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自由に生きるということ



 行く手を阻むのが子どもである時、「子どもなんかひっぱたいてしまえばいいではないかというけれども、それはいけないのです。それはほんとうの解決にはならないのですから」と森はいっている。

 僕も森の考えに賛成である。大人の力による問題解決を子どもは真似るかもしれない。「花火遊びをしようとしたが、反対されたので殺そうと思った」と祖父母をナイフで切りつけた高校生がいた。誰も普通そんなことを考えないだろうが、子どもを叩いたり、叩かないまでもひどい言葉を投げつける親はこの高校生のことを笑えない。質的には同じだからである。

 力によらなくとも話し合いによって、ある程度こちらの考えを伝えることは可能である。そのような話し合いによる問題の解決を勧めたい。しかし、そのことによって相手がこちらの考えを理解するか、まして賛成するかというと必ずしもそうとはいえないことは多々ある。そもそもそんな話し合いにすら応じてもらえないということもあるだろう。

 ある時、講演会で姑とうまくいってないという人から質問を受けたことがある。これ見よがしに掃除をするとか、嫌なことをされるのだが、このような場合、黙っていた方がいいのかという質問だった。この場合、姑がこの人にとって「行く手を阻む人」ということになる。相手を変えないということを前提に考えるならば、こちらの考えを理解してもらうことは不可能ではないだろうがかなり困難である。

 もしそうであれば、選択肢は二つである。つまり、一つは黙っているということ。そうすればぶつかることはないだろう。しかしずっと嫌な思いをすることになるであろうし、こちらの思いは伝わらない。

 もう一つは、そういうことは止めてほしいと伝えることである。その場合、嫌われることは避けることができない。もう一つの選択肢は理論的にはありうるが、実際にはあまりないと考えた方がいいだろう。すなわち、止めてほしいと主張し、かつ嫌われないという選択肢である。どちらを選びますか、と問うと、その人は、後者、すなわち、主張しかつ嫌われるという方を選ぶ、と答えた。

 この話を別の機会にしたところ、姑と同居しているという人が、後者の解決は「悲しい解決法」であり、それを聞いてつらい思いをしたという感想を語った人があった。

 そういう可能性がまったくないといっているわけではない。最近は和解の道がないものか、と考えて、その方向で助言を試みるのだがなかなかうまくいかない。自分の親との関係の話だが、彼との結婚に反対されている若い女性からの相談の場合、彼とも結婚し、親も悲しませないことができないものだろうか、と考える。親がカウンセリングにこられるのなら、子どもの人生なのだからあきらめなさい、あなたが彼と結婚するわけではない、と助言できるのだが。そんな結婚をするとはなんて親不孝、と親が感情的になることが多い。そうなると、あなたの人生なのだから、彼か親かどちらかしか選べないという「悲しい」選択肢を突きつけることになるのだが、思いがけずも、「じゃ、親」というような展開になって驚くこともないわけではない。

 今起こっていることを見直すことが、森のいう「自分が相手を理解して、その障害が実際は障害ではないことを納得」することに相当する。私の夫は車に乗ると人が変わったかのように乱暴な言葉使いになる。そんな夫の車には一緒に乗りたくないという人に、それならどうしたらいいと思うかと問うて、「だから私は自分で車の免許を取りました」という答えが返ってきたとしたら、その人は相手の態度を改めるという方向ではなく、自分ができることを考えて実行に移したわけだから、問題は存在しないということになる。ひどい夫だというふうに責めたところで問題の解決の糸口は見つからない。

 親が自分の人生の行く手を阻んだとしても、「それでもいいんだ、私は自由に生きているのだ」思えるならば、このような自分の行く手を阻む人との関係は変わってくる。

 自分を嫌う人がいるということは自分が自由に生きているということの証であり、自由に生きるのであれば、そのことは支払わなければならない代償である、と考えることができる。

 逆に、もしも自分のことを嫌う人が誰もいないという人は対人関係が上手であるということもできるが、いわば八方美人をしているのであり、その意味でいつも人に合わせて生きているわけだから、不自由な生き方をしているといわなければならない。このような人は誰にもいい顔をして誰の要求も拒めないので、無理なことを引き受けて窮地に陥ったり、不信がられるのは必至である。

 自由に生きることができるのであれば、「悲しい」解決だとは僕は思わないのだが。


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