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Aug 30, 2006
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駒苫 夢の軌跡<4>


 そこはさながら、「愚痴を言い合う部屋」になっていた。今年3月。

 選抜大会を辞退した後のことだ。駒大苫小牧の野球部寮では、マネジャーの菊地浄元

 (しんげん)の部屋に、選手が何度も訪れた。


 「なんでこんなことに」「どうしておれたちが」――。


 全国の強豪をなぎ倒してきた屈強なナインが、戸惑い、悔しさ、あらゆる感情をはき

 出していた。

 自らも落ち込んでいた菊地は、どんな言葉を選手にかけたか、詳しく覚えていない。

 だが、胸の内は一つだった。



 岩手県出身の菊地の実家は寺。その関係もあり、仏教系の駒沢大の付属である駒苫

 へやってきた。けがで現役続行を断念、昨年秋からマネジャーに就任。

 厳格な父親タイプの監督、香田誉士史の陰で選手をケアする“母親役”を務めてきた。

 就任直後、「辞めたい」と思うこともあった。昨秋の遠征で、選手名の書かれた磁石

 をはりつける「マグネット板」を持ってくるのを忘れてしまった。

 打順を決めたりする際に大切なものだけに、香田から「お前は使えない」と一喝された。

 「何もかもうまくいかなかった。いいマネジャーになろうとやっていたんですが……」

 だが、そんな菊地を救ったのはやはり仲間だった。

 菊地の用意した水をがぶがぶ飲み、ノックをすると「ありがとう」と声をかけてくれる。

 泥だらけのナインの姿を見るうちに、一人ではないと気づいた。

 「最高の仲間がいて、野球をやれることが楽しくなった。辞めたいなんて気持ちはなく



 壁を乗り越え、菊地の信頼感はグッと増した。愚痴を言いにナインが訪れたのもその表

 れだろう。

 西田佑真は「選手が気付かないところに気がつく。本当に頼りになった」と菊地の存在

 の大きさを語る。

 激戦を選手とともに戦った菊地の帽子のつばには、汗でにじんだメッセージがある。


「がんばれば、みんなが日本一のマネジャーにしてくれる」


 昨年の主将・林裕也が書いたものだ。

 惜しくも優勝は逃したが、菊地は「チームは日本一だと思う。いろんな事件から立ち直り、

 ここまで来られただけでもすごいこと」と謙遜しながら、ナインをたたえる。

 もちろん、選手は分かっている。

 20日の引き分けた決勝戦で早実・斎藤佑樹から先制本塁打を放った三木悠也は言う。


 「〈日本一にしてやる〉と言ってきたけど、できなかった。でも僕たちにとっては日本一

 のマネジャー」





 ◇8月27日  読売   駒苫 夢の軌跡<5>


先発3回 来年に自信

 夏の全国高校野球大会14日目の19日、智弁和歌山(和歌山)との準決勝。

 駒大苫小牧の先発メンバーが電光掲示板に1人ずつ表示されていくと、球場全体にどよ

 めきが起こった。

 「6番、菊地」。

 決勝進出のかかった大一番で、監督の香田誉士史が先発を託したのはエース・田中将大

 ではなく、2年生・菊地翔太だった。

 菊地は、支部予選から南北海道大会決勝までの7試合で出場機会なし。

 2か月半ぶりに登板した甲子園3回戦の対青森山田(青森)戦では、緊張からフォーム

 が乱れ、2/3回で被安打2、失点2と打ち込まれた。

 しかし、香田は「疲れが残り、調子の悪い将大よりも、菊地の球の方が走っている」と

 感じ、次世代の中心として期待する菊地にかけた。

 試合前夜、投手陣と捕手・小林秀を集め、「先発は菊地で行こうと思うんだが、行けるか」

 と問いかけると、菊地は、即答した。

 「大丈夫です」

 田中も、先発・菊地を喜んで受け入れた。

 「打たれても気にするな。後はおれが抑えてやる」と後輩を送り出した。

 準決勝開始直前、5万人の観衆が見守る中で投球練習を始めた菊地は、いきなりバック

 ネットを直撃する大暴投。緊張で腕がしっかり振れず、ストライクが入らない。

 しかし、「これで逆に落ち着いた」。

 試合が始まると、人が変わったようにカーブ、ストレートが次々ストライクゾーンに納まった。

 優しげな表情に隠れた強心臓ぶり。

 「練習がつらくても、投げるのが楽しくて続けてきた。大声援が何よりうれしかった」という。

 菊地と同学年の投手・対馬直樹は、ベンチから羨望(せんぼう)のまなざしで見守っていた。

 「自分の分までがんばってくれ」

 甲子園のベンチ入りメンバー18人のうち、2年生は菊地と対馬の2人だけ。

 昨夏は、主力として活躍した田中、本間篤史をはじめ、2年生が6人を占めていたのとは

 対照的だ。

 「今年の2年生は弱い」「まとまりがない」。周囲から言われるたびに、対馬は表向き

 「そうですね」と応えながら、「勝手に何言ってるんだ」と闘志を燃やして練習してきた。

 菊地に「対馬の調子がいいと不安になる」と言わせるほどの存在。

 しかし、対馬は大会直前、疲労の蓄積で、練習できないほど背筋を痛めてしまった。

 「いざという時に戦力になれない。おれは何をやってるんだろう」と、自分を責めた。

 ライバル・菊地は、準決勝から早実(西東京)との決勝再試合まで、3試合すべてに先発。

 味方のエラーもあり、最長で2回1/3までしかマウンドを守れなかったが、決勝再試合

 では自己最速の球速140キロを記録。

 智弁和歌山や早実の強打者が、菊地の速球に何度も振り遅れていた。

 「自信になった。次は、自分が中心となって将大さんみたいに引っ張っていく。

 中田(翔=大阪桐蔭)でも川西(啓介=早実)でも、絶対抑えて優勝する」(菊地)

 対馬は公式練習でマウンドから見た景色が忘れられない。

 「テレビで見るのとは全然違う。ここならいいボールが投げられそうだ」。

 準優勝が決まり、甲子園を立ち去る際に誓った。


「みんなと一から作り直して、必ず戻ってくるからな」


 24日、苫小牧市の同校グラウンドで、2年生を中心とした新チームが始動した。

 香田は胃潰瘍(かいよう)の疑いで検査入院のため不在。

 ナインは小雨が降る中、ぬかるんだグラウンドを笑顔で走り回った。


 重圧も苦悩もなく、伸びやかに――。






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最終更新日  Sep 3, 2006 10:06:38 PM


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