あんなこと、こんなもの

あんなこと、こんなもの

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2005.01.21
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 時々ここに登場する、歯科医の叔父夫婦のところにおこった話です。

 叔母(叔母も歯科医です)の開業以来の患者さんのサトウさん(女性、62歳)が満面の笑みを浮かべてやって来ました。
 「センセ、私今度踊りの発表会に出ることになったのよ。」
 「え・・・何の踊り?」・・・145cm、70kgのサトウさん・・・今はやりのフラダンスかな?
「日本舞踊、恥ずかしいからないしょにしてたんだけどね・・・こんどはじめて出ることになったの・・・まだヘタだし、一人で踊るのは怖いから、おんなじくらいの年季の人四人といっしょに踊るんだけどね。」
 「へぇ~知らなかった。すごいじゃないの。」
 「それでセンセイにも見てもらいたくて・・・来月の00日の日曜日、私の出番はお昼頃だけど、センセイその日空いてる?」
 「なんにも無いし、行くわ~見せてもらいたいわ~」
 「うれし~、これ切符とプログラム。絶対来てね。」


 その日、叔母はスーツを着て、花束を抱えて、会場の**ホールの前でタクシーを降りました。
 会場の玄関にはやはり朱と金と赤の立て看板。ずらりと並んだ花輪、ロビーには着物姿の人達が群れ集って、華やかな雰囲気です。
 叔母はその中を抜けて、楽屋に向かいました。
 演目と出演者を書いた札を入り口に貼った部屋が並び、姫や町娘や芸妓の扮装をした人やそのつきそいの人達があわただしく廊下を行き来しています。

 「白扇」と書いた札のさがった大きな部屋の中から「**センセ~」と声がかかりました。
 見るとサトウさんです。
 島田髷にべっこうのかんざし、黒の松竹梅の裾模様の裾をひいてパイプ椅子にすわっています。
 真っ白におしろいが塗られて、唇には小さく京紅。
 「あら~みちがえてしまってわからなかった。きれいね~お人形さんのような・・・」と叔母。
 「センセ~ありがとうございます。お忙しいときにすみません。・・・これ私の姉、となりが妹、それからイトコ、主人の妹、・・・」親戚だけで10人。
 そこへ「サトウさん今日はおめでとうございます。いや~きれい。」と1団が入ってきました。

 きれい、とほめられ、お祝いの胡蝶蘭やらお包みを受け取り、あいさつを交わしていると、また
 「@ちゃ~ん(サトウさんの名前)おめでと~」とまた1団体・・・こんどは学校時代の同窓生・・・いったい何人呼んだの・・・

  サトウさんの声は高く、瞳がひらいて、興奮しているのが、叔母の目にははっきりわかりました。

 そのとき、「そろそろご用意ください」と係の人が知らせに来ました。

 急に事態を理解して、あがったようです。

「心配ないわよ。お姉さんよくお稽古したから。」
「私達がついてる。」
「みんなで応援してるからね~」

 応援団の歓呼の声に送られて、サトウさん、立ち上がりましたがひざのあたりや扇を持つ手が小刻みに震えています。
 気づかない応援団は
「前の席にいるからね~」
「がんばってね~」
と、もういちど激励の歓声を送ってぞろぞろと客席に向かいました。

 ・・・やがてブザーが鳴り、きのねが入り、しずしずと幕があがりました。
 舞台の上は金屏風を背に5人が扇を前にお辞儀をしています。・・・ここぞと拍手する応援団。
「@ちゃ~ん」という声も聞こえました。

 ~白扇の~という歌詞とともに前の扇に手を伸ばす一同・・・しかしサトウさんだけはじっと平伏したまま・・・ やがてサトウさん以外の4人は立って扇を開いて舞い始めました・・・それでも扇子を前に頭を下げたままのサトウさん・・・
 応援団達がさわぎはじめました。
「どうしたの」
「聞こえないのかしらん・・・」
「合図してみようか。」と客席から必死で手を振ってみる・・・「あかん、気がつかない・・・」
「いっしょに踊ってる人言ったげたらいいのに・・・」
「無理よ・・・どの人もあがってな~んも見えてない・・・」 
 ・・・そのうち、お師匠さんらしい人が舞台の袖のぎりぎりのところまで出てきて一生懸命合図したり、声をかけようとしているのが見えました。

 依然として、舞台中央で扇子を前にお辞儀したままのサトウさん・・・まわりで固まったまま機械的に踊る4人・・・
気づいてざわめく客席・・・幕で体を隠しながら、懸命に合図を送ろうとする師匠・・・

 やがて曲は「松ヶ枝の~」と中盤にかかりました。
 ふと、顔をあげたサトウさん・・・驚愕の表情・・・そりゃそうでしょう・・・
 あわてて立ち上がる・・・おおきくざわめく場内・・・一応胸をなでおろす応援団と師匠・・・

 ところが・・・完全にパニックをおこして踊りの振りは北極星のあたりまで飛んで行ってしまったらしく、まわりを見回しては、立ち止まって隣の人の振りを一拍遅れで追いかけて行き・・・
 客席の視線はサトウさんに集中・・・そのうちざわめきに押し殺した笑い声が混じり、最後には笑い声がざわめきを圧倒して・・・終わりました。

 叔母は幕が下りたとたんに席を立って帰ってきました。

「なんて言ったらいいのよ~。気の毒で、もう顔見られなかったのよ。来週、歯の治療の予約はいってるんだけど・・・
私、顔合わせたら、なんて言えばいいの・・・」と叔母はため息をつきました。











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Last updated  2005.01.22 19:24:38
コメント(6) | コメントを書く


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Re:なんて言えばいいの 3(01/21)  
こんばんわ~~~~

ヤアーーーー。どうした事でしょう@@@
あんなに張り切って、お友達を招待したのね~@@@@@
上がってしまったにしても、音楽は聞こえたと思うのですが・・・・・・
パニクリも充分理解できますわ、、、、、

サトウサンには申し訳ないですけど、毎回笑ってしまいます。。
確か、カラオケの、ど派手の方でしたよね~。

でも、憎めませんね~。可愛いですね^^ (2005.01.21 22:25:21)

Re:なんて言えばいいの 3(01/21)  
こんばんは。
友達を招待したのですね。
なかなか面白い光景のようですね。

よく情景が描かれているので、エッセイ集になりそうですね。 (2005.01.21 23:01:01)

Re:なんて言えばいいの 3(01/21)  
アコキチ  さん
こんばんはーー♪

あまりに人を招待しすぎて

緊張したのでは?

 それにしても、気の毒ですね・・

過度に、緊張しすぎてしまったのかも

 次回に顔をあわせた時は、何もなかったように

この事にふれずに、普通に振舞うしかないのかも (2005.01.22 20:58:49)

Re:なんて言えばいいの 3(01/21)  
こんばんは。
やっとパソコンの前ですわることができました。
波乱万丈の日々です。おはらいをしてもらわないと
(笑)。
どうしたのでしょうね。やっぱり緊張したので
しょうか。
おもしろいお話で、自然と笑ってしまいました。 (2005.01.22 21:58:27)

Re:なんて言えばいいの 3(01/21)  
kitten-y  さん
こんばんは~。
ほんと、なんて言ったらいいのか・・お気の毒な・・。
お師匠さんも生きた心地がしなかったでしょうね~、でも私も結構あがっちゃうタイプなのでサトウさんには同情しちゃいます(^^;) (2005.01.22 23:10:22)

Re:あらあら  
来て~と招待された割に、張り切りすぎて・・・
遠いかなたに飛んでいったんでしょうかねー
まあ~残念な。
これが、子供の舞台なら、たってるだけでも
可愛い~^0^なんですけどね^^;
「残念~♪!!」なとこで。。 (2005.01.23 01:19:57)

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