ラッコの映画生活

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2008.03.14
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カテゴリ: フランス映画
PARIS, JE T'AIME

(所有DVD)

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第15話『ペール・ラシェーズ墓地』ウェス・クレイヴン監督
PERE-LACHAISE Wes Craven


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前第14話がドラキュラもので、その暗い夜が明けた真昼の世界。しかし舞台は墓場です。ウェス・クレイヴンと言えば『エルム街の悪夢』や『スクリーム』などホラーの監督。なかなか粋な構成です。第1話から第18話までただ羅列したのではなく、こういう全体構成が考えられている。そのためにナジャリの「11区」とボーの「15区」が本編から外されてしまったのでしょう。監督はアメリカの人ですが、演じるのはクレイヴン監督の『スクリーム3』に出ているエミリー・モーティマーと、ルーファス・シーウェルで、2人ともイギリスの俳優さん。あとオスカー・ワイルドの亡霊役は最後の第18話の監督アレクサンダ-・ペインです。

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なるほど西洋でも、例えばゴシック・ホラー映画などで、人里離れた教会に付設の墓地があって、そこには朽ちた金属の十字架の墓標などがあって、夜稲妻が光り、一陣の強風が流れ・・・といった恐怖場面はあります。でもこの映画のペール・ラシェ-ズや、モンマルトル、モンパルナスの墓地にしても、日本の墓地のような薄気味悪さは少ないですね。宗教の違いもあるだろうけれど、きっと生者と死者の境界が日本よりも明確なのだと思います。なので観光や散歩のコースにもなるわけです。結婚を控えてスケジュールの都合で結婚前ハネムーンでパリにやってきたフランシスとウィリアムのイギリス人カップル。彼女はサラ・ベルナールやショパンやプルーストの墓があるって言うけれど、ウィリアムの方は墓地なんてきっと興味ない。この3名の有名故人、イギリス人やたぶんアメリカ人のちょっと教養のある人がきっと関心を持つであろう人物たちなのではないでしょうか。この辺のセリフの選択にちょっとニヤっとしてしまう自分です。たぶん日本人ならショパンはともかく、プルーストやサラ・ベールとは言わないでしょう。ちなみにこのペール・ラシェ-ズには他にジム・モリソン、ピアフ、モンタン/シニョレ、モリエール、バルザック、ビゼー、カラス(後に海に散骨)、アベラ-ルとエロイーズ・・・等の墓があります。ここに葬られている人すべての伝記とその人の関連人物を知れば、西欧の、少なくともフランス近現代の政治史、文学・芸術史、思想史、科学史を網羅出来るのではないでしょうか。

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映画に戻って、フランシスの最大のお目当てはオスカー・ワイルドの墓。やっと見つけて彼女は墓石にキスをする。彼女にとってワイルドは彼一流のユーモアを与えた作家。でもウィリアムにはそれが理解できない。ユーモア(なにせユーモアの好きなイギリス人ですから)を解さないウィリアムに「そんなあなたとはやっていけない」って怒って行ってしまう。そこにワイルドの亡霊が出現する。彼女を失ったらそれは心の死だとウィリアムに忠言する。彼はフランシスを追うとキスをし、「君を正常な人間のように扱う男といて幸せか?」ってワイルドの言葉を言うと彼女もにっこり。めでたく2人が仲睦まじく墓地を去っていく。

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第16話『フォーブール・サン・ドニ』トム・ティクヴァ監督
FAUBOURG SAINT-DENIS Tom Tykwer


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この第16話はなかなか素敵な一編です。作りも見事で、色々な要素をこの短い5分間に表現しています。単独の5分のショートということではなく、この『パリ、ジュテーム』というオムニバスの一編として考えると、的確な構想とその実現ではないでしょうか。実際にトム・ティクヴァがどのようにこのショートの発想をしたかはわかりません。でもたったの5分をどうするか。そこでビデオを見るときのピクチャーサーチっていうのでしょうか、ああいうコマ落としにしたらどうなるか。早送りだから10倍速なら5分で50分が描ける。じゃあそれをどういう枠にはめるか。そこで死際に見る人生の走馬灯では暗いから、別れを告げられた男が出会いからの彼女との日々を走馬灯のように回想するのはどうか。更にその主人公を目の不自由な障害者にすれば、見えない人が見るというひねりが加わる。

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そんなわけで、物語は目の見えないトマ(メルキオール・ベスロン)が家でパソコンに向かって仕事をしていると電話が鳴る。受話器を取ると恋人フランシーヌ(ナタリー・ポートマン)からで、妙に大袈裟で文学めいた長い別れのセリフを語るのだった。ショックで返す言葉もなく受話器を置いたトマは、フランシーヌとの出会いからの日々を走馬灯のように見るのだった。5月15日のこと、トマが街を歩いていると、通りに面した一階の部屋の開け放たれた窓から若い女が助けを願う言葉が聞こえてきた。窓辺から室内を窺うトマだが、目が見えないので女が芝居のセリフを稽古しているとはわからなかった。女優志望の彼女はこれから演劇学校のオーディションで、かつて出たB級映画の中の場面の練習していたのだ。遠くから10時を告げる教会の鐘が聞こえる。オーディションは10時からで慌てる彼女。そんな彼女をトマが近道で演劇学校まで導く。「盲が盲の手を引けば共に穴に落ちる」という聖書の言葉を連想したりしたけれど、彼女は盲でないから2人は穴には落ちない。でも目の見えない者が見える者を導くというのが良い。

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全編を通してのことでもあるのだが、この物語は障害者の普通人としての社会参加の物語でもある。そしてそれは単に物語がそうであるだけではなく、ボクの勘違いでなければ、トマを演じた役者メルキオール・ベスロン自身が目の見えない障害者なのだ。演劇学校に合格したフランシーヌはボストンからパリに移り住み、トマと仲良くなる。デートをし、一緒に暮らし、結ばれ・・・、と次から次へと色々な短いシーンが早送りでトマのナレーションの下に繰り広げられる。喧嘩をすればトマは一人最初の出合い時の例の映画を映画館に観にゆき、と言っても彼の目は見えないのだけれど、そして冒頭でフランシーヌが稽古していたセリフのシーンを見ながら(聞きながら)「ゴメン」と独白する。そして映画冒頭の電話を切ったシーンに戻ってくる。再び鳴る電話はまた彼女からだ。難しいセリフをトマ相手に言ってみてリアリティーのある演技が出来たかを確かめたかったのだった。「ボクには君のことが見える」というのが最後のセリフだ。

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コマ落としの超短いシーンの連続だから、撮影そのものは大変だったろう。なにしろたった1秒、2秒、10秒のために一つのロケが必要だ。そのためにカフェでも通りでもロケ現場にいた人をエキストラに使い、遠景から望遠で撮影された駅のシーン等では何も知らずにフレームに入っている通行人もいるだろうし、結果パリの人々の生活を生で捉えることになっている。これはパリをテーマにした映画としては適切なことではないだろうか。人生に前向きな活力を表現したナタリー・ポートマンは素敵だったし、実際に目が不自由なメルキオール・ベスロンの役どころは現実の彼と交差するもので良かった。余談だが、普通男の役は男優が演じ、女の役は女優が演じ、子供の役は子役が演じる。ならば目の見えない人物の役を演じる本当に目の不自由な役者がもっといても良いのではないだろうか。

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第1話~第3話
第4話、第5話
第6話、第7話
第8話~第10話
第11話、第12話
第13話、第14話




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Last updated  2008.03.16 07:31:01
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