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昭和歌謡の誕生と魅力
出版ジャーナリスト 塩澤 実信
米国のジャズやポップスが底流
広辞苑で「歌謡曲」の項目を引くと、「ラジオ・テレビ・レコード・映画などを通じて流布されている大衆的気歌曲。日本放送協会で昭和初めの新奏局などの意、また西洋歌曲(チート)の役として使われ、1933年より70年代まで、主にわが国で西洋の流行曲のリズム・形式と日本伝統的旋律・情感を合わせ持って作曲された流行歌の意で用いられた」と解説されている。
ラジオ・レコード・テレビ・映画は、昭和の時の流れと足並みを揃えているから、今日から見て七十年を超えることになる。
六十余年にわたった昭和は、明治維新の開幕と同時に、滔々と流入してきた西欧文化が、ほぼ行き渡った時代であった。
ドレミの音階で歌われる西欧の七音音階が、小学校の唱歌に採用されていて、小学校教育からゆき渡っていった。
太平洋戦争に敗れ、連合国の統治に入った 1945 年以降は、帝国主義から民主主義へと一変した。
世相の変貌をドラマチックに見せつけたのは、ポップス・ジャズを、異の一番にもたらした戦勝局の、米国文化だった。
強烈なジャズ音楽のリズムが、「ファ」と「シ」の音を欠いた、七四抜き音階に逼塞していた日本の若者を覚醒させ、極東の島嶼国はポピュラー音楽から開けていったと考えても、過言ではない。
以降、ポピュラー音楽の流行が、若者文化を先導していった。
世相風俗が巧みに織り込まれる
この流れは、現代へ通じていて、時代の変化変遷は、まずポップスに表示するやに見える。
由来
「歌は世につれ、世は歌につれ」
の慣用句があるが、確かに「流行歌」「歌謡曲」には世相風俗、時代の傾向、潮流が明確に表現されているようである。
ただし、流行歌が意味するように、世相風俗は、汲み取っても、その底を流れる思想・心理・哲学に名で言及することは困難ようだ。
それ故、流行歌というと一概に、軽佻浮薄視される傾向もある。
かつて私は、「日本レコード大賞」の審査員を委託されたが、使い走りの時期を過ごしたことがあった。その間の何とも言いようのない照れ臭さのあったことを忘れない。
その理由は、「日本レコード大賞」の名称がまだ世間に行き渡っておらず、歌謡曲の分野で、クラシックの領域まで犯しているのがやや気がかりだったからだった。
しかし、その懸念はほどなく、杞憂となった。流行歌、歌謡曲には時代世相が巧みに織り込まれていて、ラジオ・テレビ・映画でエフェクトに用いると、たちまち当時が蘇ってきた。
今は、過去を遡る時、当時流行した歌が背後に流す効果音として使われる。
例えば、敗戦直後を再現しようとして、笠置シヅ子が舞台を狭しとエネルギッシュに踊って歌うブギウギが流れれば、混乱の時代が容易に蘇ってくる。
が、同時に時代の陳腐さも映し出される。最近では、昭和歌謡を聞き直そうと手を伸ばされる方も大勢いらっしゃるようだが、皆さん感じておられることは、懐かしさに加え、若き当時の思い出は溢れ出し、気恥ずかしさで胸が一杯になったことでしょう……。これもまた、歌謡曲が持つ不思議な魅力である。
(しおざわ・みのぶ)
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