(ウラジミール・ナボコフ『ローラのオリジナル』若島 正訳)
クロフォードは絶望的な思いでその血を見つめながら自分を奮いたたせようとする。(ティム・パワーズ『石の夢』下・第二部・第十七章、浅井 修訳)
他人の生活に鼻をつっこむのは(夫人の母親のいい方に従えば、”のぞき”)、友情を保つ方法とはけっして思えなかった。たとえ尋ねなくても、知りたいと思う以上のことが聞こえてくるものだ。ブリゲル夫人の経験によれば、そうだった。(アン・ビーティ『貯水池に風が吹く日』8、亀井よし子訳)
ソルは知っている。サライはレイチェルの子供時代の各成長段階を宝物のようにたいせつにしており、日々のありふれた日常性を慈(いつく)しんでいた。サライの考え方によれば、人間の経験の本質は、華々しい経験──たとえば結婚式がそのいい例だが、カレンダーの日付につけた赤丸のように、記憶にくっきりと残る華やかなできごとにではなく、明確に意識されない瑣末事の連続のほうにあるのであり、一例をあげれば、家族のひとりひとりが各自の関心事に夢中になっている週末の午後の、さりげない接触や交流、すぐにわすれられてしまう他愛もない会話……というよりも、そういう時間の集積が創りだす共同作用こそが重要であり、永遠のものなのだ。(ダン・シモンズ『ハイペリオン』下・学者の物語、酒井昭伸訳)
私が自分の持物を二階の部屋に運んでいくとハンスは彼と同室の者を私に紹介してくれた。ミドルタウン出身のアメリカの著者で名前はディンク・リバーズ。じっと私を見つめる並外れて澄んだ灰色の目に驚きの色が浮かんだ。昔の知人と会ったかのようだった。一瞬私は水の涸れた河床にいて彼が「私が欲しいのならすぐ抱き上げて」と言っているような声を耳にした。しかし次ぎの瞬間ポート・ロジャーのこの部屋にいて私達二人は手を握り合い、彼は頷いていた。(ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』第一部、飯田隆昭訳)
DTは鼻を鳴らした。「たしかにそうだ!」あえぎながらたちあがると、足をひきずって小川の縁に(ママ)歩いた。「渡るのに手を貸してくれ」(ルーシャス・シェパード『サルバドル』小川 隆訳)
それが実際に父親の口から聞く最後の言葉ということが分っていたなら、マルティンは何か優しい言葉を口にしただろうか?(サバト『英雄たちと墓』第I部・7、安藤哲行訳)
彼は頭の回転の速い男ですが、ジュリアンが恐ろしくゆがめてしまったのです。彼のことばに耳を傾けるすべての者をゆがめてしまうように。(ジョージ・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』30、増田まもる訳)
ルイーズの席からだと、どのチェリストもみんな美男子だ。なんて弱々しい人たちなの、とルイーズは思う。黒のお堅い衣装を着て、あんなふうに音楽を弦から流れ落とし、開いた指のあいだから溢れさせている。まったく不注意なもんだわ。しっかりつかんでおくべきなのに。(ケリー・リンク『ルイーズのゴースト』金子ゆき子訳)
彼の片方の目は温和で親しみがこもっているが、もう片方の目は嘲りの光を放っているのに私は気づいた。全く人迷惑な目だ。バート・ハンセンはどう応えていいやら分からず不快そうな笑みをこぼしたが、一瞬この二人そっくりすり替わったんじゃないかと思われるような同じ笑みが、今度は彼からこぼれた。(ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』第二部、飯田隆昭訳)
「分る、マルティン? これまで世界には多くの苦しみが生まれなければならなかった、その苦しみがこうした音楽になったのよ」(サバト『英雄たちと墓』第I部・9、安藤哲行訳)
「どうぞ!」とドニヤ・カルロータはケイトに言った。「もうお休みになりましたか?」(D・H・ロレンス『翼ある蛇』上・10、宮西豊逸訳)
小人は片腕をあげるとパリダに向かって伸ばす。(フエンテス『脱皮』第三部、内田吉彦訳)
「行かなきゃ」とアリスが言った。(コニー・ウィリス『リメイク』大森 望訳)
「まあ、あなた」とマグダレンは溜息をついた。(エリス・ピーターズ『死者の身代金』8、岡本浜江訳)
──上の人また叩いたわ──とバブズが言った。(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・28、土岐恒二訳)
「ゴードンがお気に入りの花々をお見せするでしょう」と彼女は言って、隣室に呼びかけた。「ゴードン!」(ナボコフ『青白い炎』註釈、富士川義之訳)
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