとこ毎日ある一人の少女を見ていた。
 その少女はもともと父親がいないうえに母親も病に倒れ、3ヶ月前から意識不明になったきりだった。その間、少女は施設で暮らす事になり、まだ母親が恋しい時期だろうに、いろんなことを我慢して、健気に暮らしていた。そして、今日こそ母親が目を覚ますのではと言う期待を抱いて母親が眠り続ける病室を訪れるのだった。
 もちろん、神の力をもってすれば少女の母親の意識を回復させ、病を治し、元気にすることは簡単だ。だが、奇跡なんてめったに起こすもんじゃない。後々面倒なことが必ず起きる。今までがそうだった。なので、最近はいくら世の中が不景気で困っている人がたくさんいたとしても奇跡なんて起こす気はなくなっていた。
 そこで神様は少女にあるアイテムを授ける事にした。

 「魔法のリングじゃ」

 これが変質者か。
 少女はとっさにそう思ったが、老人があまりにもしつこくその箱を差し出すのでついつい足を止めてその箱を手にとってしまった。これから母親のお見舞いに行かなくちゃ行けないのに、長くなったら嫌だなぁ。と、思いつつ。
 その小箱には「天恵 -GOD BLESS-MADE IN HEAVN」と書かれており、ちょっとこじゃれたブランド品のようなGの文字を崩したようなロゴも付いていた。
 「開けてみろぃ」
 老人がしつこくそう言うので、少女はおっかなびっくり箱を開けてみた。
 すると、箱の中には不思議の色の小さな石がはめられた銀色の指輪が入っていた。
 「なっ?」
 「なっ?」というのはやはり変質者に違いない。と、思いつつも指輪の放つ不思議な魅力には勝てず、少女は箱から指輪を出して眺めていた。
 「ちょっと貸してみ」
そういうと老人は少女の手から指輪を奪い取って、自らの左手の小指にはめた。
 「いいか、さっきも言ったが、これは魔法のリングという物だ。どんな願いも3回まで叶えてくれる」

 「少女よ、あれを見よ」
老人が何かに気づき指差したところには段ボール箱を抱えて何かを叫んでいるおばさんがいた。
 「ブラジャー!ブラジャーいりませんかー!ブラジャー!!」
 どうやら、マッチ売りの少女ならぬ、ブラジャー売りのおばさんらしい。だが、道行く人は誰も見向きもしないで通り過ぎてゆく。
 「こんな人通りの多い場所でブラジャーなど売れるわけないだろうに」

 「だがな、見ておれ」
 そう言うと老人はブラジャー売りのおばさんの前まで行き、こう言った。
「指輪よ、この者のブラジャーを完売させたまえ!」
 すると老人の指輪がキラッと輝いたと思うと、老人はそそくさとこっちへ戻ってきた。
 「見ておれよ」
老人がそう言うか言わないかのうちにどこからかママさんコーラス隊の一団が現れ、ブラジャー売りのおばさんを取り囲み、一時の間ワイワイとやったと思うとササーっと波が引くように去ってゆき、あとには空の段ボール箱と札束を抱えたブラジャー売りのおばさんが立っていた。
 「なっ?」
 老人はますます怪しかったが、目の前で何かすごいことが起きていたのは明らかだった。
 「今のはデモンストレーションだからノーカウントだ。使い方は今やったように願いをかなえたい相手の前に立って、願いを言えばいいだけだ。ほれ、お前にやるから、好きな願いを叶えるがよい」
 老人はニコニコしながら再び少女に指輪を渡した。
 少女は言われるままに、左手の人差し指に指輪をはめてもう一度よく見た。
 「3と書いてあるだろ」
老人の言うとおり不思議な色の石には「3」と書かれていた。
 「願いが叶うのは3回までじゃ、使うごとに数は減ってゆき、0になったら指輪は役目をおえて消えてしまうだろう。これを使って幸せになれ。」
 少女は指輪を眺めながらその話を聞いていたが、気がつくと老人の姿はなくなっていた。

 少女は再び母親の病院へ向かいながら考えていた。
 あの老人の言っていたことが本当だとしたらどんなお願いをすればいいだろう。
 まず、お母さんの意識が戻るようにお願いしよう。それから、病気が治るようにお願いしよう。いや、お母さんを元気にして。と願えば一度で済むかもしれない。そしたら、あとの願いは二人で何か美味しいものを食べに行こう。旅行にも行きたいなぁ。
そんなことを考えているうちに病院に着いた。しかし、よく考えると、ここには病気で苦しんでいる人はたくさんいる。お母さんだけが助かるなんてほかの人に申し訳ない。みんなが元気になる方法があるだろうか。
 しかし、そんな方法は思いつかなかった。するとなんだか、行き交う人の目線が怖くなって、なるべく目をあわさないように歩いていた。

 ドンッ!
 「あ痛ぁっ!」
ちゃんと前を見て歩いていなかったから誰かにぶつかってしまった。目の前にはバイオリンケースを持ったサラリーマン風の若い男が倒れている。
 「あっ、痛たたたたた。ちゃんと前見て歩けよなぁ」
男はぶつかった拍子に足を痛めてしまったのか、足を痛そうにしてなかなか立ち上がろうとしても立てないでいる。
 もしかしたら、自分のせいでこうなってしまったのではないだろうか。
 そう考えると、少女は思わずこう言っていた。
 「指輪よ、この者の足を治したまえ!」
すると、指輪はキラッと輝き、不思議な色の石の数字は「2」になった。
 「あ痛たたた・・・あれっ?痛くない。治った?治ってるぞ。まだ治療もしてないのに。やった!ラッキー!」
 男は嬉しそうにその場でピョンピョンとび跳ねて喜んでいた。喜びのあまり、持っていたバイオリンを取り出し、それを弾き始めると、近くにいた看護師さんに怒られていたが、それでも喜んでいた。
 どうやら、この男の足は少女のせいで痛めたわけではなかったようだ。ということは願い事をひとつ無駄にしてしまったことになるか。いや、誰かが幸せになったんだ。無駄ではない。それに、まだ2回も願い事は残ってる。それだけあれば十分だ。

 「見ていたよ。お嬢ちゃん」
 少女は突然何者かに肩をつかまれて振り返った。
 するとそこには女性介護士に付き添われた太ったおじさんがニヤニヤとこっちを見ていた。
 「今、君が何かしただろ?おじさん、見ちゃったんだよね。今のやつ、おじさんにもやってくれないかぁ」
 全く図々しい話だ。こんな見ず知らずのおじさんのために残りの2回のうちの1回を使うなんてもったいなすぎる!
 「おじさんは腰が痛いんだ。だからほら、こうして介護士さんに手伝ってもらわないと歩くこともできないんだ。かわいそうだと思わないかい?」
 確かに、見るからに痛々しいのだが、言ってることには納得できなかった。
 「ふぅ。・・・もういいよ。君はそういう人間なんだね。自分さえよければ他人のことなんて知ったこっちゃないもんな」
 なんか今の一言は心外だった。カチンときた。いや、それは図星だったからだ。くやしいけど、さっきからの心の呵責がこれで少しは楽になるかもしれない。今ここで指輪を使ってしまってもあと1回分は残る。お母さんを治すにはそれだけあれば十分だ。
 「指輪よ、この者の腰を治したまえ」
 すると指輪はキラキラッと輝き、不思議の色の石の数字は「1」となり、「0」となった。
 あれっ!?
 少女が異変に気づくと同時に指輪は音もなく崩れ去った。
 「おお~~!!腰が痛くないぞ!」
喜ぶ太ったおじさん。
 「私も~楽だわ~!」
と、その横にいた介護士の女の人も喜んでいる。

 すべてを理解したとき、少女の目の前は真っ暗になった。

 少女は、母親の病を治すことなく3度の願いを使い切ってしまったのだ。

 気がつくと涙がとめどなくあふれていた。

 泣きながら母親の病室にたどり着いたが、もう母親を治すすべはなかった。悲しみと後悔の念に押しつぶされそうだった。

 その時だった、
「どうしたの?」
少女にかけられた声は聞き覚えのある懐かしい声だった。そう、ここ3ヶ月間、ずっと聞きたかったあの声だった。
 「お母さん!?」
 「ふふふ・・・。さっき目が覚めたのよ。今までごめんね」
 信じられなかったがお母さんの意識が回復したのだ。奇跡のようだった。
 少女は今日起こった不思議出来事など、もうどうでもよかった。
 ただ、こうして再びお母さんと話ができることが嬉しかったのだ。

 「やぁ、この病室だったのか」
 しばらくして、さっきのバイオリンを持ったサラリーマン風の若い男と、太ったおじさんと介護士の女の人が病室にやってきた。
 「お祝いに一曲」
 サラリーマン風の男がバイオリンを弾き始めると、看護師さんが飛んできて、また怒られていた。
 でも笑っていた。
 みんな笑っていた。

 病院の外でも、真っ白なライダースジャケットを着て真っ黒いサングラスをかけ、真っ白い髭を蓄えた老人が笑っていた。
 「なっ?」
 なにが「なっ?」なのかはわからないが、老人はそう言うとアメリカンバイクにまたがりいずこかへ消えていった。

おわり

長さを感じさせない出来だと思います。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2009.10.26 20:24:31
コメント(10) | コメントを書く
[リクエストフィクション] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

コメント新着

終末の預言 @ Re:夜更かしした次の日(02/22) ルカによる福音書 21章 21:10そして更に、…
☆りん @ Re[1]:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 小橋建太さんへ そうですね。 どこでどん…
小橋建太@ Re:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 配信で紹介されてたんで来ただけなんだけ…
☆りん @ Re[1]:壁に向かって吠えてる犬(02/15) 小橋建太さんへ お、心当たりがあるのかな…
小橋建太@ Re:壁に向かって吠えてる犬(02/15) プロレスで決着つける感じですか?

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: