JEWEL

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椿と白木蓮 第一話



素材は、 かんたん表紙メーカー様 からお借りしました。

その日、魏無羨こと魏嬰は、道侶である含光君・藍湛と共に大梵山へと来ていた。
事の始まりは、彷屍が大梵山から夜な夜な町へやって来て、見目麗しい青年を攫ってゆくのだという。
「その彷屍は男好きなのか?じゃぁ、俺攫われちゃうかもしれないなぁ~」
魏嬰はそう言いながら藍湛の反応を見ると、彼は眉間に皺を寄せていた。
「何だ、怒ったのか?もぉ~、俺の旦那様は可愛いなぁ~」
魏嬰がそんな事を言いながら、藍湛の頬を突いていると、向こうから彷屍の唸り声が聞こえて来た。
「向こうだ、行こう!」
二人が、彷屍達が居る方へと向かうと、そこには彼らに追われて木の上に逃げている青年達の姿があった。
「今助けるからな!」
魏嬰がそう青年達に声を掛けた時、木陰に隠れていた彷屍が彼に襲い掛かって来た。
「魏嬰!」
藍湛が魏嬰の方へと駆け寄ろうとしたが、彷屍が彼に襲い掛かって来た。
(このままだと、間に合わない!)
藍湛がそんな事を思っていると、そこへ一匹の青龍が現れ、彷屍達を次々と喰らっていった。
(一体、何が・・)
藍湛が周囲を見渡すと、そこには青龍を操る一人の男の姿があった。
(何だ、あの男は?)
青龍を操るのは、どんなに修業を積んでいる仙師であっても至難の業であった。
だが、自分達の前に立っている男は、まるで己の躰の一部であるかのように青龍を操っている。
彼は一体、何者なのだろうか。
藍湛がそんな事を思いながら男の方を見ると、彼と目が合った。
切れ長の、碧みがかった黒い彼の瞳に、藍湛は“何か”を感じた。
「貴様、何者だ?」
「それはこちらの台詞だ。」
「ほぉ?」
男と藍湛との間に静かな火花が散った頃、魏嬰は彷屍から一人の少女を救った。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございました。」
そう言った少女は、金髪紅眼の美しい容姿をしていた。
「お嬢さん、どうしてこんな所に居るんだ?」
「先生を・・夫を捜していて・・」
「奇遇だな、俺も夫を捜しているんだ、一緒に捜そう!」
「はい!」
魏嬰と火月が意気投合して互いの伴侶を捜している頃、藍湛と火月の夫・有匡は、次々と自分達に襲い掛かって来る彷屍達を迎え撃っていた。
「クソ、キリがないな・・」
「退け。」
藍湛は、そう言うと琴を掻き鳴らした。
すると、彷屍達は突然苦しみ始めた。
(何だ?)
琴の音色が激しくなるにつれ、彷屍達は倒れていった。
「おい、今のは・・」
「藍湛~!」
「先生~!」
有匡と藍湛が同時に背後を振り向くと、そこには二人の伴侶が立っていた。
「もう、捜したんだぞ!」
「魏嬰、怪我は無い?」
「うん。それよりも、隣に立っている奴は、お前の知り合いか?」
「今、知り合った。」
「へぇ、そうか。はじめまして、俺は魏無羨、それで、こっちの白いのが、俺の夫の藍湛!」
「そうか。わたしは土御門有匡だ。妻の火月が世話になった。行くぞ、火月。」
「先、先生・・」
「おいおい待てよ、何処行くつもりだよ!?」
「鎌倉だ。」
「何処だそこ?聞いたことが無い所だな!藍湛、お前は聞いた事があるか?」
「ない。」
二人の反応を見た有匡は、眉間に皺を寄せた。
「先生、どうしましたか?」
「火月、恐らくわたし達は異世界に迷い込んでしまったのかもしれん。」
「異世界?」
「あぁ。」
「じゃぁ、元の世界に戻る方法は、見つかりますか?」
「わからん。そもそも、この世界にまよいこんでしまったのがわからぬ以上、戻る術がわからん・・」
「そんな・・」
二人が困り果てていると、そこへ魏嬰と藍湛がやって来た。
「あんた達、行く当てがないのなら俺達の所へ来ないか?」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、困っている者を放っておけないだろう、藍湛?」
「魏嬰・・」
「じゃぁ、決まりだっ!」
こうして、ひょんな事から有匡と火月は、姑蘇藍氏の仙府である雲深不知処で魏嬰と藍湛と共に暮らす事になった。
だが―
「客人、我が姑蘇藍氏の門弟となったからには、こちらの流儀に従って貰う。」
「流儀だと?」
「そうだ。我が藍家では、仙力を高める為、筋肉を鍛える事が必須なのだっ!」
そう叫んだ藍啓仁は、徐に白い校服をはだけさせ、六つに割れた腹筋と、逞しい上腕二頭筋を有匡に見せつけた。
(暑苦しい・・)
「まずは、片手で腕立て伏せ一万回!」
「おい、人の話を・・」
半ば強制的に藍家ブートキャンプに入門させられた有匡は、日に日に過酷なトレーニングを課せられ、一週間経つと彼の腹筋は六つに割れ、握力も以前より強くなった。
「先生、こちらにいらしていたんですか。」
「火月、最近魏嬰殿と親しいようだが・・」
「先生、魏嬰さんとは色々と話しが合うんです。」
「ほぉ?」
「そんな顔しないでくださいよ、先生!僕は先生一筋ですから!」
「わかった。わかったからそんなにひっつくな!」
 中庭でそんな話をしている有匡と火月の姿を見ながら、魏嬰は書き物をしている藍湛にしなだれかかっていた。
「二人共、仲良いなぁ。なぁ藍湛、俺達も二人に見せつけてやろうぜ!」
「やめなさい、みっともない。」
「もぅ、そう言いながら俺を滅茶苦茶にしたい癖に~」
魏嬰はそう言って藍湛の頬を突くと、彼の耳が少し赤くなっている事に気づいた。
「魏嬰・・」
「藍湛、どうし・・」
「先生、今何か音がしませんでしたか?」
「さぁな、気の所為だろう。」

その日、雲深不知処の静室から魏嬰と藍湛が出て来る事は無かった。

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