本作は、ジョン・レノンの思想や思考にはさほど深くは立ち入らないものの、関係者の証言等を多く用い、彼の生きてきた道をわかりやすく描いている。やや反体制側の嗜好に沿いすぎている感は否めず、体制側(政府等)における論理や理屈が描かれていないのは残念だが、しっかりと深読みすればその辺りはわからなくもない。 ジョン・レノンはある意味無知であったが故に、あそこまでの平和主義を貫く事ができたとも言えよう。純真とも言えるし、素直に人の生や愛というものに立ち向かうことが出来ていたのだろう。ある意味うらやましい気持ちも感じるが、そこに潜む危険性というものも感じる。平和主義、反体制に限らずも、行動というものを一貫性、公平性をもって続ける事がいかに難しいか、それが人数が増え影響力を増すことによって、ますます組織構造の複雑化を招いていくか。彼らの行動活力源である反体制という理念そのものが、強大化することによって彼らのもっとも嫌うべき権力化に繋がっていくのだ。そもそも、反体制という思念は個々人のみが持ち合わせるものであって、統一的に規範されるようなものではないからだ。 「WAR IS OVER」。彼が広げようとしたこの言葉は、芸術活動を通して広がっていった。それがいつの間にか政治活動に転化していく。個人の主張でしかない芸術の世界だからこそ良かったのではないか。政治と芸術(文化)、そして宗教・・・。それらが交わるとき暴力の火種が起きる。そのことをジョン・レノン自身が気付いていなかったとは思えないのだが。