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やまと絵の伝統と革新
東京国立博物館 絵画・彫刻室長 土屋 貴裕
この秋、東京国立博物館では、日本美術の王道的テーマでもある「やまと絵」について大規模な展覧会を開催している。
そもそも、やまと絵が具体的にどのような絵画なのか、よく知られていないのが現状だと思う。やまと絵とは、平安時代のはじめ頃、日本的な風景や風俗を描くために生まれた絵画のことである。それまでの日本における絵画は、中国絵画に基づく唐絵をそのまま模倣したものだった。それが仮名の発達や和歌の交流とともに、異国ではなく日本の中に美を見いだそうという動きが起こる。こうして生まれたのがやまと絵だった。四季の移ろい、月ごとの行事、花鳥・山水やさまざまな物語など、あらゆるテーマが描かれてきた。
平安時代以降もやまと絵は描かれ続けるが、その内容は若干変化していく。それは鎌倉時代後期以降、中国から水墨画などの技法がもたらされ、これが漢画と呼ばれる新しい異国の絵画となると、やまと絵もそのスタイルを少し変化させたためである。こうして中国に由来する唐絵や漢画といった外来美術の理念や技法との交渉を繰り返しながら、独自の発展を遂げてきたのがやまと絵である。
日本の美に流行取入れ千年 最高傑作が華やかに集う
一方で、やまと絵が時代ごとに変貌を遂げたのは、外来美術の影響だけではない。それぞれの時代の文化をけん引する個性的な人物の強烈な美意識、そして隣接分野の造形感覚や最先端の流行がやまと絵というと、どうしてもおとなしくて地味、という印象を持たれる方も多いと思うが、実はこうした美術をめぐる最新の動向をどん欲に、かつしなやかに取り組むことで、やまと絵はこの千年を生き抜いてきたのである。このような「伝統と革新」の意識に支えられた美術的な造形の営みこそが、やまと絵の最も重要な核心であることは、これまで見過ごされてきた点である。
今回の展覧会は、平安時代に誕生し、鎌倉時代に新たな美意識を加え、さらに南北朝・室町時代に成熟した輝きを見せた古代、中世やまと絵の全容を、総件数訳二四〇件の作品からご紹介するものである。屏風、絵巻、肖像画といったやまと絵の中心的作品のみならず、美しい書の作品や漆工品も会場には並ぶ。東京国立博物館では三〇年ぶりのやまと絵店となる。
展示作品はどれも一級の作品で、一点でも展覧会の目玉になる作品ばかり。今回は全国の御所蔵者のご協力ももと、大変豪華な展覧会を実現することが叶った。そして重要なのが、これらマスターピースをまとめて見るということである。もちろん一点一点の作品は大変優れたものばかりだが、これをまとめて見ることで、やまと絵の歴史、ひいては日本文化の歴史が点ではなく選、そして面で見えてくるはずである。絵巻の傑作である「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「伴大納言絵巻」「鳥獣戯画」の四大絵巻、法華経を美しく飾った「久能寺経」「平家納経」「慈光寺経」の三大装飾経など、ここでしか見ることのできない作品群に出合ってほしい。
(つちや・たかひろ)
【文化】公明新聞 2023.10.18
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