第七章~胎動4



 落雷の様なカディールの怒号で乱闘は止み、一行は総督府の応接室にいました。この超特大の落雷の様な怒号は一種のシッディ(通力)かも知れません。

ラーズ:だいたいさ~、ちょっと考えれば解りそうなもんじゃない!それをさ
    ~!何だよ!ε-(`ヘ´) 僕が戦鬼帝国の間者なら飛行艇の奪取を妨
    害する訳ないだろ!

操縦士B:《言葉は解らないけど何が言いたいのかだいたい解るよ・・・、
     ホントに申し訳ない!この通りm(_ _)m》

他5人:《ごめんなさい!m(_ _)m》

テオ:まあ、この通り謝ってることだし・・・ねっ!これで仲直り!握手握手!

 素直なリクはすぐに手を差し出しました。

リク:それにしてもお前ら強いな~・・・俺に殴られて気絶しなかったのはお
   前らが初めてだ、俺はリク。宜しく!

 6人はリクの手を代わる代わる握って、《こちらこそ宜しく》と返答してきました。
 しかしラーズはまだむくれて腕組みをしたままだったので、6人は(〇-〇;)状態です。

ラーズ:ちょっと待って下さい。せっかくミュカレ老師に治療して貰ったのに、
    また傷口が開いちゃいましたよ。これじゃあ老師に怒られちゃいます。

 ラーズは帽子を取ってジュロー島での傷口を指差しました。また襟足に血が滴っています。
 ミュカレ翁に「無茶をするな」と言われていたのに、日曜の晩に酔っぱらって暴れた折りに再度出血し、再治療して貰っており「無茶をするなという言葉の意味は解っておろうな?次にやったらワシゃ知らんぞ」と言われていたのです。それなのにまた同じ傷口が開いたなんて言ったら呆れられるに決まっています。

テオ:ラーズ・・・お前・・・その頭!

ラーズ:こいつらの放った矢でこの通りです。

リク:いや、二回目の出血は自業自得だろ?三度目も不可抗力なんだし許して
   やれよ。血なんか自分で止められるじゃん。この人達も謝ってんだから
   さ。なっ?

テオ:いや・・・、そうじゃなくて・・・くっ!くくくくくく・・・・。いや
   失礼・・・ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ・・・。

ラーズ:先生・・・(▽o▽;)

 テオは腹を抱えて倒れ込み、呼吸困難を起こすほど笑っています。シグルやミュカレばかりか、堅物カディールをも倒した「かりあげボンバー」を喰らってしまった様です。

シグル:まあ、最初の反応としては当然だよな・・・(^^ゞ

ラーズ:何で・・・!?(;-_-メ;)

 すると、例の6人までが腹を抱えぴくぴく痙攣しながら倒れています。こんなことで笑われたら、自衛官やラガーマンは泣いちゃうかもしれませんが、この頃はそういう時代だったんですね。

ラーズ:お前らまで笑うな~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!

 顔を真っ赤にして怒るラーズの反応に、シグルもリクも抱腹絶倒です。応接室は爆笑の渦になってしまいました。

ラーズ:・・・ええかげんにせえよオノレら~・・・(((▽へ▽;)))

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 しばらくの後、平静を取り戻した応接室では・・・、ラーズはシグルに頭の傷を治療して貰ってやっと機嫌を直しました。一昨日のケガがもとで帽子を取る度に皆に笑われるし、昨日は2日酔いで頭痛と吐き気が酷かったし、今日の夕方にはシジムを離れなければいけないし、キサラは帰国してしまったし、明日から王都第1市街のスカした連中に会わなければいけないし、そんなこんなで今日はちょっと駄々をこねたい気分だった様です。

シグル:今日は王都に帰る日なんじゃないのか?何か総督府に用でもあったの
    か?

ラーズ:え・・・それがですね、えっとですね、あの~、実は・・・(;^_^A

シグル:何だ?

ラーズ:さっきのロバみたいな生き物・・・「ロンガー」って言うんですけど・・・、
    王都に連れて行ってはいけないでしょうか?シジムに置いていこうと
    思ったんですけど、袖に噛みついて離れようとしないんです・・・。

シグル:修道士はセージになるまで乗騎で王都に乗り入れるのが禁じられて
    いるのは知っているよね?当然所有もそれに準ずる訳だが・・・。

ラーズ:あっ・・・やっぱり・・・(´ヘ`;)

シグル:法規の上ではそうなるね。

リク:(出たっ、歩く六法全書!いいじゃんそれくらい!カダージは総督名
   義の五色大牛に乗ってたじゃん)

ラーズ:聞いたとおりだ・・・試験をパスするまでシジムで待っててくれ
    るかな?

 その時、窓の外から首を突っ込んでいたロンガーが「ヤダヤダ!!」と言っている様に上唇を捲って「いーっ!」という顔をして「カタカタ」と地団駄を踏みました。

 それを見ていたシグルは「しょうがないな」という風に肩をすくめて苦笑いしながらロンガーの首を撫でました。その時、ほんの一瞬ですが「!!」という表情になって、今度は優しく微笑みながら「しょうがないな・・・」と呟いて、

シグル:だったら私の乗騎をピロテーサに預けていることにしよう。君が昇級
    試験に合格したら、私から譲り受けたということにして改めて登録し
    直せばいいだろう?

ラーズ:えっ!?o(^-^)o・・・じゃあいいんですか?

シグル:ああ・・・。

ラーズ:やった~!!\(^O^)/ロンガー喜べ!!いやその前に先生に御
    礼だ!「どうもありがとうございました」って、ほらほら。

 ロンガーは「ぶるるるるっ!!」と鼻を鳴らし、お辞儀をするみたいに首を何度も縦に振りました。ラーズも一緒に「さん、はいっ!ありがとうございました!」「せーの、ありがとうございました」と何度も頭を下げています。

 その様子を微笑みながら見つめていたシグルを、リクが唖然呆然といった顔で見つめていました。

リク:(驚いたな~・・・。鉄骨銅身(鉄面皮)なんて言ったの誰だよ~。血
   も涙もしっかりあるじゃん・・・)

 その時、リクの視線に気づいたシグルから

シグル:何だ?私の顔に何か付いてるのかい?

 と、急に振られたのでリクはドギマギしてしまいました。

リク:えっ!?あっ・・・いえ、別に・・・。(ああ、びっくりした~!突然
   振るんだもんな~(¨;))

 シグルは仕事熱心な余り、容赦なく汚職議員、腐敗公務員を追及し、家族もろとも王都から追放した実績が他より抜きん出ていることから、「鉄面皮」「冷血漢」とあらぬ誤解を受けていました。

 ここにまた1人、その誤解を解いてシグルを尊敬する修道士が誕生しました。ここにいる皆が過ぎ去る時の川面に泡沫となって消えて行く中で、リクだけが神話の中にその名を残すことになる遠因がこの日生まれていたのですが、はたしてそれを誰が想像し得たでしょうか?

 時に聖歴(初代国王イエルカ・エゼキエル1世即位より)1209年4月11日のことでした。

つづく


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