51話



弘明は時計をちらりと見た。

「8時丁度・・・か・・・」

それだけを確認して時計をしまう・・・。

そしてちらりと横を見た。

弘明の隣にはさっきまで錯乱しこちらに銃口を向けてきた。

女子16番本田 絵梨香の姿があった・・。

絵梨香は麻酔銃が効いたのとこの島に来てそうそう眠れていないのか

ぐっすりと寝ていた・・・。

~俺は好きな子のためにこのゲームに乗ることにしたよ・・・~

昨日の夜中に自分は初めて人殺しをしてしまった・・・。

いくら好きな子のため・・とはいえこのゲームに乗ってしまった事には

変わりない・・・。

本田 絵梨香・・・・前々から弘明が密かに想いを寄せていた

人物だった・・・。

好きな子のため・・・絵梨香のため・・・

残りは自分達を除いて12人・・・

弘明は焦っていた・・・。

果たして本当に守りきれるのだろうか・・・

津部や関内に自分は果たして対抗できるのだろうか・・・。

自分は運動神経が得意な方では決してない。

さっきだって絵梨香が闇雲に撃っていれば

どれかひとつが自分に当たって死んでいたかもしれないのだ。

「・・・・う・・う・・ん・・」

麻酔銃には3種類の麻酔針が用意されていた・・・

即効性があるが長持ちしないタイプ・・・

即効性ではないが長時間眠ってしまうタイプ・・

その中間のタイプ・・・の3種類・・・

弘明はどう考えても即効性のもの有利と考え

即効性のものを装填していた。

「起きた?」

絵梨香はこっちを見て思い出したかのように

顔を青ざめていった。

「あ・・・あああ」

「大丈夫だよ・・俺は本田さんには手を出すつもりはないから」

「!?」

「この銃・・麻酔銃なんだ・・・

だからただ撃ったぐらいじゃ死なないよ」

「・・・その・・ナイフは?」

「・・・・」

確かにこれは相本を殺した時に奪ったナイフだが・・・

弘明にはかなり苦い話だった。

つい口ごもってしまう・・。

「・・・これは・・相本のだよ」

「じゃ・・じゃあ相本君・・・殺したのって・・」

「そう・・・俺だよ・・」

「どうして?・・なんでこんなゲームに今井君は乗ってしまったの?」

「・・・・・本田さんを・・・守るため」

「え?」

「だから・・・俺は本田さんのこと・・好きなんだよ」

それを聞き絵梨香は驚きを隠せなかった。

「え・・・・・え?」

「俺はどうしても本田さんをこのゲームで優勝させたいんだ・・

だから・・・だから俺はあえてこのゲームに乗ったんだ・・

津部や関内・・他のクラスメイトから本田さんを・・守るために・・・」

「・・・・・」

その告白を絵梨香はだまって聞いている。

「それでも俺とは一緒にいたくない?この言葉はうそだと思う?」

「・・でも・・・駄目だよ・・・」

「?」

「だって・・・そんなのおかしい・・私ずっとみんながみんな

いずれはこのゲームに乗ってしまう存在だと思ってた・・・

私だって怖くて・・・死にたくなくて・・・

さっき今井君を撃とうとした・・

私・・・今井君みたいな理由でこのゲームに乗っている

人がいるなんて思わなかったから・・

このゲームには乗りたくないけど・・・

一人も殺さずにこのゲームで優勝する方法がないか

考えてた・・・だけど今井君はそんなんじゃ無かった・・

今井君みたいな考えの人がわざわざゲームに乗る必要がないんだよ?

だって・・・今井君優しい人だから・・・」

そこで今井は絵梨香の手にサムライエッジが握られたままだと気付いた。

まさか・・・・。

「こないで!!!」

チャキと絵梨香がサムライエッジを構えて弘明に銃口を再び向けた。

そのまま一歩・・また一歩と後ずさりする・・・。

「私だけが生き残っても何にもならないよ・・・。

だって・・・一人なんて悲しすぎるから・・・

だったらせめて・・・こんなにも私を想ってくれてる

今井君が・・・優勝するといいよ・・・」

「ちくしょう!」

弘明は麻酔銃を再び絵梨香に向けたが思いとどまった・・。

連続で麻酔銃を投与すると安全の保証が出来ないからだ。

「さようなら・・・」

もう間に合わない・・・絵梨香との距離は10Mを越した。

サムライエッジの銃口が絵梨香のこめかみに当てられた。

「まって!」

「・・・・」

「分かったよ・・・俺本田さんと約束する・・・

このゲームで優勝する・・・そして本田さんの分も

生きてみせる・・・」

それを聞き絵梨香はニコッと微笑んだ。

「それと!」

「?」

「返事は?・・・ほら・・・折角俺告白したのに・・・

返事も聞かないままじゃあさ・・・」

二人とも目から大粒の涙がこぼれている・・・。

それを聞き絵梨香は口元を歪ませてこう言った。

「今井君・・・あたしも・・好きだよ・・」

「パアン」

絵梨香のこめかみからは綺麗な血が噴出した・・・。

そう・・・何故か死ぬ時の絵梨香が輝いて見えた・・。

「俺・・絶対に優勝するよ・・・」

弘明は涙をぬぐうとサムライエッジを手に取り

荷物を持ってそこを離れた。

       新たな死亡者女子16番本田 絵梨香【残り13名】



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