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2009年11月09日
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カテゴリ: 戦争映画
2007 ロシア 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演者:ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、ワシーリー・ツェフツォフ、ライーザ・ギチャエワほか
92分 カラー ALEXANDRA


(CD)チェチェンへ アレクサンドラの旅/Andrey Sigle
DVD検索「チェチェンへ アレクサンドラの旅」を探す(楽天)
 チェチェン共和国に侵攻するロシア軍駐屯地を舞台に、一人の老婆の目に映る戦争と人間模様を描いたヒューマンドラマ。ドラマとは言うものの全体的にはドキュメンタリー的な雰囲気が強く、抒情的かつ芸術的に人間の生と死を描いたもので、まさにソクーロフワールド炸裂だ。監督のソクーロフはソヴィエト芸術映画の系譜を色濃く継承した名監督で、これまでにも昭和天皇を描いた「太陽」、レーニンの「牡牛座レーニンの肖像」、ヒトラーの「モレク神」といった人物3部作が著名で、人物描写に長けた監督でもある。

 映画の背景に設定されているのはチェチェン共和国で、チェチェンと言えばロシアからの独立を求めるチェチェン独立派武装組織によるテロ工作が頻繁に起こっており、2004 年に北オセチア共和国ベスラン学校占拠事件の記憶が生々しいところだ。ロシアは1994年の第一次紛争、1999年からの第二次紛争ともにチェチェン共和国内に軍を送り込み、武装組織の壊滅作戦を行っている。親ロシアのチェチェン人もいるようだが、紛争で多くのチェチェン人やロシア軍人が死亡していることから、互いの憎悪が日増しに強くなっている。このあたりを描いた作品には「コーカサスの虜(1996カザフ・露) 」「チェチェン・ウォー(2002露)」「厳戒武装指令(2003 露)」などがある。

 さて、本作はチェチェン共和国内のロシア軍駐屯地に派遣されている27歳の孫(大尉)を訪ねた老婆アレクサンドラが、基地内の若い兵士たちや基地外のチェチェン人の姿を観察し、彼らの生を感じるストーリーである。主役の老婆はふてぶてしく、周囲に左右されない自我を貫きながらも素に人間と接していくのだが、そのとても映画には馴染まないと思われるほどの日常的な行動により、逆に他者の人間性を浮き彫りにしていくテクニックは見事としか言いようがない。このいじわるばあさん、わがままばあさんとでも形容したくなるような老婆は、ロシアでは有名なソプラノ歌手ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。演技は素人ながらも実にインパクトのある快演ぶりだ。
 内容は非常に抽象的で抒情的。チェチェン紛争を背景にしているが戦闘シーンは皆無で、兵士や一般人の日常を淡々と描き続けるのみだ。会話の意味や行動の解説はほとんどなされないため、登場人物が何を考え、監督が何を意図しているかを終始考え通さなければならない。普通の映画ならば理解不能に陥り苦痛に感じるかもしれないが、ソクーロフ作品はその自己思考が何だか気持ちいい。それはソクーロフの描写が善も悪も、有意義も無意味もひっくるめて極めて人間的であり、即物的だからだろう。過去の作品「太陽」や「牡牛座レーニンの肖像」などもそうだが、主人公やそれ取り巻く人物が非常に人間的であるからこそ、言葉で語らなくとも自分自身の経験と葛藤に投影できるのだ。従って、本作を見た人それぞれの解釈や主人公像が出来上がるものと思われる。ソクーローフにとっても、それはそれでいいと考えているに違いない。
 音響効果も独特で特徴的。自然に耳に入ってくる雑音と会話、そこに何気ないBGMを多重に重ねることによって、リアルでありながらも妙に心を揺さぶる不思議な空間を作り出している。この独自の音感はまさに芸術と形容するにふさわしいだろう。いかにも俗世間のようでありながら、俗世間にはない異空間なのだ。

 撮影は実際にチェチェンのロシア軍基地で行われたそうで、登場する人物もガリーナ・ヴィシネフスカヤと孫の大尉役ワシーリー・ツェフツォフ以外はほとんどが素人だそうだ。確かに会話数は少ないものの、若い兵士や民間人は素人とは思えない自然な演技だ。その中で唯一上官の大佐役だけちょっと怪しい動きがあって違和感があったのだが、本物のロシア軍将校が演じていたとのこと(笑)。
 本物の基地だけあって、その存在感は見事なものだ。むさくるしいテント群、乱雑に並んでいるようで実は規則的な基地内の装備品。通常は退屈そうでありながら、時折見せる緊張感。一歩基地を出れば破壊された建物の中でチェチェン人の老若男女が営みを行っている。戦禍に巻き込まれた非日常の空間がそこにはあるのだ。


 退屈と言えば退屈な映画の部類だが、観れば観るほど不思議な魅力に惹きこまれていくだろう。派手さやインパクトこそ期待できないが、こうした芸術的映画もいいものだと感じることができる佳作である。

興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★★
感涙度★★



(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)

 ロシアのスタヴローポリに住む80歳になる老婆アレクサンドラ・ニコラエヴナは、孫のデニス大尉に会うためにチェチェン共和国グロズヌイにあるロシア軍基地を訪れる。足の悪いアレクサンドラは時折悪態をつきながらも、軍用装甲列車に乗り、前線に向かう若い兵士たちを眺めている。
 目的地に着いたアレクサンドラは同行の将校に連れられて装甲車に乗せられて基地に向かう。将校はテントの「ホテル」にアレクサンドラを案内し、アレクサンドラは旅の疲れから眠りにつく。目が覚めると隣には孫のデニス大尉(27歳)が寝ていた。泥や汗にまみれたデニスの姿にあきれながらも、デニス大尉の案内で基地内を見学する。銃の手入れや食事など若い兵士たちの姿に興味を示し、装甲車の内部にも乗ってみるが、アレクサンドラは退屈だった。デニス大尉は偵察のために出動していき、退屈なアレクサンドラは基地内を歩き回り、ゲートで若い兵士に止められる。そこでアレクサンドラは若い兵士らと話しこみ、寝入ってしまう。朝になり戻ろうとするアレクサンドラを出迎えたのは基地の部隊長の大佐だった。アレクサンドラを部屋に案内する途中でデニスについて問われた大佐は「優秀な職業軍人で、それで稼いでいるから心配ない」と答える。だが、アレクサンドラは殺ししかできない孫の除隊後を心配するのだった。
 アレクサンドラはデニスに世話係の兵を付けられるが、それを制止して基地の外に出かけていく。外の市場でチェチェン人の人々と出会うが、ゲートの兵に頼まれた煙草や菓子を買おうとするが、若いチェチェン人は売ってくれない。ロシア人が嫌いなのだ。だが、年配の女性たちは優しく接してくれ、ロシア語の上手なマリカは疲れたアレクサンドラを自宅に招いて休ませる。マリカは「男たちは敵同士になるが、女たちは姉妹よ」と言うのだった。帰りには隣人の青年イリヤスが送ってくれるが、イリヤスはアレクサンドラに「もう(ロシア軍から)解放してほしい」と本音を漏らす。アレクサンドラは日本人女性の言葉を引用し、「大事なのは理性よ」と諭すのだった。基地では世話係の兵がデニス大尉に叱責されており、世話係の兵はアレクサンドラに食事を世話する。
 アレクサンドラはデニスに「あなたたちは嫌われている」と告げる。デニスはわかっているとしながらも、軍人として生きるしかないのだととも言うのだった。そしてアレクサンドラは一人で生きるのが寂しいとこぼすのだった。
 翌朝、デニス大尉は急な任務で数日出動することとなり、アレクサンドラに帰った方がいいと言う。アレクサンドラは市場に昨日の料金を払いに行くが、マリカたちは金を受け取らず、帰りの列車まで見送りに来る。手を振る女たちの中でマリカだけは違う方向を見続けるのだった。 





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最終更新日  2009年11月09日 23時40分28秒
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